【負炎】迫り来る絶望
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/12 19:26



■オープニング本文

●魔の森
「ククク‥‥人間ども‥‥滅びるがいい‥‥」
 月の光すら差さない闇深き魔の森。低く唸るような声があたりに響いた。
「さぁ、行け! 我が僕よ!!」
 低い声に歓喜と恍惚の色が交じり、闇にかき消えた。

●理穴のとある森
「ふぅ、今日はこれくらいで引き上げるか」
 手に持つ仕留めたばかりの野うさぎを満足げに見つめる一人の狩人。

 ミシミシっ――

「ん?」
 狩人の耳に聞き慣れない異音が届く。

 ミシっ――ダァァーン!

「な、なんだあれは‥‥」
 なぎ倒された巨木、そしてその奥に蠢く巨体に狩人は身を凍らせた。
 その視線の先にあったのは、禍々しい黒い霧を纏った巨大な亀の姿だった。
「ア、アヤカシ‥‥!? う、うわぁぁぁ!」
 狩人はせっかく手に入れた野うさぎも放り出し、脱兎の如く村へと逃げ帰った。

●森近くの村
「森を抜けるぞ!!」
 村人の一人が声を張りあげた。

 ドスーン――――

 低く響く着地音と地響きを伴い、その巨体が森から姿を現した。
「で、でけぇ‥‥」
 その巨体を目の当たりにした村人の一人がそう呟く。
「あれがアヤカシなの‥‥?」
 あまりに巨大なアヤカシに、村娘が信じられないと言った表情で呟いた。
「か、開拓者の皆さんはまだなのか!?」
 藁にもすがる思いで叫ぶ村人の声は。
「まだ来ておらん‥‥」
 絶望に沈む老人の声によって消えた。
「もうだめだ‥‥俺は逃げるぞ!」

 ドスーン――

 そんな村人たちの焦燥よそに、巨大なアヤカシは止まることなく村へと着実に迫っていた。 
 


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
桐(ia1102
14歳・男・巫
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
野家・クロード(ia5058
19歳・女・サ
七浄 天破(ia5199
19歳・男・サ
亞夏刃(ia5450
20歳・男・シ


■リプレイ本文

●森を望む
「うわぁ、でけぇ‥‥」
 眼前に広がる異様を目の当たりにしたルオウ(ia2445)が漏らした。
「さすがにすごい重量みたいだね‥‥」
 天河 ふしぎ(ia1037)の指差す先には、アヤカシの歩により深く陥没した大地。
「あれが迫ってくるとなれば、この村の安全も保障できないな‥‥」
 背後に在る村を見渡し風雅 哲心(ia0135)が囁く。
「しかし、これだけの大物‥‥長期戦は覚悟しないといけませんね」
 肩に担ぐその身には不釣合いな剛弓に手を沿え桐(ia1102)が呟いた。
「ああ、近づけない以上、遠距離からの攻撃主体になるだろうからね」
 静かに練気を身体に満たす樹邑 鴻(ia0483)が桐の呟きに答える。 
「遠距離かぁ‥‥俺の流派にゃ弓術は無いが、四の五の言ってらんねぇな、武芸百般サムライの心得ってなっ!」
「お、いいこというねぇ。武器の先駆者の力見せてやろうじゃねぇか!」
 共に剛弓を掲げるは野家・クロード(ia5058)と七浄 天破(ia5199)のサムライ二人。
「‥‥俺は戦えるのか」
 静かにアヤカシを見据えていた亞夏刃(ia5450)の呟きは、アヤカシの大地を穿つ一踏に掻き消され誰の耳に入る事はなかった。

●一日目
「よいやさっ!」
 威勢のいい掛け声とともに、天破が鍬を振り下ろす。
「精が出るね。こちらは終わったよ」
 そこへ同じく鍬を片手に鴻がやってきた。
「お、おつかれ。どうよこの大きさ!」
 そう自慢げに天破が指差すのは巨大な穴。ゆうに大人10人は入れそうである。そして、穴の脇には無残にも折れ散らかされた鍬の山。天破の『強力』穴掘りの夢の跡である。
「落とし穴、功を奏してくれるといいね」
「ああ、そうだな。これだけ泥にまみれたんだ、効いてくれなきゃ悲しくなるぜ」
 苦笑交じりに話す天破に鴻も「そうだね」と笑いかけた。
「さぁ、二人に合流しよう」
「おうよ!」
 二人は鍬を置き、アヤカシに対峙している二人の元へ駆け出した。

「サムライの底力見せてやるよ!」
 剛弓を引き絞るクロードが見据える先はただ一点、アヤカシの右前足だ。
「くらえぇ!」
 弓が撓りに悲鳴を上げる。極限まで絞られた弦はクロードの一声で開放された。

 ザシュ!

 寸分たがわぬ狙いを持って突き刺さる巨矢。しかし、アヤカシに変化はない。
「この程度で終わるたぁ思ってねぇよ!」
 動じぬアヤカシにクロードも動じない。再び矢筒から巨矢を抜き放つと弓に番えた。
「どっちが先に参るか、根比べといこぉや!!」
 気合の入った叫びと共に撃ち出される巨矢は、アヤカシ目掛け一直線に軌跡を引いた。
「まずはこれから。受けなさい『力の歪み』!」
 クロードに並びアヤカシへ対峙する桐の声に呼応し生まれた「歪み」がその前部を捕らえた。
「まだまだいきます! 渦へ消えよ! 『力の歪み』!!」
 先の「歪み」消え去らぬうちに、桐は新たな「歪み」を発生させた。それは歪みを歪ませ渦となる。
「これで終わりではありません! 其の心、湾曲せよ! 『力の歪み』!!!」
 続けざまに放った三度目の「歪み」。歪む渦は更に歪み螺旋となりアヤカシへ襲いかかる。
「く‥‥これだけの攻撃でも効きませんか!」
 桐の多大な練力を使い打ち込んだ攻撃にもアヤカシは怯むことなく、着実に村へと迫っていた。

「わりぃ、遅れた!」
 苦戦を強いられる二人の前へ現れたのは、天破。そして――。
「行くぜ! この初撃に全てを賭ける!!」
 アヤカシに向かうなり全身に練気を漲らせた鴻だ。
「先手必勝! 気は旺じて衝と成す――はぁぁぁぁ! ブチ抜けっ!!」
 鴻の放つ渾身の初撃『気功波』がうねりを上げアヤカシへ襲いかかる。
「どうだ!」
 炸裂した『気功波』が起こす破裂音が衝撃波を伴い一行の耳朶を打つ。
「――なにっ!?」
 巻きあがる土煙が晴れた。そこには変わらぬアヤカシの巨躯。
「鴻、抜け駆け損だな! 次は俺だ!」
 鴻の先手に触発された天破も、巨弓を持ち出し矢を番える。
「クロード、合わせる。指示をくれ!」
 そして、先んじて弓での攻撃を行っていたクロードへと声をかけた。
「右前足を! 蜂の巣にしてやろぉぜ!!」
「おうよ!!」
 声に呼応し同時に放たれる巨矢が、アヤカシの前足へ向け空を切り裂いた。

●二日目
「これは‥‥」
 眼前に広がる惨状に哲心が呟いた。村人が聞いたという謎の声の主を探す為ふしぎ、哲心、ルオウ、そして亞夏刃の4人は深き森へと踏み入っていた。
「ひどい‥‥森の動物達がこんなにも‥‥」
 口元を手で覆いふしぎが苦々しく言葉を吐く。一行が歩くは巨大なアヤカシが踏破してきた『道』。
「小動物ではアヤカシの霧に抵抗できないか‥‥はやり、注意が必要だな」
 音も無く歩く亞夏刃も毒の威力を目の当たりにし、そう呟く。
「とにかく、声の主って怪しい奴の正体突き止めないとな!」
「ああ、この騒動の鍵になるかもしれないからな。気を引き締めていこうぜ」
 ルオウの鼓舞に哲心も賛同する。
「では、捜索は二人一組で」
 亞夏刃の提案に3人は首肯する。
「俺とふしぎは分かれた方がいいな。心眼かぶってもなんだし」
「そうだね。じゃ僕はあっちの方見てみるから」
「了解。俺は反対方向だな」
 二人の志士は申し合わせるとくるりと背を向けあい。
「待ってろ! どこに隠れたってお見通しなんだからなっ!」
 ふしぎが拳を握る。
「声の主があのアヤカシを止める鍵であれば御の字なんだがな。まぁ、なるようになるか」
 哲心が闇を見据える。まるでその先にあるモノを睨むように――。

「くそぉ! あんだけ掘ったのに意味無しかよっ!」
 大地を抉り取るように強引に歩を進めるアヤカシの前に鴻と天破の掘った落とし穴は無残にも掘り返されていた。
「次は私の番ですね」
 そう言って、ずいっと前に出てきたのは桐。手には松明を持っている。
「収穫期が終わっていたのは幸いでした」
 桐は薄く笑みを浮かべ、手に持つ松明を放り投げる。そこには無数の藁が敷き詰められていた。
「さぁ、よく焼けてくださいね」
 パチパチと種火が弾ける。火は次第にその勢いをまし、乾燥した藁を瞬く間に飲み込んだ。
「うわぁっちぃ!」
 天破が思わず退く。火から炎へ、炎から焔へ。藁火は真っ黒な煙を立ち上げる。その様はまさに炎の壁。
「おぉ、すごいな‥‥」
 感嘆の声を上げるは鴻。しかし――

 ドスーン

 炎の壁が割れた。アヤカシは燃え盛る炎の壁をまるで暖簾でもくぐる様に何事もなく踏み越える。
「いやはや、どうやら焼き亀にはありつけそうにもねぇな」
 業火を難なく踏み越えるアヤカシへクロードが呆れたように呟いた。
「いい案だと思ったのですけど‥‥」
 「はぁ‥‥」と溜息交じりに落胆する桐。
「やっぱり、力で砕くしかないってことだね。さぁ、しきり直しだ!」
 そんな桐を慰めるように、鴻が元気よく皆を鼓舞する。その声に一同「おー!」と気合を入れ直し、迫り来るアヤカシへ各々の獲物を向けた。

●三日目
「‥‥いたっ! 南西の方角!!」
 闇に染まる森。ゴーグルに手を沿え集中していたふしぎの『心眼』が一つの気配を捕らえた。
「‥‥行くぞ」
 ふしぎの声に真っ先に反応したのは亞夏刃。その言葉がふしぎの耳へと届く前に駆け出していた。

「忌々しい開拓者どもめ‥‥」
 巨大な倒木に背をついた小鬼が吐き捨てる様に呟いた。その脚には亞夏刃の手裏剣が突き刺さっている。
「もう逃げ場は無いぞ!」
「大人しくあのでっかいアヤカシを止めろっ!」
 追い詰められた小鬼をふしぎと哲心が見下ろす。
「無駄だ。もうアレは何をしても止まらぬ」
 その言葉は余裕に満ちたもの。表情の無い小鬼の顔に不敵な笑みが浮かんだような気さえする。
「‥‥ならば、もうおまえに用はないな!」
 小鬼の言葉に亞夏刃がすらりと獲物を抜き放つ。
「ふん、よいのか? 我を倒せばアレは自爆するぞ」
 小鬼は試すように一行へ言葉を投げる。
「なにっ!?」
 振り下ろす寸でで刀を止めたルオウが驚愕の声を上げた。
「そ、そんな脅しには乗らないんだからなっ!」
 強がっているがふしぎの声には緊張の色が見える。
「脅し? ならば斬ればよい。楽しい事が起こるぞ‥‥ククク」
「なにおぅ!」
 小鬼の挑発に今にも斬りかからんと刀を構えたふしぎを。
「待てふしぎ! もし本当だったらどうする!? 今あのアヤカシには4人が立ち向かってるんだぞ!」
 哲心が制した。
「はっはっは! 賢しいな開拓者ども。斬っても地獄、斬らぬも地獄、さぁ、どうする?」
 顔面を無様に歪ませ気味の悪い高笑いをする小鬼に、4人は動く事もできずただ歯噛みするのみ。
「どうした。この程度の揺さぶりに心乱すのか‥‥ククク、実に滑稽だな、クズども!」
 開拓者の戸惑う姿が何事にも変えがたい娯楽であると言わんばかりに小鬼が笑った。
「だぁ!! 俺切れた! ブチ切れた!!」
 溜まりに溜まった鬱憤をぶちまけるようにルオウが叫ぶ。
「‥‥もう怒ったんだからなっ!」
 ふしぎの抜き放った巨刀は『炎魂縛武』の生み出す炎により赤く燃えている。
「アヤカシ如きにここまでいわれるとはな‥‥」
 表情こそ冷静なままであった亞夏刃の口調にも怒気が帯びる。
「ま、待て! ――くっ!」
 怒る三人の斬撃に、小鬼の命はすでに尽き果てた。哲心は用意していた呼子笛で巨躯に対峙している仲間へと状況の変化を知らせるほかなかった。
 
●四日目
「これは笛の音!」
 乾いた秋の風が頬を冷たく撫ぜる深夜。突如鳴り響いた笛の音に見張り役をかってでていたクロードが気付く。
「皆、起きてくれ!」
 篝火に囲まれた急造の野営所へ駆け込んだクロードが大声を上げた。
「ん‥‥どうしたんですか?」
 その声に目を擦り桐がもそりと起き出す。
「笛の音だ! 二回聞こえたから、何かしらの成果があったようだぞ」
 声を弾ませるように語るクロードに。
「こっちも負けてられないね」
 答えた鴻はすでに戦闘隊背をを整えていた。
「もういっちょ踏ん張るか!」
 と、天破も剛弓を担ぎ出す。
「野家さんは少し休んでいてください。寝ずに明日を向かえれば士気に影響しますよ?」
 桐の心遣いにクロードも「頼んだ」と短く呟いた。

●夜明
「これは‥‥霧が晴れた?」
 クロードに代わりアヤカシへと対峙した3人の目に飛び込んできたのは、ある変化。
「あちらの組の成果‥‥という訳でしょうか?」
 その変化に桐も戸惑いつつもそう口にする。
「なんかよくわかんねぇが、これは好機!」
 逸る気持ちを矢に込める様に天破は剛弓を引き絞った。

「待たせたっ!」
 追跡班の内、一番に合流したのはルオウ。
「そちらの首尾は?」
 そんなルオウに向かえた鴻が問いかける。
「あの生意気な小鬼は倒したからなっ!」
 それに答えるふしぎの顔には何か達成感のようなものが見える。
「そっちはどうだ?」
 逆に問いかけるは哲心。
「ご覧の通りです――」
 桐の答えにも幾分疲れの色が見える。
「変化といえば、時折毒の霧がやむことでしょうか」
「霧が止む‥‥?」
 その報告に亞夏刃が訝しげに問いかける。
「はい‥‥日に照らされ濃霧が晴れるように、ぴったりと」
 この変化が何を意味するものなのか、桐も答えを見出せずにいた。
「とにかく霧が無いなら攻撃あるのみだっ! 受けてみろこれが僕の新しい力っ!!」
 ふしぎが吼える。その手に持つ巨刀の鞘は、まるで焼け爛れる鉄塊の如く真っ赤に焼けている。
「火精招来!!」
 巨刀の柄に手をかけ、ふしぎが走る。
「いくぞぉ! 一刀両断! 空賊戦法『アヤカシ真っ二つ』!!」
 気合と共に抜き放った巨大な斬馬刀は迸る炎の塊と化す。炎の一撃は真円を描きアヤカシの右前足を断ち切った。
「続くぞ!」
 ふしぎの突撃に続くのは鴻。
「桐、頼む!」
「ええ!」
 鴻の声にあわせるように、桐の練力が満ちる。
「いきます! 『力の歪み』!」
 放たれる歪み。しかし、その狙いはアヤカシの一寸手前。 
「一点突破! 次こそブチ抜けっ!!」
 桐の歪みへ向け鴻の『気功波』が走る。刹那、気功の衝撃は歪みにぶつかり捻られ歪む。
「奥義『気旺翔・穿鎧孔』!!」
 歪む面は線へ。捻られる線は点へ。螺旋を巻いた『気功波』の一撃は堅牢を誇った甲羅を打ち抜いた。
「やったか!?」
 しかし。
「これだけ攻撃を受けてもまだ止まらないのか‥‥」
 前足を失い、甲羅を貫かれながらも歩みを止めないアヤカシに、亞夏刃が苦言を漏らした。

「霧がきます!」
 アヤカシの些細な変化に桐が気付き声を張る。 
「くそぉ!」
 その声に、接近戦を挑んでいたルオウが後へと飛び退った。
「攻撃できるだけでも良しとしよう。それに合間を挟めば少しは練力の回復もできるしな」
 同じく引いた哲心が毒の霧を睨みつけた。
「霧が噴出す時間が短くなっている?」
 噴出す霧に違和感を覚えた桐がそう呟く。
「ヒャハハ! そいつは好都合! 一気に攻めるぜ!」
 昂揚した天破が弓の一撃を放つ。
「‥‥身体が覚えている。いけるっ!」
 囁くように声を漏らした亞夏刃も手裏剣を構えアヤカシを見据えた。
「‥‥これはまるで秒読みのよう」
 一人考えに更ける桐の呟きに。  
「秒読み‥‥? まずいぞ! 小鬼の奴が言ってた自爆かも知れねぇ!」
 反応したのは哲心だ。 
「じ、自爆っ!?」
 哲心の言葉に天破が驚愕の声を上げた。
「こんなとこで爆発されたら村がっ!?」
 ルオウの見据える先には静まり返った村。アヤカシはすでに森と村の境界を踏み越えていた。
「桐! 村人達の避難は!」
 焦る鴻の声に。
「村の方々は先刻避難頂いています。ただ、家畜や家財などはさすがに‥‥」
 答える桐の声にも焦燥が浮かぶ。
「とにかく今が踏ん張り処っ! 知恵と勇気でこいつを止めるんだっ!」 
 ふしぎの声に鼓舞されるように一同は決意を固めアヤカシへと向かっていった。

「また霧の間隔が短く‥‥」
 呟く桐の声にも、明らかな焦りが感じられる。
「くっ、時間が足りねぇ!!」
 額の汗を拭いながら、クロードが苦々しい声を上げた。
「小鬼の策にまんまとやられたってわけか‥‥」
 哲心のぼやきが漏れた。
「なぁ、俺さぁ嫌な予感がすると、こぉ、この辺りがむずむずとするんだけど‥‥」
 少し戸惑い気味に自身のうなじを擦る鴻。と、その瞬間。

 霧が――爆ぜた。

「なっ!?」
 今までせいぜいアヤカシを囲む程度だった霧が爆発的に広がる。
「み、皆さん‥‥!」
 最も抵抗力の高い桐でさえ、その言葉を紡ぐのがやっと。一向は毒の霧に飲まれ、身体の自由を奪われた。

 そして次の瞬間。アヤカシの身体に明らかな変化が起こる。

 突如発光するアヤカシ。辺りを強烈な閃光が包み、そして――。
 

 開拓者達の的確な行動によって、村の人的被害は幸いにして零に抑えられた。しかし、自爆が起こす巨大な爆風に巻き込まれた開拓者一向は手酷い傷を負い、村の家屋も約半数が倒壊、多数の家畜に被害がでるという惨事となってしまった。