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■オープニング本文 天儀歴1013年、冬。雪が降るのは毎年の事だが、今年は大雪に見舞われていた。吹雪も多く、今年の積雪は昨年の倍近い。 「吹雪は止んだけど…凄い雪だな、コレ」 防寒対策をした男性が、苦笑いを浮かべながら周囲を見渡す。視界を埋め尽くす、一面の銀世界。半分以上埋まっている家屋もあり、雪掻きに苦労しそうだ。 「雪も問題ですが、祭りの準備はどうしましょう?」 腕を組みながら、眼鏡の青年が小首を傾げる。この村では、毎年3月に祭りを行っていた。櫓を高く組み上げて火を点け、巨大な篝火にする…『周囲を照らす灯りが、未来に明るい道を示す』という意味を込めているらしい。 しかも、今年は開村100年に当たる、大切な年なのだ。通常は一基の櫓を、今年は10基組む予定だったのだが…この雪では、村人総出で作業をしても厳しいだろう。 「人手、足りないよなぁ…」 「ですね。力持ちで、働き者。そんな人材、都合良く居ませんよね…」 白い息を吐きながら、空を見上げる2人。運搬作業や高所での作業が出来、祭りを盛り上げてくれそうな人材。そんな者は、一般人に居ないだろう。 だが…『一般人以外』なら、どうだろう? 『開拓者!』 顔を見合わせ、男性2人が同時に叫ぶ。身体能力の高い開拓者なら、一般人よりも早く作業が進むだろう。相棒が一緒なら、祭りが盛り上がるし一石二鳥である。 |
■参加者一覧
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
フィン・ファルスト(ib0979)
19歳・女・騎
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
呂宇子(ib9059)
18歳・女・陰
音羽屋 烏水(ib9423)
16歳・男・吟
紫ノ眼 恋(ic0281)
20歳・女・サ
ナザム・ティークリー(ic0378)
12歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●炎を待つ者達 『一面の銀世界…なかなか、風情があるもふね。良い句が浮かびそうもふ』 周囲を見渡し、もふらのいろは丸が独り呟く。彼の言う通り、村には大量の雪が積もっている。冬ならではの光景は、寒いながらも美しい。 「……ふむ。時間に余裕がありゃ、子供達と雪像でも作ってみるかのぅ。朋友達も居るんじゃし、『もでる』には困らんじゃろう」 ベベンと三味線を鳴らしながら、楽しそうに笑う音羽屋 烏水(ib9423)。確かに朋友は沢山居るが…大人しくモデルを引き受けてくれるかは別問題である。 楽しそうに遊ぶ村の子供達に混じり、雪と戯れる紫ノ眼 恋(ic0281)。自身に向けられた冷たい視線に気付くと、軽く咳払いをした。 「……寒冷地での行動制限と、寒さに慣れること。人助けでもあるが、これも修行だ。いや、決して雪にハシャいでいるわけではないぞ!?」 『…行動制限は兎も角、寒さは俺関係ないな。修行ってお前のか』 相棒のからくり、白銀丸の容赦無いツッコミ。核心を突かれたのか、恋は苦笑いを浮かべながら言葉を失った。 雪に対して前向きな恋やいろは丸とは対照的に、産まれたての子犬の如くガタガタ震えている者が1人。 「つーか、アイリス! どこが『あったか南の島で水着ウハウハ依頼』だ!? 寒さに『貧弱ひんじゃくゥ』なアラサーを殺す気か!!」 村雨 紫狼(ia9073)は歯をガタガタ鳴らしながら、不満を漏らす。どうやら寒さに弱いらしいが、ハイテンションっぷりはいつも通りである。 『だってぇ〜! マスターったら依頼のない日は毎日、こたつでゴロゴロしてるんだもん! たまには体動かさなきゃ、太っちゃうよ?』 彼の相棒、土偶ゴーレムのアイリスが、腕をブンブンと振りながら猛反論。それ以前に、自身の衣装が水着な事を紫狼に問い詰めるべきだと思うが…。 「だらしないですよ、志郎さん。この程度の寒さ、大した事無いじゃないですか」 相棒の鷲獅鳥、ヴァーユの背を撫でながら、フィン・ファルスト(ib0979)が声を掛ける。極寒のジルベリアで育った彼女にとって、この程度の寒さは許容範囲なのだろう。 フィンの言葉に同意するように、ヴァーユは静かに鳴き声を上げた。 その隣では、同じ鷲獅鳥の虹色が猛烈に不機嫌そうな表情を浮べている。今回の依頼内容が不服なのか、低く唸りながら。 「虹色……これは、大事なお仕事ですよ? それに、あなたは俺の朋友の中で一番力が強いから、頼りにしているんです」 説得するように、優しく語り掛ける菊池 志郎(ia5584)。落ち着いている彼とは違い、虹色はまだ非常に若い。自分の好みに合わない仕事を嫌がるのも、仕方の無い事だろう。 「お祭りが面白そうだから勢いで依頼を引き受けちゃったけど……力仕事は、得意な方ではなかったんだよね…僕って」 言いながら、ユウキ=アルセイフ(ib6332)は後頭部を掻く。黒猫の仮面で表情は見えないが、きっと苦笑いを浮かべているに違いない。 そんな彼を余所に、相棒の駿龍、カルマは、甲龍のナギと談笑している。 が、ナギは突然翼を広げると、山盛りの雪に向かって威嚇するような声を上げた。予想外の行動に、全員の視線が彼に集まる。 「はいはい、驚かないのー。せっかくのお祭りだもの、気合を入れて成功させましょ?」 呂宇子(ib9059)はナギに歩み寄り、落ち着かせるように首筋を優しく叩いた。彼女には、状況が分かったのだろう。『小心者のナギは、雪の塊を未知の生物と見間違えた』という事に。 「カトリーヌに雪を見せてやりたくてこんな所まで来たが…祭りの季節は、稼ぎ時でもあるんだよな。思わぬ臨時収入になりそうで有難ぇぜ」 不敵な笑みを浮かべながら、祭りに期待を寄せる喪越(ia1670)。屋台を出店したら儲かりそうだが…喪越が店番をしていたら、似合い過ぎるかもしれない。 彼の相棒、走龍の華取戌は、嘴で雪を払って氷をカジっている。口に合わなかったのか、即座に吐き出したが。 「俺は、ラクダ霊騎の有能さをたっぷり見せ付けてやるぜ! 大抵のラクダはアル=カマルから出ると体調崩すから、ほとんど見かけねーけど…」 ナザム・ティークリー(ic0378)の言う通り、天儀や泰国ではラクダの数が少ない。それでも彼の相棒が元気なのは、愛情を注いでいる証拠なのだろう。 ラクダの霊騎、ジャザウ・カスワーウは、ナザムの傍らで大人しくしている。が、物珍しいせいか、村人達の注目の的になっていた。 シャザウの他にも、もう1体。からす(ia6525)の相棒、鬼火玉の陽炎燈にも視線が集まっている。熱を発しているため温かい事もあるが、純粋に珍しいようだ。 「気になるなら、触ってみるといい。火傷しないし、ゴワゴワしているが、ほんのり暖かいぞ」 少年少女に向かって、優しく言葉を掛けるからす。子供達は無邪気な笑みを浮かべながら、陽炎燈に殺到した。 ●除雪のハジマリ 太陽が柔らかく照らす中、村人と開拓者、朋友達の作業が始まった。鋤やスコップで雪を掻き、ソリに乗せていく。人型の朋友はそれを手伝い、それ以外の朋友は爪や嘴で氷を砕いている。 「この雪…固めれば、櫓を造る土台とか、足場に出来ないかな?」 雪をソリに乗せながら、疑問を口にするフィン。全てを雪で作るのは無理が、部分的に使う事は可能だろう。早速、村人達は櫓の建設予定地に向かった。 開拓者達は、周囲の除雪を継続中である。無論、朋友達も一緒に作業をしているが……虹色は未だに納得していないのか、不満そうな雰囲気は変わりない。 「まだご機嫌斜めみたいですね…なら、依頼が終わったら『爪磨きも含めた羽のお手入れ』をしますから、協力してくれませんか?」 志郎の言葉に、虹色は鮮やかな翼をピンッと立てた。お年頃な彼女にとって、全身のお手入れは嬉しい事なのだろう。数秒前とは打って変わって、作業の速度を一気に上げた。 「カトリーヌ〜! 遊ぶのも良いけど、雪運びも頑張れよ! 俺が生暖かく見守ってるぜ!」 誰もが真面目に除雪をしている中、気の抜けるような声が周囲に響く。その主は、喪越。ここまで堂々とサボり宣言をされると、逆に清々しい。 「気が合うな、喪越。俺も同意見だ。っつ〜ワケで、頑張れアイリス! 俺が精一杯の声援を送ってやるぞ!」 更に、サボり魔がもう1人。紫狼は篝火に火を灯して暖を取り、その前から動こうとしない。2人共、村のチビッ子達に悪い影響を与えないと良いが。 『もう! 真面目に働かないなら、雪の中に埋めちゃうんだからっ!』 不満の言葉を叫びながらも、アイリスの手は止まらない。主と違って、真面目で頑張り屋さんなのだろう。 悪びれる様子も無くサボる2人を眺めながら、からすは軽く溜息を吐いた。 「陽炎燈、周囲の融雪を頼む。あぁ、家屋や樹木、埋もれた花壇等には注意してくれ。あそこでサボっている輩なら、多少は焼いても構わんが」 喪越と紫狼を指差しながら、相棒に指示を伝える。陽炎燈は静かに頷いて後方に一回転すると、全身に炎を纏った。 直後。鬼火玉の進路を塞ぐように、恋が腕を広げた。 「からす殿、陽炎燈殿、ちょっと待ってくれ……今から炎で雪を溶かす! 皆、巻き込まれないよう注意するのだぞ!」 大声を張り上げ、村人達に注意を促す。その声に従い、村人達は陽炎燈の進路を空けるように移動した。安全を確保したところで、陽炎燈は一気に突撃。炎の熱が雪を溶かし、地面を覗かせた。 突撃と共に少量の火の粉が散り、志郎と喪越に降り掛かって大騒ぎをしているが……見なかった事にしよう。 「…僕も焼かれないように、頑張らないとね。カルマ、氷の部分を溶かして貰えるかな?」 からすの言葉を気にしつつも、ユウキがカルマに問い掛ける。駿龍は翼を広げて息を吸うと、口から炎の球を吐き出した。それが氷の塊を直撃し、蒸発させる。 次いで、志郎は印を結んで術を発動させた。固まった雪や氷塊の周囲で炎が立ち上がり、一瞬で飲み込んで溶かしていく。朋友や開拓者が炎を生み出す度に、村人達から感嘆の声が上がった。 炎で溶かすだけでなく、ソリにも雪が大量に積まれていく。気付いた頃には、準備したソリの大半に雪の山が出来ていた。 「こんなモンかの。いろは丸、川に運ぶのはお主に任せるぞ?」 『仕方ないもふね。代わりに、美味しい料理を所望するもふよ』 交換条件が食事なのは、食いしん坊のもふららしい。烏水は縄でソリと相棒を繋ぐと、解けないようにキツく結んだ。 ユウキもソリに縄を結び、カルマとカトリーヌに1つずつ渡した。彼もソリを1つ引き、雪を捨てに行くようだ。 フィンはヴァーユにソリを1つ渡し、自身は両手に1つずつ引いている。虹色はソリの縄を1本咥え、運ぶ準備をしているようだ。 「あ、そうだ。ナギー、『強力』を使って力持ちになってくれる? 雪運びはお願いするわ」 荒縄でソリを連結していた呂宇子が、相棒に声を掛ける。ナギは軽く鳴くと、全身の練力を活性化させた。力強さが増した今なら、大量のソリを運べそうである。 一際大きなソリを引くのは、ジャザウ。相当な重量がありそうだが、荷物を運ぶのに慣れているラクダなら、これくらいは楽勝だろう。 残りのソリは、恋と白銀丸の担当だ。片手で2個ずつ引けば持って行けるが…白銀丸は不満の声を漏らしている。恋は『これも修行だ』の一言で片づけているが。 「川まで運ぶのは良いけどさ…誰か、場所知ってるのか?」 ナザムの質問に、開拓者達は無言で顔を見合わせる。互いに顔色を窺っているが、答えは無い。つまり、誰も目的地を知らないという事だ。 溜息を1つ吐き、ナザムは村人の元へ駆け出す。若い女性に道案内を頼むと、開拓者と朋友達は雪を捨てるために出発した。 志郎、からす、陽炎燈、アイリス、呂宇子、烏水は、除雪の続きである。 ●天まで届け 除雪が始まって数時間後。周囲の雪はほとんど片付き、準備は順調に進んでいた。 「そろそろ頃合いか。陽炎燈、私は料理の手伝いに行って来る。きみは、村人の指示を良く聞いて手伝いをするのだよ?」 からすは相棒に言い聞かせると、調理場の方に移動した。祭りで料理を出すためか、担当している村人達が忙しそうに走り回っている。その人達に指示を仰ぎ、からすは調理を始めた。 残された陽炎燈は、大人しく村人の指示に従っている。主に、暖房役として。 「ジャザウ、調子大丈夫…だよな? 無理すんなよ?」 ナザムの声に、首を縦に振って答えるシャザウ。さっきからず〜っとハナを垂らしているが、この寒さでは仕方の無い事だろう。それを綺麗に拭くと、2人は材木の運搬を始めた。 櫓10基分の材料となると、それなりの量が必要になる。ナザムとシャザウの他に、華取戌、いろは丸も手伝って、資材を運び出している。 組み建て方を教えるため、村人達の手で見本の1基が建てられた。それを参考に、開拓者達が作業に回る。 「まずは、足場を固めちゃいましょう。ナギ、その間に木材とか空から運んで。出来るよね?」 呂宇子の指示に従い、ナギは両脚で木材を掴んで飛び立った。そのまま、土台の基礎を固めた場所に運んでいく。呂宇子は村人と協力して木材を受け取り、櫓に組み込んだ。 「ふっふっふ…櫓だろうが、塔だろうが、『太陽のナントカ』ばりに芸術が爆発したモノをおっ建ててやるぜ!」 工作好きの喪越は、誰よりもヤル気を見せている。その方向性が、若干違った方向に暴走している気もするが。今は、倒壊が起きない事を祈るばかりである。 「やれやれ…慣れない事は、するもんじゃないね。みんなを見ていたら…『力仕事もやってみようかな』とか思ってしまったよ…」 頬を掻きながら、空いている自身の手を見詰めるユウキ。少々力仕事を頑張り過ぎたのか、血豆や縄の跡が痛々しく残っている。櫓は仲間達に任せ、ユウキも調理場に向かって料理の手伝いを始めた。 「くゥ〜〜! 凍えた肌に作業用の縄が食い込んで痛ェ! だがしかしッ! 真面目なボクちゃんは頑張るのさルンルン☆」 紫狼のドコが『真面目なボクちゃん』なのか問い質したいが、今はそれ処ではない。縄で木を固定するのも、倒れないように支えるのも、相当な力仕事である。紫狼が苦痛に顔を歪めながら愚痴を零すのも、当然かもしれない。 本来、櫓を組むには手間と時間がかかる。だが、力持ちの開拓者に加え、空から資材を運べる朋友も居る。地面で組んだ木材を、カルマとナギが運んでいく。まだ組んでいない木材は、虹色とヴァーユの担当だ。 櫓に上った志郎とフィンが、それを受け取る。 「みんな、ありがとう。大変だとは思いますが、最後まで頑張りましょうね」 自身の相棒も含めた朋友達に、笑顔で声を掛ける志郎。虹色達は小さく鳴いて答えると、木材を運ぶために再び翼を広げた。 『飛べるってなァ、便利で良いな。どっかの誰かに、『修業だから上れ』とか言われねェで済むし』 天を舞う朋友達を眺め、皮肉を込めて言葉を吐く白銀丸。恋に向かって不機嫌そうな視線を向けているが、当の本人は微塵も気にしていない様子である。 「ふむ……『空飛ぶ白銀丸』か、悪くないな。足すか、翼」 相棒が飛ぶ姿を妄想しながら、恋は不敵な笑みを浮かべた。その言葉をキレイに聞き流し、白銀丸は組み建てを進めていく。 次々に櫓が完成する中、突然の強風が村の中を吹き抜けた。風圧で櫓が倒れないよう、全員で協力して土台を支える。 問題は、櫓の上に居る者達だ。風を遮る物は無く、捕まる場所が少ない。何とかバランスを保とうとしているが、フィンの体が大きく揺らいで足場から転げ落ちた。 咄嗟に、ユウキと呂宇子はスキルで壁を造り出そうと手を伸ばす。その2人より早く、ヴァーユがフィンの元へ飛来し、嘴で服を咥えて落下を防いだ。 「…ありがとう、ヴァーユ。助かった、うわっ!?」 礼を言う間も無く、ヴァーユは首を振ってフィンを雪の中に放り投げる。表には出していなかったが、好きではない仕事でイライラしていたのだろう。それほど高くない位置から雪の中に落ちたため、フィンは傷1つ負っていないが。 「災難じゃったのう、フィン。立てるか? ほれ、手を貸すのじゃ」 苦笑いを浮かべながら、烏水が手を伸ばす。フィンはその手を掴んで立とうとしたが、烏水の足が滑ったのか、2人して雪の中に倒れ込んだ。雪塗れになりながら、雪山から顔を出すフィンと烏水。その様子に、周囲から笑い声が上がった。 ●燃え上がる炎 日が落ち、周囲が薄暗いヴェールに包まれる中、櫓に火が放たれた。村中央の一番大きな櫓には、フィンとナギが協力して松明を投げ入れる。赤々とした炎が一気に燃え上がり、村中を明るく照らした。 10基の炎と共に、村人達が歓声を上げる。ここからが、祭りの本番だ。外に設置されたテーブルに、様々な料理と飲み物が並んでいく。朋友用の食事も準備され、宴会の始まりである。 「祭りってぇのは、否が応にも盛り上がるもんだ。何故なら……漢(おとこ)の魂は、いつも萌え――違った。燃えているからに決まってるだろォッ!? こんな風に……ファイヤー!」 既に酔っているのか、喪越は口に酒を含み、手にした松明に向けて勢い良く噴き出す。炎が一気に燃え上がり、村人達から歓声が湧いた。 『祝宴に 上がる焔と 旬の味……烏水殿。そこの肉はそろそろ焼けたと思うもふよ』 句を口にしながらも、食べ物を要求するいろは丸。烏水が肉を差し出すと、満足そうにモフモフと喰い付いた。 「わーぉ。喪越は恰好も芸も派手だね。よーし…私も頑張っちゃいましょうか! 『天昇る龍』をお見せするわ!」 呂宇子は煙管を咥えながら、空に向かって符を投げ放った。それが龍の式と化し、天高く昇っていく。おめでたい演出も相まって、周囲は大盛り上がりだ。 「2人共、やるのぅ。なら、わしは一曲弾かせて貰うのじゃ!」 三味線を手に、椅子に腰掛けて演奏の準備を整える烏水。志郎とユウキは顔を見合わせると、静かに頷いた。 「なら、僕達も伴奏して良いかな? あなたの演奏には、遠く及ばないけど…」 横笛を手に、伴奏を申し出る2人。ユウキは仮面を外し、白地に薄水色の文様の単衣に衣装替え済みである。 烏水が笑顔で頷くと、3人は呼吸を合わせて演奏を始めた。周囲に響く音色に、村人の気分も高揚していく。誰ともなく歌い始め、櫓を囲むように踊り始めた。 「あ〜…そこのお姉さん。俺と一緒に踊らないか? ラクダの体温よりも情熱的なダンスを見せてやるぜ!」 女性好きのナザムは、不器用ながらも村娘に声を掛ける。が…成人女性を相手にしたのは失敗だった。年齢が離れ過ぎている事もあり、軽く断られてしまう。それでも諦めず、違う女性を探しているが。 「アイリスめ…後で『エロチックに全身フルメンテの刑』にしちゃるわ! ま〜、世話焼きなトコが可愛いんだけどなぁ」 酒を飲みながら、愚痴を口にする紫狼。相棒に騙されて依頼に参加したのだから、ある意味災難である。とは言え、自身の相棒には甘く、親馬鹿気味のようだ。 『え!? なになに、ボクのこと世界で一番カワイイってマスター! いやぁ〜〜テレちゃうなぁ♪』 盛大な聞き間違いを披露し、アイリスは独りで照れている。紫狼的には可愛いと思う反面、聴覚パーツのメンテを決意したのは、言うまでもない。 ご機嫌なアイリスとは対照的に、猛烈に不機嫌そうなヴァーユ。今回の依頼内容が、相当不満だったのだろう。フィンが小さな雪だるまを見せたが、見向きもしない。 「いや、あの、仕事に貴賤の差は……うう、ごめん、荷物引きとか苦手な作業させて悪かったから、これ食べて機嫌直して?」 謝罪の言葉を述べ、料理を持った皿を差し出す。それをチラッと見た後、ヴァーユはゆっくりと料理に喰い付いた。 彼女達のやり取りを見ていた子供達が、真似して朋友達に食べ物を差し出す。華取戌とナギ、カルマは、渡された肉を嬉しそうに平らげた。シャザウには野菜類と、タップリの飲料水が与えられている。 虹色、陽炎燈、白銀丸は、燃える櫓を見上げながら、感嘆の息を漏らした。闇夜の雪景色の中、赤々と燃える炎は美しい。白銀丸がお茶の入った湯呑を口に近付けた瞬間、『何か』が背後から突撃して来た。 「シ〜ロ〜! なぁに辛気臭い顔をしておる! 目隠しで投げナイフ芸するから、的を持って立つのだぁ〜!」 その正体は…完全に、完璧に、シッカリと酔っ払った恋。普段の凛とした雰囲気はドコへやら。顔を真っ赤にしてケラケラと笑いながら、まだ酒を飲もうとしている。 『やめろ馬鹿! てめぇ、酔ってんじゃねェか!』 怒鳴る白銀丸の言葉に、小首を傾げる恋。数秒間考えた後、彼女は何を思ったのか、小袖の帯を解き始めた。咄嗟に白銀丸が止めたが、彼が居なかったら色んな意味で『大惨事』になっていただろう。 「やれやれ…ハメを外し過ぎだな、紫ノ眼殿は。酔いに効く、特製薬草茶でも準備しておこうか」 自前のお茶を提供していたからすは、薬草を煎じて調合していく。効能が高い分、尋常ではなく苦いのだが…彼女がコレを飲んだらどんな反応をするか見物である。心なしか、からすは微笑んでいるようにも見える。 「やっぱり、お祭りは良いですね。心を潤してくれる。村の皆さんも、満足してくれると嬉しいな…」 志郎は一旦演奏を休憩し、お茶で喉を潤した。村の中は、笑顔と活気で溢れている。若干暴走している者も居るが、意図的に視界から外しておこう。 周囲を照らす灯りは、未来に明るい道を示す。この先にはきっと、希望に溢れた『明日』が待っているだろう。 |