逃走中につき
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/05 20:42



■オープニング本文

●とある大きな屋敷
「いやよっ!」
 20畳はあろうかと言う大広間で、怒声にも悲鳴にも似た若い女性の大声が上がった。
「いいか、遼華。これは我が『会刻堂』のこれからの繁栄に必要なことなんだよ。どうかわかってくれ」
 一方、落ち着いた声色で諭すように語り掛ける壮年の男性の声。
「いやったらいやっ!! なんであんな‥‥うげぇ、思い出しただけでも吐き気がするわ‥‥」
 遼華は身振りを交え、その嫌悪感を表現する。
「おやおや、未来の旦那様に向かって、ずいぶんな物言いだねぇ」
 障子の隙間から顔を覗かせる色白金髪の長身の男。
「うげぇぇ! 噂をしたらほんとに現れたっ!?」
 現れた天敵に、ずざざっと畳みの上を高速で引きまくる遼華。
「これはこれは田丸麿様、ようこそお越しくださいました」
 会刻堂は現れた田丸麿に平身低頭。上得意の客相手ににこやかな笑みを浮かべる。
「何しに来たのよ! 帰れ帰れ! 畳が腐る!!」
 遼華はぺっぺっと唾を履きかける振りまでする。
「はっはっは、遼華君、今日も実にちゃぁ〜みんぐだねぇ」
 そんな遼華の悪態にも田丸麿は平然と爽やかな笑みを浮かべ、部屋へと侵入してくる。
「はぁ。言ってる意味わかんないわよ! ジルベリアっぽい言いかたばっかりして!」
 ぜぇぜぇと息を切らしまくし立てる遼華。
「ん? 可愛いね、と言ったんだよ?」
 そんな遼華を愛玩動物でもめでるかのように、田丸麿が見る。
「んなぁっ!?」
 例えどんな相手であろうとも、素直に可愛いと言われて、悪い気をする女はいない。遼華もまたその一人であった。険悪な表情は変わらないが、頬に赤みがさしている。
「うんうん、僕の未来のお嫁さんはほんとに可愛いねぇ。――よいしょ」
 そんな遼華を一通り満足げにいぢった田丸麿は、会刻堂と向かい合わせになるように座る。丁度、元遼華のいた位置だ。
「今日はどのようなご用で?」
 まるで接客でもするようなにこやかな笑顔の会刻堂がそう尋ねると。
「いや、特にこれといった用はないんだけどね」
 まるで我が家のようにくつろぐ田丸麿は、前に置かれた湯飲みをグッとあおる。
「あぁぁぁぁああああ!! それあたしの湯飲み!! うわ、もう腐った! 絶対腐った!!」
 部屋の奥から抗議の言葉。
「おや、これは遼華君のだったのか。これは失礼失礼。――ふむ、間接きっすか?」
 ふむふむと感慨深げに湯飲みを眺める田丸麿に。
「ちがぁぁぁぁうううう!!!!」
 今日いく度目になるだろう遼華の絶叫が大広間に木霊した。

「ぜぇぇったい、あんたなんかと結婚なんかしないからね!! こんな見え透いた政略結婚、誰がなんと言おうと破談よ、破談!!! とっとと出て行け!!」
「お、おい遼華! 田丸麿様になんと無礼な‥‥!」
 居座り続ける田丸麿に、業を煮やした遼華が口に蓋せぬ物言いをぶつける。それを、会刻堂が慌てに止めに入るが。
「う〜ん、いいよ」
 田丸麿はその申し出をあっさりと受諾する。
『え?』
 その答えに、親子は呆気に取られた。
「ただし、条件があるけどねぇ」
 ふふふと不敵な笑みを浮かべる田丸麿に、会刻堂はおろおろ、遼華は懐疑の眼差し。
「な、なんなのよ、言って見なさいよ。あんたとの縁談が破談になるなら、大抵のことは飲んであげるわ!」
 思いがけない提案に、不安と期待の入り混じった表情で田丸麿に詰め寄る遼華。
「まぁまぁ、そう慌てない慌てない。なぁに、簡単なげぇむをしようじゃないか」
 牙を剥く遼華に余裕の笑みを浮かべ田丸麿がそう語る。
「げぇむ‥‥? って、なによそれ!?」
「あははは、遼華君せっかちさんは嫌われるよ?」
「なっ!? 誰がせっかちよ! こんなに見目麗しく深慮な娘に対して失礼極まりないわね!!」
 嫌われれば御の字なのだろうに、頭に血が上った遼華には、もはや的確なツッコミは行えない。
「おっと、これは失礼、思慮深き遼華君。げぇむというのは、簡単な遊戯の事だよ」
 ぎゃぁぎゃぁとわめきたてる遼華を、くくくと楽しそうに見つめる田丸麿。
「むむむ‥‥で、なんなのよ、その遊戯って!」
「そうだねぇ、普通のげぇむじゃ面白くないから、こんなのはどうだろう?」
 田丸麿は、邪な笑みと共にこの世のものとは思えぬ邪悪な計画を遼華に話して聴かせた。


■参加者一覧
真田空也(ia0777
18歳・男・泰
ミル ユーリア(ia1088
17歳・女・泰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
不動・梓(ia2367
16歳・男・志
佐竹 利実(ia4177
23歳・男・志
大羽 天光(ia4250
19歳・男・陰
北風 冬子(ia5371
18歳・女・シ


■リプレイ本文

●逃走まで一刻
 白くどこまでも続く砂浜。陽光を反射させる波。まるで夏の一幕を切り取ったかのような風景に、皆ただ魅入っていた。
「綺麗‥‥」
 少女が呟いた。
「‥‥って、ちがーう!」
 のも束の間、声は絶叫へと変わる。
「こんなことしてる暇はないの! 絶対勝つんだから!!」
 叫びと共に振り向いたのは遼華だ。
「任せろ遼華。お前は誰にもわたさねぇ! おい、てめぇら! に・げ・き・る・ゼッ!」
 さりげなく遼華の肩を抱き力強く語る喪越(ia1670)を。
「喪越さん、あなたはこちらでしょう?」
 嵩山 薫(ia1747)が耳たぶを掴み引き剥がす。
「勝ちましょう。やはり恋は望むものでなければね」
 喪越の悲鳴をよそに、薫は優しく微笑む。
「うん、ありがとう!」
 その言葉に遼華も嬉しそうに微笑んだ。
「ほんとムカつくわ。あの男、女をなんだと思ってるのかしら!」
「あー! わかってくれる?」
「うんうん。あんな男に付きまとわれるなんてリョウカは不憫ね‥‥」
「でしょ!」
 遼華はミル ユーリア(ia1088)の言葉に意気投合、その手を取りきゃっきゃとはしゃぐ。
「田丸麿さんも悪気があるわけじゃないと思うけどね。気持ち悪いけど」
 そんな二人に北風 冬子(ia5371)が言葉を投げた。
「それだけ遼華さんの事が好きだと思うんだよね。気持ち悪いけど」
「う、うん、そうよね」
 うんうんと持論に頷く冬子に遼華も釣られる様に頷いた。

「田丸麿さんか‥‥随分と業の深そうな御仁で。ま、個人的には嫌いじゃないですけど」
 こんな佐竹 利実(ia4177)の呟きに、女性陣は揃って非難の嵐。
「案外お似合いの二人な気がするけどなぁ、遼華さんだって満更じゃないんじゃないの?」
 追撃する大羽 天光(ia4250)へ、更に非難の声。遼華に至っては発狂寸前だ。
「まぁまぁ、落ち着きなって。これからって時に仲間割れはいただけないぜ?」
 と、暴れる寸前の女性陣を真田空也(ia0777)がなだめる。
「真田殿の言う通りです。それに事が終わった後に言ってやるといいんです。『ざまぁみろ!』と飛びきり辛辣にね」
 苦笑交じり不動・梓(ia2367)がふくれっ面の遼華へ話しかけた。
「ええ、見てなさい! 絶対に言ってやるんだから!」
 燃える遼華は海へ向けそう叫んだのだった。

●開始まで半刻
「‥‥隊長。右手が邪魔であります」
「‥‥隊長。足が邪魔であります」
「‥‥隊長。存在が邪魔であります」
「‥‥てめぇ真田! 言うに事欠いて――」
『シー!』
 僅かな木立の隙間から我先にと覗きこむ4つの人影。
「皆さん何を‥‥?」
 怪しく蠢く人影へ梓が恐る恐る声を掛けた。
『シー!!』
 振り向く人影。利実、天光、空也、そして喪越だ。
「なるほど、女体とはあのような構造に‥‥」
「佐竹! 隊長の俺をおいて抜け駆けたぁいい度胸だ!」
『シー!!!』
「‥‥スミマセン」
 3人の鬼気迫る視線にしゅんと縮こまる喪越。
 そう、彼らの視線の先にはせっせと変装を施す女性陣の姿があった。

「なぁにやってるのかなぁ?」
 ここまで騒げばもちろんばれる。現れたミルがパキポキと拳を鳴らした。その姿はすっかり遼華のそれ。
「ちょっとおいたが過ぎるんじゃないかな?」
 同じく風子も遼華の姿で現れる。
「逃走側同士の戦闘は禁止じゃなかったわよね?」
 凍りつくほど爽やかな笑顔で薫が歩み寄る。
「い、いや、奴らの事だ、開始前に何やらかして――」
 喪越の必死の弁明にも3人は耳を貸すことなく。
「いたずらっ子にはお仕置きだーー!」
 ミルの掛け声と共に女性陣は男性陣へと襲いかかった。 

「‥‥梓さん?」
 ミルの衣を纏った遼華が、残った梓に問いかける。
「!? ち、違います俺は‥‥!」
「あ、はい‥‥疑ってませんよ? 私」
 慌てる梓に遼華はもじもじと上目遣い。
「え‥‥? あ、いや、そ、それならいいんですけど‥‥」
 遼華のその姿に梓も戸惑いながらそう答えた。
「‥‥おいてめぇら」
「うむ」
 そこにいつの間にか戻った4人が。
『桃色空間撲滅!』
 叫びと共に二人の間に割って入ったのは言うまでもない。
 
●開始から数刻
「追っ駆けっこかー、修行サボってよく師匠とやったなぁ‥‥あの鬼の形相は今でも忘れられない‥‥」
 森を駆ける天光はふとそんなことを呟く。
「おっと、鳴子発見」
 天光は草むらに隠された鳴子を発見した。

「‥‥これでよしっと」
 天光は発見した罠を逆に利用する。
「さて、次は――お、怪人物発見」
 罠を張り直し、再び駆け出した天光が地に伏す男を見つけた。
「‥‥刀の兄さん、なにやってんの?」
「‥‥静に」
 天光が発見したのは木の葉を纏う利実の姿。
「こういう時は動かないのが一番です。地に伏せ森に潜み風に溶ける。そう、自然となるのです」
 眼球すら動かすことなく一点を見つめる利実が呟いた。
「お、いたいた。左前方敵影はっけーん!」
 突然の声は二人の頭上から。
「クノイチお嬢、そんなとこいたら変装の意味がないんじゃ‥‥?」
 天光の呆れ声は木の枝へ。そこには遠くを見つめる冬子の姿があった。
「おっ! 大部隊大接近!!」
 そんな天光のツッコミは右から左の冬子は、嬉々として偵察を続ける。
「うわ、やばっ! じゃ僕はこれで、二人とも頑張ってね!」
 冬子の情報に、天光は逃げるように立ち去った。

「あ〜捕まっちゃった」
「‥‥目立ちすぎだ」
 何故か奇妙な鼻長面をつけた冬子が大男に付き添われと森を抜ける。
「あはは、楽しかったからいいや! あ、そうだ、おっちゃん」
「‥‥なんだ」
「『めいど』って知ってる?」
「‥‥死して行きつく先か」
 話しかける冬子に丁寧に答える隊長、道。
「それは冥土でしょ? ちがうよ、メ・イ・ド」
「‥‥違いがわからん」
「仕方ないなぁ、どうせ暇だし‥‥よし! いい? メイドって言うのは――」
 その後、冬子のメイド談義は夜を越え朝日が上るまで続いた。 

「ふぅ、では俺も失格ということですかね?」
「ああ、残念だったな」
 風子と共に捕獲された利実の問い掛けに、隊員の一人が勝ち誇ったように返す。
「ふむ、それは仕方ないですね。ではあなた、期限まで暇ですので一手お願いできませんか?」
「は、はぁ!?」
 利実の突然の提案に男は一変、うろたえる。
「なんでしたら、皆さん同時でもかまいませんよ? 開拓者といっても無手の志士が1人です。たいした事ないでしょ?」
 そう言って辺りを見回す利実。周囲には殺気立った10人の男。
「確かにいい暇潰しだな――やっちまえ!」
 利実の出した条件に男は卑下た笑みを浮かべ号令を下した。
「そうこなくては」
 ニヤリと唇を釣り上げたのは利実。足元に転がっていた1mほどの木の枝をひょいと蹴り上げる。
「佐竹利実。参りますよ!」
 枝を手に利実は男達へ向け駆けだした。

利実、冬子⇒脱落
4番隊全11名⇒壊滅

●夕暮
「くっ‥‥」
 険山を背に、空也の苦い呻きが上がる。
「見つけたぜ! これで特別報酬はオレ達のもんだな!」
 じりじりと距離を詰める1番隊に、空也と遼華は追い詰められた。

「そいつは偽者だ!!」
 その時、夕暮れの森に凛とした声が響いた。
「なにっ!?」
「よく見ろ。いいとこのお嬢さんがあんなかっこするかよ」
 口調まで男達に似せた梓の声だ。
「た、確かに‥‥くそっ! 計りやがったな!」
 男達は目の前の空也達に毒を吐く。その時。

 がさっ――

「いたぞ、あの茂みだ!」
 繁茂する木々がざわついた。 
「ちぃ! お前ら行くぞ!!」
 男達は茂みへ向け、踵を返し駆け出した。
 
「ふぅ‥‥助かったぜ、梓」
 安堵のため息をつき空也は闇へと言葉を投げた。
「危ないところでしたね」
 闇から現れた人影を淡い夕陽が照らす。紅葉色の羽織を纏った梓だ。
「ユーリア殿が引き付けてくれています。さぁ、今のうちに」
「あ、あの梓さんは‥‥?」
 行けと指を刺す梓に、空也の影から遼華が恐る恐る尋ねた。
「俺は囮役ですからね。あちらでユーリア殿と合流です。では――」
 遼華の問い掛けに、梓はにこりと爽笑を残し木間に消えた。
「‥‥梓さん」
 消えた影をいつまでも見つめる遼華。
「はいはい、乙女状態解除ね。今のうちに逃げるぜ」
 そんな遼華の手を空也が取ると再び駆け出した。

「ほっ、よっ、たぁ」
 迫り来る追っ手の男達を軽やかにかわすミルが森を駆ける。
「くっ! このじゃじゃ馬め!」
 ミルの逃げる速度は決して速くない。あえて速度を落とし遼華に偽装していた。
「はーい、残念。こっちよー!」
 なおも煽るミルを追う男達は完全に頭に血が上っていた。
「子娘一人に何をしている!」
 そこに一際大きな怒声があがる。1番隊隊長『穏』だ。
「おぉっと、大物が釣れたー」
 そんな怒声にもミルは余裕の表情。
「包囲だ!」
 再び上がる穏の怒声。部下達は「はっ!」と復唱する。
「おぉ、ちょっとやばいかも?」
 声踊るミルは、木立を縫うようにその脚を速めた。 

「テンコーの情報だと、捕まった後は何をしても関係ないみたいだし‥‥ねぇ、アズサ?」
 軽快に夕闇迫る森を駆けていたミルが、ふと立ち止まり一本の木へと語りかけた。
「その様ですね。脱落者は条件外の身になるようです」
 木陰より現れたの梓はミルの問い掛けに答えた。 
「逃げるのも飽きてきたし‥‥どう?」
「そうですね。2人と12人ですか‥‥悪くない。その提案受けましょう」
「そう来なくちゃ!」
 嬉しそうに拳を握るミルと薄く微笑む梓は、迫り来る1番隊へとその姿を晒した。 

梓、ミル⇒脱落
1番隊全12名⇒壊滅 

●夜
「――以上、現在の状況でしたっと」
「了解。助かるわ」
 川のせせらぎ。小川を見通せる薮の中に天光、遼華、そして空也と交代した薫の姿があった。
「じゃ、また組木の回収にいってくるよ」
「ええ、よろしく頼むわね」
 軽く片手を上げ闇の中へ消える天光を薫が見送った。
「遼華さん?」
「あ、はい?」
 ぼーっと夜空を眺めていた遼華に薫が声を掛けた。
「どうかしました?」
「いえ、なんでも‥‥」
 そう言って俯く遼華に。
「あなたは私のよく似ているわ」
 薫が静かに語りかける。
「え?」
「私の若い頃にそっくり。その破天荒ぶりがね」
 ふふっと苦笑交じりに話す薫の表情は、どこか照れているようだ。
「薫さんも‥‥?」
 遼華はまさかと驚きの表情で薫の横顔を見る。
「ええ、若気のいたりかしらね、随分と――」

 ざっ――

 その時、闇が揺れた。
「‥‥遼華さん、行きなさい。空也さんが待ってる」
 それだけ言うと薫は遼華の背をトンと押す。
「‥‥はい!」
 遼華は薫の背に向けて、力強く返事をし闇へと駆け出した。

「あらいやだ、どう見ても華の16歳でしてよ?」
 微笑む薫を囲むのは2番隊の男達。
「‥‥」
「美人さんだとは思うけどよ‥‥」
「う、うむ‥‥」
 若干無理のある薫の格好に男達も戸惑いを隠せない。
「と、とにかく確保だ‥‥!」
 意を決した誰かの号令により、男達は一斉に薫へと襲いかかった。

「ふぅ‥‥目的の為とはいえむざむざ捕まるのは、気持ちのいいものではないわね――」
 服についた埃を払う薫が、ふと自分の姿に視線を移す。
「こんな姿、夫には見せられないわね‥‥うぅ、末代までの大恥だわ‥‥」 
 嘆き、顔を両手で覆う薫の足元には瀕死の男達が転がっていた。

薫⇒脱落
2番隊10名⇒壊滅

●深夜
「いたぞ!!」
 月も寝静まる深夜の森。松明を持つ追っ手達の声が木霊した。

 ざざ――

「こっちだ!」
 闇を走るは一つの影。
「待ちやがれ!」
 月夜に映し出されたのは黒く艶やかな長髪、そして藍を基調とした優美な単衣。
「きゃ☆」
 追い込まれた可憐な少女(?)が木の根に足を取られた。
「今だ!」
 その隙を逃がすまいと、男達が一斉に少女(?)へと襲いかかった。

「捕まえたぜ! へへへ、大人しくしてりゃ、悪いようには――」
 卑下た笑みを浮かべる男達に、ついに捕らえられた遼華(?)。
「あん、捕まっちゃったぁ。――うふ、やさしくし・て・ね☆」
 3番隊の男達が秋の長夜に見た夢は、その心に深く刻まれ一生消えることはなかった。

喪越⇒脱落
3番隊12名⇒気絶

●日出
「ったく! 後少しだってのに、皆さん勤労すぎるってぇの!」
 遼華の手を取り森を蛇行しつつ逃げる空也。
「ま、待って!」
 手を引かれてはいるがそこは開拓者の速度。到底遼華が着いていけるものではない。
「あちゃ、すまねぇ‥‥っと、謝りついでにもう一つ失礼!」
 そう言うと空也は少し屈むみ、遼華をひょいっと持ち上げた。
「‥‥えっ?」
「しっかり掴まってろよ!」
 空也は遼華を腕に抱き、いっそその速度を速めた。

「敵は残り二人。後の奴らだけだねー」
 最早情報収集の必要は無いと天光は空也達と合流していた。
「皆、うまくやってくれたみたいだな」
 現れた味方に空也も声を踊らせる。
「と言っても、隊長格二人。後数刻、いけるかな?」
 併走する空也を見つつ天光が問う。
「しかたねぇか‥‥遼華。あとは一人でいけるよな?」
 空也の顔には切迫するこの状況に似つかわしくないほどの満面の笑み。
「え‥‥?」
 突然の言葉に遼華は呆気に取られた。
「というわけだ、天光。力貸してもらうぜ?」
「ふむ‥‥符も持たない僕が役に立つかどうか疑問だけど‥‥やりますか!」
 立ち止まった空也の誘いに天光も力強く答えた。
「そんな、だめよっ! ‥‥!?」
 危険を冒そうとする二人を遼華は必死に止めにかかるが。
「しー。遼華は遼華の役目をすればいい。俺達は俺達の役目をやり遂げる」
 空也が遼華の唇に指を当てその抵抗を遮った。
「く、空也さん‥‥」
 突然の行為に真っ赤になった遼華は、上目遣いに空也の名を呼ぶが。
「さて、捕まりに行きますか」
「大捕り物だね! わくわくするよ! 立場が逆だけど」
 空也と天光は迫る敵の前に立ち塞がった。

空也、天光⇒脱落
悦、界⇒脱落

●正午
「お帰りリョウカ!!」
 泥に汚れ枝に掻かれた衣装を纏い、森を抜けた遼華をミルが両手を広げて出向かえた。
「みんな!」
 8人の姿を見つけた遼華は、一目散に駆け寄ってくる。
「やったね!」
 遼華の晴れやかな笑顔に冬子も嬉しそうに向かえた。
「俺達の作戦勝ちってな!」
「この条件でよく勝てたなぁ」
「俺の魅力が炸裂したからなっ!」
「‥‥早々に脱落して正解でした」
「はぁ‥‥死にたい」
 各々が弾ませる声に暗い影は微塵もなかった。
「さぁ、言ってあげなさい」
 そして、梓の言葉に力強く頷いた遼華は、つかつかと田丸麿へ近づくと。
「私の勝ちね! これで縁談は破談よ! ざまぁみろ!」
 田丸麿へ向けビシッと指を突きつけ言い放った。
「いやはや‥‥仕方がない、諦めるよ『今回は』」
 そんな遼華を前に、田丸麿は悪びれる様子もなくそう語った。
『ほほぉ‥‥』
 その言葉に9人は想いのたけを田丸麿のぶつけたのは言うまでもない。

 この後、遼華達の熱いお仕置きを受けた田丸麿は、一人無人島へ置き去りにされたとか。