十二支親子奮闘記・二伸
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/02/04 19:07



■オープニング本文

●武天のとある漁師街
 武天にある小さな漁師街。その一角にひっそりと立ち並ぶ長屋の一室にすこぶる賑やかな一家があった。

「あなた、こんな文が届いていますけど」
「ん?」
 幼子二人を背負い紐で自身にくくり付け忙しなく水場を行き来していた、この家の母「麒麟」が居間で瓦版片手にくつろぐ、大黒柱「黄龍」に一通の文を手渡した。
「どれどれ‥‥神楽のギルドから?」
 黄龍が受け取った文をひっくり返し、あて先を確認すると、そこには神楽のギルドの名前がある。
「そうなんですよ。とっくに引退した私達に何の用件でしょうね」
 少し困ったように頷く麒麟に、黄龍は続ける。
「とにかく読んでみるか」
 黄龍は文の封を切り、中身を取り出すと。
「なになに――」
 綺麗に折り畳まれた文を広げ、読みはじめる。
 そこには、こうあった。

――――昨今、アヤカシの脅威が益々深刻化してきており、被害は拡大の一途を辿っております。当ギルドはこの度、この未曾有の危機を打開する策を集める為に、識者及び熟練の開拓者へ招集をかけさせていただきます。どうか、そのお知恵とご経験をお貸いただけますよう、お願いいたします――――

「‥‥穏やかじゃねぇな」
「‥‥ですね」
 文を読み進めるにつれ、二人の表情は険しくなって行く。
 すでに引退した身とはいえ、二人は一次代を築いた腕利きの開拓者。ギルドより召集を受けるだけの功績があった。
「しかしなぁ、いまさら俺達が出張っても仕方ねぇとも思うんだが‥‥」
「もう10年も現場から離れていますしね。それに、今のアヤカシにそこまで詳しいわけでも無いですし‥‥」
 文に書かれていたあまりに深刻な内容に、乗り気のしない二人は顔を見合わせ表情を曇らせる。
「う〜ん‥‥ん? まだ何かあるぞ」
 手持ち無沙汰に文を弄っていた黄龍が、別の何かに気付く。
 届けられた文には、本書とは別にもう一枚文が封入されていた。
「こっちはなんだ? ――なになに」
 黄龍は先の文と同様に広げると、声に出して読みはじめる。
 取り出したもう一枚の文にはこうあった。

――――なお、お越しのいただける場合は、交通費はもちろんの事、神楽の街高級料亭『佐冠屋』にて、豪華食事つき一泊二日宿泊券(ご家族込み)をご用意させていただきます――――

「‥‥麒麟」
「な、なんです?」
「用意しろ! ギルドの一大事だ!! 放ってはおけねぇ!!!」
 ガバッと立ち上がった黄龍は、文を握り締めわなわなと拳を震わせ力説する。
「それはかまいませんけど‥‥この子達はどうするんです? 会議には連れていけませんよ?」
 そう言って麒麟が視線を向けるのは、隣の部屋で賑やかにはしゃぐ子供達。
「問題ねぇ! こないだみたいに、奴らに任せとけばいいさ!」
 そんな麒麟の心配などお構いなしに、黄龍の想いは遥か神楽の街に向けられていたのだった。


■参加者一覧
静雪 蒼(ia0219
13歳・女・巫
出水 真由良(ia0990
24歳・女・陰
静雪・奏(ia1042
20歳・男・泰
ミル ユーリア(ia1088
17歳・女・泰
金津(ia5115
17歳・男・陰
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
景倉 恭冶(ia6030
20歳・男・サ
神咲 六花(ia8361
17歳・男・陰


■リプレイ本文

●ギルド
「お手数かけますが、よろしくお願いしますね」
 丁寧にお辞儀する麒麟は、子供達と楽しげに去り行く一行を頼もしく見つめていた。

●大通り
「じー」
 微笑む蒼髪の二人を猿丸は指を咥えて交互に眺めていた。
「どうしはりましたん、猿丸はん?」
 そんな猿丸に静雪 蒼(ia0219)は、朗らかに話しかける。
「お腹でも空いたのでしょうか?」
 同じく蒼髪の一人、出水 真由良(ia0990)が猿丸に問いかけた、その時。

 ぷにぷに。

 ぺたぺた。

「んにゃ!?」
「まぁ」
 猿丸の好奇の手が二人の胸部に伸びる。
「‥‥こっち!」
 そして、暫く感触を吟味した猿丸が抱きついたのは真由良だった。
「なななっ‥‥!」
「よしよし、蒼ももう少し大きくなれば、きっと、ね?」
 わなわなと震える蒼を、兄静雪・奏(ia1042)が苦笑交じりに優しく撫でつける。
「子供の無邪気って、恐ろしいわ‥‥」
 そんな様子を遠巻きで見つめていたミル ユーリア(ia1088)がぼそりと呟いた。
「はは、じゃここで別れようか」
 ぎゅっと抱きつく蒼の頭を撫でながら、奏が切り出す。
「そうですね。では皆様。また後ほど」
 胸に飛び込んだ猿丸を抱き、真由良が答えた。
 二組は道を分かれ、神楽の町へ消えていった。

●露店街
「さてと、ここで分かれる?」
 設楽 万理(ia5443)が振り向き、皆に問いかけた。
 通りの左右には様々な露店が軒を連ね、活気に満ち満ちていた。
「そうですねっ。ここだとなんでもありそうですっ」
 並び立つ商店に金津(ia5115)も目を輝かせ頷く。
「金津さん、子供達のお守だということを忘れないでね?」
 そんな金津に、神咲 六花(ia8361)は楽しげに問いかけた。
「わかっていますっ! ‥‥それにしてもあの夫婦。しみったれですね」
「はは、12人も育ててるんやし、余裕なんてないさ」
 夫婦から手渡された駄賃を眺め溜息をつく金津に、景倉 恭冶(ia6030)は苦笑い。
「そこはあなたの腕次第って、ことじゃないかしら?」
「そうそう、僕達の開拓者としての腕が試されてるんだよ!」
「子守が開拓者の腕ねぇ‥‥」
 思い思いに感想を抱きながらも、一行は雑踏の中へ踏み出した。

●服飾店
「卯咲ちゃん、それはどうかと思うのです‥‥というか、そんな物を置いている神楽の街、恐るべしですっ」
 卯咲の抱く単衣を見て、金津の表情は呆気と驚愕に彩られる。
 それは緑色の単衣。一見ただの単衣に見えるが、ワンポイントとしてあしらわれた昆布が、その存在感をこれでもかと主張する。
「なんでぇ? かわいいじゃん!」
「かわいいですか‥‥?」
 表情に困惑まで付け加え、金津が衣装をまじまじと見つめると、ほんのり漂う磯の香りがたまらない。
「うんっ!」
「気に入ったのでしたらいいのですけど‥‥。ご主人」
「へぃ、まいど!」
 嬉しそうに服を抱く卯咲をとりあえずなだめ、金津は店の奥に座した主人を呼ぶ。
「これを頂けますか、開拓者割引で」
「へ? 開拓者割引?」
「開拓者割引も知らないので? 商人失格ですよ?」
「か、開拓者割引ね! し、知っていますとも、ええ!」
「それはよかった。では割引で――この額でいかがでしょう?」
 そう言って金津が主人に差し出したのは、弾かれた算盤。
「ちょ、ちょっと!?」
 店主は差し出された算盤を覗き込むなり、顔の色を変えた。
「ご不満ですか?」
「不満も何も横暴だ!」
 金津が示した額は百文。実に9割引きの値であった。
「多分、一生売れない物が売れるのです。手を打つべきだと思いますっ」
「うぐっ!」
 卯咲には聞こえないように、店主にぼそりと呟く金津。
「という訳で、これお代ですっ。まいどあり、ですっ」
 金津は怯む店主の手に硬貨を乗せ、さっさと交渉を終わらせた。
「お姉ちゃん、ありがとっ!」
「いえいえ、というかボクはお兄ちゃんですけど。まぁ、いいですっ」
 嬉しそうに服を抱いた卯咲の手を引き、金津は店を後にする。
「‥‥まったく、神楽の商人の質も落ちたものですっ」
 ぼそりとそう呟いて。

●広場
『おぉ!』
 人だかりができた広場に歓声が上がる。
「なんだか楽しそうな催し物ですね。見ていきましょうか」
 ぶらりと街を散策していた真由良達が見つけたのは、広場で行われていた大道芸『猿回し』だった。
「おれもやりたいっ!」
 人混みを掻き分け、一番前の席へと出た途端、音良が大声を上げる。
「ダメですよ、音良君。この芸は熟練の技が必要なんですから」
 血気に逸る音良を、真由良が優しく宥めギュッとその手を握った。
「やるっ!!」
 しかし、尚も駄々をこねる音良に真由良は。
「もぉ、困りましたね‥‥そうだ、わたくしがお猿さんをやりますから、それで我慢してもらえますか?」
 そう言って、おもむろに自身の帯を解き、首に結ぶ。
「おさる!」
「ふふ、喜んでいただけたようですね」
 帯の端を嬉しそうに握る音良を見つめ、真由良の頬も緩む。
 そして、再び猿回しに視線を戻そうと、顔を上げた真由良の目に飛び込んできたのは。
「あら、どうしたのでしょうか。何やらこちらも注目を浴びているようですが‥‥」
 はてと小首を傾げる真由良に注がれる数多の視線。
「ふにふに‥‥」
 ふにふにと真由良の胸を弄ぶ猿丸。周りの男達の視線は釘付けだ。
「まゆら、おさる!」
 そして、真由良の首に掛けられた帯を引く音良。周りの男達のごくりと唾を飲む音さえ聞こえてきそうである。
「この子達の可愛さに、皆様参ってしまわれたのですわね、きっと」
 しかし、当の真由良はそんなことなど気づくよしもなく、嬉しげに子供達を見つめたのだった。

●食事処
 昼時ともなれば、まさに喧嘩の如き喧騒を見せる神楽の食事処。
 その一席で、恭冶が呟いた。
「‥‥なぁ、万理」
「どうしたの、景倉さん? 顔色が優れないわよ? 大丈夫?」
 突然名を呼ばれた万理は、祈をあやしながら何事かと恭冶へ振り向く。と、そこには顔面蒼白の恭冶の顔。万理は恭冶の額に滴る汗を拭おうと、手を差し出すが。
「だ、大丈夫やから!? でも、非常に危機的な状況だ‥‥」
 差し向けられ万理の手から全力で逃れつつも、恭冶がさらに呟く。
「危機的?」
「一軒目にして、空になった‥‥」
 呟く恭冶の目の前には、山と積まれた空き皿が。
「えっと‥‥何が?」
「俺の財布が‥‥」
 最後の言葉を振り絞り、恭冶は机へ突っ伏したのだった。

●港
「すごいです!」
「気に入ったかな?」
 港に併設された龍舎の前で、目を輝かせるのは当真だった。
「龍ってはじめてみました!」
「それはよかった。連れてきた甲斐があるよ」
 嬉しそうに話しかけてくる当真に、奏も頬を緩めた。
「りゅう、あやかし?」
「んー、残念ながらアヤカシではないね」
 見上げてくる火辻の期待に満ちた視線に奏は苦笑い。
「あやかしちがうの‥‥」
 奏の答えに火辻がっくりと肩を落とした。
「あ、いやあの‥‥そ、そうだ、二人はどんな開拓者になりたいのかな?」
 沈む火辻を見て、奏が慌てて話題を変える。
「あやかし!」
 その問いに真っ先に答えたのは、沈んでいた火辻だった。
「あはは、人はアヤカシにはなれないよ?」
「うぅ‥‥」
「あ、いや、ごめん! 頑張ればなれる‥‥かも?」
 再びの失意に泣きそうになる火辻に、奏は慌てて言い直す。
「あやかしなるの!」
「うん、頑張ろうね。そうだ当真くん、君は?」
 嬉しそうに飛び跳ねる火辻の手を握り、奏は当真に問いかけた。
「僕はとおさんみたいな開拓者に!」
「うん、それはとても立派な考えだね」
「はいっ!」
 嬉しそうにはしゃぐ二人を、奏も楽しげに見つめた。

「おや、寝ちゃったかな?」
 優しい日差しが注ぐ午後の一時に、子供達はすやすやと寝息を立て始める。
「‥‥蒼の小さい時もこんなだったかな。ほんと、懐かしいね」
 そんな子供達を優しく撫でながら、奏は小さく呟いたのだった。  

●本屋
「寧々はん、ご本がぎょぉさんありますなぁ」
「‥‥うん」
 蒼が寧々を連立って訪れたのは、一軒の古本屋だった。
「お勉強に必要なご本あるやろかぁ?」
「‥‥うん、ある。嬉しい」
 山と積まれた古本の束から、お目当ての物を探すのは、どこか冒険にも似ている。
 二人は寧々が探し当て、蒼が取り出すという阿吽の呼吸で古本屋を冒険していた。 
「ほんまに寧々はんは、すごいお姉さんやわぁ」
「‥‥え?」
 嬉しそうに古本のページを捲っていた寧々に、蒼が囁きかける。
「こないに勉強も出来て、兄弟の面倒も見て‥‥うち、一番下の妹やから、下に兄妹おるの憧れやったんよ」
「‥‥そんないいものじゃない。邪魔ばっかりするし、五月蠅いし」
「あれぇ、うちもそないに思われとるんやろか‥‥」
「あっ! そ、そんなことないと思う‥‥」
 寧々の言葉にしょんぼりと肩を落とす蒼を、寧々は慌てて励ます。
「冗談よ、うちの兄弟も寧々はんの兄弟達に負けへん位仲ええさかい」
 慌てる寧々を頼もしげに見つめ、蒼は再び本探しの冒険へ寧々を誘った。
 
「今日は寧々はんの日やよ」
「‥‥?」
 大冒険の最中、突然掛けられた蒼の言葉に、寧々はきょとんと小首を傾げる。
「今日は兄妹誰もおれへん。寧々はんの日。せやから、いつものお姉さん顔をちょっぴり隠して、楽しんでおくれやす」
 にかっと明るい笑みを寧々に向ける蒼。
「‥‥うん、ありがとっ!」
 その微笑みに答えるように、寧々も精一杯の笑みを蒼に向ける。
「‥‥うぅ、奏兄ぃが恋しゅぅなってもうた」
 寧々が向ける姉としての優しい笑みを受け、蒼はそう呟いたのだった。

●雑貨屋
「違うよ、深達! そこはこうだ!」
 恐る恐る雑貨屋の戸を引こうとした深達に代わり、六花が前に出る。
 そして、戸の前で静かに待つ多摘に軽く微笑みかけると、恭しく戸を引いた。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして、レディ」
 そんな六花に多摘は顔を赤くし上目使いに礼をする。
「いいかい深達。引っ込み思案は悪くないんだ。だけどね、それを理由に女の子に甘えてはダメだ!」
 多摘が店内へと入ったことを確認した六花は、深達と目線が合うように腰を落とし力説を始めた。
「君はやればできる子だ」
「う、うん‥‥」
 まるで暗示でも掛けるように、六花は深達に紳士道を説いていく。
「さぁ、次は小物選びだよ!」
「は、はい!」
 芽生える師弟愛(?)。深達は六花の指さす雑貨屋店内を決意の瞳で見つめた。

「深達。これどう?」
「え‥‥? いいんじゃない?」
 色取り取りの小物が並ぶ棚から、多摘が深達に一つの首飾りを掲げ問いかけた。
「ちがーう! 深達、そこはこうだ!」
 そっけない返事を返す深達に業を煮やしたのか、再び六花師匠登場。
「とてもよく似合うよ。宝珠のきらめきが君の蒼い瞳を一層惹き立たせる」
 姫に傅く騎士のように、六花は膝を折り多摘の瞳をじっと見つめた。
「そ、そうかな‥‥?」
「ああ、それを付けた君は世の男全てを虜にしてしまうよ」
 にこっと微笑みかける六花に、多摘は嬉しそうに頬を染め首飾りに魅入る。

「いいかい深達。紳士道とは長く険しい道だ。さぁ、僕と一緒にあの星を目指すんだ!」
「は、はい、師匠!」
 二人の見つめるのは遥か天頂に輝く『紳士の星』。室内なので見えないが、二人には見えるらしい。
 こうして六花の講義は日が暮れるまで続いたのだった。

●食事処
「どれだけ入っていくのかしら‥‥」
「末恐ろしいガキ達やね‥‥」
 呟く二人の前には山と盛られた数々の料理。宴会用の鍋でさえ、これほどの量はないだろう。
 それを尽く喰らいつくす二匹の野獣。もとい二人の子供達。そう潮と愛濡だ。
「ともかく、ここに連れてきて正解だったかもしれないわね」
 万理が指を咥えすやすやと眠る祈に視線を落としながら呟いた。
 途方に暮れる恭冶を不憫に思ったのか、万理の案内で訪れたこの店は、神楽でも有名な大食い専門店だった。
「頼むぞ、お前達!」
 恭冶は猛烈な勢いで食を進める二人を祈るように見つめる。

『30分以内に完食できた方には、金一封!』
 壁に貼られた一枚の紙。
 激しい生存競争が繰り広げられる神楽の飲食業界で生き残るため、この店が用意したとっておきの集客策だ。

「こんな店があるんだったら、最初から来るんだったな‥‥」
 張り紙を眺めつつ、恭冶が溜息をもらす。
「以前来た時は人でも殺せそうな量だと思ったけど‥‥この子達の前ではそれも霞むわね」
 一方の万理は、胃袋へと消えてゆく料理に感心しきりだった。
「‥‥うぅ」
「あら、ちょっと私は外へ。この子がぐずりだしたわ」
 その時、万理の胸で眠っていた祈が、突然ぐずりだす。
「ん? おお、いってらっしゃい」
「景倉さん、二人の事はよろしくね。あと、賞金もちゃんと受け取っておいてね」
「おう、任せとけ!」
 野獣二匹と恭冶を店に残し、万理は店を後にした。

「これを毎日一人で見てるなんて‥‥依頼主さんには感服するわね」
 ぐずる祈りをあやしながら万理は呟く。
「私もいつか‥‥かな?」
 二人の野獣の活躍(?)により、恭冶の財布は潤いを取り戻した。代償として、店から出禁を喰らったのはご愛嬌。

●ギルド
「やっほー、キチリいるー?」
「あら〜ミルさん、おかえりなさい〜」
 ギルドを訪れたミルは、受付に座る吉梨に声をかけた。
「‥‥ミルさんの隠し子ですか〜?」
「んなわけないでしょっ!?」
 ミルに手を引かれた子供達を見て問いかける吉梨を、ミルは即座に否定。
「ん〜残念です〜」
「何が残念なのか、後でゆっくりと聞かせてもらうから!」
 残念がる吉梨を無視し、ミルは子供達にギルド内を案内する。
 とはいっても、一般人が閲覧可能な場所は限られている。ミル達はすぐに巡れる所を見終え、再び受付まで戻っていた。
「ねぇ、キチリ。こう『開拓者も知らないギルド七不思議!』とか、そういう面白ネタはないの?」
「‥‥ミルさん、いったい何しに来たんですか〜?」
「う、うるさいわねっ! 将来有望な開拓者の卵達に、夢と希望を与えるために来たのよっ!」
「‥‥仕事してくださいね〜?」
「してるわよっ!? いいわっ、じゃ、おねーさんが開拓者についてお話してあげる!」
 向けられる吉梨の痛い視線から逃げるように、ドンと胸を叩くミルを子供達は目を輝かせ見つめる。
「おねーさん〜‥‥?」
「外野うるさいっ! ――こほんっ。えっと、そもそも開拓者っていうのは‥‥」
 吉梨のピンポイント突っ込みを撥ね退け、ほんのり頬の赤いミルは子供達に向き直り解説を始めた。
『いうのわー?』
 ミルを見つめる期待に満ちた瞳達。
「いうのは‥‥」
 瞳達。
「‥‥キチリ、パス」
「はい〜。皆さん、開拓者とはですね〜――」
 挫折したミルのパスを、吉梨は嬉しそうに受け取り解説を始める。
 子供達は吉梨の解説を目を輝かせながら聞き入った。ついでにミルも聞き入った。

 こうして終えた1泊2日の子守り旅は、盛大な疲労感と少しの寂しさを一行の心に残ったのだった。