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■オープニング本文 ●神楽の街西の外れにて 「浦に波ぃ。月に揺れる蝉の声ぇ――」 ここは神楽の街西の外れにある一軒の東屋の軒下。炎天下のかな、時代遅れの音階を持って紡がれる詩が聞こえる。 「転変、常なき世にぃ――」 夏の陽射しから逃げるように道を急ぐ街人に、脚を止め琴の音を受け紡がれる詩に耳を傾ける者はいない。 「ねぇ、ちょっとよくない?」 少し離れたところからだろうか、そんな黄色い囁き声が彼の耳朶を打つ。 「うんうん、いいよね! ねぇ、あなた行ってきなさいよ」 「えぇ〜、あんた行きなさいよぉ」 はぁ‥‥。 繰り返される嬌声に彼はため息混じりに詩を止めた。 「‥‥私の詩、いかがでしたか?」 そして、声の主達へそう声をかけた。 「え、え? 詩?」 「ねぇ、詩って?」 遠巻きに眺めていた街娘たちは、互いに顔を見つめあい、何のことだ?と小首をかしげる。 「あ、うんうん、よかったよ!」 「うんうん、よ、よかったよね!」 詩のことなどまるで聞いていなかったが、美形の楽師に声を掛けられた街娘たちは、これを機にと一斉に楽師の元へと詰め寄った。 「ねぇ、あなたお名前は?」 「どこから来たの? いまお一人?」 元来、女性から声を掛けることは慎ましやかな女性を美とする天儀であるが、こと中心の神楽の街には、風習にとらわれない快活な女性も数多存在する。そんな積極的な彼女らに囲まれた彼に、矢継ぎ早に質問の嵐がぶつけられた。 「どけっ! おう、おめぇ誰に断ってこんなところで商売してやがる!」 と、唐突に街娘に囲まれる楽師にかけられた怒声。街娘たちは声の持ち主へと視線を移すやいなや悲鳴を上げ逃げ去る。 「‥‥申し訳ありません。どうかこれで」 怒声を浴びせられた楽師は、自ら懐から泣け無しの銭を取り出すと、目の前のチンピラへ差し出す。旅に流れる彼にとって、このような事は日常茶飯事。一楽師でしかない非力な彼が人と力の争いをしても結果は目に見えている。旅から旅へ身をもって学んだ彼の処世術であった。 「おう、わかってんじゃねぇか!」 チンピラは楽師の手から銭を奪い取るように受け取ると、粗野な笑い声を響かせ満足そうに去っていく。 「あ、あの、これ置いていくね」 逃げ去ったかと思われた街娘の一人が彼の元へ舞い戻り、小さな貨幣を托鉢の中へと投げ入れた。 「じゃ、がんばってね!」 チンピラに目をつけられた旅の楽師を哀れむように、そして、自らにその災厄が飛び火しないように街娘は小走りに走り去って行った。 「御爺、私はどうすれば皆の心を震わせるような詩を紡げるのでしょうか‥‥」 一人残され、そう独白する彼を、ただ真夏の陽射しだけが容赦なく照り付けていた。 |
■参加者一覧
葛葉・アキラ(ia0255)
18歳・女・陰
カンタータ(ia0489)
16歳・女・陰
真田空也(ia0777)
18歳・男・泰
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
天目 飛鳥(ia1211)
24歳・男・サ
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
煉(ia1931)
14歳・男・志
ブルー(ia2967)
20歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●神楽の街西の外れ 神楽の夏は暑い。容赦なく照りつける太陽を恨めしそうに眺めながら、一人の楽師が手に持つ琵琶の音階を合わせていた。 「ごきげんよう、依頼主さん」 いつの間にそこにいたのか、楽師の隣には洋紅色のローブに頭まですっぽりと身を包んだ少女、カンタータ(ia0489)が立っていた。 「あ、ごきげんよう‥‥えっと、ギルドの方ですか?」 「はい、カンタータっていいます。今日はよろしくですよ」 そう言ってカンタータは握手を求め右手を差しだす。フードに隠れて口元しか覗かない顔には、人懐こい笑みが浮かんでいた。 「はい、お手数お掛けしますがよろしくお願いします」 「はい! 今日はいっぱい楽しみましょうね!」 手を取る楽師を満足そうに見やりながら、カンタータはその手を引き街へと連れ出した。 「あ、そうそう、今日はもう一人ご一緒させていただきますね。――っと、どこ行ったのかな?」 「‥‥ここに居る」 きょろきょろと辺りを窺っていたカンタータのすぐ後ろから煉(ia1931)が声をかけてきた。 「あ、いたいた。依頼主さん、こちらがもう一人の連れです」 「煉だ。今日はよろしく頼む」 前を行く二人が自分の姿を確認したのを見て、煉は短く楽師へ挨拶をする。 「煉さんですね、、本日はよろしくお願いします」 「‥‥ああ、ところで、あんた名前は?」 「あ、そうそう、ボクもお名前知りたいな」 煉の質問にカンタータもうんうんと頷き便乗する。 「名前ですか‥‥サイ、と呼ばれていました」 「‥‥では、サイ。あんたに聞きたい。今回の依頼受けはしたがあんたの意図がわからない。そもそもあんたはどんな楽師を目指す? 開拓者へ詩を求めるのはなぜだ? 自身が紡ぐ詩など、自分でしか創造できるものじゃないだろう。他人に頼るな。自分で何事も成せぬ者に明日などない」 遠い記憶を探るように自分の名を告げた楽師に、煉は険しい表情で矢継ぎ早に受けた依頼の内容を言及する。 「ちょ、ちょっと煉さん! 初対面のそれも、依頼主さんに向かってそんなこと言っちゃだめですよ!」 穏やかではない煉の物言いにカンタータが慌てて制するが。 「いえ、煉さんの仰る事はもっともです。詩というのは自分の想いで創り出すものだ、と爺様によくいわれていました。ですが、私は今まで自分で詩を紡いだ事がありません‥‥想いのない今の私には詩を創る事ができないのです。だから、私は自分の想いを得るために世の中を学びたい。その為に、この天儀世界の代名詞ともいわれる開拓者の方々の生き様をこの目で見たいのです。どうか、お願いします」 サイが静かだが決意ある言葉を持って返事とした。 「‥‥あんたの心構えはわかった。ならば協力させてもらおう。ついてきてくれ」 サイの言葉を黙して聞いていた煉は一度深く頷くと、踵を返し街道を進む。 「も、もう、煉さん! 待ってくださいよ!」 そんな煉をカンタータはサイの手を引き後を追った。 ●神楽繁華街 「さて、困ったゼ!」 神楽の街でももっとも賑やかな場所の一つがこの演芸場が立ち並ぶこの一角である。そんなとある劇場の入場門の脇。受付のおやじに怪訝な視線を向けられつつ佇む喪越(ia1670)は天を仰いでいた。 「‥‥どうかしましたか?」 天を仰ぐ喪越にサイが恐る恐る声をかける。 「うむ、銭がない」 「は、はぁ‥‥」 「心配するなアミーゴ! こっからでも充分楽の音は聞こえるさ!」 喪越の言う通り、耳を澄ませば周囲の雑踏に紛れ劇場から澄んだ楽の音が流れてきていた。 「ええ、確かに――綺麗な音色ですね」 「だろ? これが神楽の音ってやつさ。他人の楽に耳を傾けるっていうのも芸事には必要だと俺は思うぜ」 二人そろって劇場の壁に耳を当てつつ、微かに流れてくる楽の音に耳を傾けていると、ふと喪越の耳に流れ出てくる音とは別の物が届く。 「‥‥てめぇすげぇじゃねぇか、今聞いただけで即興で真似たのか?」 別の音の正体。いつの間にか琵琶を取り出したサイが、聞こえてくる楽の音に同調するように弦を弾いていた。 「あ、すみません。楽を聞くとつい真似てしまうんです‥‥私が琵琶をひけるようになったのも、爺様の琵琶を聞いて真似ただけなもので‥‥だめですね。こんな事ではいつまで経っても自分の詩など紡げませんね」 琵琶の音を止め、俯き自嘲気味に笑うサイに喪越が。 「やめる事はねぇよ。ほれ見てみな」 そう言って街道を指差す。そこには琵琶の音に惹かれた街人の視線が向けられていた。 「さぁ、続けてくれ。てめぇの琵琶、俺は気に入った」 喪越に促され再び弾かれたサイの真似事は、受付のおやじに営業妨害だと止められるまで続いた。 ●とある食堂 「いいか、俺の話をよく聞くんだぞ」 食事を済ませ、お茶を啜っていたサイに向け、天目 飛鳥(ia1211)が唐突に切り出した。 「は、はい?」 お茶の入った椀を口元に当てたまま、サイは目の前の飛鳥へ視線を向ける。 「‥‥これはさる開拓者の物語だ。そう、それは美しい白銀のケモノの話――」 そう静かに語りだした飛鳥は、たどたどしいながらも要点を抑えた語り口で丁寧に自分の経験談をサイに伝えはじめた。 「――――二人は今も森で幸せに過ごしている」 そこまで語り、飛鳥は一呼吸いれるように少し冷めたお茶で喉を潤す。 「‥‥」 サイはなにも語らない。瞳を閉じ、飛鳥の口から紡がれる言葉に耳を傾けていた。 「‥‥別の話だ。ある老練の開拓者がアヤカシの鎧武者との一騎打ちに挑んだ――」 そして再び飛鳥から英雄譚が紡がれる。 「以上だ‥‥清聴感謝する。正直、詩のネタの提供など俺には分不相応だ。だが、人の経験は何事にも変えがたい物語になる。今語った二つの話がサイの詩の元になればと思う」 「‥‥ありがとうございます。私などには到底経験のできない素晴らしい物語でした。やはり、開拓者の方に依頼してよかった」 興奮気味に天目へ礼を述べるサイ。その瞳にはどこか少年のような輝きが宿っていた。 ●祭り 「うふふ、両手に花とはまさにこのことですね」 両手にそれぞれサイと真田空也(ia0777)の腕を抱いき、柔和な笑顔を浮かべるのは出水 真由良(ia0990)だ。 「なぁ、真由良。花ってのは普通女を指すんじゃないのか?」 「あらぁ? だってこんな男前と男‥‥前に挟まれてるんですもの。正真正銘両手に花ですわ」 「‥‥その間はあえて問わないでおく‥‥」 真由良に腕を取られ困惑していたサイも、絶妙な二人のやり取りに思わずくすくすと小さな笑い声を上げた。 「サイまで笑うか‥‥」 「あ、サイ様みてください。そこの団子屋さん、おいしそうですよ?」 はぁっと大きなため息をつく空也をよそに、真由良は目をつけた屋台へと抱いた二人の腕を引いていく。 「お、おい。‥‥ったく、どうだサイ、楽しんでるか?」 腕を引かれながら真由良の頭越しに空也がサイに問うた。 「はい、これが祭りなんですね。こんなに賑やかで楽しいのは初めてです」 「それは重畳。今は詩のことは少し忘れて、とにかく楽しんでくれ!」 初めて体験する祭りに圧倒されるサイに、空也は二カッと笑顔で声をかける。 「なんです? 男二人内緒話ですか? わたくしすねちゃいますよ?」 「なんでもないさ。男『前』二人のただの内緒話だから、気にすんな」 「ふーん。あ、団子屋さん、くださいな。えっと二つ」 空也のささやかな訂正も軽く受け流し、真由良は人ごみを掻き分けたどり着いた屋台へ自分とサイの二人を指差し注文した。 「ちょっと待て、俺のはないのかよ!」 「‥‥?」 空也の抵抗は真由良の笑顔に相殺されたのだった。 「ささ、次へ参りましょう。約束のお時間までもうあまりありませんわ」 買った団子をサイに渡した真由良が、再び二人の腕を引き、賑わう露店筋を進む。 「まぁ、なんだ。今日は精一杯楽しんでいろんなことを感じてくれ。何も感じない奴が人の心を震わせる事なんてできないからな! っと、詩の話は無しだったか」 いつの間に調達したのか、団子を頬張りながら、空也は変わらぬ笑顔でサイに向けそう告げた。 「いえ、空也様の仰る通りです。このお祭り、しっかりと思い出にしてください。そして、自分の想いとしてくださいね」 空也の言葉を自身の願いと重ね真由良もサイへ向け言葉をかける。 「はい、お二人共ありがとうございます。今日はお言葉に甘えさせていただきます」 二人の気遣いに触れ、サイは笑顔でそう答えたのだった。 ●花火 「遅くなりました! 皆さんおそろいですね」 神楽の街から少し離れた小高い丘。雑木林が茂る丘にあって、唯一開けた場所に陣取る6人に遅れながら到着したカンタータは少し息を弾ませていた。 「‥‥どうした、遅かったな」 一人遅れてきたカンタータを見つけると、煉が一言そう呟くと。 「ごめん! ちょっと忘れ物取りに帰ってたんです」 カンタータは少し気まずそうに頭を垂れる。 「あらあら、謝ってるのになんだか楽しそうですね。一体何を忘れたんです?」 そんなカンタータを見やり、真由良が嬉しそうに尋ねた。 「ん〜、恋の臭いがするぜ!?」 と、こちらは喪越。 「‥‥その後手に持ってる物は、サイへの贈り物か何かか?」 照れるように口元を綻ばせるカンタータを見ていた煉はそう切り出した。 「えへへ、喪越さんははずれ。煉さん、正解! えっとですねぇ――」 するとカンタータは、サッとサイの後へ回ると、おもむろにサイの長髪を手に取り。 「サイさん、これを‥‥ほら、おそろいですよ」 取り出した一本の漆黒の麻紐でサイの髪を結った。そして、目深にかぶった洋紅色のフードを外すと、漆黒の麻紐で綺麗に結われた金髪が露になる。 「その長い髪、魅力的ですけど琵琶を演奏するときは邪魔かなぁって思ってたんですよ。良かったら使ってください」 そう言うとカンタータは照れたような表情で俯き、再びその顔をフードで隠してしまう。 「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」 サイは結われた髪に手を沿え、カンタータへ笑顔でそう返した。 「しかし、よくこんな場所知っていたな」 そんな和やかな場を眺めていた飛鳥が、この場所の提供者、喪越へ尋ねる。 「だろ! 伊達にフーテン生活おくってねぇ! 穴場なら俺! 俺なら穴場! どうよ、この法則! すごくね!?」 「‥‥見事なまでの意味不明さだな」 全身で偉業を表現する喪越に淡々と飛鳥は感想を返す。 「ほらほら、そろそろ始まりますよ」 煉の白銀の髪にも同じ麻紐を結ぼうとにじり寄るカンタータと逃げる煉。偉業を淡々と説く喪越を同じく淡々と受け流す飛鳥。一人もきゅもきゅと団子を食む空也。各々がこの場を楽しんでいる中、サイの横に静かに寄り添う真由良がそう切り出した。 と、同時に。 ドォーン―― 微かに遠雷を思わせる音に一行が瞳を向けた夜空には、神楽の街より遠く武天は安神より打ち上がった花火が星の湖に浮かぶ数多の睡蓮の様にその身を爛漫と咲かせていた。 ●祭りの後で 花火が終わり丘から戻った一行を出迎えたのは、祭り帰りの町民でごった返す神楽の街だった。 人ごみを苦手とする煉を気遣い、一行は祭りの終わった会場まで足を運ぶと、辺りには店仕舞する露店の店員や祭りの余韻を楽しんでいる町人達が会話に花を咲かせていた。 「サイ様、本日はいかがでしたか?」 祭りの終わり、そのどこか寂しげな雰囲気を感慨深そうに眺めていたサイに、真由良がそう切り出す。 「はい、皆さんにはとても素晴らしいものをいただきました――」 その問い掛けにサイははっきりとした口調で答え、そしてこう続けた。 「カンタータさんからは明るい笑顔を、煉さんからは信念を、喪越さんからは自由を、天目さんからは人の可能性を、真田さんからは自分のあり方を、出水さんからは優しさを。皆さんから頂いたこの想い、詩にします。私の初めての詩、皆さんへお返しさせてください」 自分へ温かい視線を向けてくれる6人へ、サイは静かにだが力強く琵琶の弦を弾いく。それは、今まで聴いたどの楽とも違う神秘的な音色を奏でる。楽しかったこの一時を伝えようとするサイの想いが琵琶を通して聴くもの全てへ広がっていった。 「――楽しい詩‥‥まるで、今もここだけ祭りが続いてるようですね」 楽に心揺さぶられ、真由良が感嘆の声を漏らす。 「なんだか身体がうずいてくる楽だな! よし、飛鳥いっちょ踊るか!」 「お、おい、ちょっと待て! 俺は踊りなんて‥‥!」 珍しく取り乱した飛鳥をお構いもせず、空也がその背を押し、楽の音に乗って身を踊らせる。つられる飛鳥もたどたどしくではあるが、楽の音に導かれゆっくりと舞い始めた。 「ひゃっはー! 踊れ踊れ! 祭りの後の祭りだ! ‥‥ん? また名言を生み出してしまったか? つくづく自分の才能が恐ろしいぜ‥‥」 どこから調達したのか、喪越がその巨躯祭り太鼓を担ぎ、あろうことか鼓の様に打ち鳴らし始める。 そして時を同じくして、琵琶の楽、太鼓の音に新たに甲高く響く笛の音が加わった。 「‥‥自分の詩、見つけたようだな。真似事でないあんたの詩に俺なりに彩を添えよう」 静かにサイの琵琶に聞き入っていた煉が、足元に茂る草の葉をちぎり、草笛としたのだ。 「あらぁ、素敵な笛の音。煉様もやりますね。わたくしたちも負けていられません! ささ、カンタータ様、ご一緒に」 「え? ええっ!?」 パンと手を叩くと真由良は突然話をふられ慌てるカンタータの手を取り、踊りの輪に加わった。 祭りが終わり片付けに精を出す店員達は、何事かと音のする方へ視線を向けてくる。そして、7人の輪の外、会話に花を咲かせていた人々もこの4人の踊りと3人の楽師の楽しげな雰囲気に惹かれ1人また1人と踊りの輪に加わった。 今や踊りの輪は本来の祭りかと見紛うばかりになっていた。 「見てみろよ。皆いい顔で笑ってるじゃねぇか。皆てめぇの楽に惹かれて集まったんだぜ。もう詩が紡げねぇって弱音は無しだ! これからも聴いてくれる皆に笑ってもらうつもりでやってみろよ。何より、てめぇ自身が笑え! 笑えない楽なんざ、すこぶる不幸ってもんだ。なぁアミーゴ!」 サイの横に立つ喪越が太鼓を豪快に平手で打ちながら、刻一刻とその大きさを増す輪を眺め、そう力強く告げる。 「ええ、楽しんでいただけたこの思い出。今のこの気持ちを詩に乗せることができるあなた様は、その後に触れる全ての事象を等しく詩とする事ができますよ。これで詩無し楽師の汚名返上ですわね」 と、踊りの輪から外れ、サイの元へやってきた真由良もにこやかに微笑む。そして、隣の2人、輪の4人へ向けサイは心から礼を述べたのだった。 その後、神楽の街西の外れ、祭りの余韻を残したこの場所で偶然興った即興一座の宴は、後々まで町民の間で語り草となったという。 |