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■オープニング本文 ●後方砦 「ねぇ、母さんは?」 「うわぁぁぁーーーん!」 「ここどこ? おうちかえりたい‥‥」 先の大戦の最中、味方の後方を守ってきた砦の一角で場違いな子供達の声がする。 「あーーー! もうちょっと待っててくれよ!!」 この状況に堪りかねた見張りの兵士が怒声を上げた。 『うっ‥‥。うわぁぁぁぁぁーーーん!!』 その怒声に子供達は一瞬黙ったのも束の間、一斉に泣き声をあげる。 「どうした!」 その泣き声を聞きつけ駆け寄ってくる、一つの人影。 「た、隊長!? すみません‥‥私では、とても手に負えません‥‥」 子供達の泣き声の大合唱を聞きつけ、現れたのはこの後方砦の女性隊長『支倉 藍』。その隊長に向かって見張りの兵士は、今にも泣きそうな表情で訴える。 「‥‥代わりの者を手配する。それまで‥‥頼む」 兵士の心情は理解できる。藍はそう言うと見張りの兵士の肩にそっと手を置いた。 「隊長! 輸送隊が突如アヤカシの襲撃を受け壊滅したと報告が!」 その時、藍の元に駆け寄ってきた兵士が大声を上げる。 「う、うええぇぇぇーーーん!」 報告に来た兵士の発した大声に、子供達の泣き声が一層大きくなる。 「うわっ!? ちょっと、こんなとこで大声上げるな!!」 自体の悪化に見張りの兵士は、報告兵に抗議するが。 「報告します! 支援物資の提供が滞っていると各村から抗議が上がっています!」 「輸送路に予定していた橋が倒壊しました! これでは物資輸送ができません!」 「‥‥もういい!」 次々と舞いこむ兵士達の報告を、藍が怒声で制した。 「あ‥‥いや、すまない。報告は書記官へ回してくれ」 呆気に取られる兵士達に、藍は我に帰り隣に控える書記官を指差す。 「はっ! 以後、報告は私が受ける! 報告のある者は一列に並べ!」 藍の命を受け、書記官の一人が代わって指揮を取る。 「‥‥あとは任せる」 そう言い残し、踵を返す藍。その表情は濃い疲労の色で塗りつぶされていた。 「‥‥‥‥」 去り際に大きな深呼吸を一つ。もう一度子供達へ振り返った藍は。 「この大戦‥‥真の犠牲者は彼等かもしれないな」 藍の呟きは誰の耳へも届くことはなく、喧騒に掻き消された。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
相馬 玄蕃助(ia0925)
20歳・男・志
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
王禄丸(ia1236)
34歳・男・シ
佐竹 利実(ia4177)
23歳・男・志
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
小鳥遊 郭之丞(ia5560)
20歳・女・志
秋冷(ia6246)
20歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●陸路 「見えた、湖だ!」 水鏡 絵梨乃(ia0191)が御者台から立ち上がり、眼前に望む湖面を指差した。 「ここまでは予定通りだな」 絵梨乃の声に、鋭い視線で前方を見据える秋冷(ia6246)が囁く。 「うむ、ちらほらと禍々しい気配を感じはしたが、無事に陸路は終えられそうだ」 同じ馬車に乗る小鳥遊 郭之丞(ia5560)も、ほっと一息緊張の糸を解した。 「船は無事着いてますかね」 馬車の周囲を警戒する佐竹 利実(ia4177)が呟く。 「一般人といっても歴戦の兵士達。問題は無いだろう」 答えるは王禄丸(ia1236)。共に徒歩にて警戒に当たっていた。 「いでで! 髷を引っ張るな髷をっ! こ、こらっ! その煙管は玩具では無い! 返すでござる!」 馬車の荷台で子供達と戯れる(?)相馬 玄蕃助(ia0925)は大忙し。 「ふふ、楽しそうですわね、玄蕃助様」 そんな心温まる(?)風景を別の馬車より眺める出水 真由良(ia0990)の腕の中には、二人の赤子が抱かれていた。 「救えなかった命の為にも、せめてこの子達だけは‥‥」 フェルル=グライフ(ia4572)が元気にはしゃぐ子供達を眺め、そう呟いた。 ●湖畔 湖面に夕陽が映る。赤く輝く水面を子供達の元気な行進が弾いた。 「ははは! この程度でへばっていては、わしの様な立派な大人にはなれんぞ!」 玄蕃助は大人気なく、浜辺を全力疾走。追ってくる子供達をぶっちぎっていた。 「ほら皆、手を繋いで。一緒に鬼さんを捕まえよ!」 そんな玄蕃助を、フェルル率いる子供軍団の包囲網が徐々に追い詰めていく。 「なにっ!? 鶴翼の陣ですと‥‥!」 いつの間にか岩場に追いやられた玄蕃助は、迫り来る軍団を前に、じりじりと後退。 「ふふふ。みんな、やっちゃえ!」 玄蕃助を追い詰めた子供軍団は、絵梨乃の掛け声と共に一斉に襲いかかった。 「ぐほっ! こ、こら! 刀は志士の命。触ってはいかん! ちょ!? 袴を引くでない! あ、あぁれぇぇ――」 「おいおい、あまりはしゃぐと危ないぞ」 そんな様子を素顔を晒す王禄丸が、有情の思いで見つめる。 「平和ですわね。このような時がずっと続けばよいのですが」 胸で眠る赤子の頭を撫でながら、真由良も呟いた。 「ああ、その為にも我々開拓者が今以上に力を振るわねばな。――っとごめんよ。ほいほい」 呟く秋冷の周りには子供達の姿。秋冷お得意のお手玉に目を輝かせ魅入っている。 「船はまだ着いていませんね。何かあったのでしょうか」 街道の偵察から戻ってきた利実が、一行に声をかけた。 「もう日も暮れる。今日中に合流したいところであるが‥‥」 合流予定の兵士達の姿は未だに見えない。向かえる郭之丞の顔色も曇り模様だった。 ●夜 「すまねぇ、遅くなった!」 夜も深夜に指しかかろうかという時間。一行が囲む焚き火の元へ兵士の一人が駆け寄ってきた。 「ご苦労様。船は?」 子供達を起こさぬ様、声を落として問いかけるには秋冷。 「ほら、そこに」 秋冷の声音に合わせる様に、声を潜めた兵士が指差した先には、三艘の船があった。 「ありがとうございます。これで皆を送り届けられます」 にこりと兵士達を労うように、フェルルも出迎える。 「結構な急流だったんで、あちこちぶつけちまった‥‥」 そんな二人に兵士は申し訳なさそうに呟いた。 「仕方あるまい。慣れぬ仕事よくこなしてくれた」 子供達が寝入り、再び牛面を被る王禄丸が兵士達を労う。 「今夜はここで野宿になるか‥‥さすがに夜、行軍するわけにも行くまい」 日程の遅れに少し焦りながらも、目の前にある、子供達の寝顔を瞳に映す郭之丞の声は穏やかだ。 「そうですね。やっと眠ってくれたんです。起こすのは可哀相」 郭之丞の視線につられるように、フェルルも子供達の寝顔を見やる。 「うむ。只でさえ強行軍ですからな。少しでも安息の時間を持ってやらねばならぬ」 玄蕃助の言葉に、辺りを警備する一行は頷き、兵士達へ馬車を返し、代わりに小船を譲り受けた。 ●船中 「さぁ! 船出だ! みんな、一緒に押すんだよ!」 河原に上げられた小船の船尾を押しながら、絵梨乃が子供達に声をかける。 「みんな、あっちのお姉ちゃんに負けるな! こっちもいくよ!」 絵梨乃とフェルルの声に、子供達が我先にと2つの船尾へ群がってきた。 「牛ー! いけー!!」 そして、残りの一艘を押す王禄丸の肩には、二人の子供。嬉しそうに王禄丸へ命令を飛ばしていた。 「この面を恐れぬとは、度胸の座った子達だ。将来は、うちの家族に迎えたいものだな」 面のお陰でその表情は知れ無い。だが、王禄丸の声はとても嬉しそうであった。 「こんにちわ。ボ、ボクもふお」 『こんにちわー! あたしはもふこ!』 船上では、二つのぬいぐるみを両手で掴む、郭之丞の腹話術(?)が炸裂していた。 「小鳥遊殿。顔が怖いですぞ‥‥」 玄蕃助の言うように、劇を披露する郭之丞の顔は若干引きつって怖い。子供達も楽しんでいいものやら、戸惑いの表情だ。 「うぐっ‥‥」 玄蕃助の囁きに、言葉を詰らせる郭之丞は、手に持つぬいぐるみで表情を隠す。 「ほら、子供達が待っていますぞ」 そんな郭之丞の肩をぽんぽんと叩き、玄蕃助が指差すのは子供達。 「あ‥‥。あ、あの、お姉ちゃんと遊んでくれる‥‥かな?」 玄蕃助の声に、恐る恐るぬいぐるみの間から、子供達の表情を覗き見る郭之丞。その頬は真っ赤に染まっていた。 『うん!』 一方の子供達は、ようやく聴けたその一言が嬉しくてたまらないと言った様子で、郭之丞の問い掛けに元気に答える。 「ははは! 人間素直が一番」 子供達に慰められる郭之丞の背を、玄蕃助が豪快に笑いながら叩いたのだった。 「佐竹、何を?」 船上で、なにやら作業をする利実に向け、王禄丸が問いかける。 「これですか? いやなに、子供達の体調を記録しておこうかと思いましてね」 そう話す利実の手には、びっしりと文字の書きこまれた手帳が一冊。 「ふむ。体調管理とは気が利いているな」 利実の行為に、王禄丸も感心しきりの様子。 「送り届けた後、孤児院の方へ渡せば、よい資料となりますしね」 再び手帳に目を落とした利実は、交互に子供達を見やり、その都度手帳へ様子を書きこんでいく。 「うむ、良案だな。記録は任せたぞ」 そう呟いた王禄丸は、その巨体を活かし、二人漕ぎの小船にもかかわらず、一人で二本の櫂を漕ぎ始めた。 「真由良さん、本物のお母さんみたいだな」 赤子をその胸に抱く真由良に、絵梨乃が声をかける。 「そうですか? せめて今だけは、親代わりとしてこの子達に安らぎを与えられればと、思って」 赤子に視線を落とす真由良の紫眼は、慈愛に満ちた聖母の瞳。 「ぐずっ‥‥うああぁぁん!」 そんな真由良の想いを知ってか知らずか、赤子の一人がぐずり始めた。 「あらあら、お腹がすいたのでしょうか。うーん‥‥出ないとは思いますが」 泣き喚く赤子を前に、真由良があろう事かするりと上着を脱ぎ始める。 「ま、真由良さん!? 何をしてるんですか!? 周りを見てください!」 無警戒に上着を脱ごうとする真由良を、フェルルが必死に食い止めた。そんな二人には、数多の視線が注がれている。 「あら‥‥わたくしとしたことが。――仕方ありません、これで我慢してくださいね」 ぽむと手を打ち、フェルルの言葉に納得の真由良が、ねだる赤子に自身の指を咥えさせた。 「も、もぉ‥‥男性の方もいらっしゃるんですから、すこしは用心してください」 呆れつつ注意するフェルル。対する真由良は、にこやかにゆるやかに一礼して謝罪した。 「‥‥ちっ、おしい」 そんな二人のやり取りを、じーーーと食い入るように眺めていた絵梨乃の舌打は、聴かなかった事にしておこう。 「ふむ‥‥母乳‥‥尻もよいが、乳も捨てがたい‥‥。い、いや、やはり――」 そんな真由良をちらちらと横目で見やる玄蕃助が、ぼそぼそと呟く。 「相馬殿。妄想と鼻血が駄々漏れだぞ」 同船する郭之丞が溜息交じりに、呆れ顔。 「――これがお前達の置かれた現状だ」 そんな玄蕃助の横では、秋冷が子供達を前に厳しい声を発していた。 「秋冷殿!? 何を言っているのだ!」 慌てる郭之丞が秋冷を止めに入るが。 「最早頼れるものの無い身だ。状況を理解させておく必要がある」 泣く子供達を見据える秋冷の目は、どこか憂いに染まっていた。 「それはそうだが‥‥秋冷殿?」 「あ、いや、何でも無い。この子達には強く育ってほしいものだ」 問いかける郭之丞に、我に返った秋冷は、泣く子供達の頭へそっと手を差し伸べ、優しく撫でる。 「強く生きろ。これからは、お前達自身の手で未来を繋げ」 ぽかんと口を開け、撫でられる子供達。今はわからずとも秋冷の言葉は、子供達の記憶に深く残ることだろう。 ●朝 一寸先も見渡せぬほど濃い朝霧が、一行の乗る小船を包み隠す。 朝日に照らされる靄は、光を屈折させ幻想的な雰囲気を作っていた。 「‥‥嫌な空気だな」 呟く王禄丸は、長槍を音も無く取ると、船の舳先へ立つ。 「アヤカシか!」 別の船では絵梨乃が戦闘体制を取っていた。 「小鳥遊殿」 眠る子供達を起こさぬ様、玄蕃助が同船する郭之丞へ声をかける。 「‥‥気配は無い。だが、あれはなんだ」 心眼に映る気配は無い。しかし、一行の前には確かにそれが在った。 「人影‥‥?」 腰を浮かし、弓を構えるフェルルが首を捻る。 「に見えますね」 その声を継ぐのは利実。一行の向かう先には幽鬼の如く揺らめく白い影。 「気配が無いという事は、アヤカシでは無いのでしょうか?」 湖面に立つ様に揺れる影に、戸惑ったように真由良が囁いた。 「心眼を掻い潜るほどの大物か、それとも‥‥」 いつになく真剣な表情の玄蕃助も、前方の影から視線を外せずにいると―― 「くるぞ!」 王禄丸の声に、一行に緊張が走る。白い影が大きく揺らぎ、こちらへ向け滑るように歩みだした。 「やはりアヤカシなのか‥‥?」 戸惑う声は、秋冷のもの。迫る影に船より身を乗り出し、手裏剣を構える。 「兎も角、この子達に危害を加えさせるわけにはいかない!」 そう叫ぶ郭之丞は白弓に矢を番え、大きく引き絞ると、影に向け矢を放った。 「――!? すり抜けた‥‥?」 その矢は確かに影を捉える。しかし、影を討つことはなく、空しくすり抜けるだけ。 「今度はボクが!」 船の舳先に立つのは絵梨乃。拳に集中させた気を、影に向け一気に開放した。 「どうだ! ――!?」 気功波の衝撃を受け、霧散したかに見えた影は、瞬時にその姿を取り戻す。 「物理も気も効かないとは、難儀なことで‥‥」 遠距離攻撃の手段を持たぬ利実が、影の実態を探ろうと鋭い目付きで見つめた。 「近づいた一瞬が勝負か‥‥」 その手に握る巨槍に目を落とす王禄丸の声には、苦々しいものが交じる。 「みんな、心配しないでね。お姉ちゃん達に任せておいて」 子供達に影の姿が見えないよう、その背で視界を遮り、フェルルが優しく声をかけた。 その時。 「とうちゃん!」 突然、一人の男の子が叫んだ。 「え?」 フェルルが男の子の視線を追う。そこには先ほどと変わりなく向い来る白い影。 「母さん!!」 今度は女の子が。 「おぎゃぁぁ!」 赤子までが、呼応するように泣きはじめた。 「い、いったいどうしたことでしょう‥‥?」 つい今しがたまで、静かに自分の胸の内で眠っていた赤子の泣き声に、真由良も唖然と前方を見やる。 「みんな、落ち着いて! どうしたの!」 突然騒ぎ出した子供達を前に、フェルルが慌てて宥めるが――。 「きた!」 絵梨乃の声。影は手を伸ばせば届きそうな程、至近距離まで近づいていた。 「くっ、事態ははっきりとせんが、放置するわけにも行くまい!」 王禄丸の槍の一突きが影を貫く。がしかし、先の矢と同様に、一瞬崩れた霧はすぐに復元する。 「なにか手立ては無いのか!」 獲物を薙刀に持ち変え、構える郭之丞の表情にも、焦りの色が色濃く映る。 「だめだ! 来る!」 そして、影が船へと接触した。 瞬間、膨れ上がった影は霧と化し、3艘の船を包みこむ。 「なにが‥‥?」 フェルルが、ゆっくりと辺りを見回し呟いた。 辺りの景色は白。まさに絵の具にでも塗りつぶされたかのような、白一面の世界だった。 「これもアヤカシの仕業でしょうか‥‥?」 利実もこの不思議な風景に魅入っている。 「飲み込まれたのか‥‥? それにしては、なんだ――」 「暖かい。いったいどういう訳でござろう」 郭之丞の言葉を継ぐのは、玄蕃助。一行を包むのは、秋とは思えぬ暖かな空気だった。 「なんだか小春日和の縁側にいるような、そんな気分になりますね」 穏やかな空気に当てられたのか、真由良はふぅと幸せそうなため息をつき呟いた。 「うん、だいじょうぶ!」 そこに、最も年長の男の子の声が木霊した。 「え?」 突然の元気のいい声に、絵梨乃が男の子へ振り向くが。 「まかせといて、がんばるから!」 「えへへ――。うん、またねー」 「きゃっきゃ」 各所で上がる子供達の嬉しそうな声。 そして、霧が晴れた。 「い、いったいなんだったの‥‥?」 突如晴れた朝霧に、フェルルが呟く。 「皆無事であった‥‥ということだけは確かだな」 嬉しそうにはしゃぐ子供達を眺め、王禄丸が呟いた。 「奇奇怪怪な現象であった‥‥」 緊張の糸が切れたのか、玄蕃助がぺたんと船上に尻餅をつく。 「ま、まさか‥‥幽霊?」 目を見開き、震える声で郭之丞が呟いた。 戸惑い、顔を見合す一行の乗る船は、変わる事の無い穏やかな湖面をゆっくりと進んで行った。 ●沢繭 夕暮れに染まる漆喰の倉庫群が、一行の目に飛び込んできた。 「どうやら、着いた様ですね」 利実はそう呟くと、櫂を持つ手を休めた。 「みんな、お疲れ様!」 にこりと絵梨乃が子供達へ声をかける。 「みんな元気でね。大きいお友達は、ちゃんと小さい子の面倒を見るんだよ?」 子供達一人一人に、別れを惜しむように頭を撫でて回るフェルル。 「皆、達者でな! それがしの様に立派な‥‥いでで! 髷を掴むでない!!」 最後の挨拶とばかりに、玄蕃助に子供達が群がった。 「あはは、相馬殿、すっかり人気者だな」 玄蕃助をいたぶる(?)子供達を、郭之丞も暖かい目で見つめる。 「ほら、お別れはそれくらいにしておけ」 そう言う王禄丸は、船から桟橋へ、ひょいひょいと子供達を持ち上げては下ろして行く。 「この子達をどうかよろしくお願いしますね」 真由良も腕に抱いた赤子達を名残惜しそうに、職員へ引き渡す。 「皆、強く生きろ。私達はいつでも皆の傍にあるからな」 最後の子供を王禄丸が下ろし終えるのを待って、秋冷がそう呟いたのだった。 桟橋から大きな声で別れを告げる子供達の見送りを受け、一行は船で来た道を戻る。 そんな子供達を眺める瞳には、安堵と共に寂しさが滲んでいたという。 |