鉄の刻限〜無限の渇き〜
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/07/18 20:23



■オープニング本文


 武天の首都『此隅』に程近い場所に『東達』という街がある。
 かつては越中家という有力氏族が所領とした地であったが、当主の謀反により越中家はお家取り潰し、東達 も現在は巨勢王の直轄領となっていた。

 街は此隅へと向かう旅人や旅商人もよく利用し、活気にあふれる宿場町。そして、武天の街の例に漏れず武芸が盛んで、街の至る所からは武芸者達の威勢のいい掛け声が聞こえてくる。
 そんな武芸者の街は、今ある話題で持ちきりだった。

●東達
 家々から漏れる宝珠の明りが仄かに街を彩る。
 天には月。
『きゃぁぁぁぁ!!』
 どっぷりと暮れた夜も夜に、甲高い乙女の悲鳴が木霊した。
「ふっ、貴様が噂の辻斬りか」
 悲鳴を上げ逃げた女郎の事など気にも留めずに、田村は目の前に忽然と現れた影に呟いた。
「‥‥」
 月光に浮かぶのは鮮血の円。血の様に真っ赤に染めた番傘は暗い夜にもよく映える。
「この俺に狙いをつけるとは‥‥運が悪いな」
 番傘のおかげで顔を確認できないものの、田村は目前の男の正体を瞬時に悟る。
「‥‥お前の『強さ』いかほどか」
 女郎の悲鳴を聞いて集まる野次馬の事などまるで気にもせず、番傘の男は刀を抜き放ち切先を田村に向けた。
「馬鹿が! 俺が何の準備も無しに街を出歩いていたとでも思っているのか!」
 田村は威勢と共に柄に手を添える。辻斬りの噂を噂と笑い飛ばすのは容易い。
 しかし、田村はそれをしなかった。次の標的が自分になる事を計算に入れ、わざと街を出歩いた。
 それも自らの腕に溺れる事をせず、辻斬りの行動を予測し念には念を入れる。身体に帷子を着込み、道場一と謳われる名刀を持参した。最早、死角なし!
「噂の程、俺が確かめ‥‥‥‥え?」
 刀を握ろうと柄に添えた手に感触が伝わってこない。
「‥‥遅い」
「う‥‥うがぁあああぁぁぁっ!!」
 ようやくぼとりと何かが地に落ちた。
 それが自らの手首から先だと気付くまでに、数秒を要する程に唐突な一撃であった。
「くそ‥‥! 腕が、俺の腕がぁぁ!!!」
 凹凸一つなく切り取られた腕の断面からはとめどなく血が流れ落ちる。
「貴様からは得るものは何もなかったか」
 冷たく平坦な声が背後から聞こえる。
「‥‥もう用は無い」
 そして足音が。
「くそ‥‥くそぉぉ!! 貴様、一体何者――」
 断末魔の叫びをあげる事すら許してもらえず、田村は黒刀の一撃に沈んだ。

●闇に響く声
「まるで刀が語りかけてくる‥‥」
 血の池に倒れ込んだ骸を見下ろしながら、感情の起伏などまるで見いだせない平坦な声が囁きかける。
「怪盗など得体の知れぬ者に頼るより、最初からこうしておけばよかったな」
 奪い取った獲物に視線を落とし、五本の指にギュッと力を込める。
「力がみなぎる。これが――の見ていた世界か」
 指の内に握られた漆黒の柄。
「――の元を去り諸国を回ってみたものの、――以上の者は無かった」
 視線を辿らせれば、闇の鍔。
「まるで――の魂を具現化した様だ」
 波紋すらない漆黒の刀身は、畏怖する程に美しい。
「――の『強さ』。我がものに」
 男にとって、この刀は完全なる武の象徴。
 妖刀魔刀と揶揄されようとも、瘴気塊と非難されようとも、最強が手の内にある。
 持ち主を狂気に落とすとされる狂刀に魅入られている事すら、男には悦楽であった。

●志憧館
「関来道場もやられたそうだ」
「ふん! 所詮奴らは二流ということだ!」
「だけど、紫電の田村もいたんだよ?」
「何が紫電か! あのようなひょろっこい剣筋で二つ名を名乗る事自体がおこがましいわ!」
 夏でもひんやりと冷たい床の間にどっかと腰を据える大男『左門』がフンっと鼻を鳴らす。
「そうかなぁ、田村さんの達筋凄くかっこよかったんだけど」
 残りの二人と円座を組む小柄な少年『新田』は、残念そうに俯いた。
「しかし、枚乃剣術堂、関来道場と続いた。次は」
 と、寡黙な青年『古屋』が言葉をきる。
「とうとう、うちか! 何時でもかかってこい、返り討ちにしてくれるわ!」
「紫電の田村さんを倒した程の手練かぁ。どんな剣を使うんだろう」
 左門と新田。それぞれ剣筋は違えどこの道場の三指の一人。
 生粋の犬歯である二人には強敵と噂の辻斬りを前に、臆するどころか心躍るのは仕方のない事。
「まだ次の標的がうちと決まった訳じゃないぞ」
「ふん! ならこっちから倒しに行ってやるぜ!」
「えー、待ってよ! 僕が先だよ!」
 すでに刃を交える事に心躍る二人は古屋の言葉など耳にも届かないのか、立ち上がり道場を出口へ。
「‥‥私を忘れてもらっては困るな」
 そんな二人を見送っていた古屋。
 薄く口元を吊り上げたかと思うと、すっと音も無く腰を浮かせた。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
喪越(ia1670
33歳・男・陰
水月(ia2566
10歳・女・吟
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
煉谷 耀(ib3229
33歳・男・シ
刃香冶 竜胆(ib8245
20歳・女・サ


■リプレイ本文

●志憧館
 武芸者達が集う東達には、街のあちこちから威勢のいい掛け声が響いていた。
「僕はもうこれ以上誰一人傷付いて欲しくないんだ‥‥だから、だから力を合わせて!」
 道場に通された天河 ふしぎ(ia1037)は、迎えた師範代三人を前に深く頭を下げた。
 しかし、師範代の一人新田はふしぎの台詞に腹を抱えて笑い転げる。
「あははっ! お兄さん、面白い冗談だね!」
「なっ! ぼ、僕は本気なんだからなっ!」
 彼自身どうしてここまで他人の事を心配しているのか分からない。
 しかし、この依頼を見た時から胸の中が疼き、嫌な結末を予感させるのだ。
 だからふしぎは必死で三人に訴え掛ける。
「心配しねぇでも、俺達の誰かが倒してやるさ。お前達は昼寝でもしてな」
 だが、その想いは三人の心には届かず、子供を宥めるように返して来るのは左門。
「ぐっ‥‥」
 話を破綻させるわけにはいかず、グッと堪えるふしぎに代わり、水月(ia2566)が声を上げた。
「‥‥あれは普通の辻斬りじゃないの‥‥貴方達じゃ相手にならないの」
「おいおい嬢ちゃん、それは聞き捨てならねぇなぁ?」
 すかさず左門が反応し、水月は表情を変えずに淡々と、しかし若干の棘を含ませて語った。
「‥‥貴方達の実力は知らないけど、一道場の師範代程度じゃ辻斬りの足元にも及ばないの」
「ほぉ、言うねぇ。ならお前達ならその辻斬りを倒せるとでも言うのか?」
「‥‥その為に来たの」
「‥‥くく、はははっ! こりゃ可笑しい! その成りで辻斬りを倒すってか!」
「背格好は関係ないの」
 明らかに小馬鹿にするような左門の態度に、流石の水月も眉を顰める。
「くく‥‥はぁ。わりぃな笑っちまって。だがな、そう言われると尚更引けねぇ」
 道場を背負う師範代という立場である以上、はいそうですか、とは引けはしない。
 開拓者達の必死の説得も空しく話し合いは平行線を辿った。

「問答は無用か。‥‥いや、その方が早いな」
 進展せぬ雰囲気に限界を感じたか、無言を貫いていた竜哉(ia8037)が立ち上がる。
「言っても判らない木偶には、それなりの判らせ方がある」
 そう言い放つと殺気を込めた視線を三人に向けた。

●東達
 独特の賑わいを見せる東達は、武芸の盛んな街だけに、通りを行く人々も武芸者然とした者が多い。
「ここが関来道場か」
 そんな武芸者の街にあって尚、大きな道場に掲げられた看板を前に呟いた喪越(ia1670)は、躊躇無く門をくぐると、弔問に来た者達に混ざって葬儀の行われている道場に上がり込んだ。

 坊主が経を読み上げる中、弔問者は田村の遺骸に献花し、手を合わせる。
 そして、喪越の番となり――。
「‥‥御免」
「なっ!?」
 田村の遺骸に手を合わせていた喪越が、突然死者の衣に手をかけた。
「な、何をするんだ、貴様!」
 弟子達が掴み掛ってくるが、喪越は振り払う事もせず、露わになった『斬り傷』を睨みつける。
「‥‥骨まで一刀、躊躇い無し。見事、としか言いようのない業よ」
 田村に刻まれた傷はたったの二つ。
 一つは初手で斬り落とされた右腕、そしてもう一つが致命傷となった胸の傷。
 なおも引き剥がしに掛る弟子達を無視し、喪越は致命傷の傷に手を当てた。
「‥‥これは」
 命の灯の温もりが失われた身体から伝わる冷たさを指先に感じながらも、ある一点で指を止める。
 丁度心臓のある部分に違和感を覚えた。
「焼けている‥‥?」
 斬り口は先程同様、見事としか言いようがない。
 しかし普通であれば大量の血が噴出し白くなった肉が見えるだろう。
「粗相をしたな。仏には十分な供養をしてやってくれ」
 そうして立ち上がった喪越は、一度遺骸に手を合わせると道場を後にした。

●通り
 通りに並んだ店々もやはり武具を扱う店が多い。
 そんなある意味物騒な通りをゆるりと歩きながら煉谷 耀(ib3229)は、ふと隣を見た。
「‥‥あれは朱藩の刀匠戒村の作。むむ、こちらは理穴の名工恵宝の作ではありんせんか」
 普段は無言実行をよしとする刃香冶 竜胆(ib8245)が、町娘の様に眼を輝かせ店々を物色していた。
「‥‥目的を忘れるなよ」
「わ、判っていんす」
 二人は何気なく街を歩いている訳ではない。
 町人から情報を仕入れると共に、今までに辻斬りが襲撃を行った場所を洗っているのだ。
「次が三人目、棍術の六角が倒された所だ」
 と、耀が通りに沿って流れる水路の対岸を指差した。
「ここも水路の近くでありんすか」
 今までの襲撃件数が10件、順番は違えどその内の9か所を見て回った結果、半数が水路付近で起きている。
「ただの偶然‥‥にしては、無視できない確率の様に思いんすが‥‥」
 船や水術など懸念材料は多数あれど、ならば水場の近くを避けようと言う結論に至る。
「辻斬りの襲撃時間は判っているんだ。地の利はこちらで用意出来る」
「そうでありんすな。相手は相当に強い様子、不確定であっても不安材料は消すに限りんす」
 そうこうしているうちに二人は最後の襲撃場所に辿り着くが有益な情報は無く。
「そろそろ手合わせも終わった頃か」
 街を染める茜色の空を見上げた耀が呟き、二人は仲間が居る道場へ足を向けた。

●志憧館
 二刀が二対、計四本の木刀が激しく交錯する。
 新田の師範代という肩書は伊達ではなかった。
 しかし、ふしぎとて二刀で数々の死地を切り抜けてきた身。
「こんな‥‥こんな所で立ち止まってる場合じゃないんだ!」
 言葉での説得が無理ならば相手以上の力で斬り伏せるしかない。
 新田とふしぎは、距離を取ると木刀を構え直す。
「絶対に協力して貰う! この剣で!」
 ふしぎの構えた刀が業火を纏い、そして、新田が構えた刀にも炎が。
「まさか、奥の手まで一緒だったなんてね。さぁ、いくよっ!」
「くそっ! 煌めけ、夢の翼!!」

 ひらひらと真黒の花びらが舞う。
「何時まで逃げてるつもりだ!」
 黒の花びらを散らさんと、木刀が唸りを上げ襲いかかる。
「ちっ‥‥これじゃ何時まで経っても終わらねぇ」
「‥‥諦めて協力してほしいの」
 左門が繰り出す剛剣を水月は尽く避け続ける。
「それは勝ってから言いな!」
 しかし、左門は焦る事無く再び剣を振り上げると――。
「うおぉぉぉ!!」
「っ!? 咆哮!」
 震える空気が辺りを支配し、刀を注視していた水月の視線が強制的に左門に釘づけされ――。
「もらったぁ!!」
 剛剣の切先が水月の視界から消えた。

 空気の振動ですら切欠になりそうな静寂。
 すでに数十分、二人の剣士は微動だにせず相対していた。
 柄に手を当てたまま動かぬ古屋に、まるで動じぬ竜哉。
「‥‥いつまでもこのままというのも芸がないな。俺から行くぞ」
 硬直していた空気が竜哉の側から膨張する。
「ハッタリは利かんぞ」
「ハッタリかどうかは、その身で味わえ」
 膨らんだ鋭い剣気が一気に古屋の間合い円を侵食。
 それと同時、古屋が剣を抜く。
 研ぎ澄まされた剣気が一気に膨らんだ。

 ――結果として師範代達の説得に成功した開拓者達。
 しかし彼らは、6人揃って予想外の疲労を抱え込む事となった。

●深夜
 満の月はそろそろ天頂か。もうすぐ日が変わる。
 それが何を意味するのか誰もが理解していた。
 街の中心から少し離れた、小さな祭りなら十分開けそうな広場は時間も相まって人通りは皆無。
 そんな中、虚無僧に扮した喪越に耀は問いかけた。
「人気は無いが良いのか?」
「問題無い。話によれば辻斬りは野次馬には興味を示さぬ。だが、逆を言えば『見せて』いるの可能性もある」
「‥‥無人であれば逆に警戒するか」
「可能性の一つだがな」
 耀は声だけを響かせる。
「ともあれ、我等は急襲の刃。機を見誤るなよ」
「承知」
 それ以降、耀の声はぱったりと途切れた。

 道場から移動して来た6人の、一目見ただけで判る疲弊具合に、竜胆は半ば呆れていた。
 怪我は治癒術でどうにでもなるが、疲労となれば話は別だ。
「そこまで打ちあう必要がありんしたか‥‥? 辻斬りが愛想尽かさねばいいのでありんすが――」
 しかし、その心配は杞憂であった。
「来んした」
 二丁先の曲がり角、そこから発せられる殺気がそれを証明していた。

●決闘
 篝火に真紅の番傘が揺らめく。
「手間が省けたか」
 広場に集った7人をゆっくりと見渡し、辻斬りと呼ばれた男は抜き身の刀を肩に乗せる。
「お前達の『強さ』いか程か見せてみろ‥‥」
 師範代を含む手練7人を前にしても辻斬りは全く臆しない。
「随分と余裕でありんすね‥‥余程、手前の腕に自信がありんすか」
 淡い光を放つ霊剣を掲げ、竜胆は師範代達の前に立ち塞がる様に位置を取った。
 師範代達と共闘しつつも護るように立ち塞がる開拓者達を一瞥し、辻斬りは声に不快を滲ませる。
「武を追う者、異形と戦いし者。果たしてどちらが真の強者か。‥‥見せて貰おう」
 そう呟いた瞬間、辻斬りの身体が夜の闇に消え――。

「なっ‥‥!」
 気付いた時にはもう遅かった。
 声を上げる間もなく竜哉の真横で古屋の身体が崩れる。
 辻斬りは刀に垂れる一滴の血を払い落すと、再び黒刀を肩に乗せた。
「馬鹿な‥‥腕の動きどころか、風切音すら聞こえないだと‥‥?」
 視覚はもとより五感すべてを使って辻斬りの動きに注意していた。
 しかし、背後に回った辻斬りはそれすらも凌駕する。
「出し惜しみをする気ならやめておけ。その男の二の舞になるぞ」
 それは一人欠けた一行に向けた忠告だった。


「お前の力を見せてみろ」
「けっ! 言われるまでもねぇ!」
「相手の口車にのっちゃダメなの!」
 辻斬りの挑発に乗る左門を、水月が小さな体で必死に止める。
「うるせぇ! 嬢ちゃんは引っ込んでな!」
「引かないの! 冷静さを失ったら、勝てるものも勝てなくなるの! だから、落ちつくの!」
 出る左門に止める水月。そのせめぎ合いの中‥‥。
「くだらぬ友情に散れ‥‥」
 辻斬りはそう吐き捨てると、刀に灯った炎を解き放つ。
「だめぇぇ!!」
 左門を護ろうと飛び込んだ水月もろとも、紅蓮の炎が包み込んだ。


「はぁぁぁっ!!!」
 怒涛の4連撃。
 最も避けにくいとされる心臓への突きを初手とし、避けられた所を横薙ぎ。そして、一閃を持って急所を狙う。
 更に距離を取った所へ叩きこむのが地斬撃。
「‥‥なかなか面白い繋げ方だな」
 一撃ごとが必殺の刃。しかし、辻斬りはその尽くを避けたのだ。
「受け流しでありんすか‥‥」
 最後の一撃を繰り出した姿勢で止まる竜胆が小さく呟いた。
 それは志士が使う初歩的な回避術。
 しかし、その練度たるや‥‥。
「そこかぁぁ!」
 だが、竜胆渾身の4連撃はまるで効果が無いと言う訳ではなかった。
 ふしぎはその隙を見逃さず一気に距離を詰めると、本体ではなく番傘を狙い一撃を放った。
「‥‥小癪な真似をする」
 暗闇へと転がっていく深紅の番傘。そして、露わになる辻斬りの素顔。
「や、やっぱりお前だったのか!」
 予想していたとはいえ、現れた旧知の顔にふしぎの動きが一瞬止まる。
 それが最大の隙となった。
「この程度の奴に斃されたとは‥‥口惜しかったでしょう、田丸麿様」
「なっ‥‥がはっ‥‥!」
 瞬間、辻斬りの姿はふしぎの背後にあった。

 死闘を繰り広げる戦場から離れた物影で見えぬ視線だけは常に辻斬りの動きに注視する。
 辻斬りの動き自体、手練であると感じさせるが剣士のそれとは少し違う。
 どちらかといえば狩人。森中で獲物に狙いを定める鋭い視線はまさにそれだった。
 ならば、何故志士やシノビの技を?
 喪越は考えを巡らせるうちに、ある一つの確信に辿りついた。
(あの辻斬り‥‥いや、『技』を使うのはあの刀か)
 それが喪越の行きついた答え。
(正攻法は分が悪いか‥‥ならば)
 喪越は『陰』へ向け、小石を投げ入れた。

 それを切欠に篝火の炎が一際輝きを増す。

 トンっ。

「む‥‥」
 燃え上がる篝火により濃くなった影に打ちこまれた苦無に、辻斬りの表情が曇る。
「今が好機でありんす!」
 竜胆始め、攻撃に加われる者がこの隙を狙い一斉に剣を向けるが――。
「ふん、動きを封じようと、無駄な事」
 辻斬りの黒刀から確かな威力を持った剣気が無数に吐き出される。
 鎌鼬となった剣気の嵐が一行を襲う中、辻斬りが予想もしていなかった男が動く。

「‥‥これで剣は使えまい」
「‥‥伏兵か。だが、自殺とは救いがないな」
 背から飛び出した黒刀。
「ふん、大した価値も無いこの命だが、そう簡単に取れると思うなよ?」
 貫かれた腹から逆流した血が口の端を伝いながらも、喪越は辻斬りの身体をがっちりと掴み‥‥にやりと笑った。
「やれ! 長くは持たんぞ!」
 それが合図。
 陰に潜み息を殺していた耀が月明かりの元へ姿を晒し、一直線に辻斬りへと影を渡る。
 ザンと確かな手ごたえと共に、耀の短刀が月光を受けて光り輝いた。
「まだいたか」
 千切れた藍の袖が宙を舞う中‥‥。
「くっ、裂いたのは薄皮一枚か‥‥!」
 喪越が捨て身で作った隙に虚を突いた耀の一撃すら辻斬りは紙一重でかわした。
 喪越の腹から黒刀を引き抜きその切っ先を耀に向ける。
「くっ‥‥!」
 隙の少ないシノビの技とはいえ、避けられれば少なからずの隙が生まれる。
 それを辻斬りが見逃すはずはない。
「無駄死にだったな」
 黒刀が耀に迫る。だが――。
「人の死に無駄を押し付けるのはやめるんだな」
「‥‥まだ動けたか」
 新たな影が動いた。
 ずっと守勢を貫きダメージを最小限に抑えていた竜哉が、耀への必殺の一撃を間一髪食いとめた。
「武器に頼るその戦い、哀れだな」
「‥‥なに?」
「貴様の戦いは全て武器の威力に頼っている。貴様の意思など一欠けらも無い」
 竜哉が辻斬りの刀を受け止めた木製の杖に、黒刀がめり込んでいく。
 だが、竜哉に焦りの色は無い。
「ふん、ならば貴様の言う武器頼みの男に斬られて死ね!」
 黒刀に力を込める辻斬りに対し、竜哉は杖先を――引き抜いた。
 木製の杖から現れる極細の刀身が月光を反射し、一気に辻斬りに振り下ろされる。
「仕込杖か‥‥!」
 虚を突いた竜哉の奇襲にも、辻斬りは紙一重で反応しすぐさま黒刀を引く。
 極細の刃から逃れる様に大きく跳躍し距離を離した辻斬りに、次なる一手が。
「右重心が甘い!」
 竜胆はじっと見ていたのだ。刀の創造者として、辻斬りが使う刀の違和感を。
 竜哉の奇襲に大きく隙を作った辻斬りの左半身に、竜胆の渾身の突きが決まった。
「くっ‥‥」
 ついに深手を負った辻斬りに、耀、竜哉、竜胆、そして新田が距離を詰めていく。
「もう観念しんす。その怪我で四人相手はできんせん」
 霊刀を水平に構え、じりじりと距離を詰める竜胆。
「‥‥開拓者、流石だ。やはり実戦に勝る強さ無しか」
「なに‥‥? なっ! 待てっ!」
 ひと飛びで屋根まで跳躍した辻斬りは、見上げる一行を見下し告げる。
「外れと思っていたが、収穫は‥‥あったな」
 そう言い残すと、辻斬りは闇へと消えた。