侵食する炎害
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/12 20:33



■オープニング本文

●理穴のとある村
 深き森林に囲まれた国、理穴。
 そんな理穴にあっては珍しくも無い一つの村で、異変は起きた。
「火事だぁーーー!!!」
 気付いたのは一人の男。
 真っ赤に燃え盛る一本の木を見て、大声を上げた。

 集まったのは、村の男衆10名。各々の手には水を満たした桶が握られていた。
「いくぞ!」
 一人の男が、一同に声をかける。
『おう!』
 その声に呼応した一同は、一斉に炎目掛けて桶の水をぶちまけた。

 しかし。

 炎はまるで勢いを弱めることなく、燃え盛る。
「なんだこの炎‥‥」
「とにかく水だ! もっと持ってこい!!」
 男は叫ぶ。その声に桶を持つ男達は踵を返そうとするが。
「いやちょっと待て。何か変じゃ無いか‥‥?」
 そんな中、一人の男が皆を制する。
「何が変なんだよ?」
「見てみろよ。この火事、熱くないぞ‥‥?」
「‥‥いわれて見れば確かに‥‥」
 そう呟く男は、おもむろに炎に近づいて行く。
「お、おい! 待て、不用意に近づいたら危ないぞ!!」
 男の制止する声も、炎に魅入られた男に耳には届かない。
 炎に歩み寄る男は、何を思ったのか、おもむろに炎に包まれる木に触れた。

 バフッ!

 炎は男の手を伝い、一瞬にしてその身体を飲み込んだ。
「お、おい!?」
 たまらず見守る男が声をかけるが。
「‥‥熱く無い。それに‥‥なんだ、これ‥‥」
 炎に包まれる男の声に動揺の色は無い。それどころかどこか恍惚の表情にさえ見える。
「お、おい! 返事しろ!!」
 遠く見守る男が、更に大声を上げた。その時。
「‥‥ぐはっ!」
 突然、炎に包まれた男が吐血し、倒れこんだ。
「おかしい、ただ事じゃ無いぞ‥‥! と、とにかく一度撤収だ!!!」
 叫ぶ男の後にはすでに、桶を持つ男達の姿は無い。
 皆、この異変に恐れおののき、逃げ出していたのだった。


■参加者一覧
檄征 令琳(ia0043
23歳・男・陰
沢渡さやか(ia0078
20歳・女・巫
鷲尾天斗(ia0371
25歳・男・砂
朱璃阿(ia0464
24歳・女・陰
青嵐(ia0508
20歳・男・陰
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
水津(ia2177
17歳・女・ジ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志


■リプレイ本文

●理穴のとある村
 深き森に囲まれた小さな村。
 今、この村に未曾有の危機が迫っていた。

「皆さん、こちらへお願いします」
 脅える村人達を先導し、沢渡さやか(ia0078)。
「ひとまず、この河原へ避難しいておいてくれ」
 同じく村人達を誘導する皇 りょう(ia1673)が声をかける。
 村人達は炎の被害から逃れるように、二人の先導で村の南を流れる小川に集められていた。
 遠方には空を染める真っ赤な光が、意思を持ったように揺らめく。
「これ以上、延焼させるわけにはいかんな‥‥」
 そんな光を苦々しく見つめるりょう。
「ええ、森には木々だけ出なく、そこに暮らす動物達もいるはずです」
 りょうの傍により、さやかもその言葉に相槌を打つ。
「沢渡殿、道具は調達できたか?」
「道具でしたら、今、天ヶ瀬さんが調達に――」
「わるい、待たせた」
 さやかの声を遮り現れた天ヶ瀬 焔騎(ia8250)。その手には何本もの斧が握られていた。
「天ヶ瀬殿、ご苦労であるな」
「助かります、天ヶ瀬さん」
 そんな焔騎を二人は笑顔で向かえる。
「どうやら村人にも幾人か犠牲者が出ているようだ。早々にこのアヤカシ打ち倒そう」
 何本もの斧を地面に立て、焔騎が呟く。その表情は決意に満ちていた。
「うむ、では皆と合流を急ごうか」
 りょうの言葉に二人は頷き、燃え盛る炎へ向け、歩みだした。

「ふむ‥‥焦げ臭くありませんね」
 一面黒焦げになった木々の合間を、縫うように歩む青嵐(ia0508)。
「見た目は焼け跡なのに、変な感じよね」
 その隣を寄り添うように朱璃阿(ia0464)が歩く。
『風に煽られて延焼している、という訳ではないようですね』
 青嵐の手に抱く人形が、パクパクと口を動かし言葉を紡いだ。
「ほんと、所々無傷の木が残ってるのものね」
 あたりを見回す朱璃阿。
『どこかに誘き寄せる場所があればいいのですが』
「あ、あそこはどう?」
 思案をめぐらす青嵐に、辺りを伺っていた朱璃阿が声をかけた。
「どこです?」
「ほらあそこ」
 朱璃阿が指差すのは、主を失った一軒の民家。
『なるほど、無人になって随分と経っているようですね』
 木々の合間から見える民家は、朽ち果て所々屋根が落ちていた。
「ほら、家の回りは木が生えて無いし、この家に誘き寄せればいいんじゃない?」
『いい考えですね。では薪か何かで家に燃え移らせましょうか』
「うん、さすが青嵐。詰めもばっちりね!」
 青嵐の案に、朱璃阿は至極感心したようで、嬉しそうに青嵐に飛びついた。
「朱璃阿‥‥!?」
「あ、ごめんね。嬉しくなってつい」
 ペロッと舌を出し、謝る朱璃阿。
『‥‥あ、いえ。では、一旦戻りましょうか』
 ぽりぽりと頬を掻く青嵐は、朱璃阿を伴って来た道を戻った。

「ったく、このくそ忙しい時期に面倒なアヤカシが現れたもんだぜ」
「この私の前に、よくのこのこと現れたものです‥‥」
 燃え盛る炎のアヤカシを前に、鷲尾天斗(ia0371)と水津(ia2177)が各々の思いをぶつける。
「ギルドの記録にも、この様なアヤカシが現れたという記述は、見つかりませんでした」
 二人の傍で檄征 令琳(ia0043)が静かにアヤカシを見つめた。
「そんなの関係ねぇ! 『焔を統べる悪鬼』たるこの俺が、一刀両断にしてやんぜ!」
「『焔の魔女』たるこの私が、本当の焔というものを教えてあげちゃいますよ‥‥?」
「‥‥よぉ、水津」
「何ですか? 天斗さん‥‥」
「焔は俺の称号だ。お前にはもったいねぇ」
「それは聞き捨てなりませんよ‥‥? 焔を擁くのは私と決まっているのですよ‥‥」
「ほぉ‥‥それは宣戦布告と取ってもいいんだな?」
「宣戦布告も何も‥‥もう決まっていることですから‥‥」
「なに‥‥?」
「ふぅ、やれやれですよ‥‥」
「あのー、お二人さん」
 ある意味、燃える二人に、一歩離れた令琳が声をかける。
「焔談義は大いに結構なのですが、そこに居ると、食われますよ?」
 少し困ったような口調で二人に告げる令琳。
『え?』 
 その声に、言い争う二人の声がはもった。
「ほら、上ですよ上」
 令琳が指差すのは上空。
 木々の葉が生い茂るはずの上空は、その葉を飲み込む炎に支配されていた。
「うおぉ!?」
 焼け落ちる葉から逃げるように、3人は後退した。

「皆、集まったか」
 7人の姿を確認して、りょうが声をかけた。
 一行が集合したのは、朱璃阿と青嵐が見つけた廃屋の傍。
「皆さんどうでした?」
 そして、さやかが皆に状況を問いかける。
「被害はそんなに広がっていないようね」
『ええ、動きはやや変則的ですが、基本的に真直進んでますね』
 と、朱璃阿、青嵐の二人がアヤカシの軌跡を伝えた。
「実際にアヤカシ見てみましたが‥‥自分から攻撃する意思が無いようですね」
「食事に夢中なのでしょうか‥‥敵意は感じられませんでしたよ‥‥」
 水津、令琳のアヤカシ観察の結果が続く。
「村の住民は、河原に避難してもらった。もしアヤカシが潜んでいたとしても、川を渡れば追って来れないだろう」
 焔騎の報告に、一行は安堵の表情。
「はぁ‥‥」
 そんな報告会の隅で天斗は、大きな溜息をついていた。
「具合でも悪いのですか?」
 気の乗らない様子の天斗に、さやかが心配そうに声をかける。
「はぁ‥‥なんだろうな、これ」
 天斗が、やる気なさげに一行を見回した。
「美少女成分が足りねぇんだよ!」
 と、天を仰ぐ天斗が叫ぶ。
「‥‥おいおい」
 呆れる焔騎。その脇では天斗の視線から、さやかを庇う令琳。そして、朱璃阿を庇う青嵐。
 更には、一歩身を引くりょうと、私私と自分を指差す水津。
「‥‥成人に興味はない、加えて人外に興味もない」
 と水津を指差し天斗が大仰にため息をついた。
「‥‥こほん。では、事前に申し合わせた通りに」
 そんな天斗を横目で見やりながら、りょうが気を取り直し一行に声をかける。
『はい、俺はアヤカシの誘導を』
「私も青嵐についていくわ」
 青嵐、朱璃阿はアヤカシを導く為に。
「私は、念のため飛び火が無いかの確認と、あればそれの排除を」
 令琳は周囲の探索を。
「うむ。では残りの面々は木々の伐採を」
 りょう、さやか、焔騎、水津、天斗の5人は斧を手に木々の伐採を。
 それぞれの役目を確認した一行は、目的地へ向け散っていった。

●森
「いくぞ!」
 
 カーン――。

 りょうの振り上げた斧が、甲高い音を響かせ、太い木の幹をえぐる。
「そーれ!」
 
 カーン――。

 隣では、焔騎が斧を振るう。削られる幹は悲鳴を上げてその身を弾けさせた。
「ごめんなさい!」

 カーン――。

 斧に振り回されながらも、さやかが幹を打つ。
「たーまやー!」
 
 カーン――。

 掛け声一閃。鈍く光る天斗の斧が、木の幹に襲いかかる。
「かーぎやー‥‥なんだかおかしくありませんか、この掛け声‥‥」

 カーン――。
 小柄な身体の全身のバネを総動員し、水津が斧を振り回す。
 5人はアヤカシの包囲網を、着実に狭めて行った。

●廃屋
「青嵐、これはどこに置くの?」
 朱璃阿が問いかけた。そのたわわな胸が邪魔するのか、至極運びにくそうに薪を抱える。 
『はい、ではこちらへ』
 青嵐の抱く人形が、くいくいと廃屋の傍を指差す。
『今、皆さんが木を切り倒してくれていますので、その木から廃屋まで導線の様に並べてください』
「はーい。じゃ、ここに置いてっと――」
 人形の指示にも朱璃阿は素直に従い。手に持つ薪を並べていく。
『こんなもので大丈夫でしょう。後はアヤカシが来るのを待つだけですね』
 薪の誘導路。アヤカシの特性を利用した追い込みの罠が完成した。

●森
「炎に取り付かれて亡くなった人にも、大切な家族がいたのでしょうか‥‥」
 ぽつりと呟く令琳。緑深い森を、一人歩く。
「そんな事、私には関係ありませんね。弱いものは消えるだけ、それが世の摂理。特に今の世は‥‥」
 あたりを入念に見渡す令琳の顔には、自嘲気味の笑みが浮かぶ。
「‥‥さて、このあたりに被害は広がっていないようですね」
 村の周囲を隈なく見終えた令琳は、一行と合流する為に廃屋へと向かって行った。

●廃屋
「来た!」
 焔騎が声を上げた。
 アヤカシは、一行が作った『道』に導かれるまま、廃屋へと進行してくる。
「うまく燃え移ってよね!」
 自身が設置した薪の誘導路を朱璃阿が見つめた。
『よし、うまくいった』
 青嵐の人形が嬉しそうに両手を上げる。
 アヤカシは、導かれるまま薪を伝い廃屋へと迫る。

「何度見ても、炎そっくりですね」
 迫り来る炎を前に、令琳がぼそりと呟く。
「知能も炎並みだといいのですけど‥‥」
 隣ではさやかが不安そうにアヤカシを見つめる。
「さやかさん、炎に知能なんて無いと思いますよ?」
 そんなさやかに、令琳は優しく微笑む。
「た、例えですよ! ‥‥もぉ」
 令琳の言葉に、さやかは恥ずかしそうに俯いた。

「この焔を統べる悪鬼が相手になってやるから、とっとと逝きやがれ」
 アヤカシの到着を今か今かと待ちわびる天斗は、槍の切っ先をアヤカシに向ける。
「来た来たですよ‥‥私は炎だって燃やし尽くしちゃいますよ‥‥? 焔の魔女として‥‥ふふふ‥‥」
 水津の眼鏡が、アヤカシの炎に照らされ怪しく光った。
「皆、いくぞ!」
 りょうが叫ぶ。一行はコクンと頷き、攻撃態勢をとった。

「さぁ、行くわよ!」
 手に持つ巨大な徳利の栓を抜き、朱璃阿がアヤカシの通ってきた道を見据える。
「そぉーれ!」
 そして、アヤカシが最後に通った木へと、徳利に入った水をぶちまけた。
 青嵐、朱璃阿の二人の視線は、アヤカシの通り道である木へ。
『朱璃阿! 追い込みますよ!』
 青嵐の抱える人形が、符を取り出す。
「任せて!」
 それに次いで朱璃阿も懐から符を取り出した。
「この符を介し、我が映し身よ、顕れ出でよ!!」
 握った符を勢い良くばら撒く朱璃阿。
 宙に踊る符は、光を発し形を変える。
「氷塊と成せ! 妖符『ささめ雪・氷結懐』!!」
 指差す朱璃阿に従い、人型の符が冷気を纏いアヤカシへ襲いかかった。
 符の抱擁を受け、アヤカシは、その姿を無形から有形の氷へと変えていく。
「青嵐!」
『はい!』
 その姿を確認した朱璃阿は、相棒へ声を飛ばす。
『さぁ、来なさい!』
 青嵐の抱く人形の目が、カッと開かれる。
『炎獣姫!!』
 人形が放り投げ小さな符は、宙をひらひら舞い地に落ちる。その瞬間、符は燃え、その炎は次第に巨大化、獣を形作る。
『炎の葬送歌・第六章! 奏符『鬼哭招来・浄炎歌』!!』
 炎獣が吼える。その咆哮は木々を揺らし、廃屋もろともアヤカシを包む。
 凍るアヤカシは、灼熱の一撃を受け、よりしろである木諸共、弾け砕けた。
 退路を絶たれたアヤカシは、その勢いを廃屋へ。

「さて、いくか」
 口に含む酒を、愛刀に吹きかけ焔騎がアヤカシを見据える。
「どっちが焔を冠するか勝負だな!」
「ですから、すでに私で決まっていると申し上げましたのに‥‥」
 とその横では、天斗と水津がまだ言い争っている。
「炎を刈り取る赤駁の志、天ヶ瀬焔騎。――いざ参る!!」
 そんな二人を他所に、焔騎がアヤカシに向け掛けだした。
「おい焔騎! お前まで『焔』狙いか!?」
「もう少し、身の程を知って欲しいものですよ‥‥」
 焔騎を追うように、天斗、水津も駆け出した。

「俺を出し抜こうなんて、百年はぇぜ!」
「うお!? 邪魔するな!!」
「そうはいきません‥‥」
 槍を構える天斗。
 刀を燃やす焔騎。
 手のひらに炎を生み出す水津。
 それぞれがけん制しあい、もみ合いながらアヤカシ向けて一直線に突進する。
「一番槍は俺がもらった!! 喰らえ! 『鬼閃刹・焔痕』!!」
 横薙ぎに槍を滑らせる天斗。蒼炎を纏った槍は、廃屋諸共アヤカシを切り裂く。
「負けてられるか! いくぞ! 『焔絶疾走・駁』!!」
 上段から振り下ろす刀は、焔騎のもの。紅炎を纏った刀が、唸りを上げアヤカシの頭上から降り注ぐ。
「お二人さん、どいてもらえますか‥‥? いきますよ‥‥焔符『炎焔火』!!」
 交差し十字を刻む槍と刀の軌跡を、水津の炎が撃ち抜いた。

「おぉ? なんかすげぇことなったな」
「術が術を押し上げて‥‥相乗効果でしょうかね‥‥?」
「なんか必殺技っぽいな‥‥」
 崩れ逝く廃屋。そして、苦しむように揺れる炎のアヤカシ。
 三人は呆然と自分達の成果を見つめる。
 アヤカシは、廃屋と共に、その三分の一を失った。

「袋の鼠と言った所でしょうか」
 半壊する廃屋を不敵な笑みで見据えるのは令琳。
「令琳さん‥‥?」
 そんな令琳を、さやかが訝しげに覗き込む。
「さやかさん、どうかしましたか?」
 そんな声に、くるりと向き直った令琳の顔は、いつもの温和な笑顔。
「あ、いえ‥‥」
 その笑顔に、自責の念に駆られるさやか。
「私達も行きましょうか」
「はい!」
 迷いを振り切るように、さやかは令琳の声に力強く頷いた。

「さぁ、アヤカシ、あなたの命の輝き、存分に見せなさい!」
 廃屋から少し距離を取り、令琳が不適に笑う。
 低く響く令琳の声。アヤカシの炎が令琳の顔を怪しく映し出した。
「くく‥‥欠片も残さず消えうせてしまえ!」
 叫ぶ令琳は、懐から取り出した無数の木簡を宙にばら撒く。
「さやかさん、お願いしますね」
 自身を護るように漂う木簡から、さやかに視線を移し、令琳が優しく声をかける。
「は、はい!」
 令琳の声に、やさかは手に練力を込めた。 
「不浄なる者に、精霊の裁きを! 力の歪み!」
 さやかの声に、虚空が歪む。アヤカシの前面に、巨大な渦が現れる。
「さぁ、行きなさい!」
 囲むように漂う木簡群へ、令琳が指令を飛ばした。
 アヤカシへ向けつき進む斬撃を纏う木簡は、力の歪みを受けて、互いにぶつかり砕け、捻られ千切れる。
 まるで霧になるほどまで細かく砕かれた木簡が、その最小にして鋭利な切っ先の全てをアヤカシに向けた。
『切り裂け! 双術『霧夢双想・鎌鼬』!!』 
 令琳とさやかが吼える。
 廃屋を包む最小の刃群に切り刻まれ、崩れ落ちる廃屋。そして、アヤカシは更にその体の三分の一を失った。

 最早、アヤカシは体の大半を失い、廃屋中央にその身を僅かに残すだけ。
「人に害成すアヤカシは、例え炎であれど、この私が斬って見せようぞ!」
 皆の攻撃を受け、もがき苦しむように揺れるアヤカシを、りょうがキッと睨む。 
「舞え狂え、『白阿見』!」
 自身の刀に語りかけるように、りょうは刀を正眼に構えた。
「焔のアヤカシよ! その身に刻め、我が刀技!!」
 吼えるりょう。切っ先を地面へ突き立て、そのままアヤカシに向け駆ける。
 大地を削る切っ先。りょうの駆ける道が、死出への軌跡を刻む。
「皇家内伝一条之太刀! 『雲断』!!」
 大地より切り上げる刀は、廃屋すらも両断し、その剣撃は白い軌跡を引き天へと上った。

 炎のアヤカシは廃屋諸共、その身を焼き尽くされ、灰となって消えた。
 進行を食い止めた一行の表情にも、ようやく安堵の色が見てたのだった。