【泰国】昇竜での道・壱
マスター名:久条巧
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/12 20:12



■オープニング本文

──事件の冒頭
 ザワザワザワザワ
 大勢の人々で賑わう街。
 ここ泰国中央にある『昇竜(しょうりゅう)』と呼ばれる小さな街の隣街・桃華では、現在とある事件に巻き込まれていた。

「なんてこったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 絶叫しているのは『桃華』にある『七星鳳凰拳』と呼ばれている武術道場の道場主・紅流賽(こう・りゅうさい)。
 彼の道場にある宝物庫が破られ、中に納められていた『七星鳳凰拳秘伝書』が盗まれてしまっていた。

 まあ、そんな話はおいといて。
 ここ昇竜も、『風龍八十八聖』の一聖である『臥天人・碓一(がてんじん・たいいつ)』とその一派によって襲われたことがあった。
 現在、その首謀者である『臥天人・碓一』は別の街の制圧で遠征しているため、現在、この街は彼等の手下によって監視されていた。
 監視されているため、昔どの自由はない。が、そこそこに街は復興し、監視下であるにも関らず人々の表情はどことなく明るい。
 というのも、『臥天人・碓一』という男、武術を愛し、武術の強いものを高い地位に召し抱えるというお御触書を出していた。
 その為、この街では定期的に道場の対抗戦が行なわれ、どの道場が一番強いかというのを争っていた。
 
──とある道場
「もうすぐ‥‥11月の対抗戦ぢゃのう‥‥」
 窓のそとをぼんやりと眺めつつ、一人の老師が静かにそう呟く。
「ええ。紅老師。対抗戦ですねぇ‥‥」
 紅飛鴻(ふぉんふぇいうぉん)と呼ばれた老師と、その横で静かに外の松を眺めている一番弟子の白蘭那。
 この紅道場は現在、この二人しかいない。
 以前はかなり大きい道場であったが、門下生達は皆、別の道場に移ってしまったのである。
 というのも、この道場では武力の行使をあまりよしとはせず、むしろ高いは極力裂けたほうがいいという教えがあった。
 その為、ここの道場では武術よりも精神の修練を第一賭していた為、ここでは強くなれないと悟った若い弟子達は、みな別の道場へと移ってしまったのである。
「ですが紅老師。次の対抗戦、全ての道場が参加しなくてはなりません。そういう御触書がありましたけれど‥‥」
「ふむふむ。で、参加しなかった場合はどうなるのぢゃ?」
「道場の取り壊しと立ち退き、ついでに私達はこの街から追放となりますが‥‥」
「ふぉっふぉっふぉっ。その程度なら問題はあるまいて‥‥」
「ええ。ですが、そのままというのも。この対抗戦、数多くの道場が武力を以って参加しています。そろそろ、みなさんの目を冷まさせてはいかがでしょうか?」
 白がそう告げると、紅老師は静かに肯く。
「しかしのう。参加できるのは弟子と門下生のみ。師範代のお前とワシは参加できず‥‥どうするのぢゃ?」
「門下生を募集しましょう。対抗戦に参加して、武力に囚われた他の道場の目を冷まさせる為に!!」

 ということで、紅道場でも門下生を募り、対抗戦に参加することとなったのだが。
 はたしてどうなることやら


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
赤マント(ia3521
14歳・女・泰
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
佐竹 利実(ia4177
23歳・男・志


■リプレイ本文

●がんばれば‥‥愛
──紅道場
 にこやかに笑いつつ茶を立てているのは師範である紅飛鴻。
「まあ遠路はるばるようきたのう」
 と呟きつつ、白磁の急須に茶葉をいれる紅師父。
「で、紅師父。大会の規約と進行は?」
 恵皇(ia0150)が茶を受け取りつつそう訪ねる。
「個人戦と団体戦の二つ。ともに武器の使用は棒状武器と拐(かい)、木剣のみぢゃな」
 その師父の言葉に肯きつつ、嵩山薫(ia1747)もまた茶を受け取る。
「団体戦は一対一の試合を4つ。先に3人が勝利した方が勝ち‥‥栗食べるかね?」
 そう呟きつつ焼栗を器に盛ると、一人一人の前に置く。
「あ、ありがとう。それで師父、おいらたちの道場の最初の相手はどこの道場だい?」
 小伝良虎太郎(ia0375)がそう問い掛けると、師父は一言。
「月光道場ぢゃな。柔拳法の道場ぢゃよ」
 と告げられる。
「過去の大会などでの成績はどうなっているのでしょうか?」
 そう問い掛ける秋霜夜(ia0979)に、師範代が一言。
「過去に三回ほど優勝していますね」
「では、最近の優勝候補は?」
 アルティア・L・ナイン(ia1273)がそう紅師父に問いかける。
「町外れの紫炎泰拳道場ぢゃな。剛拳術の流派ぢゃて、実践を唄っており、強さが正義と勘違いしている輩ばかりぢゃよ」
 その言葉に、待たしても嵩山が反応。
「武術を納めるものとして間違った姿勢です。己が拳は自己の欲求の為に振るうのではなく」
「相手を思いやり、慈しんで使うべきもの‥‥ですよね?」
 そう告げる霜夜の言葉に、紅師父と嵩山はにこりと肯く。
「うー。どうして強いと駄目なのかなぁ‥‥」
 虎太郎が頭を捻る。
「まあ、強すぎるのも考え物ということですよ」
 そう赤マント(ia3521)が告げるが、やはり頭を捻る虎太郎。
「まあ、あたしは仕事でここに来ているので、まずは情報収集にでも出かけてきましょうか‥‥」
 真珠朗(ia3553)がそう告げて立上がる。
「そうだな。俺もそろそろ出かけてくるか‥‥」
 佐竹利実(ia4177)もまた立上がって、道場の外に出かけていった。


●がんばれば‥‥夢
──11月対抗戦
「それではっ。定例大会を開始しますッ!!」
 武道大会会場で、司会進行の女性が大声で叫ぶ。
 その言葉に会場に集まった観客が盛り上がる、まさに会場は興奮の坩堝となってしまった。
 やがて団体戦が開始された。
 紅道場は無事に一回戦と二回戦、三回戦と順当に勝ちぬけていく。 
 対戦表によると、次を勝ち抜けば決勝に進出、下馬評を大きく覆す大健闘となっている。

──準決勝・対戦道場は『黒龍泰拳道場』
「まあ、かなり気まずい道場のようですね」
 アルティアが対戦相手を見ながらそう呟く。
 紅師父の話によると、対戦相手の道場はかなり悪評が耐えない。
「それでは先鋒の方から擂台(対戦舞台)の上へどうぞ!!」
 そう告げられて、まずはアルティアが擂台の上に。
 目の前に立っているのは、拐を両手に装備した女性泰拳士の『呂悠』。
「それでは始めっ!!」
 審判の合図で同時に構えを取る二人。
「次もありますから、あまり時間はかけられませんね‥‥」
 アルティアが泰練気法で体内の気を練り上げると、一気に相手に向かって間合を詰めていく。
「之、迅速──禍断!」
──ドコドコッ!!
 それは対戦相手の胴部と胸部に叩き込まれた!!
 だが、相手もアルティアの腹部に2連撃を叩き込んでいた‥‥。
「は、早い‥‥その剣の流れは予測不可能アルヨ」
「それはお互い様です。一瞬ですが、その拐の軌道が大きく変化したじゃないですか」
 お互いに交差しては打ち合う二人。
 そのまま激しい打ち合いが続いたものの、最後はアルティアの粘り勝ちとなった。

先鋒勝者:アルティア

──次峰・秋霜夜
「それでは行きます!!」
 ギュッと鉢巻きを締め直す霜夜。
 目の前には巨大な筋肉の塊のような泰拳士。 それが瞳を輝かせつつ拳をゴキゴキと鳴らしている。
 名前は『許康』といい、かなりの実力者らしいという評判である。
「それでは始めっ!!」
 審判の合図で同時に構えを取る二人。
「行きます!!」
 瞬時に旋風脚で間合を詰め、そのまま連蹴りを叩き込む霜夜。
──バシバシッ
 だか、それをいとも簡単に掌で受け流す許康。
「そ、そんな!!」
 一旦間合をはずす霜夜。
「さて、おじょうちゃんよ。身体は暖まってきたかい?」
 まるで何事もなかったかのように呟く許康。
「ええ。いい感じですわ。それではっ!!」
 再び旋風脚で間合を詰めると、今度は掌に気を集めていく。
──ハッ!!
 そのまま気功掌を相手に向かって叩き込む霜夜。
 だが、相手にはその動きが筒抜けであったらしく、そのまま交差法で霜夜の掌に向かって許康も掌を叩き込んでくる!!
──バジィィッ
 その瞬間、霜夜が後方に吹き飛んだ。
「嘘‥‥気功掌に気功掌をあわせてくるなんて」
 と呟くと、再び構えを取る。
「この技は『気功掌』じゃない。『撃掌』という、気功破を練り上げたものだ‥‥」
 そう呟くと、そのまま間合を詰めていく許康。
「ま、まだまだっ!!」
 霜夜は一歩も怯まずに攻撃を続ける。
 時折それは許康に直撃するものの、致命傷とはほど遠い。
 それよりも、霜夜の動きに合わせてくる許康の動きが少しずつ加速してくるのが判る。
──ガシッ!!
 そしてついに霜夜の右腕が捕まれてしまう。
「は、放して!!」
 力強くそれを引き離そうとする。
 が、それは叶わず、 旋風脚を封じられた霜夜に向かって、許康が無慈悲な連撃を叩き込んできた。
 そのまま許康の連撃が続くと、やがて霜夜は力なくその場に崩れ落ちていった‥‥。


──副将・虎太郎
「霜夜、おいらが仇をとってやる!!」
 バシィィッィと拳を鳴らす虎太郎。
 その正面には、細身の男性が立っている。
 名前は羽雲と言い、今年になって3回、個人戦で優勝している。
「それでは始めっ!!」
 審判の合図で同時に構えを取る二人。
──スッ
 二人同時に牙狼拳の構えを取る。
 しかも、虎太郎の独特の『狼の構え』を、羽雲も構えていた。
「そ、その構えは‥‥どうして俺と同じ構えが?」
「さあ」
 そう告げると同時に、虎太郎は一気に間合を詰め、牙狼拳を叩き込んでいく!!
──バシバシッ
 だが、虎太郎の技が決まるよりも早く、羽雲の技が虎太郎に叩きこまれていった!!
「グハッ‥‥一撃一撃が重くて正確‥‥どうして‥‥」
 父から教えられた『獣の動き』。
 それをいとも簡単に、そしてより力強く体現されてしまった虎太郎。
「そんな筈‥‥そんな筈ない!!」
 再び牙狼拳のかまえを取る。
「けれど、それがある」
 再び虎太郎と同じ構えを見せる羽雲。
 そして同時に走り出すと、お互いに牙狼拳を叩き込んでいく!!
──バシバジハシッ
 再び打ち合いになり、そして虎太郎がまたしても吹き飛ばされる。
「し、自然の中で練磨された獣の動きは」
「最も綺麗で効率的‥‥だろう?」
 その言葉もたま、自分の父の言葉であった。
 だが、その父と同じ言葉を、目の前の泰拳士が呟いている。
「ど、どうして‥‥」
「それを知りたければ、もっと強くなれ。君の父は、もっと強かった筈‥‥」
 そう告げると、羽雲は一気に間合を詰め、虎太郎に向かって素早く牙狼拳を叩き込んでいく。
 やがて、力なく虎太郎が舞台に崩れていくと、勝敗は決した。
 そのまま勝ち名乗りを聞きながら舞台を後にする羽雲。
「立ち上がりなさい。そして上がってきなさい‥‥」
 
──そして大将戦・真珠朗
「やっとあたしの出番ですか」
 そう呟きつつ、棍を手に舞台に出る真珠。
 その正面には、やはりいかつい筋肉質の男。
 名前は仲潁。
 全身あちこちに傷がある所をみると、かなりの戦闘経験者であろう。
「その綺麗な顔が苦痛にゆがむ様を楽しませてもらうさ」
 そう告げられて真珠も繁々と相手の顔を見る。
「そういう貴方も、随分といい顔しているじゃない」
 と告げて、開始線まで下がる。
「ほう、俺の顔が言いって? 随分と誉めてくれるな」
 そのまま開始線に立つ両者。
「それでは始めっ!!」
 審判の合図で同時に構えを取る二人。
 その合図と同時に、真珠が棍を手に間合を取る。
「さて、とっとと終らせましょうかねぇ‥‥」
 と呟くと同時に、棍を巧みに扱い骨法起承拳を胴部に叩き込む。
──ドゴッ
 だが、仲潁は躱わすどころか、その一撃を胴部で受止める。
「その程度か‥‥たいしたことはないな」
 そう告げて、素早く棍を掴もうとする仲潁。
──クイッ
 と、その刹那、棍を捻りつつ引き抜く真珠。
「まあ、大体は判ったな。仲潁君、君の負けが確定したようだが‥‥まだやるのかな?」
 そう口許に笑みを浮かべる真珠。
「ふ、ふざけた真似ををををっ」
 一気に間合を詰めていく仲潁。
 相手が棍なら、近接戦闘の間合まで詰めた方が有利であると踏んだらしい。
 そして一気に真珠の懐まで入った時。
──パッ
 と、真珠は棍を手放す。
 そして仲潁の頭部を掴むと、素早く骨法起承拳による膝の一撃を相手の顔面に向かって叩き込む。
「なっ!!」
 そのまま後ろに倒れそうになった相手の顎目掛けて、次々と膝と肘を叩き込む真珠。
「‥‥顔に傷が一つもないって言うことは、顔はそれほど鍛えていないだろう? そういう意味でいい男だっていっただけだ‥‥」
 そう呟いているとき、すでに仲潁の意識は無くなっていた。

 二勝二敗となり、代表戦を行う事となった。
 だが、その代表戦で、紅道場は真珠が、相手の道場は羽雲が出てきた。
 そして僅差で真珠が負けた為、最終敵に紅道場は3位タイとなった。


●個人戦
 一方、もう一つの舞台では個人戦が始まっていた。
 優勝する為には、最低でも7回戦勝ち抜けなくてはならない。

──第4回戦、恵皇
 一回戦から順当に勝ち抜いてきた恵皇。
 きがつくと次が第4回戦。
 対戦相手は紅道場の赤マント?
 やはり赤マントも恵皇と同じく順当に勝ち進んできたらしい。
「まあ、こうなるとも思っていたが」
「お互い全力を尽くしましょうね」
 両者ともに拳を合わせ、開始線へと下がっていく。
「それでは始めッ!!」
 審判の叫びと共に、二人同時に身構えた。
──ヒュンッ!!
 一気に間合を詰める赤マント。
 そのまま恵皇に肉薄すると、至近距離で牙狼拳を叩き込む!!
──ドガガッ
 そのまま胴部と腹部に次々と叩き込まれる恵皇。
 流石に2発目は躱わせたものの、さらに叩き込まれる牙狼拳に恵皇はついに後ろに下げられた。
「ま、まさか‥‥こんなに一方的なのか」
 フラフラとしたまま構える恵皇。
 八極門により辛うじて致命傷は避けているものの、一撃の重さがまるで違う。
「せめて、一撃だけでも叩き込まないとなっ!!」
──ゴウッ
 恵皇が叩き込んだ空気撃により、赤マントは体勢を崩して倒れる。
 そこにさらに追い撃ちをかける恵皇。
「食らえ!! 『破雲怒(パウンド)』っ」
 倒れた赤マントの上をとり、そのまま顔面目掛けて拳を叩き落とす。
──ガギィッ
 その拳に対して、赤マントは自らの額を叩き込む!!
「痛いッ」
「なっ?」
 その刹那、恵皇が怯んだ隙に赤マントは恵皇の腹部に向かって空気撃を叩き込む!!
──ドゴオッ
 その一撃で後方に吹き飛ぶ恵皇。
「いたたたた‥‥思ったよりも硬い拳だね」
 そう告げつつ、ゴキゴキッと肩をまわす。
「それじゃあ終りにしようか」
 赤マントの体が赤く染まりはじめる。
 泰練気法により、身体能力が跳ね上がったのだ。
 そこで素早く牙狼拳の超高速連打が叩き込まれると、恵皇は何もするコトが出来ずに意識を失っていった。


──第3回戦・佐竹
 隣の舞台では佐竹が必死に戦っている。
 必殺の流れで、一回戦と二回戦は勝利できた。
 が、流石に三回戦となると勝手が違う。
 相手は佐竹の戦い方を熟知し、無用に間合を詰めてこない。
 それどころか、離れた場所から気功破を叩き込んでくる。
「さっきからちょろちょろと」
 佐竹の木剣の間合が一歩及ばす。
 座敷払いではすでに不味い為、立上がってフェイントを絡めた攻撃を繰り出すのだが、それも躱わされていく。
「ふっ‥‥」
 と、佐竹の口許に笑みが浮かんでいる。
「戦いがおもしろいか?」
 そう対戦相手につげられる佐竹。
「ああ、愉しいねぇ。戦いは愉しい。オレにとってそういうものだ‥‥負けても勝っても、戦っている時が一番いい‥‥」 
 そうつげると、佐竹は一気に間合を詰めて切りかかる。
「そうか。なら終りにさせて貰おう‥‥」
 そうつげると、佐竹の対戦相手・海妙才となのる仮面の武道家は、佐竹の攻撃を全て躱わすと、そのまま胴部に牙狼拳を次々と叩き込む。
──グハァッ!!
 口から血を吹き出し、佐竹はその場に崩れる。
「いい筋をしている。サムライというのか? まだまだお前は強くなれる。次に戦う事を期待している」
 そうつげると、妙才は舞台を下りた。
「ああ‥‥負けちまったなぁ‥‥」
 そう心の中で思いつつ、佐竹は意識を失ってしまった。
 そしてその光景を、舞台の下で嵩山が見ていた。

──第4回戦・嵩山
 佐竹の負けた相手である妙才が、嵩山の相手であった。
 ここまで全てストレート勝ちを決めてきた嵩山だが、妙才の持つ異様な雰囲気に、若干押されぎみである。
「攻にして防、単にして連、静にして動‥‥貴方が動いたその瞬間、既に私の拳は決まっている‥‥」
 そう呟くものの、相手の動きもそのまま嵩山の動きと酷使している。
「ふぅん‥‥嵩山流古武術ですか‥‥」
「どうして? 貴方は知って居るのですか?」
 そうつげる嵩山。
「少しだけね‥‥では」
 と、それまで柔拳の構えであった妙才が剛拳に構え直す。
「本気で掛かってきてください。こちらも全力でいきます」
 その言葉と同時に、妙才は素早く間合を詰めると、そのまま牙狼拳を叩き込んでくる。
 だが、それらの攻撃を綺麗に流すと、嵩山もまた転反攻で返す。
 さらに妙才はそれらを躱わしつつ、体勢を維持、嵩山の手数が収まると再び牙狼拳の連撃を開始。
 そんな激しいやりとりが続く中、嵩山の動きが徐々に落ちていく。
「ど、どうして‥‥」
 その隙を突かれた一撃が嵩山を襲う。
「貴方が女性だから‥‥そこか弱点なのです‥‥」
 再び一撃が嵩山を襲う。
 手数よりも重い一撃に、嵩山の身体は悲鳴をあけでいる。
 そのまま一方的に叩きのめされるかとおもうと、妙才は嵩山に向かって構えを取る。
「素直に負けを認めてください‥‥今の貴方では、まだ私には勝てない」
 その言葉に、嵩山は静かに振り向くと、舞台を下りた。
 そのまま嵩山は控え室に戻り、意識を失った。


●そして
 全てが終った。
 団体戦ではそこそこの成績、そして個人戦では赤マントが準優勝という快挙を成し遂げた。
 ちなみに優勝した道場は『風の道場』という小さい道場、そして個人戦優勝も、そこの道場代表の海妙炎という武道家であった。

──Fin