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■オープニング本文 とある村はずれに有る廃屋の奥。そこには不思議な人形が存在するそうだ。なんでも朝日、暁の光を浴びると舞い始めるという。通称『暁人形』そんな物を目撃した者がいるらしい。 そんな噂を聞きつけた煉獄堂の主である黒耀が黙っているはずが無い。さっそく真相を確かめようと出向いてみたが、その途中でアヤカシと遭遇してしまった。とは言っても姿を確認しただけで気付かれる事は無かったが、無事にその暁人形を回収するためには、そのアヤカシを退治してもらった方が確実だろう。出来る事なら回収もしてくれるなら上出来だ。 どうやらその暁人形は廃屋の奥にあるにも関わらず、何年も放置されているのに埃一つ付いてないそうだ。誰が見たって分るだろう。 そう決心すると黒耀は早速、自分の住処である煉獄堂に変えると桜を呼びつけて事情を説明した。 「いきなり出て行ったと思ったら、またですか?」 さすがに溜息を付く桜。容姿が変わっている桜でも主人である黒耀の趣味だけは理解できないようだ。そんな桜に黒耀は活き活きと詳しく話し始めた。 「どうやらアヤカシは一匹だけらしくてな。詳しくは分らないが蜘蛛なのは確かだ。この蜘蛛を排除してなんとしても暁人形を手に入れなければ」 まるで己の使命のように拳を握る黒耀に桜は再び溜息を吐いてから立ち上がった。もちろん、これから頼まれるであろう用事を済ませるためだ。 アヤカシ退治と怪しい人形の回収。これを頼みに桜は開拓者ギルドへと向かっていくのだった。 |
■参加者一覧
崔(ia0015)
24歳・男・泰
青嵐(ia0508)
20歳・男・陰
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
篠田 紅雪(ia0704)
21歳・女・サ
福幸 喜寿(ia0924)
20歳・女・ジ
忠義(ia5430)
29歳・男・サ
八散(ia5515)
19歳・女・志
浅倉 円(ia6730)
17歳・女・弓 |
■リプレイ本文 崔(ia0015)はがっくりとうな垂れながら廃屋への道すがらを歩いていた。人形についていろいろと調査すべく朝早く出て、いろいろと聞き込みはしたものの、これと言った手掛かりが何一つとして出てこなかったからだ。 どうやら随分と昔な話で廃屋の主もあまり人を寄せ付けなかったらしい。だからだろう、何一つとして情報が出てこなかったのは。 うな垂れながらも道中で同じ依頼を受けた青嵐(ia0508)とも行き会い共に情報収集をしてみたのだが、これとって重要な情報は出てこなかった。 分った事と言えば廃屋の主だった者はカラクリ技師だったらしく、とくにカラクリ人形については得意分野だったらしい。更には何かしらの製作中に突然死した事で一時に話題にはなったものだが、今ではすっかりと忘れ去られていた。 分ったのもそれだけで、別行動で情報収集をしていた。北条氏祗(ia0573)と八散(ia5515)、更についでとばかりに一緒に行動していた。朝倉 円(ia6730)も合流した。 別行動していた北条達も集めた情報は同じような物で特にこれと言った物は出てこなかった。 時間は正午を過ぎた頃であろうか、暗くなっては不利になると全員が判断したので明るいうちに廃屋への侵入を開始する事になっていた。 廃屋へはすでに他の開拓者達も揃っていた。 「さすがに廃屋と言われるだけの事はあるな」 朽ちた家を前にそんな言葉を口にしたのは篠田 紅雪(ia0704)どうも人形が動くというのに興味があったらしく、今回の依頼を受けたらしい。 「不思議な人形の舞‥‥か、できれば覚えて帰りたいさねっ」 独特な喋り方で人形の舞に興味を示したのが福幸 喜寿(ia0924)。人前で踊る事が得意なだけに是非とも人形の踊りを覚えてみたいのだろう。 そんな開拓者達の中で最も人形に興味を示していないのが忠義(ia5430)。不思議な出来事というよりも怪談話ぐらいにしか思っていないのだろう。 そして最後にもっともやる気を見せないのが円だった。まあ、円にしてみれば金稼ぎの仕事であり、報酬さえもらえればよいのかもしれない。 日はまだ高い、この分では中は充分に明るいだろう。そう決断すると開拓者達は廃屋へと足を踏み入れるのだった。 一度廃屋に入ると一番最初に待っていたのは大広間だった。どうやら来客用に作られた迎え入れるための場所だろう。そんな広い場所だからこそ何があるか分らない。 八散が心眼を使って周囲を確かめる。けれども反応は無い。さすがにこんな最初からは遭遇する事は無いようだ。その後で北条がある提案を出してきた。 それは罠を撤去する班と辺りを警戒する班に分かれて行動することだ。もちろん、一塊になるが、紅雪の提案である程度の距離は保つ事になった。そうしていれば罠に掛かって一網打尽になることは無いし、誰かが罠に掛かっても助けやすいからだ。もちろん異論は誰も出さなかった。 こうして罠を探索する班に崔・北条・紅雪・八散が担当。周囲の警戒に青嵐・喜寿・忠義・円が担当する事になった。 罠はいろいろな所に張り巡らされており、その度に罠の担当班が破壊していく。 その間にも青嵐は埃の積もり具合、音などに細心の注意を払っていた。埃が溜まっていれば、その場所に居る可能性は無いだろう。相手が動くからには物音が立つのは必至、だからこそ物音に注意を払うようにしていた。 「大蜘蛛退治かぁ、うちも精一杯がんばらんとね!」 そんな気合を入れながら辺りを警戒する喜寿。気合だけは認めるが、あまり警戒になってないのも否めないのかもしれない。 忠義は杖先で辺りを突付きながら警戒をしている。こちらからも行動を起こせば相手からの反応があるかもしれないし、罠の発見にも役立つだろう。そう考えた結果だ。 そして円だが、一応辺りを見て周っているものの、そんなに警戒している雰囲気は無いのはやる気の問題なのかもしれない。 そんな事をしながら開拓者達は先に進んで行くのだった。 廃屋は至る所が腐り落ちていたり、傾いていたりしてかなり進み難かったが、それでも警戒しつつ進むと大きな部屋に出た。 どうやら何室かが続いている部屋だったらしく、間仕切りの襖などが転がっている。全体を見ればかなり広い部屋だろう。 これだけ広いと何があってもおかしくない。八散は二度目の心眼を使うのと同時に大声を発する。 「上です!」 全員の視線が上に向くが、その時にはもう遅かった。大蜘蛛はすでに糸を吐き、一番動きの遅かった円が糸の絡まれてしまった。 完全に動きを封じられてしまった円に忠義が一気に動く。早駆によって一気に円に接近すると、仕込み杖を抜いて糸を斬り裂いた。これでどうにか円は解放できたようだ。 円がまだ少しだけ身体に絡んでいる糸を払いながらも、青嵐は別の行動を取っていた。 この部屋には踏み込んだばかりで罠に注意しなければいけない。だからこそ、その辺に転がっている机やら襖やらを適当に投げて、辺りに展開されていた罠を破壊してしまった。 青嵐としてもここまでの成果が上がるとは思っていなかったが、これで罠に気をつける心配はなくなっただろう。 罠に心配する事が無い事を確認した北条は完全に罠が無くなった左側に走ると強力を使用して弓を放つ。 放った弓は上手い具合に直撃したことで大蜘蛛に一瞬の隙が出来た。その隙に喜寿が両手に持っているダーツを手に大蜘蛛の正面へと走る。 「大きい蜘蛛やけども‥‥まずは目を使えなくするさね」 そして相手の目に向けて投げ込むと見事に直撃。大蜘蛛の目を潰す事に成功した。 両目を潰された事で更に暴れ狂う大蜘蛛。トゲのある足を無茶苦茶に振り回すが、その一本が運悪く青嵐に向かっていく。このままでは避ける事は不可能だろう。 けれども後方に陣取り、攻守両方に備えていた八散が上手く間に割って込み、青嵐を庇った。 八散が庇ってくれたおかげで青嵐にも反撃の余裕が出来た。すでに符は用意してある。後は攻撃に転ずるだけだ。 「虫の関節は逆方向に弱いそうですよ、試してみましょうか?」 襲ってきた足の逆関節に斬撃符で攻撃するとかなり有効のようだ。その行動を見ていた紅雪は畳み掛けるように同じように足の逆関節を狙って強打を放つ。紅雪としても足を攻撃して蜘蛛の機動力を添いで起きたかったようだ。 けれども紅雪の攻撃が大蜘蛛に当たる事無く空を斬った。攻撃は完全に失敗に終わってしまった。 これを機に攻撃が止んだと思った大蜘蛛は攻撃してきた青嵐達から距離を取るべく、その場から後ろに移動するがすでに遅かった。 そこにはすでに背拳で回りこんでいた崔が居たからだ。目が潰されて崔の存在に気付いていない。丁度良く崔の目の前に突っ込んでくる大蜘蛛に崔は骨法起承拳を叩き込む。 この攻撃が大蜘蛛にかなりのダメージを与える事となった。 ここまで一気に攻撃されては敵わないと大蜘蛛はその場から離れようとするが、それを待っていたかのように円と喜寿が弓を構える。 「次は弓さね、流鏑馬よりかは当たりやすかよ」 「面倒です、わたくしはここで矢でも撃っていますよ」 円は鷹の目を使い、喜寿は通常攻撃でそれに矢を放った。 二人の放った矢はそれぞれに当たりはしたものの大したダメージは与える事が出来なかった。けれども遠距離攻撃はこれで終わりでは無い。 「堅固たる意思、迸る刃、雷帝の指先!」 弓組みの後に雷華手裏剣を放つ忠義。これが直撃して、正しく大蜘蛛は虫の息だ。そんな大蜘蛛にトドメを刺すべく北条の弓がしなる。 放たれた矢は大蜘蛛の身体を貫通すると大蜘蛛はそのまま動かなくなった。これで完全に倒したろうが北条はすぐに短刀を取り出すと大蜘蛛の頭に突き刺した。 「残酷かもしれないが、油断大敵ってな」 昆虫類のアヤカシだけに死んだフリがありえるからこその行動だ。なんにしても、これで一番の障害は無くなったわけだ。後は暁人形を探すだけだ。 そうなると暁人形を探すだけだったのだが、未だに大蜘蛛の罠が残っていて奥に進むにしても一苦労だった。 そして目的地と思われる場所に辿り着いた。 そこはあまり広くない一室だが、窓のすぐ傍に箱の上に乗っている人形が置いてある。みたところ埃すら被ってはいない。これが目的の暁人形なのは間違いないだろう。 けれども注目すべき点はもう一つあった。暁人形のすぐ傍に白骨化した遺体があった事だ。もう誰の遺体だが判別も付きはしないほど白骨化している。どうやらかなりの年月が経っているようだ。どうやら人形の製作者らしいが、こうなっては誰だか判別すら出来ない。 まさかその白骨遺体をそのままにしておくわけにもいかず、空く傍の裏口から出ると土に埋めてやった。せめてもの慰めだろう。 そして肝心の暁人形だが、これは青嵐と八散が熱心に調べていた。青嵐は人形師であり、八散はカラクリ技師である。だからカラクリ人形である暁人形に一番の興味を頂いていたのはこの二人だろう。 けれども分った事と言えれば、この人形は完成した直後である事。 それと芝居に使われる人形だったらしく、背後に暁が似合うような人形に仕上げてくれ。という依頼書が発見されたので、そのために作られた人形だという事が分っただけだ。 だが人形は一度も舞台で使われた形跡は無かった。なにしろ完成直後に製作者が死んでしまったのだからしかたないだろう。 けれどもカラクリが何度も動いた形跡は発見された。仕組みとしては時計のような物が内蔵されており、特定の時間に達するとカラクリが動き始めるようだ。 だから丁度朝日が出る時間にカラクリが動き始めるようになっているようだ。仕組みはそれで分ったが、問題なのはこの人形が何年も放置されているのに埃一つ付いておらず、まるで新品同様になっている事だ。 そこには何かしらの意味があるのだろうと開拓者達は人形の舞を見るために、今晩はここに泊まりこむ事にして、各々それぞれの場所で休むのだった。 そしてその場で夜を明かし、とうとう向かえる暁。丁度窓から日が差し込むと確かに人形は踊り始めた。 そのカラクリの舞は静かで煌々としており、確かに暁に似合う舞だった。そんな暁人形の舞に見とれる開拓者達。そして暁人形の舞が終わると暁人形はそのカラクリが止まり、元の状態に戻るが開拓者達は不思議な声が耳に入ってきた。 ありがとう‥‥私の舞を見てくれて。 そんな声が聞こえたような気がした。 暁人形を回収した開拓者達は、これまた怪しい煉獄堂の前で黒耀に報告かつ暁人形を見せた。 「なるほどね、けれどもなんでそんな声が聞こえたんだろう」 あの不思議な声はその場に居た全員に聞こえる事が出来た。たぶん暁人形が何かを伝えたかったのかもしれない。そんな風にも感じられるが、そんな答えを出すかのように店の中から桜華乱菊が姿を現した。 「たぶんですけど‥‥誰かに自分の舞を見て欲しかったのだと思いますよ。完成直後に製作者が死んでしまったので一度も使われずにいたのでしょう。だから誰かに自分の舞を見て欲しかった。そんな想いがあったのではないのではしょうか」 「なるほどね」 「ですから埃が積もる事無く、いつまでも新品のままを維持しようとしてたのかもしれませんね」 頷く黒耀。確かに桜の言う通りなのかもしれない。完成直後の事で製作者の事などは分らなかったが、暁人形は自分の舞を誰かに見てもらいたくて、自分が舞うはずだった暁を背景に踊っていたのでは無いのではないか。そう思えなくもなかった。 「ですから、今ではただのカラクリ人形です。もう不思議な事は起こらないでしょう。だから安心して大丈夫ですよ」 紅雪に対してそのような言葉を掛ける桜。確かに紅雪が暁人形に懸念をいだいていた事も、黒耀が悪用しかねない事も思ってはいたが、そこまで見抜かれてしまっていたとしては言い返す言葉も無いのだろう。ただ黙って頷くだけだった。 そんな紅雪とは反対に黒耀はがっかりとする。 「桜の言うとおりなら、これはただのカラクリ人形か〜」 がっかりして店内に戻る黒耀。煉獄堂の店主兼収集家としては何かしらの不思議さが無いと意味が無いのだろう。 けれども依頼を果たしたのは確かである。しかも暁人形の正体まで暴いてくれたのだから桜としては大満足だ。 そして、この一件が無事に終わった事にも桜はほっと胸を撫で下ろすのだった。 |