癒しの空間『朋友喫茶』
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/29 22:25



■オープニング本文

「茶屋の経営に協力しましょう! 世間は、癒しを求めているのです!」
 意味不明な事を口走りながら、陣代に詰め寄る克騎。珍しくヤル気を出しているが、何をしたいのか全く理解出来ない。陣代は克騎を落ち着かせながら、詳しい事情を問い質した。
「とある筋からの情報なのですが、今は『猫かふぇ』なる茶屋が人気らしいのです。癒しを求めて、行列まで出来ているとか」
 どこからの情報なのか猛烈に気になるが、ツッコんだら負けな気がする。克騎の説明では、猫を室内で放し飼いにして触れ合う場所を設け、茶や軽食を出す店らしい。くつろぎと癒しの空間を提供する事で、疲れた心と体をリフレッシュさせる事が目的らしいが…。
「一般人は、癒しを求めているのです! 朋友の力を借りれば多くの人々の好みに合わせられるハズ! 即ち、癒しの『完全調和』! ジルベリア語で言うと『パーフェクト・ハーモニー』!」
 自分の言葉に酔っているのか、克騎は完全に『アッチの世界』に行っているようだ。
 とは言え、一般人に癒しを提供するのは悪い事ではない。アヤカシを倒すだけでなく、人々に笑顔を与えるのも大切な仕事だろう。
 唯一心配なのは、克騎が暴走気味な事だけである。


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
紗々良(ia5542
15歳・女・弓
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
レビィ・JS(ib2821
22歳・女・泰
ウルグ・シュバルツ(ib5700
29歳・男・砲
刃兼(ib7876
18歳・男・サ


■リプレイ本文

●開店準備
 武天の一角にある、ジルベリア造りの喫茶店。いつもは人影が少ないが、今日は違う。開店前にも関わらず、長蛇の列が出来ていた。
 朋友と触れ合う絶好の機会なのだから、一般人が集まるのも当然かもしれない。誰もが胸を躍らせる中、店内では開店の準備が進んでいた。
「や、また会ったね。導くん……と、……ウルルさん! 今回も、よろしく頼むね?」
 赤いメイド服で身を包んだレビィ・JS(ib2821)が、笑顔を浮かべながら手を差し出す。悪意は一切無く、名前を間違えた事に微塵も気が付いていない。
 ウルグ・シュバルツ(ib5700)は軽く溜息を吐きながらも、そっと手を握り返した。
「あぁ……『ウルグ』・シュバルツだ。こちらこそ、世話になる」
 挨拶しながらも名前を訂正したが…レビィに通じたか、微妙かもしれない。
 主人の非礼を詫びるように、彼女の相棒、忍犬のヒダマリがウルグに頭を下げた。
『思い付きで、良くここまでやりおるのう…だが、挑戦する意欲とその実行力、嫌いではないぞ』
 ウルグの相棒、管狐の導が、克騎の周囲を飛び回りながらクツクツと笑う。それに応えるように、克騎は静かに笑みを返した。
「掃除に釣銭の用意、暖房の設定……絶橘さん、やることがあったら遠慮なく申しつけてくださいね」
 ウルグと同じ、ベスト仕様の男性用給仕服を着用している菊池 志郎(ia5584)。色々と気が回るのか、彼が一番動き回っている。
「そうですか? ではマイブラザー・志郎。今日1日、コレの着用をお願いします♪」
 満面の笑みを浮かべながら、克騎はピンクのメイド服を差し出した。『遠慮無く』とは言ったが、コレは色んな意味で間違い過ぎている。
 志郎は軽く笑みを浮かべているが、目が全く笑っていないため、威圧感が尋常ではない。
『あはは〜。しーちゃん達、仲良しさんだねー』
 そんな様子を見て、志郎の相棒、羽妖精の天詩は柔らかい笑みを浮かべた。実際は、若干微妙な雰囲気なのだが。
「癒しを提供できるか否か、よく、分からないが……キクイチ、一緒にひと仕事だ」
 相棒の猫又、キクイチの頭を撫でながら、刃兼(ib7876)が優しく語り掛ける。彼の服装も男性用給仕服だが、衣装と共に伊達眼鏡を借りていた。キクイチが話した『眼鏡男子』に関する噂話の影響だが、どんな内容なのか気になるトコロである。
『任せておくんなんし。わっちの魅力なら、イチコロでありんす』
 言いながら、キクイチはウインクを飛ばした。好奇心旺盛なのか、他の開拓者や朋友にも興味を示している。
 他の開拓者達から若干距離を置いているのは、紗々良(ia5542)と相棒の忍犬、光陰。人見知りが強いため、無意識のうちに避けているのかもしれない。とは言え、光陰は赤い蝶ネクタイをつけているし、紗々良はピンクの丈長エプロンドレスを着て衣装を合わせているが。
「朋友喫茶…楽しそう。光陰も、お友達、増えるといい、ね」
 紗々良の言葉に、光陰は尻尾をフリフリしながら元気に吠える。
 その隣では、違う朋友も尻尾をフリフリしていた。
『神父様〜、僕もお菓子欲しいでふ〜』
 エルディン・バウアー(ib0066)の相棒、もふらのパウロである。大食漢なため、小腹が空いてきたのだろう。
「駄目ですよ、パウロ。念のために言っておきますが…お客様が食べ物をくれた時以外は、手を出さないように。分かりましたね?」
 笑顔のまま、厳しい口調で言い聞かせるエルディン。普段から神父をしているせいか、畏まった給仕服も見事に着こなしている。
 今回参加した男性陣は給仕服を借りた者が多いが…1人だけ、牛のきぐるみを着ている者が居た。
「さぁて…そろそろ開店だな。俺は外で客の呼び込みしてるから、お前は中で頑張るんだぞ?」
 村雨 紫狼(ia9073)である。相棒のからくり、タマミィを連れて来たのだが、恥ずかしがり屋なため紫狼から離れようとしない。そんな彼女を一人前にするため、心を鬼にしたのだが……。
『パパのばか〜〜うわ〜〜ん! タマ、おうちかえるのぉ〜〜!!』
 相当不安なのか、小さな子供のように駄々をこねて泣きそうになっている。無論、からくりに涙を流す機能は無いが。
「何だか、楽しい事になりそうよね〜。ユーちゃん、今日は好きにやって良いわよ」
 仲間達の様子を眺めながら、楽しそうに笑みを浮かべる葛切 カズラ(ia0725)。水色のメイド服を着用しているが、胸がカナリ窮屈そうである。
『好きに、ですか? では、皆様の邪魔にならないように頑張ります!』
 カズラの相棒、羽妖精のユーノは、小さな手を握りながら決意を新たにした。

●癒しの空間
 太陽が真南に昇った頃、朋友喫茶の入り口が開かれた。それを待っていた一般客達が、期待と共に店内に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ。癒しの空間へ、ようこそ♪」
 エルディンの必殺技『輝く聖職者スマイル』が女性客を次々に虜にしていく。光陰は尻尾を振ってお出迎えし、パウロは早速もふもふされている。カズラは0文のスマイルを見せ、客を席へと誘導した。
 席に着いた客に、朋友達がメニューを渡す。ユーノと天詩はそのまま注文も受けているが、大半の朋友は撫でられたり抱き上げられたりしていた。ちなみに、タマミィは絶賛挙動不審中である。
「お客様、是非『コレ』を使って遊んでみて下さい。キクイチのお気に入りですので」
 キクイチと戯れている少女に、刃兼がそっと猫じゃらしを差し出す。少女は満面の笑みを浮かべながらそれを受け取ると、キクイチの鼻先で軽く振ってみせた。
『んにゃ! それは魅惑のねーこーじゃーらーしー!』
 目を輝かせながら、嬉しそうに飛び付いてジャレるキクイチ。彼も少女も、見物している者も楽しそうである。
「失礼します。よろしければ、こちらをお使い下さい。温かいお茶も用意してありますので」
 寒そうにしている女性客に向かって、志郎は膝掛を差し出した。優しい気遣いに、女性の頬が赤くなっているようにも見える。
 来店客は予想以上に多く、既に席は満席。外で待っている客も多く、紫狼が行列整理をしている状態だ。
 店内では、男性客のリクエストで天詩が歌声を披露している。羽から光の粉を舞い散らし、周囲の注目を独り占めである。
『あの…天詩様。今度は、私もご一緒して良いでしょうか?』
 ユーノの提案に、笑顔で頷く天詩。2人は手を繋ぎ、仲良く歌い始めた。その可愛らしい姿に、男性客はメロメロになっている。ユーノが投げキスを飛ばすと、野太い声援が飛び交った。
「ん〜…無駄にヒラヒラして、スカートはやっぱり落ち着かないなぁ…」
 スカートに慣れていないのか、若干動き辛そうなレビィ。空になった食器を運んでいるが、何も無い所でつまづいて大きくバランスを崩した。転ばないように体勢を整えたが、反動で食器が宙に舞う。
 それに気付いたヒダマリは、男性客の膝から飛び降りて床を蹴った。食器の落下地点に先回りし、グラスを咥え、頭や背で皿を受け止める。その見事過ぎる動きに、歓声と共に拍手が湧き起った。
 そのまま、ヒダマリは食器を割らないように厨房へ運ぶ。店内同様、厨房も大忙しだ。紗々良、ウルグ、克騎の3人が忙しそうに動き回り、調理や洗い物に努めている。レビィが時々手伝っているが、大変な事に変わりは無い。
 ウルグはヒダマリに気付くと、食器を受け取って軽く頭を撫でた。嬉しそうに軽く鳴くと、ヒダマリは店内へと戻って行く。その背を眺めながら、ウルグは軽く溜息を吐いた。
「なぁ…さっきから店内を覗いてる『アレ』は、誰なんだ?」
 言いながら、窓の外を指差す。その先に居るのは、挙動不審な牛のきぐるみ。ウルグが店内を覗くたびに視界に入り、相当気になっているのだろう。
「あぁ、『ロリコンの方の』マイブラザー・紫狼ですね。多分、朋友の様子が気になってるんでしょう」
 微塵も迷わず、しれっと言い切る克騎。『しろう』という名前の開拓者が2人参加しているため、勘違いしないように気を遣ったようだが…違う言い方があったような気がしてならない。
 当の紫狼は、落ち着かない様子でタマミィを覗いている。状況的に『タマミィの様子見ついでに、行列整理している』と言っても過言では無い。
「…オーウ案の定、半べそだよ……神父さんトコの『もふ珍獣』とかの方が堂々としてるし!」
 紫狼の言う通り、タマミィは挙動不審な上に泣きそうな状態である。対照的に、パウロと導は堂々と構え、光陰とヒダマリとキクイチはお客と戯れている。ユーノと天詩は男性客とお喋り中だし、タマミィは参加朋友唯一の人型という事もあって、嫌でも目立っているのだ。
『うわあ〜〜〜ん、パパァ〜〜!!』
 とうとう我慢出来なくなったのか、タマミィは店内から逃げ出して紫狼に抱き付いた。突然の事に驚いている客が多いが、彼女の可愛らしい仕草に『萌え』を連呼している者も居たりする。
 困ったように後頭部を掻きながらも、嬉しそうな表情の紫狼。もしかしたら、意外と親馬鹿なのかもしれない。
「そこの金髪のオニーサン♪ 一緒にお茶しませんか? あ、眼鏡のオニーサンも♪」
 タマミィと紫狼の様子を見に行こうとしたエルディンと刃兼だったが、女性の団体客が2人を呼び止める。店内は満席だが、手が足りない程忙しいワケでも無い。2人は顔を見合わせ、軽く笑った。
「私でよろしければ、喜んで」
 視線を女性客に戻すと、エルディンの輝くようなスマイルと共に、歯がキラッと光る。黄色い声が店内に響く中、2人は席に着いてお茶を御馳走になった。
 試験営業とは言え、店を経営しているのだから最後は会計する必要がある。基本的には、手の空いた者が会計を行う事になっているのだが…。
「お会計が198文だから、200文お預かりして……400文のお釣り、かな?」
 前代未聞の、豪快な計算間違いを披露するレビィ。どうやら、計算があまり得意ではないようだ。会計に来たお客さんもビックリである。
 その様子を目撃したカズラは、足早に会計所へ駆け寄る。
「レビィさん…ここは私に任せて、接客をお願いして良いかしら?」
 彼女の提案に静かに頷き、来店客を席に誘導するレビィ。カズラは気を取り直し、会計待ちの長蛇の列を捌き始めた。
「すいません、お帰りの前に…当店に対するご意見を頂けませんか? 勿論、任意で構いませんので」
 帰ろうとしている客に、志郎が声を掛ける。手にしているのは、紙と羽ペン。利用客の意見を聞き、今後の役に立てたいのだろう。
 書いてくれた人には、天詩が野の花を一輪手渡す。
「ありがとー。うた、いっぱいお話できて楽しかったよ」
 彼女の明るい笑みに見送られながら、利用客は満足そうに帰って行った。入れ替わるように、新たな客が来店。志郎と天詩が席に案内して行く。
「こっちも大忙しだな。今日の『オススメの献立』とか、あるか?」
 お茶が一段落したのか、刃兼が空いた食器を持って厨房に顔を出す。癒されて食が進んでいるのか、誰かがオネダリしているのかは分からないが、お茶や軽食の注文が止まる様子は全く無い。
「えっと…志郎さんが、作ってくれた『ケークサレ』が、オススメ、です」
 紗々良が言うように、志郎が開店前に作ったケークサレは好評である。追加注文が多く、そろそろ最初に作った分が無くなりそうだ。
 納得しながら、刃兼は注文の料理を運んで行く。今聞いた事が、客との会話の糸口になるかもしれない。
 着ぐるみを脱いでタマミィの付き添いに回った紫狼だったが、猛烈な苦笑いを浮かべていた。
「なぁ、タマミィ…俺の背中に隠れてたら、仕事になんねー気がするんだけど」
 問い掛けられても、彼女は首を振るだけで前に出ようとしない。1人にされたのが、相当嫌だったようだ。それでも、小さな子供に話し掛けられた時は何とか対応している。もしかしたら、子供から徐々に慣れさせれば、人見知りが少しはマシになるかもしれない。
『どれ、そろそろ我の余興でも披露しようかの。これ、あまり毛皮を乱すでない』
 若干毛皮を乱されながらも、導は被っていたシルクハットを脱いで前脚をかざした。意識を集中させた直後、全身から少量の煙と光が溢れる。周囲から驚愕の声が上がる中、導はシルクハットの中から小さな焼き菓子を出して魅せた。その手並みと演出に、歓声が湧き上がる。
「何だぁ? この店じゃ犬や猫が働いてんのか? 道理で獣臭ぇワケだぜ!」
 盛り上がる店内に水を差すような、ガラの悪い大声。全員の視線が、その人物に集まる。声の主は、明らかにガラの悪い男性2人組。恐らく、イヤガラセをして楽しんでいるのだろう。見ているだけで不快になるような、薄ら笑いを浮かべている。
「動物が人間様のつもりか? お前等は残飯でも喰ってれば良いんだよ!」
 叫びながら、テーブルを蹴り飛ばす。上に乗っていた料理や飲み物が飛び散る中、それが来店客や朋友達に掛からないよう、エルディンと刃兼、ウルグの3人は身を挺して庇った。お陰で被害は出なかったが、3人の衣服は凄い事になっている。ウルグは皿を下げに来ていたのだが、タイミングが悪かったとしか言えない。
 料理で汚れた3人を見ながら、2人組は楽しそうに笑い声を上げている。開拓者達が声を掛けるより早く、パウロが彼等に歩み寄った。
『どうしてそんなこと言うでふ? 僕たち、一生懸命でふよ?』
 可愛くてクリクリした瞳で、2人組をジ〜ッと見上げる。こんな瞳で見詰められたら、どんな者でも言葉を失ってしまうだろう。それがゴロツキであっても例外ではない。
「言葉は、喋れなくても…この子も、生きてるから。自分が、されてイヤな事は、しちゃダメ…体験、してみる?」
 更に、紗々良の金色の瞳が2人を射抜く。刃兼達のお陰で光陰は汚れずに済んだが、自身の相棒に暴言を吐いた事、来店客を不快にさせた事が許せないのだろう。
 パウロと紗々良に見詰められ、男性客は反論の言葉を失っている。追い打ちをかけるように、天井からヤモリが落ちて顔に張り付いた。情けない悲鳴を上げ、2人組は驚愕の表情を浮べる。
 その隙に、エルディンはスキルを発動させて2人を眠りの底に落とした。それを、志郎と紫狼が持ち上げて窓からポイッと投げ捨てる。
 邪魔者が居なくなり、店内で再び歓声が上がった。光陰、ヒダマリ、キクイチはタオルを持って来て、刃兼達に渡す。
「導…さっきのヤモリ、お前か?」
『はて、何の事かのう?』
 タオルで頭を拭きながら、ウルグが問い掛ける。答えをはぐらかし、導はクツクツと笑った。

●1日の終わりに
 大小様々な問題はあったものの、利用客からの評判は良好。日没と共に、閉店の時間を迎えた。店内の掃除や残務をこなし、長かった1日がようやく終わる。
「ふぅ…やっぱり、こういう畏まった服は慣れないな」
 給仕服を脱ぎ、私服に着替えるウルグ。慣れない服装で苦労したのか、安堵の息を洩らしながら肩や首を回している。
『光陰もヒダマリも、ご苦労だったの。大義であったぞ?』
 朋友達の労を労いつつ、導は夕食代わり出された賄いに口を付けた。直後、それを作った克騎に厳しい駄目出しが飛ぶ。
 克騎が自信を失っている最中、刃兼は部屋の隅に置かれた着ぐるみに視線を向けていた。
「…刃兼さん、まるごとさんに、興味、あるの? 光陰とお揃い、の、わんこ…オススメ」
 光陰の頭を撫でながら、笑顔で着ぐるみを進める紗々良。同意するように、光陰は元気に鳴いて尻尾を振っている。
「…すまないが、遠慮させて貰う。興味があるわけじゃないからな、うん」
 咳払いしつつ、刃兼は若干恥ずかしそうな表情を浮べた。もしかしたら、着ぐるみに前掛け姿の自分を想像したのかもしれない。
『刃兼はん、意外と照れ屋でありんすから。わっちと同じ、猫ならどうでありんすか?』
 楽しそうに笑いながら、キクイチは黒猫の着ぐるみをペチペチと叩く。どう見ても、からかっているようにしか見えないが。
『どうせなら、まるごとおろちは如何でしょう? 今年の干支ですし、おめでたいと思いますよ』
 悪ノリするように、ユーノが蛇の着ぐるみの舌を引っ張る。確かに縁起物だが…刃兼に似合うかは別問題だろう。
「こらこら。お仕事終わってから着ても、あんまり意味無いわよ?」
 微笑みながらも、冷静にツッコミを入れるカズラ。彼女の指摘に、紗々良とキクイチ、ユーノは、納得したように『ポンッ』と手を叩いた。
『まるごとさん、楽しそう……ねぇねぇ、しーちゃんも』
「着ませんよ。絶対に。そういうのは、村雨さんや絶橘さんの役目ですし」
 天詩の提案を先読みし、キッパリと断る志郎。『しーちゃん』という呼び方が嫌いなのも、理由の1つかもしれない。天詩は志郎の肩に座りながら、不満そうに頬を膨らませている。
「お疲れ様、マイ・ドータァァッ! お前は良く頑張ったっ! サイッコーの娘だぜ!」
 異常なまでにハイテンションな紫狼は、全身で愛情を表現していた。タマミィを抱擁したり、頭を撫でたり、喜びの舞を踊ったり、大忙しである。
『うぅ〜…タマ、怖かったし疲れたのぉ〜!』
 緊張の糸が切れたのか、膝から崩れ落ちて床に座り込むタマミィ。
 そんな彼女にパウロが歩み寄り、立ち上がって前脚で頭を撫でた。
『お疲れ様でふよ。神父様のオヤツ、一緒にどうでふ?』
 言いながら、空いた前脚でお菓子を差し出す。若干戸惑いながらも、タマミィはそれを受け取って嬉しそうに口元へ運んだ。
「って、パウロ! また勝手に私のオヤツを…お仕置きです!」
 後で食べようと思っていたお菓子を取られ、エルディンは御立腹である。パウロに飛び掛かり、激しい勢いでモフモフし始めた。勤務中は我慢していたため、欲求が爆発しているのだろう。
 終始、和やかな雰囲気で包まれていた朋友喫茶。その照明が全て消え、別れの時が訪れた。
「それじゃあまたね。導くん、ウルズさん!」
 最後の最後まで、名前を憶えられなかったレビィ。今回も導が目立っていたため、仕方ないかもしれないが。
 ヒダマリは『ダメだこりゃ』と言いたそうに溜息を吐き、残念そうに首を振った。