領域と境界
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/27 23:38



■オープニング本文

 それは、異様な光景だった。
 アヤカシといえば、人々を襲い、恐怖を煽り、命を奪う存在である。被害に遭った者は数知れず、一般人にとっては『恐怖と理不尽の象徴』と言っても過言ではない。
 だが…とある村に現れた2体のアヤカシは、人々を襲う事無く睨み合っている。周囲には村人達が居るのに、見向きもせず。悲鳴を上げて逃げ回る人々を、追おうともしない。
 遠巻きに、2匹の様子を伺う村人達。アヤカシは、互いに圧倒的な殺意を向けていた。
 1匹は、人型の青い狼。2m程度の身長で、額に角が1本。燃えるような赤い瞳が、怒りを宿している。
 もう1匹は、岩の巨人。紫色の岩肌に、筋骨隆々の体躯。表情は変わらないが、3mを超す巨体の威圧感は尋常ではない。
 狼は低い唸り声を上げると、腕に力を込めて地面を薙いだ。爪が大地を浅く抉り、横一直線の跡を残す。その線の内側と外側を交互に指差し、雄叫びを上げた。
 まるで『この線から内側に入るな!』と主張しているように見える。
 狼の言葉を理解したのか、巨人は拳を突き合わせて両手を開いた。全身を震わせながら、荒い鼻息を噴き出す。言葉を発しなくても伝わる、明らかな怒り。
 恐らく『貴様の戯言など、聞く耳持たん!』と言っているのだろう。
 線を挟んで向かい合い、周囲や地面を指す2匹。言葉は分からないが、激しい口論を交わしているようだ。
 この状況…人間で言うトコロの『縄張り争い』に似ている。
 周囲が見えないくらいに白熱した議論に、領域の主張。互いに妥協せず、殺伐としていく雰囲気。この先どうなるのか…想像するのは容易いだろう。
 睨み合っていた2匹が、後方に跳び退いて距離をとった。話し合いで解決しないのなら、実力行使……単純明快極まりない結論である。
 問題は、アヤカシが戦っているのが『畑のド真ん中』という事。村人が住んでいる場所から数km離れているが、家屋に被害が及ぶのは時間の問題だろう。加えて、勝利したアヤカシはこの村を縄張りにし、人々を襲うのは火を見るよりも明らかである。
 つまり…2体の戦いが長くても短くても、村人達が犠牲になるのは変わらない。この状況を救えるのは、開拓者だけだろう。


■参加者一覧
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
鬼嗚姫(ib9920
18歳・女・サ
カルミア・アーク(ic0178
24歳・女・騎
スフィル(ic0198
12歳・女・シ
多由羅(ic0271
20歳・女・サ
エリス・サルヴァドーリ(ic0334
18歳・女・騎
ガラード ソーズマン(ic0347
20歳・男・騎
ジャン=バティスト(ic0356
34歳・男・巫
山中うずら(ic0385
15歳・女・志


■リプレイ本文

●縄張り争いの犠牲
 長閑な村に響く、尋常ではない騒音と振動。時折、獣の叫び声も混ざっている。原因は分かっているが…村人達では解決できず、震えて待つ事しか出来なかった。
 自分達を、畑を、村を救ってくれる、開拓者達の到着を。
「派手に暴れてんな〜。迷惑な敵は、必ず斬り倒す!」
 畑で暴れるアヤカシ達を眺めながら、山中うずら(ic0385)は拳を強く握った。銀色の瞳は、倒すべき敵の品定めをしているのかもしれない。
「彼らに悪意は無いのでしょうが…『悪意の無い害』ほど、有害な物もございません。尤も…それは、アヤカシに限った話ではありませんが」
 エリス・サルヴァドーリ(ic0334)の言う通り、害を為すのはアヤカシだけではないだろう。それを語る彼女の表情は、哀愁が漂っているように見える。
「このまま共倒れになってくれれば有難いですが…村への被害は最小限に抑えたいですし…迷っている時間は無さそうですね」
 軽く苦笑いを浮かべながら、独り呟く菊池 志郎(ia5584)。迷えば、それだけ被害が広がってしまう。今は、考えるよりも行動した方が良いだろう。
「『強力な敵でも倒す』、『村や畑は守る』、両方やらなければならないのが、開拓者の辛いところですね。覚悟はいいですか? 私は出来てます」
 多由羅(ic0271)の目には、一切の迷いが無い。その潔いまでの覚悟には、気高さすら感じる。彼女の言葉に、他の開拓者達は静かに頷いた。
 今回、事件解決に赴いた開拓者は10人。畑に繋がる畦道を歩きながら、アヤカシとの距離を縮めていく。
「畑が壊れちゃうわ……悪い子…。さあ…此方へ、おいで…」
 抑揚の無い話し方をする鬼嗚姫(ib9920)が、甲高い雄叫びを上げた。その声が大地を震わせ、巨人の注意を引く。
「世の為、人の為! アヤカシの野望を打ち砕く、ガラード ソーズマン! 民の平穏を取り戻す事を、この剣に誓いましょう! ワッハッハッハッハ!!」
 更に注意を引くため、高らかに名乗りを上げるガラード ソーズマン(ic0347)。長剣を握りながら宣誓する姿は、似合い過ぎていて非の打ち所が無い。
「アンタ等が踏み荒らしてる畑は、此処に生きる人々の糧なんだ! さっさとお暇願うよ!」
 吼えるように、カルミア・アーク(ic0178)も叫ぶ。アヤカシ達が勝手に縄張りを主張し、畑で争っているのが我慢ならないのだろう。
 開拓者達の存在を認識し、巨人の注意が完全に彼等に向く。狼との戦いを中断し、ゆっくりと大地を踏みしめながら、開拓者達に接近を始めた。
 それを後目に、狼は瘴気を放出して一気に加速。開拓者達の背後に回り込み、一気に爪を振り下ろした。
 直後、固い金属音と共に火花が舞い散る。不意討ちの爪撃は、竜哉(ia8037)の盾が完全に受け止めた。
「そんじゃま…かるーく行こうか。気負い過ぎて失敗したら、洒落にもならない」
 不敵な笑みを浮かべながら、盾で爪を弾き飛ばす。
 体勢が崩れた隙を狙い、ナジュム(ic0198)は棒手裏剣を投げ放った。それが狼の背に突き刺さり、瘴気が漏れ出す。
「さあ…こっちなんだよ…こ、これ以上は…あ、荒らさせない…!」
 オドオド話しながらも、敵を挑発するナジュム。彼と竜哉が北に走り出すと、アヤカシは雄叫びを上げながら追走を始めた。ほぼ同時に、ガラードとうずらも駆け出す。
「狼は私達が引き受ける。エリス、巨人の方は任せた…!」
 言うが早いか、ジャン=バティスト(ic0356)も走り出した。エリスは静かに頷きながら、視線を巨人に向ける。残った5人も、巨人を西に誘導するために移動を始めた。

●青い狼退治
 狼との追い駆けっこが始まってから数分。村からは大分離れ、野原のような場所へと行き着いた。
「これだけ離せば充分かな? ナジュム、盛大にブン殴ろうぜ」
「了解…前衛は、頼んだよ?」
 軽く視線を合わせ、脚を止める2人。兵装を構えるのと同時に、狼が爪を薙ぎながら襲い掛かってきた。
 ナジュムは身を屈めて回避したが、金色の髪が数本ちぎれて宙に舞う。
 後方に跳び退いた竜哉は、着地と同時に魔槍砲を薙いだ。。穂先の鋭い鎌が敵の脚を斬り裂き、瘴気が漏れ出す。
 周囲に可燃物が無い事を確認し、ナジュムが炎を生み出した。それが狼の両脚を飲み込み、激しく燃え上がる。更に、自身の周囲に幻影の木の葉を舞わせ、相手を惑わせた。
「速さなら負けません! 疾風迅雷でいきます!」
 叫びながら一気に駆け寄り、間合を詰めるうずら。鞘から刃を素早く抜き、高速の斬撃を叩き込んだ。そのまま、何事も無かったように刀を鞘に戻す。
 彼女同様、ガラードも全力疾走から剣を薙いだ。力強い一撃だが、狼はバク転の要領で後方に跳び退く。直撃しなかったが、斬撃が狼の脚に赤い線を描いた。
「援護する。前は頼んだ」
 敵の機動力を制限するため、ジャンは重々しい神楽を舞う。周囲の精霊達が狼に作用し、動きを妨げた。
 自身の挙動が重くなった事に腹を立て、狼が怒りの咆哮を上げる。瘴気を両手の爪に集め、地面を蹴ってうずらとガラードに腕を振り下ろした。
 咄嗟に、ガラードは剣を構えて防御姿勢を固める。爪撃を受け止めて力の方向を変え、軌道を逸らした。が、完全に無効化する事が出来ず、うずらの腕とガラードの胸が浅く裂ける。
「そこは私の刃圏…入れば斬られるという事だ!」
 次の瞬間、鮮血を散らしながら剣閃が奔った。うずらの反撃が、狼の脇腹を深々と斬り裂く。瘴気が溢れる中、兵装を鞘に戻して再び抜刀。腕の出血を気にせず、全力で振り抜いた。
「敵の速さ、厄介ですな! その脚、止めさせて頂く…とあーっ!!」
 うずらの攻撃で動きが止まった隙に、ガラードが全力で飛び掛かる。右脚を狙って剣を突き出したが、それはフェイント。敵が防御を固めた瞬間、無防備な左脚に剣を突き刺した。
「ガラード、避けて…! 僕も、攻撃する!」
 ナジュムの声に反応し、ガラードは後方に跳び退く。ほぼ同時に、炎が狼を飲み込んで全身を焦がした。
「村人の怒り、悔しさ、悲しみ…この場で晴らさせて貰う」
 静かに言い放ち、竜哉は魔槍砲に精霊力を込めて引金を引いた。放たれた弾丸が、狼の角を粉砕。飛び散る破片が塩と化し、地面に落ちた。
 間髪入れず、ジャンは扇で狼を指す。敵の体が周囲の空間ごと歪んで捻じれ、圧倒的な衝撃が全身を駆け巡った。
 全身の傷口から瘴気を漏らしながらも、狼の戦意は衰えていない。開拓者達をかく乱するように高速移動を繰り返し、死角から牙を剥いてジャンに飛び掛かった。
 その動きを捉えていたナジュムが、狼の両脚を狙って棒手裏剣を投げ放つ。太い釘のような投擲武器が、敵を貫通して出鼻を挫いた。
 ナジュムの攻撃で敵の接近に気付いたジャンは、鉄扇を握り直して全力で振った。渾身の殴打が狼の頬に炸裂し、バランスが大きく崩れる。
 一瞬の隙を突き、竜哉は体勢を低くして敵に突撃。下段から腹を狙い、跳ね上げるように上空に弾き飛ばした。
「むっ! 今こそ、千載一遇の好機! うずら殿、共に参りましょうぞ!」
 ガラードの言葉に、うずらが静かに頷く。2人は落下地点に先回りし、兵装を構えた。
 タイミングを合わせ、うずらが居合で斜めに斬り上げる。次いで、ガラードは流れるような斬撃を斜めに振り下ろした。2人の剣閃が交差し、狼を斬断。瘴気を撒き散らしながら、骸が地面に転がった。
「…お前達が何をしようと関係無いが、俺達『人間』をナメるな。忘れるな、人間の弱さと…強さを」
 瘴気と化していく狼を見下ろしながら、冷たい視線を向ける竜哉。アヤカシの頭部を踏み潰すと、一瞬で瘴気に還って空気に溶けていった。

●砕け、紫の岩巨人
 ほぼ同時刻。志郎、鬼嗚姫、カルミア、多由羅、エリスの5人も、アヤカシを誘き出して移動していた。
「そろそろ頃合いですね…彼の土地を踏み荒らした咎、その身でもって贖って頂きましょう」
 周囲の状況を確認し、脚を止めるエリス。同意するように、他の4人も身構えた。
「弱いところ…弱いところ…。固い物には、弱いところ……兄様が、言っていたわ…」
 呟きながら、岩巨人の全身を凝視する鬼嗚姫。兄の言葉を思い出し、狙う箇所を探っているのだろう。
 そんな彼女の隣から、多由羅が一足飛びに敵に接近。上段から太刀を振り下ろし、右膝に叩き込んだ。脆い関節へのダメージで、周囲に亀裂が走る。
 『弱い所』の意味を理解したのか、鬼嗚姫は地面を蹴って駆け出した。大きく踏み込みながら鎌を薙ぎ、鎌刃を敵の左膝に突き刺す。
 間髪入れず、同様に左膝を狙って槍を突き出すエリス。穂先が岩肌を割り、亀裂から瘴気が立ち昇った。
「志郎、アンタは前に出ず援護を頼むよ!」
「了解です。下手に近付いたら、皆さんの邪魔をしそうですし」
 軽く言葉を交わし、一気に駆け出すカルミア。敵の背面に回り込み、渾身の力を込めて剣を振り下ろした。固い音と共に火花が散り、岩肌が裂ける。
 志郎が印を結んで術を発動させると、水の刃が2本出現。それが高圧で放たれ、敵の両肩を貫通した。
 手傷を負いながらも、巨人は右の拳を強く握り、牛が歩くようにゆっくりと振り上げる。
 直後。高速の拳撃が地面を打つ。想像を絶する速度に、誰もが不意を突かれた。大地から震動が伝わり、前衛4人の体を駆け抜ける。咄嗟に、彼女達は後方に跳び退いた。
「くっ…攻撃の緩急が激し過ぎますね。ここは、一気呵成に攻め立てましょう!」
 軽く苦笑いを浮かべながら、刀を握り直す多由羅。敵の動作が特殊過ぎて、攻撃のタイミングが掴めない。出掛かりを潰そうとしても、力で押し切られてしまうだろう。
「賛成です。相手の攻撃を止められないのなら、多少のリスクを負ってでも攻めた方が被害は少ないと思いますので」
 言いながら、エリスは敵の背面に回り込む。体勢を低くして急接近し、突き上げるような一撃を叩き込んだ。衝撃で、敵の体が大きく揺らぐ。
 その隙を狙い、巨人の両脇から多由羅と鬼嗚姫が接近。兵装を素早く薙ぎ、敵を斬り裂いて駆け抜けた。
「攻めるのは良いですが…無理しないで下さいね?」
 言葉と共に、志郎は爽やかな風を吹かせる。それが鬼嗚姫とカルミアを優しく包み、2人の負傷を癒した。
 簡単に礼を述べ、カルミアは敵の懐に飛び込む。零距離から斬撃を放ち、岩肌に亀裂を走らせた。
 再び、巨人は右の拳を振り上げる。攻撃に備え、前衛達は敵との距離を離した。
 が、カルミアだけは後退しようとしない。彼女が自分に課した役目は『護る事』。それを果たすため、彼女は動かないのだろう。
 仲間達が声を掛けるより早く、巨人は片脚を大きく引いた。互いの体が若干離れた隙に、高速の拳撃を繰り出す。狙いは、無論カルミア。
「多少の無茶は、承知の上! 俺が止めてる間に潰せ!!」
 吼えるように叫びながら、カルミアは盾を構えた。圧倒的な衝撃に耐え、敵の腕が伸び切った瞬間を狙い、腕に飛び乗って駆け上がる。そのまま剣を逆手に持ち、巨人の右肩に突き刺した。切先が岩肌を貫通し、巨人が悲鳴に似た雄叫びを上げる。
「カルミア様…貴女の覚悟、無駄にはしません!」
 太刀を握り、多由羅が疾走する。敵の膝と左肩を蹴って跳び上がると、落下しながら刀を振り下ろした。水色の軌跡を残しながら、多由羅の斬撃が敵の左腕を斬り落とす。
 溢れる瘴気を振り払うように、志郎の水刃が乱れ舞った。それが敵の首を両側から貫通し、風穴を穿つ。
「きお…精一杯、頑張るわね…」
 小さく手を握り、鬼嗚姫が駆け出す。ほぼ同時に、エリスも地面を蹴った。呼吸を合わせ、敵の胴を目掛けて兵装を突き出す。強烈な槍撃が巨体を貫通し、鋭い鎌撃が傷口を広げた。そこから、亀裂が全身に広がっていく。数秒後、巨人は瘴気と共に砕け散った。

●整地と修復
「もう大丈夫! また困った事があれば何なりと、ですぞ! ワッハッハッハッハー!」
 村中に響く、ガラードの豪快な笑い声。アヤカシを倒した両班は、報告のために村に戻って来たのだ。開拓者達に、感謝と賛辞が降り注いでいる。
「まぁ、『主無き騎士は万人の為の剣』ってね…」
 自身の懐中時計に視線を向け、軽く微笑むカルミア。恐らく、彼女にとっては『想いが込められた品』なのだろう。
「村に負傷した方は居ますか? 俺とバティストさんで治療しますから、遠慮無く言って下さい」
 仲間の負傷は既に治したが、村人達が怪我をしている可能性は否定出来ない。お人好しの志郎らしい、優しい気遣いである。
「私で良ければ、尽力しよう。それと…可能ならば、畑を直す手伝いをさせて貰えないだろうか?」
 ジャンの言葉に、村人達から驚愕の声が上がった。今回の依頼内容はアヤカシの撃破であり、畑の手伝いは含まれていない。そこまで働かせて良いのか、迷っているようだ。
「俺達は農業に関しては素人だけど、これだけの人手があれば、少しは助けになるだろう?」
 微笑みながら、優しく語り掛ける竜哉。既に腕を捲っていて、ヤル気満々である。
「は…畑が、つ、使えなくなったら、生活…が、大変、だから……し、修繕、手伝う」
 普段は会話の輪に入らないナジュムだが、勇気を出して声を上げた。それだけ、村の事が心配なのだろう。
「やれやれ…皆様、相当の御人好しのようですね。仕方ありません、これも鍛錬。私も手伝いましょう」
 微笑む表情の裏で、多由羅の視線は竜哉と志郎に向いていた。2人の実力と腕前は、先の戦闘で分かっている。自分の未熟さを思い知らされつつ、彼等と行動する事で強さに近付きたいのかもしれない。
「畑の方は、みんなに任せる。私は、薪割りでもさせて貰うよ。剣術の稽古になると思うし」
 そう言って、うずらは兵装に手を伸ばす。村人に薪置場の場所を聞くと、道案内を頼んで数人で歩いて行った。
 こうなっては、畑仕事を遠慮する理由は無い。村人達は深々と頭を下げ、開拓者達の協力に感謝の意を示した。
「ガラード、貴殿も一緒に……行けそうにありませんね」
 エリスはガラードに視線を向けたが、言葉に一瞬詰まる。村の子供達が、ガラードと楽しそうに遊んでいたからだ。この状況で彼を連れ出すのは、無粋極まりない。彼を残し、開拓者達8人は村人と共に畑に向かった。
 2体のアヤカシが踏み荒らした畑は、相当酷い状況になっている。村人の指示に従い、開拓者達は修繕作業を始めた。周囲の柵を立て直し、肥料を撒いて耕し、土を盛って畝を形成していく。
「きお…畑仕事は、初めてだけど…これで、良いのかしら…?」
 土で頬を汚しながらも、淡々と問い掛ける鬼嗚姫。村人がワシャワシャと彼女の頭を撫でると、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。