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■オープニング本文 ※注意 このシナリオはIF世界を舞台とした初夢シナリオです。WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。 ●魔王城 火照った身体に心地よいひんやりとした空気の中、広い回廊に数人の靴音だけが響いていた。 太い大理石でできた柱が整然と列を成し、奥に見える巨大な扉へと誘っている。 「いよいよだな」 先頭を行く剣士の声は確かに緊張していた。 隣を歩く朋友も不安げに主を見上げている。 「‥‥大丈夫だ。これで‥‥これですべてが終わる。そうすれば、この世界に平和が戻るんだ」 幾多の戦いを共に越えてきた相棒を安心させようと、その声音はとても優しかった。 「そうよ。これが最後‥‥本当に長かった戦いがようやく終わるのよ」 肩に乗った朋友の頭を優しく撫でつけながら、パーティ唯一の癒し手が感慨深そうに呟いた。 きっと今までの壮絶な旅を思い起こしながらこの広い回廊を一歩一歩踏みしめているのだろう。 「ま、俺達にかかりゃ余裕だったけどな」 こちらはうちのムードメーカーの言。本当に物事に動じない人だといつも感心させられる。 「ええ、僕達は最強のパーティですから」 にこりと微笑んでその強きに答えてみる。それだけでこちらも力強くなれるから不思議だ。 そんな最終決戦前の緊張を和らげるように言葉を交わしていたら、いつの間にか巨大な扉は目の前にまで迫っていた。 光沢を消した黒曜石の様な真黒で全てを吸いこんでしまいそうな扉。 回廊に焚かれた松明の光が無ければ、そのまま突っ込んで頭を討っていたのではないかと思うほどに黒く闇に溶けている。 「‥‥いいな?」 剣士の声がいっそ真剣みを帯びる。その手はすでに黒曜石の扉に掛けられていた。 「‥‥ええ」 癒し手がこくりと頷いたのに倣い、皆が無言で首肯する。 それが最終確認の合図だった。 剣士は皆の決意を引き受ける様に扉へと向き直ると、掛けていた手にグッと力を込める。 ぎぎぎと鉄と木が軋む音が響く中、重厚な黒曜石の扉がゆっくりと開かれていく。 開いた隙間からは回廊の冷気よりもさらに冷たく重い空気が薄靄を伴って漏れだしてくる。 「行くぞ!」 人一人が何とか通れる隙間を開け、剣士が真っ先に部屋へと飛び込んだ。 それに続くメンバー達。ついに僕達は最終決戦の舞台へと足を踏み入れたのだった。 ●魔王の間 びりびりと肌に突き刺さるこれは冷気なのか、それとも別の何かか。 黒曜石の扉とは対照的に、部屋の中は白亜の大理石に埋め尽くされていた。 そして、中央に伸びた赤絨毯の先にある金の玉座に座すのは――。 『よく来たな勇者ども。歓迎しよう』 今まで何度となく聞いた声。長い冒険の要所要所で僕達の行く手を惑わせてきたその声。 声だけで実態のない挑発に苦汁を舐めた時は終わり、ついに本人からその声を聞いてやった。 「お前が大魔王アラカか‥‥!」 確かめるまでもない。目の前で薄ら笑みを浮かべ、こちらを見下した様に見下ろす女こそ、大魔王アラカだ。 『ああそうだ。我が大魔王だ』 抑揚のない声が白亜の空間に響き渡るたびに、空気が震えている気がする。 その声が引き金となり、パーティに一層の緊張が奔った。 「貴女の悪事も、今日までです‥‥!」 肌を裂く様な空気の振動とプレッシャーの中、癒し手が一歩前へ歩み出た。 心根の優しくい彼女がこれほどまでに感情を露わにするんだ。やっぱり大魔王への憎しみは半端が無いんだろう。 『悪事だと? 何に対して悪事というのか』 しかし、癒し手の激昂を浴びても大魔王はまるで意にも介さず余裕を保っていた。 『金を盗めば悪事か? 食い物を奪えば悪事か? 人を殺せば悪事か? そんなもの、お前達人間もやっているではないか。我等が魔族以上にな』 「なっ!?」 それが大魔王の答えなのだろうか。絶句するパーティを嘲笑い言葉を続ける。 『我等を悪というのであれば、お前達人間こそ巨悪と言ってもいいのではないか?』 「俺達は違う!」 冷たい嘲笑を交え語られるそれを遮り剣士が声を上げた。 『違うか。なるほど、そこまできっぱりと言われるといっそ気持ちがいいな』 「私達は正義の使者としてここに居るのです!」 高潔な心を持つ癒し手が言い放つ。 『ふっ、正義か。いいだろう。では正義と悪、お互い対等な立場としてお前達に問おう』 「な、なんだ」 いきなりの問いかけ。パーティの皆が緊張を増し手に力を込める中――。 『世界の半分をお前達にやろう、どうだ我が部下にならぬか?』 大魔王は僕達が予想もしていなかった事を口走った。 「な、なる訳ないだろう!」 あまりに突拍子もない提案に、僕達はしばしの沈黙を余儀なくされる。 なんとか剣士が口を開き反論するが――。 『そうか、交渉決裂という訳か。残念だな』 「当たり前だ!」 それは大魔王流の挑発だったのかもしれないし、本気だったのかもしれない。 そんな条件、僕達が受けるわけがない! まるで残念とも思っていないのは声からもわかる。 それほど僕達の心を揺さぶるのが楽しいのか。 だけどもう、何も迷わない。僕達は―― 「必ずお前は倒して、平和を手に入れる!!」 そうきっぱりと言い放ち、僕達は朋友を――武器に変えた。 |
■参加者一覧
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
ウィンストン・エリニー(ib0024)
45歳・男・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
ディディエ ベルトラン(ib3404)
27歳・男・魔
御調 昴(ib5479)
16歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●友と 「世界の半分って‥‥あの王子様の国も入ってるのかな」 ぶつぶつとうわごとのように呟くルンルン・パムポップン(ib0234)は、脳内算盤を高速で弾く。 「も、もし入ってるなら、わざわざ怖い思いをして大魔王を倒さなくても、王子様と私は――」 などと皆が戦闘態勢を取る中、一人大魔王が発した交換条件に心ゆらゆら。 「さ、さらに王子様だけじゃなくて国中のイケメンを集めて――って、ダメダメっ! 黴だらけの世界半分なんていらないんだから!」 花忍ルンルンは何とか常在スキル『てつのいし』を発動させ魅惑の提示条件を跳ねのけた。 「王子様‥‥見ててくださいねっ! きっと世界に平和を取り戻して、そして‥‥!」 ビシッとアラカを指差しながら脇に置いた青銅製の箱をコンコンとノックする。 「その目でしかと見よ、なのですっ!」 言葉に呼応するように箱は割れ、中から漆黒の巨人が姿を見せた。 「影忍、ファイナルマックスダイソードモードゥっ!!」 何処からともなく魔女っ子垂涎なファンシー音楽が辺りに漂うと、漆黒の巨人は何処をどう組み替えればそういう形になるのかさっぱり理解不能な変形を見せ、一本の超巨大な剣へと変化した。 「愛と勇気と希望の名の元に、伝説の花忍ルンルン、ここに見参なのですっ!」 身長の倍はあろうかという巨剣を携え立ち尽すルンルンは、どこぞの勇者の彫像の如き、威風堂々とした立ち姿であった。 「サンちゃん‥‥これが最後の戦いです。もう一度だけ私に力を貸してくださいっ!」 手を広げ高々とかざしたフェルル=グライフ(ia4572)を目掛け、上空から鳥のシルエットが降り注ぐ。 『やろう、フェルルおねえちゃんっ。おねえちゃんの大好きな人の為にも――私、頑張るからっ!』 鈴の音の様な少女の声と共に、フェルルの身体を春の光にも似た暖かな光の繭が包み込んだ。 数ヶ月前、兵器として作られただ殺戮の為だけに力を振るわされてきたこの幼き声の持ち主は、フェルルと出会う。サンにとっては立ち塞がったフェルルも、今まで殺してきた人間と同じでしかなかった。しかし、激しい戦いの末、サンはフェルルに敗れる。兵器として生み出されサンにとって敗北は死を意味する。だが、死を覚悟したサンに待っていたのは――死ではなく、フェルルの暖かな抱擁だった。 自分に暖かな温もりを、兵器以外としての目的を、家族とは何なのかを教えてくれたフェルル。共に歩み、家族となろうと言ってくれた言葉に、サンの心は溶けて行った。以後サンは兵器としての自分の能力を封印した。 柔らかな声が響いた瞬間、光の繭が割れる。封印していた筈の――自らが最も嫌う姿へと転じたサンに、後悔はなかった。 『私の力、使って!』 「ありがとう、サンちゃんっ!」 そこに立っていたのは、サンの力の象徴ともいえる純白の翼を背負い白銀の戦装束に身を纏うフェルルの姿。それはまるで古の神話に登場する戦乙女の様であった。 「暴風一過の如き立ち周りにて有象無象を滅しては来たが、ついにそれも終焉。最早出し惜しみする必要も無しである!」 蓄えた髭を一撫で、ウィンストン・エリニー(ib0024)は靴の爪先で黒曜石の床を二度叩くと重低音ボイスを部屋に響かせる。声が木霊となり何度も響き消える、その瞬間、呼応するよう中空に巨大な鉄塊が現れた。 「バルバロッサ」 現れた鉄塊に目もくれず、ウィンストンは再び髭を振るわせ叫ぶ。途端、中空に現れた鉄塊は直立姿勢から身体を90度転換。両腕を水平に広げ両足をアラカに向けると、 「砲身変化!!」 ウィンストンの叫びと共に、黒の光が一帯を包み込む。一瞬の闇ののち、姿を現したウィンストンの胸部には鉄塊になり変わる巨大な筒が生えたかのような異様であった。 「これぞ我が秘中の秘。秘伝の一手なり! これより放たれし光弾にて、そなたを撃ち払い滅せん!」 固定砲台の如く腰を深く落としたウィンストンが、大筒の頂部に突き出たスコープを覗き込んだ。 輝く金貨がアルパゴンの首に下げられた蝦蟇口へと吸い込まれた。 『毎度あり』 小気味のいい音を響かせ重みの増した蝦蟇口をアルパゴンは至福の笑みで見つめる。 「はぁ、今月も赤字ですね〜‥‥」 対照的に軽くなった自分の財布をディディエ ベルトラン(ib3404)は悲しそうに見つめた。 『ほんじゃいきまっせっ!』 アルパゴンは長い首と尾を一直線に伸ばし赤銅色の翼を折り畳むと、ディディエはこくりと一度頷き赤銅色した背に触れた。 瞬間、朝焼けの空にも似た真っ赤な閃光が瞬き、アルパゴンがディディエの腕へと装着された。 「あのー、アルパゴンさん。少し銃身が重いので二脚を出していただけると非常に助かるのですが〜」 『追加料金、銀貨5枚』 「‥‥えーそこを何とか、最終決戦大セールとか何とかそんな所で一つ」 『びた一文まからへん』 「でしたら、成功報酬などではいかがでしょう。ほら見えるじゃないですか、大魔王の背後にある重厚な扉。きっとあの中には金銀財宝が山の様に――」 『商人舐めとったらあかんで?』 変形を解こうとするアルパゴンに、ディディエは悲壮な表情を浮かべながらも軽くなった財布から銀貨を五枚を取り出すと、今だ蝦蟇口だけはしっかりぶら下げるアルパゴンの財布へと投じた。 「はぁ‥‥世知辛い世の中ですね〜‥‥」 財布の重みの頼りなさを感じながらも、ディディエは銃身をアラカへと向けた。 『ビビってんのかい? 情けないねぇ』 「こ、これは武者震いだよ!」 にゅいっと伸びた首に御調 昴(ib5479)は思わず反論した。 『はは、言う様になったじゃないか。それでこそ男の子だ』 「ま、また子供扱いして!」 『ムキになる。そんな事だからいつまでも大人と認められないんだよ』 「うっ‥‥!」 恨みのたっぷりこもった視線で友の悪戯な瞳を見つめ返す。 『怯えるな、前へ進め。あたしは常にお前の傍にある』 そんな瞳を優しく包む視線が光に消える。 「‥‥だね、行くよ、ケイト!」 もう迷わない。迷う必要はない。光は両手に溶け、堅甲となり具現する。 昴は武器へと姿を変えた頼もしい友に心の中で礼を言い、目の前の巨敵に向い立った。 「さぁ、ハスキー君、サクッとやっちゃうよ!」 『サクッと切り刻んじゃうのね!』 直立すれば人の背よりも大きいであろう巨体を空中に踊らせくるりと一回転、灰色の光を帯びる。ハスキー君は高速回転状態のまま、叢雲・暁(ia5363)へぶつかる寸前、暁は両手を天にかざすと光は二つに割れ両の腕を追い掛ける。 「そうだよ! さっさと大魔王倒して最短攻略記録を更新しなきゃね!」 別れた猟犬の牙は、右に光、左に刃となり暁の牙となった。 「さぁ、どっからでもかかってこい! お前を倒して世界の全部を手に入れたら、下僕としてこき使ってやるよ!」 ブレードトンファーと化したハスキー君の牙をアラカへと突きつけ、暁は猟犬にも負けぬ咆哮を放った。 ● 戦いは最終決戦の名に相応しい激烈な物となった。序盤は双方相手の出方を見る様に、単発攻撃にて力量を推し量る。魔王が超威力を誇るブレス攻撃を発し辺りを薙ぎ払えば、勇者達は巧みな連携をもって最小限の被害に抑え反撃に出る。 お互い手の内の半分も見せないままに、戦いは中盤へと差し掛かった、その時。 大魔王はブレスに混ぜ、混乱、毒、麻痺、状態異常の息を繰り出したのだ。しかし、勇者達はこの攻撃を予想し、ブレスに混ぜられた搦め手ともとれるこの攻撃を何とかレジストしていくが、大魔王の発する攻撃はどれも広範囲にわたる為、完全には避けきることができず、勇者達のHPは徐々に削られて行った。 一方の勇者達も負けてはいない。アルパゴンとバルバロッサの二重砲火が大魔王の視界を潰し、ハスキー君とケイトの超近接高速連携が無数の拳を叩きこむ。影忍の巨剣が薙ぎ払い、サンの光翼が守護の燐光を降らせた。 一進一退の攻防の中、再び戦局に大きな変化が現れた。 キンッ! 「えっ!?」 突然の衝撃に、ルンルンは巨剣を抱えたままたたらを踏む。 『どうやら少し侮っていたようだな!』 突然両腕を掲げたアラカは、ついに最終換装を済ませた。 「あれが本気のアラカですか‥‥」 「なんたる威容。さしものオレも心胆に冷々しいものを感じる」 後方に位置するディディエとウィンストンにはアラカの全景がはっきりと見えていた。左右の腕に装備されたのはルンルンの巨剣をも超える長大な二本の剣であった。 『一気に終わらせてやろう!』 向けられた剣先はルンルンへ。 「えっ!? ニ、ニンジャーソード・パーフェクトプロテクション!!」 ルンルンが咄嗟に巨剣を盾に変形させアラカの巨剣の一薙ぎから身を護る。しかし、 「きゃぁぁぅっ!」 暴風の様な巨剣の一閃は、鉄壁を誇る堅盾をルンルンごと吹き飛ばした。 「はぁぁぁっ!!!」 巨剣の一振りは威力も大きいが、隙も大きい。間隙を縫って昴と暁が、一気に距離を詰める。 「うあっちぃぃ!」 しかし、二人は飛んで火に居る夏の虫を体現することとなった。飛び込んできた二人を待っていたのは灼熱ブレスであった。 ● 最終換装を済ませたアラカの力は想像を絶していた。非物理で一辺倒であった攻撃に強大な物理攻撃が加わったのだ。ブレスの隙を埋める様に繰り出される剣の一撃に勇者達は近寄れない。戦局は一気にアラカに傾くかと思われた――。 「くっ‥‥せめて上からの攻撃が可能なら‥‥!」 幾度となく浴びせた連携も剣とブレスの連携の前に致命傷を与えるには至らない。 昴がギリッと奥歯を噛んだ。そんな時。 「大丈夫、貴方は飛べますっ! 思い出して!」 声に上空を仰いだ昴の元へ、フェルルの翼から舞落ちる淡い輝きを放つ燐光が降り注いだ。 「こ、これは‥‥!」 舞落ちた光の雫は昴の翼に吸い込まれると、サンの輝きと同種の輝きを宿す。 『‥‥面白い事をする嬢ちゃんだね。昴、わかってるね! 飛び方を忘れたとは言わさないよっ!』 「も、もちろん!」 成長と共に大地に縛られていく身体。でも、あの幼き時に経験した大空を駆ける感覚は忘れたくても忘れられない。昴は気合いを入れ直し、今は形骸化した翼に意識を集中する。感覚は体が覚えている。後は自分の意思だけ。 「いけっ!!」 吐き出された叫びと共に、昴は――空へと還った。 昴が空を飛んだ事により、勇者達の攻撃は立体的なものへと変化していく。 『鬱陶しい虫どもめ!』 上を取る絶対的有利は覆されアラカは戸惑っていた。上に下へと走り回る虫がチクチクと鬱陶しい攻撃を放ってくる。苛立ちは最高潮に達しアラカはついに羽虫達を打ち落とそうと双巨剣を天に振り上げた。 「きた! フィニッシュターイム!」 暁が歓喜の叫びを上げた。上空からの攻撃に気を取られるアラカの胴は、まさに空っぽ。顔も上を向いているのでブレスの心配もない。 「イッツ・ショータイム!!」 再び叫んだ暁の輪郭がブンとぶれた。 「秘儀・多重影分身! いくぞぉぉっ!!」 途端、5人にも増えた暁達が一斉にアラカへと襲いかかる。 「奥義! 戴天閃光弾っ!!!」 全方位からの多重同時攻撃。実に36連撃にも及ぶ光と刃の嵐が、アラカの身体を引き裂いていく。 「ふむふむ、なるほど〜」 傾きかけた均衡が釣り合いを取り戻し、そしてこちらに傾きかける。 二脚を支えに、ディディエはアルパゴンに同化させた腕をアラカに向け突き出した。 「さて、そろそろチャージしますかね〜」 目の前には連撃を叩きこむ暁の残影が目に映る。 「うーん、そうですね〜。もう少し足しときましょうか」 目にも止まらぬ連撃をしっかりとその眼に移しながら、ディディエは暢気に空いた手の指を折る。 『ほんま、毎度のことながら長い前口上やな』 呆れ半分、感心半分。アルパゴンはこのディディエのいつもの口上が嫌いではなかった。最良の一撃を放つ為の間の取り方。そして、必殺の一撃を放つ為の完璧なまでに計算されたエネルギー量。昼行燈極まるこの男が放つ殺気は、ごく一瞬。それを感じるのが楽しみでならない。 『まぁ、それがおもろいんやけど』 「はい? 何か言いましたか〜?」 『何でもあらへん』 「ふむ、そうですか〜。っと、お待たせしましたお嬢様。とっておきのスイーツの準備が整いましたですよ〜」 そして、訪れた一瞬の殺気。それと共に引かれる引き金。光の矢にも似た蒼い稲妻は一瞬にして空気を裂き、アラカの胴を貫いた。 「F・M・D・S・M フルパワー!」 叫びと共に剣の柄から赤のオーラが湧き立つ。 「いけいけいけいけいけぇぇーー!!」 叫びを増すごとにオーラは増殖し増長し増加する。ついには剣を覆い尽くすまでに膨らんだ真紅のオーラが一際大きく発光した。 「着装・レッドクリムゾン!!」 再び叫んだルンルンは、真紅の巨剣を肩に担ぐと、倒れ込む程に前傾に身を倒し重力の勢いを借りアラカへ向け駆けだす。 「勇気の心にて、今――」 俯きながらポツリポツリと言葉を漏らし、 「悪しき世界の理を断つ!」 再び見上げた時にはアラカは目の前にあった。 「いっけぇぇぇっっ!!」 世界全ての苦しみを、悲しみを、怒りを、憎しみを、ルンルンは紅き閃光の一撃に乗せ振り上げる。 「全てを断ち切るっ!! この一撃をもってっっ!!」 そして、残る全ての力をもって巨剣を振り下ろした。 「システムオールグリーン」 めまぐるしく明滅するコンソールを見下ろし小さく呟いた。 「射線クリア。照準セット」 言葉に連動するようにせり上がってくる照準窓。 「生体リンクを開始――気力チャージ、20%‥‥」 コンソールに映る一際い大きなゲージは、バルバロッサのグリップを握るウィンストン自身から流れゆく気力量を現していた。 「80%‥‥100%。上限を突破。臨界に移行――」 すでにメーターは振り切れた。しかし、まだ終わりではない。 「‥‥臨界突破、オンチャージ完了。‥‥バルバロッサフルブラスト!!」 ついにその時が来た。気力の全てを注ぎこんだ一撃が暗く巨大な部屋を昼の如く照らし出す光線と化し、アラカの双剣を吹き飛ばした。 「これで終わりに‥‥サンちゃん!」 『うんっ! フェルルおねえちゃん!』 姿の無い、だけど確かに感じる温もりが鈴を鳴らすような声で力強く答えてくれる。 その声に暖かさと頼もしさを感じながら瞳を閉じたフェルルの瞼に今までの辛く長かった戦いの日々が蘇る。 「私達の、いえ、世界中の人々の力、その身に刻みなさい!!」 純白の翼が空気を叩いた軌跡に光の帯が翻る。フェルルの右手に光が結束し一本の槍を形どった。 「これが、人間の力ですっ!!」 フェルルはギュッとアラカへ向け投げ放った。 一条の光となりフェルルが放った光の槍が、大魔王アラカの額を貫く。 『ぐおあぁぁぁぁ!!!』 断末魔ともいえる絶叫が広い部屋に響き渡った。 |