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■オープニング本文 ●神楽の都・開拓者ギルド 「合混だと? 聞いたことのない名前のアヤカシだな」 届いた依頼書を目に、ギルド職員は目を細める。 ギルド職員(48歳、独身)はギルドの中でも相当な古株であり、 『歩くアヤカシ辞典』の異名を誇っているが、『合混』などというアヤカシは聞いたことがない。 「へぇ、なんでも恐ろしいアヤカシで、恋人がほしいと願う人間が集まり、集会を開いた時のみ現れるという輩で‥‥せっかくくっつこうとしているカップルを襲っていくんです。このままじゃあ村の若い者が怖がって恋愛もできねぇんです」 将来的に子供が減り、田畑を耕すこともできなくなると、ギルド職員に力説する村の男。 なんともずいぶんと限定的な条件で出現するアヤカシであるが、村の将来にかかわるということであれば看過できない。 「しかし、それだけ出現する条件が限定的となると、開拓者を派遣したところで退治できないのではないか? そちらで恋人志願の者を集めるのか?」 「とんでもない! もう何人もの若いもんがやられてるんです、宴席の準備はこっちでさせてもらうんで、恋人志願の人もそっちでお願いしますよ!」 村の男は、ギルド職員の言葉に大きく首を振ると、金ならあると、金子を机の上に『ドン』と置いたのであった。 ●三日後・ギルドの掲示板 と、いうわけで、お前たちには合混(退治)をしてもらう。 アヤカシは恋人がほしいという気持ち、また楽しいといおう気持ちにひかれてやってくるので、 恋人がいるのに演技で恋人がほしいなど思っても見抜き、現れないので注意が必要である。 宴席は村の司会者の主導でおこなわれ、 酒や食事がそろった賑やかな席で 1.自己紹介 2.乾杯 3.女性開拓者、厠で男性開拓者を値踏み 4.残された男性開拓者、同じく女性開拓者を(略 5.特定の人にアプロ―チ始まる。 6.プレゼント交換タイム 7.終了 という流れで進行する予定であるが、 開拓者の発想によるイベントなども受け付けているので行動方針に記述してほしい。 また、アヤカシが登場した時点で宴席は終了になるので注意してほしい。 「‥‥という依頼だ。なんとも特殊な依頼ではあるが、報酬は多めだし、うまくいけば恋人ができるかもしれない。参加してみるか?」 ギルド職員の勧誘に、恋人募集中の開拓者は、 依頼を受けることを決意したのであった。 |
■参加者一覧
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
ケロリーナ(ib2037)
15歳・女・巫
アガルス・バロール(ib6537)
32歳・男・弓
み印黒子量産型(ib6574)
26歳・男・シ
円螺(ib6843)
14歳・女・巫
アリス ド リヨン(ib7423)
16歳・男・シ
和亜伊(ib7459)
36歳・男・砲
大城・博志(ib7903)
30歳・男・魔 |
■リプレイ本文 ●開始 「はいどうも皆様。本日は秋の夜の合混(退治)にお越しいただきまして、 まことにありがとございます。当会場は多くのお客様のご来場を予定しておりますので、できるだけ前の方につめて、男子・女子・男子・女子の順番で交互に並んでいただきますよう、なにとぞよろしくお願いいたします」 とある村にもうけられた、即席の宴会場において、 行動方針にも一言も書いていないのになぜか司会役をやらされることになってしまった み印黒子量産型(ib6574)は、どこかで聞いたことがあるような口上をところどころ噛みながら並べていく。 宴席では小さな村なりに精いっぱい用意したであろう、香ばしい香りを漂わせる 料理や酒の数が机のうえにところ狭しと並んでいた。 「男女交互にですか‥‥仕方ないですね、それじゃあ隣に座りましょうかアガルス殿☆」 身の丈に尺半(180cm)はあろうかというエルディン・バウアー(ib0066)は、 今回の『恋人が欲しいと思っている男女が集まった時にのみ現れる』合混(退治)において、 男子6名、女子2名。しかも女子2名は手を出してはダーク目玉先生に怒られてしまうほどの年齢 という状況に危機感の感じたのか、自らに「男の人が好きにな〜る♪」と暗示をかけ、この宴席に参加していた。 その博愛精神はまさに聖職者の鏡、6:2という、ちょっとアンバランスな数字も、 黒子が司会で抜け、自分が女子側にまわれば、4:3という、バランスのとれた数字になるではないか! 「‥‥いや、男女交互っていっていたであろう。っていうか語尾に言葉では記述できない擬音などつけないでいただきたい」 だが、博愛精神が他人にあっさりと伝わるようであれば、世の中から争い事は消えているはずである。 エルディンより一回り大きい、3尺(220cm)以上の身の丈を持つアガルス・バロール(ib6537)にも、エルディンの崇高な精神は伝わることはなく、 彼はまるでアヤカシでも睨みつけるような眼光で、女装した大男が発する違和感満載の擬音を消しにかかる。 身長差半尺‥‥身長だけバランスがとれていれば恋愛ができるほど、彼の精神は浮世離れはしていない。 「いやあ〜〜〜。エルディン様は素敵なんですけど、どこか違和感があるっすね」 男性参加者が多い影響で、エルディンの隣に座ることになったアリス ド リヨン(ib7423)も、 アガレスよりは若干柔らかい口調であったが、非常に穏やかな表現を用いても、 エルディンに対して複雑な表情を浮かべる。 「はい。それじゃあ乾杯しましょうか」 「乾杯ですの〜〜」 このままではこのパーティーが完全に「エルディンとゆかいな仲間たち」の雰囲気になってしまうと思ったのか、 依頼失敗の危険を察知した黒子が、席の完全決定を前に乾杯の音頭をとる。 早くもモチベーションが落ち込みつつあったり、お酒がそもそも飲めなかったりと、 いまいち乗り切れない男性陣を尻目にケロリーナ(ib2037)は、満面の笑顔で杯(ジュース)を掲げる。 数少ない女性の参加メンバーである彼女からとってみれば、深く考えているかどうかは微妙なところではあるが、この男女比もそれほど気になるものではなく、 純粋にパーティーを楽しもうという雰囲気が見て取れる。 「リヨンさんの尻尾、ふさふさですね。もふらさまとは違った感覚があっていいです」 「そうっすか? そういわれるとうれしいっす〜」 円螺(ib6843)もこのパーティー会場に来訪しているもう一人の女性メンバーであるが、この合混に緊張こそしているものの、それほどの気負いなどはなく、開会前から気になっていたのか、アリスのふさふさの尻尾を撫でていた。 二人の間には暖かな空気がにわかに流れ、混沌とした雰囲気が徐々に薄れていく。 (忘れてはいけないが、この依頼の目的はアヤカシをおびき出して、退治することであり、おいしいところをもっていくことではない) 「ふだん毛づくろいとかされてるんですか?」 「いやぁ〜、結構適当っすよ。こうして撫でてもらえるのも本当に初めてくらいっす」 そして宴が進めばその雰囲気はより一層濃密になり、アヤカシの到達が近くなってきているのか俄かに周囲の木々が揺れ、小鳥たちのさえずりが大きくなっていく。 「絶望…した。性別と年齢の妙な偏りに絶望した!!」 だが、合混退治とは、幸せな者ばかりではいられない。 大城・博志(ib7903)に至っては、モチベーションが上がっているのかさがているのか、どちらなかのかわからないが、 なぜか両腕を大きく広げて自らの気持ちを声にならない叫びで表現する。 30歳を過ぎて尚、特定分野の経験がないという、魔法使いになるべくしてなった彼ではあるが、 今回の退治においてクラスチェンジ‥‥脱魔法使いを期待していなかったわけではない。 向かいの席では自分よりひとまわり若い連中がいちゃいちゃしているというのに、 彼女を作るどころか夜這いのセリフや夜這い時の行動まで考えていたというのに、夜這い・恋人はおろか、 自分にまともに話しかけてくる女子すらいないとは?! 絶望した! 30過ぎただけで宴会の席でも、のけもの扱いにするこの世界に絶望した! 「おいおい、そんなに暗い顔をしてちゃあアヤカシさんも出てこないし、できるものもできないぜ」 「そうですの〜〜〜。お食事はいつでも楽しく、ですの」 そんな彼の状況をみかねたのか、同じく30オーバーながらも、 こちらは大人の余裕漂う和亜伊(ib7459)とケロリーナが大城のフォローにやってくる。 「ああ、すまない。俺ももうちょっと明るくやるつもりだったが、どうにも負の感情が先に出てしまった」 「まあそこまで気負うな。こんなこともあろうかと、一発逆転ができる手段を用意してきた」 このままでは依頼が失敗してしまうところだったと、フォローに感謝する大城。 そして和亜伊は、彼の複雑な心中を察したのか、口元をわずかにほころばせると、鞄の中からお手製のプリンを取り出した。 「おいしそうなプリンですの〜〜。いったいこれから何が始まるんです?」 「‥‥‥王様ゲームだ」 ケロリーナからの質問に、和亜伊は小さく、だが確実にその5文字を発したのであった。 ●王様ゲーム 説明しなければなるまい。 王様ゲームとは、ジルべリアの一部の上級貴族の間で発生した遊戯であり、 主に緊張感がほぐれてきた中で用いられる。 ルールは簡単、底に数字、あるいは「王様」(天儀の世界では氏長などもローカルルールで存在するが、ここでは割愛する) と書あれてある食器を用意し、食器に配膳されている食事(今回はプリン)を食べた後、 「王様」と書かれている食器で食事をとっていたものが、数字指定であーんなことやこーんなことを指令できてしまう。 やってしまえるというものなのである。 「アヤカシを呼び寄せるためであるならば仕方ない。退治せねばならからな!」 「仕方ないですね〜〜。本当は私、こういうのは違うって思うんですけど。依頼のためですしっ」 黒子によるルール解説が終わった後、『ふだんならば受けない』という雰囲気を前面に押し出しつつ、頷くアガルスとエルディン。 まあこれは彼に限ったことではなく、王様ゲームのある会場では一般的にみられる光景である。 「天国と地獄の可能性が両立しているが‥‥まさか? 番号をあらかじめ控えてあるのか?」 ルールとその裏に潜む恐怖にいちはやく気づいた大城は、恐怖など感じたことが無いといわんばかりに涼しい顔をする和亜伊に耳打ちをする。 黒子は参加しないとしても、男女比は4:3。いや、女性だと自称している自分よりも身の丈の大きいエルディンを男性側に加えれば5:2。 何か必勝法でもない限り‥‥そう、番号でも控えていない限り、そう涼しい顔をできるわけがない。 「‥‥フ、甘く見るな。こういったことに不正など無用だ。考えてみろ。幸運の女神すらも手に入れられないような男が、恋人を手に入れられるとでも思っているのか?」 「?!」 そんな大城の予想を眉ひとつ動かさずに否定し、なおかつ独自の理論すらも展開する和亜伊。 意味はよくわからないが図りしれぬ自信から繰り出される一言に、 『いや、そのりくつはおかしい』という、至極当然の一言すら飲み込んでしまう大城。 「まいったっすね〜〜。エルディンさんとかにぶつかったらどうすればいいっすかね〜」 「ふふっ、その時は生暖かく見守ってあげますから、頑張ってみてください」 横に目をやれば、既にあろうことか開始時点よりも両者の距離が5割ほど縮まっているアリスと円螺の姿が見える。 既に二人の関係は、特別に洞察眼が優れていなくてもこのまま流れに任せていれば「そういった」方向に向かっていくことは容易に察することができた。 「いや、だがしかしっ‥‥」 「(アヤカシさんを呼び寄せるために)、進むしかないようですね。やってやりますの〜〜」 それでも、負の方向が怖いという大城の声をケロリーナの、おそらくはメリットもデメリットも何も考えていない声が打ち消す。 大城・博志。齢30歳、魔法使い。 こんな小さな御嬢さんですら決断しているというのに、リスクがあるからといって進まずに何が開拓者か! それがたとえ宴席であろうとも、未知の領域に冒険してこその開拓者! 「さて、それでは皆様、お食事を開始してください。王様だーれだ?」 黒子の掛け声にあわせて、全員が一斉に器を見る。 「ふん、どうやら最悪の状況は脱したようだな。我が王様だ!」 巨大な体躯、野太い腕でプリンの容器を高々と、勝利の軍旗であるかのように高々と持ち上げるアガルス。 彼の持つ雰囲気と相まって『王様』という宴席のみの儀礼的な弐文字が、ひどく力を持ったものとして錯覚される。 「こちらも開拓させてもらう。命令は、4番が、我と‥‥」 4番と聞いて、自分が指名されたとビクリとする大城。 隣では和亜伊が何やら、本当になんともいえない、なんと記述していいのかわからない表情をしているが、 彼としてはそんな目で見られたからといって勇気が湧いてくるものではない。 嫌だ、開拓者だがまだそっち側は開拓したくない。 そうなると、残る望みはただひとつ。 「アヤカシーーー! 早くきてくれーーー!」 ‥‥彼の願いが通じたのか、それともアリスと円螺の感情が呼び寄せたのかは定かではないが、 彼の叫び声が響き終わるのと、アヤカシが宴席に獰猛な唸り声をあげて登場したのは、ほぼ時を同じくしてであった。 ‥‥こうして依頼は達成された。 |