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■オープニング本文 ──事件の冒頭 さて。 今年の凰凱擂台賽は荒れ模様の状態です。 1月の擂台賽での紅道場の活躍により、凰凱の青少年たちの一部が、紅道場へと足を運ぶようになりました‥‥。 2月の擂台賽では、始めて異国のチームが参戦、かなり上位に食い込むという事態が発生しています。 凰凱の武術連盟では、異国のものに『龍王』の称号を渡して鳴るものかと、さらなる訓練にはげむ道場が多数でているようですが‥‥。 そしてついに4月、5月、6月と連続でのシード枠。 いよいよ紅道場も凰凱では実力のある道場と噂されはじめているようですが。 「‥‥頭が痛い‥‥」 擂台賽運営委員会の会議室で、議長が静かにそう呟く。 「一体何があったのですか?」 「7月擂台賽だ。今月は王都から擂台賽を生で見たいという連絡が在ったのだ。で、どうしたらいいのか困っているのだよ‥‥」 と告げる議長に、委員会の皆が溜め息を突く。 「それってつまり‥‥」 「ああ。春王朝天帝殿が自ら、この凰凱に赴くそうだ‥‥」 その議長の一言に、委員会は沈黙した。 「そ、それってつまり‥‥あれですよね?」 「ああ。ナニがアレしたら、俺達のナニがアレするだけだ‥‥」 ゴクッ‥‥ そしてしばし沈黙の後、委員会は終了した。 警備などの打ち合わせが綿密に行なわれたのは言うまでもない‥‥。 ──その頃 いつもの紅道場。 紅老師の前には、泰国新蔭流道場の師範代・柳生弥生(やぎゅう・やよい)が座っていた。 「申し訳ありません。今月も門下生さんを御貸し頂きたいのです‥‥」 そう告げると、柳生は肩を落としてじっと下をうつむいてしまった。 「ふむ。まあそれは構いません。他の道場の修練を学ぶのも修行の一貫。今月も『泰国新蔭流』の門下生として登録してもらうように頼みましょう」 「本当ですか!!」 嬉しそうにそう告げる柳生。 「いやいや、こまったときはお互い様ぢゃよ。ではワシの方から話は通しておきますでのう‥‥」 ということで、急遽『泰国新蔭流』の門下生を派遣する事になったそうな。 「しかし‥‥陛下の御戯れもどうにかして欲しいものですのう‥‥」 で、紅道場の参加は今回どうするの? |
■参加者一覧
恵皇(ia0150)
25歳・男・泰
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
酒々井 統真(ia0893)
19歳・男・泰
王禄丸(ia1236)
34歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
斉藤晃(ia3071)
40歳・男・サ
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
佐竹 利実(ia4177)
23歳・男・志
日御碕・神楽(ia9518)
21歳・女・泰
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
朱月(ib3328)
15歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●天覧試合という意味 ──泰国・凰凱7月定例擂台賽 「それではっ。定例大会を開始するんだワンッ!!」 武道大会会場で、司会進行でもある昨年度『大覇王』のわんドシ君が大声で叫ぶ。 その言葉に会場に集まった観客が盛り上がる、まさに会場は興奮の坩堝となってしまった。 やがて個人戦と団体戦それぞれの対戦表が張り出されると、いよいよ試合が開始された。 前回の成績により、今回もまたシード枠からのスタート。 さらに今回は天覧試合という事もあり、てつもの擂台の近くには、天帝の座る特別席も用意されている。 今回の大会、団体、個人、ペアそれぞれの優秀チームは天帝自ら表彰され、『称号』を受けることができる。 という事で、各チームはその為の準備をちゃくちゃくと続けてきた。 そこにきて、今回の大会中に天帝が暗殺されるという噂が流れてきている。 それがどこまで信憑性があるかというと怪しいところなのだが、火の無い所に煙はただず、門外地ということも考慮された。 具体的には赤マント(ia3521)の呼び掛けで、凰凱で信頼性の高い道場主が一同に集まり、今回の暗殺についての対策を行う事になった。 周辺の警護、怪しい人物のマークなど。 そしてもし優勝した暁には、細心の注意を払いつつ、天帝に対しての怪しい動きを見せたものに対しての対処方法などを取り決めていた。 幸いな事に、集まってくれた道場は全てこの計画に賛同してくれたため、残る怪しい道場などについては各道場ごとに持ち回りを決めて警戒することとなった。 さて、話は戻って団体戦。 なんと決勝まで進出し、暗殺阻止計画に拍車を掛ける事になった。 そして今回の対戦相手は『泰国真蔭流道場』。 紅道場にとってはまさに因縁の対決である。 ここ最近の泰国新蔭流道場には僅かずつではあるが門下生の姿が増えている。 それもその筈で、擂台賽での結果を知って強くなりたいという子供達が集まっているのである。 「まさかとは思ったけれど‥‥面白いねぇ」 恵皇(ia0150)が対戦相手を見ながらそう呟く。 ──先鋒 ○日御碕・神楽 vsルオウ 「それでは先鋒の方から擂台(対戦舞台)の上へどうぞ!!」 そう告げられて、まずは日御碕・神楽(ia9518)が擂台の上に。 目の前に立っているのは、真蔭流の一番手であるルオウ(ia2445)。 「それでは始めっ!!」 審判の合図で同時に構えを取る二人。 「さあ‥‥いっくよーー!」 先鋒戦だし気合いれていく神楽。 そのまま死角を取るように円を描くステップを踏み、スピードで翻弄を始める。 「スピード技か。たいしたことはねぇなぁ‥‥」 と呟きつつ、『蜻蛉』の構えで武器を大上段に構えて相対するルオウ。 サムライらしく正面から堂々とぶつかっていくルオウと、それを速度で翻弄する神楽。 (‥‥ルオウさんの動きが手に取るように判る‥‥今までよりも‥‥どうして?) 自身が強くなりはじめているのに気付かず、神楽はそのまま戦術を変えずに攻撃を続ける。 だが、ルオウもまたその神楽に追い付く形で攻撃を開始。 両雄一歩も引かない戦いとなった。 そしてその戦いに決着をつけたのは神楽であった。 大振りになってしまった『蜻蛉』にカウンターでの一撃を叩き込んでの勝利。 これにはルオウもまた観念したらしい‥‥。 「ちっ‥‥思ったよりも強くなっていやがる」 「ギリギリでしたよ‥‥」 ──次峰 ○黒猫仮面 vsジークリンデ 「それでは次峰戦‥‥始めっ!!」 ──ドォォォォォォォォォォォォォン 景気良く銅鑼が鳴る。 と、長刀を静かに構えた黒猫仮面こと三笠 三四郎(ia0163)。 その正面では、ジークリンデ(ib0258)が静かに微笑んでいる。 (相手が三笠さん‥‥近接の間合に入られると厄介ですね‥‥) そう心の中で呟くと、ジークリンデはゆっくりと間合を放していく。 だが、開始線からわずかにずれる旅ニ、三笠は必勝の間合を取り始める。 (相手が術師の場合‥‥術印を組み込むまでのタイムラグが発生します‥‥そこに技を叩き込めば勝機、もし間に合わなかったら‥‥術の一撃でおしまいですか‥‥) 対術師戦としてのシミュレーションにもなるということであろう。 三笠はそれらの事を踏まえつつ、一定の間合を取りつづける。 (‥‥これは不味いわね‥‥) 手にした手斧で牽制を続けつつも、必死に間合を探るジークリンデ。 だが、三笠もまた間合を放しすぎず、じっとタイミングを見計らっている。 (‥‥これ以上の消耗戦になるよりは‥‥) と心の中で呟くと、スッと手を上げるジークリンデ。 「この試合、敗北を宣言します!!」 ──ザワザワ その宣言に会場はどよめく。 が、対術師戦を経験した事のある者たちからは称賛の拍手が送られた。 そして武舞台から降りるとき、三笠に向かってジークリンデが呟く。 (個人戦とペア枠決勝に気を付けて‥‥私達は外からバックアップします) その言葉に、三笠は静かに肯いた。 ──副将 王禄丸(ia1236)vs朱月(ib3328) 「すまんが、私の技は暗殺向きだ。獲物はこれでいかせてもらうぞ」 そう告げると、王禄丸は開始線の手前で鉄傘と番傘を構える。 「‥‥上等!!」 ガシィィィンと拳を打ち鳴らすと、朱月はゆっくりと身構える。 (これを勝っても、次の大将戦に勝てないと‥‥それでもさいど決勝をしないとならないのなら‥‥) と頭の中でここから先の事を考えはじめる朱月。 そして王禄丸もまた、ゆっくりと構えつつ朱月の出方を見る。 (‥‥成る程ねぇ‥‥) と心の中で呟くと同時に、開始の合図が響き渡った。 ──ガシィィィィィッ そして刹那のタイミングから打ち合う二人。 「ぐっ‥‥思ったよりも早い!!」 そう呟くと同時に、朱月が間合を詰める。 そこから離れようと踏込んだ王禄丸が、朱月の耳元で静かに告げる。 (俺の後方、編み笠の男たちが暗殺の話をしている‥‥実働班だ‥‥) 流石は超越聴覚。 王禄丸は会場の擂台外で暗殺についての計画を編み笠の中で呟いているのを聞き取っていた。 「‥‥ならば‥‥」 と呟くと、朱月はそのままオーバーアクションで王禄丸に向かう。 (このまま仕留めてくれ‥‥それで俺達は暗殺阻止に向かう!!) そう告げた朱月に向かい、素早く当て身連撃を叩き込む王禄丸。 その攻撃を受て、朱月はそのまま演技しつつその場に崩れた‥‥。 「勝者、王禄丸!!」 その審判の叫びで戦いは終った。 大将戦はそのまま行なわれず、引き続きペア枠と個人戦が始まった‥‥。 ●そして ──凰凱市街・旧市街区 「あーーーーーーーーーーーーーーーっ。あのまま勝ち進めば確実に優勝は取れた筈なのにぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 絶叫を上げつつ、風龍八十八聖の拳士と戦っているのは赤マント(ia3521)。 王禄丸と朱月からの報告を受けて、急遽個人戦ベスト4の参加を棄権したらしい。 「私達だって‥‥きっと決勝まで薦めたかもしれませんのにっ!!」 「それというのも。貴様らの暗殺計画なんてものがあったから‥‥」 水鏡 絵梨乃(ia0191)と酒々井 統真(ia0893)もまたペア枠の準決勝までコマを進めたときに招集されたのである。 「まあ‥‥これで来月からの大会運営がスムーズになるのなら‥‥よしとしておくか」 と佐竹 利実(ia4177)も風龍八十八聖の拳士をフルボッコ状態。 ちなみにこちらの手勢は11風龍八十八聖が40人弱とやや劣勢。 加えて大会での疲労はまだ言えていない為、練力を必要とする大技は繰り出せていない。 それでも暗殺部隊をここまで追い詰めたのだから、よしとしておこう‥‥。 ──ピリリリリリ!! と、突然笛の音が響く。 「な、なんだ!!」 と赤マントが周囲を見渡したとき、あちこちの建物の影から『天帝近衛隊』の姿が見えた。 その先陣を切っていたのは同じ天帝近衛隊の制服を着ていた斉藤晃(ia3071)である。 「天帝にあだ名す風龍八十八聖。貴様たちに安息は無いと知れ!!」 その斉藤の怒声と同時に、近衛隊が一斉に風龍八十八聖に向かって襲いかかっていった。 「こ、これは一体‥‥」 茫然とする一行。 「いや、こちらに風龍八十八聖を追いかけていった泰拳士がいるという報告を受けてな。天帝の勅名で追いかけてきた訳だ!!」 と笑う斉藤。 「そうか‥‥なら、これで全て完了というところですね?」 と安堵の表情を見せる絵梨乃。 そして大会会場からもひときわ高い声援が聞こえてきた。 「個人戦とペア戦の決勝も終ったか‥‥正直、あのまま戦いたかったが‥‥」 「また次がありますわ‥‥」 と統真を宥める絵梨乃。 そして一行はそのまま会場へと戻っていった。 ●そして表彰式 ──擂台特設表彰台 そこには天帝の姿があった。 表彰台には団体戦優勝の紅道場一行、そしてペア枠優勝の仮面の拳士が二人。 個人戦優勝はわんドシ君というメンバーが立っている。 「‥‥ということで、この旅の大会の優勝にあたり、貴殿らの道場の名前である紅の文字を取り、称号『紅小龍王』を授ける!!」 そう告げると、春香王が記念の『劈玉(へきぎょく)』を授けた。 それをうやうやしく受け取ると、今度はペア枠の表彰に移る。 「‥‥ということで、貴殿らにも‥‥を授ける!!」 と天帝が告げて、二人に向かって『劈玉』を差し出した刻!! 「天帝っ!! その命頂戴する!!」 と突然二人が懐からヒ首を取出し、天帝に向かって襲いかかった!! ──ヒュンッ!! あらかじめそれに対して警戒していた一行。 すかさず飛込んできた赤マントがヒ首を握り締めて奪うと、表彰台に立っていた三笠と神楽、王禄丸の3名が春香王を後ろに下げた!! そして入れ違いに斉藤と佐竹、朱月の3名画二人を取り押さえる形になった。 「天帝殿。安全な場所へ!!」 そう告げる赤マントに対して、天帝は静かに笑みを浮かべる。 「よい。この者たちを連行しろ。この程度の座興で皆の楽しみを奪うのは本意ではない‥‥」 と告げると、そのまま表彰を続けた。 そして全てが終り、天帝は近衛と共に王都へと戻っていった。 捉えられた風龍八十八聖は全て牢の中で自害し、誰も口を割る者はいなかったという。 ──そして 優勝した紅老師道場には特別報奨が送られる。 この戦いで紅道場と泰国真蔭流の知名度はさらに高まり、数多くの道場生が訪れるようになったという。 そして暗殺計画。 首謀者を一として全てが口を閉ざし死んでいった為、その真意は訪い出すことは出来ず。 ただ、牢に残されていた一文が、この泰国に暗雲をもたらすものであろうと誰しもが思った‥‥。 ──Fin |