玩具屋『天怪堂』
マスター名:呉羽
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/09/16 20:38



■オープニング本文

 玩具屋。それは、子供の心を惹き付けて離さない場所である。
 小さな店内に入れば、雑多に並べられた玩具の数々。その無造作に積み上げられた光景が子供達の目には宝の山に見え、なけなしの小遣いを握り締めながら入念に欲しい物を見て回るのである。
 もしもお金持ちになったら玩具を買い占めるのに。そうしたら一日中玩具に囲まれて暮らせるのに。
 そう、本気で呟く子供達の目は、きらきらと輝いている。
 その頃の夢が忘れられず、大人になってから収集に走る者も居ると言うが、玩具屋が本当に望んでいるのは、子供達の喜ぶ顔だ。
 ここにも、一軒の小さな玩具屋がある。
 一歩入るのに気後れしてしまうような面構えの店だが、店内に居る男はだいぶ若かった。
「よ、いらっしゃい。今日は何見に来たんだ?」
 店内を包み込む異様な雰囲気とは裏腹に、男は朗らかな笑みを浮かべる。


「相変わらずだねぇ‥‥あんたも」
「何だ、姉さんか」
 その日、1人の女性が店を訪れた。若くは無いが、女性が1人で訪れるような店では無い。ごく一般的な女性ならば外観だけで近寄りもしないだろう。
「父さんが残した店をこんなにしちまってさ。どういうつもりなんだい?」
「どうもこうも、俺は俺なりに子供達を楽しませる為にやってるだけなんだけどな」
「楽しめるんかねぇ‥‥」
 女性は、改めて店内を見回す。
 古い家である事は間違いなかった。だがその壁一面にびっしりと絵が描かれている。それも、夢に見そうなおどろおどろしいアヤカシを模した絵ばかりだ。所々やけに可愛い絵もあるが、恐らく人妖であったりもふらであったりするのだろう。この絵は店の外壁にも描かれている為、さながら真夏に涼を取れる『アヤカシ屋敷』のようであった。人がアヤカシに変装して屋敷内に入った人を驚かせるような、そんな場所のように思える。
「確かに女児は入って来ないな。で、姉さんは何の用なんだ?」
 おどろおどろしいのは壁だけでは無かった。店内に置かれている玩具の殆どは店主‥‥即ちこの男の手作りである。アヤカシを模した木彫りの人形だとか、絵札だとかが目立つ場所に置かれていた事から、最も人気な玩具なのだろう。女性は絵札を一枚手に取って裏返した。表は絵と数字。裏には文章が書かれている。
「これは何だい?」
「あぁ、花札みたいなもんだよ。種類は花札以上だけどな。アヤカシ同士を戦わせて勝利を決める遊びだ」
「へぇ‥‥随分物騒な遊びを思いつくもんだ」
「遊びだからいいのさ。遊びには夢がなくっちゃあ」
「気味悪い夢だねぇ‥‥」
 姉に理解して貰う気は無かった店主は、軽く笑うだけでそれ以上説明はしなかった。こんな遊びを考え付いたのは自分が最初という訳では無い。
「で?」
「別に。たまには息子達に何か買ってやろうかと思ってね」
「あぁ〜、太郎君と次郎君はどうかな。六君なら喜んでくれそうだが」
 言いながらも自ら選び始めた店主から目を逸らし、姉は店の奥を覗き込んだ。そこは作業場になっていて、描いている途中の紙や木版の型などが置かれている。
「あんた、やっぱり絵師になりたかったんだねぇ」
「玩具作りで絵を描いているから別にいいさ。それより、その絵札。次、第2弾を作ろうと思っているんだけど、どんなのがいいか悩んでて。想像だけで描くのも悪くないんだが、実物がどれだけ迫力あるか知りたいとも思うんだよな」
「そういう事なら、開拓者ギルドに頼んでみたらどうだい。些細な事でも引き受けてくれるのが開拓者ってもんらしいからさ」
 絵札を一枚取って眺めながら、姉は言った。
 迫力。迫力と言うならば充分この絵だって迫力があるし気味も悪い。だが、子供が夢を追い求めるようにいつかこの男はアヤカシ見たさに危険を冒すのではないか。
 そんな気がしてならなかった。


■参加者一覧
桔梗(ia0439
18歳・男・巫
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
浅井 灰音(ia7439
20歳・女・志
久野(ib0267
26歳・男・陰
日入 信悟(ib0812
17歳・男・泰
岩宿 太郎(ib0852
30歳・男・志
朱鳳院 龍影(ib3148
25歳・女・弓
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志


■リプレイ本文


「すっげー! 俺が実際にみたアヤカシより迫力あんぞ、これー」
 店の外で、羽喰 琥珀(ib3263)が感嘆の声を上げた。外壁や戸に描かれた模様が、看板の『天怪堂』という文字よりも目立ってしまっている。琥珀は店の裏まで回って絵を確認した後、店の中へと入った。
「たまに子供らが夢中で遊んでいるのを見かけるんでね、ちょいと気になっていたんですよ‥‥成る程、こういう遊びだったんですねぇ」
 中では絵札を取った久野(ib0267)が店主と話している。
「何か飛び出て来そうだな、これ」
 背伸びしてその札を見た後、琥珀は店内を見回した。壁一面のアヤカシ絵。
「子供達がアヤカシに興味持って開拓者や研究家を目指すといいですね。将来の優秀な人材が育つかもしれません。子供の頃の興味から大人になって立派な職業に就く人もいますよ」
 アーニャ・ベルマン(ia5465)は、まだ絵の描かれていない壁の一部を見ながら言った。
「志体の無い者が目指すのは危険じゃないですか?」
 久野の意見は尤もだ。
「そうですね。でも子供には夢も見て貰いたいです」
「ごっこ遊びの玩具は、半端に力を夢見せるようで考え物という気もします。身近な脅威のアヤカシで遊ぶ余地、というのも何処まであるかどうか。アヤカシを『格好いい、可愛い』と等号で結ぶような玩具は避けたほうがいいかと懸念するところですがねぇ」
「だから、開拓者人形を今回作ろうかと思って頼んだんだけどな。あんたが言いたい事は分かるよ。子供が変な好奇心を持って実物見に行ったら一大事だもんな」
 店主の言葉に久野は頷く。
「天怪堂さん。あんたの想像で生み出されたアヤカシは大したもんだ。実物を見ていないからこそ、型に囚われない自由な発想が出来るんじゃないですかね。アヤカシとの遭遇は、十中八九、死で終わるもんです。だから、例えば‥‥注意書きはあったほうがいいんじゃないでしょうか。親御さん向けに。字も読める年齢の子供なら理解できる程度の簡単な言葉を使えばいいんです」
「成程。実物を見ているからこそ説得力がある言葉だな」
「どういう人達を目的に作っているのかな?」
 浅井 灰音(ia7439)が、紙製の人形を裏返して見ながら尋ねた。これは完成図で、実際は何枚かの紙を折って作る物らしい。
「子供が殆どかな。時々大人も買いにくる。‥‥『地獄絵』って知ってるかい? 想像上の怖い世界だ。俺は興味ないが、そういう絵が好きな大人は迫力のあるアヤカシ絵も好むらしいな」
「それで‥‥開拓者人形の話じゃが、試作を考えてきたのじゃ。この絵姿じゃが。どうかのぅ?」
 狭い店内の椅子に座り、朱鳳院 龍影(ib3148)が机に胸を乗せて尋ねる。きっと大きすぎて肩が凝るから支えが必要なのに違いない。
「‥‥子供達も買うかもしれないのに、これはどうかな?」
 隣から覗き込んだ灰音が、店主が何か言う前に切り込んだ。異常に胸が強調された姿絵である。
「‥‥これ、ひっくり返りそうですよね〜」
 別隣から覗いたアーニャも言った。
「俺には絵心が無いから試作絵も描けないんだよなぁ‥‥無念なり」
 何時の間にか居た岩宿 太郎(ib0852)は、うんうん頷いている。
「たのもーっ」
 そこへ、新たな声が店内に飛び込んできた。
「漢を目指す漢! 日入 信悟(ib0812)が新作玩具の手伝いに只今参上ッス! 開拓者のモデルを探していると聞いてやって来たッス!」
 がらがらり。戸を全開に開けて、大声で叫んだ。
「もしかしたらぬいぐるみを作るかもしれないッスね! 手持ちのぬいぐるみを全部持って来たッスよ!」
 両脇に計10体のぬいぐるみを挟んで持っている。背中からは何故か旗が5本出ていた。何かが可笑しい姿である。
「‥‥」
 ずかずかと店内に押し入った信悟の後から、そっと桔梗(ia0439)が壁から半分顔を出して覗きつつ店内の様子を窺った。子供の遊び道具を余り知らないから見てみたくてやって来たのだが、狭い店内は店主含めて8人でもうぎゅうぎゅうである。
「‥‥」
 店を間違っていないか、再度看板の名前を確認し、彼は意を決して店内の隅っこへと入って行った。


「んあ? 俺が見たアヤカシ?」
 すげーすげー言いながら壁の絵と玩具を一通り見て回った琥珀は、ちょんと椅子に飛び乗り、出された湯呑茶碗を両手で持ちながら天井を一瞬仰いだ。
「ってか‥‥店の中、暑いよなー」
 狭い店内で押し合い圧し合いである。その中で熱い茶を頂くのは試練のような気もしてきた。
 仕方が無いので表に椅子を数脚運び、日陰で話をする事にする。
「俺がみたのはこういうのだなー。面白くねーだろーけど、ちゃんとアヤカシなんだぜー」
 がりがりと地面に枝で大鯰と鬼火の絵を描き、紙を持って来た店主の意向に従って再度紙に絵を描いて見せる。
「確かに想像の範疇内のアヤカシだな」
 店主も頷いた。
「俺はコックルボッタですね」
 久野は絵ではなく、迫り来る時の臨場感を出しながら話そうと考えた。
「糧となる恐怖を煽る為か、アヤカシは人の嫌う獣や虫の姿を形取ることも儘あります。こいつは人の体だが頭が狼でしてね‥‥。その体躯は1丈にも及び、頭上から恐ろしい瘴気を吐き散らすんです。巨体の割に森に入ると足が速く‥‥」
「どれぐらい速いんだ?」
「恐ろしく速いです。そうだなぁ‥‥。『瞬く間に』という言葉が相応しい程に」
「因みにそいつは服は着ていたのか?」
「褌だけで頭が狼だと、何だかおもしろアヤカシですよね〜」
 そんな姿で全力疾走したら可愛げがあるかもと言いつつ、アーニャはぽんと手を叩く。
「あ、そうだ。太郎さん。タケノコアヤカシの話して下さいよ。一緒に倒したんですよ」
「そうだ! 迫力のあるアヤカシと言えば、こないだ出会ったあのタケノコだよな!」
 何故か手元に9枚の褌を出して何かの用意をしようとしていた太郎が、はたと気付いたように頷いた。
「竹林で出会ったあるアヤカシの話をしよう‥‥。奴は、竹林のそれはそれは美味そうなタケノコに擬態し、いざ掘り返そうと思ったその瞬間! 『タケノッコォーンッ!』と叫びながら目を見開き襲い掛かってくるのだ!!」
「‥‥タケノコ?」
「タケノコ」
「目?」
「目」
 首を傾げながら店主は紙に想像図を描き始める。
「その後詳細は省くが、気付いた時には俺は尻をハリセンボンのようにされた上で無残にも倒れていたというわけだ‥‥」
「詳細を是非」
「以下略なんだ! タケノコは怖いぞ! 本当に怖いんだぞ!!」
「あの時は大笑いでしたよね〜。あ、私は桜餅アヤカシの話をしますね」
 アーニャが楽しそうに話し始めたのは、
「人を丸呑みできる大きさで、ご飯粒や葉っぱまでリアルなのです。御飯粒をぷぷぷ‥‥と飛ばして、ギザギザ葉っぱで斬り付けてきます。移動はゴロンゴロンと転がり、近づいたらパクッと食べられます」
 やっぱり面白アヤカシの話であった。
「結構可愛いです。これなら女の子にも人気出るかも?」
 アーニャが描いた絵を見ながら、店主は首を捻る。
「本当にこんなアヤカシが?」
「鏡餅アヤカシも居たな」
 茶を飲みながら、灰音も静かに言った。
「その他の通り鏡餅に手足が生えたアヤカシで、頭にちょこんと乗った蜜柑がトレードマークだ。のっしのっしと動くかわゆい奴なんだが、そこの桜餅と合わせてぬいぐるみなんかどうだろう?」
「ぬいぐるみいいよなー。土産に送るってこともできそーだし、大人にも受けるかもなー」
 すかさず琥珀が後押しする。
「変わった趣味のアヤカシならば、褌の好きな鬼もおったのぅ‥‥。褌職人から褌を奪って着用した鬼じゃが」
 龍影の言葉に、太郎は褌9枚を袋に片付けた。
「俺も鬼に会ったッス! 棍棒を持っていて、予想通りそれを振り回した攻撃をしてたッス! これは聞いた話ッスが、その咆哮はかなりうるさいらしく‥‥まだ駆け出しだったから大変だったッス! 今もまだ未熟ッスが!」
「成程。鬼にも色々居る、と」
「俺は‥‥朧車と、氷雪樹」
 がりがりと地面に絵を描くのに夢中になっている琥珀をじっと眺めながら、桔梗が口を開く。
「朧車は、床から天井までの、大きな顔。‥‥歯が、櫛みたいに‥‥細かく隙間なく生えてて。‥‥ガチガチ、って、噛み付いて来る」
 彼がぽつりぽつりと語った内容によると、彼らが倒した朧車は山小屋に潜んで訪れる人を食べていた。言葉を話せたので襖の陰から声を掛けて油断させていたらしい。氷雪樹は4mくらいの高さの樹木型のアヤカシで、枝に氷柱が下がっている。根や枝を使って走ったり鞭みたいに打ったり絡み付いたりするらしい。
 灰音は、他にも人間型のアヤカシ2体と恨み姫の話もした。自害した女性の怨嗟を取り込み元恋人を全力で殺めようとしていた恨み姫の話は、店主も大いに興味を示したようだ。
「成程。怪談話さながらのアヤカシもやはり存在するのか」
「身近な所ならば、田んぼにもアヤカシが居るのじゃよ。泥と見分けがつかんでのぅ」
 龍影は、雲関蜻蛉の話もした。とにかく気持ちが悪いらしい。
「つまり、世の中には多種多様なアヤカシが居るというわけか。俺の想像力など、言うに及ばんほどの」
 聞いたアヤカシ全てを筆で簡単に描き終えると、店主は大きく頷いた。


「それ、水着として認めてないからね?」
 いよいよ開拓者人形を作ろうかと言う話になって、真っ先に提出した龍影の持って来た姿絵を、灰音が笑いながら止めた。顔は笑っているが何処か怖い。黒い。
「そうは言うがのぅ。これはれっきとした水」
「却下。ね、貴女はこれ。これなら格好良い女空賊って感じだからね」
 真紅で露出度の高い姿絵をぽいっとして、灰音は一枚の姿絵を選んだ。
「う〜む‥‥。確かにこれも私の魅力は存分に余す所無く出ておるとは思うのじゃが‥‥やはりこちらのほ」
「店主。これ決定稿で」
「あぁ‥‥地味なほうに‥‥」
 さらりと灰音が絵姿を店主に渡した。そんな彼女が出した姿絵は、本人曰くジルベリア風戦闘服の絵である。店主は一言綺麗だね、とだけ褒めて受け取った。
「開拓者人形では、アヤカシと戦っている様子を入れてみるのもどうでしょう?」
 アーニャがびしっと弓を構えて立つ横では。
「怖いタケノコと戦ったときの状況を再現しませう」
 太郎が倒れていた。正確には、ブレスレット・ベルを両手足につけて倒れ伏しながらも顔だけはきりっと明日を見るような目つきで斜めを見上げつつである。彼曰く当時尻には矢やらクナイやらが刺さっていたらしいが、さすがにここで『では実践して頂きましょう』というわけにも行かない。
「そのポーズ、超ウケます〜」
 びしっと立っているつもりのアーニャは大ウケだった。ふにゃふにゃになっている。
「皆! もっと気合を入れるッスよ! 俺が格好イイのをやってやるッス! 見てるッスよ!」
 信悟は、気合充分に構えを見せた。だが背中からは旗が5本出たままである。
「いざ、信悟流荒鷹陣ッスゥ!!」
 荒ぶる鷹のポーズ! 更には!
「コケーッ!!」
 鳴きながら大回転である!
「‥‥鷹‥‥?」
 桔梗が首を傾げた。傾げながら、杖を右手に扇を左手に持つ。
「‥‥もでる。杖と、扇と。どっちが良い?」
 言いながら、彼は杖を眉太な表情の太郎の背に乗せてみた。少し考えてから扇と入れ替える。
「そっち!? 本人は!?」
「俺で‥‥良ければ」
「扇のほうが絵にはなりそうですねぇ。俺は陰陽師ですが‥‥らしくないですかね」
 言いながら久野は太郎を見下ろした。こんな格好の人形になろうという者が居るのだから、もうどうでもいい気もする。
「なぁなぁ。人形の型を作って、そこに石膏を入れて人形を作ってみるのどうだー? 自由に色を塗ることもできるし、木彫りよりは沢山作れると思うんだよなー」
 格好良い姿勢をとりつつ琥珀が提案した。背が低い為可愛いという風が正しいが、人形になってしまえばさほど変わりは無いだろう。
「どうやって石膏を型に嵌めるんだ? 石材を使った彫刻はジルベリア産のを見た事はある。でも石材は重いから子供向けでは無いかな」
「そっかー」
 そうして8人分の姿絵が完成した。


 姿絵が完成した後、皆は残りの作業に取り掛かった。
 まずはアヤカシ絵に付け加える事になる説明書き。そして注意書き。アヤカシが危険な物だという事を忘れないように、アヤカシに纏わる短い話を入れておくのだ。久野は人形が持つ用の小さな符を手作りし、桔梗は絵札を使った読み聞かせはどうかと提案した。
「見かけても、近寄らない、って、憶えておけるように出来たら良い、と思う」
「人形劇とかもいいよなぁ」
「それとは別に、女児向けの玩具提案をひとつ」
 久野は、桔梗が持っている杖を指して見せる。
「巫女の精霊武器や吟遊詩人の楽器を可愛らしく模した玩具はどうですかね」
「女の子受けするならこんなのもいいですよ〜」
 アーニャが描いた超美形姿絵を、店主は押し付けられた。
「これならばっちり! 女性客増えますよ〜。勝手にストーリーとか作って帝国の騎士君と教会の魔術師君の禁断の君主仕えのサムライ君と里を抜け出したシノビのあれがどうとかこ」
 妄想に悶える娘は放っておいて、店主はふむと考え込んだ。
「人形劇は悪くないな。俺には話を考える才能は無いが‥‥」
「そーいやさ。これ、どーやって遊ぶんだ?」
 琥珀は絵札を机に広げている。
「販促にさー。子供が絵札を陰陽師の式神のように使って競い合うって話を作って、んでそれ本にしたり人形劇にしてさ。店に来た人にただで見せるとか。他にも、小さくても大会開いたらどうかなー。宣伝兼仲間集めでさ。せっかく面白くても遊び仲間がみつからねーんじゃ、楽しめねーしなー」
「そうッスね! 第1弾の絵札も気になるッスよ。色々遊び方とか聞きたいッス!」
「だよなー! 俺も買いたいー」
 信悟と琥珀が盛り上がった。
「あぁ、第1弾は5種類あってな‥‥」
「5枚ッスか?」
「50枚」
「‥‥それは、楽しそう」
 桔梗もじっと絵札を眺めている。
「あ、そうッス! 相棒はどうッスか? 結構可愛い相棒も多いッスがー」
「そうだね。もふらさまとかもふらさまとかもふらさまとか?」
「ところで店主。人形の大きさなのじゃが、この際等身大とかどうかのぅ」
「あ。絵描くなら私、手伝いますよ〜」
「俺にも降りてこい! 絵心!」
「語り聞かせなら、抑揚方法を工夫すると大人でも楽しめますねぇ。宣伝も兼ねて文章、考えてみましょうか」
「ぬいぐるみでなく、型紙を売るとか。縫えばよいだけにして、裁った布や綿と一緒に売る、とか」
「なぁなぁ。こっちの絵札のほうが強いんだよなー?」
 いつまでも話は尽きない。皆は夜遅くまで既存の玩具、新しい玩具、様々な案などを出しつつ話し合った。
 玩具とは、大人になっても子供心を想い起こさせる、永遠の友なのである。