【負炎】反乱・怨讐の刃
マスター名:陸海 空
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/03 00:06



■オープニング本文

●偽志士の最期
「いたぞ! こっちだ、縄をかけろ!」
 追捕された罪人は即座に取り押さえられ、縄を打たれる。
 周囲には刀を手にした、天護隊の隊士たち。
「観念するんだな。偽志士として悪名を轟かせたお前も、もう終わりだ」
 作戦隊長らしき志士の言葉に、取り押さえられた罪人は般若のような形相でギリリと歯軋りをした。
「‥‥おのれ、憎らしい天護の犬どもめ! 恨めしや‥‥恨めしや!」
 呪詛の言葉を何度も口にしながら、罪を重ね殺人を繰り返した偽志士は引っ立てられていった。
 縄を打たれて手にしていた賊刀を奪われた偽志士は、その後打ち首獄門となった‥‥。

●死蔵品の転用
 緑茂の里での大規模な作戦のため、開拓者ギルドは参戦する開拓者のために支給品を用意した。
「支給品配布の要請がきたぞ! こっちに30人分寄越してくれ!」
「俺の方にも要請がきた、在庫はあるか!」
 配布されるのは武器から兵糧まで幅広く、豊富な数を用意されているのだが。
 いかんせん、支給を要請する開拓者の数が多く品薄になってきていた。
「鍋釜でも、鍋蓋でも使えりゃいい! 使えそうなものかき集めて見繕って来い!」
 ある意味、こちらも戦争のようである。
 支給物資の在庫が心許ないため、ギルドは過去の事件や拿捕した罪人から押収した武器類も転用することにした。
「お上からのお許しが出たのは、ここからここまでだ。状態の良いものだけ引っ張り出して来い。壊れてるのはいかんぞ、そのせいで犠牲が出たら責任問題だからな」
 倉庫係が上司から受け取った目録には、過去に押収した武器とその経緯が簡単に記されている。
 その中に、かつて世間を揺るがした偽志士が使っていた賊刀と言う武器も記されていたのだった。

●刀に憑く怨讐の念
 その賊刀はいわゆる業物の類いに入るものだった。
 ギルド支給品とは思えないくらいの上等な刃に、柄には精巧な飾り彫りまで施されていた。
 それを受け取った開拓者は、当たりを引いたと喜んだし仲間もそれを羨んだ。
 しかしその賊刀は、駆け出しの開拓者が手にして振るうには血を浴びすぎていた。
 開拓者達には、その武器がかつてどんなものであったかは伝えられていない。
 だから気付くのが遅かったのだ。
 かつてその賊刀を愛用し振るっていた偽志士の志士への怨念が、深く染みこんでいる事に。
 その染み付いた怨念が、アヤカシを呼び賊刀に取り付いてしまったことに。
 気付いた時には、既に付喪人形として持ち主であった開拓者の手に負えないほどになってしまったのだった。

●賊刀の行方
 開拓者ギルドに、風信術による北面のとある村から依頼が舞い込んだ。
 依頼主はつい先日、村から若干離れた山に出没するケモノの退治をギルドに依頼したばかりだった。
 聞く話によると、依頼を請け負った駆け出し開拓者たち5人はケモノを無事討伐したのだが、後始末をしているとき急にサムライの腰に佩いた賊刀に異変が起こったそうだ。
 どうやらアヤカシに取り憑かれ、付喪人形に変じたらしい。
 賊刀は志士に似た、だがどこか荒んだ風体の人物の姿になり刀を振り回して開拓者達を襲った。
 駆け出しとは言え志体を持つ開拓者であったが、彼等3人は虚を突かれて屠られてしまった。アヤカシは更なる獲物を探して少し離れた場所にある村に向かっており、領地と領民の安全のためアヤカシを討伐して欲しいとのことだった。
 アヤカシが村に向かっているという情報は、件の開拓者の中にシノビがおり命がけで早駆をつかい村に辿り着きもたらしてくれたものだ。
 そのシノビも意識を失って介抱されているが、とても話せる状態ではない。

 依頼を受けることになった開拓者に詳細を語った受付係は、一息ついて言葉を続けた。
「どうやら、そのアヤカシは何でだか志士に異常なまでの恨みを持っているらしくてな。志士の亡骸はそりゃあ酷い有様だったそうだ。他の職の奴もそうだが、特に志士は十分気をつけてな」
 そう締めくくって、案内係は開拓者達を送り出したのだった。


■参加者一覧
天宮 涼音(ia0079
16歳・女・陰
八重・桜(ia0656
21歳・女・巫
鴉(ia0850
19歳・男・陰
空(ia1704
33歳・男・砂
風瀬 都騎(ia3068
16歳・男・志
菘(ia3918
16歳・女・サ
叢雲・暁(ia5363
16歳・女・シ
木下 鈴菜(ia7615
17歳・女・弓


■リプレイ本文

●支給品について物思う
 件の村に到着した一行は、依頼人である村長に簡単な話を聞いたのち急いで出立した。
 アヤカシの移動する速度がどれほどか判らない状態で、のんびりしている暇はないということを重々承知しているからだ。
 伏兵として身を潜めるに良い場所を探しながら一行は、アヤカシが向かって来るという方向を進む。
「アヤカシに取り憑かれた賊刀‥‥文字通り妖刀ってとこね、興味深いわ」
 珍しいアヤカシに興味を示しているのは陰陽師である天宮 涼音(ia0079)で、同じく鴉(ia0850)も賊刀と対峙するのを楽しみにしている。
「武器に憑依するアヤカシか〜面白そうだな♪」
 その妙に楽しげな様子を見ながら、先日万商人に売った支給品の賊刀について菘(ia3918)が思い出す。
「賊刀に憑いたアヤカシ‥‥ですか」
 いや、アヤカシの憑いた賊刀がそうではないのは判るのだが‥‥など思いつつ、漠然とした不安と罪悪感を感じているようである。
「支給されては一山いくらで売られてる品の反乱‥‥己の不遇を嘆いての凶行に違いない! とかなら平和なのにね〜」
 きゃらきゃらと叢雲・暁(ia5363)が笑いながら言うが、それは平和と言うには語弊があるのではないか、と誰もが思うがツッコミは入らない。
 八重・桜(ia0656)は戦闘向きではないものの、今回のアヤカシ討伐はやる気満々のようだ。
「頑張るです! し、支給品でいい品が出ないからって、それの八つ当たりじゃないですよ! でも倒してやるです!」
 ちょっと個人的な恨みがはみ出していて、同じく支給品でいい品物を引き当てることが少ない面子は同情的な目を向けているようだった。
「しかし、志士に恨みねぇ‥‥ヒヒッ、いいね、やり甲斐があるってモンさ。まあ、生身じゃねえのが残念だがな」
 これから戦闘に向かうとは思えないほどゆったりのんびりと、少々剣呑な言葉を呟くのは空(ia1704)である。
 彼は志士と言うことでアヤカシをおびき寄せる役目を担っているが、それに対する気負いと言うものはほとんど無いようである。
「恨み‥‥それほどの強い記憶か。記憶を失った俺には、わからないこと‥‥だ」
 同じく志士である都騎(ia3068)は、己の失われた記憶に思いを馳せて呟く。
 ともあれ、それぞれが思いを馳せながら伏兵が潜伏するのに良さそうな場所を見つけるのだった。

●恨み深きアヤカシ
 伏兵が潜む場所として、一行は林道の出口付近を選んだ。
 数歩進めば開けた場所として戦え、同じく下がれば雑木林を遮蔽物として利用できるためだ。
 涼音、桜、鴉がそれぞれ樹の裏、岩陰などに身を潜ませるのを確認して、囮役を担う空、都騎、菘、暁が開けた路を進み始める。
「あんまり離れると、面倒なことになるしなァ」
 ここらへんでどうだ? と空が10間(約20m)ほど離れた場所で立ち止まれば、他の面子も同意して歩みを止めた。
「そうですね。近すぎても気付かれるでしょうし、これくらいが妥当でしょう」
 菘はそう答えて、戦いやすいように数歩横に広がる。
 それに呼応するように、暁も後方に引いて中央に空と都騎が残った。
 アヤカシは志士に強い恨みを持っているため、一番の囮は彼ら二人なのだ。
「‥‥気を抜くな。来たぞ」
 迎撃態勢を整えてどれほどの時が経過しただろうか。
 都騎が不意に前方を見据えて全員に注意を促すと、遠くから近づいてくる不穏な気配を全員が察知した。
「うん、来たみたいだね〜。さ、チャチャッとやっちゃいましょ〜!」
 暁が風魔手裏剣を構えいつでもそれを投擲できるよう、態勢を整える。
 菘、空、都騎もそれぞれの獲物を構えると、相手もこちらを察知したのだろう明確な意思を持って歩みを進め始めた。
――恨メシイ‥‥恨メシイゾ、天護ノ狗ドモオォォ‥‥
 その怨嗟の声こそ、彼のアヤカシの呪声なのだろう。
 今だ50間ほど離れた場所にいると言うのに、肌がびりびりするほどの気迫が届く。
「さぁて、それじゃ始めようかねェ‥‥ヒヒッ。志士が嫌ェなんだろォ? そいつがココにいるぜェ?」
 口元を笑みの形に歪ませて、空はアヤカシを挑発するように炎魂縛武で長槍に炎を纏わせる。
 その炎を見るや否や、賊刀を手にした志士のような風体したアヤカシの纏う気配が変わった。
 獲物を狙うそれから、天敵を見つけた猛々しいものへと変化したのだ。
――憎イ、憎イ、ニクイ‥‥! 貴様ガ‥‥憎イイィィ!!
 呪詛の言葉を発しながら、先ほどよりも近づく速度を上げ迫ってくる。
「こちらにも、いるぞ」
 空を睨みながら向かって来るアヤカシに、都騎も刀に炎を纏わせ告げればさらに憎悪を滾らせて殺気を振りまいてくる。
「呪声には、麻痺があるとか。二人とも、気をつけてください」
 志士の二人以外には目もくれなくなったので、菘はそう言って一歩下がった位置に移動する。
「呪声の妨害しちゃうよ〜!」
 5間ほどの距離まで近づいたアヤカシにあわせて、軽くステップを踏むように下がりながら暁は風魔手裏剣を持ち直す。
――殺ス、コロス! 天護ノ狗ドモヲ‥‥!
 呪声を吐きながら突進してくるアヤカシに、空と都騎は伏兵が待機している場所まで誘導するため直接ぶつからないよう後退しながら、と思っていたのだが。
「とりゃ! 口を閉じなさ〜い!」
 アヤカシから発せられる呪詛の声自体に麻痺させる呪いがかかっているため、暁の呪声妨害のための手裏剣投擲も十分な効果を発揮できていなかった。
 どうやら、挑発のための炎魂縛武を見せるタイミングが早すぎたようだった。
「‥‥っく!」
 思うように誘導することが出来ず、アヤカシの繰り出す思い剣戟を受け流しながらじりじり後退するのがやっとだ。
 幸いだったのは、伏兵班からさほど遠くない場所で待ち構えていたことだろう。
 脇から叩きつけるような菘の牽制と、呪声を妨害するために投げられる暁の手裏剣の援護のおかげでアヤカシの畳み掛けるような攻撃を凌ぎながら何とか林道まで誘導することが出来た。
 しかし、もう少しで林道に入ると言ったとき。
「しまった‥‥!」
――コロス‥‥ノロワレルガイイ!
 暁の手裏剣投擲が間に合わず、アヤカシの呪声が至近距離で空と都騎にまともにぶつかった。
「うぅ‥‥」
「く、そ‥‥!」
 さすがに耐え切れず、二人同時に麻痺状態に陥ってしまう。
「仕方ない、合図を送る!」
 これ以上引きつけることは不可能と判断した菘が、あらかじめ用意していた呼子笛を鳴らして麻痺した二人をかばうようにアヤカシの前に立ちふさがる。
 同じく二人をかばうために暁が突進し近接攻撃を仕掛けるのと、身を潜めていた涼音、鴉、桜の三人が物陰から飛び出してくるのはほぼ同時だった。

●怨讐の刃
「逃がさないぞっと‥‥♪」
 鴉の放った闇色の呪縛符は、同じ色のカラスと変じ賊刀を振りかぶるアヤカシに向かい、接触すると同時に鎖に変わり腕に、足に絡みつく。
「今の内に二人を後方へ!」
 涼音が飛苦無を投げ注意を引きながら叫ぶと、暁と菘が麻痺した空と都騎を支えて後方へと移動する。
「桜さん、頼みます!」
 二人を回復係の桜へ託し、菘は呪縛され身動きの取れないアヤカシに攻撃を仕掛けるべく駆け出す。
「お任せです! 痛いの〜痛いの〜飛んでいけ〜です♪」
 桜が解術の法を順番にかける間に、他の面子は当初の予定通りアヤカシを包囲した。
 アヤカシの呪声を侮っていたため若干予定は狂ったものの大きな損害はなく、空と都騎の回復が終る頃には一斉攻撃の準備が整っていた。
 鴉の呪縛符で動きを制限されたアヤカシは、恨めしげに睨みながら呪声を放つが何度も同じ手は喰らわないとばかりにそれを凌いだ空は再び炎魂縛武を槍に纏わせ斬りかかる。
「まぁ、一応。借りは、返すぜェ」
 言葉と共に振り下ろした槍はギィン、と言う鈍い音を伴いアヤカシの頭部に炸裂する。
「行きなさい!」
 掛け声と共に、アヤカシの背後から涼音が刃の翼を持つ燕の姿をした斬撃符を放てば、それに呼応するように前方に立つ鴉の手からも闇を具現化したような紅の目を持つカラスの姿をしたそれが放たれる。
 その符は過たずアヤカシに炸裂するが、さすが開拓者3人を屠っただけあるらしく致命的な打撃にはなっていないようだ。
「全力全開! 一刀両断! ってね!」
 暁は早駆けを使って持ち替えた兜割を振り下ろすが呪縛の溶けたアヤカシの刀に弾かれ、同時に賊刀が黒い炎を纏った。
 炎の色さえ同じだったなら、志士である都騎が刀に纏わせた炎魂縛武と変わりはなかっただろう。
「恨みは、何も満たさない。‥‥地に、堕ちるのみだ!」
 黒い炎の刀と紅い炎の刀はガキィンという音と共に切り結び、都騎とアヤカシは己が力の限りの鍔迫り合いを繰り広げる。
 鍔迫り合いを制したのは深い恨みを持ったアヤカシのほうで、力に押されて態勢を崩したところを狙い刀で切りつけた。
「‥‥っぐ!」
 黒い炎は生き物のように都騎にまとわりつき、毒を与える。
「今、回復するです!」
 それを見た桜は、飛苦無でアヤカシを牽制して解毒の祈りを捧げる。
「憎しみに鈍った刃で、私たちを斬れると思うな!」
 菘が長巻で追撃を食らわそうと振りかぶる賊刀を弾き両断剣を叩き込めば、涼音が呪縛符を放つ。
 鉄鱗を持つ蛇がアヤカシに巻きつき、再びその行動を制限する。
「陰陽師でも近接戦闘ぐらいできるぞっと♪」
 動きの鈍った隙に、鴉が闇色の符を短刀に持ち替えて間接を狙って突き刺す。
 それにあわせるように、空も滑るような動作で槍を振り下ろす。
「あんまり無茶しちゃダメですよ〜!」
 神風恩寵で受けたダメージが回復した都騎も、桜の言葉に軽く頷いて再びアヤカシに向かって巻き打ちを繰り出す。
「しぶっといなぁ〜! 倒れろ〜!」
 敵の的を霍乱しながら打撃を加える暁の言葉に、攻撃を加える誰もが同感だと思う。
 その恨みの深さがしぶとさに繋がるのか、再び呪縛の鎖を引きちぎったアヤカシは毒の炎を待とう賊刀を振り回す。
 破れかぶれとも取れるそれは、咄嗟に横踏で避けた空を除き近接で攻撃を仕掛けていた菘と鴉に当たって毒を与えた。
「くっ、油断した‥‥ぞっと」
 毒でふらつきながらも、鴉は砕魂の鴉を放ちアヤカシに打撃を与える。
「今、癒すわ」
「わぁぁん! 解毒、解毒です〜! 忙しいのです〜!」
 ダメージの大きかった菘に涼音の治癒符が放たれ、毒を癒すために桜が祈りを捧げる。
 若干泣きが入っているのは、回復に忙しいからだろう。
 傷を受ける者が多かったが、畳み掛けるような攻撃でさしものアヤカシも弱ってきたのだろう。
 その後、鈍ってきた動きに致命的な打撃を受けるものは出ず、一斉攻撃に呪声を放つ暇すら与えることはなかった。
 涼音と鴉の斬撃符が、桜の飛苦無が、空の炎を纏った攻撃が、都騎の巻き打ちが、菘の両断剣が。
 弱ってきたアヤカシに当たるたび、ボロボロとはがれるように人の姿を崩していく。
「徹底的に〜! やっちゃえ!!」
 そして、暁の気合と共に振り下ろされた刃は、弱ったアヤカシのトドメとなった。
――グオォォォォォ‥‥
 最後まで恨みの篭った呻きを上げながら、志士のような風体のアヤカシは賊刀を残したまま霧となり消えていった。

●アヤカシと支給品
「やっぱり、壊すしかないのかしら」
 残った賊刀を囲んで、そう呟いたのは涼音だ。
「興味深いんだけどな〜」
 それに同調するのは、同じ陰陽師でアヤカシの憑いた賊刀に興味を示す鴉。
「曰くつきの品って、好事家に良い値で売れるんだよね〜」
 暁は売れば幾らになるかと考えている。
「ヒヒッ、俺ァどっちでもいいけどな」
 空は興味なさげだが、菘と都騎はその場で壊すべきだと主張した。
「再び、このようなことが起きるのは困ります」
「俺も、同意見だ‥‥」
 それに桜も同調する。
「確かに、また憑かないって保障はないです」
 刀を惜しむそぶりを見せた面子も、強くそれを残したいと言うものではなく至極あっさりと賊刀破壊に賛成した。
「まぁ、しょうがないわね。不安材料は根絶すべきだし」
 粉々に砕いた賊刀の破片を、少々の未練を持って見下ろしながら。
 それぞれの心の内は、恐らく似たようなものだっただろう。
『支給品でカスが出ても、簡単に捨てないようにしよう』と。