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■オープニング本文 ●武天此隅とある酒場にて 「彦次! 俺様は今しがたぴかっと閃いたんだ!」 酔いで頬を赤く染めた体格のいい大柄な男が、向かいに座る呑み仲間へ拳を握り締め力説する。 「‥‥‥‥で、今度はどんなこと思いついたんだ、源太郎せんせーは」 またいつものことかと、向かいに座る彦次が源太郎へ気のない返事を返した。 「いいか、その耳の穴かっぽじってよく聞けよ! 今度の目標は、ずばり‥‥遺跡だ!」 酒に酔い、自分にまですっかり泥酔している源太郎は、輝ける未来へと想いを馳せている。 「‥‥‥‥へぇ、そりゃすごい」 酒のつまみを箸でつつく彦次の返事は、すでに棒読みだった。 「こうしちゃいられねぇ! 待っててくれ遺跡さん!!」 すでに目の前にいる友人の姿は、源太郎の目に映っていない。 がたんと椅子から勢いよく立ち上がった源太郎は、わき目もくれず酒場から飛び出した。 「お、おい! まったく、思い立ったら即行動なのは相変わらずか‥‥。はてさて、どうなる事か――っておい! お代置いていけ!!!」 一人机に残された彦次が、源太郎の出ていった酒場の入り口へ駆け寄るが、にこやかに怒る店員に丁重に引きとめられたのだった。 ●翌朝、此隅大通りにて 「はぁ‥‥」 陽もまだ浅い朝、とぼとぼと此隅の大通りを歩く源太郎が、ため息をこぼす。 「お。源太郎せんせーじゃないか。朝から景気の悪い顔してどうした?」 そんな源太郎の背中を見つけた彦次が声をかけた。 「ん‥‥? なんでぇ、彦次か」 源太郎は歩み寄ってくる彦次を一瞥すると、詰まらなさそうに再びとぼとぼ歩き去る。 「なんだ? またうまくいかなかったのか?」 無視された彦次は、いつもの事だと言わんばかりに早足で、源太郎の傍に歩み寄った。 「ほっとけ」 しかし源太郎は、彦次を見ることなくそう答える。 「とにかく、話してみろよ。またうまい解決策が思いつくかもしれないぜ?」 「つまんねぇんだよ‥‥」 とぼとぼ歩く源太郎は、地面を眺めながらそう呟く。 「はぁ?」 あまりに小さく呟く源太郎の声に、彦次が問い直すと。 「一人でいってもつまんねぇんだよ!!!!」 はりさんけんばかりの大声で、源太郎が吼えた。 「っ――!? 朝っぱらから大声出すな!?」 耳鳴りする耳朶を押さえる彦次の抗議。 「なぁ、彦次! 浪漫、浪漫がたりねぇんだ!」 ガクガクと耳を押さえる彦次の肩を揺する源太郎。 「こう、血脇肉踊るような熱い浪漫がよぉ!!!」 源太郎は彦治の肩から手を離すと、眩く煌く朝焼けに向かい絶叫した。 「――そんなに浪漫がほしけりゃ、開拓者に頼めよ‥‥」 「――!?」 大呆れの彦次の言葉に、愕然と目を見開く源太郎。 「どうした‥‥?」 自分の発した言葉に固まった悪友を見て、彦次が問いかけると。 「そ、そ、そ――」 「そ?」 「その手があったかぁぁぁぁーー!!!」 源太郎の絶叫が飯屋にこだましたのだった。 「またかよ‥‥」 果たして彦治の呟きが、源太郎の耳へ届く日は来るのだろうか‥‥。 |
■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
那木 照日(ia0623)
16歳・男・サ
巳斗(ia0966)
14歳・男・志
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
剣桜花(ia1851)
18歳・女・泰
水月(ia2566)
10歳・女・吟
銀丞(ia4168)
23歳・女・サ
佐竹 利実(ia4177)
23歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●洞窟前 「ここか」 静かに響く銀丞(ia4168)の声。 「おぉ‥‥」 その声に源太郎は感嘆の声を漏らす。 源太郎だけではない、洞窟を前にした一行全てが、眼前に広がる闇深きに魅入られていた。 「‥‥なんだか、嫌な雲行きだね」 呟くのは、天河 ふしぎ(ia1037)。空は曇天模様、闇深い洞窟の異様さを更に演出している。 「‥‥」 そんなふしぎに、水月(ia2566)もコクコクと頷く。 「あわわ‥‥なんだかとても不気味‥‥です」 口元を袖で覆う那木 照日(ia0623)の声も震えていた。 「恐れることは無い。皆は私が護ろう」 そう勇ましく、皇 りょう(ia1673)が声をかけるが。 「んー? 皇、おまえ、緊張してるのか?」 銀丞がりょうの肩を叩く。その指は若干震えている様だ。 「な、何をばかな‥‥」 からかう銀丞から、目を背けるりょう。 「りょうも‥‥?」 しかし、背けた先には照日がいた。同類を見つけた照日は、少し嬉しそうに、りょうを見つめる。 「ぐっ‥‥ん?」 言葉につまるりょうの肩を、更に叩く者がいた。 「‥‥」 こくこくと頷く水月だ。 慰めるかのように、その潤む瞳をりょうに向けていた。 「なっ‥‥! ん、こほん――。さぁ、参ろうぞ!!」 一瞬の間の後、一際大きな声を発し、りょうが具足を鳴らしながら、洞窟へと大股で向かって行く。 「くくく‥‥面白いものを見つけた」 腹を押さえ、笑い声をこらえる銀丞。 「あ‥‥いくの、ですか‥‥?」 そんな銀丞に、照日が問いかけた。 「おう、行こうか。冒険の始まりだ!」 覗き込んでくる照日の肩をバンッと叩き、銀丞はりょうを追う。 「‥‥」 そして、水月も力強く頷き、3人の後を追った。 そんな、四人を見送る二つの影。 「源太郎、何を描いてるの?」 「ん? あれあれ」 いつの間にやら取り出した画布一式に、真剣な眼差しで向き合う源太郎に、ふしぎが問いかける。 「あれ?」 源太郎の指を追うふしぎの視線は、洞窟へ向かう4人へ向けられた。 「‥‥百合はどうかと思うんだ。百合は‥‥」 「ん? お嬢ちゃんも入ってないのが不満か?」 持説を力説した源太郎は、ふと考え込み、問いかけた。 「ぼ、僕は男だって前にも言っただろっ!」 「‥‥はいはい」 やれやれと、身振り手振りで呆れる心情を表す源太郎。 「僕は男だぁ!!」 曇天模様の空の下、ふしぎの絶叫が一行の背を押したのだった。 ●迷宮 「そっちはどうですか?」 佐竹 利実(ia4177)が声をかける。相手は樹邑 鴻(ia0483)だ。 「んー、もうちょい。――っと、これでいいなか」 黙々と鍾乳石に向き合う鴻が、満足げに頷く。 「矢印ですか。うまいもんですね」 鴻の肩口から見え隠れする矢印に、利実は感心したように頷く。 「ああ。でもなんだろうな‥‥こう、子供の頃の悪戯を思い出す‥‥」 そんな声に、苦笑いの鴻。 「悪戯ですか。いいじゃないですか、悪戯。俺は好きですよ?」 「いや、まぁ子供の悪戯なら可愛いもんだけどな」 「何を言ってるんですか。俺達はもう大人ですよ? 幼稚な悪戯では、後発組に申し訳が立たないってもんです」 さも当然のように、恐ろしいことを言う利実に、鴻の笑顔が引きつる。 「おいおい‥‥ほどほどにな?」 「ええ、ほどほどに」 引きつる笑顔の鴻に、利実は。 「死なない程度にはしますよ」 にこりと満面の笑みで微笑む。最早鴻には掛ける言葉がなかった。 ●竜泉 「ひぃふぅみぃ――こんなところでしょうか」 床に落ちた護符の数を指折り数えながら、出水 真由良(ia0990)が満足げに頷いた。 「わわっ、真由良さん、これは何かの罠ですか?」 そんな真由良に駆け寄ってきた巳斗(ia0966)が声を掛ける。 「あら、巳斗さん。罠というわけではありませんよ。どちらかと言うと演出でしょうか?」 ツルハシを肩に担ぎ、懸命に走ってくる巳斗に、真由良は笑顔で答えた。 「うわぁ‥‥なんだか禍々しい感じがしますよっ!?」 「うふ、そうでしょう?」 巳斗が驚くのも無理は無い。床に撒かれた護符は泥に汚れ、破れ、血糊に塗れた様な物まであった。 「これって、闘った後か何かの演出ですか?」 恐る恐る床に散らばった符に触れながら、巳斗が問いかける。 「ええ、古い戦いの傷跡‥‥に見えますでしょうか?」 今度は逆に真由良が巳斗に問いかけた。 「はいっ! とっても怖いとおもいます!」 巳斗は、満面の笑みで答えた。 「ありがとうございます。巳斗様のほうはどうですか?」 「はいっ、この泉に張られた縄は随分痛んでいましたので、代わりに新しい縄を何本か張っておきました」 「まぁ、何本も」 「はいっ、何本も!」 「それは楽しい事が起こりそうですわね」 「源太郎さんには、また素晴らしい絵を描いていただきたいですからっ!」 決意を胸に、拳を握る巳斗。 「‥‥」 「? 真由良さ――わわっ!?」 物言わず巳斗を眺めていた真由良が、突然巳斗を抱き締めた。 「ままま、真由良さん!?」 真由良の胸に抱かれる巳斗は、じたばたと暴れる。その顔は真っ赤だった。 「巳斗さんはお優しい方ですね」 一方の真由良は、そんなことなど露知らず。にこやかに巳斗を抱き締めるのだった。 ●一本橋 「‥‥この当たりがいいでしょうか」 松明の炎に見え隠れする、豊満な肢体。剣桜花(ia1851)の姿が妖艶に映し出される。 「いかにも、な所ですね」 桜花の眼前には、朽ちた釣り橋。そして、その下には洞窟よりも更に深い闇が広がっていた。 「やはり、向こうからがよいですね」 ふむ、と軽く頷いた桜花は、おもむろに橋へ足を掛けた。 「‥‥」 ぎしぎしと軋む釣り橋を、桜花は恐る恐る確かめながら進む。 「これでしたら、多少暴れても大丈夫そうですね」 橋を渡り終え、今一度釣り橋を見やる桜花が呟く。 「さぁ、いらっしゃい! わたくしがお相手して差し上げますわっ! ――こほん。こんなところでしょうか?」 高飛車な悪の華から一変、桜花はあーあーと発声練習。 「さて、楽しみですわね」 くすくすと小さく笑う桜花は、松明を谷底へと投げ込むと、闇へその姿を溶かした。 ●洞窟 「ごくっ‥‥」 誰が発したのか、喉が鳴る音が静かな洞窟に響く。 「先に行った皆は無事だろうか‥‥」 りょうの囁きが聞こえた。 「問題ないだろう。奴等も熟練の開拓者だ。下手は踏まんさ」 明るく話す銀丞の声。だが、その声にはどこかしら緊張の色が見える。 「そうだよ、僕達の手でこの遺跡の謎を解き明かすんだっ! この旗印に賭けて!」 ドーンと紅に燃え上がる巨旗を翻し、ふしぎが洞窟に向けて宣誓した。 「ふしぎ‥‥目立ちすぎ‥‥です」 「‥‥」 そんなふしぎの裾を引くのは、照日とコクコク頷く水月。 「うむ、どこに敵が潜んでいるかもしれん。もう少し忍んだほうがよいぞ?」 「んー‥‥まぁ、なんだ‥‥浮いてるぞ?」 更には、りょうと銀丞まで嘆息する。 「なっ‥‥!」 そんな4つの視線に、ふしぎは顔を真っ赤にし俯く。 「‥‥ふぅ」 ふるふると首を降る源太郎にまで、慰められる始末だった。 ●迷宮 「また‥‥行き止まり‥‥です」 袖口で口元を覆う照日が呟いた。 「これで何度目だ‥‥」 銀丞の苦々しい声。ギリッと咥える煙管を噛むと、紫煙が歪む。 「やはり、あの矢印か」 闇に覆われた来た道を見据えるりょうが呟いた。 「手が‥‥加わった後が‥‥ありました」 「盗賊でも住みついているのかも知れぬな」 袖口で口元を隠し呟く照日の言葉に、りょうも頷く。 「まったく、迷宮とはよく言ったもんだね‥‥」 散々翻弄された鍾乳石群を、恨めしそうに眺めながら、ふしぎも呟く。 「‥‥風、吹いてるの」 そんな時、珍しく水月が声を上げた。 小さく澄んだ声音は、静寂に支配されたこの洞窟でなければ、聞き取れなかっただろう。 「‥‥こっちか!」 水月の声に、銀丞が揺れる紫煙を見つめる。 その煙は確かに何かに吹かれ揺れ動いていた。 「よく見つけたねっ」 お手柄の水月をふしぎが撫でる。 「‥‥」 撫でられる水月は、気持ちよさそうに瞳を閉じた。 その時。 「うひゃひゃきゃきゃははははははっ!」 頼りない松明の光を道標に、迷宮を進む一行の元へ、突如木霊す、この世のものとも思えぬ奇声。 「なんだっ!?」 その声に、銀丞が大仰に声を上げた。 「あわわ!?」 驚いた照日はりょうの元へ。甲冑の端を掴み身を隠す。 「‥‥」 そして、照日の後には水月。 「人の声‥‥のように聞こえたが?」 ゆっくりと辺りを窺うりょう。その手はすでに刀の柄に添えられていた。 「木霊して、どこからなのかわからない‥‥」 ふしぎも苦々しく呟く。奇声は乱立する鍾乳石に反響し、その出所がわからない。 「効果覿面ですね」 「なんでそんな楽しそうなんだ‥‥?」 闇に紛れる二つの影。迷宮出口付近で身を隠す利実に、鴻が呟いた。 「そうですか? まぁ、楽しんでますよ。それに、声が目印になればいいと思って」 「‥‥にしては、不気味すぎると思うが」 「演出ですよ、演出。折角の探検ですしね」 「っと、ほんとに出てきた。先に行くぞ」 「はい、行きましょう」 迷宮を抜けた一行を確認し、二人は闇へ消えた。 ●竜泉 「‥‥綺麗」 照日の呟く声。一行の眼前には、松明の頼りない炎に揺らされる、泉があった。 滾々と湖底から湧きでる清水が見えるほど、泉は澄みわたっている。 「神秘的であるな」 「‥‥」 りょうの言葉に、水月も食い入るように泉を眺める。 「ほんとに‥‥今度連れてこようかな‥‥」 一行の最後尾、ふしぎもこの神秘的な光景に魅せられていた。 「ほぉ、面白そうな話だな。詳しく聞かせてもらおうか?」 「えっ!? ななな、何でも無いんだからなっ!」 銀丞の言葉に、ふしぎは慌てて否定するる。 「あんまりからかうと‥‥ふしぎ、燃えます‥‥」 と、照日が少し困ったように割り込んだ。 「ももも、萌えないんだからなっ!?」 「‥‥きっと、字が‥‥違う」 「あはははっ!」 そんなやり取りを眺めていた銀丞は、堰を切ったように大笑い。 「お主達、もう少し緊張感をだな‥‥」 そんな3人を見やるりょうが、嘆息交じりに呟いた。 「‥‥」 そんな時、りょうの具足の端を水月が引く。 「ん? どうした水月殿」 引かれるりょうが、水月が指差す床へと視線を落とす。 「‥‥これは?」 そこには、打ち捨てられた数枚の護符。 「争った跡か‥‥?」 大笑いから一転、真剣な表情で銀丞が呟く。 「先程の声といい、この痕跡といい、何かあるなこの遺跡」 キッと闇を睨むりょう。 「とにかく、こんなところで立ち止まってても仕方が無い。進もうっ!」 そんなふしぎの声に、一行はこくりと頷き、泉へと向かっていった。 「‥‥脱ぐ?」 ぼそりと、照日が呟く。 「な、なんで僕を見るんだっ!」 そんな呟きに、ふしぎが叫んだ。 一行は泉を前に、潜水の準備を行っていた。 りょうは、渋々具足を脱ぎ捨て。 銀丞は、獲物のみ入念に防水。 水月は、丁寧に袴を折りたたみ、携帯長持へ納めている。 そして、源太郎はこれでもかと言うほど入念に目隠をされ、さらになぜか猿轡。うーうーと恨めしそうに唸っていた。 「‥‥誰も見てないから、平気‥‥です」 そう言うと、照日もおもむろに袴に手を掛ける。 「やっ‥‥!? う、うん、そうだよね‥‥」 一瞬、たじろいだふしぎは、惚けるように辺りを見回し、迷いを振り払うように一気に服を脱ぎ捨てた。 「さて、そろそろですわね」 一行が泉へと身を踊らせたのを確認して、真由良が呟いた。 「‥‥」 「巳斗様?」 「は、はいっ!?」 隣でうずくまる巳斗は、これでもかというほど硬く瞳を閉じていた。 「もう、皆様行ってしまわれましたよ?」 「あ‥‥はい、もう大丈夫ですね‥‥」 真由良の言葉に、ほっと胸を撫で下ろした巳斗は、恐る恐る瞳を開く――。 「巳斗様?」 「わひゃっ!?」 が、目の前には真由良の不思議そうな顔。息がかかるほど近くにあった。 「大丈夫でしょうか? なんだかお顔の色がすぐれませんが‥‥」 あわあわと慌てる巳斗の額に、そっと手を添える真由良。 「だだ、大丈夫ですからっ!」 そんな真由良から逃げるように、巳斗が後ずさった。 「? でしたらよいのですけど」 「はいっ! 早く行かないと折角の仕掛けが無駄になってしまいますよっ」 上ずりそうになる声を何とか押さえ、巳斗が真由良に訴えかける。 「そうですわね。行きましょうか」 すくりと立ち上がった二人は、一行の消えた泉へと向かって行った。 「‥‥ぷはっ!」 盛大な水音を上げ、銀丞が湖面より顔を出した。 「‥‥はふぅ」 その隣では、水月が湖面より顔を覗かせている。 「うーうー‥‥」 猿轡をはめられた源太郎も何とか顔を出した。 しかし、湖面に顔を上げたのは、源太郎を含め僅か3人。他の者が顔を出す気配はまるで無い。 「他の者はどうした‥‥?」 陸に上がり、水滴を払いながら銀丞が呟く。 「‥‥」 そんな銀丞に、水月が首を横に降る。 「まさかとは思うが‥‥戻るか?」 一向に現れない後続に、銀丞の発する声にも焦りの色が見える。 「‥‥だめ」 泉を見据える銀丞の裾を必死で掴み、水月が訴えた。 「そうだな‥‥戻れば私達までどうなるかわからんな」 水月に諭され銀丞は落ち着いたのか、源太郎の束縛を解きにかかる。 「‥‥!」 それを見て、水月が慌てて長持をひっくり返すのだった。 「ふぅ、皆さんお疲れ様です」 水に濡れた荒縄を地面へ放ると、巳斗は濡れ鼠の一行へ挨拶した。 「‥‥なかなかの趣向であるな」 濡れる髪を両手で掻き揚げ、りょうが嘆息交じりに呟く。 「びっくりしてくれました?」 そんなりょうに、巳斗は笑顔で問いかけた。 「‥‥びっくり‥‥しました。‥‥いきなり‥‥縄を引かれるなんて」 答えるのは照日。くちゅんと小さくくしゃみをしていた。 「まぁ、お風邪を引かれては大変です。これをどうぞ」 震える照日に真由良が手ぬぐいを手渡す。 「ほんとにびっくりしたんだからなっ!」 ぶるぶると無造作に髪の毛についた水滴を振り落とし、ふしぎが叫ぶ。 「まぁまぁ、ふしぎさん落ち着いて」 うまくいった演出に巳斗は大満足。ぷんとそっぽを向くふしぎに手ぬぐいを渡す。 「よく考えてもみよ、天河殿。ひーろーは遅れて登場するものかもしれぬぞ?」 と、りょうが添えた。 「うっ‥‥」 そんなりょうの提案に、ふしぎはうぬぬと思案顔。 「さぁ、焚き火で身体を温めてください。少し時間があいた方が演出も盛り上がると思いますし」 真由良の指差す先には、暖かそうな焚き火の炎があった。 「うんっ! ヒーローは遅れてこそ、だもんねっ!」 そんなふしぎの鬨の声を、一行は楽しげに見守っていた。 「皆、無事だといいが‥‥」 焚き火を囲み、銀丞、水月、源太郎は後続を待つ。 「‥‥」 銀丞の囁きに、水月もこくこくと頷いた。その時――。 ザシュッ! 「!?」 突如、弾ける焚き火。その中心には、巨大な槍が突き刺さっていた。 「なんだ!?」 突然の出来事に、銀丞は慌てて腰を浮かす。 「‥‥」 そんな銀丞の裾を引き、水月が指差した先には一つの人影。 闇に溶ける漆黒の化粧。目元の朱だけが異様さを際立たせる。 「なんだお前‥‥」 「げひゃひゃひゃひゃっっ!!」 奇声を上げ無防備の三人へ、蛮人が飛びかかった。 しかし。 「そうはさせないんだからなっ!」 ざばーんと盛大な水音を上げて、ふしぎが漆黒の巨刀を手に、間に立ち塞がった。 「ご無事ですか?」 ついで真由良も現れる。 脱落したと思われていた3人、そして、巳斗と真由良が、泉を越え続々と姿を現す。 「‥‥二人が‥‥助けてく‥‥ました」 照日は、巳斗と真由良を指差した。 「とにかく、この敵を!」 巳斗も、矢を番え弓を引き絞る。 「うむ、今は再会を祝している場合ではないな」 すらりと刀を抜き放ち、りょうが蛮人を鋭く見据える。 隣では、銀丞と照日も獲物を構え、戦闘体制に入った。 しかし。 「ダメです! あれは利実様です!」 珍しく悲痛の面持ちで真由良が叫ぶ。 「なに!?」 まるでケモノ如く襲い来る蛮人を、苦々しい面持ちで見据えるりょう。 「ぐっ! すごい力だ‥‥っ!」 蛮人と鍔迫り合いを演じるふしぎが、その膂力に押され始める。 「くそっ! 倒すわけにはいかないのか!」 手詰まりの状況に、銀丞が苦言を吐いた。 「‥‥」 焦る一行から少し離れた所、キッと瞳に力を宿した水月の周囲に、温かな風が生まれた。 「‥‥悪しき風よ‥‥退け! 『神風恩寵』!!」 水月を囲む風は、その加護者を利実に変える。 「がっ!? ぐおおぉおっぉぉ!!」 利実を包む風。その風に利実はもがき苦しみ、ついには倒れこんだ。 「え? なに‥‥?」 突然の出来事に、ふしぎは巨刀を構えたまま、呆気に取られる。 「動かないが、大丈夫なのか‥‥?」 突如倒れ混んだ利実を、りょうが心配そうに見下ろした。 「――ん? ここは?」 皆の心配を他所に、すくりと立ち上がった利実は、辺りを窺う。 「よかった、気が付いたんですね!」 そんな利実に、巳斗が駆け寄った。 「どうやら正気に戻ったようだな」 刀を鞘に納め、銀丞も利実の元へ歩み寄る。 「正気?」 「覚えて‥‥ないんですか‥‥?」 はて、と首を捻る利実に、照日が問いかける。 「うーん‥‥?」 が、利実は相変わらずの思案顔。 「さては、黒幕がいるんだねっ!」 そして、なぜか断定して燃えるふしぎだった。 「行こう。残りの二人が心配だ」 一息つく間もなく、りょうが一行へ声を掛ける。 利実を加えた一行は、更に奥へと進んで行った。 ●一本橋 松明の火を頼りに、闇深い洞窟を進む一行。 「地図では、もうすぐ深い谷間に出るはずなのですが‥‥」 巳斗は、ギルドより調達してきた地図とにらめっこ。 「まぁ、どんなところでしょうね」 そんな巳斗を、真由良は楽しそうに覗き込む。 「きっと心躍る楽園のような場所ですよ」 と、利実が真由良の想像を更にかき立てた。 「まぁ、それは楽しみですわ」 利実の言葉に、真由良は妄想を膨らませてゆく。 「なんだろう、二人の想像している楽園が極端にかけ離れてるような気がする‥‥」 ふしぎの呟きは、二人の笑みに掻き消された。 「‥‥見えたぞ。これか」 緊張した面持ちでりょうが呟く。 そこには松明の火も届かぬ、奈落の闇が広がっていた。 「落ちたらまず助からないですね」 亀裂を覗き込む利実。なんだか嬉しそうだ。 「渡る方法は‥‥これだけ‥‥みたいです」 そんな時、照日が声を上げた。指差す先には、頼り気なく揺れる細い釣り橋。 「こりゃ、大分朽ちてるな‥‥渡れるのか?」 慎重に橋に触れる銀丞が呟く。一行は橋の袂に集まっていた。 「‥‥」 その時、銀丞の裾を引く小さな手があった。 「ん? 水月どうした?」 手の主、水月に、屈みこんだ銀丞が問いかける。 「‥‥水月が‥‥」 小さく呟く水月の手には、太い荒縄が握られている。 「水月が行くっていうの‥‥?」 その荒縄が何を意味するのか理解したふしぎは、水月に問いかける。 「‥‥」 答える代わりに、水月はこくこくと懸命に頷く。 「確かに、この中では水月さんが一番小柄ですけど‥‥」 その小柄ゆえ余計に心配だと言わんばかりに、巳斗が声を掛けるが。 「‥‥」 意を決したように、水月は橋へと一歩を踏み出した。 ギシギシ―― 軋む釣り橋。 眼下には、奈落の闇が大きく口を開ける。 「‥‥もう、少し」 荒縄を握り直し、水月は慎重に釣り橋を進む。 「やった‥‥」 そして、ついに対岸へと辿り着いた。 「‥‥」 くるりと身体を反転させ、水月が対岸に向け大きく手を降ろうかとした、その時。 「ほーっほっほっほ! よく来たわね、貧乳の娘達!!」 水月を後から捕らえる者が現れる。 「貧乳を生かして帰すわけには、いかないわっ!!」 豊かな胸を揺らす、桜花だ。 「特にそことそこっ!」 桜花は、対岸で呆気に取られるふしぎと照日を指差す。 「‥‥指されてるぞ?」 と、銀丞。 「ぼ、僕は男だっ!!」 「‥‥私も」 その事に激昂するふしぎと、静昂する照日。 「ほっ‥‥」 指されなかった巳斗はほっと一息。 「ふっ!」 鼻で笑う桜花の手には、火種の炎が生まれていた。 「これでも喰らいなさい!」 そう叫ぶ桜花は、おもむろに火種の炎を釣り橋に向けて放り投げた。 『なっ!』 ヒュン―― しかし、一条の風に火種は打ち落とされる。 「橋は落とさせはしません!」 巳斗の叫び。手に持つ弓にはすでに次の矢が番えられている。 「小癪な‥‥っ!」 巳斗を睨む桜花。その手に生み出される更なる火種。 「無駄です!」 その火種を正確無比に撃ち抜くのは、またしても巳斗の放った矢だった。 「くっ‥‥」 繰り出す攻撃を尽く打ち落とされる桜花の表情が歪む。 「今だ、行くぞ!」 巳斗の援護を受け、りょうを先頭に一行が橋へと踏み入った。 「そうはさせないわ!」 しかし、桜花は釣り橋の端を掴むと、わさわさと揺らし始める。 「きゃ!」 と、女らしい悲鳴。 「きゃ?」 りょうの後に続く銀丞が、小さな悲鳴に視線を上げた。 「‥‥この程度、なんという事は無い! 行くぞ!」 小さくと咳払いをしたりょうが、勇ましく声を上げる。 「ほぉ‥‥」 にやりと笑みを浮かべた銀丞が、ふぅーとりょうの首筋へ息を吹きかけた。 「ひゃっ!? ‥‥こほん。銀丞殿、このような場所でふざけるでない!」 「あははははっ!」 りょうの抗議に、銀丞は嬉しそうに大笑い。 「お二人さん、いちゃ付いてる所申し訳無いですが、お相手さん、呆れてますよ?」 銀丞の肩を叩く利実が、対岸の桜花を指差す。 「‥‥我を除け者にするとは‥‥もう怒りましたわ! さぁ、ここまでおいでっ!」 ぷぅっと頬を膨らませた桜花は、正面を向いたままに、『月歩』にてすーっと奥の闇に溶けた。 「なっ! 追うよ!」 ふしぎの声に一行は、二人を追い更に奥へと進んで行った。 ●奇岩石 「どこへ、行ったんでしょう」 桜花を追い、洞窟を進んだ一行の目の前に巨岩が姿を現す。 「ほっほっほ! よく追いついてきたわね、貧乳ども!」 その声は遥か高みから。奇岩石の頂上に陣取る桜花が発したものだった。 「‥‥」 桜花の脇では、いやいやともがく水月の姿もある。 「くそっ! 水月、待ってろっ!」 ふしぎが岩の頂上を睨んだ。 「これ、使えそうですよ」 と、利実が指差したのは一本の古い荒縄。 「いかにも罠という感じがしますね」 ふむ、と真由良が悩ましげに縄を見つめた。 「行かぬわけにもいくまい」 「だな」 りょうと銀丞は互いに頷くと、縄へ手を掛けた。 「ボク達も行きましょう!」 残る後続に巳斗が声を掛けた。 滑る岩肌に足を取られながらも、何とか半分を登りきった時。 「ふふ、この縄を焼いたら、どうなるかしら?」 にやりと口元を歪ませる桜花。その手には新たな火種が生み出されていた。 「ほらほら!」 じりじりと桜花の火種が縄を焦がす。 「くっ! 一旦退避だ。降りろ!」 「遅いわ!」 火種の炎は容赦なく縄を焼く。 その時。 「まてーいっ!」 洞窟に響く、一際大きな声。 「いたずらも、そこまでだっ!!」 奇岩石の更に上、壁際にせり出した岩にその身を翻すのは、鴻だった。 「誰っ!?」 突然の声に、桜花が顔を上げた。 「ふっ、誰だと? いいだろう、教えてやろう! 流離の気弾師コウとは俺の事だっ!」 どーんと胸を張る鴻。そして、その手に練気を漲らせる。 「お前の目、俺が覚ましてやる!! くらえっ!」 気合一閃。鴻の手より気功波が放たれた。 ドーンっ! 「なっ!」 鴻の気功波は桜花を掠め、後方に大きな穴を穿つ。 「ちっ、外したか。だが、次は外さんぞ!!」 軽くした打ちした鴻は、再び手に練力を溜めていく。 「くっ‥‥忌々しい! こいつがどうなってもかまわないのっ!」 キッと鴻を見つめる桜花は、その脇に置く水月を前面へと押し出す。 「‥‥」 押し出された水月は、ビクビクと震える。 「人質を取るなど、卑怯だぞ!」 拳に溜めた気に、怒気を混じらせ鴻が叫ぶ。 「ふんっ! なんとでもお言い!」 一方の桜花は、余裕綽々だ。 「‥‥えい」 しかし、そんな隙を見逃さない人物がいた。 桜花と共にあった水月は、何を思ったのか、その小さな身体を宙に踊らせる。 「なっ!?」 驚いたのは桜花。今まで手にあった人質が、消えたのだ。 「わわわ‥‥」 ひらひらと舞うように堕ちる水月。 「っと! おかえり、水月!」 しかし、地面に落ちる寸前、ふしぎが見事に捕らえた。 「これで、気兼ねなく行かせてもらえるな!」 「くっ!」 「正気に戻れ、桜花!!」 鴻の拳が唸りを上げる。 ドゴーン! 「どうだ!」 鴻の放った気弾の一撃に、桜花は体勢を崩す。 「え? きゃぁぁぁ!!」 足元は滑る奇岩石。桜花は足を取られる。 「‥‥危ない!」 滑り落ちる桜花。 しかし、縄を伝い登っていた照日が桜花の腕を取った。 「え‥‥?」 桜花を、照日が見事に受け止めた。 「‥‥ふぁ、ふぁいとー‥‥」 桜花の腕をぐいっと引き上げる照日。 「照日、こっちだ!」 眼下から、銀丞が叫ぶ。 「‥‥はい!」 その姿を確認した照日は、銀丞に託し桜花の腕を離した。 「桜花さん、大丈夫ですか?」 へたり込む桜花に、優しく手を差し伸べる巳斗。 「え? あ、ありがとうございます」 そんな巳斗の行動に、呆気に取られる桜花。 「桜花も操られてたんだねっ! 正気に戻ってくれてよかったよっ!」 と、ふしぎも桜花に手を差し伸べる。 「桜花さん、手を貸してくれますか? 味方は多いほうがいい」 利実もまた、手を差し出した。 「あ‥‥はい」 桜花に手を差し伸べるものは、次第に増えてくる。 桜花は申し訳無さそうに顔を伏せたが、何かを決意したように顔を上げ、差し出された手を取った。 桜花、鴻を向かえた一行は、万全の体制を持って、洞窟の最奥を目指し進んで行った。 ●遺跡 突如、視界が開けた。 「ここか‥‥?」 一行の前に大空洞が姿を現す。 「すごい‥‥」 巳斗の感嘆の声。松明の炎が映し出す遺跡は、数多の緑で覆われていた。 「なぜこんな陽も差さぬ暗闇にこのような木々が‥‥」 りょうの呟き。遺跡に近づくにつれ、色濃い緑の匂いが鼻をつく。 「‥‥いい匂い」 すんすんと鼻を鳴らす水月が、小さく呟いた。 「本当に。とてもいい香りがしますね」 そんな水月の横で、真由良も瞳を閉じ当たりの匂いを感じる。 「おぉ‥‥なんだこれ、すげぇ‥‥」 周囲に備え付けられていた松明に火を灯しながら、鴻が感嘆の声を上げた。 「あ‥‥桜」 ひらひらと舞い落ちるのは春の桜。舞散る花びらを、照日が手のひらで受け止める。 「こっちには向日葵ですよ?」 桜から数歩も行かぬところには、利実と同じ背丈程に成長した向日葵が群生していた。 「これって躑躅ですよね‥‥?」 低木に連なる花弁。紅白の花弁を手に取るのは桜花。 「あ、菊も発見っ!」 数多の花びらを有する独特の円形。咲き誇る黄色い花弁をふしぎが見つけた。 「おっ、枝垂れ藤とは風情があるねぇ」 傷深い顔を笑顔に変え、銀丞が呟く。そこには遺跡の天井から垂れ下がるように華をつける藤。 次々と上がる発見の報告。 まるで遺跡を囲むように、春夏秋冬様々な季節の花が咲き乱れている。 「まさに、百花繚乱。桃源郷とはこのような場所をいうのであろうか‥‥」 りょうの口から漏れた言葉。それは自然と口をついて出ていた。 「うおぉぉ!! なんだかしんねぇがすげぇな遺跡って奴は!!」 源太郎も大興奮で、筆を走らせる。 「うん? あれは‥‥?」 砂煙の合間から、銀丞の瞳に一筋の淡い緑光が飛び込んだ。 「宝珠のようだな。この花々は、宝珠から力を得ているのか」 隣で刀を構えるりょうが呟く。 遺跡の中央にまるで捨てられたかのように無造作に置かれた宝珠。緑の木々は宝珠を中心に広がっていた。 「あれは‥‥繁茂の宝珠?」 淡く輝く緑の宝珠。それは、豊穣を司るとされる農耕用の宝珠だった。 「なるほど、陽も差さない洞窟の奥に、こんな楽園が在るのも納得ですね」 肩に刀を乗せる利実が呟いた。 「‥‥あれ、持って帰ります‥‥か?」 おどおどと照日が呟く。 「‥‥」 照日の問い掛けに、水月も瞳を潤ませ皆を見上げた。 「折角の絶景、もったいない気もするが‥‥」 と呟く鴻は、源太郎へ視線を移す。 「源太郎様、どうされますか? ご依頼人のあなたがきめて下さい」 一行を代表して、真由良が源太郎に問いかけた。 「ん? うーん、そうだなぁ‥‥」 この絶景を夢中で絵に起こしていた源太郎は、真由良の問い掛けに黙りこむ。 「できればそっとしておいて上げたいけど‥‥」 と、源太郎の答えを待つふしぎが呟いた。 「そうですね‥‥こんなに素晴らしい景色、滅多に見られるものではありませんっ」 と、巳斗もふしぎの意見に賛同する。 「うん、決めた! これは置いとく! お前らの言う通り、もったいねぇや!」 皆の期待に答えるべく、源太郎が大声で宣言した。 キーン――。 とても澄んだガラスが割れるような音。 「え?」 気付いたのは巳斗。音の源、宝珠へと視線を移す。 「――割れている」 りょうの呟き。今まで淡い緑光を放っていた宝珠は、その役目を終えたかのように、輝きを失っていた。 「寿命だったのかもしれないな」 銀丞も、残念そうに宝珠を見据える。 「宝珠さん、ありがとう。この絶景はずっと忘れませんわ」 桜花が宝珠に手を合わせる。それに習い、一行も宝珠へ感謝の気持ちを込め、祈りを捧げたのだった。 その後、この一大冒険記は、53枚からなる大絵巻となる。『多路百花之絵巻』と名付けられたその絵には、絵の具として砕けた宝珠が散りばめられたという。 |