俺達の七日間戦争
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/17 17:35



■オープニング本文

●武天領 神楽近郊の街『安神』
「い・や・だっ!!!」
 街内でも一二を競う私塾。
 その一室で咆哮かと見紛うばかりの大声が上がった。
「画山! わがままばかり言わないの!」
 隣に腰かける子供を、一人の女性がしかりつける。
「まぁまぁ、お母さん。落ち着いて」
 怒れる母、そしてむすっとそっぽを向く息子。
 二人を苦笑交じりに見つめる壮年の男性が宥める様に語りかけた。
「勝手に進路なんか決められてたまるか!!」
「馬鹿言いなさい! あなたはお父さんの後を継いで役人になるのよ!」
 この三者の面談が始まってから、話はずっと平行線を辿っている。
「あんな根暗な仕事なんていやだぁぁ!!」
「根暗とはなんですか、根暗とは!!」
「根暗だから根暗っていたんだ!!」
「この子はっ!!」
 繰り返される、親子の口喧嘩。
「お二人とも落ち着いて‥‥」
『先生は黙って(いてください)っ!』
 子供と母の迫力に押され、壮年の男も黙り込む。
「あなたはお父さんの後を継ぐのよっ!!!」
「い・や・だっ!!!」
 尚も続く口論。
 その時、子供がだんっと席を立ち上がり。
「俺は俺のやりたいようにするんだ!!!」
「ま、待ちなさい!?」
 そう叫ぶと全力で部屋から逃げだした。

●境内裏
「‥‥みんな、よく集まってくれた」
 安神のとある神社の裏で、円陣を組みしゃがみ込む5人の子供達。
「画山、話って何よ?」
 ぎろりと画山を睨みつけ、秋子が囁いた。その体勢からか、自ずと声も小声になる。
「ふっ、よくぞ聞いてくれたっ!」
「画山殿、声が大きい‥‥」
 不敵な笑みを浮かべ大声で拳を握る画山を、翔がまあまあと落ち着かせる。
「おっと、すまない。俺とした事が逸る気持ちを抑えられなかったようだぜっ!」
「だから、声が大きいですと‥‥」
「‥‥いいから、さっさと話し始めてくれない? あたし、忙しいんだけど?」
 繰り返されるやり取りに、うんざりとした表情を向ける秋子。
「あの〜、私、夕飯のお手伝いが〜‥‥」
「いいだろう、よく聞け! 俺達は開拓者になるっ! そして、アヤカシどもを蹴散らし、弱きを助けるんだ!!」
 しかし、渚の声は画山の大声にかき消される。
「よっ! それでこそ我らが番長!」
 ガバッと立ち上がり大声で宣誓する画山を翔が拍手で後押し。
「開拓者ですか‥‥いいですか画山。そもそも開拓者とは天儀王朝がアヤカシ討伐を目的に――」
「しかーし! それには大きな障害がある!!」
 開拓者と聞き懇々と説明を始める忠興を他所に、画山が話を続けた。
「その通りです! 皆さんいいですか? 我々は頑固な親達をなんとかする必要があります」
 ぐぐっと拳を握り自分の演説に酔う画山の言葉を翔が引き継ぐ。
「面白そうだけど‥‥うちの親は‥‥まぁ、許さないわね」
 じっと画山を見つめ話に聞き入っていた秋子が嘆息した。
「ええ、僕の親もそうです。ですので――」
「立て篭もりを敢行し、徹底抗戦するぞ!!!」
 秋子の溜息に頷いた翔が対応策を話し始めようとした時、画山がその任を奪う。
「あ、あの〜‥‥」
「立て篭もりって‥‥ここに?」
 と、秋子が見つめる先には静かに佇む神社。
「ふっ! こんなとこに立て篭もってもすぐに捕まるのが落ちだぜ!」
「? じゃ、どこに‥‥あぁ、『あそこ』?」
「ふふふ‥‥よくぞ気付いたな! そう、『あそこ』だ!!」
 何かに気付き画山を見上げる秋子に、画山は不敵な笑みを浮かべる。
「よっ! あんたが大将!!」
 そして、そんな画山をよいしょする翔。
「俺達5人が集まれば、怖い物なんかねぇ!!」
「えっと〜‥‥」
「――対アヤカシに特化した彼らは、その知恵と勇気を持って――」
「『開拓者になりたい団』結成だ!!」
 そして、それぞれの思いを胸に抱く4人を前に、画山は高らかに宣言した。

「かくして、開拓者という地位が確立されたわけです。‥‥あれ? みんなは?」
「‥‥しくしく」
 きょろきょろと辺りを見渡す忠興の前には、一人悲しみに涙する渚の姿があるのみだった。


■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
出水 真由良(ia0990
24歳・女・陰
由他郎(ia5334
21歳・男・弓
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
ヨーコ・オールビー(ib0095
19歳・女・吟
リン・ヴィタメール(ib0231
21歳・女・吟
ネネ(ib0892
15歳・女・陰


■リプレイ本文

●洞窟下
「反抗期、というやつか」
 子供達が立て篭もる洞窟を見上げ由他郎(ia5334)が呟いた。
「なんだか懐かしいですね〜」
 そんな由他郎にアーニャ・ベルマン(ia5465)が語りかける。
「懐かしいのか‥‥?」
 しかし、由他郎は幼少期に想いを馳せるアーニャに逆に問いかけた。
「ええ、両親を説得して開拓者への道を歩んだ‥‥って、由他郎さんは懐かしくないのです〜?」
「‥‥覚えが無いな」
「あらら、そうなんですか〜」
「とはいえ、抑圧に抵抗したくなる気持ちはわかる」
「うんうん、多感な年頃ですしね〜」
「ああ‥‥」
 そう言って、由他郎は再び洞窟を見上げる。
「さてと〜。私は親御さんの方へ参りますね〜。お互いがんばりましょ〜」
 じっと崖を見つめる友の背をポンと叩き、アーニャはその場を後にした。

「‥‥」
「どうした?」
 洞窟を見上げ不安げに瞳を揺らすネネ(ib0892)に向け、樹邑 鴻(ia0483)が声をかけた。
「あ、ごめんなさい。少し考え事を‥‥」
「自分の姿でも投影してた?」
 鴻の呼びかけにハッと我に返ったネネに、今度は葛切 カズラ(ia0725)が問いかける。
「そう言う訳ではないんですけど‥‥」
「そ? でも、まだ10歳で進路問題だなんて、大変よねぇ頭のいい子っていうのも」
 ふぅっと艶めかしい溜息をつき洞窟を見上げるカズラ。
「親の望む道と自分の目指す道、か。とにかく望む道へ導いてやりたいな」
「ですよね、最後は自分が決める事ですもんね。進む道って」
「ああ、その通りだと思う。その為にもあの子達を説得しないとな」
「そうね、若気の至りなんかで道を踏み外さないように、おねぇさん達がしっかりと教えてあげましょ」
 三人は互いの気持ちを確認するように一つ頷くと、険しい崖に足をかけた。

●洞窟
「わぉ、素敵な秘密基地やねぇ」
「立て篭もりにはもってこいの場所どすなぁ」
 一般人には険しい崖を難なく登りきり洞窟の入口に立つ、ヨーコ・オールビー(ib0095)とリン・ヴィタメール(ib0231)が感心したように見入っていた。
「何だお前達はっ!」
 しかし、そんな二人の前に竹槍を手に威嚇する翔が立ち塞がる。
「おおっ、勇ましい勇者様のお出ましやっ」
 竹槍の切先に殊更驚いた様に怯むヨーコに。
「出ていけ!」
 翔はヨーコに竹槍を突き付け凄んだ。
「おおぅ、暴力反対やっ!」
「暴力はあきまへんで?」
 と、竹槍を向けられ引きさがるヨーコに代わり、リンが前に出る。
「こんにちは。勇敢な開拓者見習い達が集ってるって聞いて、差し入れにきましたぇ」
 そう言うリンは春風のように暖かい笑顔に、翔は頬を赤らめ魅入った。
「さ、差し入れ‥‥?」
「ええ、美味しいお菓子も楽しい玩具も色々と持ってきたよって、皆で遊びまひょ」
 リンの提案に、しばし考え込んだ翔は。
「‥‥え、援軍なら仕方がない。入れ!」
「援軍どすか、そう言う考え方もありどすなぁ。では、お邪魔しますぇ」
 照れを隠すようにリンを招き入れた。
「えーっと‥‥なんや扱いに差があらへんか‥‥?」
 どうにも腑に落ちない対応にモヤモヤしながらも、ヨーコはリンの後を追い洞窟へと踏み入った。

「い・や・だっ!」
「あらあら、困りましたわねぇ」
 胡坐をかきぷいっと顔を逸らす画山に、出水 真由良(ia0990)も困惑顔。
「そんなに開拓者がよろしいのですか?」
「当たり前だ! 開拓者は強いんだぞ!」
 先程からこの会話の繰り返し。
 真由良の言葉に画山は耳を貸さず、頑なに自分の意見を主張していた。
「強い、ですか‥‥私も開拓者ですが、そんなに強くありませんよ?」
「じゃ、お前は落ちこぼれだ!」
「はい、落ちこぼれかもしれませんね」
 画山の野次。しかし、真由良はそんな画山に向けにこりと微笑む。
「それでも私が開拓者をやっていけるのは、様々な人の支えがあればこそ」
「支え‥‥?」
 ふと真由良が紡いだ言葉に、画山が反応した。
「はい。ただ闇雲に戦うだけでは、開拓者はもう一人もいなくなっているかもしれませんね。裏で支える人があればこその開拓者ですよ」
 ゆっくりと子供にも分かるように言葉を選び話し続ける真由良。
 そんな真由良の真摯な態度に、画山や他の子供達も次第にその言葉に耳を傾けていった。

●安神
「本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます」
 集った7人の男達にアーニャがぺこりと首を垂れた。
「手短に済ませてもらえるか。悪いが忙しいんだ」
 そんなアーニャに男の一人が声をかける。
「申し訳ありません。お手間は取らせませんので」
 呼ばれた旨は理解している。しかし、男達は突然現れた開拓者に怪訝な表情を向けていた。
「で、我々に何をしろと?」
 別の男がアーニャに話しかける。
「今、お子様達が家出をなさっているのはご存知かと思います」
「ああ。全く母親は何をしているんだ」
「子供の躾もできないとはな」
「全くだ」
 アーニャの言葉に次々と上がった愚痴。自分の子供達が家出をした。それは男達にとっては些細な事なのかもしれない。
「‥‥お言葉ですが、子供の教育は親の務め。まさか母親に責任を押し付けて、自分は知らぬ振り、という事はないですよね?」
「なっ‥‥!?」
 男達の愚痴を静かに聞いていたアーニャが口を開く。
「あなた方の『大切』な子供の為にも、一つご協力をお願いします」
 顔を引きつらせる父親達を前にアーニャはにこりと微笑み、再び大きく首を垂れたのだった。

●洞窟
「ほう、開拓者になりたいのか」
「そ、そうだ! 文句あるのか!」
 由他郎がふと口にした言葉に画山が猛烈に食いつく。
「文句などはい。しかし、開拓者とは‥‥本気か?」
「ほ、本気に決まってるだろ!!」
「そうか、それならば何も言うまい。――いや、一つだけ言っておこう」
「な、なんだよ」
「いいか、何を志すにしても初心を忘れるな。それがお前達の軸になる」
「軸‥‥?」
「そうだ。それさえぶれなければ何をしても成功する」
「あ、あんたにはあるのか?」
「ある」
「それはなんだよ!」
「‥‥つまらぬ話になる。が、聞きたいか?」
「う、うん」
 いつの間にか正座で由他郎の話を聞いていた画山がこくりと大きく頷いた。
 そして、由他郎は自身が開拓者への道を志した経緯を静かに語り始めた。

「なに? 随分と難しい話をしているのね」
 しばらくして二人の間にカズラが顔を覗かせた。
「私も混ぜてもらってもいい?」
「ああ‥‥かまわない」
「そ、ありがと」
 言葉短く頷いた由他郎の隣に、カズラがふわりと腰を据えた。
「折角だし、私も依頼の話でもしようかしら」
「お、おう!」
 蕩けるようなカズラの笑顔に、画山は頬を染めながらもその言葉に耳を傾ける。
「そうねぇ‥‥こんな話はどうかしら」
 じっと自分を見つめてくる画山ににこりと微笑み、カズラが口を開いた。

 カズラの口から語られる開拓者としての経験談。
 それは決して冒険活劇の主人公の如く活躍する開拓者の話ではなかった。
 時に我儘に付き合わされ、時に死地に身を置き、時に地を這い苦汁を舐める。
 そんな話を飄々と面白おかしく語るカズラを、画山はじっと見つめる。

「――こんな所かしらね」
「‥‥」
「あら? 幻滅した?」
 話を終えたカズラがじっと視線を落とし何も語らぬ画山に問いかけた。
「‥‥」
 カズラの問いかけに画山が大きく首を振る。それが答えだった。
「そ。それはよかったわ。とにかく、見聞を広めなさい。頭のいいあなた達になら、これだけ言えばわかるでしょ?」
「お、おう!」
「うん、いい返事ね」
 元気のいい返事と共に真摯な視線を向けてくる画山に、カズラは嬉しそうに微笑んだのだった。

●泉
「秋子ちゃんは、開拓者になって何をやりたいんですか?」
 桶で泉の水を汲んでいた秋子に、ネネがふと問いかけた。
「べーつに、開拓者なんてなりたくないわよ?」
「あれ? じゃどうして立て篭もりなんて?」
「付き合いよ付き合い。全くあの馬鹿は‥‥」
 ぶつぶつと呟きながら秋子が答える。
「ははーん」
「興味深いどすなぁ」
 と、突如背後からの声。
「わっ!」
 いつの間にそこにいたのか二人の背後にヨーコとリンが忍び寄っていた。
「秋子ちゃん‥‥もしかしてぇ?」
「な、なによっ」
「おねぇさん達が聞いたろ! さささ、話してみ?」
 何を嗅ぎ付けたのか、楽師二人の瞳に桃色の炎が宿る。
「リンさん、ヨーコさん‥‥?」
 そんな鬼気迫る二人にネネが恐る恐る話しかけた。
「あ、ネネちゃんも興味あるやろ?」
「え?」
「ふっふっふ‥‥。ザ! こ・い・ば・なっ!」
「こ、い‥‥えぇっ!?」
 ぱちんとウインクで合図を送るヨーコにネネは顔を真っ赤に慌てふためく。
「ヨーコはん、あまりネネはんをからかったら可哀想どすぇ?」
「おっと、堪忍や。今日の獲物はこっちやったね」
 と、我に返ったのか二人は再び狙いを秋子に定める。
「な、なによ!」
 二人の視線にびくっと身体を竦ませる秋子。
「うちらはわかっとるさかい。ええ助言できるかも知らへんで?」
「せやせや。なんどしたらおねぇさん達の経験談でも聞かせてあげまひょか?」
「え、あ、あの‥‥」
「ふふ‥‥照れる姿もえろぅ可愛いらしいおすなぁ」
「リンちゃん、目がマジやで‥‥」
「あらぁ、私とした事がぁ」
「お、お二人とも目的忘れないでくださいね‥‥?」
「わかっとるってネネちゃん。うちらにまかせときっ!」
「は、はぁ‥‥不安です‥‥」
 女4人集まればその話の方向性は自ずと決まってくる。暗い洞窟の奥にうら若き乙女達の桃色の声が木霊したのだった。

「あの〜、お水まだかって〜‥‥?」
「あ、渚ちゃん」
 しばらくして背後から掛けられた声にネネが反応する。そして楽師二人の瞳が再び怪しく光った。
「ええとこにきたなぁ」
「ぐっどたいみんぐ、というやつどすっ」
「え、え、え?」
 そうして渚を巻き込み、5人の乙女達の桃色な会話は日が沈むまで続いたとか――。
 
●洞窟
「いいか? アヤカシと戦うのが開拓者だ」
 焚き火を囲み食後の歓談に華を咲かせる一同の中、鴻と真由良は忠興と向き合っていた。
「その程度、常識です」
「おっと、そうだったな」
「さすがは私塾一の秀才といわれるだけはありますわね」
「そ、それほどでもありませんが‥‥」
 にこりと親しみやすい笑みを浮かべる鴻と真由良に、忠興は照れた様に俯く。
「だがな、敵はアヤカシだけじゃない」
「え‥‥?」
「君なら知ってると思うが、先の大戦。‥‥相手は人間だった」
「あ‥‥」
「さすがだな。これだけで俺の言いたい事がわかったのか?」
 神妙に鴻の言葉に耳を傾ける忠興に、感心したように話しかけた。
「え、ええ。なんとなく‥‥」
「そんなに気負わなくても大丈夫ですよ。戦いが開拓者の本分とは言え、他にも沢山の仕事がありますから」
「は、はい」
 顔を強張らせる忠興の緊張を、真由良はその柔和な笑みで解す。
「とにかくだ。まずやる事は自分の気持ちを、こんな立て篭もりじゃなく、親に直接ぶつけまくる事だ。こんな事したって、お互いの溝を深めるだけだぞ」
「そうですわね。本当の想いを持って親御様達に向き合えば、きっと解ってくださいますわ。貴方が目指す道を」
「そ、そうでしょうか‥‥?」
「ああ、その想いが本気なら、俺も本気で応援するよ。将来、背中を任せられる仲間になるかもしれないしな」
「ですわね。共に同じ目標に向けて進む仲間になれる事を、願っていますわ」
「う、うん」
 二人の自信に満ちた笑顔。
 その開拓者としての自信に、忠興は子供らしくこくんと頷いたのだった。

●崖下
 立て篭もりが始まりついに7日目の朝を迎えた。
「‥‥」
「‥‥」
 ぶすっとしかめっ面した画山を筆頭に、席に着く子供達。
 そして、その対面には怒り心頭の親達。
 一行は、この立て篭もり事件にケリをつけるために対話の席を設けたのだ。
「お集まりいただき、ありがとうございます」
 丁度親子の間を取り持つように座るアーニャが、緊迫した空気を割って言葉を発した。
「この数日間、お子様達とお話しさせていただきました」
 アーニャは親達に礼を尽くし向かう。
「お子様達も理解してくれたようで、この席を設ける事が出来ました」
「‥‥で、話は纏まったのかしら?」
 アーニャの言葉を待って親の一人が声を上げた。
「その結論はお子様から直接お聞きください」
 怪訝な表情を向けてくる親に、アーニャはにこりと微笑み、子供達へ視線を移す。
「‥‥」
 しかし、子供達から発せられる言葉はない。
 再び席に沈黙が落ちる。

「‥‥お子様達は開拓者を目指しておられるようですけど、役人と兼業だってできるんです」
「え‥‥?」
 そんな沈黙を割ってアーニャが提案したものに、親子達は目から鱗が落ちたような衝撃を受ける。
「そそ、開拓者一本で食べていくのもいいけど、副業持ってると色々と楽しいわよ」
 にこりと微笑むアーニャに続き、カズラも後を押すように続いた。
「だな。将来なんて今すぐ決めなくてもいいと思う。良く考えて決めろ。目指すもよし、目指さぬもよし。人生色々だ」
 じっと黙って話し合いの場を見守っていた鴻までもが、諭すように言葉を発する。
「君達が開拓者を目指すなら、我々は助力を惜しまない。皆が言うように、結論を急ぐ必要はない」
「そうですね。最後はご当人が決める事。我々はその背を押してあげればいいと思いますわ」
 由他郎は子供達へ、真由良は親達へ、それぞれの気持ちを素直に言葉にする。

「俺‥‥もう少し勉強するよ」
 その時、沈黙を守っていた画山がふと声を上げた。
「画山!?」
 その言葉に殊更驚いたのは、画山の母親。
「僕も頑張って勉強します‥‥!」
 そして、続く翔。
 さらに続く様に他の子供達も声を上げたのだった。

「さぁ、話も纏まったみたいやな――」
 話しの結論を待ってましたとばかりにヨーコが声を上げ、後方へ振りかえると。
「お待たせしましたっ!」
 そこには大皿に盛られた様々な甘味を小さな体で懸命に運んできたネネの姿があった。
「堅いお話はここまでにしまひょ。ささやかながら、私達がお茶の席をご用意させていただきましたぇ」
 と、ネネの横からリュートを抱えたリンがひょこっと現れる。
「皆さんの前には様々な『道』があります」
 呟きながらネネは皆に手際よく甘味や飲み物を配っていく。
「開拓者への道、役人さんへの道。何事にもとらわれない平和な道もあるかと思います」
 まるで自分に言い聞かせるように、ネネが続けた。
「でも、皆さんならきっといい道を選べると信じていますっ! だって、こんなにも想ってくださるご両親がいるんですから」
 そう言って、ネネは親達に視線を送り。
「皆さんの輝かしい将来を願って――乾杯です!」
 配り終えた飲み物を高々と掲げた。  

 そしてヨーコとリンによる双奏をバックに、ここに集った皆は開拓者達の用意した甘味に舌鼓を打ち、子供達の将来を夜が更けるまで語り合ったのだった。