双子鏡
マスター名:黒鳶
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/20 21:21



■オープニング本文

 煉獄堂。いかにも怪しげな店であり、店内に並んでいる物もいわく付きのような物ばかりだ。こんな店に客などが来るのかどうかは分りはしないが、収集家というのはどの世界にもいる。そう、ここの店主である黒耀もその一人だ。
「双子鏡ですか?」
 その黒耀はとある一室で店員兼小間使いである桜に、そのような言葉を掛けてから一枚の紙を差し出すと彼女はその紙に目を通した。要約すると次のような事が書かれていた。
 とある村で生贄を使った神事が行われてようとしていた。その生贄には双子が必要だったらしく、村から双子が生贄の巫女とされた。その神事に欠かせないのが双子鏡と呼ばれる二枚の鏡だ。
 そして儀式は行われて成功するはずだった。だが瘴気の影響で儀式は失敗してしまった。更に生贄となるはずだった双子の巫女はアヤカシに取り憑かれ自分達を殺そうとした村人達を全員殺してしまった。
 それからその場所に近づいた人間は全て彼女達に食い殺されてしまっている。そんな噂が広まり、今ではそんな場所に好んで行くような人間は一切いなくなった。
 けれども収集家としての好奇心だか使命だかは知らないが、黒耀はこの話を聞くとどこからか勝手に調べてきて双子鏡のありかまで掴んでしまった。
 けれども問題はアヤカシと化した双子の巫女達である。まだ少女であるようだがアヤカシに取り憑かれてしまったからには黒耀にはどうする事も出来ない。だからこそ桜を呼びつけたのだ。
「つまりギルドに双子鏡の回収依頼を出してこいと、そういう事ですか?」
「そういう事だ。頼んだぞ」
 さすがに溜息を吐く桜。この場所にいるのは嫌ではないのだが、主人である黒耀の趣味には付いてはいけないのだろう。
 けれどもこれも店主たる黒耀の命、実行しない訳にはいかない。
 こうして桜は双子鏡を回収できる開拓者を求めるべくギルドへと足をおもむかせるのだった。


■参加者一覧
志野宮 鳴瀬(ia0009
20歳・女・巫
鷺ノ宮 月夜(ia0073
20歳・女・巫
高遠・竣嶽(ia0295
26歳・女・志
国広 光拿(ia0738
18歳・男・志
玖堂 羽郁(ia0862
22歳・男・サ
雲母坂 芽依華(ia0879
19歳・女・志
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
夜魅(ia5378
16歳・女・シ


■リプレイ本文

 とある場所にある大きな廃屋。辺りには幾つかの家が建っていた形跡があり、かつては村だったのかもしれない。
 そんな場所の一番奥に大きな廃屋がある。その奥にある双子鏡という鏡を回収するのが開拓者達の目的だ。
 志野宮 鳴瀬(ia0009)は廃屋の周辺を見て周った。人が訪れなくなって、すっかり朽ち果てている廃屋だ。知恵の付いたアヤカシなら逃げ出す可能性もある。だからこそ逃走経路が無いか調べているようだ。
 けれども窓や戸板はしっかりと閉じているどころか、家が傾いている所為か開かない場所もあった。これならアヤカシが逃げ出す事も無いだろう。そう確信すると鳴瀬は玄関へと向かい他の開拓者達と合流した。
 ともあれ他の開拓者達もそれぞれに暗い顔をしていた。やはり今回のアヤカシである双子巫女についてそれぞれ思うところがあるのだろう。
「‥‥俺だって、姉ちゃんと離れるのは嫌だ‥‥例え、死んでも」
 そんな言葉を呟く玖堂 羽郁(ia0862)アヤカシと化しても離れようとしない双子巫女に対して自分の何かと重ね合わせているのだろう。
「触れられない‥‥言葉一つ届かない‥‥そんな事になるぐらいなら、アヤカシと化しても共に居たいよ‥‥」
 それは羽郁個人の考えなのだが共感できる部分は他の者も持っているのだろう。鷺ノ宮 月夜(ia0073)は自分が病を治す術がいつかはアヤカシを人に戻せるなら、今回の双子巫女を戻してやりたいと思っている。
 けれどもそんな事は不可能だ。それは月夜自身が良く分かっている。だからこそ、今回は退治する事を承知した。
 そんな月夜とは違い、高遠・竣嶽(ia0295)も同じような思いを抱いていた。アヤカシに憑り付かれた者は助ける事は出来ない。そんな事は分ってる、だからこそ自分の無力さを感じずにはいられなかった。
 かと言ってこのまま放っておく事も出来ない。姉妹が離れ離れにならなかった事だけが唯一の救いなのでは‥‥何にしろ倒す事がせめてもの供養になれば良いとしか思うだけだった。
 雲母坂 芽依華(ia0879)も同じような事を思っていた。
 うちも双子やさかい、何とか元に戻してあげとどすが‥‥今はこれ以上苦しまへんよう、倒して魂を解放せんとあきまへんやろな。
 そんな考えを抱いていた。この四人に言える事は全員とも双子巫女を元に戻して上げたいという思いとそれは出来ないという葛藤だろう。
 そんな四人とは違う思いを抱く者もいた。それは双子巫女の事ではなく、風習そのものだ。
 他の四人は風習と無干渉といえるだろう。
 鳴瀬はそんな風習になど興味は無く、いつまでも囚われている姿に忍びなさを感じるが、死しても尚、望まぬ有り方を続ける必要があるのかと疑問を感じていた。
 国広 光拿(ia0738)は風習そのものに自分の思いを重ねていた。風習にはやりきれない物があるが‥‥自分が信じる物が間違っているかと思うと責める気にはなれなかった。
 けどそれ以上に死んでも切れない縁がある事に不思議さを感じていた。だからこそ二人の亡骸をこれ以上利用させないためにも、今ここで退治しておかねばならないと決意する。
 そんな国広とは違い、風習自体が愚かしいと秋桜(ia2482)は考えていた。それ以前に自分如きがそんな風習に干渉する訳には行かないことは分っている。分っているけど、贄などを捧げて良いとは思っていない。それどころか逆に怒りすら覚えるほどだった。
 そして最後の一人、夜魅(ia5378)は風習にも双子巫女にも大した感情は覚えなかった。元々シノビとして冷静な一面を持っているのだろう。だからこそ、双子巫女を哀れな被害者だとは思っているが、それ以上の事は思う事は無かった。
 なんにしても、これで全員が揃ったのである。後は双子巫女と双子鏡がある内部へと進んでいくだけだ。
 開拓者達は廃屋の中へと足を踏み入れるのだった。


 廃屋の内部はしっかりと作れている物の朽ちている場所も多数有り、奥に進むにはかなり苦労した。なにしろ開かない戸や障子などがあるからどうしても遠回りする事もしかたなかった。
 更に奥に進むと長い渡り廊下があり、その先には人工的に作られた大きな社が建っていた。そのため扉も大きく、しかも建物自体が傾いているためか簡単には開けられそうに無い。
 それぞれ両開きの扉に片方を四人がかりで扉を開けると、そこには人工的に作られた部屋が存在していた。中心には丸い石舞台があり、かなり広い部屋になっている。何かしらの儀式に使われていたのだろうか。そんな事は分りはしないが、開拓者達がその部屋に足を踏み入れると少女の笑い声が聞こえてきた。
 何処からというわけではない。四方八方から笑い声が聞こえてきた。その笑い声が消えると、何時の間にか石舞台の上に紫色の瘴気を発する巫女姿の二人の少女が現れていた。
 この二人が双子巫女なのは間違いないだろう。
「あんたら! 自分らで何とかならしまへんのか!? うちは討ちとぅあらへんのや!」
 双子巫女を見て感情が抑えきれなかったのだろう。芽依華はそう叫ぶが、双子巫女はそんな芽依華の言葉を否定するかのように笑い声を上げる。
「障害を排除して、確実に双子鏡を回収しましょう」
 双子巫女が現れてから夜魅は感情を封印してシノビとしての思考に移行していた。それとは反対に羽郁は感情を爆発させるように言葉を発する。
 そんな双子巫女に羽郁は黙っていられなかったのだろう。咆哮を上げると双子巫女に向かって叫ぶ。
「さぁ‥‥こっちに来いよ! 楽にしてやるからな‥‥」
 咆哮に釣られる形で双子巫女は羽郁に向かって両手を差し出して攻撃を仕向ける。どうやら注意は向けられたが、そちらに行く事はしないようだ。
 双子巫女の攻撃はそれぞれ鳴瀬と夜魅に向かって放たれたが、二人の前に秋桜が立ち塞がり自ら盾となった。戦闘時に自ら壁になるのは彼女自身が決めた事だ。誰にも咎める事は出来ない。
「大丈夫ですか? 鳴瀬様、夜魅様」
 それぞれの無事を確認すると自ら自己治癒である生命波動を発動させるが、それだけでは間に合わなかったのだろう。鳴瀬と月夜はそれぞれ秋桜に神風恩寵を発動させて秋桜を完全に回復させた。
 二人が秋桜の回復をしていた頃にはすでに夜魅は動いていた。相手が動かないならこちらからとばかりに早駈を発動させて一気に双子巫女に迫る。
 それと同時に国広も動き始めていた。羽郁の咆哮で注意は向いたが接近する気配は無い。こうなってしまっては上手く誘導するしかないだろう。
 すでに双子巫女に肉薄していた夜魅は風魔手裏剣で攻撃をしかける。これが見事にあたり双子巫女は夜魅から離れようと距離を取ろうとするが、そこにはすでに回り込んでいる人物が居た。
「二人の身体を返して貰おう」
 流し斬りで一気に攻撃を仕掛ける国広。その攻撃に合わせるように高遠も一気に攻撃へと転ずる。
 二人の連携攻撃にさすがの双子巫女もかなりのダメージを負うことになるが、それでも二人からの距離を取ろうとする。それが誘導されていると気付かないままに。
 高遠の攻撃では壁際に追い込む事は不可能でも、ある人物の方向へ追い込む事は確実に出来る場所に居た。だからこそ、そこに誘導する事を選んだ。その先にいる人物こそ芽依華である。
 すでに炎魂縛武の構えを取っている芽依華はこちらに向かってくる双子巫女に向かって一気に刀を振り下ろす。
 炎をまとった刀は双子巫女の身体を横一線に薙ぎ切ると双子巫女は大きな悲鳴を上げた。
 紫色の瘴気を地面に垂らしながら苦しみだす双子巫女。その時だけは二人の手が離れて、それぞれの身体に取り付いたアヤカシが瘴気の塊と化して地面へと落ちていく。

 ‥‥ずっと‥‥一緒だからね‥‥

 そんな声を開拓者達には聞こえたような気がした。
 その声に関しての抱く感情は各々違ってくるだろう。けれども、これで双子巫女を退治することが出来たのは確かである。


 アヤカシは退治したものの双子巫女を弔ってやりたいという気持ちは誰しも持っていたようだ。
「お墓を立てて上げましょう」
 最初にそのような事を言い出したのは秋桜だ。それに芽依華も賛同し、国広としても二人の遺体を土に返してやりたいと思っていたようだ。
 更に月夜に関してはお墓を作る事を想定していたわけでは無いが、冥福を祈るためにお供え物まで用意して来ていたようだ。なんとも準備の良い事だが、双子巫女の気持ちを考えるとそこまでしたくなったのだろう。
 そんな事も有り、開拓者達は簡単なお墓を作ると月夜が用意した。二つのお酒と塩おにぎりをそなえると二人の冥福を祈った。高瀬と国広は特に二人の魂が安らかに眠れるように祈るのだった。
 そればかりではない。秋桜はせめて安らかに眠れるようにと子守唄を歌ってやった。
 そんな二人の供養が終わると、双子巫女がいた部屋の奥へと進む事になった。ここにも人工的な木の壁や柱があり、中央には祭壇があった。その祭壇に祀られているのが依頼の双子鏡だろう。
 鳴瀬は真っ先に双子鏡を手に取ろうとするが、それに羽郁が待ったを掛けた。仮にも双子鏡は神具であるからには、それなりの手順を踏んだ方が良いと言い出したのだ。
 羽郁がそう言うにはそれなりの理由がある。羽郁は巫女の一族であり、神楽舞を習得していたからだ。だからこそ、ここは一つ神楽舞を奉納してから持っていった方が良いという事らしい。
 鳴瀬としてはそこまでしなくとも良いのでは無いのかと思ったが、本人がそうしてやりたいのならやらせておけばよいだろうと、あえて祭壇の前を空けた。
 羽郁は祭壇の前に移動すると短いながらも鎮魂舞を奉じた。これで双子巫女の供養になればよいと考えたのだろう。
 そんな事も有り、開拓者達は全員無事に双子鏡を手にする事が出来た。


 煉獄堂。場所すらも怪しく店の中はもっと怪しそうな店の前で黒耀は開拓者達を迎えた。
「いや〜、ご苦労だったね。それではさっそく拝見させてもらおうか?」
 鳴瀬が手に持っている双子鏡を受け取ろうとする黒耀だが、鳴瀬はわざと双子鏡を渡そうとはしなかった。
「贄を悪しき風習と判じるのは此方の主観です。ですからこそ、一度其処から離れた呪具なればこそ、以後は平穏で在るように約束して頂けますか?」
 双子鏡は呪われた鏡だ。それが今後黒耀によって悪い方向へ使われるのを危惧しての発言だろう。双子巫女のような悲劇はもう二度と起こすべきなのでは無いのだから。
 そんな鳴瀬の言葉に黒耀は笑って見せて、その後ろから桜が姿を現した。
「お初に御目に掛かります。桜華乱菊と申します。皆様は気軽に桜とお呼びください。ここの店員兼依頼者の関係者ですので」
 突然現れた桜に夜魅は当然の質問をぶつける。
「桜様はどのような用事でこちらに?」
「もちろん、鳴瀬さんの質問に答えるためですよ。ウチの店主ではまともな答えが返ってこないでしょうから」
 失礼なとばかりに言いたそうな黒耀を無視して桜は鳴瀬の前に立った。
「収集家という者は持っているだけで充分なのです。珍しい物を持っている、珍しければ珍しいほど趣味の合う収集家に自慢できる。ウチの店主はそのようなお人なのですよ。持っているだけで充分、それが収集家というものです。なので決して鳴瀬さんが危惧しているような事態にはならないでしょう」
 つまり双子鏡はこれ以上悪用される事は無い。まあ、黒耀に自慢のタネにされる事はあっても贄を使うような儀式には使われる事は決して無いだろう。桜はそう鳴瀬に言い聞かせたつもりだ。
 鳴瀬の方でも桜が言いたい事を理解したのだろう。すんなりと双子鏡を桜に渡すと一瞬のうちに黒耀が双子鏡を取り上げて、意気揚々と店の中に入って行った。
 なんにしても黒耀が双子鏡を手にしている限り、あのような悲劇は起きないだろう。それだけが分っただけでも開拓者は安心して依頼の終了を確認する事が出来るのだった。