漆黒の『白』
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/31 22:26



■オープニング本文

「お願いです、おか〜さん達を助けて下さい!」
 突然ギルドの扉が開き、少女が大きな声で叫ぶ。歳は10歳前後くらいだろうか? 依頼人として多くの一般人が訪れるが、小さな子供が1人で来るのは珍しい。
 ギルド職員は少女を別室に移動させ、優しく語り掛けた。彼女を落ち着かせながら、事情を少しずつ聞き出していく。
 事の発端は、数日前。少女の住む村に『黒い雪』が降ったのが原因らしい。それは冷たく、軽く、静かに、村に積もっていった。黒い綿を敷き詰めたような光景は、想像するだけで不気味である。
 違うのは、色だけでは無い。この黒い雪は、握っても放置しても溶けなかった。近くで火を焚いても、お湯を掛けても溶けない。だが、冷たい感触は雪と変わりなかったらしい。
 これだけでも大変な事なのだが、少女がギルドに来た理由は他にもある。雪が降ってから数日、村人が次々に倒れて昏睡状態に陥ってしまったのだ。原因は分からないが、黒い雪が関係している可能性は高い。
「えっと…依頼料って、これで足りますか? 私、お小遣いあんまり持ってなくて…」
 申し訳なさそうに少女が差し出したのは、手の平いっぱいの小銭。恐らく、10文にも満たないだろう。
 正直、依頼料としては足りな過ぎる。だが…少女の願いを、想いを、無下にして良いのだろうか? 何より、苦しんでいる人達を見捨てる事が、人として正しい判断なのだろうか?
 ほんの少し悩んだ後、ギルド職員は少女の手を握って力強く頷いた。もしかしたら、足りない分は職員が肩代わりする気なのかもしれない。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
春風 たんぽぽ(ib6888
16歳・女・魔
一之瀬 戦(ib8291
27歳・男・サ
楠木(ib9224
22歳・女・シ
一之瀬 白露丸(ib9477
22歳・女・弓
落花(ib9561
14歳・女・巫
逢坂 覡(ib9745
28歳・男・志
王 梨李(ib9904
13歳・女・陰
ジェラルド・李(ic0119
20歳・男・サ
ノウェ=賣布=ブルッフ(ic0270
18歳・女・武


■リプレイ本文

●黒い雪の村
 冬に雪が降るのは、珍しい事ではない。『豪雪地帯』や『万年雪』という言葉があるくらいなのだから、天儀では雪と接する機会が少なくないのだろう。
 だが…今回の事件では、雪の常識を打ち破る事態に陥っていた。
「…真っ黒…一面黒にされるのは、なんだか、ちょっと…嫌、だな…」
 周囲を見渡しながら、独り呟く王 梨李(ib9904)。泰国であっても、雪は白いのが普通である。それが真っ黒になっていたら、彼女でなくても嫌悪感を抱くだろう。
「村の方々を苦しませる漆黒の雪…放っておく訳には参りませぬ。一刻も早く、元凶たるアヤカシを探しませう」
 悲痛な表情を浮べながら、落花(ib9561)が口を開いた。一見すると真面目なイイ子だが、内心では『マジやってらんねー』とか思っているのは秘密である。
「そうだな。幼い子供の必死の『お願い』とあっては、聞いてやらないわけにいくまい」
 彼女の隠された本心を知らない逢坂 覡(ib9745)は、同意しながら軽く笑みを浮かべた。積もった雪に軽く触れ、溶けない事と黒い事を確認する。
 ヤル気の2人を見ながら、ジェラルド・李(ic0119)は軽く溜息を吐いた。
「……お人好しだな。お前達も、受付も。まあ……俺には関係の無いことだ。さっさと、アヤカシを退治しに行くぞ」
 彼自身、ヤル気が無いワケではない。『子供を使って同情を誘い、安い報酬で働かせる詐欺師』が出る事を危惧しているのだ。そんな輩が居たら、ジェラルドから手痛いお仕置きを受けそうだが。
「では、班分けと合図は作戦通りで良いですね? ご武運をお祈り致します」
 アヤカシを退治したい気持ちは、全員同じである。三笠 三四郎(ia0163)が全員に問い掛けると、他の9人は静かに頷いた。そのまま、2人1組の5班に別れて村を探索していく。
「父上。私も少し後ろから付いて行きますが…どうかお気をつけて…」
 覡の背に声を掛けながら、周囲を見渡すノウェ=賣布=ブルッフ(ic0270)。彼女達に血縁関係は無く、養子関係でもない。それでも覡を『父上』と呼ぶのは、色々と事情があるのだろう。
 探索が続く中、村の北側と中心付近から青い狼煙が上がる。これは開拓者達が事前に決めた、『アヤカシを発見した時の合図』である。今回の敵は少々面倒な能力を持っているため、タイミングを合わせて倒す作戦なのだ。
「あのさ、ぽぽちゃん。前から気になってたんだけど…何で開拓者になったの?」
 聴力を研ぎ澄ませながら、楠木(ib9224)が問い掛ける。春風 たんぽぽ(ib6888)とは同じ小隊だが、疑問に思っていても聞く機会が無かったのだろう。
 楠木の疑問に答えるように、たんぽぽはゆっくりと口を開いた。自身の家の事、その歴史の始まりを探している事、手掛りか無くて闇雲に探し回っている事を。
「それでも、行動したかったんです。待ってるだけじゃ、始まりませんから」
 伝えるべき事を全て言い、たんぽぽはフニャリと笑った。陽光に照らされ、蒲公英のような色の頭髪が煌めく。
 彼女の話を聞き、楠木が言葉を口にしようとした瞬間、視界に雪だるまが映った。2人は顔を見合わせて軽く頷くと、たんぽぽは空に向かって青の狼煙を上げる。
 これで、発見された敵の数は3体。残る2体が見付かれば、戦闘開始である。
「漆黒の雪、ねぇ? 埃舞ってるみてぇで鬱陶しいわな。ってか寒ぃ…」
 空を見上げながら、視界に映る雪に不満の声を漏らす一之瀬 戦(ib8291)。彼等は既に敵を見付け、仲間の合図を待っていた。白い息を吐き、天野 白露丸(ib9477)を背後からそっと抱き締める。
 突然の事に、白露丸の体が一瞬強張った。
「っ!? ……早く帰って、温かい物でも飲もう。2人で、な」
 が、すぐに柔らかい表情に変わり、首を後ろに回しながら戦の手を軽く叩く。互いに見詰め合う中、青い狼煙が2発上がった。
 舌打ちしつつ、戦は白露丸を離して狼煙銃を撃ち放つ。彼の分も含め、5発の赤い狼煙が空に上がった。

●5極での戦い
「では、手早く倒しましょうか。再生されてしまっては、厄介ですし」
「了解しました。私では力不足ですので、援護に回らせて頂きます」
 狼煙銃を仕舞いながら、三四郎と落花は兵装を握り直す。狙いは、民家の陰に隠れていた1m程度の雪だるま。三四郎は一気に距離を詰め、大きく踏み込む。家屋を壊さないように注意しながら、三叉の槍を突き出した。
 矛先が届く直前、雪だるまは横に跳んで避ける。直撃しなかったものの、槍が脇腹を抉り取った。
 雪だるまの着地点を狙い、落花は杖を振るう。直後に敵の周囲が歪み、空間ごと捻じられた。衝撃が敵の体内を駆け抜け、瘴気と共に雪が舞い散る。
(避けやがって、マジウゼェ…抵抗すんなよ、めんどくせぇ…)
 そんな事を思いながらも、表には微塵も出さない落花。対照的に、三四郎は若干苦笑いを浮かべた。
「直撃は避けましたか…なら、次の一撃で粉々に打ち砕きます。落花さん、援護をお願いしますね?」
 言いながら、顔を落花に向ける。彼女は視線を合わせながら静かに頷くと、敵に向き直った。
 落花は空いている手を広げて雪だるまに向けると、握り潰すように空中で閉じる。直後、再び空間の捻じれが発生し、衝撃が連続で敵を打ち付けた。
 追撃するように、三四郎は腰を低く落として一気に地面を蹴る。槍をアヤカシの下部に突き刺し、そのまま斜めに振り上げた。更に右脚を軸にして回転し、横に薙ぐ。衝撃と槍撃の連続攻撃を喰らわせ、言葉通り敵を粉々に打ち砕いた。

「ノウェ、背中は任せたよ? 少々、暴れさせて貰おうか」
 そう言って、覡は地面を蹴って駆け出す。後を追うように、ノウェも走り出した。
「暴れる事は構いませんが…無茶をする事のありませんよう、お願い致しますね?」
 敵を射程に捉え、覡は刀と苦無を振るう。銀色の軌跡が雪だるまに迫るが、それが届くより早く後方に跳ばれてしまった。
 着地した敵に、ノウェが錫杖を突き出す。それを回転するような動きで避け、アヤカシは大きく跳び退いた。
「このアヤカシ、動きもせずに人の命を吸っているのが気に入らないが…攻撃を回避されるのは、意外とカチンとくるな」
 普段飄々としている覡にしては珍しく、怒りの言葉を口にする。その感情を表すように、両手の兵装が紅蓮の炎に包まれた。
「落ち着いて下さい、父上。同時攻撃で、一気に勝負を決めましょう」
 ノウェは兵装を握り直し、敵の周囲を移動しながら隙を伺う。タイミングを合わせて挟み撃ちにし、敵を倒すつもりなのだろう。
 彼女の意図に気付いたのか、覡も移動を始める。2人で敵の前後を位置取ると、覡は苦無を投げ放った。炎を纏った投擲物を、アヤカシは直上に跳んで避ける。
 それが、覡の狙いだった。空中ならば、避ける事は出来ない。2人は地面を蹴り、天に舞った。
 覡は燃える刀身で下から斬り上げる。ノウェは武器に精霊力を纏わせて突き上げる。2人の攻撃が重なり、敵の体が砕けて雪と瘴気が飛び散った。

 ほぼ同時刻。たんぽぽと楠木は苦戦を強いられていた。同じ雪だるまが相手なのだが、その動きは無駄に早い。チョコマカ逃げ回られ、イライラが募っていた。
「くっきーさん! その雪だるまが高く跳べる、か調べて貰えますか?」
「おっけー、任せて! どんな結果でも、ぽぽちゃんなら止めてくれるでしょ?」 
 視線を合わせて軽く頷く2人。互いに信頼し合っているのか、一切の迷いが無い。楠木は炎を生み出すと、敵の足元を狙って撃ち放った。
 迫り来る炎撃を、雪だるまは跳んで避ける。その高さは、2mにも満たない。
「勢いも時には大切ですから…やってみることに価値があるのではないでしょうか?」
 決意を固め、たんぽぽは詠唱を始めた。数秒後、地面に手を付いて精霊力に干渉する。直後、巨大な鉄壁が地面から伸び、敵の進路を塞いだ。
 突然の事に、逃げ回っていた雪だるまは壁に激突。『ベチッ』という音と共に、動きが止まった。
 その隙を、楠木が見逃すハズが無い。小太刀を逆手に握って接近し、斜めに斬り上げた。手首を返し、敵の頭を狙って兵装を突き立てる。切先がアヤカシごと鉄壁を貫き、衝撃で砕け散って瘴気が空気に溶けていった。
 敵を倒せた事に、手を叩きながら喜ぶたんぽぽ。楠木は自身の衣服に付いた雪を払いながら、彼女を見詰める。
「…やる事に意味がある、ね。やったトコで何も変わらなかったら、自分が傷付くのに…」
 呟いた言葉は、風に乗って空に消えていった。

『目視…固定。古の呼号…聞け! かの者の視界影より暗く、狙い定め定めさせず』
 開始の術式を口にし、梨李は霧状の式を呼び出す。それが雪だるまにまとわりつき、視界を奪った。飾りの目で見えているのか、少々疑問ではあるが。
 しかし、無意味では無かったようだ。こちらを見失ったのか、アヤカシは警戒するように周囲を見回している。
「アヤカシの防御など関係ない。その身体、真っ二つに断ち斬るぞ…!」
 言うが早いか、ジェラルドは一気に敵の懐に飛び込んだ。大太刀を最上段に構え、体中の気を収束させる。
『かの者捕らえよ、縛』
 梨李は言霊を追加し、更に式を呼び出した。雪だるまの周囲に小さな式が出現し、全身に絡み付いて束縛。動きを鈍らせた。
 直後、ジェラルドは刃を振り下ろす。全力を込めた一撃がアヤカシを両断し、瘴気が溢れ出した。ジェラルドは崩れ落ちるアヤカシを踏み付け、完全に消滅させる。
『礎は契約。敢行は我が名を以て。我が名は言霊師、梨李…術式完了』
 終了の言霊を唱え、戦闘の完了を告げる梨李。ジェラルドは兵装を納めながら、周囲を見渡した。
「…王、少しだけ手を貸せ。周囲に雪だるまや雪兎があったら…叩き壊すぞ」
 6体以上の雪だるまが存在していたら、敵は復活してしまう。それに、他の物に擬態している可能性も否定出来ない。それらを破壊し、厄介な事が起きるのを防ぎたいのだろう。
 ほんの少しだけ笑みを浮かべ、梨李は頷いて周囲の探索を始めた。

「俺ぁ敵打ち抜くしか能無ぇし、頼りにしてんぜ、鶺鴒」
 白露丸を愛称で呼び、ニッと悪戯っぽく笑う戦。白露丸は微笑を返し、弓に矢を番えた。
「期待に応えられるよう、尽力するよ。先ずは…」
 敵の退路を断つように、矢を連続で放つ。地面に突き刺さった矢は『逃げようとすれば、容赦無く射ち抜く』という意味を込めているのだろう。
 アヤカシが怯んだ隙に、戦は一気に距離を詰める。真紅の槍を強く握り、大きく踏み込んで突き出した。
 鋭い刺突を、アヤカシは直上に跳んで避ける。矛先が敵の体を掠め、雪と瘴気が零れた。
 跳んだアヤカシの虚を突くように、不規則な軌道の矢が突き刺さる。戦を支援するために白露丸が放った一矢が、敵の体勢を大きく崩した。
「戦殿、止めは任せた。遠慮無く、打ち抜いてくれ」
 言いながら、白露丸は弓を構えて狙いを定める。正確無比な照準から弓撃が放たれ、雪だるまの脇腹を射抜いて穴を穿った。
 落下してくる敵に向かって、戦は全力で槍を振り上げる。矛先が雪だるまを割り砕き、全身を両断。それが地面にぶつかって完全に砕け、黒い雪と瘴気が舞い上がった。
「…相手が雪だるまとか、なぁんか手応え無くてつまんねぇ」
 溜息と共に、戦の口から愚痴が零れる。槍を軽く振って地面に突き立てた直後、周囲の雪に異変が起こった。

●黒から白へ
 開拓者達の目の前で、黒い雪が浄化されて純白に戻っていく。ほんの数秒で、一面の黒い世界が白銀の世界へと生まれ変わった。
 変化の瞬間を各地で目の当りにし、驚嘆の声を漏らす開拓者達。白露丸は戦の隣に立ち、自身の手を見詰めた。戦闘前に触れた感触と温もりが、未だに残っている。再び温もりを求めて良いのか、迷いが脳裏をよぎった。
「…ヤッパ、白い雪はお前ぇに似合うな、鶺鴒」
 そんな彼女の想いに応えるように、戦はそっと手を握って微笑む。白露丸は繋がれた手と彼の顔を交互に見比べ、柔らかい笑みを浮かべた。
「…戦殿が、そう思うなら。でも…私は、消えない。傍に、居る」
 心から出た、彼女の素直な一言。それに応えるように、戦は白露丸を抱き寄せた。2人の心音が重なる中、空に狼煙が上がる。今は依頼中のため、『早く合流しろ』という合図なのだろう。戦と白露丸は顔を見合わせて軽く笑うと、集合場所に向かって駆け出した。
 数分後。集合した10人は、状況を報告し合った。
「さーて! 雪も元に戻ったし、本物の雪だるまをいっぱいつくろー! 可愛い雪だるまがいっぱい居たら、見てるだけで楽しいよねっ!!」
 元気良く叫び、拳を突き上げる楠木。その様子は、小さな子供のように無邪気である。
「楠木さん、ちょっと待って下さい。今は、村の中の除雪が先じゃないですか?」
 三四郎の言葉に、全員が周囲を見渡す。黒い雪では良く分からなかったが、村の積雪は相当な量になっている。これを一般人だけで処理するのは、かなり難しいだろう。
「同感だ…手は貸してやる。ただし、屋根と家の前だけだ。他は知らん。村の者は邪魔になるだけだ。家から出すな 」
 言うが早いか、ジェラルドは村の中に消えて行った。口調は厳しいが、本当は優しい男性なのかもしれない。
「除雪も大事ですが…私は村人の様子を見て回りませう」
 回復スキルを持っている落花なら、衰弱した村人達を癒せるだろう。本心では『クソ寒い中、雪かきするとかマジやってらんねーよ』的な事を考えているかもしれないが。
「僕も、そっちを希望するよ。急を要する者や、風邪を引きそうな者が居たら大変だしね」
 同意するように、覡が小さく手を上げる。除雪と見回り、どちらも大切なため、手分けして担当する事になった。ジェラルド、三四郎、戦、楠木、白露丸が雪かきする中、たんぽぽ、落花、梨李、覡、ノウェが村人を見て回ってる。
「どうかご安心ください。脅威はもう去りました故…」
 村人を精神的に落ち着かせるように、優しい言葉を掛けるノウェ。微笑みながらスキルを発動し、衰弱した体も癒していく。
「討伐は、出来たけど…まだまだ寒い日が続くから、体調…気を付けて、ね…?」
 梨李は軽く笑みを浮かべながら、住人を治療して布団を掛け直す。その気遣いが嬉しかったのか、彼等は安堵の表情を浮べた。
「待ってるだけじゃ始まらない…依頼に来た女の子は、分かっていたのかもしれませんね」
 住人の安否を確認し、たんぽぽは空を見上げながら独り呟く。ギルドで依頼人の少女に会ったら、報告と共に礼を述べるつもりだろう。
 開拓者達のお陰で黒い雪は消え去り、普通の雪と満面の笑顔が戻ってきた。