悲しみが巡る絆
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 12人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/02 21:07



■オープニング本文

 人の都合や感情に左右されず、時間は無情に過ぎていく。どんなに悲しい記憶も、どれだけ楽しい記憶も、時と共に薄れていく。様々な経験を積み重ね、今の時間と向き合う…それが、『生きる』という事なのかもしれない。
 割り切ってしまえば、至極簡単な事だろう。だが…頭で分かっていても、心が追い付かない事もある。そんな時、人は損得や効率を考えず、心のままに行動する事が多い。
 丁度、今の『彼女』のように…。

 寒風吹き抜ける最中、墓地に佇む女性が独り。彼女の名は、春瑠(はる)。虚ろな瞳で、ジルベリア式の十字架を模した墓石を見詰めている。
 墓石に刻まれた名は『ヴィスナー』。彼女と結ばれる予定だった男性である。
 1年前の今日。春瑠とヴィスナーは、アヤカシの襲撃に巻き込まれた。ヴィスナーは文字通り『命懸けで』春瑠を守ったが…その結果、帰らぬ人となってしまった。愛する者を目の前で失った悲しみは、想像を絶する。今でも、彼女は過去を振り切れずにいた。
「ヴィスナー…私、駄目だね。貴方の事、忘れられそうにないよ…」
 呟きながら、春瑠はネックレスを強く握り締める。銀色のチェーンに、ハート形のペンダント。その中央に、桜の葉を模した翡翠が嵌め込まれている。これは、ヴィスナーと対になるように作った物なのだ。
 『ヴィスナー』は、ジルベリアの一部地方で『春』を意味する。2人は自分達の名前に合わせ、天儀で春を象徴する花、桜をペンダントの形に選んだ。そして、春瑠は桜の葉を、ヴィスナーは桜の花を。2つを合わせれば、桜花になるようデザインされている。
 幸せだった、あの頃。想いを伝え合っていた時の事を思い出すと、胸が締め付けられるように痛む。込み上げる想いが涙となって、春瑠の瞳から零れ落ちた。
「ねぇ…私、どうしたら良いのかな? 教えてよ、ヴィスナー…!」
 膝から崩れ落ち、墓石にすがり付く春瑠。泣いても、叫んでも、彼女の求める答えは返ってこない。それでも…涙は次々に溢れ、大地と墓石を濡らした。
 春瑠の涙が雨を呼んだのか、空に厚い雲が広がっていく。小雨が降り始めた直後、赤い滴が飛び散った。
「…え?」
 気の抜けたような、春瑠の声。視線を下ろすと、地面から一振りの剣が生えていた。それが、春瑠の腹部を貫通している。状況は分からないが、焼けるような痛みに顔が歪んだ。
 次いで、地面が盛り上がる。それに合わせて、春瑠の体も宙に浮いた。剣が更に深く刺さる中、土が崩れて異形が姿を現し始める。
 血も肉も無い、不気味な姿。人の型を成しているが、致命的に違う存在。白骨の化物、狂骨。天儀以外では、スケルトンと呼ばれる事が多い。
 狂骨は春瑠の体をゆっくりと引き寄せ、剣を根本まで突き刺す。気を失いそうな激痛の中、彼女は驚愕の表情を浮べた。
 狂骨の首に輝く、銀色のチェーン。ハート形のペンダントに、桜の花を模した紫水晶の飾り。
 春瑠は血濡れた手で自身のネックレスを外し、狂骨のネックレスに近付けた。翡翠の葉と紫水晶の花が合わさり、宝石の桜花を形作る。
 理由は分からないが、目の前の異形はヴィスナーに間違いない。変わり果てた姿になっているが、春瑠はゆっくりと笑みを浮かべた。
「また…1つに、なれ…た…ヴィスナー…」
 その先は、言葉にならなかった。狂骨は空いた手で2本目の剣を振り、彼女の首を切断。雷が鳴り響く中、真紅の飛沫が大地を濡らした。狂骨が春瑠だったモノを投げ捨てると、地面から無数の手が伸びる。どうやら、異形は1体だけではないようだ。
 血に染まる、桜花のネックレス。それは、ヴィスナーと春瑠が流した血の涙なのかもしれない。


■参加者一覧
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
レビィ・JS(ib2821
22歳・女・泰
紅雅(ib4326
27歳・男・巫
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
アナ・ダールストレーム(ib8823
35歳・女・志
鴉乃宮 千理(ib9782
21歳・女・武
ジョハル(ib9784
25歳・男・砂
宮坂義乃(ib9942
23歳・女・志
朝倉 涼(ic0288
17歳・男・吟
アルバ・D・ポートマン(ic0381
24歳・男・サ
白崎 鼎(ic0426
25歳・女・魔


■リプレイ本文

●巡る螺旋
 空一面を覆う、重苦しくて厚い雲。陽光が遮られているせいか、周囲は薄暗く肌寒い。吹き抜ける風も、いつもと違って肌に絡み付くような感じがする。
 いかにも『何か』が出そうな雰囲気の中、墓地に足を運ぶのは、余程の物好きか、それとも…。
「…酷い。…吐き気がする」
 周囲を見渡し、白崎 鼎(ic0426)の口から拒絶の言葉が零れた。天候や墓場の雰囲気ではない。漂う瘴気と、アヤカシの気配に対する嫌悪感である。
「まったくだ。ただでさえ辛気臭ェ場所なのによォ…仕事じャなかッたら、こんなトコに来るのは御免だね」
 彼女に同意しながら、不快そうな表情を浮べるアルバ・D・ポートマン(ic0381)。サングラスをズラし、墓場の立地条件と墓の名前を確認するように、真紅の瞳を向けた。
「今回の依頼って、敵の数が多いよね。私達だけで……大丈夫かな」
 ギルドの情報では、敵の数は約20体。この墓地に眠っている人数でもある。これだけの敵が居たら、レビィ・JS(ib2821)が不安になるのも当然だろう。
「弱気は禁物だよ、子猫ちゃん。人里に行かせる訳にはいかないからね、ココで全滅させないと」
 そんな彼女の頭を、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)がポンポンと優しく叩く。柔らい笑みを浮かべているが、その表情の裏では闘志が燃え上がっているのを、知る者は居ない。
「ええ…今は春瑠以外に行方不明者が居ないようですが、いつ被害が及ぶか分かりませんし」
 ジョハル(ib9784)の言う通り、アヤカシが周囲を襲う可能性は極めて高い。様々な感情が渦を巻き、彼は無意識のうちに、自身の首飾りに手を伸ばしていた。
「悲恋ってのは、気持ちの良いモノじゃないからねぇ…あの2人みたいな想いは、誰にもして欲しくないな」
 軽く苦笑いを浮かべながら、腕を組む九竜・鋼介(ia2192)。アヤカシは、人々の日常も、想いも、命すら奪っていく。そんな理不尽は、誰にも納得出来ないだろう。
「2人の『絆』はアヤカシに勝ったが、結果として命を失った…か。何とも、デキの悪い物語だね。せめて、我等の手で弔いに行こうかの」
 舐めていた棒付き飴を噛み砕き、鴉乃宮 千理(ib9782)は気合を入れ直す。アヤカシが悲劇を綴っても、彼女達開拓者にはそれを止める力がある。どんな時でも、希望の灯が消える事は無のだ。
「そうですね…倒す事が弔いになるのなら、終わらせる。絶対に…!」
 拳を強く握り、決意を固める宮坂 玄人(ib9942)。犠牲になった2人と自分の過去を重ね、いつも以上に闘志を燃やしているようだ。
「悲劇が螺旋の様に繰り返されるなら、断ち切らないといけないわね…」
 状況を冷静に分析し、アナ・ダールストレーム(ib8823)。一見するとクールに見えるが、心の中では熱くなりそうな自分を抑えていたりする。
「まぁ…やる気があるのは結構だが、気負い過ぎるなよ? 俺達が返り討ちに遭ったら、元も子も無ぇからな」
 アルバルク(ib6635)は不敵な笑みを浮かべながら、仲間達に注意を促した。口調は軽いが、彼の指摘は的を射ている。亀の甲より年の功、と言った処か。
 不穏な空気が流れる中、一番奥の地面が盛り上がる。異常を察知した開拓者達は、墓地の入り口を背にして1ヶ所に集まった。
 緊張が高まる中、地面に瘴気が吸い込まれていく。直後、白骨が大地を突き破り、次々に姿を現した。その距離、約50m。
「墓地に骸骨ですか……大人しく、墓に還ってもらいましょうか」
 扇で口元を隠しながら、目を細めて様子を伺う紅雅(ib4326)。金色の瞳には、狂骨達はどう映っているのだろう? 何にせよ、倒す事に変わりは無いが。
「狂骨、か…ははっ、どうせなら俺の故郷に出てよ。そしたら…俺は『あの2人』に殺して貰えるのに…」
 独り呟き、朝倉 涼(ic0288)は自嘲するように小さく笑った。仲間達と若干距離を置いているため、誰にも聞かれなかったが…彼は、何か重いモノを背負っているのかもしれない。

●荒れ狂う墓地
「しッかし、面倒な事になりやがって…大人しく寝とけッつンだ」
 舌打ちしつつ、サングラスをズラして狂骨を眺めるアルバ。幸い、敵はまだ彼等の存在に気付いていないようだ。その隙に、開拓者達は兵装に手を伸ばす。
「さて、ボチボチ始めるとしますか…墓地だけに…ってねぇ」
 墓地の中を、冷たい風が吹き抜けた。全員が鋼介に冷たい視線を向けているが、当の本人は一切気にしていないようである。
「九竜さんの寒いギャグは置いといて。数が多いし、後衛の一斉攻撃で足止めをお願い出来るかな?」
 そんな雰囲気を変えるように、フランヴェルが仲間達を見渡した。今回の作戦は、前衛後衛6人ずつに別れて行動する事になる。接近戦をする前に、遠距離攻撃で牽制するのは悪くない作戦だろう。
「支援はお任せを。眼前の敵から、確実に倒していきましょう」
 紅雅は真っ先に応えながら、扇を広げて敵を差した。彼以外の後衛担当者も異論は無いのか、静かに頷いている。
 タイミングが良いのか悪いのか、こちらの存在に気付いた狂骨達が、骨を鳴らしながら駆け寄って来た。迎え撃つように、全員が身構える。
「異論は無いようだね。なら、攻撃の射程とタイミングはアルバルクに合わせようか」
 ジョハルの言葉に、アルバルクは短銃を構えた。銃身が短い分、射程も長くは無い。それを察し、ジョハルは彼を指名したのだ。
 レビィ、鼎も兵装を構える中、玄人は近くの墓石に視線を落とした。
「墓地で戦闘なんて、本来なら『罰当たり』なんて言われそうだけど…勘弁な」
 苦笑いを浮かべながら、太刀の柄を強く握る。死者の眠る地で戦闘する事を気に病んでいるのだろう。
「案ずるな、玄人。真に罰当たりなのは、死人を冒涜しておるアヤカシ共じゃ…!」
 言いながら、千理は玄人の肩を力強く叩いた。宗教と強い結び付きのある武僧が言うと、妙に説得力がある。
「俺は演奏してるんで、攻撃はお任せします。この墓石…丁度良さそうだな」
 2人の会話を聞いていなかった涼は、何の躊躇いも無くテキトウな墓石に腰を下ろした。戦闘中で無ければ、千理の説教が炸裂していたかもしれない。
 涼は素早くハープを構えると、弦を弾いて掻き鳴らした。奏でられたのは、武勇の曲。彼の双子の片割れと、親友の事を唄っているようだ。悲しくも勇ましい曲が開拓者達の心を揺さぶり、奮い立たせていく。
「騒がしくて仕方ねえ…パーティはその辺にしといて、墓に帰りな」
 静かに言い放ち、アルバルクは引き金を引いた。素早く弾丸を装填し、間髪入れずに2発目を撃ち放つ。
 彼の射撃に合わせて、ジョハルも短銃を発射した。レビィは素早く弓を引き、矢を連続放つ。
 紅雅は掌に精霊力を集め、扇と共に振った。そこから白い光弾が生まれ、敵に向かって飛んでいく。
 短剣を敵に向け、意識を集中させる鼎。切先から電撃が2筋奔り、敵に伸びていく。
 弾丸に弓撃、知覚攻撃が狂骨達に殺到した。敵全員にダメージを与えたワケでは無いが、前を走る者の脚が止まれば後ろの者は追突する。『足止め』という意味では、効果は充分だ。
「私達も行きましょうか。あまり突出しないで、囲まれないように迅速にね」
 兵装を構え、駆け出すアナ。彼女と同じ考えなのか、他の前衛担当者も足並みが揃っている。3人ずつに別れると、敵集団の左右から一気に接近した。
 敵の一瞬の虚を突き、アナは大きく踏み込んで素早く刃を抜き放つ。波打つ刀身が狂骨を捉え、肋骨を斜めに斬り裂いた。
 追撃するように、アルバは鎌のように反り返った刀剣を薙ぐ。斬撃合わせて練力を爆発させ、敵の骨を砕いた。
 更に、緋色の剣閃が真横に奔る。玄人の無骨な太刀が、手負いの敵を潰すように両断。砕けた欠片と共に、狂骨の1体が瘴気と化して空気に溶けていった。
 ほぼ同時刻。逆側で刀を振る鋼介。銀色の閃光が縦に奔り、敵の鎧ごと肩から叩き割る。
 斬り飛ばされた腕が瘴気と化す中、フランヴェルは兵装を薙いだ。素早い斬撃が刃を分裂したように見せ、腰骨を砕き斬る。
 敵のバランスを更に崩すように、千理は脚を狙って短銃を撃ち放った。弾丸が大腿骨を砕いた直後、倒れてくる狂骨に合わせて錫杖を振り上げる。鋭い打撃が敵の体を叩き割り、全身を瘴気に還した。
 攻撃後の隙を狙い、前衛6人に向かって刀剣を振り下ろす狂骨達。
 だが…。
「あ…あれ? 何か、仲間同士で攻撃の邪魔してない?」
 敵の様子を眺めながら、呆れたように口を開くレビィ。彼女の言う通り、狂骨達は互いに体や武器をぶつけ合っている。協力する事を知らないのか、自分が攻撃する事しか考えていないようだ。結果として、攻撃の大半が失敗に終わっているが。
 とは言え、全ての狂骨が同じ調子というワケではない。前衛6人の死角を移動し、後衛に近付こうとする者が4体。それに気付いた千理が迎撃に向かおうとしたが、敵が邪魔で近付けない。
「ちっ! 行かせるかよ! お前の相手はこっちだ!」
 殺気を放ちながら、玄人は兵装を振り上げる。その動作が敵の注意を引き付け、1体が脚を止めて防御を固めた。
「ボクが怖いのかな? 優しく倒してあげるから、こっちにおいで!」
 フランヴェルが挑発するような叫びを響かせると、更に1体が立ち止まる。そのまま踵を返し、彼女に向かって襲い掛かってきた。
 玄人とフランヴェルの機転で2体は足止め出来たが、残り2体は後衛に向かったままである。仲間を信じ、前衛6人は目の前の敵に集中した。
 防御体勢の敵に対し、玄人は兵装を振り下ろさずに、突き出した。切先が防御の隙間を縫い、胸骨を貫通。そのまま手首を返して大きく踏み込み、素早く薙ぎ払った。骨が砕け散り、白い欠片と共に黒い瘴気が舞う。
 次いで、アナは敵の死角から1撃を放った。刀身が敵の体を縦に斬り裂き、骨が砕けていく。そのまま膝から崩れ落ち、地面に倒れると同時に瘴気となって舞い散った。アナは軽く剣を振り、鞘に納めて次に備える。
 空を斬り、迫り来る斬撃。フランヴェルは腕に填めた盾でそれを受け止め、被害を最小限に抑えた。力を込めて剣を振り払い、大きく踏み込む。分裂する斬撃を叩き込み、敵の右脚を砕いた。
 直後、燃える斬撃が左脚を砕く。鋼介が兵装に炎を纏わせ、全力で薙いだのだ。手首を返して上段に構え、一気に振り下ろす。切先が骨を砕き、炎が全身を焦がし、ほんの数秒で全てを焼き尽くした。
 後衛に向かっていた狂骨は、10m前後まで距離を詰めていた。敵が接近しているにも関わらず、慌てる様子は微塵も無い。
「こう数いちゃしょうがねえが、こっちに来られちゃあ面倒なんだがねえ…」
 軽く溜息を吐きつつ、短銃を構えるアルバルク。狙いを定め、連続で引き金を引いた。素早い銃撃が、敵の額に2つの穴を穿つ。
 間髪入れず、追撃を放つジョハル。青い瞳が赤い輝きを放つ中、2発の弾丸が頭部に命中し、頭蓋骨を撃ち砕いた。
 それでも倒れない敵に対し、紅雅が白い光弾を放つ。2発の弾が白い軌跡を描きながら、胸骨と背骨を貫通。その衝撃で全身に亀裂が走り、瘴気を撒き散らしながら砕け散った。
「・…来るな。…邪魔をしたら、噛み殺す」
 もう1体の敵に向かって、鼎は不快感を露にする。口元から鋭い犬歯を覗かせ、今にも噛み付きそうな雰囲気だ。牙の代わりに、彼女は電撃を飛ばす。それが敵を上下から挟むように突き刺さり、牙で噛んだように穴を穿った。
「行、かせ……ないっ!」
 短く言い放ち、レビィは驚異的な加速から地面を滑るように移動する。手負いの敵の懐に踏み込み、弓を薙ぐように振り回した。体幹を狙った1撃が狂骨に直撃し、バランスを崩して地面に転がる。
 後衛の無事を確認し、千理は胸を撫で下ろした。錫杖を握り直し、豪快にブン回す。鋭い殴打が敵の脚を砕くと、振り下ろすような追撃で腕を破壊した。
 必要以上に接近している狂骨に向かって、アルバは爪を振って殴り掛かる。真紅の爪が頭部を引き裂くと、後方に跳び退きながら魔刃を薙いで数本の肋骨を斬り裂いた。
 仲間を倒されて若干冷静になったのか、狂骨達の動きが変わる。前衛6人との距離を調整し、1人対して2体で前後から挟み込んだ。
「あら、少しは学習したみたいね。私達の連携に比べたら、まだ甘いけど」
 アナは軽く笑みを浮かべ、敵の動きに目を向ける。付け焼刃の連携だが、前後からの同時攻撃は少々厄介かもしれない。
「…一緒に、堕ちようか。自堕落の底は、深く、淀んだ、君や俺に、よく似合う場所だよ…」
 それを見越して、涼が狂骨のヤル気を削ぐ。敵1体にしか効果が無いが難点だが、使わないよりはマシだろう。
 直後、12本の刀剣が前衛6人に降り注ぐ。開拓者達は回避や防御でダメージを軽減させているが、無傷で済んでいる者は居ない。とは言え、軽傷かカスリ傷程度だが。
 ここまでに倒した狂骨は、5体。無様に転倒し、立ち上がろうとしている者が1体。挟み撃ちを仕掛けた者が12体。合計、18体。
 残った2体は、仲間達に紛れて虚空を刀剣で薙いだ。刀身に纏っていた瘴気が刃となり、後衛に向かって飛んで行く。
 この攻撃を警戒していた開拓者は数人居たが、初めて戦った敵の攻撃動作を読むのは困難極まりない。加えて、前後からの攻撃に注意が向いている。もしかしたら、狂骨達の『本当の狙い』は、挟み撃ちでは無く後衛への攻撃だったのかもしれない。完全に不意を突き、瘴気を纏った衝撃波が紅雅と鼎に迫る。
 咄嗟に、紅雅は横に跳んで直撃を避けた。衝撃が頬を掠めて赤い線が走り、数本の頭髪が宙に舞う。
 予想外の攻撃に、鼎の反応が一瞬遅れる。気付いた時には、刃は回避不能な位置まで迫っていた。反射的に、鼎は腕で頭を庇って身構える。
 刃が直撃し、肉体を深々と斬り裂く。鮮血が派手に舞い散り、大地を赤く染めた。体が大きく揺らぎ、仰向けに倒れ込む。『彼』が崩れ落ちるのを、鼎は茫然と見詰めていた。
「…大丈夫、かな? 怪我は…無い?」
 苦痛に顔を歪ませながらも、薄っすらと笑みを浮かべるジョハル。攻撃が鼎に届くより早く、彼は身を盾にして彼女を守ったのだ。その代償に、深い傷を負ってしまったが。
「…大丈夫。……ごめん。…あ、ありがとう」
 男性嫌いな鼎だが、礼儀を知らないワケではない。素直に感謝しつつも、申し訳無さそうに俯いている。その胸中は、かなり複雑だろう。
 紅雅はジョハルの傷の具合を確かめ、手をかざした。淡い輝きが紅雅を包んだ直後、その光が傷口に吸い込まれて癒していく。
「無茶しましたね。まぁ、そういう仲間想いの行動は、嫌いじゃありませんが」
 言いながら、紅雅は不敵な笑みを浮かべた。ジョハルは反論出来ず、苦笑いを浮かべている。
「我を無視して、後衛に不意討ちするとは…ジョハルの受けた痛み、代わりに返させて貰おうかの」
 表情を変える事無く、瘴気を飛ばした敵との距離を詰める千理。錫杖を掲げて精霊の幻影を具現化させると、手負いの狂骨に向かって全力で殴り掛かった。実体の無い1撃が、敵の全身を打ち付ける。圧倒的な衝撃に、骨が粉々に砕け散って瘴気に還っていった。
 舞い散る瘴気を振り払うように、鋼介は敵との距離を一気に詰める。盾を小剣に持ち替えると、擦れ違い様に鋭く薙いで脇腹を深々と斬り裂いた。
 間髪入れず、フランは刀を奔らせる。刀身が分裂するような幻惑を見せながら、全力で振り下ろす。切先が敵を縦に斬った直後、手首を返して刀の向きを変え、斜めに斬り上げた。分身する斬撃が狂骨を斜めに両断。そのまま地面を転がりながら、空気に溶けていった。
 手負いの狂骨が、仲間の背に隠れながら剣に瘴気を纏わせる。さっきと同じように、瘴気の刃を飛ばすつもりなのだろう。その射線上には、アナが居る。彼女を狙うように、狂骨は剣を振り上げた。
 ほぼ同時に、アルバルクの銃撃がその腕を撃ち砕く。素早く弾丸を装填し、追撃の2発目が頭部を貫通。それが止めとなり、敵の体が崩れて瘴気に戻っていった。
 自身が狙われた事に気付かなかったアナは、敵の懐に潜り込んで刃を鞘から奔らせる。そこから流れるような動きで回避困難な斬撃を放ち、敵の肋骨や腕を砕いた。
 大きく体勢を崩した敵に向かって、アルバは大きく踏み込みながら魔刃を突き出す。衝撃を伴った刺突が狂骨の腰や脇腹を大きく抉り取り、高速の動きが瘴気を舞い散らせた。
「――痛覚がねェたァ言うがよ、こうされちゃァ一緒だよなァ?」
 アルバは不敵な笑みを浮かべ、兵装を軽く振る。その背後で敵の体が崩れ落ち、瘴気と化して空気に溶けていった。
 次々に仲間を倒され、狂骨の1体が怒りに似た雄叫びを上げる。周囲を軽く見渡し、一番近くに居た玄人に向かって刀を振り下ろした。
 迫り来る斬撃を、小手を払うように捌いて勢いを完全に殺す。反撃するように野太刀を素早く薙ぎ、両脚の骨を砕いた。
 無様に崩れ落ちた敵に向かって、2筋の雷が突き刺さる。鼎の放った電撃が眉間と胸骨を貫通し、その衝撃で全身が瘴気と化して飛び散った。
「ゆっくり寝ていってもらうよ! 永遠にねっ!」
 レビィは数十秒前に転倒させた敵に向かって、弓を構える。ようやく起き上がった狂骨を、2本の矢が射抜いた。1本は頭部を、もう1本は仙骨を貫通。全身が瘴気となって空気に溶け、矢が地面に落ちて乾いた音をたてた。
 これで、残った敵は9体。流石に危機を感じたのか、狂骨達は反撃に打って出た。8体の狂骨が、鋼介、フランヴェル、千理を包囲。少しずつ距離を詰め、攻撃の隙を伺っている。
「おやおや。今度はボク達から倒す作戦なのかな? 少しは頭を使っているみたいだね」
 微笑みながら、盾を握り直すフランヴェル。その行動が合図になったように、狂骨達は一斉に飛び掛かった。さっきとは違い、前後だけでなく縦横からも斬撃が迫る。3人に対して、8体の攻撃。この状況で、無傷で済むワケが無い。
 前衛のダメージを減らすため、涼は陰鬱な曲を奏でた。怠惰を誘う演奏が、敵の戦意を削いでいく。
 加勢するためにアナ、玄人、アルバが駆け出すが、その進路を残った1体が塞ぐ。舌打ちしつつ、アルバは問答無用で斬り掛かった。
「コイツは、俺が引き受けてやるぜ。おら、さッさと手助けに行けよ」
「ありがとう、アルバさん。ここはお願いね!」
 乱暴な言葉使いだが、仲間を心配しているのはアルバも同じ。彼に軽く礼を述べ、アナと玄人は駆け出した。走りながら兵装を構え、一番近くに居る敵に斬り掛かる。2人の剣閃が交差し、狂骨の背に『×』字の傷を刻み込んだ。
 追撃するように、ジョハルは短銃を撃ち放つ。黒い羽根の幻影が一瞬舞い、弾丸が敵の背骨を貫通した。支えを失い、全身が崩れ落ちて瘴気に還っていく。
 前衛の援護をするように、アルバルクも短銃を放った。鋭い銃撃が敵に直撃し、肩の骨を砕いて頭部に穴を穿つ。
「どいつもこいつも、予想以上に固いぜ…こりゃあ『骨』が折れるなぁ」
「確かに、なかなかホネのある相手だねぇ…いやまぁ、骨その物だけどな」
 言いながら、アルバルクと鋼介は苦笑いを浮かべた。鋼介は地面を強く蹴って間合いを詰め、手負いの敵の胴を小剣で薙ぐ。間髪入れず、刀に炎を纏わせて逆手に持ち、脚を軸に回転。燃える斬撃が狂骨の体を斜めに斬り裂き、全てが瘴気と化して炎と共に消えていった。
「汝等、随分と余裕があるようじゃな。これ以上寒くなのるは、御免被るがのう?」
 『親父ギャグ』とも取れる言葉を口にした2人に、千理が不敵な笑みを向ける。視線が一瞬外れた隙を狙い、1体の狂骨が彼女に飛び掛かった。
 だが、その程度の行動は予測済みである。千理は裂帛の気合を込めて一喝し、敵の足を止めた。今までは敵が複数で攻めてきたため、一喝後の隙を狙われないように使用を控えていたのだろう。動きの止まっている敵に向かって、銃撃と錫杖の殴打で片脚を砕く。
 バランスを崩した狂骨に、レビィの弓撃が殺到した。衝撃を伴った矢が骨を貫通し、穴を穿つ。そこからヒビが全身に広がり、瘴気が漏れ出して消えていった。
「…邪魔。…目障り。……気持ち悪い、から。消えて…」
 呟くような言葉と共に、鼎は短剣の切先を敵に向ける。その先端から電撃が奔り、狂骨を連続で射抜いて両腕を砕いた。
 骨の欠片が瘴気と化す中、フランヴェルは地面を蹴って敵に迫る。刀を握り直し、大きく踏み込んで鋭く薙いだ。秋の水のように澄みきった剣閃が、敵を腰から両断。2つに分かれた体が一瞬で瘴気に還り、飛び散った。
「皆さん、『怪我をするな』と言いませんが、無理は禁物ですよ?」
 扇で口元を隠しながら、空いた手を横に薙ぐ紅雅。淡い光が周囲に広がり、開拓者達の全身を包む。癒しの力を宿した光が、手傷を負っている者達を治していく。
「忠告、了解しました。まぁ…多少の無茶は大目に見てくれよ」
 軽く苦笑いを浮かべながら、玄人は視線を狂骨達に向けた。前衛6人に囲まれて逃げ場を失い、立場は完全に逆転。退治が完了するのも、時間の問題だろう。
「…無駄な抵抗しないで、早く諦めなよ。勝ち目なんて、無いんだからさ」
 独り呟きながら、ハープを奏でる涼。彼のしなやかな指が演奏したのは、英雄の唄。勇ましい曲が開拓者全員の耳に響き、闘志を掻き立てる。
 絶対的不利な状況にも関わらず、狂骨達は耳障りな雄叫びを上げながら刀剣を振り回し始めた。
「無駄な足掻き、ってヤツだねぇ。宮坂、ちょっと手を貸してくれ」
 鋼介の言葉に、玄人が静かに頷く。敵の動きに合わせ、彼女は刀を奔らせて攻撃を払い落した。
 一瞬の隙を狙い、鋼介は地面を蹴って突撃。小剣を突き出し、敵の胴を斬り裂いた。更に、刀に炎を纏わせて斜めに斬り上げる。
 ほぼ同時に、玄人は兵装を素早く横に薙いだ。燃える斬撃と、緋色の剣閃。2つの『赤』が重なり、邪悪な白を斬り散らす。火の粉と骨の欠片、瘴気が宙に舞い、空気に溶けるように消えていった。
 刀を振り回している狂骨に向かって、千理が無造作に近付く。迫り来る斬撃に対して精霊力を瞬間的に活性化させ、錫杖を全力で薙いで敵の刀を叩き折った。そのまま手首を返し、殴打と共に銃弾を浴びせる。
 瘴気と骨の欠片が舞う中、アルバは力強く地面を蹴って突撃。手負いの敵に対して、兵装を全力で突き出した。切先が触れた瞬間、刀身の練力が炸裂して土埃が舞う。それが晴れた時、彼が狙った狂骨は消滅していた。
 フランヴェルは盾を強く握り、敵との距離を詰める。攻撃に対して盾を合わせて受け止めると、衝撃が全身を駆け抜けた。苦痛に顔を歪ませながらも、フランヴェルは刀を振り下ろす。
 その斬撃が敵の腕を斬り落とした直後、間髪入れずにアルバルクが鋭い銃撃を放った。素早く正確な攻撃が、狂骨の眉間を連続で撃ち抜く。アルバルクの赤く輝いた瞳が元の茶色に戻る中、アヤカシの体は瘴気と化して消えていった。
 瘴気を吹き飛ばすように、赤い風が墓地を駆け抜ける。その正体は、レビィ。驚異的加速力で疾風の如く移動し、一瞬で敵の懐に飛び込んで弓を薙いだ。素早い殴打が狂骨を直撃し、衝撃でバランスが大きく崩れる。
 この絶好のチャンスを、アナが見逃すワケが無い。魔剣を強く握り、全力で振り下ろした。波打つ刀身が敵の肩を捉え、腕を斬り飛ばす。そこから大きく踏み込んで切先の向きを変えると、斜めに斬り上げた。斬撃が骨を砕き、両断していく。剣を振り終えた時、狂骨は空気に溶けて消えていた。
「あれが最後の1体だね。紅雅、鼎、手を貸して貰えるかな?」
 ジョハルの言葉に、紅雅と鼎が静かに頷く。3人をサポートするように、涼はハープを演奏して攻撃力を上昇させた。紅雅の扇が、鼎の短刀が、ジョハルの銃口が、狂骨を狙って同時に向けられる。
 精霊力が収束し、白い光弾と雷撃の矢となって撃ち出された。それが螺旋を描くように飛来し、敵の両腕を貫通して骨を砕く。
 一瞬も間を置かず、ジョハルは瞳を赤く輝かせて追撃を発射。弾丸が狂骨の眉間に穴を穿つと、亀裂が全身に走って砕け散った。墓地に残ったのは、戦闘の痕跡と、瘴気が溶けた跡だけである。

●『涙』
「ったく…胸くそ悪ィ連中だったぜ。アー、お陰で仕事終わりの一服までマズいわ」
 不機嫌そうに愚痴を零しながら、煙管を吹かすアルバ。事件の発端を考えると、両手を上げて喜べる状況ではないだろう。
「討ち漏らしはない? 安全を確認出来ないと、供養どころじゃないわ」
 アナの言う通り、周囲に敵が隠れている可能性も否定出来ない。開拓者達は互いに顔を見合わせると、周囲の警戒に向かった。
 紅雅は結界を張り、瘴気の気配を探っていく。涼は感覚を研ぎ澄ませ、周囲の音に耳を傾けた。他の者は、目視で墓地を隅々まで確認している。倒れた墓石や、狂骨が出現した穴を塞ぐ事も忘れない。
 数十分後。墓地の入り口に集合した開拓者達は、増援や残党が居ない事を報告し合った。
「敵が居ないなら、春瑠殿を弔いましょうか。せめて、彼と一緒に安らかに眠っている事を願いたいが…」
 若干目を伏せながら、悲痛な表情を浮べる玄人。さっき墓地を探索した時、春瑠の躯は発見した。首の無い、斬殺死体を。このまま、野晒しにしておくワケにはいかないだろう。
 開拓者達が遺体の元へ歩き始める中、涼は彼等とは別の方向に歩き始めた。
「…あーぁ、また、死ねなかった……凛、咲夜、俺を迎えに来てくれよ…」
 他の誰にも明かさない、涼の本心。過去が、今は亡き2人が、彼を精神的に苦しめていた。涙が零れそうになるのを、上を向いて耐える。今日の空は、彼と同じで泣き出しそうな天候だ。
 春瑠を埋葬するため、フランヴェル、アルバルク、千理、ジョハル、アルバは穴を掘っている。場所は、ヴィスナーの墓の隣。ジルベリア出身のフランヴェルとアルバが墓碑銘を確認したのだから、間違い無い。
 その間に、レビィと紅雅、アナは遺体を洗浄し、純白の布で全身を固定するように包んだ。
 鋼介と玄人は大き目の石を探し、春瑠の名前を刻み込んでいる。
「こんなトコに、うら若き乙女がそう一人でいるもんじゃねえな…墓荒らしには見えねえが、身内か何かか?」
 横目で春瑠の躯を覗き見ながら、アルバルクは呟くように言葉を漏らした。確かに、彼女はうら若き乙女だし、墓荒らしの類では無いが…。
「無粋な事を言うでない。汝も、色恋沙汰の分からぬ歳ではあるまい?」
 千理は若干溜息を吐きながら、彼の脇腹を肘で小突く。彼女の言葉の意味を理解したのか、アルバルクは納得したように頷いた。
 準備が整い、春瑠の遺体が穴の中に納められた。上から土を被せ、埋葬していく。
「……村の人達にも、知らせないといけないね。依頼の事も、春瑠の事も」
 その様子を眺めながら、辛そうに口を開くレビィ。依頼は達成したが、村人の1人が被害に遭って命を失っている。それを報告するのも、報告を聞くのも、心が痛いだろう。
 埋葬が終わった所に、鋼介と玄人が墓石を乗せる。簡素な墓ではあるが、開拓者達の想いが籠った墓は立派に見える。
 殺風景な墓前に、鮮やかな花が添えられた。水仙に蒲公英、雪割草に寒菊…全て、冬の野草だ。この季節に花を探すのは容易ではない。土だらけになった鼎の両手が、それを物語っている。彼女はアヤカシの探索が終わってから、ずっと花を探していたのだ。
 華やかになった墓を見下ろし、フランヴェルは手を開いて視線を向けた。彼女の手にあるのは、春瑠が握っていた2つのネックレス。血の汚れを落としたそれを、フランヴェルはそっと近付けた。翡翠の葉と紫水晶の花が、桜花となって姿を現す。
「…彼女が微笑んでいる様に見えたのは、そういうことか…せめて、2人に安息を」
 納得したように微笑みながら、フランヴェルはネックレスを墓前に添えた。
「春という季節は短いけれど、特有の美しさがあるそうだね…一足早く、2人に春が来たようだ。だからこそ…儚く切ないのかもしれないね」
 微笑しながら、1つになった桜花を眺めるジョハル。その表情は、若干寂しそうにも見える。もしかしたら、彼の首飾りが何か関係しているのかもしれない。
「私には、これしか出来ませんが…『来世』というモノがあるなら…天命を、全う出来るよう…」
 扇を広げ、紅雅はゆったりと舞い踊る。春瑠とヴィスナーの穢れを払うように、2人が再会出来るよう祈りを込めながら。静かで、力強く、切ない雰囲気を纏った舞踏を。
「……どうか、安らかに」
 鼎は目を閉じ、そっと手を合わせて祈る。舞い終わった紅雅も含め、11人の開拓者達が静かに祈りを捧げた。
「桜花、か…確か、去年も同じ様に手を合わせた事があったな。あの時は、悲しみの末にアヤカシと化した女性を弔ったが…悲劇は繰り返されるか…やり切れないねぇ…」
 軽く溜息を吐きながら、空を仰ぐ鋼介。過程は違えど、悲劇を止められなかったのは事実。その事が、彼に重く圧し掛かっていた。
 そんな彼の頬に、空から滴が落ちる。開拓者達の悲しみを押し流すように、アヤカシの穢れを洗い流すように、大粒の雨が降り始めた。もしかしたら…これは、開拓者達の代わりに空が泣いているのかもしれない。