【忘年会】感謝を込めて
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 普通
参加人数: 73人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/04 20:31



■オープニング本文

●神楽の街ギルド
「あー忙しい忙しいっ!」
 年の瀬も迫る師走の月。ギルド内を仔莉奈が大量の資料を抱え、慌しく駆け回る。
「こりりん、それはこっちだよ」
 狭いギルド内をどたばたと駆け回る仔莉奈に、受付カウンターから四葉が声を掛けた。
「え!? わきゃ!!」
 四葉の声に余所見をした仔莉奈は、段差に躓き、見事なまでのこけっぷりを披露する。
「おやおや、これは大変ですねぇ」
 その音を聴きつけてか、ギルドの奥より顔を覗かせたのは利諒だ。
「あ、利諒さん、いいお店見つかりましたー?」
 そんないつもの光景に苦笑いの四葉は、利諒の姿を確認すると、今回の宴の件を確認する。
「そうですねぇ、予算の都合もありますし、それほど豪勢でなければ一軒、いいお店がありますよ」
 細い目を更に細め、楽しそうに利諒が答えた。
「そこってそこって、ご飯おいしいの!?」
 その声はカウンターの下から。いそいそと開拓者からのお土産を頬張る梨佳が、目を輝かせ利諒に問いかける。
「ええ、美味しいですよ。店のご主人がなかなかのやり手でしてね。各地の郷土料理なんかも出してるんですよ。それに、大勢の開拓者さんがいらしても大丈夫なくらい、店内も広いですから、忘年会にはもってこいかと」
 そんな食いしん坊な受付見習いの扱いにも慣れたもの。梨佳の期待に利諒が優しく答えた。
「か、各地の郷土料理‥‥集まるイケメン‥‥酒池肉林の予感がするわ! うふ‥‥ふふふ‥‥」
 書類に埋もれる仔莉奈が、床にキスをしながら怪しく呟く。
「こりりん‥‥またどこかいっちゃってるよ‥‥?」
「いつものことですから」
 そんな仔莉奈を心配そうに見つめる四葉と、苦笑いの利諒だった。

●深夜
「ほらほら〜鉄州斎さん、早くいきましょう〜」
「お、押すな、わかってる!」
 精霊門の光を抜けて現れた二つの人影。不承不承といった感じの鉄州斎の背を押し、吉梨が嬉しそうに神楽の街へ現れた。
「あ、きちりん! いらっしゃい!」
 精霊門を通ってきた友人を見つけた四葉が、嬉しそうに駆け寄る。
「あ、よったんだ〜。お久しぶりだね〜」
 駆け寄って来る四葉の手を取り、吉梨が嬉しそうにはしゃぐ。
「これはこれは鉄州斎さん。あなたまでお越しいただけるとは」
「あ、いや‥‥どうしてもと、吉梨が言うのでな‥‥」
 利諒の笑顔に迎えられた鉄州斎は、ぽりぽりと頬を掻く。
「え〜、精霊門の前でそわそわしてたから、てっきり私は〜」
 そんな鉄州斎を吉梨がくすくすと笑いながら見つめた。
「へぇー、鉄州斎さんも可愛いところあるんだ」
 と、仔莉奈も上目遣いに鉄州斎を見つめる。
「なになに? 面白いことでもあったの?」
 そんな中、野次馬が一人追加。餡子を頬にべったりとつけた梨佳が控え室より顔を出した。
「‥‥」
 集まる野次馬衆に、わなわなと震える鉄州斎は、ぽきぽきと拳を鳴らし――。
「ギルドの風紀が乱れているようだな‥‥ええぃ! 皆、そこに直れ!!」
 鉄州斎の咆哮がギルド内に響き渡った。――顔を真っ赤にして。
「わーわー! そうだんやくさま、ごらんしーん!」
 嬉しそうにはしゃぐ四葉が、わざとらしく逃げ惑う。
「糖分が足りてないのー? えーっと、これはあたしのだからあげられないよ‥‥?」
 仁王と化した鉄州斎と自分の持つ饅頭を交互に見つめ、梨佳が呟く。
「わわわっ! 鉄州斎さん落ち着いて!!」
 怒れる仁王を落ち着かせようと、仔莉奈が熱ーーーいお茶を取り急ぎ用意するが――。
「あ――」
 華麗にずっこける仔莉奈。
 
 バシャ――。

『あ』
 鉄州斎以外のメンバーの声がはもった。
「うおぉ! あちぃぃいいい!!」
 熱茶を一滴残らず浴びた鉄州斎は、今までの怒りもどこへやら、水を求め控え室へと掛けこんでいく。
「‥‥そういう日もありますよ」
 鉄州斎の背中を哀愁の表情で見つめる利諒が呟いたのだった。

 そんなこんなで、着々と準備の進められる忘年会。
 日頃の感謝を込め、ギルド員総出でお迎えさせていただきます!


■参加者一覧
/ 霞 優花(ia0017) / 天津疾也(ia0019) / 柊沢 霞澄(ia0067) / 北條 黯羽(ia0072) / 六条 雪巳(ia0179) / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 井伊 貴政(ia0213) / 犬神・彼方(ia0218) / 静雪 蒼(ia0219) / 朧楼月 天忌(ia0291) / 奈々月纏(ia0456) / 玖堂 真影(ia0490) / 鷹来 雪(ia0736) / かや(ia0770) / 夕凪(ia0807) / 佐上 久野都(ia0826) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 玖堂 羽郁(ia0862) / 鳳・月夜(ia0919) / 鳳・陽媛(ia0920) / 高砂壱衣(ia0965) / 巳斗(ia0966) / 秋霜夜(ia0979) / 霧葉紫蓮(ia0982) / 天宮 蓮華(ia0992) / 一ノ瀬・紅竜(ia1011) / 奈々月琉央(ia1012) / 静雪・奏(ia1042) / 輝夜(ia1150) / 天目 飛鳥(ia1211) / のばら(ia1380) / 滝月 玲(ia1409) / 喪越(ia1670) / 皇 りょう(ia1673) / 水津(ia2177) / ルオウ(ia2445) / 斉藤晃(ia3071) / 真珠朗(ia3553) / エリナ(ia3853) / 瀬崎 静乃(ia4468) / 各務原 義視(ia4917) / 平野 譲治(ia5226) / 倉城 紬(ia5229) / 御凪 祥(ia5285) / 設楽 万理(ia5443) / 難波江 紅葉(ia6029) / 景倉 恭冶(ia6030) / バロン(ia6062) / 雲母(ia6295) / からす(ia6525) / 萩 伊右衛門(ia6557) / 只木 岑(ia6834) / 麻績丸(ia7004) / 谷 松之助(ia7271) / 燐瀬 葉(ia7653) / 蔵人(ia7658) / 千羽夜(ia7831) / 天ヶ瀬 焔騎(ia8250) / 趙 彩虹(ia8292) / 白漣(ia8295) / 朱麓(ia8390) / 一心(ia8409) / 濃愛(ia8505) / 玖堂 紫雨(ia8510) / 山吹(ia8583) / 草薙 慎(ia8588) / 春金(ia8595) / 舞賀 阿月(ia8658) / フィリア=D=アマガセ(ia8716) / 真芝 十路(ia8724) / ルーティア(ia8760) / 永(ia8919) / 紫電・正和(ia9024


■リプレイ本文

●とある酒屋
「‥‥年の瀬か」
 一人、ちびちびと杯を傾けるのは萩 伊右衛門だ。
「おや、萩さん、随分とお早いですね」
 そんな、伊右衛門に声を掛けたのは、忘年会の準備をしていた利諒だ。
「暇だったもんでね。明るいうちからやらせてもらってる」
「そうだったんですね。でも、あまり飲まずに、忘年会も楽しんでくださいね?」
 心配するように、にこやかに語りかける利諒に。
「ああ、気に留めておくよ」
 伊右衛門はスルメを肴に杯を空けたのだった。

●厨房
「うっし! 俺の妙技、特と見ろ!」
 まな板の上に置かれた巨大な鰤を前に、朧楼月 天忌が腕まくり。
「天忌さん、のばらも負けませんよ! 母様仕込の包丁術、今こそ披露いたします!」
 そんな天忌に対抗するように、のばらが自前の包丁を取り出し正眼に構える。
「あれ、天忌ちゃん、お料理できたん?」
 同じく厨房に立つ藤村纏は、野菜を切りながら天忌に声を掛ける。
「んなもんできるわけがねぇだろ? 男の料理なんざ、そんなもんよ! ほらよっ!」
 天忌はぎらつく骨きり包丁を振り回し、まるで両断剣の如き一撃が鰤に振り下ろされた。
「あぁ‥‥やっぱり」
 隣で繰り広げられる惨劇?を呆れ笑いを浮かべながら見つめる纏。
「‥‥纏姉様、お嫁さんみたい‥‥。僕もお料理上手になりたいな‥‥」
 そんな纏を、瀬崎 静乃はじっと見つめ小さく呟いた。
「はわっ!? 静乃ちゃん! お、お嫁さんやなんて‥‥」
 突然掛けられた声とその内容に、纏が顔を真っ赤に慌てふためく。
「姉様、かわいい‥‥」
 あわあわと慌てる纏を、静乃が嬉しそうに見つめた。

「袖さん、つみれ出来ましたー!」
 魚と鳥のつみれを作っていた鳳・陽媛が、大皿片手に現れた。
「はい、ありがとうございます! では、ここに入れてくださいね」
 そんな陽媛に倉城 袖が仕込みに最中の鍋を指差す。
「はーい! あ、お豆腐はどこへ?」
「あ、お豆腐はこちらでいただきますね。このお鍋に入れさせてくださいっ」
 火にかかる鍋に具を投入していたのばらが、霞澄に声を掛けた。
「泰国名物、火が出るほど美味しい火鍋ですよ!」
 鍋の味付けをしていた秋霜夜がにこりと微笑む。その鍋は霜夜特製のウマ辛火鍋だ。
「美味しく出来るといいですね」
 くつくつと煮える鍋を、嬉しそうに見守りながら陽媛が微笑んだのだった。

●忘年会会場
「みんな、よぉ来たな!」
 がやがやとざわめく会場に、一際大きな声が響き渡った。
「えー、司会進行はこの俺、天津疾矢が行いまーす!」
 と、皆の注目が集まったことを確認し、疾矢が声高に宣言する。
「んでは、ここにギルド主催忘年会の開会を宣言やっ! 今日は存分に楽しんでいってやっ!」
 まるで自分が主催のように取り仕切る疾矢の開会宣言により、ギルド主催忘年会は開会したのだった。

●酒席
「色々あったけど、とりあえず、みんなお疲れ様っ!」
 席を囲む親類達に向け、玖堂 真影が杯を掲げる。
「共に開拓者として、この席につくとはな‥‥」
 と、少し困ったような優しげな瞳を真影に向ける、父、玖堂 紫雨も杯を掲げた。
「久しぶりの家族団欒が、開拓者の忘年会とはね‥‥」
 合わせるように杯を掲げながらも、苦笑いなのは、弟、玖堂 羽郁だ。
『かんぱーい!』
 掲げられた杯を確認して、最後の音頭を取ったのは、机の上にどっかと座った小さな人形。
「こらっ、泉理! あなたはダメじゃない!!」
 泉理と呼ばれた人妖から、真影が慌てて杯を取り上げる。
『えー! なんで? これから闘っていくなら色々覚えとかないと』
「戦いとお酒は関係ないでしょ!」
「はいはい、二人とも親子喧嘩しないで。これ食ってみなよ、うまいぜ?」
 ぎゃぁぎゃぁと杯争奪戦を繰り広げる真影と泉理に、羽郁が机の上に並べられた料理を勧める。
「なんなんだろうな。齢50を前にして、いきなり孫ができた気分だ‥‥」
 一方の紫雨は、感慨深くそのやり取りを見つめた。
「まぁまぁ、親父。そんなに複雑そうな顔しないで、一杯やろうぜ」
 苦笑いの紫雨に、羽郁が酒を注いだのだった。

●座敷
「ふーふー‥‥、みーくん熱いので気をつけてくださいね?」
 くつくつと煮える鍋から白菜を一つまみ、白野威 雪は息で冷ましながら、巳斗に勧める。
「すすす、雪さん! 大丈夫です、自分で食べられますからっ!?」
 そんな雪の行動に、大げさに手を振る巳斗が慌てて遠慮した。
「雪ちゃん、抜けがけはずるいですわっ」
 しかし、巳斗を挟むように座る天宮 蓮華が、代わりにとつみれを差し出す。
「れれれ、蓮華さんまでっ!?」
 巳斗に退路は無い。両脇から迫る美しい姉達に挟まれ、絶体絶命だ。

「‥‥相変わらず、と言うかなんと言うか」
 そんな光景を、机向こうで天目 飛鳥が苦笑混じりに眺めた。
「まぁ、あれがみーすけの宿命って奴だな」
 飛鳥の横では、霧葉紫蓮が涼しげに杯を傾ける。
「こちらはこちらで楽しみましょう! ささ、吉梨さんも、俺お手製のトマト鍋召し上がれ!」
「はい〜、ではお言葉に甘えまして〜」
 料理自慢の滝月 玲が勧める鍋に、吉梨を交えた男衆が巳斗を肴に舌鼓を打ったのだった。

●酒席
「鉄州斎さん、今年はお世話になりました」
 ギルド員の集まりに顔を覗かせたのは、各務原 義視だ。
「ああ、こちらこそ世話になったな」
 杯を傾けていた鉄州斎も、義視に習い礼を述べる。
「あ、井伊さんもいらっしゃい!」
「やぁ、梨佳ちゃん。今日も可愛いね」
 とそこへ、井伊 貴政も知り合いの梨佳を頼って顔を出した。
「ギルドも色々と大変でしたでしょう。ご苦労様です」
 貴政は梨佳の腰に手を回しながら、ギルド員に声を掛ける
「さぁ、梨佳ちゃん。受付『嬢』の皆さんを僕に紹介してくれるかな?」
 そして、貴政はちゃっかり受付嬢の輪の中に溶け込んでいった。

●座敷
「では、乾杯といこうかの」
 仲間の顔を満足げに眺め、バロンが呟いた。
「白獅子の活躍に、乾杯!」
 音頭を引き継ぐのは一心。
 杯を掲げ高らかに宣言した。
「これからも戦いが続くと思うけど、みんなよろしくね!」
 設楽 万理も心通わせる皆と杯を合わす。
「今日は無礼講。酔い潰れても大丈夫だ。さぁ、どんどん飲もう」
 と、自作の薬茶を用意するからすもにこやかに微笑んだ。

●入口
「わ‥‥人がいっぱい」
 おずおずと暖簾をくぐった佐伯 柚李葉が酒場で繰り広げられる、酒池肉林の世界に圧倒される。
「あ、柚李葉ちゃん!」
 そんな柚李葉を、入口で受付をしていた梨佳が見つけた。
「あ、梨佳ちゃんっ」
 見知った顔に安堵したのか、柚李葉は顔を輝かせ梨佳の元に駆け寄る。
「ささ、もう始まってるよ! いこいこ!」
「うん!」
 梨佳に手を引かれ、柚李葉は宴の中へと消えていった。

●酒席
「鬼ぃちゃんにこき使われた一年やったなぁ‥‥」
 この一年をしみじみと振り返り、斉藤晃が杯を傾ける。
「まったくですね」
 そんな晃に付き合う真珠朗も、ちびちびと酒を啜った。
「ほれ只木、じゃんじゃんいけ!」
「そんなに飲めませんからっ!?」
 隣で飲んでいた只木 岑の杯に、晃は遠慮なく酒を注ぐ。
「真珠朗、やっとるか?」
「あたしゃ、程々にやらせてもらいますよ。旦那につきあってたら、体が持ちませんからね」
 標的を変えた晃に、真珠朗は苦笑いで軽くいなした。
「なんやつれないやっちゃのぉ」
「はは、このろくでもない世界に乾杯です」
 そういって、静かに微笑んだ真珠朗は、くいっと杯を空けた。

●座敷
「はじまりますよ、焔の宴が‥‥」
 真っ赤に煮立つ鍋の湯気の向こうに、水津の満足げな微笑みが見える。
「うぇ、辛そぉ‥‥」
 興味本位で大会に参加したルーティアは、鍋の中身を見て早くも尻込みしていた。
「辛い物は身体にいいんだぞ? こう胸元が熱くなるんだ」
 そんなルーティアに、隣に腰掛ける水鏡 絵梨乃が浴衣の胸元を開き、誘うような視線を送る。
「辛い物好きにはたまらない匂いだねぇ」
 と、煮えるのを今か今かと待ちわびるのは、山吹だ。
「やぁ、水津。冷やかしにきたよ」
 そこへ義視も加わり、激辛大会の幕が上がった。

「いっただきまーす! ぱくっ‥‥ぎゃぁぁ! 水、水!!」
 水津の鍋はルーティアの想像を遥かに越えていた。
 一口食べただけで、絶叫するルーティアは水を求めごろごろと床を転がる。
「水はありませんが‥‥これをどうぞ」
 と、もだえるルーティアに水津が湯のみを差し出した。
「ありがとう!」
 差し出された液体を、ルーティアは慌てて飲み干す。
「唐辛子汁ですけど‥‥」
「‥‥‥‥ぽてっ」
 最早、ルーティアは悲鳴すら上げられず、昏倒したのだった。

「いやぁ、美味いねぇ」
 真っ赤な衣を纏った食材達を、山吹はまるで饂飩でも啜るかの如く、口に運ぶ。
「うっ‥‥これは辛いですね‥‥」
 隣では冷や汗をかきながらも、しぶとく食べ進める義視。
「あー、ボクはもういいや。罰でも何でも受けるよ」
 あっさり負けを認めた絵梨乃は、持参の芋羊羹を頬張りつつ、怪しい手付きでルーティアを介護していた。
「勝負はまだまだこれからですよ‥‥」
 残る二人を見つめながら、水津はさらに泰国伝来の唐辛子を追加していく。
 そして、この終わりの見えぬ激辛王争奪戦は、朝まで続いたとか――。

●酒席
「うお、うまそー!」
 机に並べられた野槌特製の様々な料理を前に、ルオウが目を輝かせた。
「こらルオウ! ちょっと待て!」
 早速と箸を鍋へ伸ばしていたルオウを、天忌が制す。
「うぉほん! おー、みんな! 喧嘩しか能のねぇこんなオレに、よくついて来てくれた! みんなと戦えた事、誇りに思うぜ!」
 少し照れの混じる声で天忌が、杯を掲げ野槌の家族へ声を掛けた。
「天兄はん、ほんまお疲れ様やわ〜」
「天忌さん、お疲れ様でした」
 仲よく寄り添い、パチパチと天忌の演説に拍手を送る、静雪 蒼と静雪・奏の兄妹。
「厳しい戦いだったが、皆無事だったことを祝おうか」
 天忌に呼応するように、杯を掲げる一ノ瀬・紅竜。
「再びここに、この家族が欠ける事なく集えたことに感謝します」
 のばらも祈るように、杯を掲げた。
「そうだな、来年もこうして皆で集まりたいな」
 そんなのばらの呟きに、天忌が力強く答える。
「天忌の兄ちゃん、そろそろいいかー?」
 手に持つ箸を茶碗に打ちつけ、ルオウが天忌を急かした。 
「おぅ、待たせたな! 今日は無礼講だ。存分に飲んで食ってくれ!」
 天忌の声を合図に、皆が掲げた杯を打ち鳴らす。そして、一同は並べられた料理に手を伸ばしていった。

「久野都兄さん、こちら梨佳ちゃん。以前、依頼でお世話になったの」
 鍋を囲む一角に、陽媛が梨佳を伴ってやってきた。
「これはこれは、いつも妹がお世話になっています。ささ、どうぞ」
「はい! えっと、ごしょーばんにあずかり‥‥後なんだっけ?」
 丁寧に頭を下げる久野都に、梨佳のギルド員としてのメンツが爆発。丁寧な受け答えを試みるが、あえなく撃沈。
「ふふ、そんなに畏まらないで! 楽しくやりましょう」
「あ、あぅ‥‥」
 しゅんと落ち込む梨佳に、陽媛が優しく手を差し伸べた。 

「陽媛、月夜、熱いのでゆっくりと食べてくださいね」
 両脇で行儀よく配膳を待つ陽媛と鳳・月夜に、佐上 久野都が煮える鍋から具を取り分ける。
「ありがとう。兄さんにも、ご返杯です‥‥」
 と、月夜が久野都に酌で返す。
「あ、私も!」
 妹に負けじと、陽媛も久野都の杯にとくとくと酒を注いでいく。
「これこれ、喧嘩しないで。一度にそんなに頂けませんよ」
 そんな姉妹のやり取りを、困ったように、だが嬉しそうに久野都が見つめる。
「少し遅れましたか」
「これは六条さん、ようこそおいでくださいました」
 と、そこへ一人の男が現れた。六条 雪巳だ。
「ご招待ありがとうございます。――と、お邪魔でしたかな?」
 兄の杯を巡って熾烈な争奪戦を繰り広げる姉妹を、雪巳がくすくすと笑顔で見つめる。
「はは、お恥ずかしい限りです。ささ、こちらへ」
 そんな雪巳の笑顔に、照れたように返す久野都は、空いた席を勧める。
「それでは、お邪魔しますね」
 仲睦まじい兄弟のじゃれ合いを眺めながら、微笑む雪巳は勧められた席についた。

「皆、連れてきたぜ!」
 ルオウに連れられて宴の席へやってきたのは、鉄州斎と吉梨だった。
「すまんな、もてなす側だというのに‥‥」
「まぁまぁ、鉄州斎さん、今日は無礼講らしいですよ〜?」
 畏まる鉄州斎の背を、吉梨がぐいぐいと押す。
「そうそう、料理はたんとあるから、いっぱい食べてくれよな!」
 そう言うとルオウは二人の席を用意し、宴の席へ招き入れたのだった。

●座敷
「さぁ、見事朱藩産の銘酒当てられますかな!」
 机に並べられた数々の徳利を前に、舞賀 阿月が開会を宣言した。
「う、う〜ん‥‥」
 未成年にもかかわらず参加した霜夜が、匂いだけを頼りに嗅ぎ分けようと試みるが。
「さすがに匂いだけでは、わからないと思いますよ?」
 と、阿月は苦笑混じりに呟く。
「この匂い、口当り‥‥これじゃないかねぇ?」
 そんな二人を他所に、一人酒を飲み比べていた難波江 紅葉が一つの徳利を指差した。
「うわ‥‥正解です!」
 紅葉は見事正解を当てた。
 利き酒大会は、紅葉の勝利によりあっさりと幕を閉じたのだった。

●夜道
「ここは何処なのだ‥‥」
 人通りもめっきり少なくなった寒風吹きすさぶ夜道を、とぼとぼとフィリア=D=アマガセが歩く。
「お母さん、天儀はとっても広いです‥‥」
 フィリアは夜空に浮かぶ星々を見上げ、ぐすりと涙ぐんだ。
「おとうさんのばかー!」
 フィリアの絶叫が寒風吹きすさぶ夜空に響いたのだった。

●座敷
「親父、飲まないの?」
「酒は最初の一口が一番うまい。ゆえに上等な酒一杯で充分じゃ」
 最初の一口だけ口を付け、回りの雰囲気を楽しんでいたバロンに、ルーティアが声を掛けた。
「さすが隊長殿。粋をわかっておられるな」
 そんなバロンの言葉に、一心は感心したりなご様子。
「あ、みーつけた! 噂通りのいい男じゃない‥‥ちょっと、挨拶してくるわね」
 そんな和やかな酒の席で、突然万理が声を上げた。
 鉄州斎を見つけた万理は、惹かれるように席を立ち上がる。
「やれやれ。程々にしておくのじゃぞ」
 若い隊員の衝動を、バロンは穏やかに見つめたのだった。

「ふぅ、これじゃ用意した薬茶が無くなってしまいそうだ」
 酔い潰れた者の救護に回っていたからすが戻ってきた。
「うむ、ご苦労じゃな」
 そんなからすをバロンが向かえる。
「ちょっと飲み直してくる。また後でな」
「そうか、気をつけての」
 そう言い残し、からすは中庭へと姿を消した。

●舞台
「ひゃはー! お前ら!、俺とや・ら・な・い・か?!」
 机に片足をどっかと乗せ、杓文字片手に天ヶ瀬 焔騎が暴走中。
「焔、いい加減にしときや?」
 そんな焔騎を、にこやかに注意するのは、燐瀬 葉。
 背に禍々しいオーラを背負い満面の笑みを焔騎に向けてた。
「うっ‥‥スミマセン」
 葉の気迫に気圧され、焔騎はすごすごと退散。ちょこんと席に付いた。
「賑やかな年の瀬のなりそうじゃの」
 そんな光景をにこやかに見守る春金。
「うん、思いっきり楽しもー!」
 春金の横では千羽夜が、嬉しそうにはしゃいていた。
「一年の締めくくりに、たーんと飲むさねっ!」
 利き酒大会で勝利を納めた紅葉は、まだまだ呑み足りないご様子。
「甘味も用意しましたので、どうぞ召し上がってくださいね」
 白漣も自作の甘味を卓に並べていった。
 
「どうやら、決着をつけねぇとならねぇようだな‥‥」
「ふむ、その勝負受けて立とう」
 和やかな宴が続く卓で、穏やかならぬやり取りが始まった。
 景倉 恭冶がコトンと机に杯を置き、対面する御凪 祥をキッと睨みつける。
「なんじゃなんじゃ? 喧嘩か?」
 同じ卓を囲む春金が只ならぬ気配を感じとる。
「おいおい、喧嘩はいただけねぇな。男ならこれで勝負だろ!」
 そんな二人の間に割って入ったのは焔騎だった。
 グッと拳を握り、二人の前に突き出した。
「なるほど、じゃんけんか」
「ただのじゃんけんじゃ面白くねぇ。負けたほうが一枚ずつ脱いでいくってのはどうだ?」
 二人のやり取りを至極嬉しそうに見つめる焔騎がルールを追加する。
「ほう、面白い。景倉、泣きを見ても知らんぞ?」
「それは俺の台詞だぜ!」
 焔騎の提案を受け始まった、恭冶と祥の戦い。
 壮絶な脱衣の宴が、今ここに開幕した。

「白漣、大丈夫?」
 目くるめく妖艶な宴は一進一退の攻防を繰り広げていた。
 逃げるように葉の背に隠れる白漣は、必死に自分の鼻を押さえている。
「だ、だぃじょぶれす! ぶらいどにがげでばなじはだじまじぇん!」
 心配する葉に鼻を押さえたままの白漣は気丈に答えた。
「金ちゃん、そろそろ止めたほぉがいいかも?」
「そうじゃね。そろそろ縛りあげるのじゃ」
 さすがに見るに見かねたのか、春金と彩虹の両名は荒縄を持って、すでに褌姿の二人を取り押さえたのだった。

●厨房
「わわっ!?」
「おっと、大丈夫ですか?」
 酒樽を抱え盛大にずっこける仔莉奈を、間一髪で支えたのは麻績丸だった。
「あぅ、ありがとうございます‥‥」
「こんな大きな物‥‥。よければ、お手伝いしますよ」
 と、麻績丸は苦笑混じりに、仔莉奈から酒樽を受け取ると、会場へ運ぶ。
「はふぅ‥‥かっこいい‥‥」
 そんな麻績丸の後姿に、仔莉奈は瞳を輝かせるのだった。

●酒席
「奏兄はん〜」
「どうしたの?」
 宴もたけなわ。甘えた声を出して蒼が、奏にこてんと寄りかかる。
「んん〜奏兄はん〜〜」
「蒼、今日はやけに甘えん坊だね」
 ギュッと抱き付いてくる妹に、少し困ったように奏が呟いた。
「だって、陽媛はん達に負けてられんへんもん‥‥」
 と、奏にも聞こえない小さな声で呟く蒼の視線の先には、仲睦まじく寄り添う佐上・鳳兄妹の姿。
「ん? 何か言った?」
「あ、うんん! なんでもあらへんよ〜」
「そう? それならいいんだけどね」
 ごろごろとじゃれ付く蒼の綺麗な蒼髪を、奏は柔和な笑顔で優しく梳いたのだった。

「あ、琉央。お弁当ついとるよ?」
「ん? おお、ありがとよ!」
 勢いよく料理をほうばる琉央の頬に付いた、野菜屑を纏がひょいと摘みあげ、自分の口へ運ぶ。
「くふっ。お熱いですね〜」
 そんな様子を、火鍋の主、霜夜が嬉しそうに見つめる。
「ちゃ!? これはちゃうの! 咄嗟に体が動いただけなんやから‥‥!」
 わたわたと手を降り慌てて否定する纏の顔は、火鍋にも負けぬほど真っ赤だった。
「そんなに照れることか?」
 と、不思議顔の琉央は、纏の箸に刺さったつみれを自分の口に運ぶ。
「はっ、はうぅ‥‥」
 そんな、何気ない琉央の行動に、纏は再起不能なほど茹で上がったとか。

「吉梨、ちょっといいか?」
「紅竜さん? どうされました〜?」
 料理に舌鼓を打つ吉梨に、紅竜が後から声を掛けた。
「ああ、例の件だ。辛い思いをさせちまってる。面目次第もねぇ‥‥」
 きょとんと見上げる吉梨に、紅竜は静かに頭を下げる。
「ふふ、紅竜さん〜」
「ん?」
「あの子をよろしくお願いしますね〜」
 深々と頭を下げる吉梨。紅竜に向けられたその笑顔には、大切なモノを託す決意が込められていた。

「‥‥来年もこの年の瀬を、同じ様に騒いでいたいよね。同じ面子で‥‥」
 部屋の隅にどんと積まれた座布団の上に、ちょこんと座り静乃が呟く。
「そうだね。ずっとみんなで一緒にいたいね‥‥」
「わわ、月夜君にのばら君‥‥聞いてたの‥‥?」
 突然の声は、積まれた座布団の下から。
「この心地よい空気を、ずっと絶やさないように頑張りましょうっ!」
 部屋の隅で、家族の宴を静かに見守る三人の顔には、柔らかな笑みが浮かんでいた。

●中庭
 中庭はすっかり雪化粧。そんな中、一人庭園の石に腰掛け杯を傾けるのは雲母だ。
「‥‥一句できた」
 咥えた煙管をくいくいと上下に揺らし、雲母が呟いた。
「冬空に、夜月傾く寒庭で、一人飲みゆく、雪見酒かな」
 ぽつりぽつりと紡がれる、言葉の波に酔うように、雲母は静かに寒風に身を任せる。
「よい月夜だな‥‥」
 最後にそう呟き、雲母は杯をくいっとあおった。

●舞台
「3番、巳斗嬢の登場です!」
 玲の紹介を受け、舞台袖から軽やかに躍り出たのは巳斗。
 ほろ酔い巳斗は、猫耳を模した髪飾を付け、お得意の女装で可愛さを最大限に演出。くるくるとその姿を披露するように回っている。
「みーくん‥‥なんて可愛いらしい」
 そんな巳斗をうっとりと眺める雪も、頭には兎耳をつけてたりする。
「さぁ、とっても可愛らしい巳斗嬢に続くのは‥‥この人!」
 自身も犬耳を付け仮装しこの場を仕切る玲が、舞台袖へ合図を送った。

 ざわざわ‥‥。

 玲の合図により現れた人影に会場がざわめく。
「なぜ僕が‥‥」
 全身もふらの着ぐるみを纏った紫蓮が、てくてくと舞台中央に歩み出てきた。
 その愛らしさは、先刻の巳斗にも負けずとも劣らない。
「し、紫蓮さん‥‥!」
 そんなもふ紫蓮に、観客の梨佳の視線は釘付け。大切な饅頭をぽとりと床に落とし、その姿に感動していた。
「‥‥梨佳も喜んでくれているか。仕方が無い、今宵はもふらになりきろう‥‥もふ」
 客の中に見つけた少女の喜ぶ姿に満足したのか、紫蓮は覚悟を決めた。

「うふふ‥‥なんて可愛らしい‥‥」
「いけませんわ、吉梨様‥‥!」
 そんな盛り上がる舞台を眺める客席では、もう一騒動。
 蓮華に掛変えられたハート型の眼鏡で変貌した吉梨が、猫耳蓮華に迫る。
「ふふふ、良いではないか」
「あぁ! 飛鳥様、助けてくださいませ!」
「ま、待て!? 俺か!?」
 尚も迫る吉梨に、頬を真っ赤に染めた蓮華は、飛鳥の背へと逃げ込んだ。
「あら、そこの坊やも可愛いわね。ふふ‥‥」
 標的を変え、飛鳥に向かう吉梨。
「お、落ち着け十河! そ、そうだこれをやるから!」
 と、飛鳥はいつの間にやら背に抱き付いていた巳斗を、ひょいと差し出す。
「はへ?」
 ほろ酔いの巳斗は、何が起こったのかわからず呆けていた。
「まぁ‥‥うふふ‥‥」
 更に標的を変更した吉梨は、飛鳥から巳斗を受け取る。

「ふぅ、助かった‥‥」 
「今宵の皆様は過激ですわ‥‥」
 安堵の溜息をつく飛鳥と、吉梨に剥かれる巳斗をはらはらと見守る蓮華。
 その後、客席に巳斗の悲鳴が響き渡ったとか――。

●座敷
「実は俺‥‥弄られるのが楽しくなってきたんだ‥‥」
 恭冶の大告白から始まった大会もいよいよ大詰め。
「最後は我の出番か‥‥」
 すくりと立ち上がった谷 松之助に一同の視線が集中した。
「‥‥皆、聞いて驚くな。我は‥‥実は27歳だ!」
 ドーンと胸を張り松之助は高らかに宣言する。
「それくらい知っとるのじゃ。のぉ、ホンちゃん」
「そうだねぇ、金ちゃん」
 観客席からは、春金と彩虹の残念な声。
「なっ! 我の一世一代の大告白が‥‥」
 そんな観客の反応に、松之助は打ちのめされる。
 松之助の大告白も、残念かな参加者に知り合いが多すぎたのだった。

●縁側
「さすが、各国の郷土料理と銘打つだけあって、珍しいものばかりであるな」
 縁側で夜空を見上げる皇 りょう。その傍らには料理の詰った重箱がうず高く積まれていた。
「天地の恵みに感謝し、有難く頂戴しよう」
 重箱に礼儀正しく合掌したりょうは、ふと空を見上げる。
「来年も、良い年でありますように」
 はぁっと吐く息は、冬空の凛とした空気に晒され、白く煙った。

●酒席
「うー‥‥あたし、もうだめ‥‥父様、肩かして‥‥」
 乾杯の杯一杯で、すっかりへろへろに酔っ払った真影は、隣に座る紫雨の肩にふらふらと寄りかかる。
「相変わらず弱いな。無理に飲まなくてもいいだろうに‥‥」
 肩に身を預けてくる我が子に、紫雨は優しい笑みを浮かべた。
『あー!』
 そんな親子の一時を、切り裂く悲鳴。
『ちょっと紫雨! そんなに真影にくっつかないでよ!』
 泉理は、小さな身体で無理やり二人の間に割り込んだ。
「んもぉ、そんなにやきもち焼かないの‥‥むにゃむにゃ」
 そんな泉理を真影が抱き締める。
『ぎゃー! 真影離せ離せ!』
 いくら暴れようが小さな人妖の力では開拓者には敵わない。
「こういうのも悪く無いな‥‥」
 泉理を抱き、肩を預けてくる真影の髪をそっと梳き、紫雨が微笑んだ。

「羽郁さん、こんばんわ。今日はご家族で来てるんだ」
 そんな賑やかな家族団欒の場に、柚李葉が梨佳を伴って現れた。
「柚李葉ちゃん! それに梨佳ちゃんも、いらっしゃい!」
「お邪魔しまーす! うわ、美味しそう!」
 羽郁に促されるままに席に付いた柚李葉に習って席に付く梨佳は、机に並べられた料理に目を奪われる。
「遠慮なく召し上がれ!」
「うん、いただきますね」
 羽郁に促され、柚李葉が並べられた料理に箸をつけた。

「柚李葉ちゃん、今年は色々あったけど‥‥ありがとね」
 食事も進み、甘味に取りかかろうとしていた柚李葉に、羽郁が声を掛ける。
「え? えっと‥‥こちらこそ依頼ではいつもありがとう。‥‥来年もよろしくね」
 はにかむ柚李葉の笑顔は羽郁に向けられる。
「もちろん!」
 そんな柚李葉の表情に、羽郁は机の下でぐっと拳を握ったのだった。

●廊下
 廊下から宴会場をこっそり覗く影二つ。
「千羽夜さん、そちらの塩梅は‥‥?」
「5人目よ、仔莉奈さん‥‥」
「さすがね‥‥あ、あの人かっこいいかも!?」
「仔莉奈さん、それはうちの兄さんよ‥‥」
「なっ!? あんな素敵なお兄様がっ!?」
「‥‥ふふ。あげないわよ?」
 二人の物色?は果てしなく続いたとか――。

●縁側
「雪見酒とは、風流だな」
「ん‥‥神楽の雪も捨てたもんじゃぁないなぁ」
 賑やかな店内から難を逃れ、縁側で重なる二つの影。
「後は大騒ぎか‥‥まぁ、でも、こういう忘年会も悪くねぇな」
 そう呟く北條 黯羽は、犬神・彼方の膝に擁かれ、ちびちびと杯をあおった。
「まったくだぁね。呑めや歌えの大騒ぎ‥‥忘年会っつーのぉは楽しいねぇ」
 背後から聞こえてくる喧騒を肴に、彼方も杯を傾ける。

 ぺちっ。

「おいたが過ぎるぞ?」
 そっと胸元に忍び寄る手を黯羽が叩く。
「おっとと、これはぁ失敬失敬ぇ」
 叩かれた手にふーふーと息を吹きかけながら、彼方は悪戯な笑みを浮かべた。
「まったく、すぐ後に他の者もいるんだぞ――」
 黯羽は優しい瞳を向ける彼方に、そっと頬に口付けをする。
「続きは家で、な?」
 他の誰にも聞こえぬよう、小さく囁く黯羽。
「ん、これはぁいい年越しになりそうだぁねぇ」
 そんな囁きに満足げに耳を傾けた彼方が、杯に残った酒を空けた。

●座敷
「さぁ、楽しくやりましょう」
「いっぱい食べてね!」
 集った面子に利諒と四葉が酒や料理を勧める。
「ん、すまんな。頂く」
 利諒の酌を紫電・正和が受けた。
「いやはや、見事なご馳走。さすがギルドの方のお勧めだけはありますなぁ」
 目の前に並ぶ豪勢な食を、これでもかと胃袋へと詰め込む蔵人は至極上機嫌だ。
「飲みながら、みんなと語らう年の瀬も、いいものですね」
 微笑む濃愛は、にこやかに料理に舌鼓を打つ。
「うんうん、やっぱり大勢でする食事はまた一味違うよねっ!」
 と、四葉も負けじと料理を貪り食う。
「さすがギルド主催ですなぁ。そこいらの雑草とは一味違うっ!」
「普段の主食と比べるのはどうかと思ういますよ‥‥」
 箸を進める蔵人に、利諒は苦笑い。
「やぁ、久しぶり元気だったかい?」
「あ、朱麗さん。いらっしゃい!」
 そこへ朱麗が現れる。喋られぬほど食事を頬張った四葉にかわり、岑が声を掛けた。
「一緒させてもらってもいいかな?」
「是非! さぁ、こちらへどうぞ」
 そう言って岑は朱麗に席を譲る。
「朱麗さん、どうぞ一杯。ご一緒できて嬉しいです!」
 ごくんと料理を飲み込んだ四葉が嬉しそうに朱麗に酌をすた。
「ありがとう。こちらこそ、依頼では世話になったさね」
 四葉の酌を朱麗は笑顔で受ける。
「こちらこそ!」
「ふふ。また、一緒したいもんさねぇ」
 四葉の笑顔を肴に、朱麗は杯を傾けたのだった。

「あ、真芝さん、おかえりなさい」
 酔い潰れた者の介抱を終え、宴の席に戻ってきた真芝 十路を、利諒が向かえる。
「ったく‥‥飲むだけ飲んで潰れんなっての」
「ふふ、真芝さんは、気がききますね」
「あん? ついでだついで」
 と、面倒くさそうに手を振る十路も、この宴に加わった。

「ふぁ‥‥飲んだ飲んだぁ‥‥」
 部屋の隅では食後のお茶を楽しんでいた平野 譲治が、大欠伸。
「心地のいい騒がしさでござるな‥‥」
 譲治はそのまま、部屋の雑踏に包まれ静かに眠りに落ちたのだった。

●舞台
 参加者の胸には心地よい空気と満腹感。そして、眠気が訪れる。
 この年末の大宴も、ついに終焉の時を向かえようとしていた。
「年忘れ、とでもいくか」
「ご一緒しますよ」
 笛を取り出し音を奏で始める飛鳥に、雪巳も自身の笛の音に乗せる。
「あ、ボクもお供させてください!」
 そこに巳斗が自慢の三味線を弾き、音を添えた。
「ええ楽やわぁ‥‥なぁ奏兄はん」
「合わせるよ。いっておいで、蒼」
 楽の音につられた蒼を、兄の奏が笛の音で送り出す。
「蓮華ちゃん、私達も!」
「はい、いきましょう、雪ちゃん」
 蓮華の手を引き、雪も舞の輪に加わる。
『皆様、良いお年を!』
 楽の音に導かれ3人の踊り手が舞う舞台を、参加者一同は思い思いに見つめる。

 芸能に長けた開拓者の盛大な舞台をもって、この大忘年会は幕を閉じたのだった。







●酒場
 一人の大男が、酒場の暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませー」
「おう、おやっさん。忘年会の会場ってのはここか?」
「忘年会って‥‥ギルドさんの?」
「他に何があるってんだ?」
「お客さん‥‥昨日終わりましたけど?」
「‥‥なん‥‥だと‥‥?」
 遅れた英雄喪越は、その場で固まったまま、年を越したとか越さなかったとか――。