【負炎】紛れるは人中
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/27 01:15



■オープニング本文

●理穴のとある村
「お、お前はなんだ!?」
 一人の男が目の前に立つ人影に奇声を上げた。
「な、何で俺がいるんだ‥‥」
 目の前に立つ人影は、まさに今見据える男を鏡で写し取ったかのように同じ姿をしていた。
「呑み過ぎちまったか‥‥?」
 男はあるはずの無い光景に、眼を擦る。
「‥‥だめだ、今日は大人しく返って寝よう‥‥」
 いくら眼を擦ろうが、目の前の自分が消えうせることは無く、男は諦めたように背を向けると一路自宅へと歩みだした。
「‥‥」
 その時、影が動いた。
「‥‥ん? うがっ!?」
 静かに距離を詰めた影が、男に襲いかかったのだった。

●別の道

「な、なんだ?」
 どもる大男の視線の先には、いつもの呑み仲間。
「お前調子悪いのか? 顔色が優れないぞ?」
 呼ばれた男はどこか虚ろにこちらを眺める。
「‥‥」
 虚ろな瞳の男が返事をすることはない。
「お、おい。ほんとに大丈夫か? 今日は酒場行くのやめとく――え?」
 心配そうに虚ろな男を眺める大男の視線がある一点に釘付けとなった。それは、自身の腹。
「な、なにを‥‥」
 衣を朱に染めるその一点。虚ろな瞳の男が何の前触れもなく大男の腹に小太刀を突き立てていた。
「‥‥」
 崩れるように地に伏す大男を、無関心に眺めていた虚ろな男は、突如発光したかと思うとその姿を歪ませる。
「‥‥」
 そして現れたのは、凹凸の無い黒き人型。人型は地に伏す大男に覆いかぶさるように身を沈めると、大男に同化し捕食を始めた。

 翌日になり、この謎の行方不明事件は一箇所だけ出なく同時多発的に発生していることが判明する。この異常事態に恐怖した村人たちは、開拓者へ解決を依頼することを決めた。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
ミル ユーリア(ia1088
17歳・女・泰
輝夜(ia1150
15歳・女・サ
のばら(ia1380
13歳・女・サ
煉(ia1931
14歳・男・志
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
紅蓮丸(ia5392
16歳・男・シ
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰


■リプレイ本文

●街郊外
「人に成り変わり人を喰らう‥‥移し身を使うアヤカシですか」
 一人街外れを歩く流麗な巫女、朝比奈 空(ia0086)が呟いた。
「映す相手次第ではいくらでも強くなるアヤカシ‥‥放置しておく訳には行きませんね」
 そう言うと空はくるりと体を返す。
「その姿で何をするつもりですか?」
 振り向いた先に在ったのはもう一人の巫女の姿。
「‥‥」
「語る言葉も持たぬのですか」
 虚ろなる瞳でじっと自分を見据える自分の姿に空は落ち着き払った声でそう告げる。
「その姿で人を喰らう‥‥ぞっとしませんね。その姿、渡すわけには参りません!」
 そして、決意の一言を持って空が影へと駆けた。

●夜道
「へぇ」
 闇の中から突如現れた影にミル ユーリア(ia1088)は感心したように呟いた。
「はい、みっぎ上げてー」
 はいっとミルは突然、右手を挙手。すると、目の前の影も合わせたように右手を上げる。
「おぉ! 面白いかも!?」
 ミルは嬉々として左脚上げたりくるりと回ったり。そして、それを完璧に真似る影。
「さて、もうちょっと遊んでたいけど、ここまでよ! あたしに真似た事後悔させてあげるわ!」
 今までのおどけた表情を一変させ、ミルが構えと共に大地を踏みつけた。

●草原
「ほう、これは見事なものじゃな」
 月夜に照らされた草原に風が吹きぬける。月光に浮かぶ影に輝夜(ia1150)が感嘆の声を上げた。
「姿形のみならず、構えまで真似よるとはの」
 一分の隙も無い構えを取る自分を見据え、輝夜の感心はより一層増す。
「と、感心ばかりしていても拉致があかぬか。どれ、お手並み拝見と行こう」
 影に合わせる様に輝夜も柄に手を沿え、体を落とす。
「さぁ、己が実力、我が力を持って確かめるとしようか!」
 輝夜の咆哮を合図に、草原を吹き抜ける風の如く、二つの影が音も無く交わった。
 
●雑木林
「そこです!」
 林間に揺れる影に向けのばら(ia1380)がビシッと指を突きつけた。
「隠れているのはわかっています! 正々堂々、勝負しなさい!」
 のばらの気合一閃。その声が闇を揺らめかせる。

「‥‥まるで鏡でも見ているようですね」
 現れた闇は、小さな体躯に流れる茶髪。まさにのばらの生き写しであった。
「っとと、感心している場合ではありませんね! 偽者に負けるわけにはいきません! 己が力に打ち克ってみせます!」
 抜き放った刀を正眼に構えたのばらは、一直線に影へと駆け出した。 

●河畔
「ここでいいだろう‥‥」
 街より随分と離れた川原をゆるりと歩く煉(ia1931)が呟いた。
「‥‥」
 寡黙な煉に常に同じ距離を保ちつつ付き従う様に歩む影。
「‥‥まさか自分を相手に戦う事になるとはな」
 体を返し、影に向き会う煉は、静かに瞳を閉じる。
「その姿で俺になり変わるのか‥‥冗談じゃない。あの人達には指一本触れさせるわけにはいかない」
 ぼそりと呟く煉。その表情には怒りが滲む。
「その姿でふらふらと人前に現れる前に、この場で潰す!」
 そして、閉じた瞳をカッと見開いた煉の言葉には力強い想いの力が込められていた。

●大通り
「さぁ、どこからでもかかってきなさい!」
 すでに刻は深夜。街の大通りの中央で、でんと仁王立ちの野乃原・那美(ia5377)が闇夜に叫んだ。
「んふふ‥‥自分を切り刻めるなんて‥‥」
 うっとりと悦に入る那美。
「いったいどんな斬り心地なんだろう‥‥んもぉ! 早く出てきなさいよ!」
 ここに立ってすでに半刻。今だ姿を見せないアヤカシに焦らされる那美はダンっと地を踏んだ。
「‥‥ふふ〜ん、ようやくお出ましの様ね」
 その時、背後に突如気配が現れた。那美は待ち人の到来にニヤリと口元を上げ振り向く。
「あは、ほんとにボクそっくりだね! それじゃ始めようか。どっちが本物のボクかを賭けてね!」
 その言葉が終わるより早く、那美は影へ向け駆け出していた。 

●夜空
「おわっ!」
 飛来する礫の雨を紙一重で避けながら紅蓮丸(ia5392)が、屋根から屋根へと飛び逃げる。
「これはまさに奇奇怪怪。まさか自分に追いかけられるとは思わなかったでござるよ!」
 寸分違わぬ速度で追ってくる影に、紅蓮丸は速度を落とすことなく逃げ続ける。
「っと! 危ない危ない、でござるよ」
 その時、今まで紅蓮丸が居た場所を影の放った苦無が貫いた。
「さぁ、こっちでござるよー」
 紅蓮丸は迫り来る影を挑発するようにお尻ぺんぺん。そして、次の屋根へと飛び移った。

●廃寺
「捨てられた寺か。俺達にぴったりじゃねぇか、なあ?」
 朽ち果て倒壊寸前の廃寺でブラッディ・D(ia6200)が笑い声を上げた。
「‥‥」
「なんだぁ? 無口な奴だなぁ」
 つまらなさそうにブラッディが見据える先には、闇夜に溶けるような黒き衣に映える赤い頭巾。
「俺の真似するなら、もうちっと愛想よくしねぇとなぁ?」
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ブラッディが駆ける。
「さぁ、存分に楽しもぉじゃねぇか! 殺し合いをよぉ!!」
 ブラッディの突進を合図にしたかのように、影も大地を蹴った。

●街郊外
 二つの渦に空間が歪む。
「くっ! 無駄うちが過ぎますよ‥‥!」
 歪む空間は渦と渦の対消滅により何事もなかったかのように平静を取り戻す。
「‥‥練力の消耗戦に付き合う義理はありません!」
 影が放った次の『力の歪み』を身を屈め辛うじてかわした空が影へ向け駆ける。
「こういう戦い方もできなければ、開拓者としては半人前!」
 術を放った隙を突き、一気に距離を詰めた空が刀を抜き放つ。
「巫女だからといって、後方支援ばかりではありませんよ!」
 虚をつかれた影が辛うじて刀に抜き放ち空の一撃を受ける。が。
「詰めが甘いですね!」
 防がれた太刀を何の躊躇いも無く手放した空が懐から一つの刃を取り出す。
「今度現れる時は、経験も映せる様になる事ですね!」
 そう言うと、空が落とした体を持ち上げる。

 シュン――

 一迅の風と共に空の一刃が影の喉を掻き切った。

●夜道
「接近戦で消耗しあうほどお人好しじゃないのよ! はっ!」
 接近戦では互角と悟ったミルは影へ向け苦無を投げ放つ。しかし、影は体を捻りかわすと同時に気功波を放った。
「わわっ!」
 影の放つ気功波を間一髪で避けたミルは後方へ大きく跳躍する。
「ふぅ、さすがあたし。遠くからの攻撃じゃ当たらないか」
 再び構え直し相手を見据えるミルが呟く。
「じゃ、こういうのはどうかな!」
 影へ向け再び駆け出すミルは同時に拳に練力を漲らせる。
「鍛えに鍛えたこの技、受けてみなさい!」
 影の間合いへ踏み込むと同時にミルは『骨法起承拳』を影へと放つ。しかし。

 ザっ!

「そりゃ避けるわよねっ!」
 鼻先を掠ろうかという距離でミルの攻撃を避けた影は一転、反撃へ移るろうと身構えるが。
「でも、終わりじゃ無いんだな、これが!」
 間合いを外した影をミルは逃さない。後ろ手に腰帯に隠し持った棍を取り出し、体を回転させる。
「こんな戦い方、アヤカシさんには理解できないかな?」
 棍の長さが間合いを埋めた。裏拳の如き痛烈な棍の一撃が影の側頭部を激しく打つ。
「本物は偽者より奇なり、ってね!!」
 よろめく影に向け、攻撃の手を緩めることなくミルが吼える。
「今度はもっと可愛く化けることね、そうすれば勝てるかもよ!」
 微笑むミルの放つ渾身の『骨法起承拳』が影の鳩尾を打ち抜いた。

●草原
 草原に二陣の風が舞った。

 ザシュ――。

「技も互角、力も互角か」
 幾度にもわたって切り結んだ相手と向き合う輝夜が呟く。
「なんとも厄介なアヤカシじゃの」
 輝夜の手に握られているはずの刀は、遥か彼方の大地へと深々と付き刺さっていた。
「‥‥」
 同じく刀を失った影は脇差に手をかけ引き抜く。
「同じ獲物でやりあってもただの消耗戦じゃの」
 ぽつりと呟く輝夜は、相手の出方を見るよりも早く、踵を返し――。
「きゃーたすけてー」
 わざとらしく悲鳴を上げた輝夜が走り出した。
「‥‥」
 影が直線的に輝夜を追う。しかし。
 
 がさっ。

 草に紛れる闇手が影の足をすくった。
「!?」
 突然転倒した影の足元には蛇のように絡みつく荒縄が幾重にも張り巡らされてる。
「ふむ、避けるのが不得手な所まで似るのはの」
 頭を上げた影の前には、長槍を手にした輝夜の姿。
「ただ姿形能力だけ真似てもその程度じゃ。出直してくるんじゃな」
 矢の如き一穿。輝夜の長槍が影の額を貫いた。
 
●雑木林
「はぁはぁ‥‥」
 身体に数多の刀傷を受けたのばらが肩で息をしながら、闇を見つめる。
「あれはのばらの剣‥‥惑わされてはいけませんっ!」
 自分に言い聞かせるように呟くのばらの先には、ゆらりと蠢く影。
「あんな禍々しい太刀筋が母様の剣のはずがありません‥‥!」
 そう言うと、のばらは突然太刀を大地に突き刺した。
「それを確かめさせてもらいます!」

 トサッ――

 のばらはおもむろに身につけた具足を脱ぎ捨てる。
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあり。母様が教えてくれた事の一つです!」
 身体を守る防具はすでに無い。防御を捨て、再び刀を手にしたのばらが。
「いくら真似ても、その太刀は母様の剣には遠く及びません!」
 自分の迷いを吹き飛ばすように力強く言い放つ。
「それを判らせてあげます! 想いの違い、その身に刻みなさい!!」
 そして、大上段に構えたのばらは『強力』を発動。
「終之太刀『捨絶』!!」
 のばらの最後の『両断剣』が、受け止めようと掲げた影の刀ごと断ち切った。

●河原
「獲物まで同じとはな‥‥」
 影を見据える錬の口から苦言が滲む。
「そうと判っていれば他にも戦いようがあったんだがな‥‥」
 すでに数合と切り結んだ相手の実力はまったくの互角。
「だが、剣の腕だけが勝敗を決するとは思うなよ‥‥!」
 そう言うと煉はおもむろに刀を鞘へと納める。
「地の利を用いるのが俺の戦い方だ」
 そして、煉は川面に頭を出した岩へ軽々と跳躍した。
「‥‥」
 そんな煉とは対照的に、影はばしゃばしゃと盛大な音を立て川へ入り突き進む。
「そんな様では、到底俺の映し身とは言えないな‥‥」
 あまりに直線的な自分の影を眺める煉は嘆息交じりに呟く。
「‥‥」
 その時、影が大きく跳躍、その手に持つ刀を高々と掲げ煉へと飛びかかった。

 キーンッ!

 夜の河原に火花が走る。影の捨て身の一撃を刀を掲げた煉が『受け流し』で防ぐ。
「いい一撃だ! だが、俺はそんな直情的な戦い方はしない!」
 ぎりぎりと鎬を削る刀を見つめ煉が吼える。
「金輪際、俺に化けようなどと思わぬことだな‥‥!」
 刹那、煉の懐刀の『雪折』が一閃。影の腹を薙いだ。

●大通り
「斬るのは好きでも、斬られるのはあんまり好きじゃ無いんだけど!?」
 身体の各所に痛々しい傷、艶かしい衣装は切り裂かれ、更に妖艶になっていた。
「もうっ! 急所狙わず、じわじわ斬り刻んで楽しもうと思ってたのにっ!」
 愚痴る那美。その向かいには同じく多数の傷を負い、装束を切り裂かれた影の姿。
「でも、お遊びはおしまい! ちょっと本気だすんだから!」
 言い終わるよりも早く、『早駆』で風を纏った那美が影へと突っ込む。
「‥‥」
 同じくして『早駆』を行使し那美へ突撃を開始する影。
「だから、遊びはおしまいって言ったでしょ!」
 二つの影が交わった――かに見えたその時、那美が『木葉隠』を発動。突如その姿を消す。
「!?」
 いきなり目の前の目標を見失った影に一瞬の隙ができた。
「どこみてるの?」
 声は遥か天上から。声に誘われ影が天を仰ぐ。
「水遁『雪崩悲雨』!!」
 那美の声に呼応するように現れたのは雨。降り注ぐ大量の水撃が影を容赦なく打ちつけ、視界を遮った。

 ぴしゃん――

 辺りを覆う豪雨の爆音の最中、場違いに澄んだ水音が一つ辺りに響いた。
「ふぅ、なかなか楽しかったよ! でも、きみじゃボクには勝てなかったようだね!」
 水遁が作り出すスコールを突き抜けた那美が、逆手に持った短刀を一閃、影の首を跳ね飛ばした。

●夜空
 屋根から屋根へ、まるで踊る様に飛び移る紅蓮丸を、影は執拗に追いかける。
「お、あったあったでござる」
 そんな折、紅蓮丸の目に飛び込んできたのは一つの井戸。
「では、いざ行かんでござ――!?」
 目的の物を見つけた紅蓮丸が屋根を飛び降り、井戸の袂へ脚着こうかとしたまさにその瞬間、一本の苦無が紅蓮丸の脚を捉える。
「ぬぅ、ぬかったでござるな‥‥」
 紅蓮丸の身体は、重力に引かれるまま井戸の中へ。

 ドポン――

 遠くに聞こえる水音を影は無表情に見つめ井戸へと歩み寄る。
「なーんてね、でござる!」
 影が井戸を覗き込もうとしたその時、井戸より躍りでる赤き影。
「ほい、これ差し上げるでござるよ」
 宙に身を踊らせた紅蓮丸が何か影に向け放った。

 パリーン。

 響く音色はガラスの破砕音。紅蓮丸の投げたのは烈火酒ヴォトカの入ったビン。
「無用心すぎるでござるよ!」
 地に降りた紅蓮丸は即座に地を蹴り、酒を浴び驚く影との距離を零にする。
「紅蓮流火遁『縮紅涙』!!」
 紅蓮丸の手にした苦無が紅の炎を纏い、影を貫く。 
「燃え尽きろ、でござるよ!」
 炎は気化した酒に引火、爆発的な焔と成り二人を包んだ。

「あちち‥‥この技、ちと改良が必要でござるなぁ」
 水の守りを受けた紅蓮丸は衣を犯す火種を消しつつ、黒く焦げ倒れ行く影を見つめた。

●廃寺
「さぁ、かかってきな!」
 挑発するように影を手招きするブラッディ。
「‥‥」
 その挑発に乗ったか乗らずか無言の影には闘気が満ちその体は朱に染まる。
「おっと、きたきたー」
 影の発動した『泰練気法』にブラッディの口元に不敵な笑みが浮かぶ。
「三十六計逃げるが勝ちー!」
 そんな影にブラッディはまるで負け犬の如く踵を返し、全力疾走逃げ出した。

「そろそろか?」
 どれほど逃げ回っただろう。二人は場所を移し、廃寺の奥、最早参るものも無く崩れた墓石が並ぶ墓場へと移動していた。
「‥‥」
 影も脚を止め、再び気を練る――が。
「キャハハ! 打ち止めか?」
 影のスキルは発動しない。それをまるで羽根をもがれた蛾でも見るように、ブラッディが笑う。
「周りが墓とはおあつらえ向きだなぁ、ええ?」
 周りを見渡しブラッディが吼えた。
「弱いものいじめか、うん、いいねぇ! 残りは俺のターン! 存分に遊んでやるよ!」
 吼えるブラッディは足元の大地に向け『空気撃』を打ちつける。
「!?」
 巻き上がる土煙が石飛礫を含んで影へと襲いかかる。虚をつかれた影の反応が一歩遅れた。
「獲物は大人しく狩られときなっ!」
 ブラッディの双拳に集まる緋き気。『泰練気法』を発動したブラッディが咆哮と共に影へと駆ける。
「いくぜ! 『ハウリングバイス』! 喰らいなっ!!」
 土煙を突き抜け一瞬にして影との距離を詰めたブラッディの緋き双拳は、影の頭頂と顎を同時に捉えた。

 その時、街の8箇所から同時に狼煙の如き瘴気の霧が、夜空に高々と立ち上ったのだった。