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■オープニング本文 ●【一月前】とある洞窟 「こ、これは‥‥」 目の前に突如開けた大空洞の中央。けっして大きいとはいえないがそれは確かにあった。 「やったぞ! 遺跡だ!!」 一行の一人が大声を上げた。 「ついに見つけたのね‥‥」 「これで研究が続けられるな!」 「つ、疲れた‥‥」 各所から上がる歓喜の声。この洞窟を長きに渡り探索してきた一行の誰しもが歓喜に打ち震えていた。 「‥‥喜んでるところ申し訳無いんだけど‥‥」 そんな一行を冷静に見つめながら最後尾の女が声を発する。 「もう時間が無いわ。今日は諦めましょう‥‥」 女の声にも落胆の色が滲む。 「くっ! もうそんな時間か‥‥」 「せっかく目の前に遺跡があるんだぞ!?」 女の声に怒声交じりに遺跡を指差す男。 「よせ! ここで死にたいのか!」 そんな男を隊長風の男が制した。 「確認できただけでも大きな前進だ。今日は引き上げるぞ!」 隊長風の男が一行へ声を掛ける。 「そんな‥‥」 「ここまで来て‥‥!」 歓喜の声から一変、一行の表情は落胆に沈む。 「なぁに、また来月、来ればいいだけさ!」 そんな一行へ隊長風の男が飄々と語りかける。 「遺跡は逃げやしない。道中も把握した。一月わくわくしながら待とうぜ!」 底抜けに明るい隊長風の男の声に、一行も一息つけたように笑みをこぼす。 「さぁ、溺れないうちに脱出だ!」 隊長風の男の一声に隊員たちも「おー!」と景気よく掛け声を上げた。 ●とある宝珠研究所 「見つけたぞ! 遺跡だ!!」 研究所の扉を勢いよく開き、一人の男が飛び込んできた。 「ええ、そうみたいね」 一方、向かえる女はその大発見の報告に別段表情も変えることなく男を向かえる。 「‥‥? なんだ、驚かないのか‥‥?」 きっと歓喜に打ち震えてくれるに違い無いと踏んでいた男が呆気に取られ、問いかける。 「‥‥これ」 女は面倒くさそうに取り出した一枚の紙を、男に差し出す。 「これは‥‥?」 紙を受け取った男が目にした文面にはこう書かれてあった。 『前略 宝珠研究所 御中 朝夕日毎に寒さもまし、囲炉裏が恋しい季節がやって参りましたが、いかがお過ごしでしょうか。 突然の手紙で驚かれたことかと思います。この度、御所が発見されました目出度く遺跡を発見されたと聞き、自分のことのように喜んでいる次第であります。 つきましては、洞窟に在ります「宝」を頂きに参りたく、このような形でのお知らせとなりました。 不躾な文章での通達になりました事、重ね重ね申し訳ございません。 月も見放す闇の夜、海岸線にてお会いできることを楽しみにしております。 お忙しいとは存じますが、どうかよろしくお願いいたします。 では、用件のみですがこれで失礼させていただきます。 夜風の冷たさに負けず、どうかご自愛下さいませ。 草々 怪盗 ポンジ』 「なに!? ポンジだと!?」 男の手紙を持つ手がわなわなと震える。 「知ってるの? いったい誰なの、このポンジって‥‥」 その様子を不安そうに見つめる女がごくりと唾を飲み、男に問いかける。 「いや、知らん」 男は女と同じように面倒くさそうに紙を丸めると、屑箱へと放り投げた。 またもやポンジの予告状はなかったことにされてしまうのか!? 頑張れポンジ! お前の知名度は地に落ちているぞ!? 次回『激走! 宝珠争奪戦!!』こうご期待!! |
■参加者一覧
蘭 志狼(ia0805)
29歳・男・サ
出水 真由良(ia0990)
24歳・女・陰
滝月 玲(ia1409)
19歳・男・シ
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
煉(ia1931)
14歳・男・志
風雷(ia5339)
18歳・男・シ
北風 冬子(ia5371)
18歳・女・シ
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●洞窟前 「わお、これが遺跡に続く洞窟かー!」 月の光も指さぬ新月の夜、煌々と焚かれた松明に照らし出される巨大な風穴を前に北風 冬子(ia5371)が嬉しそうに声を上げた。 「‥‥この奥に古の遺跡か、年甲斐もなく心踊るな」 潮の引いた岩場に軽やかに渡る煉(ia1931)も静かに呟く。 「でもさぁ、また来んだろ? あのへんてこ怪盗」 「のようですわね。この予告状を見る限り、ポンジ様も遺跡探検の浪漫を解されるお方のようです」 目頭を押さえ頭痛を堪える風雷(ia5339)に、予告状に目を落としていた出水 真由良(ia0990)が笑顔で返した。 「浪漫ねぇ‥‥怪盗がそんなもので行動するのかな?」 と、滝月 玲(ia1409)は訝しげに問いかける。 「奴は来る‥‥! 必ずな!」 答えるは喪越(ia1670)。その決意は燃え滾るマグマのよう。 「しかし、どこから来る気でしょ。入口はここだけでしょうに」 幽鬼の如く闇から顔を覗かせる風鬼(ia5399)が呟いた。 「何が来ようと問題ない。邪魔するようであれば斬って捨てるまでだ」 静かに、だが雄弁に語る蘭 志狼(ia0805)。 「そうそう、折角の洞窟探検なんだから、怪盗なんとかさんには邪魔されたくないもんね!」 若干意味合いの異なる闘志に燃える冬子と志狼に。 「では、我々は先行しますかな」 風鬼が風雷と冬子の肩を叩く。 「偵察は頼んだ」 煉の声に頷いた三人は音も無く洞窟へと消えた。 見送る一行。――その時。 「やっべぇ、寝過ごした!」 残る五人の横を風の如く通り過ぎる一つの人影があった。 「‥‥」 なにが起こったのかと呆気に取られる5人を他所に、人影は一路洞窟へと消える。 「えー‥‥今のアレだよね?」 何とか言葉を紡ぎだしたのは玲。 「‥‥はっ! ポ〜ンジ! 逮捕だ〜!」 我に返った喪越がいの一番に洞窟目掛けて飛び出す。 「追うぞ!」 志狼の掛け声に残りの4人は、喪越の後を追い洞窟へと足を踏み入れた。 ●本隊 「くっ‥‥どこへ行った!」 洞窟に消えたポンジに向け玲が叫ぶ。 「‥‥心眼を掻い潜るのか」 ギリッと歯を噛む練の表情も苦々しい。煉の心眼に映る気配は無い。 「‥‥ここは俺が」 と、真剣な面持ちで喪越が隊列より一歩進み出て皆にそう告げた。 「何か策が?」 先頭を守る志狼が喪越に問いかける。 「ふっ、任しときな。奴のことはよ〜くわかってる!」 どこからか湧き出る自信を胸に喪越が大きく息を吸い込み。 「ポ〜ンジくーん、あーそびましょ〜!」 闇に向かい親しみを込め、そう叫んだ。 ‥‥‥‥。 木霊する喪越の叫び。 「‥‥そんなことで出てくるのか?」 そんな喪越の行動に煉が訝しげに問いかける。 「出ていらっしゃいませんね。これは絶交という意味でしょうか?」 一行に変化の無い状況に真由良も小首を傾げたその時、喪越の色眼鏡が光った。 「‥‥そこだ!」 喪越は鋭い眼光が捉えた一点に向け、『斬撃符』を放つ。 ザンッ! 『ぐあっ!?』 闇に木霊す悲鳴。そして、墜落音。 「当てたのか!? すごいぞ!」 喪越の攻撃に玲が感嘆の声を上げる。 「おおぅ‥‥当たった」 しかし、当の本人一番びっくり。 ぴちゃん―― 墜落音と共に舞い上がった水飛沫が晴れた。 「‥‥ふっ! よくぞ見破った! 俺、ただいま惨状!!」 松明の光が照らす闇の中、姿を現したポンジはまさしく惨状であった。90度に折れ曲がった首が、実に痛々しい。 「あの高さから落ちて無傷とは‥‥」 呆気に取られる一行にあって、ただ一人冷静に事を観察していた志狼がポンジに向かって話し掛ける。 「どう見ても無傷ではないと思うが‥‥」 そんな煉のツッコミにも志狼は。 「よほどの手練と見える‥‥」 一人、緊張した面持ちで構えを取った。 「これはポンジ様、御機嫌よう」 そんな志狼の緊張を知ってか知らずか、真由良がてくてくとポンジに歩み寄ると、ぺこりと一礼。 「出水! 危険だ、下がれ!」 叫ぶ志狼は突如『地断撃』一閃。地を這う衝撃波がポンジに襲いかかる。 「おわっ!?」 曲がった首で視界が塞がれたのか、ポンジは避けることなくその一撃をまともに喰らい吹き飛んだ。 「お、おい。やりすぎじゃないのか‥‥?」 さすがに見かねた煉が志狼に声を掛ける。 「っつー‥‥お、治った」 起き上がったポンジはコキコキと首の調子を確かめた。 「まぁ、よかったですわね」 と、そんなポンジににっこり真由良。 「いやぁ、助かった。あんた」 そう言って、ポンジは志狼に隙だらけに近づくと。 「いい医者になれるぜ!」 がっちりとその手を取り、褒め称えた。 「医者だと‥‥俺が医者‥‥医者か‥‥」 最早、強烈な一撃を見舞ったことなど忘れ、悪くないと頷く志狼。 「‥‥あんた達、似た者同士だな」 玲の溜息は洞窟の闇に溶けて消えた。 ●先行隊 「ねぇ、この釦何かな?」 突如しゃがみ込んだ冬子は、細穴の横にある真っ赤な釦(髑髏印)を指差し問いかける。 「あからさま過ぎて言葉もねぇ‥‥」 冬子の身体越しに覗き込む風雷が、それを見て呆れつくした。 「実に興味深いですな。押してみましょうか」 同じく覗きこむ風鬼の指は、徐々に釦へと――。 「うわっ!? ちょっと待て!!」 が、間一髪のところで風雷が制した。 「‥‥ぽちっ」 がしかし、伏兵冬子の指が存在した。 『あ』 はもる声。やっちまったと呆れる風雷と悔しそうに眉を顰める風鬼。 がこんっ! その時、天井から何かの外れる音。 「‥‥嫌な予感がひしひしと」 音の方へ視線を移す風雷を他所に、冬子と風鬼はすでにくるりと反転、逃走中。 「おい! 待てよ!?」 風雷が慌てて二人を追おうとした、その時。 ずどぉぉん! 盛大な音を当て巨石が細穴を塞いだ。 「お約束ですか‥‥」 恐る恐る振り向いた風雷の目に映るは、徐々に迫り来る巨石。 「うおぉぉぉ!!」 悲痛な叫びと共に、風雷も二人の後を追った。 ●本隊 「まぁ、ではお友達の宝を探しにいらしたのですね」 ポンジに寄り添い歩く真由良。和気藹々とした空気の中、本隊はポンジと共に鍾乳石林にまで進んでいた。 「って事は、宝珠が目的じゃねぇのか?」 そんな喪越の問い掛けに。 「宝珠? なにそれ美味しいの?」 ポンジは指を咥えて逆に問いかける。 「宝珠を喰らうだと‥‥お主、アヤカシの類か‥‥!」 刀の柄に手を沿えたまま、キリッとポンジを睨みつける志狼。本隊にあって唯一志狼だけが今だ警戒を解こうとしない。 「食え‥‥るのか?」 煉までこの始末。 「そんなもの食べなくても、いい物あるよ」 そう言って、玲が取り出したのはお手製の焼き菓子。もふらの形をしたそれは、食べる者に言い知れぬ罪悪感を与えるという魅惑の食べ物だ。 「ちゃんと数は用意して――」 玲が、取り出したもふら焼きを皆に配ろうかとした、その時。 「ふはは〜! 速さが足りないぃぃぃ!!」 洞窟の先から冬子がメイド服を振り乱し全速力で戻ってきた。 「お、おい! どうしたんだ!?」 一心不乱に一行を目指し駆けて来る冬子。問いかけた煉に。 「はいはい、避けた方が身の為ですよ」 と、追走してきた風鬼が答える。 「避ける‥‥?」 風鬼の謎掛けに首を捻る志狼を他所に、シノビ二人はひょいっと通路を離れ石林に身を避けた。 「うおあぁぁぁ!!」 続き、絶叫を伴い風雷が石林に現れる。 「お、おい!」 「蘭様、こちらですよ」 風雷に声を掛けようとした志狼を、真由良が手招き。志狼、風雷を除く7人はすでに通路を避け石林へ避難中だ。 ごごごごぉぉ――! 同時に大地に響く轟音が石林へ轟く。 「何事だ!?」 「いいから逃げろ!」 轟音に焦る志狼を風雷が体当たりで石林へと押し込めた。 「ほれほれ」 そんな騒動を他所に石林の中では、玲がもふら焼きをフリフリ。相手はくれくれオーラ絶賛発散中のポンジ。 「‥‥‥‥ぽい」 玲の放ったもふら焼きは綺麗な放物線を描き、一路通路へ。 「わんっ!」 追うポンジ。もふら焼き目掛けて華麗にジャン――ぷちっ。 ゴロゴロゴ―― 「‥‥成仏しろよ。我が好敵手」 過ぎ行く巨石を見つめながら、喪越が合掌。 「ポンジ様、お達者で」 真由良も手拭いをフリフリ、ポンジを見送った。 「‥‥玲、見事だな」 「ふっ、頭脳の勝利だね」 邪笑を浮かべる煉と玲。 「いやいや、これは私達先行組の功績でしょう」 「うんうん、私達の感はやっぱり正しかったね!」 そんな二人に対抗するように、風鬼と風子ががっしり肩を組みお互いを称え合う。 「え、あ、お?」 一人状況を飲み込めぬ志狼は口をパクパク。 「‥‥」 そんな志狼の肩に手を置き、風雷が涙交じりに頷いた。 「悲しみにばかり暮れちゃいられねぇ! 漢の浪漫を求めにいざ出発だ!」 悲しみの淵から立ち直った喪越が、涙ながらに皆に声を掛けたのだった。 ●大空洞 「‥‥止まれ」 光が一層強まってきた大空洞を前に志狼が後続を制す。 「どうした?」 問いかける玲に。 「‥‥いるな」 目を閉じ、暗闇の先に意識を集中していた煉の『心眼』が、気配を捉える。 ぴち―― 「何かが跳ねるような音がしますね?」 目を細め、坂の頂上を覗き込む真由良がそう呟く。 「風鬼雷子、見えるか?」 「まだ見えないですな。あと、名前を混ぜないで頂きたい」 問いかける喪越に、淡々と風鬼が答えた。 「くっ! そう言うことか!」 風鬼の答えに冬子愕然。見抜けなかった自分が、悔しくてたまらないようだ。 「お遊びはそれくらいで‥‥行くぞ!」 心眼を行使する錬を先頭に、一行は坂を上りきった。 ぴちぴち―― 淡い光に包まれた大空洞。その中央に姿を現したのは、ゆうに5mはあろうかという蒼く輝く肢体。牛一頭丸飲みにできそうな程の巨大な口。そして、力強く大地を打つ巨尾。 見る者を全てを威圧する、そのアヤカシの名は―― 「鯖‥‥?」 「鯖だね」 「鯖ですな」 「鯖ですわね」 「なんと面妖な‥‥」 「鯖‥‥さば‥‥」 「まさに、鯖威張ル!」 「あー! 言われた!」 悔しがる冬子に喪越は勝利の笑み。 「‥‥俺、帰っていいか?」 驚愕に暮れる一行にあって、風雷だけは、なぜか疲労困憊だ。 「よぉ、天井裏、お帰りか?」 そんな、傷心中の風雷に声を掛ける者があった。 「変な渾名付けんじゃねぇ! ってポンジ!?」 そう、ポンジその人、華麗に復活。 「まぁ、ポンジ様お帰りなさいませ」 驚き飛び退く風雷に代わり、真由良がポンジを温かく出迎えた。 「生きていたのですな。意外としぶとい」 そう呟く風鬼に。 「はっはっは! あの程度、屁でもねぇ!」 ポンジは無駄に高笑い。 「で、アレどうする?」 そんなポンジは無視して、玲が指差すのは巨大なアヤカシ。 「鯖だしよ、3枚に下ろしちまえばいいんじゃねぇか?」 蒼く輝く肢体に向け喪越がそう問いかける。けして鯖では無いが。 「放っておいたら勝手に死ぬんじゃないの? 鯖だし」 「侮ってはいかんぞ。例え鯖であっても、背ビレを飛ばす。など突拍子も無い攻撃にでるやもしれん」 「でるかなぁ‥‥あ、動かなくなった」 玲の目に映るアヤカシが、ついにその動きを止めた。 「死にましたかな?」 「いや、まだ生きているな」 煉の『心眼』に映る気配。アヤカシはまだ息があった。 「おお? あの鮪、死にそうだな。よっと――」 「いや、鮪じゃねぇし‥‥」 風雷の呟きはたぶん聞こえない。ポンジは無造作にアヤカシに近づくと。 ザシュ。 苦無を一閃。アヤカシの脳天と尾びれの根元に一撃を加えた。 「ふぅ、これで良しと」 汗を拭うポンジは一仕事終えた男の顔。 「死んだ‥‥いったい何をした?」 『心眼』に映る気配が消えた。煉は訝しげにポンジに問いかける。 「ん? 血抜き」 ポンジの無駄知識に、一行が愕然としたのは言うまでも無い。 「さてと宝珠っての取りに行こうか!」 アヤカシをあっさり打ち倒したポンジが叫ぶ。 「あら? お友達の宝が目的なのでは?」 そんな叫びに真由良が問うと。 「宝珠ってのも欲しくなった!」 ポンジは言い切った。 「‥‥まずいな」 つかつかと遺跡へと近づいて行くポンジを前に、煉がぼそりと呟く。 「なぁ、ポンジ」 「ん?」 「あんたあの有名な怪盗なんだろ?」 「ゆ、有名!? そう! 巷で騒がれてるのは、何を隠そうこの俺!」 煉のお世辞に、ポンジは少し気恥ずかしそうに、だがとても嬉しそうに胸を張る。 「やはりそうか、ならサインを貰いたいんだが、かまわないか?」 「サイン!! し、仕方ねぇな――」 ポンジはくるりと反転、小躍りしながら煉の元へ駆けつけた。 (さ・き・に・い・け) と、そんなポンジを横目に、煉が瞬き5回。一行へ合図を送る。 「‥‥」 「風鬼様、どうなさいました?」 煉の合図を確認した風鬼が、突如赤面し黙りこんだ。 「あ・い・し・て・る‥‥か。何もこのような所で告白などしなくても」 「まぁ煉様も隅に置けませんわね」 「たぶん違うと思うよ‥‥」 「極限の状態では、往々にしてあることだ」 志狼が悟ったように頷く。 「とにかく、宝珠を確保しようよ!」 冬子の囁きに一行は頷くと、そろりと足音を殺し遺跡へと向かい歩き出した。 ●遺跡 「あった。これか‥‥」 小さな祠の中央の台座に鎮座する淡く輝く宝珠。それを玲が取り上げる。 「綺麗な宝珠ですわね」 人の拳ほどのそれを真由良もうっとりと見つめた。 「他に何にもねぇな‥‥」 宝珠へは目もくれず遺跡を家捜ししていた喪越が残念そうにため息をつく。 「そうですな。遺跡というから、期待していたのですが」 同じく家捜し班の風鬼も詰らなさそうに呟いた。 「目的は達せられた。時間も迫っていることであるし、早々に退場するとしよう」 志狼の声に一行は、宝珠を回収し遺跡を後にする。 「あー、あったあった」 一行が遺跡の外へと出た瞬間、大空洞の端でうずくまっていたポンジが、何かを拾い上げた。 「‥‥それは?」 戸惑う玲の問い掛けに。 「これ? 友達の宝」 でーんと一行の前に突き出された物はどう見ても普通の独楽。 「いやぁ、大変だったぜ――」 そう語りだすポンジ。内容はこうだ。 一月前の洞窟のある崖の上、ポンジと近所の子供達は喧嘩ゴマで遊んでいた。 勝ち進み、残るのはポンジとガキ大将。 激しい一騎討ちが繰り広げられる中、ポンジの渾身の一撃がガキ大将の独楽へヒットする。 大きく弾かれたガキ大将の独楽はころりんころりんと坂を転げ落ち、とある切り株の根元に開いた穴へと――。 「お、大人げねぇ‥‥」 呆れる風雷。 「見つかってよかったですわね」 と、微笑みかける真由良に。 「おう! これでいじめられずに済むぜ‥‥」 そう呟くポンジの表情には安堵の色が浮かんでいた。 無事宝珠を回収した一行は、ポンジと共に洞窟を後にした。 一行が発見した宝珠は『月光の宝珠』。満月の如く淡く輝くその宝珠は、照明用の宝珠として研究が進められているという。 |