【神乱】無血の砦
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/31 16:49



■オープニング本文

●小高い丘
「隊長! こんな街一飲みにしてやりましょう!」
 脇に控える兵士が、俺に嬉しそうに話しかけてくる。
 小高い丘に茂る木々の間から見えるのは、取って付けられたような木の柵。
 あんな物で街を守れるつもりでいるのだろうか。
「‥‥我が隊の任務を忘れるな」
「す、すみませんっ!」
 俺の声に、兵士は肝を潰したように縮こまった。
 少し凄んだだけでこれだ。
 まったく、気が緩みすぎている。戦勝気分に浸るには、まだ早い。戦は始まったばかりだといのに。
「隊を3つにわける。2番隊は丘を下り、防柵の様子を探れ」
「はっ!」
「3番隊は、一般人に成りすまし、街へ入れ。くれぐれも悟られるなよ」
「はっ!」
「1番隊は、この丘を拠点とし監視を続ける。各隊の健闘を祈る」
『はっ!』
 俺の声に気を引き締めたのか、兵士達の声に覇気が宿る。
 実に優秀な兵士達だ、と心底思う。この気の緩みさえなければ、とも。
「‥‥こんな小さな街で何ができると思っているんだ」
 俺は呟く。
 誰の耳にも届かないように、そっと――。
 
●辺境の街『ヘテュム』
 街の中央にある大講堂の一室。
「馬鹿なっ!」
 ガタンと椅子を引き立ち上がった男が、円卓をドンと叩く。
「‥‥落ち着け、ルジル。決定は覆らん。それがこの街の掟であろう」
 激昂する男を円卓の最上座に腰を落とす老人が制した。
「しかしっ! 長老!!」
「いくら叫んでも無駄ですよ」
 尚も激しく机を叩く男に、卑しい目付きで別の男が声をかける。
「ヘテュムはコンラート様に付くと決まったのですから」
「くっ!」

●小高い丘
「‥‥帝国からの増援到着は、後どれくらいになる」
 視線を街から外さず、小さく囁く。
「はっ! およそ1週間で到着されるとのことですっ!」
 脇に控える兵士がすぐさま回答をよこした。
 要点だけを押さえた、短く的確な答えだ。
「‥‥例の件は進んでいるか」
 俺は再び兵士に声をかける。
「はっ! 風信にて速やかにっ!」
「‥‥」
 俺は兵士の報告に頷いた。
 これでいい。
 俺の任務は斥候だ。敵を殲滅する為に必要な情報を集めるのが任務。
 軍人の俺が命に背く訳にはいかない。そんな事をすれば、あの坊っちゃんと同じになってしまう。
 だが、何も俺がする必要はないのだ。
 反乱を起こしたあの坊っちゃんならいざ知らず、この街の住人達がこの戦の犠牲になる必要はない。
 同じジルベリアの民の血など、流す必要はないだろう。例え、俺のエゴだとしても。


■参加者一覧
朧楼月 天忌(ia0291
23歳・男・サ
鳳・陽媛(ia0920
18歳・女・吟
一ノ瀬・紅竜(ia1011
21歳・男・サ
御神村 茉織(ia5355
26歳・男・シ
ディアデム・L・ルーン(ib0063
22歳・女・騎
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟
アルセニー・タナカ(ib0106
26歳・男・陰
リディエール(ib0241
19歳・女・魔


■リプレイ本文

●門

 ガシャ!

「っ!?」
 街の門をくぐる朧楼月 天忌(ia0291)を二人の衛兵が槍を交差させ止めた。
「そのような大剣を携えて何の用だ!」
 衛兵の一人が戸惑う天忌を威嚇する。
「へっ、ざまぁねぇな」
 と、彼の横を一ノ瀬・紅竜(ia1011)が蔑むような眼で見つめ、通り過ぎる。
「んだとっ! てめぇ!」
「天忌さん、落ち着いて‥‥」
 余裕の背中を見せ街へと入る紅竜に怒り心頭の天忌を、鳳・陽媛(ia0920)が苦笑交じりに宥める。
「ごめんなさい、この武器はお預けしますね」
「お、おい、陽媛!」
「‥‥はい、これでよろしいですか?」
 もぞもぞと天忌の腰帯を解いた陽媛は彼の刀を外し衛兵に手渡す。
「よろしい。くれぐれも問題を起こす事のないようにな」
 衛兵は陽媛から刀を受け取り二人に進路を開けた。
「ありがとう。さ、天忌さん行きましょう」
「お、おう」
 手を引かれた天忌は陽媛と共に街へと入った。

「いい品揃ってるぜ!」
 商装を纏う御神村 茉織(ia5355)が通りで露店を開いていた。
「これは、興味深い品ですね」
 地面に並べられた品を街人に扮したアルセニー・タナカ(ib0106)が珍しそうに眺める。
「へぇ、天儀の品かい?」
 その時、茉織の露天に一人の街人が現れた。
「この戦争の中、よく無事でこれたもんだ」
 客は並べられた品を興味深く眺めながらぼそりと呟く。
「そうなので?」
「ああ、帝国軍も間近に迫ってるらしい。あんたもとっとと出てった方がいいよ。あ、これ貰おうかな」
「へい、毎度あり!」
 その話にも茉織は商人の笑顔を絶やさず、客が選んだ天儀酒を袋に入れた。

「‥‥聞いたか?」
「ええ、しかと」
 客が去った露天に残された二人。
「噂は街人まで広まってるみてぇだな」
「ますます反乱軍につく理由が謎になってきましたね」
「ああ、ちぃと面倒なことになりそうだ‥‥」
「ですね、私は例の場所へ行きます‥‥また後ほど」
「ああ、気をつけてな」
 ぼそりとそう呟いたアルセニーは露店を畳む茉織を残し街へと消えた。

「穏やかな街‥‥」
 街の通りを一人歩みを進めるリディエール(ib0241)が呟いた。その瞳に映るのは、華やかではないが活気にあふれる風景。人々は笑い、汗を流す。ここには生活の息吹が満ち満ちていた。
「こんな素敵な街が戦禍に巻き込まれるのは、忍びないです‥‥」
 憂いに満ちた瞳で街を眺める。
「‥‥ここですか」
 通りに面した一軒の店の前で足を止めた。
「必ず説得して見せます」
 そう呟くと意を決し店の中へ足を踏み入れた。

●教会
 教会の一席に座り、祈りを捧げる少女。
「神への祈りはお済みになりましたか?」
「これはクヌート様。祈りの場をお貸しいただけた事に感謝します‥‥」
 牧師の呼びかけにシャンテ・ラインハルト(ib0069)は顔を上げた。
「いえ、こちらこそ神への信心をお持ちの方に出会えて、嬉しく思いますよ」
 礼儀正しい少女の言葉にクヌートは柔和な笑みを浮かべる。
「‥‥牧師様。街へ来る途中、沢山の人を見ました‥‥」
「‥‥帝国の人達ですね」
 不安げに語りかけてくるシャンテに相手は幾分表情を硬くし答えた。
「私がお力になれる事は無いでしょうか‥‥?」
「貴女が?」
「はい、これでも吟遊詩人を生業とする身、お役にたてることもあるかと‥‥」
「おぉ‥‥では、聞いていただけますか――」
 真剣な眼差しのシャンテに驚きつつもクヌートは少しずつ事の成り行きを語った。

●民家
「どうか話を聞いてもらえないでありますか?」
「‥‥」
 書に目を落とす女性は声をかける人物の事などまるで気にかけない。
「街に危機が迫っているのであります!」
 手応えの無い相手にディアデム・L・ルーン(ib0063)は少し声を荒げた。
「貴女は何者」
 ようやく声が届いたのか椅子に座るナナハはすっと顔を上げる。
「申し遅れたであります! 私はディアデム。一介の騎士の身なれど、国を憂う者であります!」
「その騎士様が、何用で」
 言葉少なく語るナナハ。
「この街に帝国軍の大軍が向かっているのでありますよ!」
「知っている」
「では!」
「でも他所者が口出しすることじゃない。出ていって」
「うっ‥‥」
 淡々と語りかける相手に、ディアデムはそれ以上話をする事が出来ずその場を後にするしかなかった。

●宿
「あの親子、仲は良好なようです」
 鼻を突く獣油の焼ける匂いが漂う部屋でアルセニーが囁いた。夜も深夜になろうかという時刻、一行は宿の一室に密かに集まっていた。
「やっぱ俺の睨んだ通りか。となれば話は早い、二人纏めて説得だ!」
 自身の推測の正しさに天忌が意気揚々と拳を掲げる。
「そう、うまくいきゃいいがな」
「んだとっ!?」
 そんな天忌に脇に控える紅竜がぼそりと呟いた。
「大体よ、その顔で無血開城とか‥‥やべぇ、また笑いが込み上げてきた」
「てめぇ!!」
 必死で笑いを堪える紅竜に、天忌は上げた拳を突き付ける。

「はいはい、ここで喧嘩はダメです」
 一触即発の雰囲気に、またいつもの事かと割って入ったのは陽媛だった。
「そんなことより情報を纏めるであります」
 陽媛越しに火花を散らす二人を苦笑交じりに見つめながらディアデムが切り出す。
「だな、あんま時間がねぇんだ。整理して方針を決めようぜ」
 その言に茉織も頷き場を纏めようと一歩前に出た、その時――。

 コンコン――。

「っ!」
 突然響いた戸を叩く音に一行は身構える。
「遅くなりました‥‥」
 しかし戸から入ってきたのはシャンテであった。
「ふぅ‥‥脅かすなよ」
「脅かしたでしょうか‥‥申し訳ありません」
 緊迫を解かれ、胸を撫で下ろす茉織に向け、シャンテが首を傾げ謝罪する。
「そちらはいかがでした?」
「はい――」
 リディエールの言葉に、シャンテはクヌートとの会話の一部始終を皆に聞かせた。

「‥‥どういうことだ?」
 静かにシャンテの話に耳を傾けていた紅竜が呟いた。
「証言に差異がありますね‥‥」
 思案に暮れるリディエールも困惑顔だ。
「牧師が嘘をついているのでありますか‥‥?」
「いや、牧師の評判は良好なようだぞ?」
「だが、迫害されている教会の牧師が、帝国側の立場を取るというのは、不自然では‥‥?」
 シャンテのもたらした情報が抜け出せぬ迷宮のように一行を思考の闇へと落とす。
「とにかく次の会議は明後日。各々、賛成派の説得と共に、裏を探りましょう」
 アルセニーの言葉に一行は深く頷いた。
 どこか晴れぬ表情のままに――。

●朝
「お宿をありがとうございました」
 宿を去る一行のうち、だた一人残った陽媛が笑みでインデクトラに声をかけた。
「なに、外のごたごたで客が減ってるからね。こちらとしてもありがたい限りさ」
 そんな陽媛に、インデクトラも豪快な笑顔で答える。
「‥‥」
「ん? どうかしたかい?」
 先ほどまでの笑顔を曇らせる陽媛にインデクトラが問いかけた。
「この街にも戦火が迫っている事をご存知ですか?」
「‥‥」
 顔を上げ真剣な眼差しを向ける陽媛に今度はインデクトラが押し黙る。
「私達は戦火からこの街を救いたい一心で来ました」
「それでこの宿へ来たってのかい‥‥ごめんよ。その気持ちはありがたいんだけど、こちらにも理由があってね」
「その理由を聞かせてはもらえませんか?」
「‥‥ごめんよ」
 真摯に話す陽媛にもインデクトラは謝罪を述べるだけ。
「でも、他の皆が意見を変えるなら――おっと、独り言いっちまったね。聞かなかった事にしておくれ」
「え‥‥?」
 照れるようにはにかむインデクトラを、驚き見つめる陽媛。
「はい、聞いていません! でも、必ずですよ!」
 その独り言に陽媛は表情を晴らし、嬉しそうに店を後にした。

●店
「‥‥どこ行く気だ?」
 街角からある店の様子を伺っていた紅竜がと呟いた。
「あっちには確か教会‥‥か」
 店を閉め、人混に紛れるよう足を速めるガイの背を紅竜は見つめる。
「商売人が教会に何の用だ‥‥?」
 紅竜は疑問を胸に早足で後を追った。

●店 
「どうしてもお話してもらえないのですか?」
「話す事なんか無い!」
 静かに語りかけるリディエールに、アロフは怒りとも焦りとも取れない声で返す。
「あなたの答えでこの街の未来が変わるのだとしてもですか?」
「お、お前には関係ないだろう!」
「戦争で街の明日が消えるのです」
「戦なんかより俺は目先の生活が大事なんだよ!」
「目先の生活?」
「な、何でもない! いいから出て行ってくれ!」
「え‥‥? きゃっ」
 あからさまに動揺する男はリディエールの背を押し店から追い出す。

「‥‥深い事情がありそうですね」
 閉ざされた店の扉を眺めリディエールは静かに呟いた。

●酒場
 茉織に注がれた酒を一気に飲み干すフローラ。
「うーん、いい男の酌は気分が乗るわね‥‥」
 二人以外誰もいない開店前。
「でだ」
「うん?」
「あんたの裏にいる人物を教えてくれ」
「あら、随分ストレートね」
「カマかけが必要な人間とそうでない人間の判別くらいはできるつもりなんでね」
 先ほどまでの酔った客の顔から一変、茉織がフローラを見つめる。
「ふぅ、そんなに見つめられちゃ話さないわけにはいかないかな。奢ってもらったお礼もあるしね」
「おごっ!?」
 カウンターの上に置かれた空の瓶はすでに5本を数える。
「教会よ」
「‥‥やはりそこか」
 小さく茉織にしか聞こえない声でフローラが呟いた。

●店
「――」
「いい音だね」
 オカリナの音色に店の主人もその手を休め聞き入っていた。
「――」
「でも、どこか悲しい」
 主人エルザがそう囁いた所で、シャンテの演奏が終わりを告げた。

 ぱちぱち――。

 楽の終わりと共に深く一礼するシャンテに向けて店の客達から惜しみない拍手が送られる。
「今ここに、戦の凶火が降りかからんとしています‥‥」
 そんな拍手の中、顔を上げたシャンテが発したのは深い悲しみを帯びた言葉。
「‥‥」
 その言葉に喝采は一転、店を静寂が支配した。
「どうか立ち上がってください‥‥失う悲しさを、皆さんに知ってほしくはない‥‥」
 シャンテの願い。
 それは大切な者を失った悲しみを知る者の心よりの願いであった。

●馬屋
「貴方の決断でこの街が守られるのでありますよ!」
「うっ‥‥」
 ディアデムの静かな怒りにシーゲルが怯む。
「貴方の知っている事を話して欲しいであります。この街の人々の為に」
「うぅ‥‥」
「口外しないと誓うであります」
「や、約束だからな!」
 ディアデムの迫力に負けたのかシーゲルはぼそぼそと事の成り行きを話し始めた。

「‥‥」
 シーゲルの話に、ディアデムはじっと聞き入っていた。
「も、もういいだろ! 出て行ってくれ! 俺はこれ以上知らないんだ!」
「‥‥ありがとう。貴方を信じるであります。語ってくれた事に感謝を」
 ディアデムはシーゲルの手を取り深く深く一礼した。

●家
「爺さん。この状況をわかってんのか?」
「‥‥」
 投げかけられる言葉をベイドルフは無言でいなす。 
「こんなつまんねぇ戦いで、街の住人を死なせるのか」
 しかし、尚も天忌の説得は続く。
「‥‥若いの。お前さんの気持ちはよくわかった」
「おう、やっとわかってくれたか!」
 すっと瞳を開いたベイドルフは鈍くくすんだ瞳を天忌へ向けた。 
「お前さんには、守るものはあるか?」
 そうして、ベイドルフは小さく呟く。
「守るもの‥‥?」
「そうだ」
「‥‥ある」
 ベイドルフの問いかけに天忌が口を開いた。
「そうか‥‥若いの、この街は『掟』こそがその守るもの、というやつなのだよ」
「‥‥」
「血気だけではどうにもならん事もある。学べ、若いの。人の上にある者ならばなおさらな」
 そう言ってベイドルフは深い溜息を一つつく。
「だが、その心意気を失ってはいかんのかもしれなんな」
「爺さん‥‥」
 天忌を見上げるベイドルフの瞳にはくすんだ鈍色はもうなかった。

●教会
『これは‥‥?』
 教会の一室。壁を這う小さな蜥蜴が見つけたのは一枚の封書。
『‥‥っ!?』
 器用に封書を弄る蜥蜴の瞳を介して見た物にアルセニーは驚愕する。
『これで、戦を止められる‥‥!』
 手に入れた情報は街に巣食う闇を証明する物。アルセニーはこの報を一刻も早く仲間の元へ届けるため、駆けだした。

●議会
「では、決議は変わりなく」
 各々が上げた手の数を数えながらシュタイナーが満足気に呟いた。
「待って‥‥」
 その時、いつも黙して言葉を発することの少ないナナハが声を上げる。
「なんでしょう?」
「‥‥長老は、反対?」
 そう言うナナハの視線の先には賛成に手を上げぬベイドルフの姿。
「父上、まさか反対されるのですか!」
 ナナハの視線を追ったシュタイナーが父の姿に激昂した。
「‥‥もう偽るのはやめにせぬか」
 しかしベイドルフは落ち着き払って告げる。
「うん、そうだよな‥‥」
 と、シーゲルが呟き上げた手を恐る恐る下ろす。
「シーゲル! 店はどうなってもいいんだろうな!」
 揺れる議会に焦ったのかガイが怒りを孕んだ叫びを上げた。その時――。

 ダンっ!

「ついに本性を現したようだな」
 突如議室の戸を開く。
「だ、誰だ!?」
「いい加減、観念したらどうだ?」
 議室へ現れたのは天忌を始めとする開拓者の一行であった。
「あんた達は‥‥」
 現れた一行にインデクトラが驚きの声を上げる。
「おめぇの悪行の証拠は、俺達がしかと押さえてある。観念するんだな!」
 溜まりに溜まった怒りを吐き出すように天忌が吠える。
「な、なにを唐突に!」
「おっと、逃がさないぜ?」
 じりじりと後退し議場の裏口から逃げようとしたガイの行く手を茉織が塞いだ。
「さて‥‥牧師さん」
 逃げるガイに視線が注がれる中、紅竜が視線を向けたのは牧師のクヌート。
「‥‥なんでしょう?」
 平静を装うクヌートであったが、その声には微かに動揺の色が見えた。
「自らは反対派に身を置きながら、賛成派を裏で操る――。実に見事な策士ぶりですね」
 すっと、紅竜の影からアルセニーが現れる。
「ここに一つの密文があります」
 アルセニーが取り出したのは、あの一室で見つけた書状。
「そ、それは!?」
 アルセニーに突きつけられた証文を見たクヌートの表情が一変する。先ほどまでの慈愛に満ちた牧師の仮面はすでに剥がれていた。
「あなたの私怨で街の人を犠牲にするわけにはいきません!」
 アルセニーの言葉を待っていたかのように一行は動く。そして、首謀者とされたクヌートとガイは、その手によって捕縛されたのだった。

 クヌートは信仰する教会を迫害する帝国に只ならぬ恨みを抱き、あえてこの街に侵攻させる為、反乱軍側につかせるよう仕向けたのだ。もしクヌートの思惑通り、この街が戦禍に巻き込まれていたのなら――。
 大した抵抗も出来ない街を蹂躙したとして帝国の風評は地に落ちていたであろう。

 その巨大さから抱える帝国の闇の一端を、一行はここで目の当たりにする。
 一行は皆それぞれが、複雑な思いでこの捕縛劇を見つめたのだった。