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■オープニング本文 ●朱藩南洋 砲術士達が束ねる国『朱藩』。 天儀大陸に持つ領地と共に、朱藩には南部に広大な大洋と、そこに浮かぶ無数の島々を有している。 朱藩南部のこの群島、総称して『千代ヶ原諸島』と呼ばれていた。 そして、千代ヶ原諸島に属する島々で、最も武天領に近き島が、『霧ヶ咲島』(きりがさきしま)。 南から吹きつける温かな風と、北から流れ来る寒流がぶつかるこの島は、実に一年の半分をも深い霧で覆われる為に、そう呼ばれていた。 今、首都『安州』より遠く離れたこの辺境の島で、新たなる物語が産声を上げる。 ●霧ヶ咲島南部領『心津』(こころづ) 南洋を望む小高い丘の上に立つ一軒の建物。 豪奢ではないが、造り手の拘りが随所にみられるこの屋敷が、今回の物語の舞台である。 今日は、この時期には珍しく霧が晴れていた。 「伯父様。オウキの村から山賊被害の陳情書が届いていますけど‥‥」 調度品一つ無い質素な部屋から縁側へ向け、遼華は困惑気味に問いかける。 「そう、それは大変だねぇ」 縁側に静かに腰掛け茶を啜る初老の男が、まるで他人事のように答えた。 隠居老のような雰囲気を漂わせるこの男こそ、心津の領主『高嶺 戒恩』(こうのみね かいおん)であった。 「いいんですか? 仮にも‥‥って、仮じゃなくて、れっきとした領主様なんですよね?」 「んー、そうみたいだねぇ」 「そうみたいだねぇ、って‥‥」 久しぶりに覗いた温かな日差しを全身で浴びる戒恩は、目を細めこの春の様な陽気を楽しむ事に余念がない。 「居候の私がこんなこと言うのは、お門違いかもしれませんけど、放っておいたら被害が広がるんじゃ‥‥」 「うん、広がるかもしれないねぇ」 「そ、それなら捕えるなり討伐するなり、しないといけないんじゃ‥‥?」 「うーん、そうしたいのは山々なんだけどねぇ」 戒恩はことりと湯呑みを縁側に置き、ようやく遼華へ視線を向けた。 「でもね」 「はい?」 「君もここにきてわかってると思うんだけど‥‥討伐とかできる人、ここにはいないんだよねぇ」 自分の言葉を噛みしめるようにうんうんと頷き、戒恩はそう告げた。 「そんな人見なかったでしょ?」 「あ‥‥」 遼華がこの屋敷にきて一月余り、確かに腕の立つ護衛や兵士など見たことがない。 この屋敷にいるのは、せいぜい戒恩の身の回りの世話をする女中が数名と、小間使いの少年くらいだ。 「だから、村で解決して、って言っておいて」 「そ、そんな無責任な‥‥」 「無責任かなぁ? 自分の身は自分で守る! うん、実に自然の摂理に適った考え方だと思うんだけどなぁ」 そう言うと戒恩は、再び湯呑みを手に取り、日差しを仰ぐ。 「で、でも伯父様。こう考えてはどうですか?」 しかし、遼華は言葉を続けた。 「うん?」 「山賊は村で盗るものがなくなったら、次は別の村へ行きますよね?」 「うん、そうだねぇ」 「で、その次の村でも盗るものがなくなったら、また別の村に」 「うんうん」 「で、最後はここに来ません?」 「おぉ、遼華君、君は実に聡明な考えの持ち主だねぇ」 遼華の言葉に、戒恩は大げさに感嘆した。 「普通に考えると、そうなると思うんですけど‥‥」 「うんうん、じゃぁ聡明な遼華君に、領主様からお願い」 「え?」 再び遼華に向き直った戒恩は、ぱんっと一度手を打ち合わせ。 「山賊さん達をやっつけてきて」 「えぇっ!?」 柔らかな微笑みと共に、とんでもないことを言い出した。 「『働かざる者食うべからず』」 「うっ‥‥」 「うん、昔の人はいいこと言うねぇ」 「で、でも私、開拓者でも何でもないですし‥‥それに大義名分? っていうんですか。そう言うのもありませんし‥‥」 「ふむ、大義名分ねぇ‥‥」 戸惑う遼華の開拓者云々の言葉は無視して、戒恩は考え込む。 「そうだ」 そして、ぽむっと手を叩いた戒恩は、おもむろに立ち上がると。 「伯父様?」 怪訝な顔を向けてくる遼華の脇を抜け、奥の部屋へと消えた。 『これでよしっと』 暫くして、襖越しに聞こえた戒恩の声。 「伯父様‥‥?」 遼華はどうしていいのか分からず、縁側に立ちつくしながらその声を聞いた。 「はい、これ」 「え?」 襖を開き現れた戒恩の手には、一枚の書が握られている。 それを戒恩はにこりと微笑み、呆然と立ち尽くしていた遼華に手渡した。 そこには。 ――この者を領主代行とし、『心津』における全権を委任するものである。心津領主『高嶺 戒恩』―― と、達筆な文字で書かれていた。 「な、なんですかこれっ!?」 書に目を通した遼華の表情が驚愕と困惑に彩られる。 「ん? ご免状ってやつ?」 「そ、そうじゃなくてぇ!?」 「遼華君、討伐しないといけないって言ったよね?」 「うっ、言いましたけど‥‥」 「大義名分がない、とか言ってたよね」 「い、言いました‥‥」 「うんうん、遼華君は実に優秀な人材だ」 「はいぃ!?」 脈絡なく言葉を紡ぐ戒恩に、遼華の動揺は最高潮だ。 「やる気のある人がやるのが一番だと思うんだけど?」 「や、やる気とかじゃなくて、これは領主の義務でしょ!?」 もはや敬語など使っている余裕すらなくなった遼華は、必死に戒恩に訴えかけるが。 「うん、義務義務。という訳で、頑張ってきてね、領主代行様」 「えぇええええっっ!?」 小高い丘の小さな屋敷に、遼華の絶叫が響き渡ったのだった。 |
■参加者一覧
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
一ノ瀬・紅竜(ia1011)
21歳・男・サ
ミル ユーリア(ia1088)
17歳・女・泰
天目 飛鳥(ia1211)
24歳・男・サ
アルティア・L・ナイン(ia1273)
28歳・男・ジ
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
御神村 茉織(ia5355)
26歳・男・シ
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●屋敷 「こちらに来られて間がないとお聞きしましたのに、領主代行に就かれるなんて、すごい方なのですね」 「ちち、違うんです! これは成り行きというか、無理やりというか‥‥!」 畏敬の眼差しで見つめる出水 真由良(ia0990)に、遼華は大きく手を振り畏まる。 一行は賊討伐の作戦会議を兼ね、高嶺の屋敷で昼食をとっていた。 「何にせよ、大役を仰せつかったわけだ。一応おめでとう、と言っておこうか?」 「も、もぉ! 一之瀬さんまで!」 茶化すように語りかける一ノ瀬・紅竜(ia1011)に、遼華は頬を膨らませる。 「はは、すまんすまん。――それにしても随分と明るく笑えるようになったな」 「え?」 「こっちが本当の顔である事を願ってるぜ」 そう漏らした紅竜は照れを隠すように、遼華の髪をわしゃわしゃと撫でつけた。 「それにしても此処の領主もすごいね。いきなり全権任せちゃうんだから」 と一方で、アルティア・L・ナイン(ia1273)が奥の座敷を見やり呟く。 「任せられた遼華さんは大変だろうけど‥‥」 アルティアの隣に座した浅井 灰音(ia7439)も、合わせるように呟いた。 「ここの領主は相当な大器なのか、それともただの怠け者なのか‥‥」 「うん、アルティアさんそっくりだね」 そんなアルティアの呟きに、灰音がうんうんと頷き答える。 「‥‥灰音君、それはどういう意味かな?」 「ん? そのままの意味だけど?」 「ふむ、君とは一度じっくりと話し合いたいと思ってたんだよ」 「へぇ、奇遇だね、私もだよ」 満面の笑みで微笑み合う二人。 「まぁ、夫婦喧嘩ですか?」 そんな二人に、対面に座った真由良が楽しそうにつっこみむ。 『違うよっ!』 しかし、二人は声を合わせて全力否定。 「‥‥何だろうね、この緊張感のなさ」 「‥‥ミルが言っても説得力ないよ?」 お代わり三杯。積まれたどんぶりを満足気に見つめながら呟くミル ユーリア(ia1088)に、遼華が呆れながら声をかけた。 「ご飯は食べれるときに食べるのっ! これは戦場を生き抜くためのヘイホウなんだから‥‥あれ? ヒョウホウ? あれ‥‥?」 「どちらも間違ってないぞ‥‥」 首をひねるミルに天目 飛鳥(ia1211)が、仕方なく教えてあげる。 「そう、どっちでもいいの! いいリョウカ! なんか色々面倒臭い事になってるけど、あたしがいれば大丈夫だから!」 いったいどこから湧き出るのか、その自信を胸にミルは立ち上がり高らかに宣言した。 「う、うん、期待してるよ」 「まーかせときなさい!」 苦笑いの遼華にミルは満足気に頷く。 「この面子でやれるのか、自信がなくなってきたぞ‥‥」 そんな様子を飛鳥は、目頭を指で摘み、襲い来る頭痛に耐え独りごちる。 「あら、そうですか? 皆様、楽しい方ばかりで、わたくしは嬉しいですわ」 煎れられた茶を啜る真由良の幸せそうな顔は、部屋の空気を更に和ませるのであった。 ●縁側 「遼華殿、隣よいか?」 「え? わわ、りょうさん! どうぞどうぞ!」 縁側でぼやっと茶を啜っていた遼華に声をかけたのは、皇 りょう(ia1673)であった。 「実に穏やかで良い地であるな」 譲られた隣にすっと腰かけ、遼華が望んでいた遠方を、りょうは目を細めて見やる。 「なーんにもないですけどね」 そんなりょうの横顔に、遼華は微笑みかけた。 「都で育った遼華殿には、ここはつまらなく映るか?」 「うーん‥‥そうですね、服を売ってるお店が少ないのは、ちょっと残念ですね」 まるで姉の様な柔らかなりょうの瞳に、遼華は苦笑交じりに答える。 「遼華殿は、お、お洒落であるしな」 じっと遼華を見つめていたりょうは、なぜか頬を赤らめ俯いた。 「そんなことないですけど‥‥って、りょうさん?」 「えっ!? あ、いや‥‥りょ、遼華殿!」 「は、はい!」 不思議そうに問いかける遼華に、りょうは意を決したように真剣な眼差しを向ける。 「そ、そのなんだ‥‥おおお、お洒落について、だな‥‥その、ご教授をお願いしたく!」 「は、はい! ‥‥え?」 縁側に正座し真っ赤な顔で詰め寄るりょうに、遼華は呆気にとられた。 「あ! いや‥‥わ、私は何を言っておるのだ‥‥忘れてくれ」 呆気にとられる遼華の顔を見て、りょうは我に返り自嘲気味に言葉を綴る。 「ふふ、いいですよ」 そんなりょうの態度に遼華は、くすりと笑みを零し嬉しそうに見つめた。 「‥‥え?」 「りょうさんは元がいいですもん、私がもっと奇麗にしてあげるんですから――」 そうして嬉しそうにお洒落について語る遼華の話を、りょうは居住まいを正し聞き入ったのだった。 ●座敷 「あんたが領主か?」 「ん? どちらさんかな?」 自室で読書に耽っていた戒恩に背後から声をかけたのは、御神村 茉織(ia5355)であった。 「読書の最中すまない。今回の依頼を受けて来た者だ」 「おぉ、それはそれは。よろしく頼んだよ」 背後からかけられた声に、一度は振り向いた戒恩だったが、書が気になるのかそわそわと落ち着かない。 「旦那」 目を泳がせる戒恩を、茉織は少し怒りを含んだ声で今一度呼ぶ。 「ん?」 「あいつの事‥‥遼華の事、よろしく頼む。今はあんただけが頼りなんだ」 「‥‥ああ、わかってるつもりだよ」 茉織の真剣な言葉に、戒恩は真摯に答えた。 「そうか、それを聞いて安心した。依頼の事は任せておいてくれ」 「うん、たのん――おや、もういない。せっかちな人だねぇ」 振り向いた先に茉織の姿はすでになく、戒恩は一度にこりと微笑み、書に目を戻した。 ●倉 『毎度同じ道を使うなんざ、相手は相当油断してる』 紅竜の出した結論に従い、一行は倉での待ち伏せを選択した。 「さて、こんなものか」 額に浮いた汗を拭い、飛鳥は鍬を置いた。 「これならどんな奴が来ても充分だね」 その隣では、満足気に自分の仕事の成果を見下ろすアルティア。 二人の眼下には深々と掘られた大きな穴があった。 「動物を罠にはめるのは気が進まないが‥‥」 「ちょっとかわいそうだけど、これなら命を奪わないですむかもしれないよ?」 「そうだな。そうあってくれる事を願おう」 こうして二人は、掘った穴に蓋をかぶせ落とし穴を完成させた。 ●夜 月光が茶畑を優しく照らす。 そんな風一つない静寂の月夜に、茶畑を揺らす不穏な影が姿を現した。 「お出でになりましたね」 村全体を見渡せる山腹に、もぞもぞと動く一つの影。全身を枯れ葉で覆った真由良だった。 「皆さんお月様に負けないくらい輝いてくださいね」 みのむし真由良の掌には、小さな黒い点がいくつも蠢く。 「さぁ、皆様の元へ!」 真由良は手を高々と掲げると、黒点を月夜に放つ。 黒点は自ら発光し、開拓者の元へ一直線に飛んでいった。 「‥‥ふぅ、冬の蛍もいいものですね」 描く光の軌跡を、真由良はうっとりと見入っていた。 「来たか」 夜空を彩る光の軌跡を瞳に捕え、飛鳥がぐっと腰を落とした。 「1、2――6か。情報通りだな」 虫の知らせに、飛鳥は心眼に映る気配を数える。 『では、打ち合わせ通り後の先を』 声の主はりょう。倉の壁を挟み、倉内から飛鳥の言葉に答える。 「だな。中は任せる。万が一の為に備えてくれ」 『承知した』 短く言葉を交わした二つの影は、音もなく闇へ姿を溶かした。 ドドドド―― 小さな地響きが次第にその大きさを増していた。 「ふん、猪突猛進とはよく言ったもんだな」 巨体を揺らし一直線に倉へと迫る猪を前に、槍を携えた紅竜が立ち塞がる。 『かかってこいっ!!』 紅竜の咆哮が空気を震わせた。 「お前に恨みはないが、これも遼華の為なんでな」 迫り来る巨体にも、紅竜は槍を構えようとはしない。その時――。 ズボッ! 倉の直前、巨体が突如姿を消した。 猪は倉の前に掘られた落とし穴に、その巨体を埋めもがいている。 「少しそこで大人しくしてな。すぐに出してやるからな」 悲痛な鳴き声を上げる猪に向け、紅竜が憂いを込めた声で囁いたのだった。 使役する動物を失った男達は、散り散りとなり逃げだす。 「うっ! 今度は野犬なわけ!?」 「ふっ! お前達、いけ!」 立ち塞がるミルに余裕の笑みを浮かべる男が、懐から小さな笛を取り出すと口に咥えた。笛を持つ男の脇には、野犬らしき獣の姿が数 匹。 「なるほどな。それで操ってるのか」 その声は足元から。 「なっ!」 突然の声に怯む男が、驚き辺りを見回したその時。 ヒュン――ッ! 「悪いが、そいつは使わせねぇ」 大地より放たれた手裏剣が、一陣の軌跡を描き、笛を弾き飛ばした。 「ナイス、マオリ!」 「く、くそっ!」 笛を失い逃げだす男。 「おっと、そうはいかねぇよ」 しかし、茉織が退路を断つ。 「ふふ、怪我したくなかったら大人しくするんだね!」 二人に詰め寄られる男は、観念したように地面へとへたり込んだ。 「何処へ行くつもりだ」 「っ!」 倉に忍び寄る男に、黒き闇が囁きかける。 「悪いが、倉には指一本触れさせん」 低く響く黒衣の声。男は声の主を探し必死に辺りを伺った。 「ど、どこにいや――がっ!」 闇からの一撃に意識を刈り取られた男は、もんどりうって昏倒する。 「安心しろ、峰打ちだ。暫く寝ていろ」 抜き放った白刃を鞘に納め、飛鳥は再び闇に溶けた。 「動物達は使い捨てってわけ?」 月夜に一条の白銀が流れる。 「この身は、風の様に疾いと知れ!」 逃げ行く男達を一瞬にして抜き去り、背後に回ったアルティアの一閃が最後尾の男の意識を奪った。 「なっ!?」 「さぁ、もう逃げ場はないよ。おとなしく降参するん――」 ヒュン―― 「うわっ!?」 たじろぐ男達に拳を突き付け、アルティアがポーズを決めようかとした、その刹那。 頬を一本の矢が掠めた。 「ちっ」 「今、ちって言った!?」 微かな舌打の音に、アルティアは振り向く。 「あ、ごめんごめん。大丈夫だった?」 頬を押さえ驚愕に暮れるアルティアの横から現れたのは灰音だった。実に残念そうな顔で。 「大丈夫だけど、色々大丈夫じゃないよ!」 「よかったよ。アルティアさんに怪我がなくて」 詰め寄るアルティアに、灰音は片目を閉じにこやかに微笑んだ。 「僕の話聞いてる!?」 「さぁ、気を取り直して捕まえるよ!」 猛烈なアルティアの抗議を受流し、灰音は男達が在った方を見据える。 「‥‥あれ?」 しかし、そこに男の姿はなかった。 「夫婦漫才はそれ位にしておけよ」 茉織が灰音の脇をすり抜ける。追うのは逃げ行く男達だ。 「だから違うって! ――ほら、灰音君いくよ!」 「まったく姑息な手を使ってくれるね。逃がしはしないよ!」 「‥‥君が言うかな」 弓を剣に持ち替えた灰音は、男達を追う。アルティアの呟きは華麗にスルーして――。 「うおっ!?」 山肌を駆け上がる男の眼前に、突如湧いた炎が渦巻く。 「こちらは行き止まりですよ?」 男の前に現れたのは葉のお化け――否、みのむし真由良。 「おおお、お化け!!」 「まぁ、お化けだなんて失礼ですわ」 ぷんぷんと頬を膨らませる異形を前に、男は尻もちを付き後ずさる。 「つーかまえた!!」 この機会を待っていたかとばかりに、追っていたミルが男に飛びついた。 「お仲間もみんなお縄についたよ! 観念するんだね!」 最後の男に縄をかけた一行は、捕まえた男達を引き連れ、屋敷へと凱旋したのだった。 ●屋敷 「くそっ‥‥」 縄についた5人の男達は、領主屋敷へと連行されていた。 「どう? リョウカ。あたしに任せておけばざっとこんなもんなんだから!」 男達の繋がれた縄を持つミルは、遼華を前に自慢げに胸を張る。 「う、うん、さすがだねミル!」 「でしょ! さぁ、どーんとお裁きしちゃって!」 「え‥‥お裁き?」 「どうした?」 ミルの言葉に呆ける遼華に、紅竜が声をかける。 「え、えっと‥‥」 「遼華」 尚もうろたえる遼華の肩に、飛鳥がそっと手を置いた。 「悪事を働いた者へ裁きを下すのも、領主の務めだぞ」 「で、でも‥‥」 「お前がやらなくちゃ、この事件は終わらねぇ。しっかりしろ」 励ますように茉織が遼華の背をとんと押す。 「そんな‥‥私‥‥私、できない‥‥」 しかし、その重責に遼華は身を固め、小刻みに震えだす始末。 「仕方あるまい‥‥」 そんな遼華を見つめていたりょうが、男達の前へズイッと一歩踏み出た。 「――その方達、村民の希少な収入源を奪い不安足らしめた事、誠に許し難い。よって、死罪と致す」 男達を前にしたりょうは、高々と罪状を申し渡す。 「ちょ、ちょっとりょうさん!」 いきなりの判決に、灰音が慌てて止めに入るが。 「しかし、その方等の事情もわからぬでもない。よって、村の復興並びに心津の振興に努めるのであれば、この罪、不問と致す!」 「え?」 一転、無罪の言葉に男達は呆気にとられる。 「で、よろしいかな領主代行殿」 りょうが同意を取る為に、ちらりと遼華に視線を移した。 「え!? は、はい、問題ないと、思います」 「沙汰は下った」 遼華の肯定を受け、りょうが再び男達に向き直る。 「これから心津の為に力を貸してやってくれ」 そう言ってりょうは、縄についた男達に深々と礼をしたのだった。 ●屋敷内 裁きを終え、一行は屋敷の居間に集っていた。 「いやぁ、お見事だったね。よっ、名奉行!」 「うっ‥‥あまり囃さないでくれ」 拍手を送る灰音に、りょうは頬を赤らめ縮こまる。 「それにしても‥‥背後が気になるな」 「だね。この領地、予想以上に荒れてるかもしれない」 先の裁きの際に男達が語った話に、飛鳥とミルがむむむと唸った。 猟師達の話によれば、背後にいるのはこの心津近海を縄張りとする海賊。猟師達は村を襲われ、家族を人質に取られた。そして、仕方なく海賊の言いなりとなり、山賊紛いの略奪を繰り返していた、という事だった。 「ただでさえ交通の便が悪い場所だ。海を押さえられているのはきついな」 「今度はそっちをどうにかしねぇとな。それに、猟師達の家族の安否も心配だ」 紅竜と茉織の想いは、これからの心津の行く末に向けられていた。 「心配ないよ。頼もしい新領主様がいるんだからね」 と灰音が柔らかな笑みを浮かべ遼華の肩に手を置く。 「えぇっ!?」 「そうそう。リョウカ、頑張ってね! あたしもできる範囲で手伝うからさ!」 話を振られ驚く遼華に、ミルはグッと拳を握り満面の笑みを浮かべた。 「皆様、お茶が入りました。心津、自慢の茶葉で煎れたお茶だそうですよ」 そんな居間に、柔らかな湯気を立てる湯呑みを盆に乗せ、真由良が現れた。 「あ、真由良さん! そんな事、私がしますよ!」 「いえいえ、これくらいさせてください、領主様」 「うぐっ‥‥」 盆を取ろうとした遼華を、真由良は軽くいなす。 「あはは。とりあえず、依頼は一件落着なんだ。せっかくのお茶を頂こうよ」 アルティアの言葉に一行にこやかに頷き、幻とされる極上の茶を手に、至福の一時を味わったのだった。 |