予想外の節分
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/02/14 21:02



■オープニング本文

『福は〜うち〜!』
『鬼は〜外〜!』
 子供達の元気な声が、村の集会所から響く。
 節分、という行事を御存知だろうか? 季節の変わり目には邪気が生じ、鬼となって人々に害を為すと考えられているため、豆を撒いて邪を払うのが目的である。ちなみに、豆は『魔滅』との語呂合わせで、魔を祓うのに縁起が良いらしい。
 この行事自体に、問題は微塵も無い。気休めや験担ぎだとしても、それで一年間健やかに過ごせるなら、それに越した事はないだろう。
 だが……。
「鬼は〜外ぉ〜!」
 少年が全力で豆を撒いた直後、『それ』は起きた。
 夕闇の中、集会所の外に黒い霧が集まっていく。中に居た一般人達が驚愕の表情を浮べる中、蠢く闇が無数の形を成して具現化。ほんの数秒で、集会所は異形の集団に囲まれてしまった。
 2m程の身長に、筋骨隆々の体躯。鋭い眼光と牙に、長く伸びた角。そして、片手に金棒。
「お…鬼だぁ!!」
 祓うハズの鬼が、大量に出現したのだ。予想外の状況に、住人の混乱が加速していく。悲鳴と怒声が入り混じる中、鬼達は威嚇するように雄叫びを上げた。
 が、襲って来る様子は無い。恐らく、鬼達は恐怖心を煽って、その感情を喰らっているのだろう。問題は、それがいつまで続くか分からない、という点である。鬼達の気が変わったら、住人達が喰われても不思議は無い。
 集会所に居る一般人は、約20人。彼等の命運は、開拓者の手に委ねられた。


■参加者一覧
辟田 脩次朗(ia2472
15歳・男・志
朱点童子(ia6471
18歳・男・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
クアンタ(ib6808
22歳・女・砂
シリーン=サマン(ib8529
18歳・女・砂
ディヤー・アル=バクル(ib8530
11歳・男・砂
北森坊 十結(ib9787
28歳・男・武
ジェラルド・李(ic0119
20歳・男・サ
衝甲(ic0216
29歳・男・泰
硝(ic0305
14歳・女・サ


■リプレイ本文

●闇夜の大事件
 漆黒の夜空に、穴を空けるように光る満月。そのお陰で、周囲は見通しが利く程度に明るい。ここまで満月が綺麗な夜に事件が起きるとは、誰も思わなかっただろう。
 事件の起きた集会所から、約100mの位置にある広場。そこに、10人の開拓者が集まっていた。
「集会所の周囲にアヤカシが10・・・建物の影から近づけば、気付かれずに済みそうですね」
 櫓から降り、仲間達に状況を説明するクアンタ(ib6808)。スキルで視力を強化した彼女にとって、100m先を見通す事など造作も無い。
「……村人は、あの中か。衰弱でもして、倒れられたら面倒だ……手早く片付けたいな」
 集会所を見詰めながら、ジェラルド・李(ic0119)が言葉を漏らす。一見すると冷静沈着で冷たそうな印象を受けるが、熱い想いを内に秘めているようだ。
「俺がやるべき事も、出来る事も、そんなに多くはありません。出来ず終い…なんて事にならないよう、気を引き締めていきます」
 自身の手を見下ろしながら、決意を固める辟田 脩次朗(ia2472)。そのまま拳を強く握り、視線を集会所に戻した。
「集会所が村の外れだったのは、不幸中の幸いですね。周囲に民家はありませんし、広場まで誘き出せば遠慮無く戦えます」
 硝(ic0305)は愛用の槍を手に、軽く体を捻る。戦闘前の準備運動、と言った処だろう。
「うむ。大柄な修羅として、大柄な鬼と真っ向勝負できるのは光栄だ。何より、人命を守るためというなら、これ以上の事はない」
 衝甲(ic0216)は拳を掌に打ち付け、気合を入れ直す。戦う事と守る事、2つの使命に全身の細胞が打ち震えているようだ。
「難しい事は分からんが、要は鬼どもの数を減らせば良いのじゃろう? ならば、総員突撃じゃ! 余に続けぃ!」
 元気いっぱいに叫び、集会所を指差すディヤー・アル=バクル(ib8530)。そのまま無邪気な笑みを浮かべ、全力で駆け出した。
 直後。彼の体が宙に浮き、両脚がバタバタと空中を蹴る。
「坊ちゃま…急を要するのは判っておりますが、少々お待ちを。今回は、役割分担がありますので」
 溜息混じりの、シリーン=サマン(ib8529)。長身な彼女が小柄なディヤーの上着を掴み、ヒョイッと持ち上げたのだ。
「先ずは、私達囮班が動いてアヤカシ達を引き付ける。その間に…村人の事は頼んだぞ」
 北森坊 十結(ib9787)の、真紅の双眸が仲間達を見渡す。今回の作戦は、『鬼の陽動』と『人質の安否確認』。2班に別れての行動となる。
「ああ…どんな状況に陥るか分からない。村人達に被害が及ばないよう、気合入れていくぞ」
 十結の視線を受け止めながら、朱点童子(ia6471)が静かに頷く。彼の言葉は仲間に向けているのか、自分に言い聞かせているのか分からないが…想いは、全員同じだろう。
「みんな、準備は良い? ちゃっちゃとやっつけようね♪ 鬼さんこちら〜手の鳴る方へ♪」
 全員の状況を確認し、楽しそうに歌いながら手を叩くリィムナ・ピサレット(ib5201)。時折口元に手を当て、声に精霊力を込める。弾丸のように弾き出された歌声は、集会所周辺の鬼に向かって飛んで行った。
 ほぼ同時に、朱点童子、クアンタ、シリーン、ディヤーの4人も広場から駆けて行く。

●退治と救助
 集会所に閉じ込められて、どれくらいの時間が経っただろう? 逃げる事も出来ず、全身を押し潰すような重圧が人々の精神を限界まで追い詰めていた。
 不意に、鬼達の注意が逸れて騒ぎ始める。怒っているような、興奮しているような、耳障りな声。人質達が悲鳴を上げる中、鬼達は広場を目指して走り出した。
 鬼達が集会所を離れるキッカケを作ったのは、リィムナ。彼女のスキルで声を飛ばし、『バカ』やら『アッカンベー』といった言葉を聞かせて挑発しているのだ。
「鬼が相手なら、遠慮なく突き殺せますが…まずは広場に誘き出しましょう」
 駆け出して迎え討ちたい気持ちを抑えつつ、硝は槍を構え直す。陽動のために残った他のメンバーも、兵装に手を伸ばした。
「我が名は十結! 北森の鬼! 悪鬼どもよ、お前達の力禍々しき力、我らが滅してくれよう!」
 十結は敵の注意を引くため、大声で名乗りを上げた。万が一にも、集会所に向かわせるワケにはいかない。念を入れるくらいが丁度良いだろう。
 迫り来る、10体の鬼達。敵が広場に足を踏み入れた瞬間、6人は行動を起こした。
「人々の命を喰らい、生活を脅かす貴様らと対話の道はない…消えて貰おう!」
「……お前の考え、嫌いじゃない。牽制も搦め手も必要ない……一体ずつ、確実に断ち斬るぞ」
 気の流れを制御し、全身に循環させる衝甲。全身から気を立ち昇らせながら敵に向かって突撃した。それに合わせるように、ジェラルドも打ち掛かる。
 先頭に居る鬼の懐に潜り込み、衝甲は鋭い肘打ちを叩き込んだ。間髪入れず、ジェラルドは上段から大太刀を全力で振り下ろす。切先が鬼を深々と斬り裂き、打撃の衝撃で口から瘴気が溢れ出した。
 硝と十結は兵装の長さを活かし、敵の射程外から攻める。間合に注意しながらも、鬼を逃がさないように攻撃対象を次々に変更。常に注意を引き、集会所に戻らないように立ち回っている。
 当然、鬼達は黙ってやられているワケではない。数的に有利なのを良い事に、金棒を無茶苦茶に薙ぐ。
「余計な事は考えず、只管躱して斬るのみ…」
 素早い体捌きで攻撃を避けながら、大太刀を素早く薙ぎ払う脩次朗。反撃の一撃が鬼を捉え、脇腹を裂いて瘴気が噴き出す。
 自身の体から出た瘴気を振り払うように、金棒を振り廻す鬼達。開拓者達は直撃を避け、打撃を受け止め、攻撃を捌いているが、無傷で済んでいる者は居ない。
 数の差を埋めるため、リィムナは精霊力を込めてフルートを鳴らした。周囲に響く楽曲が鬼達に作用し、内部から破壊していく。
「どう? この曲は、あんた達の魂に直接響くんだよ! 名付けて、鏖殺の交響曲…『ジェノサイドシンフォニー』!」
 かなり物騒な名称だが、威力は『鏖殺』の名に相応しいかもしれない。再び、リィムナはフルートを鳴らす。圧倒的なダメージが敵の全身を駆け抜け、口や耳から瘴気が噴き出した。
 追撃するように、兵装を振る開拓者達。脩次朗とジェラルドの斬撃が鬼を両断し、2体のアヤカシが瘴気と化して空気に溶けていった。

 時は少々遡る。囮班がアヤカシと戦闘を始めた頃、集会所は混乱の渦中にあった。突然現れた鬼達が、唐突に居なくなったのだから無理も無い。状況が分からず、誰もが冷静さを失っていた。
 そんな状況で、見ず知らずの4人組が木戸に現れたら…混乱が加速する事この上ない。
「静かに…! 俺達は、ギルドの依頼で来た者だ。心配するな、敵じゃない」
 朱点童子の言葉に、徐々に落ち着きを取り戻す村人達。鬼が居る状況で、ワザワザ外出するのは、アヤカシか開拓者ぐらいだろう。
「現在、私達の仲間が鬼の引き離しにかかっていますので、外にはお出になられませぬように…どうかお願い致します」
 村人を落ち着かせるように、シリーンが穏やかな口調で話し掛ける。混乱が治まったのを見計らって、4人は室内に足を踏み入れた。村人達に外傷は無いが、精神的に疲れているのは一目瞭然である。開拓者達の来訪を喜びつつ、助けを求める声が湧き上がった。
「ディヤー様。助けを求める人々を救うのも、上に立つ者の務めでございます」
 教育係兼従者のクアンタが、ディヤーに小声で呟く。将来、砂漠の部族を束ねる立場にあるため、今回は良い機会かもしれない。
 それを自覚しているのか否か、ディヤーは足元に散らばった豆をひとつ啄ばんだ。
「開拓者による豆まきじゃ! 貴公らは、ここでゆるりと見ておるが良い! 従え、クアンタ、サマン!」
 威風堂々と宣言し、従者2人に声を掛ける。村人達が歓喜の声を上げる中、4人は軽く顔を見合わせて集会所を後にした。仲間達と合流し、鬼を挟み撃ちにするために。

 硝の槍が鬼の頭部を貫く。敵の体が硬直した直後、瘴気と化して弾け飛んだ。
 これで、残るアヤカシは5体。数は逆転したが、開拓者達の疲労は相当蓄積していた。攻撃後の隙を狙うように、アヤカシが硝に向かって金棒を振り下ろす。
 その攻撃が届くより早く、3種類の銃撃が鬼に殺到した。次いで、黒い風が吹いて脇腹を抉り斬る。クアンタ、シリーン、ディヤーの射撃に、朱点童子の高速移動と斬撃。別行動をとっていた仲間が合流したのだ。
 考えるより早く、ジェラルドは追撃に走る。力強く大地を踏みしめ、上段から太刀を振り下ろした。裂帛の斬撃が敵を両断し、瘴気に還す。互いの死角をカバーするように、朱点童子とジェラルドは背を合わせた。
「集会場の奴等は、無事だったか……?」
「あぁ、問題無い。あとは、鬼を殲滅するだけた。最後まで気を抜かずにいこう」
 軽く笑みを浮かべながら、身構える2人。10人揃った事で、開拓者達の闘志に火が付いたようだ。
「そろそろお別れの時間だね…ジェノサイドクライマックス!」
 止めを刺すため、気力を充溢させてフルートを吹くリィムナ。魂を無に還すような衝撃が、残った敵を打ち付ける。その威力に耐えきれなくなった鬼が1体、口から瘴気を吐き出しながら地面に倒れた。ほんの数秒で、大気に溶けて無に還る。
「リィムナ殿も派手にやっているようじゃの。かかってこい鬼どもー!」
 挑発するように、敵に向かって叫ぶディヤー。彼の声に反応し、敵の1体が突撃して行く。ディヤーは驚愕の表情を浮べながら、シリーンの背に隠れた。『うぉぉ助けろー!』という叫び声が響いているが、聞かなかった事にしよう。
 シリーンとクアンタは、顔を見合わせ、軽く苦笑いを浮かべた。兵装を握り直し、視線を敵に向ける。
「節分の豆を受け取って頂けますか? 鉛製ですけれど」
 言葉と共に、クアンタは短銃を撃ち放った。弾丸が鬼の両脚を撃ち抜き、動きを鈍らせる。
 シリーンは魔槍砲に練力を加え、強烈な一撃を放った。射撃が敵の胴を貫通し、穴を穿つ。
「坊ちゃまっ。存分にお働き下さいませっ!」
 シリーンに促され、ディヤーはビクッと身を震わせた。相手は満身創痍で、抵抗する力は残っていないだろう。勇気を振り絞り、ディヤーは駆け出した。至近距離まで近付き、短銃の銃口を密着させるように発砲。弾丸が敵の体を貫くと、崩れるように消えていった。
「だいぶ鈍ってしまっていますね…これは気を引き締めて掛からないと」
 自身の腕に付いた傷を見ながら、独り呟く脩次朗。戦いのカンが戻っていないのか、予想以上に手傷を負ってしまったのを気にしているようだ。
「金棒如きに、負けたくありませんね…脩次朗さん、『鬼』の名を冠する武器を持つ者同士、一緒に仕掛けましょう」
 言いながら、『鬼徹』という銘の槍を構える硝。脩次朗は『鬼切丸』という銘の太刀を握りながら、静かに頷いた。タイミングを合わせ、2人が駆け出す。
 硝は正面から大きく踏み込み、槍を全力で突き出した。脩次朗は横から駆け寄り、太刀を高速で薙ぐ。2つの攻撃が鬼の上で重なり、衝撃が増加。霧を散らすように、敵の体が吹き飛んだ。
「残るは1匹…十結さん、俺達修羅の姿を真似ている鬼など、共に消し去ろう!」
「心得た! 往くぞ、我が武を以って押し通る!」
 2人の修羅が、広場を掛ける。衝甲は地面を蹴って更に加速し、敵が防御する暇を与えず肘鉄を叩き込んだ。
 入れ替わるように、十結が敵に接近。棍に精霊力を纏わせ、殴打と共に衝撃波を浴びせる。圧倒的な威力で敵の体が弾き飛び、地面に付くより早く崩れ落ちて空気に溶けていった。

●平和な夜明け
 空が白み始めた頃、敵を全て退治した開拓者達は集会所に向かって歩いていた。
「鬼と手合せしたのは初めてですが、なかなか楽しい仕事でしたね。村の人々も無事でしたし」
 口調は陽気だが、相変わらず無愛想な硝。口振りから察するに…人々を守れた事よりも『強敵と戦えた事』を喜んでいるようだ。
 その事には誰も触れず、集会所の中へと足を踏み入れる。10人を出迎えたのは、村人達の笑顔と歓喜の声だった。中には、まだ怯えている者も居るが。
「みんな、もう大丈夫だよ! あ、そうだ…あたしの演奏を聞いちゃえ〜♪」
 全員の心を慰めるため、リィムナは子守唄を奏でた。ゆったりとした曲が、精神を落ち着かせてリラックスさせていく。
 村人達の無事を確認し、ジェラルドは荷物を無造作に放り投げた。
「……取り逃がしが居れば厄介だ、俺は周囲を見回って来る。お前達は、岩清水と携帯汁粉でも喰って大人しくしてろ……」
 中身は、岩清水と携帯汁粉。言動は乱暴だが、彼なりに心配しているのだろう。
「一人では危険だ、俺も一緒に行こう。人命は未来に繋がる…絶対に守らねば」
「そうですね…俺も同行させて下さい。俺には、戦う事しか出来ませんから」
 それに気付いた衝甲と脩次朗が、同行を申し出る。2人共、村人を守るために協力したいのだろう。軽く視線を合わせると、彼等は見回りに向かった。
 集会所の隅では、クアンタがディヤーを労いながら今回の戦術について解説している。
「お疲れ様でした。今日のように、敵を誘導し有利な場所で戦うことも有効なので」
「相変わらず、口うるさいのう…リィムナ殿。余と鬼ごっこでもせぬか? 丁度『鬼』もおるしなっ!」
 クアンタの言葉を遮り、リィムナに声を掛けるディヤー。横目でチラチラとクアンタを覗き見て、様子を伺っている。恐らく、『鬼』とは彼女の事なのだろう。
 ディアーの言動に、クアンタは少々ご立腹のようだ。リィムナとディアーが逃げ出すと、鬼の如く2人を追って走り始めた。
「己が心の信じるがままに行動する…それはとても大切な事だ。しかし、時には心を静め、周囲を省みる事を忘れてはならぬ」
 十結の発言は、かなり重いし深い言葉である。だが…今の状況で言うと、色々と意味合いが違っているような気がしてならない。
「北森坊の仰る通りですね。坊ちゃまも、もう少し落ち着いて下さると良いのですが…」
 同意しながらも、大きな溜息を吐くシリーン。視線の先に映るのは、無邪気に逃げ回る主の姿。シリーンもクアンタも、日頃から苦労が絶えないようだ。
「村人は無事に守れたんだ、少しくらい遊ばせてやれ。子供は元気過ぎるくらいで丁度いい」
 朱点童子の言う通り、元気に遊ぶのが子供の仕事かもしれない。ディヤーは少々遊び過ぎている気もするが。
 いつの間にか、集会所内の子供達も加わって、10人近い人数が鬼ごっこをしている。こんな光景を見れるのは、平和な証拠だろう。