双頭 〜幻歌〜
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/02 19:59



■オープニング本文

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「あ‥‥」
 まただと思うより早く、穂邑(iz0002)は瞳を伏せて己の内側に意識を向けた。
 脳裏に響く歌を欠片も聞き逃すまいとする少女の心には、同行してくれた開拓者への申し訳なさと、役に立てない己への悔しさが募っていた。
(だめなのです‥‥こんな気持ちじゃ最後まで歌を聞けない‥‥)
 体の中のぐるぐるを何とか抑えようと深呼吸を繰り返す事、四度。
 少女の足が地面に滑らかな円を描き始めた。
 もしも傍で見ている他人がいれば、突然踊り出した彼女を訝しんだだろう。
 しかし、穂邑はそれでも構わなかった。
 指先まで神経の行き届いた両腕が肩の高さまで上がり、空に波を、風を、‥‥時を、呼ぶ。
 脳裏に響く音楽を忘れまいと、聞こえて来る限りの旋律を舞と言う形で体に刻むために。
(お祭り‥‥)
 笛に太鼓、聞こえて来るのは祭囃子?

 シャララン――。

 ――シャラララン。

 この地の人々が平和であれ、この土地が豊かであれ。
 祈りと共に消えゆく祭の喧騒を境内の隅で並んで見送っていた二匹の獣は、巫女の少女が帰って来ると忠犬よろしく彼女を出迎えた。
『今日も神社を護っていてくれたんだね、ありがとう』
 二匹の頭を撫でる手の温もり。
 ありがとう、と見せてくれる笑顔。
 そして、聞かせてくれる歌。
 命の恩人である彼女を、獣達はきっととても好いていたから。
『お祭りは賑やかで、楽しいから、終わってしまった夜はとても寂しくなってしまうね』
 言いながら獣達の頭を撫でる少女の笑顔は、普段より少なからず寂し気で。歌う声も悲しそうで。
 唐突に二匹の獣が腿の上にぽふっと頭を乗せて来たので、少女は一瞬驚き、すぐに微笑んだ。
『そうだね、君達がいてくれるから寂しくないよ。‥‥これからも一緒に、神社を護ってね』
 そして毎年祈ろう、この土地の人々のために。
 皆の笑顔が決して曇らない様に――。

(それ、だけ‥‥?)
 穂邑は心の中で目を瞬かせた。
(え? え? 本当にそれだけなのですか?)
 歌――正確には祭囃子に重なる鼻歌のような旋律だったが、そこから呼び起された記憶は。
 ‥‥そう、これは記憶だ。
 何百年も昔の、あの神社にいた巫女と二匹の獣の記憶。
 神社を護ってねという、その言葉が約束‥‥?
(じゃあ宝って何なのです??)
 そもそも誰が其処に宝があると言い出したのだったか。
(えっと、えっと‥‥もしかして、ですけど。あのケモノさん達が守ってるのは宝なんかじゃなくて、約束‥‥?)
 まさか巫女の少女は二匹の獣がケモノとなって数百年の先まで生き続けるとは思わなかったに違いない。
 しかし現実に二匹のケモノは神社を護っている。
 であれば、ケモノ達に約束の終わりを告げたら。
(‥‥あれ? でも、どうして私がこんな記憶を?)
 脳内に幾つもの疑問符を浮かべながらも、無意識にしっかりと舞い終えるのは巫女の性と言うべきか。
 足首に装備している鈴がシャラランと涼やかな音色を響かせてピタッと制止した、直後。
 穂邑を包み込んだのは大勢の拍手喝采。
「素敵な舞だったよ!」
「良いもの見せて貰ったぜ」
「おねえちゃんきれー!」
 次々と掛かる賞賛の声に、穂邑の顔は真っ赤、思考は真っ白。
「ぁ、ぁ、‥‥しっ、失礼しましたっ!」



『そうだな、祭りの終わる三日後だ。それまでに答えを聞かせてもらおうか』

 濃茶の装束に身を包んだ首領が放った言葉。
「遂に今日‥‥」
 姿を現したあの時放った期日は、今日ちょうど期限を迎える。
 開拓者達は何を思い、どう行動するのか。

 『約束』を守る為にこの地にとどまるケモノと過去の『記憶』の物語。
 その終焉を見つめるのは、はたして‥‥。 


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
水月(ia2566
10歳・女・吟
銀雨(ia2691
20歳・女・泰
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂
コニー・ブルクミュラー(ib6030
19歳・男・魔
ヘイズ(ib6536
20歳・男・陰


■リプレイ本文


 定畳山の麓から朝日が昇る。
 夏真っ盛りの山では、もそもそと起き出したセミ達が早速の大演奏会を開始していた。
「期日だ。答えを聞かせてもらおうか」
 じっとしているだけで汗が滲んでくる中、全身をすっぽりと覆う濃茶の装束に身を包んだ首領が言い放った。
「何度も言うが、答えは変わらねぇよ。この依頼は受けた俺達がケリをつける」
 覆面から唯一覗いた突き刺すような視線にヘイズ(ib6536)はきっぱりと答える。
「‥‥いいだろう。ならば日没までに依頼を達成できない場合は、我々は全力でケモノを狩る。もちろんギルドに失敗の報を入れてからな」
「ああ、好きにするといい。けどな、治める側の人間として仕方なく調べたって事でどうにか収まらねぇのか」
「‥‥日が変わる頃のまた来よう。良い報告を期待する」
 覆面に覆われた口元を歪ませる首領に、ヘイズは問いかけたが、望む答えは得られなかった。
「‥‥仕方ねぇか」
 地這衆の消えた森を見つめ、ヘイズは決意を改める。必ず争いの無い解決を見せてやると。


「社を街の中にかい?」
 街の相談役と紹介された恰幅のいい女将の元を訪れた水月(ia2566)は、こくこくと何度も頷く。
「‥‥山の社のケモノさん達が街に移ってこれる様にしたいの」
 依頼の内容通りにケモノを追い払ったとして、追い払われたケモノはどうなるのか。
 水月は依頼を解決した先のことまで考え、街の有力者に声をかけていた。
「社を街にかい‥‥?」
 しかし、女将の反応は快いものではなかった。
「大体、相手はケモノなんだろ? 危なくないのかねぇ」
「だ、大丈夫なの! とっても心優しい子たちなの!」
 どうしても怪訝な表情を崩せない女将に、水月は珍しく声を荒げ説得する。
「そりゃまぁ、今まで神社のケモノの悪い噂は聞かないさ。でもねぇ‥‥」
 しかし、女将の態度に変化は見られない。
 むしろ何故そこまでケモノに固執するのか不思議に思っている様にも見えた。
「お嬢ちゃんも見たんだろ、あのケモノ」
 女将の問いかけにくっと口を結んでこくこくと何度も頷く水月。
「あんなもんが街の外れとはいえ、街中に居ちゃぁ、やっぱり落ち着かないと思うんだけどねぇ」
 少女の必死の頼みを女将も無碍に断れないのか、返す言葉は歯切れが悪い。
「まぁ、皆に聞くだけ聞いてみるよ。だけど、あんまり期待しないでおくれよ?」
 と、少し困った様に会話を打ち切った女将に、水月は頭を下げるより他なかった。

●前門
「これで判ってもらえたでしょうか」
『んー‥‥ま、いいし』
 渋々と言った感じではあったが、ケモノの答えに御調 昴(ib5479)とコニー・ブルクミュラー(ib6030)はホッと胸を撫で下ろす。
 そして、二匹のケモノが左右から見下ろす中、ついに神社の境内に足を踏み入れた。
「とても神聖な感じがしますね」
 玉砂利が敷き詰められた境内は、辺りで大合唱を繰り広げている蝉の声もどこか遠くに聞こえる、不思議な静けさに包まれていた。
 コニーと昴は石畳の上をゆっくりと朽ちた社へ向け歩を進める。
「境内に雑草一つ生えてないなんて‥‥やはり特別な地の様ですね」
「ケモノ達が守ってきたおかげでしょうか。それとも元来この地には特別な力が宿っていたのでしょうか」
 神性すら感じる境内を進み、二人は社に辿りつく。
「‥‥これじゃ中に入るのは無理なようですね」
 と、コニーは社であったものを見上げ苦笑い。
 数百年の時を経て木造の社は朽ち果て崩壊していた。本殿は屋根の重みで押し潰され、とても中に入れる様子にない。
「折角許可も貰えた事ですし、何か思い出になる物を持って行ければいいのですけど‥‥」
 昴は境内に入る前にケモノ達に神社の遺物を持ち出してもいいか伺っていたのだ。
「思い出‥‥思い出‥‥」
 コニーは呟きながら崩れ落ちた社の周りをゆっくりと見て回る。
 崩れた社の中になら何かあるかもしれない。しかし社は完全に崩れ落ち中に入るのは難しい。
「コニーさん、これなんてどうでしょう」
 と、そんなコニーの元へ昴が駆けてくる。その手にあるのは――。
「これは、鈴ですか?」
「はい、なんとか引っ張り出せました」
 そう言って昴が差し出したのは人の頭ほどもある大鈴。社の崩落で多少ひしゃげているもののその輝きは少しも衰えることは無かった。

●定畳山
 緑が隆盛を極め、蝉の声が華を添える定畳山の麓。
「一緒に神社を護ってって?」
「はい、確かにそう言ってました」
 じっとしていても流れる汗も気にせずに銀雨(ia2691)は穂邑の話に耳を傾けていた。
「ふーん、なるほどなぁ」
「な、何かわかったんですか‥‥?」
「宝って、その巫女のことなんだろ」
「巫女が宝、ですか? 約束じゃなくて?」
「約束も宝だろうけど、そもそもそれをした本人がケモノにとって一番大切な存在なんじゃないのか?」
「そうなんでしょうか‥‥。でもそれじゃ、もう約束は果たされない‥‥」
「そう。もう居ないからぜーんぶ無理」
 銀雨はしゅんと肩を落とす穂邑にきっぱりと言い放つ。
「だから決着をつける時なんじゃないか?」
「決着ですか?」
「ま、みんなは続けさせたいって言うかもだけどな」
「え、え?」
 銀雨特有の話口調に翻弄される穂邑は頭の上に?を沢山浮かべる。
「どんなことだっていつかは終わる。今ここで続けさせても、おれたちの知らない時にもっと悪い終わり方をするのがオチだ」
 途端、真剣な眼差しを向ける銀雨に、穂邑は更に困惑の色を深める。
「そいつの事はそいつが決める。当然っちゃ当然だよな。でも、それはすげぇ大事なことだと思うぜ」
「は、はい」
「だから、押してやればいいだろ。背中をさ」
 銀雨にはまるでこの物語の結末が見えてでもいるのだろうか。
 にかりと掴み処の無い笑みを浮かべると困惑する穂邑の背を、それこそ後押しするようにポンと叩いてやった。

●宿屋
「色々考えたんだけど、穂邑が見た夢の事を正直にあのケモノ達に話しに行くのはどうかな」
 食後の茶で一息ついていた一行に向け天河 ふしぎ(ia1037)が声を上げた。
「不思議だけど、穂邑にはその夢がはっきりと見えるんでしょ?」
 と、ふしぎの視線に気づき、穂邑もこくんと一つ頷く。
「確信は無いんだけど‥‥穂邑の見た夢が過去に実際あったことだとすると、それはケモノと過去の巫女しか知らないことだよね」
「確かに、ケモノ達の言にも『約束』を守ってあの地を『護る』とありましたし、そこは穂邑さんの見た夢と合致しますね」
 昴は昴でケモノ達が終始口にしている約束の根源がどこにあるのか探る様に穂邑を見つめる。
「うん、だから素直にその事をケモノ達にぶつけてみれば、穂邑が巫女との事を知ってるって判ってくれるんじゃないかな」
「‥‥判ってくれるでしょうか」
「だって、もう何百年も前に亡くなった巫女との約束が、今復活するかもしれないんだよ! きっとわかってくれるんだぞ!」
 数百年にも及ぶ悠久の時を越え蘇る『約束』。ふしぎはグッと拳を握り穂邑に向う。
 穂邑が過去の巫女の記憶を辿っている事を、二者だけが知っている事実を示す事で証明しようと提案したのだ。
「そうすれば、あの場所を立ち去ってって言ったら、お願い聞いてくれそうな気がするんだぞ!」
「立ち去ってっと言うのは少し可哀想ですし、こういうのはどうでしょう?」
 と、ふしぎの説を補足するようにコニーが声を上げる。
「『もうこの場所を護らなくても大丈夫だよ』と」
 巫女とケモノ達の交わした『約束』は護ってと言うものだった。
 ならばもう守らなくてもいいと言えば、それで約束は果たされるのではないか。
 答えを導き出せずにいたコニーが辿り着いた、簡単にして効果的な一言。
「そ、そうですよね‥‥それならきっとわかってくれますよね」
 しかし、穂邑の答えはどこか自信なさげに見える。
 そんな穂邑の不安げな気配を感じたのか、ふしぎとコニーは何か言いたげに穂邑を見つめるが。
「あ、いえ! とってもいい案だと思います! 聞いてもらえるかどうか分かりませんけど、がんばってみますね」
 そんな二人の不安を拭おうと穂邑は二人に向けぐぐっと拳を握って見せた。


 話し合いを終え、いよいよケモノ達の元へ向かおうと準備している最中――。
「水月さん、社はどうですか?」
「‥‥あまりいい顔はされなかったけど、なんとかお願いできたの」
「そうですか。でしたら社から持ってきた物も活かせそうですね」
 昴は宿屋の隅に置かせてもらっている大鈴に視線をやる。
「山の下に社が出来れば沢山の人に出会えますし、きっとさびしくないですよ」
「‥‥そうだといいの」
 昴はどこか元気の無い水月ににこりと微笑みかける。
 寂しく優しいケモノ達をなんとかしたいと思う水月の思いやりに答える様に。
「‥‥もう一度、暖かくて楽しいふれあいをあの子達に思い出して欲しいの」
 そう言って見上げた夜空には、満天の星空が煌めいていた。

「穂邑ちゃん、ちょっとその歌のリズムを口ずさんでくれるか?」
「え? あ、はい」
 穂邑はヘイズに言われるままあの時の夢を思い出し、リズムを口ずさむ。
 それは祭囃子の楽の音。毎夜毎夜、祭りが終わりを迎える頃に聞こえた楽の音だった。
「‥‥ふーん。やっぱり少し違うのか。了解、ありがとな」
 しかし、楽師であるヘイズの耳には違って聞こえるらしい。
「こんな事でよかったんですか‥‥?」
「ああ、十分。――なぁ、穂邑ちゃん」
「はい?」
「穂邑ちゃんが不安に思ってるのは、とっかかりじゃないのか?」
「え‥‥」
 まるで心の内を見透かされたかと思ったのか、穂邑は驚いた様に眼を見開く。
「いきなりケモノの前に行って、巫女です信じて! なんて言っても、嘘っぽいよなぁ」
「そ、そうですよね‥‥」
 ヘイズは変わる事の無い飄々とした笑みで続ける。
「俺がお膳立てしてやるから、穂邑ちゃんは穂邑ちゃんの思うままに、ケモノ達に向き合えばいいと思う」
「向きあう、ですか‥‥」
「答えなんてどこにもないんだ。けどさ俺はこう思うんだ。あいつ等は偉い、褒められてもいいってさ」
 決して強制しないヘイズの言葉。
 穂邑は穂邑なりに何かを得心したのか、今までにないはっきりとした顔でこくんと一つ頷いた。


 夜の帳と共に山裾では祭囃子が盛大に鳴り響く。
「麓の音楽とはちっと違うけどな」
 琴をかき鳴らすヘイズ。
 その楽は麓から聞こえる賑やかな祭囃子とは少し違い、どこか寂しげな音色が含まれていた。
 前門に集った皆は、ケモノ達を含め水月の持参した山盛りの差し入れに舌鼓を打ちながら、じっとヘイズの額に耳を傾ける。
「聞いてください。ケモノさん達」
 ヘイズの奏でる音は今は絶えた曲。
『その曲って‥‥』
「そう、貴方達がまだ狼だった時の曲だよ」
 無警戒に両手を広げ全てを晒し穂邑が一歩前へ出る。
『なんでお前達がその曲を知ってるんだし‥‥』
 瓜二つのケモノ達は互いに見つめ合い困惑している。
「随分と待たせちゃってごめんね。今は居なくなった巫女に代わって、私が伝えに来たよ」
 更に穂邑が一歩前へ。
『お前‥‥姫芽なのか‥‥?』
 穂邑の纏う気に何かを見たのか、ケモノは驚きと共に問いかける。
「違うよ。でも、今はそうでもあるよ」
 姫芽。それが過去にケモノ達と約束を交わした者の名なのだろう。
 胸の前でギュッと拳を結び、胸の痛みに耐える様に穂邑は呟く。
「だから、伝えるために戻ってきたんだ」
 穂邑が一歩前へと歩み出て、そして――。

「今までありがとう。もう、護らなくてもいいんだよ」

 その鈴の様に澄んだ声と共に、どこか近くの様でもあり遠くの様でもある場所から、ガラスが割れる様な澄んだ破砕音が広がった。
『お、お?』
『‥‥解放された』
『おおおっ!?』
 二匹のケモノは瓜二つの互いの顔を見合わせる。
 言の葉は力を持つ。元来、言葉を持たぬ者にとっては尚更に。
『おぉぉ!! 解放されたし!』
 と、饒舌な方のケモノが恐る恐る門前から一歩を踏み出した。
 今までその場から一歩たりとも出る事の無かったケモノが、石段を踏んだのだ。
『おぉ‥‥』
 その一歩が信じられないと無口なケモノも珍しく驚きを隠せずにいる。

 ヘイズは歓喜に沸く二匹から視線を移し、穂邑に問う。
「一体どういう事なんだ?」
「ケモノ達は、約束を守って‥‥いえ、私の夢に出てきた巫女が何気なく交わした約束が、二匹をこの地に縛り付けていたんです」
「縛り付け‥‥?」
「ならどうしてケモノ達はその事を言わなかったんだ?」
「言っても仕方がなかったんじゃないでしょうか。約束を破棄出来るのは約束を結んだ本人達だけですから」
 ケモノ達は過去の巫女の言葉に『縛られて』いた。『約束』と言う名の呪縛に。
 穂邑は巨体を揺らし自由を堪能する二人のケモノへ視線を向ける。
「勿論、巫女さんに悪気があった訳じゃないと思うんですけど、ね」
 嬉しそうにはしゃぐケモノを、どこか申し訳なさそうに見つめながら。

「‥‥はっはっは! そうか、そんな解決法があったとはな」
「っ!」
 突然木霊した笑い声に、一向に緊張が走る。
「ははは‥‥いや、すまない。依頼の遂行確かに確認させてもらった」
 警戒する一行に森から現れた地這衆の首領は実に何気なく首を下げる。
「私達は報告に向かう。――ではな、開拓者諸君」
 そして、それだけを言い残し森へと消えた。

「随分とあっさりしてましたけど‥‥」
「ケモノとけんかしなくてよくなって、ホッとしたんだろ?」
 あっさり過ぎる程あっさりした地這衆の態度に困惑するコニーに、銀雨は口笛交じりに答える。
「あいつらも言ってたし、一緒にやるのかそっちで勝手にやるのか決めろって。別にじゃまする気はなかったんじゃねぇの?」
 確かに銀雨の言う様に地這衆の行動は終始、ケモノの排除にのみ動いていた。
 目的さえ達成されればそれでいい。それが彼らの信念なのだろう。
 それじゃあ残す問題はケモノの今後だけだと、皆の視線が水月に集まった。
 水月は小さく頷くと、ケモノ達に語り掛ける。
「‥‥山の下に小さな社を作ってくれるようにお願いしたの。今日からはそこを住処にして?」
「社にあった思い出の品も少しですが移設しました。これから穏やかに暮らしてく貰えますよ」
 定畳山の麓には水月の必死の願いにより、小さな社を作る約束がとり交された。
 そして、コニーと昴が社から持ち帰った大きな鈴も其処に掲げられ、いつしか絶たれていた時間を、その音が少しずつこの時代に馴染ませていくだろう――そう考えたのだ、が。
『縛られるのはもう沢山だし』
 返ってきた答えは水月やコニーの予想するものではなかった。
「で、でも、貴方達はこれからどうするんですか」
『んー、えっと穂邑だっけ』
「え、あ、はい?」
『お前についていくし』
「‥‥‥‥え? え、え、えぇぇっ!?」
 穂邑の素っ頓狂な声が夏真っ盛りの定畳山に響き渡った。