腰巻泥棒恋しぐれ
マスター名:陸海 空
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/09 20:40



■オープニング本文

「きゃあああ!!」
 長屋に響き渡る絹を裂くような女性の悲鳴。
「下着泥棒よー!」
「やだ、私のところもやられたわ! お気に入りの腰巻だったのに!」
 冒頭の悲鳴を皮切りに、長屋のアチラコチラから被害にあった女性の声が上がり、にわかに騒ぎになる。
「もういや! 許せないー!」
「絶対捕まえてやるんだからー!」
 怒り心頭の娘さんたちから少し離れた場所に、物憂げに佇む青年がいた。
 伏し目がちで、少々気が弱そうであるが目鼻立ちが整っている所謂「美青年」である。
 スッと通った鼻梁とぽってりとした唇は、その優しげな表情も相まって長屋の娘さんの間では「女装させたら絶対可愛い!」と評判である。
 そんな、女装が似合いそうな美青年の物憂げな様子に長屋の住人の一人が気付く。
「おうおう、ヨシ坊! なんか浮かねえ面だが、どうしたよ」
「あ‥‥おじさん‥‥。実は‥‥」
 長屋でも有名な世話焼き親父に声をかけられ、ヨシ坊と呼ばれた美青年は躊躇いがちに口を開く。

「なにぃぃい!? ヨシ坊も褌を盗まれたあぁぁ!?」
「こ、声が大きいよ、おじさん‥‥」
 目を剥いて叫ぶ親父を、慌てて制するヨシ坊だが集まった長屋の住民達の耳にその声はしっかり届いていた。
「ヨシオちゃんも、やられたの!?」
「ますます許せない、私たちのアイドルになんてことを!」
「なんと! 男の褌まで盗みやがるのか、俺達もアブねえじゃないか」
 長屋内はちょっとしたパニックである。
 そのパニック状態の一段を落ち着かせるように、一人の青年が手を打つ。
「よし、開拓者ギルドに依頼を出そう」
 最近、長屋に出没する腰巻泥棒を捕まえるには、それが一番確実だという言葉に一同は異口同音に賛同する。
「そうね、それが安心だわ」
「腕っ利きの開拓者なら、絶対捕まえてくれるわよね!」
 よし、それじゃあ誰か依頼を出してきてくれ。と再び小さな騒ぎになる一同を余所に、ギルドに依頼を出すことを提案した青年がヨシオに近づく。
「ジュンちゃん‥‥」
 心細げに見上げてくるヨシオに、ジュンと呼ばれた青年は安心させるように微笑んで肩をそっと抱き寄せる。
「大丈夫、きっと犯人は捕まる。何があっても、俺がヨシオを守るから」
「‥‥うん、信じてる」
 不安げだったヨシオも、やっと少し安堵して微笑んだ。


■参加者一覧
千王寺 焔(ia1839
17歳・男・志
星風 珠光(ia2391
17歳・女・陰
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
伊予凪白鷺(ia3652
28歳・男・巫
九条 乙女(ia6990
12歳・男・志
神咲 六花(ia8361
17歳・男・陰
ニノン(ia9578
16歳・女・巫
コルリス・フェネストラ(ia9657
19歳・女・弓


■リプレイ本文

●腰巻騒動開幕!
 開拓者に頼んで腰巻泥棒をとっ捕まえてやる!
 長屋の住民はそう意気込んで、大家に皆で集めた依頼金を渡して一任した。
 そんな折に、長屋に新婚夫婦が引っ越してきた。
 仲睦まじげに寄り添って住民達に挨拶しているのは、スラリと背の高い旦那と薄化粧の楚々とした新妻。
 長屋に住むにはそぐわない雰囲気のある二人は、腰巻泥棒を捕縛するために長屋に潜入した開拓者、旦那役の神咲 六花(ia8361)と新妻役のニノン・サジュマン(ia9578)であった。
「そうそう、最近うちの長屋に腰巻泥棒がでるんだよ。奥さんも旦那さんも気をつけなよ」
「犯人を捕らえるために開拓者も雇ってるんだ。今日は丁度見回りの日だね」
 住民が教えてくれることに一つずつ頷き、感心しながら六花とニノンは腰巻泥棒や長屋についての色々聞いて回る。
「まあ、私の腰巻を盗む人なんて。私の腰巻を見て喜ぶのは旦那様くらいですわ」
「‥‥照れるよ」
 熱々の新婚さん演技を披露しつつ、住民に挨拶と証した情報収集を済ませ一息ついた六花は、周囲に誰もいないのを見てニノンに言う。
「さて、おおかたの挨拶も済んだし。次はジュン殿とヨシオ殿に話を聞きたいところですね」
 井戸の側で丁度会話している、腰巻泥棒の被害者の一人であるヨシオがジュンと話しているのが見えた。 
「こんにちは、今日こちらに引っ越してきましたの。ニノンと申します、こちらは夫の六花」
 二人に近寄り挨拶口上をニノンが述べると、ジュンとヨシオもそれぞれ自己紹介をする。
「ジュンと、ヨシオって呼んでいいかな? ねえヨシオ、なんだか浮かない表情だけど、どうしたの?」
 わざとか? と聞きたくなるほど無防備にヨシオに近づく六花にジュンがムッとした顔をする。
「あ‥‥いや、ちょっと腰巻泥棒の騒動が心配で‥‥」
 若干頬を染めて言葉を紡ぐヨシオに、ますます六花が顔を近づける。
「そう? 僕でよければ力になるからね‥‥元気だして」
 励ますために手を握ろうとした六花を遮るように、不機嫌になったジュンがヨシオの腕を引いた。
「ヨシオ、洗濯に行くぞ。干し場がなくなっちまう」
「え、あ。ジュンちゃん?」
 戸惑いながら付いていくヨシオを見送って、六花はジュンのただならぬ形相に「ふむ」と頷いた。
「ほほう、なかなか楽しそうな初仕事ではないか」
 ニノンが控えめな妻を装った口調を思わず普段の言葉遣いに戻し、楽しそうに微笑んだ。

 住民達の言う開拓者の見回り役、つまるところの陽動を請け負った第一班は目立つ風貌の伊予凪白鷺(ia3652)と一緒に行動するコルリス・フェネストラ(ia9657)だ。
 虎頭の被り物をした大柄な白鷺はいかにも開拓者然としていて、住民達は「頑張って見つけておくれよ」と言いながら情報を提供してくれる。
 美人な娘が腰巻を干している場所を熟知しているというのならば内部の犯行かもしれないと、二人は長屋で変わった事や様子の変な人物はいないかと言うのもさりげなく聞いて回る。
「そういえば、被害者に一人男性がいるのでしたか」
 白鷺が水を向けると住民は頷く。
「ヨシ坊のことね。あの子は小さい頃から可愛くてね、よくいじめられてたからそれかもと思って言い出せなかったみたい」
「ジュンがいつも庇ってたんだよねえ。幼馴染でいつも一緒にいて、ジュンが苦手なことをヨシ坊が手伝って、ヨシ坊がいじめられたらジュンが走ってきて」
「持ちつ持たれつだけど、仲良すぎるって所はあるかなあ」
 いつものことだけどねえ、あははと話す。
「そういえば以前ここに住んでたっていう男が良く来るね」
「何か忘れ物捜してるんだとさ、早く見つかると良いねえ」
 世間話を始めた住民のその言葉に、コルリスと白鷺が素早く目配せをしあう。
「まあ、そうなんですか? 長屋の皆さんは大体見知っていますが、不審者と間違えないようにしなくては。どんな方ですか?」
 コルリスがその男について詳しく聞き始め、白鷺も「見回りの仲間にもしらせます」と風貌についてを料紙にまとめる。
 男について聞いた後、簡単に見回りをして「それでは今日はこの辺で」と引き上げる。
 勿論引き上げるのは振りだけで、その後目立つ虎頭を脱ぎ旅人の変装をした白鷺と市女笠を目深に被ったコルリスが小川で休憩したり、長屋に越してきた顔見知りの新婚夫婦のもとに訪れた振りをして長屋に張り込む手はずになっている。
「あ、白鷺様。六花殿の人魂です」
「定時連絡の文を運んで貰おうか」
 ほてほてと見回りをしているらしい黒猫を撫でようとしながら白鷺が聞き込みの間取っておいたメモを黒猫に託す。
 それを咥えた猫は、心得たといわんばかりに目を細めると身を翻して路地の間に消えていった。
「さて、それでは変装としゃれ込むか」
 猫を見送った後、白鷺はそう呟いて己の虎頭をぽんぽんとなでた。

 洗濯場と物干し場に程近い川辺には、ここ数日釣りを楽しむ若夫婦の姿をよく見るようになった。
 仲睦まじげに、和やかに会話しながら釣り上げた魚に一喜一憂する二人も、勿論腰巻泥棒を捕縛するために張り込みをしている開拓者である。
 二人は実際に夫婦で開拓者をしており、夫の千王寺 焔(ia1839)は妻を持つ身として断固腰巻泥棒のことを許せないと内心で常に思っていた。
「焔君、顔が怖いよ」
 静かに怒る焔の様子を笑って指摘するのは彼の妻、星風 珠光(ia2391)で「それじゃ魚も逃げちゃうねぇ」と暢気な様子。
 眉間に皺が寄っていると指でつつかれた焔は、こちらに向ってくる黒猫に気付く。
「あれは」
「六花さんとこの人魂だねぇ、文を咥えてるよ」
 定時連絡だろうと焔が黒猫から文を受け取り手早く開いて目を通す。
「なるほど、この風体の男が怪しいな」
 脇から覗き込むように文を読んだ珠光もうんうんと頷く。
「じゃあ、私も人魂を飛ばして探してみようねぇ」
「ありがとう、次の人に伝えてくれ」
 文に目を通した証に名を文の端に書き込んで、焔は再び黒猫に渡す。
 黒猫が別の仲間の所に向かうのを見届けながら、珠光が人魂を召喚する。
「我が式よ‥‥炎を纏いし小鳥となりなさい」
 呼び出された小さな火の鳥は、主の命を遂行するために長屋へと飛んでいく。
 が、いかんせん普通の鳥とは違い火を纏ったそれは、一般人には衝撃的だ。
「わああ! 火だるまの鳥が!」
「火事になるぞ!」
 珠光の人魂をうっかり目撃した住民達の間で騒ぎが起こったのは、木造住宅の密集で火の気に敏感な長屋では仕方ないことと言えるだろう。
「‥‥やれやれ、仕方ないねぇ」
 珠光はしぶしぶ己の人魂の外見を火を纏う小鳥から、普通の小鳥に変更せざるを得なくなった。
「まあ、密集住宅の長屋は火事が起こると大変だからな‥‥住民が騒ぐのは仕方ない」
 妻の放つ式を気に入っている焔も、慰めるように珠光の肩をぽんぽんと叩いた。
「とりあえず、これで内部を見舞われるねぇ。焔君は外から侵入しようとする不審者に注意してねぇ」
 気を取り直した珠光は、釣竿を垂らしながらのんびり笑った。

 定時連絡の文を咥えた六花の黒猫が最後に向ったのは、自分らと同じく陽動として聞き込みと見回りを請け負った斉藤晃(ia3071)と九条 乙女(ia6990)のコンビである。
「囮用に使う褌とサラシを用意するアルヨ、デスゾ!」
 自分を立派な男児だと思いこんでいる乙女は、囮のために己が愛用しているサラシを出したため仕方なく【女装】をしてお団子頭の泰国娘に変装している。
「下着泥棒ね。わしは中身にしか興味がないよ」
 くつくつと笑って酒の入った瓢箪を傾けながら晃が言う。
「晃殿も褌を出すアル、デスゾ!」
 焔に褌の出資を迫って断られた乙女は、晃にも要求するが途中で思いとどまる。
「いや、しかし。今回褌を盗まれたヨシオ殿は、線の細い美青年、晃殿のようなガチムチ系の男性を好むかどうか‥‥」
 真剣にぶつぶつと呟いて思案しているのを、晃は面白がって眺める。
 結局、晃の褌だと違う趣味の人が釣れてしまうかも、ということから乙女は己のサラシと別に用意した褌を干すことにした。
「わしはどっちでも構わん。ところでお前さんも読んどけよ」
 黒猫の持ってきた文に目を通した晃は、盗まれやすい干し方について思案している乙女に告げる。
「かたじけないアル、デスゾ」
 我に返って文に目を通している間、晃は周囲の洗濯物を干したり取り込んだりしている住民に話を聞いて回る。
 そうこうしていると洗濯場から、洗い終えた着物を入れた盥を担いだジュンとヨシオが物干し場にやってきた。
「おや、今回の注目株」
 晃の呟きに乙女が、音速の勢いでそちらを振り返る。
「ほ‥‥ほう。な、仲睦まじい‥‥ふむ」
 頬を紅潮させながら二人が仲良く洗濯物を干す様子を、興味津々で見つめている。
「あー、まあアレだ。わしらがおると、件の泥棒も警戒するかも知れんし一旦ひくぞ」
「も、もうちょっと‥‥眺めたいアルデスゾー」
 未練がましく振り返る乙女を引っ張って、晃は撤退する振りをして下調べしておいた一目につきにくいが、見通しのよろしい場所に身を隠して監視を続けることになった。
「む、しかし。ここはここでよく見えるアルデスゾ」
 乙女はどうも監視と言うよりは妖しい幼馴染の観察に余念が無いようだった。

●腰巻盗むは女の敵!
 首尾よく開拓者が帰ったと見せかけることに成功したのだろう、監視されているとも知らず洗濯物を干し終わって人気の絶えたもの干し場に、堂々と入り込む人影を最初に見咎めたのは誰だったか。
 引っ越す前にうっかり忘れていったものを探しに来ているという人物と似た風体の男が、当たり前のような態度で物干し場に入る。
 一見、忘れ物を捜しに来たのだろうかと思うような行動なのだが、物干し場に忘れたりするだろうか?
 よしんば忘れたとしても、さほど広くない場所なのですぐに見つかるだろうし何度も入る必要は無い。
 そんな風に思いながら眺めていたのは、鷹の目による視力の向上で監視をしていたコルネリスであった。
「まさか、このスキルをこういう風に使うことになるとは思いませんでした」
 次に、その男の行動を注視したのは人魂を飛ばしていた六花と珠光の陰陽師二人と、コンビを組んだニノンと焔。
「まだ、現行犯ではない」
 己に言い聞かせるように、眦をキリリと引き上げで何かを探すそぶりを見せる男を焔が凝視している、と。
「‥‥やりやがった。アイツが犯人だ」
 とうとう、男は自分が干したわけでも己のものでもない女物の腰巻に手をかけた。
 慣れた様子で腰巻数点とついでに乙女のサラシも引っつかむ。
「え? なんですとおおお!?」
 うっかりヨシオとジュンの様子を見ることに集中してしまっていた乙女は己のサラシが盗まれたことに目を剥く。
「まて、盗人!」
 現行犯と断じた焔が釣竿を放り投げ泥棒に向って駆け出す。
 それと同時に潜んでいた晃も飛び出し、自分を捕まえようとする人間に慌てて逃げ出そうとする男の退路を断つために動く。
「我が式よ‥‥」
「一般人に向って攻撃スキルは使っちゃあかんぞ!」
 毒蟲を放って足止めしようとした珠光に晃の注意が飛ぶ。
 手加減すると言っても、開拓者と一般人の力量、体力の差は歴然としておりどんな弊害が出るか判らないのだ、攻撃スキルは使わないに越したことは無いだろう。
「その通りじゃ、実害はなくても信用商売。理不尽な理由で説教などくらいたくなかろう」
 ニノンも、呪縛符や斬撃符を放とうとする六花を止める。開拓者と一般人とでは大人と子供ほどの違いがある。処罰されることこそないが、職員によっては術の使用必要性をしつこく聞いてくることもある。呪縛符はまだわからんが斬撃符はヤバイだろう。
 そんなやり取りをしているうちに、コルネリスが人物でなく逃げる男の足元、詰まり地面を狙って矢を放つ。
「わあぁぁ!」
 狙い違わず、足元の土を抉った矢に驚いた男が体勢を崩した隙に晃が立ちふさがり十分手加減した当身を食らわせる。
 それでも威力は一般人にすれば相当のもので、男はもんどりうって倒れる。
「この俗物がぁぁ! 私の大事なサラシを返せぇぇぇ!!」
 涙すら浮かべた必死の形相で男に掴みかかる乙女と、静かだが物凄い怒りのオーラを発している焔が着物に潜ませた双剣に手をやり詰め寄る。
「さあ、覚悟しろ」
「いや、焔君。流石に剣を抜いちゃあまずいねぇ」
 珠光の言葉に渋々身を引く焔と、サラシを取り戻して漸く離れた乙女の剣幕に、腰巻を盗んだ男はガクブルと震えながら白鷺に縄で縛られながら自供したのだった。

●腰巻と褌と恋模様
 腰巻泥棒は、もともと長屋に住んでいて想いを寄せる女性がいた。
 その女性は他の男性と恋仲になり所帯を持ったため、傷心の男は引越ししていった。
 だが、どうしても女性のことを忘れられず、せめてものよすがにとこっそりと腰巻を頂戴したらしい。
 そこで終れば、このような大きな事態にはならなかっただろう。
 しかし、男はあっさり上手く手に入った腰巻に欲が出た。
 長屋には美人の娘が多く、その娘達の腰巻も欲しくなった。
 その言葉に、開拓者と泥棒捕獲の報を聞いて駆けつけた被害者の方々が眦を吊り上げた。
「だが、俺は褌は盗んじゃいねえ! それは断じてない!」
 今更言い逃れを、とも思うが男が男の褌を盗んで何が楽しい! との言い分は確かにもっともなので、それではヨシオの褌を盗んだのは誰だろうとなる。
「もしかしてまだ、別に泥棒が‥‥」
 不安になる住民達の間から、悲痛な表情の男が歩み出た。
 それはヨシオの隣に立っていたジュンだった。
「ヨシオの褌は‥‥俺が盗みました」
「「「「な、なんだってーーぇ!?」」」」
 長屋中が驚愕の声に満ちる。
 ジュンは悲痛な表情のまま顛末を語った。
「ガキの頃から、ずっとヨシオのことが好きで‥‥。でも言い出せなくて‥‥今回の泥棒騒動で、ヨシオの褌が盗まれたらどうしようって思って」
 不安でしょうがなくなって、他人に盗まれるなら自分がと思い盗んだらしい。
 全てを語ったジュンに、一同はしんと静まり返る。
 何を言えばいいのか判らない、そんな空気の満ちるなか目を潤ませたヨシオがジュンのそばに歩み寄る。
「そんな、言ってくれたらよかったのに‥‥。僕だって、ジュンちゃんのこと、ずっと好きだった」
「ヨシオ‥‥!」
 うわあ、男同士の恋愛だと言い出せない良い雰囲気に住民は一瞬固まるが、二人の仲良しはいつものことだと思いなおす。
 それを物凄い良い笑顔で見守るのはニノン、顔を真っ赤にしてガン見しているのは乙女である。
「まあ、泥棒も引き渡したし。ヨシオとジュンの仲も纏ったし‥‥めでたし?」
 白鷺の言葉に、それでいいのか? と思わなくも無かったが異議を唱えられる猛者はこのなかにはいなかった。
 ちなみに、腰巻泥棒の犯人は被害者の娘さんに散々引っかかれ説教され、新しい上等な腰巻を購入して返却、盗んだ腰巻は焼却処分するということで話は纏ったとか。

 これにて、腰巻と褌を巡る恋の事件は一件落着なり。