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■オープニング本文 ●武天首都『此隅』 ジャラ――。 「きゃー!! こっちよこっち!!!」 シャラン――。 「おい! こっちにもくれ!!」 ザザッ――。 「これは俺のもんだっ!!」 「違うわよ! 私が先に取ったんだから!!」 甲高い音を立て合い、此隅の空を黄金が舞う。 「そぉぉらぁぁ!!」 まるで桜吹雪の如く舞う黄金は、ひらひらと舞い落ちていった。 「うおぉぉ!! もっとだもっと!!」 湯屋の屋根から降り注ぐ黄金に、集まった民衆たちは目の色を変えて、我先にとかき集める。 「はっはっはっ! ぜっけぇかなっ! ぜっけぇかなっ!!」 千両箱を小脇に抱え、そんな様子を屋根の上から満足げに見つめるのは、我らがひーろー「怪盗ポンジ」だった。 「こっちきてないぞ! アホ怪盗!!」 「はっはっはっ! そんなに褒めるなよっ」 業を煮やした民衆のヤジに、なぜか照れるポンジは、気前よく黄金を千両箱ごとぶちまける。 その時。 「ポンジ! 御用だ!!」 狂宴と化した湯屋前に、大声を張り上げ岡っ引きを引きつれた同心が民衆をかき分け現れた。 「おっと、やべぇ!」 同心衆の登場に、まるで鬼ごっこの鬼に見つかったかの様に悪戯な笑みを浮かべるポンジ。 「今日という今日は、逃がしはしねぇ! 大人しくお縄につきやがれぃ!!」 お決まりの台詞と共に、同心は屋根に向けて十手を突き付ける。 「そうは問屋が御さねぇ、ってな!」 こちらもお決まりの台詞を吐き捨て、ひらりと身を翻したポンジは、持参の大凧に身体を丁寧に縛り付けると。 「はっはっはっ! また会おうっ!!」 ポンジは眼下へ一瞥をくれると、捨て台詞を残し大空へと舞い上がった。――が、糸が繋がれていなかったのか、大凧は風に弄ばれどこへともなく飛び去って行った‥‥。 「あぁ‥‥ポンジ様。素敵‥‥」 そんな華麗なる退陣劇を物陰から見つめる一人の少女。 だらだらと鼻血を垂れ流す少女を、人々は腫れ物を見るかのような表情で見つめ通り過ぎていく。 「ポンジ様‥‥。す、好きっ! きゃっ! 言っちゃったっ」 姿の見えなくなった相手に向け発した言葉に、少女は両手で顔を覆いふるふると頭を振る。 「だ、ダメよ瞳! こんな所で愛を囁いても、ポンジ様には届かないんだからっ! そうよ! 早くお手紙お渡ししなくちゃ‥‥!」 瞳と名乗る少女は、ポンジの消えた空に向け、熱く滾る闘志を燃やすのだった。 何だかややこしいことになりそうな予感がひしひしと‥‥! さぁ、少女の恋の行方は! そして、何も知らないポンジの運命は!? 次回、『【ポ】恋するポンジ?』こう、ご期待!! |
■参加者一覧
蘭 志狼(ia0805)
29歳・男・サ
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
水月(ia2566)
10歳・女・吟
小野 灯(ia5284)
15歳・女・陰
紅咬 幽矢(ia9197)
21歳・男・弓
リリウム=バーンハイト(ia9981)
16歳・女・魔
レートフェティ(ib0123)
19歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ●此隅 「いいかお前ら! 今日という今日は必ず奴を捕まえる!」 屯所前にずらりと居並ぶ岡っ引きを前に、敬礼を強要する喪越(ia1670)が大演説中。 「そこーで! 今日は強力な助っ人をお呼びしてあーる!!」 『おぉ!』 グッと拳を突き上げた喪越の声に、岡っ引き達にどよめきが沸き起こった。 「先生、こちらへっ!」 「う、うむ‥‥」 喪越の紹介を受け、現れた蘭 志狼(ia0805)。その表情は実に困惑気味だ。 「この度、ポンジの首級を上げるべく馳せ参じた蘭だ。よろしく頼む」 困惑しながらも、キッと決意に満ちた瞳で首を垂れる志狼。 『おぉ!』 なんだか物騒な自己紹介に、岡っ引き達はなぜか大喝采を送る。 「これで百人力だぜっ! ポンジ、逮捕だー! 続け―!!」 『おー!』 喪越の魂の叫びに呼応し岡っ引き集団は、一目散に此隅の町へと消えていった。 ●酒場 昼も日が高いうちから此隅の酒場は大盛況であった。 「皆様、おなじみ怪盗ポンジ――」 その大盛況の原因がここにある。 酒場の一角にできた人だかりの中心から聞こえる、場違いな凛とした歌声。その主はレートフェティ(ib0123)だった。 「さては、現れたる新たな敵に――」 ポンジの武勇伝を雄々しく歌うレートに、客達は釘付けだった。 「皆様、ポンジ様に首ったけですわね」 少し離れた机で、紙に囲まれた出水 真由良(ia0990)は、演奏会を楽しそうに見つめる。 「さて、わたくしも気合を入れて書きませんと――」 流れてくるポンジの武勇伝を聞きながら、真由良は腕をまくり筆を取った。 「ええっと――前略 瞳様――」 真由良は紙の上に筆を踊らせる。 「――春も近付き――」 「――貴女の心を――」 「――どうかご自愛ください――っと」 「できましたわ。我ながら完璧な仕上がりですね。さてこれを矢に結んで――」 書き終えた文を満足気に見つめた真由良は、それを矢に結び立ち上がると。 「ここにぷすっと」 笑顔で酒場の入り口の戸に突き刺した。 「これでよろしいですわね。さて、次に参りましょうか、レートフェティ様」 突然突き刺さった矢に、ざわつく店内など意にも介さず、真由良は曲を終えたレートに声をかける。 「はーい。さて、どんどん噂を広めるわよっ」 その言葉にレートも三味線を下げ、後を追うように酒場を後にした。 ●長屋 「おっかけっこ‥‥たのしみっ!」 瞳の部屋で菓子をはむっと頬張る小野 灯(ia5284)は嬉しそうに呟く。 「だ、大丈夫かなぁ‥‥」 そんな灯を瞳は不安げに見詰めた。 「‥‥んーと」 そんな瞳に、灯は何を思ったのか、突然どさっと袋をひっくり返す。そこから出てきたのは、飴やらなにやら大量の食糧。 「これで、ぽんじ、まっしぐら‥‥っ!」 「そ、そうなんだ‥‥」 「だとう‥‥ぽんじ、なの!」 「灯ちゃん‥‥できれば、倒さないで」 拳を握り意気込む灯に、瞳は涙ながらに訴えたのだった。 ●大通り 「さて、どうやってポンジを誘い出すかだね」 人でごった返す大通りを、リリウム=バーンハイト(ia9981)は水月(ia2566)の手を引き歩いていた。 「‥‥」 「水月さん、どうかした?」 繋いでいた手をくいっと引かれたリリウムは、水月を見下ろす。 「‥‥」 小さく呟いた水月が、ごそごそと懐を探り取り出したのは、一枚の木片。 「えっと‥‥それは?」 「‥‥団員証、です」 「えー‥‥団員証って、例のポンジ団とかいうやつの?」 「‥‥」 訝しげに問いかけてくるリリウムに、水月は嬉しそうにこくこくと頷いた。 「でも、それってどう見ても‥‥」 リリウムが水月の持つ木片をまじまじと見つめる。それは――。 日差しに映える美しい木目。規則的に切り整えられた鋭角な造形。その姿は神々しささえ感じる。そう、まさに――。 「『絵馬』‥‥?」 であった。 「‥‥えっと、私の知識が正しければ、確か神社とかでお願い事を書いて奉納する物‥‥だよね?」 「‥‥団員証、です」 ふるふると懸命に首を振る水月が、リリウムを見上げ訴えかける。 「そ、そう‥‥で、それでポンジを誘い出せるの?」 潤む水月の瞳に観念したのか、リリウムが問いかけた。 「‥‥どうでしょう?」 しかし、そんな問いかけに小首を傾げる水月。 「どうでしょうって‥‥」 「‥‥いきます!」 苦笑の滲む複雑な表情で眺めるリリウムを他所に、水月は団員証を高々と掲げた――。 「はっはっは! 待たせたな! 俺、只今参上!!」 と同時に二人の前に現れる白銀の風。そう、ポンジ登場の瞬間である。 「うわ、ほんとに出た!? って、1秒も待ってないよっ!?」 「‥‥団長さん、こんにちわ」 まさかの事態に動揺が最高潮のリリウムと、嬉しそうにぺこりとお辞儀する水月。 「おう、ちっこいの。呼んだか?」 「‥‥」 「ふむふむ」 目の前に現れたポンジに、水月は身振り手振りで何やら説明を始めた。 「‥‥」 「なるほど」 「‥‥」 「おう、わかった! しかたねぇ、入れてやろう!」 「えぇ!? 今の会話だったの!? って、入れるって何を!?」 「‥‥おめでとう、ございます」 にこりと見上げる水月は、ガチリとリリウムの腕を掴む。 「何が!?」 「特別だぞ?」 動きを封じられたリリウムに、目出しバンダナを手ににじり寄るポンジ。 「‥‥」 そして、笑顔で絵馬を懐にねじ込む水月。 「いやぁあぁぁ!!」 太陽がちょうど天頂を指した頃、リリウムの絶叫が此隅の町に響き渡ったのだった。 ●長屋 「もぉ! 灯、動かないのっ!」 「うぅ‥‥くすぐったい‥‥の」 瞳の住まう長屋では、レートが灯の髪の毛を纏めていた。 「はぁ‥‥ポンジ様」 一方、その脇では瞳がどこか遠くへ想いを馳せる。 「うん、できた! やっぱり怪盗を名乗るくらいなんだし、これくらいセクシーにしないとね」 「う‥‥? せくしー‥‥?」 「うんうん、とってもセクシーよ」 レートは自分の仕立てた灯を眺め、満足げに頷く。 「あたしも、おとなの、みりょく‥‥?」 「う、うん、大人かどうかは人によるけど‥‥」 きらきらと眩い視線を向けてくる灯に、レートは気まずそうに視線をそらした。 ●夜 月下に現れ出でる3つの影。 「はっはっは! 待たせたな! 俺達、只今参上!」 屋根に現れた三人は、揃いも揃って目出しバンダナを着用。颯爽とポーズを決める。 そう、月を背に、怪傑ポンジ団! 堂々の登場である。 「うぅ、恥ずかしいよ‥‥」 「‥‥」 もじもじと下を向くリリウムに、水月はぷぅと頬を膨らませる。 「はっはっは! 要は慣れって奴だ!」 そんなリリウムの肩をポンジがバンバンと叩き、水月がこくこくと頷いた。 「もうお嫁にいけない‥‥」 「ふっ、現れたか。偽の予告状に踊らされ現れるとは、怪盗も落ちたものだなっ!」 しかし、岡っ引き集団を率いる志狼は余裕の笑みを浮かべる。 「はっはっはっ!」 そんな志狼を屋根から見下ろし、ポンジはなぜか高笑い。 「なにが可笑しい!」 思いもよらぬ返答に、志狼は困惑する。 「はっはっはっはっ!」 その時、志狼の背後からポンジに負けぬ大笑いが。 「はっはっはっはっはっ!」 「はっはっはっは――げほげほっ!」 「ふ、俺の勝ちだな!」 「きぃーー!!」 勝者ポンジ。喪越敗北。 「なに! もう勝敗が決したのか!?」 地面を拳で打ちつけ悔しがる喪越と、相変わらずの高笑いを続けるポンジを交互に見返し、志狼の顔が引きつった。 「お遊びはそこまでよ!」 その時、此隅の闇夜に、軽快でどこか懐かしい三味線の音が響き渡る。 「何奴!」 場違いに響く弦の音に、志狼が鋭い目付きで辺りを伺った。 「闇夜に舞う蝶のように!」 三味線を掻き鳴らし、白の蝶が左に。 「華麗にお宝いただきます!」 もじもじと恥ずかしそうに、黒の蝶が中央に。 「かいとう‥‥ねこのめ、ぐみ! さんじょう‥‥なの!」 巨大な鴉を左手に従える、赤の蝶が右に。 現れたのは、際どすぎる忍び装束に身を包み、鬼の面を付けた三匹の蝶達だった。 「ぐはっ!?」 謎の蝶達の登場に、盛大に血飛沫を吹き上げ片膝を折る喪越。 「喪越、どうした!? 何処をやられた!?」 突然の流血劇に、志狼が喪越に駆け寄った。 「‥‥くっ」 「お、おい!」 ぼとぼとと顔面から大量の血を垂れ流す喪越を、志狼ががくがくと揺する。 「セニョリータからお子様まで完全網羅だと‥‥!?」 「おい、どういうことだ!?」 「――ははは、その色香に、乾杯‥‥がくっ」 そして、親指を突き上げ満足気な笑みを浮かべた喪越は(鼻)血の海に沈んだ。 「もこーーーすっ!!」 友(?)の死(?)に、誰に憚る事もなく志狼は男泣く。そして。 「許さん‥‥許さんぞ、ポンジ!!」 喪越の死因(?)の三人を完全無視。対ポンジの憎念を熱く滾らせた。 ●決戦 夜の此隅を一陣の風が吹き抜ける。 三つの集団は互いを牽制し合い、辺りに言い知れぬ重い力場を作っていた。 「できる‥‥っ!」 死(?)した喪越に代わり、岡っ引き集団の長となった志狼が呻くように呟く。 「‥‥敵もなかなかやりますね」 バンダナを風に靡かせ水月が敵を睨みつけた。 その時。 「おの、あかり、まいる‥‥!」 均衡を破り、鬼面の三人組が動く。 「‥‥灯、名乗っちゃダメでしょ」 「あ、あぅ‥‥」 レートのツッコミに、勇み足灯はしょんぼり。 「何を訳のわからぬ事を! この蘭 志狼。友の屍を越えてでも、貴様達を捕えて見せる!」 頬を伝う涙を拭いもせず、喪越を踏みつける志狼が刀を抜いた。 「はっ! 面白くなってきやがったなっ!」 ポンジが宙に舞うべく、脚に力を込める。 ポンジ団vs怪盗三姉妹vs岡っ引き集団。 互いの覇気が火花を散らし、空前絶後の大決戦が、今ここに――。 「皆様、お鍋の準備ができましたよ?」 終結した。 ●公園 ワイワイと真由良の用意した鍋を囲む一行。 「‥‥団長さん、お水です」 「おう、気が利くじゃねぇか!」 ポンジは箸を休め、水月の差し出した水を一気に飲み干した。 「水月さん、あれって」 「‥‥」 そっと耳打ちするリリウムに、水月はこくこくと頷く。 「ん? なかなか刺激的なミズだだだ――」 手渡された水を一気に飲み干したポンジの体に起こる異変。 「よくやった! 覚悟しろポンジ! 喪越の仇だ!!」 「ん?」 はふはふと鍋をつつく喪越の横で、志狼が再び刀を抜いた。 「散っていった友の為、お前の首、墓前に捧げる!!」 ギッとポンジを睨みつける志狼の顔には、一筋の涙が伝う。 「避けれるものなら避けてみよ! 地撃『崩閃禍』!」 珠刀一閃。体の自由を奪われたポンジに、志狼の地撃が駆けた。 「ぐがががががっ!?」 大地を抉る斬撃がポンジを捕える。 「これで終わりと思うなよ!」 だが、志狼は止まらない。 懐から取り出した焙烙玉を、全力でポンジに投げつけた。 ドカーン!! 「成敗、これにて了!」 爆風により宙に打ち上がるポンジに、くるりと背を向け志狼は、静かに瞳を閉じ刀を鞘に戻した。 「さて、皆。お仕事しましょ」 ことんと箸を置いたレートが、脇に置いておいた三味線を取り出すと。 「漂う不可視の力達よ――」 力強く弦を弾く音と共に、凛とした歌声が響き渡る。 「彼の者たちへ、其の御魂の片鱗を貸せ――」 凛とした声は徐々に力を帯び。 「天の声、地の楽、人の歌、全ての音を持て開け、森羅万象の門!」 響く弦の音に導かれレートの歌声は力となり、術者達を包む。 「ええっと‥‥」 レートの力ある言葉を受け、灯はごそごそと懐を探り、一枚の符と手帳を取り出した。 「いでよ‥‥くれない、の‥‥ちょう、よ!」 器用に左手で手帳を捲り、右手に持つ符に念を込めると、現れたのは一匹の蝶。 「おてつだい‥‥してね?」 現れた紅紫の蝶に灯はにこりと微笑みかけた。 「えっと‥‥」 再び手帳に目を落とした灯は、傍らに漂う蝶に命を下す。 「しばれ‥‥むらさき、の『ばくどうちょう』!」 宙を漂うポンジを蝶の引く燐粉が絡み縛りつけた。 「なんだかすごく楽しそうですね‥‥」 「え? そんなことありませんよ?」 追撃の準備に移るリリウムは、同じく符を取り出した真由良に声をかける。 「な、ならいいんだけど‥‥」 「ええ、ポンジ様をこの手にかけるなんて‥‥心が痛みますわ」 不安げな表情を向けるリリウムに、真由良は満面の笑みで返すと。 「ふふ、ポンジ様、お覚悟を! 憑き従いなさい、雷孤!」 真由良の声に従い現れた子狐が、雷を纏う。 「わわっ! は、跳ねろ雷帝!」 一歩遅れて、リリウムの声に呼応した杖が帯電する。 『天元二閃!』 二人は声を合わせ、宙を舞うポンジを指さした。 『双雷撃『月下震・妙光』!!』 二人の手から放たれる二本の雷条。 天から魔力の稲妻が。 地からは式狐の霹靂が。 光り輝く二筋は、目標を目指し駆け抜け、月下の空を昼へと変えた。 「‥‥綺麗」 夜の華となったポンジを、水月はぱちぱちと小さな拍手で祝福したのだった。 「さぁ、瞳様」 「は、はい!」 真由良に背を押され意を決した瞳が、簀巻きで木に吊るされプスプスと煙を上げるポンジに歩み寄ると――。 「‥‥ポンジ様、これっ!」 逆さ吊りのポンジに一通の文を手渡した。 「ん? なになに」 ポンジは器用に腕だけを抜き文を受け取ると。 「新年、明けましておめでとうございます――ふむ」 バサッと広げ読み上げた。 「皆さんがいる前で読むなんて‥‥きゃ、恥ずかしいっ」 そんな様を見つめる瞳は、恥ずかしさのあまり両手で顔を押さえる。 「ねんが、じょう‥‥?」 「‥‥年賀状ね」 「い、いまさら!?」 かくりと小首を傾げる灯。 頬を引きつらせるレート。 驚愕に暮れるリリウム。 「おぅ、これはご丁寧に。おっと、お返しだ、これやるよ」 「え?」 巻かれた縄を器用に避けポンジが手にした物。それは――。 「まぁ、あれはポンジ様の――」 「なんだ、あの怪しげな絵馬は!?」 「‥‥団員証、です!」 であった。 「そ、そんな、私なんかに‥‥?」 「ああ、これでお前も仲間だ!」 「う、嬉しい‥‥!」 瞳は団員証をギュッと握りしめると、至福の笑みで走り去った。 「これでよかったの‥‥か? いや、奴はとんでもない物を盗んだ‥‥というやつか?」 「なにっ!?」 走り去る瞳の姿をやれやれと見つめる志狼が呟いた一言に、喪越が固まった。 「もこす‥‥?」 直立不動で固まる喪越を灯がつんつんと突いた、その時。 「まさか俺以外の心も盗むなんてっ! ひ、酷いわ! アタシの事は遊びだったのね!?」 切なげな声を張り上げ、喪越がポンジに飛びかかった。 「‥‥すまねぇ、そんなつもりはなかったんだ」 突撃してくる喪越の肩をポンジが抱き止める。 「あ、ポンジ‥‥」 「下っ端‥‥」 見つめ合う二人。 「も、喪越。お前‥‥」 「そういう間柄だったんだ‥‥」 「‥‥まぁ、恋の形は人それぞれよね」 皆が生温かく見守る中、二つの影は一つに重な――。 |