桜色に抱かれて
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/04/02 21:47



■オープニング本文

 天儀に於いて、特別な意味を持つ樹木…桜。早い所では弥生の中頃に咲き始め、遅い所では皐月の頭頃まで花を楽しめる。毎年、美しい花を咲かせる反面、桜には大きな問題が付き纏っていた。
 それは……花見の酔っ払い。度を超した酔っ払いは、騒ぎ、暴れ、喧嘩になる事も少なくない。『火事と喧嘩は天儀の華』という言葉があるが、巻き込まれる方は散々である。
 今年も、美しい桜が咲き始めているが…。
「おい。あれって…酔っ払いか?」
 桜を指差しながら、疑問を口にする青年。その視線の先では、中年男性が幹に背を預けて座っていた。
「こんな時期に? 花見には早過ぎないかしら?」
 青年の彼女らしき女性が、言いながら視線を上に向ける。桜の花は、五分咲き程度。綺麗な事に変わりは無いが、花見をするには早過ぎるだろう。
 面倒臭そうに後頭部を掻きながら、青年が男性に近付く。このまま素通りする事も出来るが、放置して『万が一』の事が起きるのが嫌なのだろう。
「おい、オッサン! そんなトコで寝てたら、風邪ひくぞ!」
 叫ぶように声を掛けるが、反応は無い。舌打ちしながら、青年は男性に手を伸ばした。
「聞こえてんのか、オッサン!」
 肩を掴み、少々乱暴に揺らす。次の瞬間、中年男性の体は力無く地面に倒れ込んだ。そのまま…ピクリとも動かない。
 予想外の事に、青年の動きと思考が完全に止まった。が、それも束の間。急いで駆け寄り、男性の呼吸と脈を確認した。力強い脈動に、寝息のような呼吸。どうやら、眠っているだけらしい。
 安堵の溜息を漏らした青年だったが、その表情はすぐに変わる事になる。木の向こう側や、茂みの奥…桜の周囲に転がる、数名の老若男女。呼吸はしているようだが、こんな場所で寝ている理由が分からない。
 それ以前に…この状況は、異様過ぎる。
「ねぇ…何か、あたし…眠くなって、きた…」
 女性の、弱々しい声。青年が振り向いた時、同行していた彼女は膝から崩れ落ちて地面に倒れ込んだ。
 彼女だけではない。青年自身にも、強烈な睡魔が襲い掛かっている。気を失う直前、彼が最後に見たのは、舞い散る桜の花びらだった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
草薙 宗司(ib9303
17歳・男・志
月夜見 空尊(ib9671
21歳・男・サ
木葉 咲姫(ib9675
16歳・女・巫
宮坂義乃(ib9942
23歳・女・志
鹿島 綾(ic0145
20歳・女・騎
黒木 遼子(ic0536
18歳・女・シ
碕(ic0572
15歳・女・サ


■リプレイ本文

●桜色の悪夢
 春の訪れを知らせるように、淡い花を咲かせる桜達。開花状況は五分程度だが、それでも綺麗な事に変わりは無い。
 桜並木の公園を、中央に向かって進んで行く開拓者達。その表情は、全員複雑そうである。
「桜の咲く公園でアヤカシ、ですか。アヤカシに言っても無駄でしょうが、空気を読んで欲しいものです」
 言葉と共に、軽く溜息を吐く黒木 遼子(ic0536)。彼女の主張は至極当然なのだが…戦場にメイド服で来ている遼子も、色々とツッコまれそうである。
「同感。桜の木に取り憑くとか、無粋だなあ…折角、綺麗に咲いてるのに」
 桜を見上げ、草薙 宗司(ib9303)は苦笑いを浮かべた。その手には、食べ掛けの饅頭。仕事前の栄養補給、と言った処か。
「春眠、暁を覚えず……桜の花に、惑わされたか…」
 舞い散る桜花を眺めながら、月夜見 空尊(ib9671)が静かに呟く。彼自身、ボンヤリしていて眠そうに見えるが、睡魔は微塵も無い。
「それって確か、泰の言葉だったかしら。素敵な桜を前に眠っちゃうのは、勿体無いわね」
 フェンリエッタ(ib0018)の質問に、空尊は静かに頷いた。彼が呟いた言葉は、泰国の詩人が書いた詩の一節。2人共、博識なようだ。
「桜の花は、散るからこそ美しいわ。でも…アヤカシに散らされるのは、面白くないわね」
 ユリア・ヴァル(ia9996)の言うように、散る桜の美しさは誰もが認めている。それがアヤカシの都合で散らされていたら、誰でも不快感を持つに違い無い。
「なら、協力して擬態した敵を見付け出して…全力で斬り倒す」
 表情を一切変えず、何の迷いも無く言い放つ碕(ic0572)。剣に伸ばした手に、力が入っている。
「碕殿、早まるな。アヤカシを倒すのは、柊沢殿やフェンリエッタ殿の役目。出来る事なら…斬り倒さないで済ませたいし、な」
 アヤカシは見過ごせないが、桜を斬り倒さずに済むなら、それに越したことはない。宮坂 玄人(ib9942)だけでなく、参加者の大半はそう思っているのだ。
 玄人の言葉に、碕は軽く小首を傾げる。わざわざ手間のかかる事をするのを不思議に思いつつも、静かに頷いた。
 歩みを進める開拓者達の視界に、横たわる一般人の姿が飛び込んで来る。依頼の情報通り、公園の中央に被害が集中しているようだ。
「瘴気が溢れていますね…出来るだけ、肌や髪の露出は控えた方が良いかと思います…」
 柊沢 霞澄(ia0067)の言う通り、瘴気が溢れて空気中の濃度は濃い。眠りの力を持つ花弁の付着を防ぐため、地肌を出さない方が良いだろう。
 数人が防護の準備を進める中、鹿島 綾(ic0145)は風の向きに注目している。
「それに、風下に入るのは拙そうね。探索も退治も、風上から行動する方が良いかもしれないわ」
 風下に居たら、飛んでくる花弁を避けるのは難しい。可能な限り、風上から近付いた方が良いだろう。綾に倣い、他の開拓者達も風向きを確認するように頭上を見上げた。
 そんな中、木葉 咲姫(ib9675)だけは俯いて悲しそうな表情を浮べている。
(桜の下で眠る……永遠に、眠れるのでしょうか…? この想いを忘れられるなら…いっその事、私も…)
 彼女を縛るのは、過去の記憶。それを仲間達に悟られないよう、咲姫は気丈に振る舞おうとしている。咲姫の異変に気付いているのは、空尊だけだろう。

●燃えて、散って
「じゃあ、早速運びますかね。僕らはコッチなんで、別の方よろしくお願いします」
 眠っている男性2人を肩に担ぎながら、宗司は仲間達に声を掛ける。効率的に公園内を探索するため、ここから3つの班に別れて行動する作戦なのだ。
「要救助者の分布を調べれば、アヤカシの位置や行動範囲を割り出せるハズです。お互い、注意して参りましょう」
 そう言って、遼子は女性を背負った。万が一にも落とさないよう、縄で体を固定しているが…どこから縄を出したのか、謎である。
 玄人が男性を担ぎ上げ、霞澄が少女を抱き上げると、4人は公園の入り口に向かって道を戻り始めた。先ずは瘴気の薄い安全な場所まで移動させ、そこで目を覚まさせるために。
 空尊と咲姫は、一般人とアヤカシを捜すために北東の方向に進んで行く。残った4人は、ユリアとフェンリエッタの先導で西の方向に歩みを進めた。
 別れて行動してから、数分。一番最初に何かを見付けたのは、ユリア達だった。瘴気の気配が強い地点に、数人の一般人が倒れている。綾は足早に駆け寄り体を揺すってみたが、目を覚ます様子は全く無い。
「本当に、何をしても起きないのね。昏睡に近いのかしら? 何にせよ、早く退治しないといけないわね」
 溜息混じりに言葉を漏らす綾。その隣で、ユリアの体が一瞬微光を放った。結界と共に感覚が広がり、アヤカシの居場所を探っていく。
「あの木とか、怪しいわね。碕、ちょっと確認して貰えるかしら?」
 ユリアが指差したのは、周囲で一番太い桜の木。彼女の言葉に、碕は静かに頷いた。碕の実力を信用していなければ、こんな事は頼まなかっただろう。
 そっと手を伸ばし、碕は巨木の桜花に触れた。指先から不快感が伝わり、眠気となって全身を駆け抜けていく。
「この花…綺麗だけど、嫌な感じ」
 それでも、碕の言動は変わらない。一見すると平気そうだが、実際は布団に入ったら5秒で眠れそうな睡魔に襲われていたりする。
 次の瞬間、周囲の桜から瘴気が漏れ出した。突然の事に、4人は背中合わせになるように1ヶ所に固まる。フェンリエッタは目を閉じ、意識を周囲に広げるように集中した。
「どうやら…罠にハマってしまったみたいですね。この辺り一帯の桜から、瘴気の反応が強まっています」
 彼女の感じた気配は、1つや2つではない。約5m以内にある桜全てから、瘴気の反応が出ている。
「あら、好都合じゃない。綺麗な花には棘があるって事、たっぷりと教えてあげないとね」
 不敵な笑みを浮かべながら、ユリアは扇を広げる。同様に、フェンリエッタも扇を広げた。
 そこから始まったのは、華麗な舞踏。舞い踊るように動きながら、フェンリエッタは清浄な炎を生み出す。それが桜の木を次々に飲み込み、木の内部のアヤカシだけを燃やした。
 ユリアは瘴気の気配を確認しながら、倒し切れていないアヤカシの周囲に歪みを生み出す。圧倒的な衝撃が発生し、敵に止めを刺した。
 その間、綾と碕は一般人を移動させている。が、運悪く強風が吹き、瘴気を含んだ桜花が舞い散った。
 反射的に、綾は長剣を薙いで風圧と斬撃で花を吹き飛ばす。仲間や一般人に降りかかる花弁は、盾で薙ぎ払った。
「舞い散る花弁は任せて。アヤカシを倒すまでは、全て払い落してみせる…!」
 力強く叫び、綾は剣と盾を構え直す。騎士らしい兵装が、桜花を次々に排除していく。仲間達が自由に動けるように、碕も一般人の避難を急いだ。
「……消えなさい。どこにも、お前の居場所などは無いのだから」
 範囲内で最後に残ったアヤカシに向かって、フェンリエッタが炎を舞わせる。燃え上がる炎は、彼女の怒りを表しているようだ。それが消えた時、瘴気の気配も消えていた。
 フェンリエッタ達がアヤカシを浄化したのと、ほぼ同時刻。霞澄達は、公園の入り口に一般人を下ろしていた。
「ここまで来れば安全ですよね…眠った方々は、私が責任を持って解術します……」
 周囲の安全を確認し、印を結ぶ霞澄。全身が淡い藍色の光に包まれると、少女の頬に軽く触れた。優しい光がアヤカシの力を中和し、小女を眠りから覚まさせる。
「こっちは頼んだ。その間に、俺達は探索を進めておく」
 玄人の言葉に、霞澄は静かに頷いた。玄人を先頭に、宗司と遼子はアヤカシと一般人を探すために再び公園に戻って行く。敵を倒すのは、霞澄が解術を終えて合流してからになるだろう。
 北東に向かった空尊と咲姫は、眠っている一般人を一か所に集めていた。効率を考え、仲間達を呼んで同時に避難させるつもりなのだろう。
 空尊は眠っている男性の首筋に触れ、脈を確認。異常が無い事が分かると、毛布を広げた。
「…せめて、夢の中では楽しき時間を」
 眠る女性の頬に軽く触れた後、咲姫は空尊を手伝うように毛布を掴む。それを一般人達に掛けると、2人は桜の木に近寄った。
「傷つけるのは、本望では無い…が、これも已む無し…」
 静かに呟き、空尊は剣を奔らせる。咲姫が瘴気を感じた木に小さな傷を付け、瘴気が流出するか確認しているのだ。結果、傷付けた全ての木から瘴気が漏れ出している。目印になるよう、空尊は大き目の短冊を枝から吊るした。
 その間、咲姫はずっと俯いている。どうやら、意図的に桜から視線を外しているようだ。
 彼女に何があったのかは分からないが、辛そうにしてるのは紛れも無い事実。空尊は自身の外套を脱ぎ、咲姫の頭から被せた。
「ぬしの苦しむ顔は、見たくはない……だが…我の知らぬ所で苦しむのは…耐えられぬ…」
 彼女の視界に桜が入らないよう、膝を付いて語り掛ける。咲姫の視線は迷うように動いていたが、意を決して空尊と向き合った。
「貴方は……私の全てを知ってもなお、受け止めて下さる覚悟は御座いますか?」
 胸の内に秘めていた想いを、ゆっくりと吐き出す。『これ以上近付けば、互いの関係が崩れてしまう』…そんな想いが、彼女の中で渦を巻いていた。
 ゆっくりと目を閉じ、空尊は思案を巡らせる。目を開けて呟いた言葉は、咲姫と桜の木だけが聞いていた。
 桜並木を、足早に駆ける霞澄。一般人への処置は終わり、仲間と合流するために移動しているのだ。宗司達の姿を発見し、急いで駆け寄る。
「お待たせして、申し訳ありません…私は、どの木を浄化すれば良いのでしょう…?」
「大丈夫…ですか? アヤカシの潜んでる木には目印を付けたんで、後はお願い致します」
 霞澄の体調を気遣いつつ、状況を簡単に説明する宗司。彼の言う通り、数本の木には短冊のような札が下げられていた。
 宗司の言葉に、霞澄は微笑みを返す。兵装を握って精霊に干渉すると、自身の周囲に清浄な炎が出現。それを撃ち、アヤカシを燃え上がらせた。
「本当は桜に憑依したアヤカシをこの手で倒したいところだけど……歯痒いな」
 桜は、玄人の一番好きな花。それを汚されて、平気なワケが無い。だが…感情に流されて桜を傷付けては、本末転倒。拳を強く握り、悔しさに耐える。
「心中、お察し致します。ですが、私達にも与えられた『役割』があります。お互い、頑張りましょう」
 玄人を慰めるように、遼子は優しく声を掛けた。次の瞬間、彼女は両脚に気を収束させて一気に駆け出す。
 遼子の向かった先には、数人の一般人が横たわっていた。大量の桜花が、その人達に舞い落ちようとしている。遼子は身を挺し、庇うように覆い被さった。花弁が体に付着し、徐々に彼女を蝕んでいく。
 舌打ちしながら、玄人は地面を蹴った。走りながら兵装に精霊力を纏わせると、透き通った瑠璃色の光が刀身を包む。瘴気を放つ桜に狙いを定め、全力で刀を振り下ろした。
 兵装の刀身を接触させず、実体の無い精霊力の刃による斬撃。彼女の想いを込めた一撃が、桜の中のアヤカシを斬り裂いて消滅させた。

●勝利の宴
 作業を始めてから数時間後。開拓者達は一旦合流し、互いの状況を報告し合った。公園の中は隅々まで確認したが、瘴気の気配はもう無い。アヤカシの全滅を示すように、眠っていた一般人が突然目を覚ました。
「どう? 気分が悪くなったりしていないかしら。何か不調を感じたら、遠慮なく言って頂戴」
 綾は優しく語り掛け、状況を簡単に説明する。目覚めたばかりで頭が回らないのか、一般人はボ〜ッとしているが。
「何とかなりましたね。じゃあ…軽く飲んでから帰りますか。何せ、こんなに桜が見事ですし」
 微笑む宗司の視線の先で、桜が満開の花を咲かせていた。原因は分からないが、瘴気が祓われた事で一気に開花。花見をするのに、絶好の状況になっている。
「お花見、ですか…どうしましょう…花見の準備なんて、してないです……」
 大風呂敷に包まれた荷物を木陰から取り出し、霞澄は楽しそうに荷解きを始めた。いつの間に隠していたのか分からないが、ツッコんだら負けである。
「柊沢様。不躾な質問で申し訳ありませんが、その荷物は一体何でしょうか?」
 言いながら、大きなゴザを広げる遼子。このサイズなら、10人は余裕で座れるだろう。どこから取り出したのか、一切謎に包まれているが。
 霞澄は遼子の質問に答える変わりに、荷物の中身をゴザの上に広げた。重箱に入った花見弁当が、所狭しと並ぶ。団子や大福等の甘味もあり、抜かりは無い。
「へぇ〜、これ全部アンタが作ったのか? 準備万端ってヤツだな」
 豪華な花見弁当に、玄人が感嘆の声を上げる。一般人は全て救出し、アヤカシは全滅。花見のご褒美があっても、罰は当たらないだろう。
「花に興味は無いけど…ご飯があるなら、付き合っても良い」
 碕はゴザに乗り、弁当の前に腰を下ろす。他の開拓者達も座る中、遼子は全員分の取り皿と箸を手渡した。自称『謎メイド』と言うだけの事はあり、気遣いと手際の良さは見事である。
 仲間達が盛り上がる中、空尊は軽く溜息を吐いた。
「…悪いが、我は夜桜の方が好みなのでな…此度は、遠慮させて貰うぞ…」
 予想外の発言に、周囲から若干不満の声が上がる。それを気にする事無く、空尊は一瞬だけ視線を咲姫に送った。
「でしたら…私と一緒にギルドへ報告に行きませんか? その方もお送りした方が良いと思いますし…」
 彼の意図を理解したのか、咲姫は一般人の護衛と依頼報告を申し出る。桜が苦手な彼女を退避させるため、空尊はワザとさっきのような言動をとったのだろう。
 一般人を連れ、公園を後にする2人。その背を見送った後、残った8人は乾杯を交わした。酒好きのユリアと宗司は、早速酒を注ぎ合っている。他のメンバーは料理を楽しみつつ、お茶で喉を潤した。甘党の綾は、甘味の折詰を独占状態である。
「やっぱり、儚く舞う桜は綺麗よね。でも…舞い踊る人間の美しさに敵うかしら?」
 酒が入って気分が高揚したのか、桜の下で扇を広げて舞い踊るユリア。儚く、美しく、心を響かせるような、幻想的な舞踏。その光景は、見る者を魅了して止まない。舞い終わると、拍手が雨のように降り注いだ。
 皆が盛り上がる中、フェンリエッタはそっと席を外す。公園の奥まで進み、自身がアヤカシを浄化した木に手を伸ばした。
「ごめんね、苦しかったでしょう。でも…もう大丈夫」
 語り掛けながら、そっと頬を寄せる。アヤカシのせいで、桜の寿命が縮んでいないか心配なのだろう。根本に腰を下ろし、そっと竪琴に手を伸ばす。演奏しながら歌ったのは、春の喜び。桜に効果があるかは不明だが…声は、音楽は、きっと届いているだろう。