死しても、尚
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/25 00:09



■オープニング本文

「罪人、紅月 大和(こうづき やまと)を、これに」
 武天国内の、とある奉行所。役人達が鎮座する座敷『公事場』から、町奉行が同心に指示を飛ばす。同心の数人が軽く頭を下げると、門外へと出て行った。数分後、荒縄で縛られた罪人を引き連れて、同心が姿を現す。そのまま、白い砂利の上に敷かれた莚(むしろ)に、無造作に投げ飛ばした。
「紅月 大和。貴様のした悪行の数々、既に明白である。厳しき罰が下るものと思え」
「お待ち下さい! 私は、何もしておりません! 今一度、お調べ直し下さい!」
 町奉行の言葉に、大和は立ち上がって異を唱える。その背後から同心が2人近付き、肩を掴んで無理矢理座らせた。
「駄目ですよ、お奉行様。こんな罪人のタワゴト、真に受ける必要はありません」
 大和の後ろから、飄々とした声が響く。門外から入って来たのは、金髪で長髪の男性。その服装は同心達と同じだが、雰囲気は役人とは思えない程に軽い。
「丹波! これはどういう事だ!?」
「ん? そんなに変かい、この金髪。ジルベリアの民みたいでカッコイイと思うんだけどね、僕は」
 噛み付くような大和の問い掛けに、丹波は髪を弄りながら答える。他人を馬鹿にしているような表情に、大和の怒りは増すばかりだ。
「フザケるな! 何故俺が罪人扱いを受けねばならん!」
 興奮した大和を、同心が強引に抑え付ける。丹波は軽く溜息を吐き、やれやれと首を振った。
「君さぁ‥最近起きてる事件、知ってるよね?」
 丹波の言う『事件』とは、この近辺で頻発している空き巣の事である。死傷者は出ていないが、盗まれた金額は相当な額になっていた。ちなみに、犯人はまだ捕まっていない。
「このまま犯人が捕まらないとさ、僕らのメンツに係わるでしょ‥‥ここまで言えば、分かるよね?」
「まさか‥‥メンツのために俺を犯人に仕立て上げる気か!?」
「ご名答〜♪ 流石は、僕の同僚。理解が早くて助かるよ。あ、今は『元同僚』かな?」
 無邪気な笑みを浮かべながら、パチパチと手を叩く丹波。どうやら、罪の意識は微塵も無いようだ。対照的に、大和は困惑した表情で町奉行を見上げる。
「そんな馬鹿な‥‥お奉行様! 何故です! 貴方ともあろうお方が、冤罪に手を貸すとは!!」
 直後。
 大和の腹から刀が生えた。
「あ〜あ‥‥僕の愛刀、汚れちゃったよ」
 残念そうに大和を見下ろす丹波。丹波が、大和を背中から刺したのだ。傷口から赤い雫が滴り、白い砂利を紅く染めていく。
「丹波。そやつの始末は、お主に任せる。罪人に情けは無用だ」
「お任せください、お奉行様♪」
 歪んだ笑みを浮かべながら、丹波は刀を引き抜いてゆっくりと振り上げた。大和の口と腹からは、止め処無く血が流れている。
 いや、口と腹だけではない。その双眸にも、赤い線が描かれている。
(許さない‥‥赦せない‥‥絶対に!)
 声にならない声。大和の胸中には、激しい怒りが渦を巻いていた。
「じゃぁね、元同僚」
 そう言って、丹波は大和の心臓目掛けて刀を突き刺した。ほぼ同時に、大和の体から黒い霧のようなものが拭き出す。その様子に、その場に居た全員が驚愕の表情を浮べている。拭き出した霧は渦を巻き、大和の体に吸収されていった。
「何だ‥何が起こっているんだい!?」
 叫んだ丹波の頭が、胴から離れて地面を転がる。突然の出来事に、誰もが状況を理解出来なかった。いや、説明した処で、理解出来る者は居ないだろう。
 身を焦がす程の怒りが瘴気と混じり合い、命を落とした大和の体に吸収された。そこに大和の意識は無く、人を憎むアヤカシと化してしまったのだ。
 大和の左手に瘴気が集まり、黒い刀身と化す。既に具現化している右手の刀には、丹波の首を刎ねた時の血がベットリと付着している。
「許さなイ‥‥赦セ、ナイ!」
 野獣のような咆哮を上げ、大和は地面を蹴る。そこに居た全員が血の海に眠るまで、そう長い時間はかからなかった。


■参加者一覧
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
ゼタル・マグスレード(ia9253
26歳・男・陰
五十君 晴臣(ib1730
21歳・男・陰
宮鷺 カヅキ(ib4230
21歳・女・シ
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
にとろ(ib7839
20歳・女・泰


■リプレイ本文

●憎悪と復讐の鬼
 冬にしては珍しく、良く晴れた日の昼下がり。吹く風は優しく、木漏れ日が街道に降り注ぐ。
 一見すると平和そうな街道に、難しい顔をした若者達が複数名。
「事情を聞いた限り、他人事とは思えないけど…人の悪意程恐ろしいものはない、ね」
 哀愁の入り混じった苦笑いを浮かべつつ、五十君 晴臣(ib1730)が口を開く。今回の依頼、彼なりに色々と思う処があるのだろう。
「あぁ。最早、肉体は戻れないにしても…せめて『人』としての心を取り戻して欲しいな」
 アヤカシに取り憑かれた者が意識を取り戻す事は、極めて稀少である。既に命を失っている大和なら尚更難しい。それでも、竜哉(ia8037)は僅かな希望を捨ててはいないようだ。
「今回ばかりは、煙管ふフカしてる場合じゃねぇな。おい、来たみたいだぜ」
 言いながら、笹倉 靖(ib6125)は煙管を振って灰を落とし、腰帯に刺す。その表情は、色んな感情が入り混じって複雑そうである。
 数秒後、街道の奥から瘴気と共に大和が姿を現した。怒りで歪んだ顔に、双眸から流れる赤い液体。その姿は『異形』と呼ぶに相応しい。
「お前はもう、死んでるにゃんす。大人しくするでにゃんすよ!」
 にとろ(ib7839)が大和を『ビシッ』と指差し、叫ぶ。少々緊張感に欠けるが、大和の注意を引くには十分だったようだ。両手の刀を握り直し、一気に駆け出した。
 直後、白銀の光が彼の喉に突き刺さる。大和は足を止めると、視線を下に動かした。30cm程の、細長いクナイが喉を貫通している。
「ここで仕留めて終わりにしたかったのですが……そう上手くはいきませんね」
 言葉と共に、宮鷺 カヅキ(ib4230)が木の上から降り立つ。彼女の正確な投擲は狙い通りに喉を貫通したが、止めを刺すには至らなかったようだ。
 大和はクナイを無造作に引き抜き、放り投げる。赤い飛沫と共に、黒い霧が噴出して収束。天儀刀の形を成し、宙を漂う。
「やっぱり、こうなるのか。同情はするが…アヤカシと化した以上、見逃すわけにいかないんでねぇ…」
 ゆっくりと長刀を引き抜く、九竜・鋼介(ia2192)。同情的な表情を浮べているものの、その茶色い瞳には一切の迷いが無い。
「これ以上の罪を重ねる前に、彼を止める。それが彼への餞になるのなら、全力を以て立ち向かおう…」
 ゼタル・マグスレード(ia9253)。アヤカシの生態に興味のある彼だが、それ以上に今回の事件で心を痛めていた。
「そうですね……迅速に退治して、大和さんの心と体を開放しましょう」
 アナス・ディアズイ(ib5668)は悲痛な面持ちで盾を握り直す。紫の瞳が大和を射抜くと、周囲の空気が張り張り詰め、緊張感が漂った。

●悲しい闘い
「お前の想いは認める。が、罪無き者の命まで奪う事は絶対に許さん!」
 吼えるような叫びに乗せて、竜哉は剣気を叩き付ける。非常識なまでに巨大な野太刀を下段に構え、一気に疾走。回転しながら放った横薙ぎが、大和の胸を横に斬り裂いた。
 間髪入れず、死角からカヅキが迫る。忍刀が黒い軌跡を描くと、血飛沫と共に黒い霧が舞った。大地に赤い雫が滴り、霧は空気に溶けるように消えていく。
 鋼介は目を閉じて大きく息を吸い、呼吸を止めて目を見開いた。不屈の覚悟を決め、地を蹴って大和との距離を詰める。手にした長刀が奔り、大和の腕や脇腹に赤い線を描いた。
 予想外の抵抗に、大和は小さく舌を打つ。右手の刀に黒い霧を上乗せし、鋭く横に薙いだ。瘴気を伴った斬撃の鋭さに、竜哉の反応が一瞬遅れる。鋼介は何とか反応して扇を盾代わりに広げたが、斬撃はそれを易々と弾き、二人の胸を横に斬り裂いた。
 3人が大和を押さえている隙に、天儀刀が後衛に狙いを定める。切先を向けると、まるで投擲されたかの如く急加速して突撃して来た。
 その動きに気付いたアナスは、後衛を守るように割って入る。盾を構えてオーラを纏うと、防御を固めた。天儀刀と接触した瞬間、盾中央の宝珠から障壁が発生し、突撃を完全に受け止めた。
 と、思ったのも束の間。天儀刀の片方が、刀身を滑らせるようにして方向を変える。切先を靖に向けると、再び急加速した。
「そこは通さないよ? うちの回復手を傷付けられたら困るんでね」
 晴臣の言葉と共に、進路を妨害するように黒い壁が生まれる。双方がぶつかると、硬い金属音と共に火花が散り、天儀刀が弾かれた。晴臣は白い尾長の隼を召喚すると、それが飛来して天儀刀の瘴気を喰らう。
「頼りにしてんぜー、晴臣。さて、まずはコイツだな」
 両腕を広げ、靖は神楽を舞う。穏やかで力強い舞踏が精霊の力を高め、前衛の竜哉とカヅキに加護を与えた。
「まずはぁ、邪魔な天儀刀をぉ始末するでにゃんす!」
 寝ぼけ眼で手負いの敵を見据えつつ、にとろが距離を詰める。軸足で思い切り地面を蹴り、軽く跳び上がって回転。遠心力を上乗せした回転蹴りを天儀刀に叩き込んだ。
「破壊された刀を補充する力があるか否か、試させて貰うよ?」
 そう言って、ゼタルは手負いの天儀刀を狙う。放たれた2枚の符がカマイタチのような姿と化し、刀身を斬り裂いた。そこからヒビが全体に広がり、粉々に砕けながら黒い霧と化して空気に溶けていった。
 天儀刀を倒された大和は、軽く後方に跳び退いて距離を空ける。顔の前で両腕を交差させると、左右に開きながら雄叫びを上げた。圧倒的な声量で周囲の木々が小刻みに揺れる。心の奥から恐怖を呼び起こすような、凄まじい不快感が開拓者達を苛む。
「耳が壊れそうな…声量、だな。頭が…割れそう、だぜ」
「同感、だね。何とか…この声を、止めないと。靖、行けるかい?」
 顔を見合わせ、靖とゼタルが頷く。靖は精霊の力を掌に集中させ、白い光弾を連続で撃ち出した。それに合わせて、ゼタルは符を投げ放つ。光弾が大和の額と喉を射抜くと、ようやく雄叫びが止んだ。放たれた符はスライムへと姿を変え、大和の武器に絡み付く。強酸が飛び散り、刀身を腐食させて大和の肌を焼く。
 雄叫びが止み、胸を撫で下ろす一同。しかし、にとろと鋼介は膝から崩れ落ち、自身の肩を掴んでガタガタと震え始めた。その瞳は、恐怖の色で塗り潰されている。
「鋼介さん、にとろさん、下がって下さい! 的になってしまいます!」
 カヅキの叫びに『ビクッ』と身を震わせながらも、鋼介とにとろは森の中に逃げ込む。そのまま木の陰に隠れ、大和を視界から外す。
 カヅキは地を踏み締め、忍刀を薙ぐ。大和が身を翻してそれを避けると、彼女は更に大きく踏み込み掌底で顎を打つ。間髪入れず、刀を袈裟に振り下ろして大和の胸を斜めに斬り裂いた。
 追撃するかの如く、竜哉は武器を構えて独楽のように回る。切先が大和の全身に赤い線を描き、黒い霧が傷口から漏れ出た。
 集中攻撃を受ける大和を尻目に、残った天儀刀は進路を森に向けた。狙いは、恐慌に陥った2人。刃が横を向き、鋭い横薙ぎが空を斬り裂いて迫る。
 が、その切先が届くよりも早く、黒い壁が出現した。
「弱った者から攻撃、か。定石通りで行動が読み易いよ」
「晴臣さんの仰る通りですね。弱者を狙うとは、許せません!」
 不敵な笑みを浮かべ、結界呪符「黒」で2人を守る晴臣。更に隼の式を召喚すると、天儀刀の瘴気を喰らわせた。
 アナスは怒りを露にしながら距離を詰め、ファルクスを握り直して横に薙ぐ。強烈な衝撃が刀身全体に伝播し、接触した天儀刀の刃が毀れた。
「恐慌だろうと、無理にでも突破してみせる…強行だけにってねぇ…!」
 震える手で刀を握り、鋼介は自身の足に突き立てた。鋭い痛みで恐怖を振り払い、深呼吸を繰り返して平静を取り戻す。かなり手荒だが、味方の勇姿が彼の心に火を付けたのだろう。
「私もぉ……行くでにゃんす! 直斗神拳のぉ、華麗なる技を喰らうでにゃんす!」
 そして、火の付いた者がもう一人。拳を強く握り、にとろは恐怖を振り払う。軽く跳び上がり、天儀刀に回転蹴りを放つ。着地と同時に下駄を右手に填め、天儀刀に触れて浸透勁を叩き込んだ。頸力が全体を駆け巡り、内側から破壊していく。数秒後、天儀刀は粉々に砕け散り、空気に溶けていった。
 1人残された大和だが、怯む様子は微塵も無い。剣を構えて虚空に向かって突き出すと、衝撃が真空の刃と化す。それが超高速で飛来し、アナスとゼタルの腕を斬り裂いた。
 苦痛で軽く顔を歪めながらも、反撃するように符を投げるゼタル。召喚された2匹のカマイタチが大和の体を斬り裂き、深い傷を刻んでいく。
 その攻撃に紛れ、濃銀の影が大和に向かって伸びる。
「早くきみを楽にして差し上げたいから…悪く思わないでくださいね……?」
 カヅキの呟きと共に、影が絡み付いて動きを鈍らせた。苦々しい表情で大和は体を捻ろうとするが、身動き一つ取れない。
「これ以上、あなたを穢すわけにはいきません。ここで終わりにします!」
 他のメンバーがその隙を見逃すワケが無い。アナスは一気に距離を詰め、渾身の力を込めてファルクスを振り下ろした。切先が大和の体を縦に斬り裂き、赤い飛沫と黒い霧が舞う。
 その霧を喰らうように、晴臣の式が2匹飛来した。白い尾長の隼は大和の周囲を旋回し、全身の傷口から瘴気を吸収していく。
 靖は扇をゆっくりと広げると、淡い輝きを纏いながら優雅に振った。光が広い範囲で広がり、周囲に居た開拓者達の体を包む。優しい光が傷口に作用し、負傷を癒していく。
 体の傷が癒えた竜哉は、斬竜刀を強く握り締めて振り上げた。
「人ならば選ぶが良い……このまま民の命を奪い続けるか、或いは己が内のアヤカシを討つか!」
 その言葉に、大和の表情が一瞬だけ穏やかに変わる。見間違いかもしれないが、竜哉にはそれでも十分だった。切先に聖なる精霊の力を収束させ、一気に振り下ろす。深々と斬り裂かれた傷口から黒い霧が発生したが、即座に塩の塊と化して大地を汚した。
 鋼介は地を蹴り、全力で掛け出す。加速状態で大きく踏み込み、渾身の力を込めて刀を突き出した。
「せめて…安らかに眠ってくれ…」
 自身の呟きを掻き消すような、激しい一撃。銀色の閃光が走り、大和の体を貫いた。直後、両腕の刀が溶けるように消えていく。糸の切れた人形のように、力無く大地に伏す大和。その表情は、穏やかに微笑んでいるように見えた。

●悪夢の終わりに
 街道脇の森の奥。滅多に人が立ち入らない場所に、開拓者達の姿があった。
「せめてもの手向けだ。これで体を清めて逝くと良い」
 ゼタルは天儀酒の蓋を開け、大和の遺体に振り撒いた。気休めかもしれないが、アヤカシに汚された肉体を清めたいのだろう。そのまま、8人で協力して埋葬し、鋼介は手頃な石を墓標代わりに建てた。
「こんな森の中だが…無いよりはマシだよな」
「『白夜』の白と、『烏丸』黒……少しは、弔えたでしょうか」
 大和が放り投げたクナイを回収し、自身の兵装を見詰めるカヅキ。弔事の定番は白と黒。彼女なりに、弔いの意を込めた装備なのだろう。
「手酷い裏切りで、絶望と憎悪に飲まれたか……道理で、悪党として生きていた顔には見えないわけだ」
 複雑な表情で墓を見下ろす竜哉。民を守るため、騎士として敵を倒す事に迷いは無い。だが、頭で分かっていても、割り切れない事もある。今回のような場合なら、尚更である。
(アヤカシを呼び寄せた大和の怒り……父が亡くなった時の私と重なるよ)
 過去を振り返りつつ、野生の菊を供える晴臣。その花言葉は、清浄と高潔。
「出来ればぁ、平和的に解決したかったでにゃんすねぇ〜」
 相変わらずスローテンポなにとろ。口調はゆっくりだが、その表情は落胆で沈んでいる。
「大和さん、罪を着せられたのですよね? 真犯人は、まだどこかに居るのでしょうか……」
 言いながら、アナスは空を見上げる。この広い空の下に真犯人が居る。そう考え、複雑な気分になったのかもしれない。
「そうなるな。まぁ…メンツなんかよりも大事なものが分からん奴が役人じゃ、犯人は捕まらねぇだろうよ」
 煙管を咥え、煙と共に言葉を吐き出す靖。事件のキッカケになった役人に対して、嫌悪にも似た怒りを感じているのだろう。
「その真犯人を見付ければ、大和さんの無実は証明出来るのではないでしょうか?」
 全員を見渡しながら、同意を求めるように意見を述べるアナス。大和の無念を、ほんの少しでも良いから晴らしたいのだろう。恐らく、その気持ちは全員同じハズである。
 しかし……。
「空き巣の件は無実だけど、彼の手が血で汚れてしまったのは事実だよ。残念だけど、ね」
 晴臣の言う通り、大和が『殺人』という罪を犯したのは、変えられない事実。もう、彼は無実ではないのだ。
「アナスの気持ちも分かるが、俺達に出来る事は何も無ぇだろうな」
 苦笑いを浮かべる鋼介。法の番人では無い以上、独自に事件の捜査をするワケにはいかない。それに、彼等には開拓者としての使命がある。
「奴は死んでアヤカシになったんだから、罪にはならんのだろ? まぁ、どちらさんにもご冥福を、だな」
 靖は膝を付き、墓の横で煙管をひっくり返した。ゆるやかに立ち昇る煙は、さながら線香のようだ。
「最後の瞬間、奴は自らの裁きを受け入れた。少なくとも…俺はそう思いたい」
 止めの直前、大和の表情が変わった事が、竜哉の心には強く残っていた。大和の真意は定かでは無いが……だからこそ良い解釈をしたくなる。
「後は、この国の法に任せるとして…僕達は、彼の冥福を祈るとしようか」
「賛成でにゃんす。このままじゃぁ、可哀想過ぎるでにゃんすよぉ…」
 ゼタルの提案に、にとろが同意する。他のメンバーから反対意見は出ず、全員が手を合わせて黙祷を捧げた。
(大和さんは悪くないというのに…『復讐心』という凄まじい感情を、私も向けられる日が来るのでしょうか…)
 一連の事件を振り返り、カヅキの胸に複雑な想いが去来する。それは涙となって頬を伝い、落涙は菊の花を濡らした。