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■オープニング本文 理穴、緑茂の里はアヤカシの侵攻により窮地に立たされている。 隣国の石鏡は援軍を編成し理穴へと向かわせたのだが‥‥。 理穴との国境には山脈がある。 石鏡軍が理穴へ入るにはこの山を越えなければならない。 しかし、山にはアヤカシが棲み着いている。山に棲みついたアヤカシたちは、今回の炎羅出現の影響で数も増え、その動きも活発となっていた。 麓の村で待機している部隊のもとへ偵察の兵士が戻ってきた。 「国境の山道に鬼の群れが集結しています」 偵察兵が状況を報告する。どうやら三十匹ばかりの鬼が理穴へ通じる山道を占拠しているようだ。 「鬼か‥‥まるで我らの進行を阻んでいるようだな」 指揮官は思案する。 このまま山道へ向い、アヤカシの群れと一戦を交えれば部隊にかなりの被害が出るだろう。かといって、山を迂回すると理穴への到着が大幅に遅れてしまう。 「ここは遊撃隊を組んで、先行して山道の露払いをしてもらうか」 指揮官は遊撃に参加する開拓者の手配を命じた。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
神流・梨乃亜(ia0127)
15歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
美和(ia0711)
22歳・女・陰
花脊 義忠(ia0776)
24歳・男・サ
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
喜屋武(ia2651)
21歳・男・サ
凛々子(ia3299)
21歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●罠 依頼を受けた開拓者たちは石鏡軍に先行して国境にそびえ立つ山へ入る。 山道を占拠する鬼に見つからぬよう注意しながら足を進め、誘導場所である西側の岩場へ到着した。 山林と岩場の境界にはごつごつとした岩が点在しており、その先は開けた荒蕪地になっている。 「ここは‥‥岩に囲まれた道みたいになっているな」 岩によって狭まった地帯を歩く凛々子(ia3299)は、周囲の地形を注意深くたしかめている。罠を張っておく位置を探っているのだ。 「こ、こっちはけっこう開けていますね‥‥ここの地面はもろい感じがしますよ‥‥」 見るからに内気そうな赤縁眼鏡の少女、水津(ia2177)が奥の荒蕪地に立つ。荒蕪地のさらに先は岩壁だ。 「やはり、鬼どもはここへ誘導しておくのがいいな。石鏡軍にはその間に山道を通過してもらおう」 思い澄ました目で、若き志士、風雅 哲心(ia0135)がいう。 「ああ、ここなら思う存分刀が振れる。決戦場にはもってこいだ」 と、堂々としたさまで周囲を眺めるのは、サムライの花脊 義忠(ia0776)だ。 「数が多いですからね‥‥仕掛けかたも考えておかないと」 静かに思案する顔も冷ややかに美しいのは、朝比奈 空(ia0086)だ。 「全部を相手にしては勝ち目がないので、効率よくやらないといけないな」 よく日に焼けた、精悍で頑丈そうな体つきのサムライ、喜屋武(ia2651)がいう。 「や、やっぱり落とし穴などが良法ですか‥‥足元を崩されては、如何に鬼が力持ちでもそれを生かしきることはできないですよね‥‥?」 水津がいう。 「そうだな‥‥」 凛々子は借りてきた鋤で地面の固さを調べていた。 「‥‥このあたりと山林を出たところは土が掘り返せるな。あまり時間は掛けられないが、落とし穴を掘っておこう」 「梨乃、おにさん捕縛用の罠作りがんばっちゃう!」 薄薔薇色の寛衣を羽織った、可愛らしい人形のような出で立ちの巫女、神流・梨乃亜(ia0127)ははりきって穴掘りを始める。 「ふふふ‥‥私が掘った落とし穴に落ちた鬼のすがた目に浮かびます‥‥」 水津は黒い笑みを浮かべながら落とし穴を掘っている。 「それにしても、やってみたら穴掘りというのも意外に楽しいものですねえ‥‥焔の輝きを愛でるのには及びませんがね‥‥」 「だめだよー水津。火遊びしたらおねしょしちゃうよ? お布団が世界地図だよ?」 「わ、私はおねしょなんかしませんよっ‥‥」 少女たちが穴を掘っている横で喜屋武は精神を統一していた。 喜屋武は両腕の筋肉に意識を集中する。彼の隆々とした両腕に練力が流れて、肩から腕の筋肉がさらに逞しく盛り上がった。喜屋武はその豪腕を駆使して、あっという間に二つ、三つの大穴を作り出す。 哲心が突き出した岩や低い灌木が散在する場所に立っている。 「‥‥ここに、なにか罠が張れそうだな」 「ちょうどいいものがあるぞ」 と、忠義が持ち出したのは長い縄だ。 「こいつを岩や木々の合間に張っておこう。マヌケな鬼どもを引っかけてやるんだ」 二人は縄を木々の低い位置に結んでいく。 開拓者たちは素速く罠を仕掛けていった。 ●囮 「それじゃあ囮役のみんな、がんばってね!」 梨乃亜の応援を受けて、アヤカシ誘導係の凛々子、忠義、喜屋武、哲心が出発する。 四人は山林を移動し、鬼が占拠している山道までやってきた。 「いるな‥‥」 凛々子は木々の陰から山道を確認する。鬼はまだ開拓者たちに気付いていないようだ。 「皆は鬼を呼び寄せてくれ。俺はここに留まり、背後から追いかけよう」 哲心はひとり離れた場所に待機する。 三人のサムライは鬼を誘き出しやすいような形で配置を組んだ。 「うまく分散できるといいのだがな」 開拓者はそれぞれの位置で鬼の動向を探る。互いに合図を交わして――。 「いくぞ!」 まずは凛々子が山道へ飛び出た。大きく息を吸い込み――咆哮。 鬼の集団は山中に木霊する雄叫びに素速く反応した。 殺気が一斉に凛々子へ向けられる。 「来るぞ――!」 凛々子は鬼が自分のすがたを捕捉し、動き出したのを確認してから誘導路へ戻る。 鬼の群れは凛々子を追って山道から山林へなだれ込んでいく。その勢いは山林を揺るがすほどのものだった。 「やはり数が多い!」 凛々子は逃げながら後ろを振り返る。 「大漁ってことだが‥‥さすがにこれは手に負えないか」 そういって喜屋武が誘導路から脇道へそれる。 「どうする気だ?」 「ここで鬼どもを分断しよう。いくらかは俺が引き受ける」 喜屋武は立ち止まり鬼に向かう。 そして大きく息を吸い込んで――。 「この、馬鹿やろうーッ! くそおにー!!」 大声で鬼を罵倒、挑発する。その挑発に乗った鬼が群れからはずれ、喜屋武に向かって走り出す。 「あとで合流しよう!」 喜屋武は分断した鬼を引き連れて山の奥へ分け入った。 凛々子は鬼との距離を測りながら獣道を走る。群れのなかに、こちらの誘導に気付いて山道へ戻ろうとする鬼を見つけた。 「ここまで来て引き返されたら面倒だな‥‥」 「なに、そういうときはまた釣り上げればいいんだよ!」 忠義が咆哮を放つ。 鬼はふたたび開拓者へ向けて猛進しはじめる。 「はっはぁっ! そうだ! ついて来い!」 誘導場所。岩場はもうすぐ目の前だ。 山林の切れ目から凛々子と忠義が躍り出る。二人を追いかける鬼たちは木々の間に仕掛けられた縄に気付かない。勢い余った数匹が縄に足をとられて地面に転げた。 「飛んで火にいるなんとやら、ってか。好機は逃さねぇぜ」 鬼の群れを後方から追跡していた哲心は腰の刀に手をかける。走りながら刀を抜き、転んでいた鬼の喉頸を斬り裂く。 「そのまま地面を舐めてろっ!」 鬼に立ち上がる間を与えず、的確に首へ向けて刃を走らせる。 哲心は刀の血を払い、誘導場所へ急いだ。 ●激闘 「来ましたね――」 空が鬼の足音に気付く。その直後に凛々子と忠義が誘導地点へ到着した。 「まずは出鼻を挫きます!」 岩の陰に隠れていた空は練力を統制し、先頭の鬼へ向けて力の歪みを送る。鬼の体は歪みによってねじ曲げられた。 「逃げるのはここまでだな――援護をたのむ!」 凛々子は身を反転させ、鬼に向き合う。両手で刀を握り、空が放つ力の歪みに巻き込まれた鬼へと斬りかかった。 袈裟を斬り、心臓を突く。 「まずは一匹!」 すぐさま次の鬼へ切っ先を向ける。 「鬼もこれだけいると斬りがいがあるね!」 「たしかにな!」 忠義も立ち止まり、両足で地面を踏みしめる。刀を抜き、高く最上段のかまえをとった。 「だが何匹だろうと、この剛剣で成敗してやるぜ!」 示現――。 猿叫の気合いとともに必殺の太刀を鬼の面へ振り下ろす。 忠義の刀は鬼の頭を二つに割った。 「さあ、俺の剣を喰らいたいヤツは遠慮せずにかかってこい!」 忠義はふたたび刀を上段へかまえ、襲い来る鬼の群れへ臨んだ。 「おーにさんこちら! 手の鳴るほうへっ!」 歌いながら鬼を挑発するのは梨乃亜だ。 「ほらほら〜、梨乃はこっちだよぉ〜」 梨乃亜に襲いかかる鬼だったが、直前で仕掛けられていた落とし穴にはまりこんでしまった。 「きゃはは、ひっかかったひっかかった〜。えいえいえい!」 梨乃亜は穴に落ちた鬼の後頭部を片手棍で殴る。 荒蕪地へやって来た鬼たちは、開拓者の掘っておいた落とし穴に次々と落ちていく。 「こ、こっちへ来ないで下さい‥‥」 と、いいながらも巧みに鬼を誘導しているのは水津だ。 水津は鬼が落とし穴のそばへ近づくと、足元へ向けて力の歪みを発生させた。歪みに足をとられた鬼は体勢を崩し、穴へ落ちる。 「ふふふ‥‥罠にはまりました‥‥前衛の皆さん、やっちゃってください‥‥」 「任せておけ!」 哲心は刀を水平に、走り抜けざまに鬼の首を断つ。 「くぅっ」 凛々子は三匹の鬼の攻撃をいなしながら、じりじりと後退する。鬼の爪が頬や脇腹をかすめ、血が滲む。 凛々子の後方には落とし穴がある。 「‥‥いいぞ‥‥私を喰らいたいのだろう? もっと近づいてこい!」 三匹の鬼が同時に襲いかかる。その瞬間を見計らって、凛々子は穴を避けるように後方へ跳び逃げた。 凛々子を捕え損ねた鬼たちは見事穴にはまる。 「派手にやってるな!」 ここで喜屋武が岩場へ到着した。六尺棍を脇にかまえ、鬼の群れへ踊り入る。 「ふん!」 六尺棍を振り回し、群がる鬼をなぎ払う。 「やっと来たか。分断した鬼どもはどうしたんだ?」 横に並んだ忠義が訊く。 「森のなかにまいておいた。なに、山道からは離れた場所だ。石鏡軍と行き遭うことはないだろう」 喜屋武は六尺棍を鬼の額に突き入れる。骨のひしゃげる音がして鬼はその場に崩れ落ちた。 「相手の数に押されてはいけません! 連携して各個撃破を!」 空は神風恩寵で味方を治癒しながらも、力の歪みで鬼の足止めをはかる。 「あははは! 喰らえ鬼ども! 私の火焔で灼け焦げてしまうがいいですっ!! 火葬してあげますっ!!」 鬼の顔前に赤い火種を発生させ、動きを牽制する水津。続いて梨乃亜が力の歪みで足を絡め取る。 「これで!」 身を低く、鬼のふところに潜り込んだ凛々子は、地面を擦るように下から刀を斬り上げる。 刀は血しぶきを散らしながら鬼の脇腹から肩までを斬り裂いた。 「まだまだ!」 凛々子はすぐさま別の鬼へ斬りかかる。赤い着物をより紅く染めて。 乱戦の果てに、ようやく誘導しておいた鬼たちを追いやることができた。 「ううう、くたくたです‥‥」 「梨乃もつかれたぁ〜」 水津と梨乃亜はその場に座り込む。他の面々もかなり疲労していた。 「なんとかなりましたか‥‥けっこう苦労しましたね」 怪我人の治療を終えた空がいう。 「しかし、まだ鬼は残ってるんだろ?」 刀を鞘におさめ、哲心が喜屋武に訊ねる。 「ああ、森の奥まで誘導しておいた。だいたいの位置は把握してるよ」 開拓者たちは岩場をあとにして、残った鬼の討伐へ向かった。 ●国境を越えて その後、分断していた鬼の討伐を終えた開拓者たちは山道まで戻ってきていた。 「‥‥うん、この付近におかしな気配は見あたらないな」 心眼で周囲の気配を探り終えた哲心がいった。 「あ、へーたいさんが来たよ!」 山道を登ってくる石鏡軍を梨乃亜が見つける。 「山道の露払い、うまくいったようですね。ありがとうございます」 石鏡兵がいう。 「まだ残ってる可能性もあるけどな‥‥」 哲心は山林の奥を見て、 「俺たちはもう一度付近を探索してみる。いちおう念のためだ。まだ残ってました、じゃ話にならないからな。あんたたちはさっさと山越えしてくれ」 「わかりました」 石鏡軍は急いで山を登っていく。 「さて、もう一回りしていくか」 開拓者たちはもう一度周囲を探索し、アヤカシがいないことを確認してから山を下りた。 開拓者たちの働きにより、石鏡軍はその日のうちに国境を越え、無事に理穴へ入ることができた。 了 |