相容れぬ者
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/30 23:31



■オープニング本文

 飯屋という場所は、賑やかで活気がある。家族で食事をする者達、甘味とお茶で友好を深める者、友人同士で酒を酌み交わす者など、利用者は千差万別。昨今では、憩いの場としての意味合いも強い。
 だが……楽しいハズの飯屋で、険悪な雰囲気を放っている2人組が居た。
 1人は、赤毛を逆立てた長身の男性。不機嫌な表情で、目の前の人物を睨み付けている。
 彼の視線を受けながら、涼しい顔をしている長髪の男性。軽く髪を掻き上げながら鼻で笑うと、赤髪の男性が卓を叩いた。
「だ〜か〜らっ! 何度同じ事言わせんだよ! 分かんねぇ奴だな!」
 激しい剣幕で、怒声に近い叫び声をあげる。店内が静まり返って視線の集中砲火を浴びているが、気にしている様子は微塵も無い。
 長髪男性は溜息を吐き、呆れた表情で赤髪男性を指差した。
「分からないのは、キミの方。その頭、随分と大きな飾りみたいだね」
 要は『思考能力が無い』と言いたいのだろう。険悪な雰囲気が増し、2人の間に火花が散っているようにも見える。
 数十分前までは仲良く話していたのだが、議論が白熱し過ぎたらしい。次第にピリピリした空気が流れ始め、今ではこのザマである。
「あのぉ…お客様? 店内ではぁ、お静かにして頂きたいのですがぁ…」
 そんな2人に、気弱そうな女性店員が声を掛けた。正直、見ている方がハラハラする状況である。とは言え、彼女の行動は従業員として正しい姿だが。
 突然声を掛けられ、赤髪男性は刺すような視線を女性店員に向ける。直後、彼の表情が一転。驚愕しながらゆっくりと席を立つと、彼女の両肩を正面から掴んだ。
「…見ろ! この人の造形美を! 女性の胸には、男の夢と希望が詰まっている! 大きい方が良いに決まってるだろ!?」
 興奮気味に叫びながら、視線を長髪男性に向ける。彼の言う通り、店員さんのスタイルは素晴らしい。特に、その胸は男性にとって『凶器』と呼んでも差し支えないだろう。彼の発言に同意するように、店内の数人が静かに頷いている。
 女性店員は嫌悪感を露にしながら、両腕で胸を隠した。それを見た長髪男性は、赤髪男性の手を払い除けて彼女に深々と頭を下げる。
「まったく……キミは女性に対して気配りが出来ないのかな? そんなに大きな胸が良いなら、牧場に行って牝牛と戯れるが良いさ」
 顔を上げながら言葉を吐き、長髪男性は大きく溜息を吐いた。女性に対するセクハラに、空気の読めない言動…彼が呆れるのも、無理は無い。
「俺は、牛じゃなくて女性の胸がイイんだよ! ったく、これだから幼女好きは…」
「毎度、失敬な。人を変質者みたいに言わないで貰いたいね。僕は、控え目で自己主張し過ぎない胸が好きなだけだよ」
 赤髪男性の言葉に、長髪男性は初めて怒りの表情を見せた。
 どうやら、この2人が討論していたのは、女性の胸の大きさらしい。話の内容から、赤髪男性が巨乳派、長髪男性は貧乳派で間違い無いだろう。
「世間一般では、そういう奴を『幼女好き』って呼ぶんだよ。覚えとけ」
 吐き捨てるように言う赤髪男性だが、幼女好きと貧乳好きは全く違う。その違いを、彼は全く理解していないようだ。
「…やはり、君の頭は飾りみたいだね。学習能力というモノが欠如している。これは…体に叩き込むしかないな」
 幼女好きと言われたのが癪に障ったのか、長髪男性は激しい怒りを露にしている。こうなってしまっては、激突は避けられそうにない。
「おもしれぇ…俺とお前の主張、どっちが正しいか勝負だ!」
 赤髪男性が、ノリノリで応える。火花を散らしながら、2人は出口に向かって歩き始めた。
「ちょっと待てよ! 俺も参加するぜ?」
「俺もだ! 胸は男のロマンだからな!」
 店内から、無数の声が上がる。巨乳と貧乳の対立は、予想以上に根が深い。男性ならば、自分の全てを懸けて白黒付けたい問題だろう。
 2人の口論は街中を巻き込み、大きな喧嘩へと発展した。


■参加者一覧
百舌鳥(ia0429
26歳・男・サ
此花 咲(ia9853
16歳・女・志
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
レナ・シャムロック(ib5413
12歳・女・砲
リィズ(ib7341
12歳・女・魔
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
黒葉(ic0141
18歳・女・ジ
御堂・雅紀(ic0149
22歳・男・砲
加賀 硯(ic0205
29歳・女・陰
多由羅(ic0271
20歳・女・サ


■リプレイ本文

●苦労の始まり
 風が吹き荒れ、雷が鳴り響く。平原に集まった2つのチームは、距離を置いて東西に別れ、殺気を放ちながら対峙していた。
「逃げずに来た事だけは褒めてやるぜ、幼女好きの変質者共が!」
「口だけは達者だね。出来るだけ痛くしてあげるから、タップリ後悔すると良いよ」
 騒ぎの元凶になった2人が、互いに罵り合う。それに呼応するように、両派の同志達が怒声を上げ始めた。良い子の皆には聞かせられないような、過激な発言が飛び交う。過熱して平常心を失った40人は、拳を握って地面を蹴った。
 ほぼ同時に、両派の間に開拓者達が走り込む。
「馬鹿な真似はお止めなさい! 皆迷惑しておりますし、双方とも女性に対し気配りが出来てません!」
 多由羅(ic0271)の凛とした声が、周囲に響いた。第三者の出現を予測していなかったのか、全員の動きが一斉に止まる。
「だ…駄目ですよ、暴力なんて! せめて、私達の話を聞いて下さい!」
 小柄な体でも大きく腕を広げ、精一杯訴えるレナ・シャムロック(ib5413)。その視線は、シャオ達に向けられている。
「そうそう、レナさんの言う通りよ〜。喧嘩なんて不毛な事は止めて、私達とお話しましょ?」
 レナを後ろから抱擁しながら、雁久良 霧依(ib9706)は不敵な笑みを浮かべた。突然のハグに、あたふたするレナ。その様子に、シャオ達から『萌え』という歓声が上がっている。
「話し合うのは悪い事ではありませんが、その…む、胸の大小で女性を見るのは失礼ですよ…困ります」
 顔を真っ赤にしながらも、穏やかに説得しているのは加賀 硯(ic0205)。その可愛らしい表情と豊満な胸は、カローヴァ達に刺激が強過ぎたようだ。我を失い、狂喜乱舞が止まらない。
「女性の胸とは、須らく平等として分け隔てなく愛でるべきなのですよ! 胸囲の格差社会を増長させる様な真似は、終わりにするのですっ!」
 シャオ達に向かって、此花 咲(ia9853)がビシッと想いを伝える。叱咤の言葉を受けながらも、シャオ達は嬉しそうな表情をしているが。
「お前達の『熱い想い』は解る。でもな…大小に関わらず、女性の胸には魅力があるんだ。それで良いじゃないか」
 冷静に話し掛けながら、全員に視線を向ける御堂・雅紀(ic0149)。内心では『黒葉のスタイルが一番理想』と思っているが、そんな事は口が裂けても言えないだろう。
 開拓者達の言葉で闘争心が治まったのか、両派のメンバーが距離を離していく。彼等を完全に説得するため、開拓者達も双方に別れた。
「それにしても…下らんことで争っている連中だな。俺には理解できん考えだ」
 移動する40人を眺めながら、琥龍 蒼羅(ib0214)が大きな溜息を吐く。万が一にも彼等の考えを理解出来たら、色んな意味で大問題だが。
「そうかい? ボクは実に面白い騒ぎだと思うがね。どっちが勝つか興味あるけど、決着を付けられないのが少々残念だよ」
 蒼羅とは対照的に、リィズ(ib7341)は状況を楽しんでいるようだ。これが依頼じゃなければ、どちらが勝つか見届けていたかもしれない。
「私も、琥龍様と同感です。でも――主様はどちらが好みなのか、気になり…失礼しました」
 黒葉(ic0141)は両派の好みに興味が無いが、主の雅紀の好みには興味があるようだ。仲間達の視線に気付き、照れたように小さく咳払いをした。
「まぁ、男には譲れない事があるからな。とりあえず、平和的に解決するとイイですね」
 完全に棒読み状態の百舌鳥(ia0429)。彼も内心では状況を楽しんでいるが、手荒な事をしないで平和的に解決したいと思っているのも事実。
 40人の説得を成功させるため、開拓者達の奮闘が始まった。

●『牝牛』を意味する集団
「皆様、仕事はどうしたんですか。家族に怒られますよ? もっと大人になって、常識的な行動をして下さい」
 正論極まりない硯の言葉が、カローヴァ達の心に響く。大人の女性ならではの魅惑的な雰囲気が、彼等を大人しくさせているのかもしれない。
「お前達、小さい胸でも『己が大きくしてみせる』っつう男気はないのか? 漢(おとこ)なら…侠(おとこ)だったら、立派な巨乳に成長させてあげる事が大事なんだよ!」
 百舌鳥は熱い想いを言葉に乗せ、大声で叫んだ。少々意味不明な内容ではあるが、真剣な表情と、火傷しそうな程に熱い男気が全身を打ち付ける。
「はいはい、難しい話はそこまでにして…私達と楽しみましょ♪」
 軽く手を叩き、全員の注目を集める霧依。超ミニスカ姿で着衣の前をはだけ、谷間を丸見えにしている。この状態で酒瓶片手に誘惑したら、大抵の男性は『オチて』しまうだろう。
「キミ達のために、差し入れを持って来たよ。ボクのような胸が好きとは、嬉しい事を言ってくれるね」
 リィズは幼い顔立ちとは不釣り合いな、反則的な胸をしている。その谷間に酒瓶を挟み、小悪魔のような笑みを浮かべていたら…平静を保てる男性が居るだろうか?
 答えは『No』である。野太い歓喜の声が湧き上がり、感情が昂って頂点に達した。
「酒と美女が居るなら、宴会でもするか。黒葉、お前の踊りで宴会を盛り上げてくれ」
 雅紀は大量の花見弁当を広げながら、黒葉に言葉を掛ける。この弁当は、彼女が念のために作ってきた物だ。20人で食べるには、充分過ぎる量だろう。
「了解しました、主様。それでは…踊らせて頂きますにゃ♪」
 主である雅紀の提案に、笑顔で頷く黒葉。軽いステップを踏み、全身に薄っすらと光を纏って舞い始めた。魅惑的な舞踏に、周囲から拍手と歓声が起こる。
 お酌を求めるカローヴァ達は、女性陣に集まり始めた。
「わ、私のような未亡人のオバサンで良いのですか? もっと若くて可愛らしい方々がいらっしゃるのに…」
 恥ずかしそうに困惑する硯。自身の女性的価値が低いと思っているため、男性が寄って来るとは予想しなかったのだろう。
 硯とは逆に、霧依とリィズは『女の武器』をフル活用中だ。霧依は腕で自身の胸を持ち上げ、ウィンクしながら揺らして見せる。こんな事をされたら、戦意は因果地平の彼方へ吹っ飛んでしまうだろう。
「度が過ぎる喧嘩は『めっ』だよ、お兄ちゃん?」
 リィズは男性に寄り掛かり、耳元で呟きながら手を握った。超至近距離で呟くようにお願いされて、断れる男は居ない。リィズのように小悪魔的な誘惑なら、尚更である。
 宴会が進む中、悪酔いした男性が黒葉の後ろから徐々に接近。両腕を広げ、抱き付く機会を狙い始めた。
 その男性を、雅紀が羽交い絞めにして黒葉から遠ざける。
「お前、俺の女に何する気だぁ? お触りする気なら…社会的にも生物学的にも抹殺してやるぞ♪」
 カローヴァ達と酒を酌み交わしたせいか、完全に『出来上がっている』雅紀。理性が若干壊れているのか、いつも以上に大胆な事を言っている。男性を締め落とし、黒葉の舞に目を向けた。
 雅紀が見守る中、黒葉の舞は終盤に差し掛かっていく。そして、全員の拍手と歓声を浴びながら、彼女の舞踏は終わりを迎えた。そのまま、宴会に参加してお酌に加わる。
「2ば〜ん、雁久良霧依! 宴会芸の王道……脱ぎます♪」
 霧依の言葉に、全員の視線が集まった。言うが早いか、ローブを外して全身を包むと、衣服を次々に脱いでいく。着衣が足元に落ちる度に、カローヴァ達から歓声が上がった。
 リィズは楽しそうに手を叩いている。硯は顔を真っ赤にし、猛烈に恥ずかしそうだ。黒葉は突然の事に驚いて固まっている。そんな彼女に、熱い視線を向ける雅紀。
 誰1人、霧依を止めようとする者は居ない。ついに、彼女はローブを勢い良く脱ぎ放った。
 間髪入れず、蒼羅は自身の外套で霧依を包み、そっと抱き上げる。
「個人の嗜好を否定する気は無いが…この場では止めておけ。色んな意味でアウトだ」
 冷静且つ、的確なツッコミ。蒼羅の素早い対応で、霧依の裸体は誰の目にも映る事無く済んだ。周囲からは多少のブーイングも飛んでいるが、酒と弁当と美女の前では無力である。
「どうやら、楽しい宴になったみたいですね。重畳、です。あちらは大丈夫でしょうか…?」
 盛り上がるカローヴァ達を眺め、軽く笑みを浮かべる黒葉。そのまま、遠くに居るシャオ派に視線を向けた。

●『小』を意味する集団
「巨乳が嫌いと言うのは、分からなくもない…だけどな、女性の胸には『夢と希望と浪漫』で溢れている。希望の道筋として、おっぱいは大きいくても 良いじゃないか!」
 カローヴァからシャオに移動したのか、百舌鳥はこちらでも熱く語っている。内容が意味不明なのは、相変わらずだが。
「貴方達の下らない言い争いが、巡り巡って私のような女性達を苦しめているという事を自覚するのですよ!」
 頬を膨らませながら、叱咤にも似た説得をする咲。レナも同様に説得しているが、シャオ達は話を理解しているのか否か、終始ニコニコしている。
「…どこ見てるですか? 踏まれたいですか?」
 反省の色が見えず、好奇の視線を向けているシャオ達に、ジト目で注意を促すレナ。全身を値踏みするような不快感に、我慢の限界が近付いているのだろう。
 だが…シャオ達がそれに気付く様子は微塵も無い。未だに、『萌え』や『幼女最高』、『貧乳ラヴ』といった言葉を口にしている。
 ここに至って、何かが切れる『ブチッ』という音が静かに響いた。
「胸が無ければ幼女……? ふふふ、私を幼女扱いするのは、貴方のような人達なのですかー?」
「…うん? もう一度言ってみなさい? 良く聞こえませんでしたよ?」
 笑顔で兵装を構えるレナと咲だが、目は微塵も笑っていない。流石に、堪忍袋の緒が切れたようだ。笑顔のまま、全身から殺気を放っている。
「此花様、シャムロック様、落ち着いて下さい! 私達は、話し合いに来ているのですよ!?」
 慌てて、多由羅が2人の手を引いた。彼女の言う通り、今回の目的は話し合い。出来るだけ、平和的に済ませたいのだろう。
 穏やかな性格の多由羅らしい行動だが、場所が悪かった。彼女が居るのは、巨乳を好まないシャオ達の前。立派な胸を持つ多由羅に、『牝牛女』や『下品な胸』といった陰口が浴びせられている。
 再び、『ブチッ』という何かが切れる音が静かに響いた。
「……私が間違っていました。きっと、彼らはアヤカシに憑りつかれているのですね。女性に対する数々の非礼…最早、許す事叶いません!」
 止めに入った多由羅も、我慢の限界を迎えたらしい。女性3人は静かに顔を見合わせると、シャオ達に向かって駆け出した。
 刀を鞘に納めたまま、咲が兵装で男性の尻を叩いてお仕置きする。
 痛みで男性は気絶したが。
 レナは巨大な銃を振り回し、シャオ達を圧倒していく。
 時折、銃が暴発して弾丸が体を掠めているが。
 納刀した刀を、全力で振り下ろす多由羅。
 反動で、縦回転しながら男性が飛んでいるが。
 蒼羅は飛ばされた男性の落下地点に先回りし、受け止める。そのまま、そっと下ろして地面に寝かせた。
「…『触らぬ神に祟りなし』だな」
 暴れまわる3人を眺めながら、静かに言葉を吐く蒼羅。この状況で止めに入るのは、勇気ではなく『無謀』だろう。それに、怒っていても彼女達は手加減を忘れていない。
 数分でシャオ達を全員叩き伏せたが、勢いは止まらない。3人はカローヴァ達に標的を変え、駆け出した。
 目の据わった咲が『きょぬー派死すべし!』と叫んでいるが、聞かなかった事にしよう。

●意外な終焉
 数分後。シャオとカローヴァを全員倒し、ようやく3人は平静を取り戻した。
「はあ、はあ……虚しい戦いでした。争いは、何も生み出しません。言葉で分かり合えないのは、哀しい事です…」
 現実逃避するように、遠い空を見上げる多由羅。多少結末は変わったが、重傷者は居ないため、問題は無いだろう。
「…貴方達のような輩に、女性の胸を語る資格など無いのですよ。殿方だって、大きさで差別されたら嫌でしょう? 『ドコ』の事かは言いませんが!」
 怒りの言葉と共に、咲は男性達にジト目を向けた。天真爛漫な彼女にしては、珍しい物言いである。
「男というものは、本当に低俗ですね。デリカシーってご存知ですか? もっと敬意と配慮をですね…」
 まだ怒りが治まらないのか、ブツブツと説教を始めるレナ。その怒りは、首謀者の2人に集中していた。
「自業自得だな。他人を勝手に比較し、優劣をつけるような失礼な事をするからだ…」
 蒼羅は呆れたように呟きながらも、全員の怪我の具合を確認している。傷の度合いが浅くない者を背負い上げ、霧依と硯の元へ運んで行った。
「やれやれ、結局は力技になってしまったね。まぁ…これに懲りたなら、二度と大喧嘩なんかするんじゃないよ?」
 リィズはシャオ派を中心に見回り、気絶した者の頬を叩いて意識を回復させていく。そのまま誘惑して、巨乳派に転向させようとしているのかもしれない。
「リィズ様の仰る通りです。万が一、仕事を休むような大怪我をしたら、家族に申し訳なくて顔向け出来ないでしょう?」
 癒しの力を持った式を召喚し、傷を治していく硯。彼女の優しさに触れ、治療を受けた男性の頬を大粒の涙が零れ落ちた。
「こんな、しょーもない戦いやってる時点で、貴方達、全員負けてるワケ♪ ハァハァして鼻息荒くしたりせず、ジェントルマンになりなさい」
 霧依は白い光と共に、怪我人を癒している。衣服は着替え済みだが、露出が高いのは相変わらずだったりする。
 酔っ払ったままの雅紀は、酒を求めてフラフラと立ち上がった。千鳥足で歩きながら、片付けをしている黒葉に接近していく。
 直後。脚がもつれたのか、大きくバランスが崩れた。そのまま、黒葉に向かって倒れ込む。結果、彼女を押し倒す形になってしまった。
 慌てて起き上がろうとした雅紀だが、その手に柔らかい感触が伝わる。次いで、黒葉の『にゃっ!』という悲鳴。雅紀の手は、黒葉の胸を掴んでいた。
「ご、ごめん、黒葉! こ、これはワザとではなく…そ、そう! 事故、事故なんだ!」
 一気に酔いが醒めたのか、必死に平謝りする雅紀。茫然とそれを眺めていた黒葉だったが、困ったように苦笑いを浮かべた。
「―御酒、私も後で呑みたいです…それでチャラ、で如何です?」
 彼女の提案に、何度も頷く雅紀。ようやく、黒葉の顔に笑顔が戻った。
 端から見たら、砂を吐くほど甘い光景ではあるが。
「最後に、お前達に伝えたい事がある。復唱しろ…『おっぱいは素晴らしい!』と。 じゃないと、一人ずつ手取り足取り指導する!」
 意識を取り戻した男性達に向かって叫びながら、逞しい胸板を晒す百舌鳥。彼の言う『指導』の意味を理解したのか、『おっぱいは素晴らしい!』という野太い声が周囲に響いた。