ちょこれぃと闘争
マスター名：香月丈流
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| ■オープニング本文 ２月。別名、如月。天儀以外の儀との文化交流か活発になってから、12月と２月は『特別な日』を含んだ月になった。下手をすれば、盆や正月よりも重要視される事がある程に。 12月のクリスマスと双璧を成す一大イベント…『バレンタイン』の季節が、今年もやってきた。とは言え、クリスマスもバレンタインも、本来の意味とは大きく違う内容として天儀に広がっているが。 「諸君！ このような由々しき事態を、黙って見過ごして良いのか！？ 他儀の文化を歪曲して伝えるなど、侮辱以外のナニモノでもない！」 集会所のような場所で、大衆を前に演説する男性。言っている事自体は間違っていないが…黒い修道服の上に純白の陣羽織を着用しているのは、ツッコミ処満載な気がする。 「これは、文化を守るための聖戦なのだ！ 他国の文化を都合よく改変し、恋人同士がイチャつく機会を、公に認めてはならない！」 青筋を立て、男性は怒りの言葉を吐いた。恋人同士が仲良くするのは悪い事では無いが、公の場で度を超した行動に出るのは、褒められた事では無い。そういう意味では、彼の主張は的外れではないようだ。 「今こそ、我等『漆黒の白馬』の団結を魅せる時！ 立つのだ、諸君！ 忌々しい文化を正すために……まずは『ちょこれぃと』の製造所を叩き潰す！」 拳を突き上げ、同意の意志を示す一般人達。 何故、誰もツッコまないのだろうか？ 製造所を破壊しても、何も変わらないのだが……。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎（ia0163）20歳・男・サ 
華御院 鬨（ia0351）22歳・男・志 
ルオウ（ia2445）14歳・男・サ 
フェンリエッタ（ib0018）18歳・女・シ 
リィムナ・ピサレット（ib5201）10歳・女・魔 
ラグナ・グラウシード（ib8459）19歳・男・騎 
中書令（ib9408）20歳・男・吟 
宮坂義乃（ib9942）23歳・女・志 
樋口 舞奈（ic0246）16歳・女・泰 
多由羅（ic0271）20歳・女・サ |
| ■リプレイ本文 ●闇夜の中で 乾いた夜風が、頬を冷やすように撫でていく。夏ならば涼しくて良いが、冬の風は体を芯から冷やすような気がする。こんな夜に外で作業をするのは、ある意味拷問に近いかもしれない。 「あんなに甘くて美味しい『ちょこれぃと』の製作所を襲おうだなんて、アヤカシの如き所業だよ！ 絶対に死守しなきゃ！」 甘党の樋口 舞奈（ic0246）は、製造所の防衛に燃えている。少々発言が大袈裟な気もするが、彼女にとってはそれだけ重大な事なのだろう。 「ショコラトール…私の故郷ではお菓子や薬の一種として重宝されていましたが、こんな所にもあったとはね」 言いながら、眼鏡を直す三笠 三四郎（ia0163）。『ショコラトール』はチョコレートの原型とも言える物であり、今ではジルベリアでも滅多にお目にかかれない。それを知っているという事は、相当な博識ぶりが窺える。 「工場を壊しても、自分達に恋人が出来る訳でも、いちゃいちゃしてるカップルが別れる訳でもないのにね〜。まあいいや、さっさと捕まえちゃおう♪」 無邪気な笑顔を浮かべながら、厳しい指摘をするリィムナ・ピサレット（ib5201）。携行品のカンテラに火を灯し、襲撃に備えて一度シャッターを閉じた。 「公の場で『度を超した行動』なんやしてないと思うんどすが。それに、人の物を壊すんは犯罪どす」 華御院 鬨（ia0351）は軽く首を傾げながら、人差し指で顎の先をなぞる。その仕草や容姿は女性にしか見えないが、これで男なのだから、世の中分からないモノのである。 「聖夜にも似たような事があったような……とりあえず、野放しに出来ないな」 対照的に『男にしか見えない女性』の宮坂 玄人（ib9942）は、軽く溜息を吐いた。過去に似たような事件と遭遇したのか、首謀者達の身勝手さに呆れているように見える。 今の処、安州近郊の製造所には彼女達５人以外の姿は無い。 もう一か所の襲撃場所、朱藩北西部の製造所でも、開拓者達が警戒体制をしいていた。 「ちょこれーと工場、か…おいしそうだな、うさみたん！」 篝火に照らされて闇夜に浮かぶ、『うさぎのヌイグルミを背負った大柄な男性』…ラグナ・グラウシード（ib8459）。天儀のチビッコ達が見たら、泣き出しそうな光景である。 「この無益な戦い…彼らの狙いは何なのでしょう…どう思います、皆さん？」 『漆黒の白馬』の行動が理解出来ないのか、多由羅（ic0271）は苦笑いを浮かべながら仲間達に問い掛ける。逆に、彼等の狙いや考えが理解出来てしまったら、色んな意味で問題だが。 「えーと…どっからどこまでツッコめばいいのか分かんねーけど…とにかく、壊すのはいけねえと思うぜ」 ルオウ（ia2445）の言う通り、破壊活動は許される事ではない。だが、奴等の言動に正論でツッコミを入れたら、キリが無いだろう。 「同感。こんな身勝手な犯行、絶対許せないわ…きついお仕置きをしてあげないと、ね」 深い溜息と共に、呆れた様子を見せるくフェンリエッタ（ib0018）。一見すると落ち着いているが、内心では激しい感情が渦を巻いていた。 「みなさん、大量の足音が近付いています。そろそろ、準備した方が良いかと」 中書令（ib9408）の研ぎ澄まされた聴覚が、製造所に近付く集団の足音を捉える。こんな夜更けに、一般人が製造所に用があるとは考え難い。『漆黒の白馬』が来たと思って、間違い無いだろう。 多由羅達５人は製造所への道を塞ぐように並ぶと、周囲への警戒を強めた。 ●『萌える』防衛戦 闇の中に揺らめく、松明の灯りが多数。製造所から一定の距離まで接近すると、列が横に広がった。全員で一気に襲い掛かるつもりなのだろう。 集団が突撃するよりも早く、リィムナはカンテラのシャッターを開けて周囲を照らした。待ち伏せは予想外だったのか、『漆黒の白馬』達が浮足立つ。 「何を驚いているんです？ 予告状が届いたなら、警備するのは当然でしょう？」 いつも通り、飄々と言葉を紡ぐ三四郎。その穏やかな表情の下では、尋常ではない殺気を放って集団を威圧している。 「さて…コレとうちの笑顔を貰って帰るんと、ここでうちらに捕まるんと、どっちがええどすか？」 鬨は懐からチョコを取り出し、降伏を促した。彼の提案は、双方にとって悪い話ではない。開拓者達は余計な苦労をしなくて済むし、連中は念願のチョコを入手出来る。 魅力的な提案に決心が鈍りそうな者も居たが、互いに頬を叩き合って気合を入れ直した。 「ちょこれぃとの製造所を破壊しても、イベント自体は行われるぞ？ 無意味とは思わないのか？」 無駄に頑固な集団に向かって、玄人は真摯な態度で語り掛ける。気品溢れる態度は相手に好印象を与えているが、信頼と説得は別問題。彼女の言い分を理解しつつも、退く様子は微塵も無い。 「悪い事したら、『めっ！』なんだからね！ 舞奈から甘い物を遠ざける奴は、許してあげないんだからっ！」 言いながら、小さな子に注意するように人差し指を立てる舞奈。明らかに怒りの表情を浮べているのだが、その様子は可愛らしく、誰もが笑みを浮かべた。 話し合いは平行線状態で、進展する様子は無い。開拓者達は軽く視線を合わせると、強制手段に打って出た。 「つまらない事はやめるにゃ〜♪ チョコ食べて〜みんな仲良くおねんねすればぁ〜幸せいっぱい夢の中〜にゃ♪」 両手を軽く握って猫のようなポーズをとりながら、楽しそうに歌うリィムナ。首飾りの銀鈴が精霊力を放ち、歌声に眠りの力を乗せて広がっていく。『萌え〜』という言葉を残しながら、5〜6人が眠りに落ちた。 「ほらほら、よそ見してたら危ないよ！」 舞奈は荒縄を手に、素早い脚捌きで集団の間を駆け抜ける。その縄が敵の脚に引っ掛かり、次々に転倒していった。 「少女だけ働かせるわけにはいきませんね…地べたに這いつくばる準備の出来た方から、お相手しましょう」 凄まじい殺気を叩き付けながら、三四郎は少しずつ距離を詰める。恐怖に耐え兼ねて彼に襲い掛かった者は、手加減した木刀の一撃で意識を飛ばされた。 逃げようと踵を返して駆け出す者も居るが、舞奈が事前に仕掛けた罠に足を取られて転倒。立ち上がるより早く、玄人が縛り上げて自由を奪った。 「フレ〜フレ〜みんにゃー！ にゃんにゃかにゃんにゃんにゃーん！」 リィムナの可愛らしい声援が響く中、鬨は舞うような動きで布を振り回す。布の端が鋭さを増し、集団の松明や武器を斬り落とした。圧倒的な実力差を痛感したのか、次々に戦意を失っていく。 『漆黒の白馬』達は20人程度居るが、所詮は一般人。開拓者が５人居たら、相手になるワケが無い。全員が捕縛されるまで、そう長い時間は必要無かった。 「残念どしたな。折角どすから、ちょこれいとだけでも差し上げましょうか？ 『男』のうちからで良ければ、どすが」 不敵な笑みを浮かべながら、チョコを見せつける鬨。一瞬喜びの表情を浮べた集団だったが、すぐに絶望へと変わった。鬨の暴露が、相当ショックだったのだろう。 （聖夜の時は、開拓者も暴動に参加してたな。流石に、今回は大丈夫…だよな？） 玄人の胸を不安がよぎる。夜空を見上げながら、彼女は別働隊の事を考えていた。 ●空気を読みましょう ほぼ同時刻。もう一か所の製造所では、『漆黒の白馬』達が隙を伺っていた。松明や篝火が周囲を照らしているため、どうやって攻めるか作戦会議でもしているのだろう。 「ぃよっ！ なぁにしてんだあ？ 大人しく捕まっといた方が身のためだぜぃ？」 突如、彼等の背後から声が掛けられた。そこに居たのは、ルオウ。素早く集団の背後に移動し、退路を断ったのだ。 その隙に、他の開拓者達が周囲を取り囲んだ。 「私達は開拓者よ。出来れば、皆さんを傷つけたくないの。どうか、考え直して武器を捨てて下さい」 フェンリエッタは無用な争いを避けるため、真剣な面持ちで語り掛ける。その言葉が心に響いたのか、集団は彼女から目を逸らした。 「工場を壊したところで、『りあじゅう』共は別の菓子を見繕うだけだ！ ちょこれーとが好きな子共達が哀しむぞッ、お前たちの怒りは矛先を間違っているッ！」 ラグナの熱い想いが、言葉となって耳を打つ。子供を悲しませる行動…その事実が重くのしかかり、彼等の心を締め上げていく。 「これだけの熱意と活力があるなら、己を磨く事に費やすべきです！ にも拘わらず、このような愚かな行いをするなんて…だから貴方がたは、モテないのです！！」 キッパリと言い切る多由羅。この集団に対して『モテない』という言葉は禁句だろう。その証拠に、怒りに満ちた視線が彼女に殺到している。 「た、多由羅…今の一言は、奴等を逆撫でするだけだぞ…」 苦笑いを浮かべながら、注意を促すラグナ。彼も多由羅の言葉で傷付いているのか、顔が全力で引きつっている。 「え？ え？ わ、私まずい事しました？ 彼等の『モテない性根』を叩き直したかっただけなのですが…」 多由羅は自覚が無いのか、不思議そうな表情を浮べながら弁解の言葉を口にした。それが、連中の怒りを加速させているのは言うまでも無い。こうなっては、説得は絶対に無理だろう。 中書令は深い溜息を吐きながら、多由羅の肩を軽く叩いた。 「あなたの気持ちは分かりましたから、暫く口を閉じていて下さいね？ 可能なら、『依頼が終わるまで』ずっと」 柔らかい微笑みとは裏腹に、厳しい事を言う中書令。多由羅のした事を考えると、仕方がないかもしれないが。怒りで我を忘れた集団が、開拓者達に襲い掛かる。 ルオウは素早く背後に回り込み、手加減しながら腕を掴み上げた。ラグナが数人の攻撃を受け止めている間に、中書令がまどろみを誘う曲で眠らせていく。気絶した者や、眠っている者は多由羅が捕縛している。 「貴方達が壊そうとしている物が何か、ちゃんと考えた？ どんなお題目も並べても…これは真っ当な人達の生活を踏み躙る事よ。恥を知りなさい…！」 説得の言葉を口にしながら、静かに闘志を燃やすフェンリエッタ。怒りを表すように、彼女の闘布が真紅の炎に包まれていく。それを舞うように振り回すと、炎が龍の如く宙を奔った。 次々と拘束され、数を減らしていく集団。一旦体制を立て直すため、数人が背を向けて逃走を始めた。 『どこを見ています？ 私達はここですよ。それとも…怖気付いて無様に逃げるのですか？』 突然聞こえた声に、背後を振り返る団員達。すぐ近くで聞こえたハズなのに、開拓者達とは距離が離れている。中書令が精霊の力を借りて声を飛ばしたのだが、一般人には分からないだろう。 混乱している隙に、ルオウは一気に距離を詰めて彼等の腕を取った。そのまま縛り上げ、地面に転がす。 「これで最後みたいだな。助かったぜ、中書令！」 ニカッと笑いながら、中書令に向かって親指を立てるルオウ。中書令も指を立てながら、笑みを返した。 ●甘い終局 東の空が白み始めた頃、鬨達は安州のギルドに来ていた。無論、捕縛した『漆黒の白馬』を連れて。ここで、同心達に犯人を引き渡す事になっている。 役人達よりも早く、北西部の仲間達が姿を現した。 「あ〜、みんなお疲れ様っ♪ そっちは大丈夫だった？」 手をブンブンと振りながら、満面の笑みで出迎える舞奈。それに応えるように、ルオウも微笑みながら手を振った。 「そっちも、お疲れ！ もちろん、大丈夫だったぜ！」 彼の言う通り、手傷を負っている開拓者は１人も居ない。団員の中には少々怪我をしている者も居るが…自業自得だろう。 開拓者達の隙を狙い、捕縛された数人が逃げるように駆け出す。舞奈とルオウは彼等を捕まえると、ゴザを使って簀巻きにした。 「かなりの数が捕まったみたいですね。これで全部だと良いのですが…」 捕まった者達を眺めながら、若干不安そうな表情を浮べる中書令。万が一残党が居たら、また馬鹿な考えで事件を起こすかもしれない。 「まぁ…流石にもう居ないと思いますが。念のために、後で尋問してみますか？」 三四郎は柔らかく微笑みながら、視線を捕縛された集団に向けた。それに気付いたのか、誰もが顔を背けていく。 捕縛された『漆黒の白馬』は、老若男女が入り混じり、種族も様々。褐色の肌の少女が、多由羅を睨んでいる。それを正面から受け止めながら、多由羅は軽く溜息を吐いた。 「それにしても…この連中は、一体何を考えて生きているのでしょう？」 どこぞの副船長の如く、冷たい言葉が零れる。敵も味方も、彼女の問いに答えられる者は居ないようだが。 「ジルベリア人の私だって気にしないのに。伝えた物をそのままの形で残そうだなんて、押し付けだわ。出会った場所で溶け合うように形を変えるものだし、その方が面白いじゃない」 天儀のバレンタインに対して、フェンリエッタは不満があるようだ。恋愛に大切なのは『楽しむ事』…それを、彼等に伝えたいのかもしれない。 恋愛と言えば、カップルに敵意を持っているラグナが、製造所の防衛に回ったのは意外である。 「ちょこれーとに罪は無い。だが…『漆黒の白馬』とやら。貴殿らは志高けれど、取るべき行動を間違えた…私に続け！ 貴殿らに、本当の意味で『りあじゅう爆破』を見せてやろうッ！」 全力で前言撤回。彼は、同志を集めて行動を起こすために『漆黒の白馬』と接触する機会を待っていたのだ。致命的に間違った方向へ情熱を燃やしながら、拳を強く握って熱弁している。 集団が同調するより早く、ラグナの体が膝から崩れ落ち、気を失って地面に伏した。 「ったく…アンタの目的は結局それか。少しは成長しろよ、頼むから…」 苦笑いを浮かべながら、後頭部を掻く玄人。彼女が打撃を放ち、暴走するラグナを気絶させたのだ。良くも悪くも、ラグナは期待を裏切らない男なのかもしれない。 「そういえば…うちもこんな容姿やから、貰った事ありまへんなぁ」 思い出したように、独り呟く鬨。彼は女性と見間違いそうな姿をしているが、バレンタインにチョコを貰った事が無いというのは意外である。これだけ容姿端麗なら、処分に困るくらい貰えそうな気もするが。 「性別も年齢もバラバラだし、貴方達同士でお見合いしてみたら？ いい出会いがあるかも♪」 リィムナの提案に、『漆黒の白馬』達は驚愕の表情を浮べた。どうやら、製造所を破壊する事に夢中で、その考えに至らなかったようだ。好みの相手を探すように、周囲を見渡し始める団員達。意外と、リィムナの言葉がキッカケでカップルが誕生するかもしれない。 数時間後。役人と共に製造所の職員がギルドに到着。開拓者が団員達を差し出すと、職員から『製造所を守ってくれたお礼』としてチョコレートが渡された。 |
