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■オープニング本文 「つい最近までクリスマス一色だったのに、もう正月が終わっちまったな。時間が経つのは早いもんだぜ」 溜息と共に言葉を吐く男性。行商人なのか、大量の荷物を背負って雪の街道を歩いている。 彼の隣で、眼鏡の男性が軽く笑みを浮かべた。 「その言い方、オジサン臭いですよ? 確か、貴方は『永遠の16歳』だったハズですが?」 「うるせぇ、コノヤロー」 冗談混じりの会話に、笑みが零れる。2人は幼い頃からの付き合いで、30歳を超えた今でも友好な関係が続いているようだ。和やかな空気が周囲を包んでいたが、それが唐突に終わりを告げる。 街道脇の林から、怪しい影が姿を現した。白縁の真っ赤な服に、同色のナイトキャップ。白い口ひげを生やした、筋骨隆々の男性。この風貌は…。 『さ…さんたくろぉす?』 男性2人の声が重なる。目の前に居る『モノ』はサンタクロースに限りなく似ているが、どう見えて怪しい。袋の代わりに巨大な鉄球を持っていて、明らかに好戦的である。 不安を加速させるように、林から怪しい仲間が姿を現す。トナカイ…の、角が生えた大蛇が2匹。こうなると、どこからツッコんで良いのか迷ってしまう。 状況を飲み込めずに、放心状態な男性達。そんな事は一切気にせず、サンタらしき者口を広げた。その口内に火の玉が生まれ、膨張していく。 危険を察知した2人は、荷物を捨てて逃げだした。ほぼ同時に、火球が放たれて荷物を飲み込んだ。赤々と燃える炎を背に、来た道を逃げて行く男性達。サンタと大蛇の周囲には、瘴気が漂っていた。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
鍔樹(ib9058)
19歳・男・志
緋乃宮 白月(ib9855)
15歳・男・泰
スチール(ic0202)
16歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●怪奇の居る街道 冷たい風が街道を吹き抜け、木々を揺らす。寒さの強いこの季節は、外に出るのも億劫である。その上アヤカシが暴れているのだがら、住民には迷惑極まりないだろう。 しかも、暴れているアヤカシの姿には問題があったりする。そんな問題だらけのアヤカシを倒すため、開拓者達は街道を歩いていた。 「さんたさん…だと? 子どもたちの希望を踏みにじるような真似をしおって…許せん! この私が征伐してくれるッ!」 ラグナ・グラウシード(ib8459)の言う通り、今回のアヤカシはサンタクロースの姿を模している。彼でなくても、怒りを露にするのは当然だろう。 「俺ァジルべリアの祭りやクリスマスの風習に、そこまで明るいわけじゃねえけども…どう考えても、今回のアヤカシはおかしいだろ。全天儀のちびっこ達が泣くんじゃね?」 頬を掻きながら、軽く苦笑いを浮かべる鍔樹(ib9058)。筋骨隆々で、鉄球を持つサンタさん……そんな姿を見たら、天儀以外のちびっこも大号泣間違いない。 「私も詳しくは知らないのですが、確か…サンタの名を担う者は『善き人々に希望を与え、世の不条理と戦って来た』とか。それが、アヤカシ如きに名乗られるとは…」 普段は滅多に感情を出さない三笠 三四郎(ia0163)だが、今は不快感を露にしている。どうやら、アヤカシがサンタの姿を模している事に、相当ご立腹なようだ。 「季節外れというか、あまりにもいろいろ間違ったサンタさんですよね。これ以上暴れられても困りますし、早目に退治をしていまいましょう」 穏やかな口調ながら、決意を固める露羽(ia5413)。アヤカシに常識を求めても仕方ないが、ここまで間違い過ぎていると『迷惑』としか表現出来ない。 「同感です。『さんたくろぉす』を模した目的も気になりますけど、クリスマスも終わってますし、早々に退場して貰わないと」 緋乃宮 白月(ib9855)は、アヤカシの容姿が気になっているようだ。何かを企む知能があるかは不明だが、知力が高いならもっとマシな外見をしている気もする。 「何にせよ、敵は倒すだけ…早速、お出ましのようだな」 話していた言葉を区切り、スチール(ic0202)は不敵な笑みを浮かべた。視線の先に居るアヤカシは、仁王立ちしている人型が1体と、大蛇が2匹。距離は20m前後だろう。 アヤカシを発見して戦意が高まる反面、開拓者達の中で疑問が強まった。 「これ、ジルベリアの絵本で見た『サンタさん』とは全然違うんですけど……もうちょっと上手く化けられなかったんですかね」 菊池 志郎(ia5584)が溜息混じりに言葉を吐く。呆気にとられている反面、荷物を取られた行商人達に同情していたりする。 「蛇は干支に合わせたのかな? んなわけないか♪ 兎に角、さっさとやっつけちゃおう!」 確かに今年の干支は巳だが、トナカイの角を生やした蛇など、聞いた事が無い。リィムナ・ピサレット(ib5201)は自分の意見を笑い飛ばしながらも、兵装に手を伸ばした。 ●間違いを退治する者達 「私は女子供と弱者を守る騎士! 後衛の人間は私の後ろに…あれ、みんな強いな…」 自身を盾にして仲間を守ろうとしたスチールだったが、この場に居る全員が彼女よりもレベルが上だったりする。 開拓者達の存在に気付いたのか、大蛇のアヤカシが耳障りな叫び声を上げながら突撃して来た。 「ヤル気満々だなァ…上等ってもんだ。角ある同士、お相手よろしく頼まァな!」 「アヤカシの角はトナカイを模したのだと思いますけど…何か間違っている気がします」 それを迎え撃つように、鍔樹と白月が駆け出す。2人と2体の距離が近付く中、大蛇の片方が頭を振り、鍔樹に向かって角を向けた。迫り来る角を、鍔樹は素早い体捌きで横に避ける。そこから六尺の槍を鋭く振り、薙ぎ払うような殴打を叩き込んだ。 2匹目の大蛇は、大きく口を開いて白月を狙う。それが届くより早く、彼は気の流れをコントロールして大地を踏みしめた。驚異的な瞬発力で回避軌道を描きながら、両腕の布を振るう。鋭利な先端が敵の全身を斬り、瘴気が漏れ出した。 「お2人共、大蛇の相手はお願いしますね? 見た目はチグハグで面白いですけど、実力は侮れないようですし、お気を付けて」 露羽の言葉に、鍔樹と白月が静かに頷く。大蛇の注意が逸れている隙に、露羽と三四郎はサンタに向かって駆け出した。 「私は、あなたを『聖者(サンタ)』とは認めません。時期など関係なく…二度とこの様な事が無い様に叩き潰します」 三四郎は激しい殺気と剣気を叩き付け、敵を怯ませて威圧。間髪入れずに三叉の槍を突き出し、サンタの脇腹を抉り取った。 吹き出す瘴気を斬り裂くように、露羽が刀を振るう。斬撃が瘴気を振り払い、アヤカシの体を斬り裂いた。 「とりあえず、あたしには近付かないでよね。気色悪いしっ!」 リィムナの言葉に呼応し、アヤカシ達の足元から魔法の蔦が伸びる。それが全身に絡み付き、動きを鈍らせた。 直後、ラグナがサンタに向かって駆け出す。 「ふははははっ! 出てくる時期を間違えたのか貴様?! その赤い帽子の下、頭の程度も知れたものだなッ!」 挑発するような言葉を吐き、相手の神経を逆撫でる。怒りで防御能力が乱れた隙に、大剣を振り下ろした。 斬撃が敵の怒りを加速させたのか、サンタは鉄球の鎖を強く握って振り回す。咄嗟に、三四郎と露羽は後方に飛び退き、射程外まで退避した。 一瞬反応が遅れたラグナは、大剣を盾代わりに構える。遠心力を上乗せした鉄球が何度も打ち付け、固い金属音と共に火花が散った。 「ちっ、私は退かんぞ、この程度でッ!」 苦痛で顔を歪めながらも、ラグナは退こうとしない。両脚を踏ん張って腰を落とすと、全身の力を込めて鉄球を弾き飛ばした。が、残念ながら無傷で済んでいない。 「無理はしないで、怪我をしたら言ってくださいね?」 言葉と共に、志郎は優しい風を吹かせた。本当は大蛇担当を支援するつもりだったが、怪我人が居たら見捨てるワケにはいかない。癒しの力を宿した風が、ラグナを包んで負傷を治していく。 スチールは地を蹴ると、2匹目のアヤカシに突撃。長剣を握り直すと、回避困難な斬撃を叩き込んだ。鋭い一撃がアヤカシを捉え、斜めに斬り裂く。攻撃は成功したが、スチールは何故か驚愕の表情を浮べた。 「そんな! 流し斬りが完全に入ったのに…」 この技が完全に入れば、相手は立ち上がる事すら出来ないと言われている。にも関わらず、アヤカシが倒れない事に驚きを隠せないようだ。 「おいおい、そんなに驚く事か? そう簡単に倒せる程、世の中甘く無ェだろ」 軽く笑みを浮かべながら、鍔樹がツッコミを入れる。言ってる事は正論なのだが、スチールには予想外の一言だったようだ。平静を装おうとしているが、顔が猛烈に引きつっている。 「一撃で倒せないなら、倒れるまで何度でも攻撃すれば良いんですよ。こんな風に…!」 白月の拳撃と共に、黒布の斬撃が入り乱れる。それが2匹目の大蛇に降り注ぎ、全身に傷を叩き込んだ。 瘴気が立ち昇る中、炎の球が街道を駆け抜ける。鉄球を飛ばされたサンタが、炎を放ったのだ。それが火の粉を散らしながら一直線に伸び、リィムナに迫る。 彼女は避ける素振りも見せず、片手を前に突き出した。手の平に火球が直撃し、熱で空気が歪む。 「…ふふん、その程度じゃあたしの薄皮一枚焦がす事は出来ないね♪」 不敵に笑い、リィムナは全力で炎を握り潰した。砕けた火球が舞い散り、空気の中に消えていく。 「って、ピサレットさん! 無茶は駄目ですよ。ほら、手を貸して下さい」 志郎が慌てて駆け寄り、リィムナの手を取った。口ではああ言ったものの、手の平全体に軽度の火傷が広がっている。軽く溜息を吐きつつ、志郎はリィムナの手に癒しの風を吹かせた。 ばつが悪そうな顔をしながら、リィムナは空いた手で頬を掻く。そんな彼女を再び狙い、サンタは口を広げて口内に炎を生み出した。 「2発目は撃たせません。これでも喰らいなさい!」 叫びながら大きく踏み込み、三四郎は敵の口内に一撃を捻じ込む。槍が炎を打ち砕いて口の奥を貫通し、火の粉と共に瘴気が周囲に散った。 三四郎が槍を引き抜くのと同時に、横から影が伸びる。 「この影から、決して逃がしはさせません…!」 静かに言い放ち、露羽はサンタに影を絡ませて締め上げた。自由を奪う程の激しい拘束が、敵の自由を奪う。 追撃するように、リィムナは無傷の手で指を鳴らした。それが電撃を呼び、2筋の閃光が宙を奔って敵の両目に突き刺さる。 この好機を、ラグナが見逃すワケが無い。全身のオーラを全て放出し、戦闘能力を格段に上昇させて斬撃を放った。輝く剣閃がサンタを深々と斬り裂き、瘴気が噴き出した。 激戦が続く中、2体目の大蛇がスチールに向かって牙を剥く。反射的に身を翻したが、牙が腕を掠めて赤い線を描いた。反撃するように、スチールは長剣を振る。連続で放たれた斬撃が大蛇を斬り裂き、十字の傷を刻み込んだ。 その隣で、鍔樹は兵装に精霊力を宿す。紅い燐光を放つ槍を突き出すと、紅葉のような光が散り乱れた。両鎬造りの矛先が1体目の大蛇に突き刺さり、穴を穿つ。 傷口から瘴気を漏らしながら、大蛇は鍔樹に向かって突撃を放った。 と、思ったのも束の間。大蛇は直前で進路を変え、スチール目掛けて背後から突進して行く。 「スチールさん、後ろ!」 敵の不意打ちに気付いた志郎は、叫びながら印鑑型の武器を投げる。それが大蛇の額に命中し、一瞬動きが止まった。 「すみません、一気にいかせてもらいます…!」 白月は距離を詰めながら、全身の気を集中させて一気に解放。更に、全身の細胞を覚醒状態にして高速の三連撃を繰り出した。一瞬で多大なダメージを受けた大蛇は、そのまま地に伏す。ほんの数秒で、1匹目の大蛇は瘴気と化して空気に溶けていった。 「私とした事が…2人共、面倒を掛けて申し訳ない」 守られる事に慣れていないのか、申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にするスチール。志郎と白月は顔を見合わせると、彼女を慰めるように肩を叩いた。 「長期戦になるのは、好ましくないですね…不愉快な姿をしていますし」 不快感を露にしながら、三四郎が独り呟く。戦闘が長引けば、それだけ敵の動きに注意する必要がある。嫌いな者を見続けるのは、相当なストレスに違いない。 「では…左右から同時攻撃を仕掛けませんか? タイミングは合わせます」 その声が聞こえたのか、露羽が刀を握りながら提案する。三四郎が視線を合わせて静かに頷くと、彼も頷きながら静かに微笑んだ。 「待て、私も一緒に行く! 喰らって吹き飛べ、アヤカシめッ!」 ラグナは2人の会話に割り込み、答えを待たずに突撃。それを追い、三四郎と露羽は両側からサンタに迫る。 ラグナはオーラを剣に収束させ、斬撃と共に敵の体内に送り込んだ。それが内側から炸裂し、衝撃が全身を駆け抜ける。 次いで、露羽は掌底でサンタの頭部を揺らし、体勢を崩した。間髪入れずに刀で斬り上げ、敵の胴を深々と斬り裂く。 更に、大きく踏み込みながら槍を突き出す三四郎。衝撃を纏った槍撃が敵を貫き、傷口から瘴気が噴き出した。 3人の連続攻撃を受けながらも、まだサンタは倒れていない。 「しぶといなぁ。喰らえ、雷の牙! ライトニング・ブラストー!」 リィムナが叫びながらサンタを指差すと、彼女の体から4筋の閃光が生まれた。それが雷の力を伴いながら宙を奔り、サンタの胴を次々に射抜く。全身から瘴気を漏らしながら、アヤカシは膝から崩れ落ちて空気に溶けていった。 これで、残すは大蛇1体のみ。 「こいつで最後だな。おいスチール、止めは俺達で決めンぞ?」 ニカッと笑いながら、連携を提案する鍔樹。スチールは彼と視線を合わせると、力強く頷いた。そのまま、前後から挟み撃ちするように距離を詰める。 鍔樹は兵装に精霊力を纏わせ、大きく踏み込みながら素早く薙いだ。紅い燐光が舞い散る中、激しい殴打が大蛇に炸裂する。 ほぼ同時に、スチールは流れるような斬撃を放った。回避困難な軌道を描く一撃が、鍔樹の燐光と共に大蛇を斬り裂く。 2人の連携攻撃に、アヤカシの動きが完全に停止。傷口から瘴気化が全身に広がり、数秒で大蛇の姿は消滅した。 ●戦闘の後に 「ん〜…燃え残った荷物があったら持ち主に戻したかったけど…炭とか灰しか無いなぁ」 残念そうに呟きながら、街道の石を蹴るリィムナ。行商人に少しでも荷物を返したかったのだが、全てが燃えてしまったのでは仕方ない。 「流し切りで倒せない敵が居るとは…私の力量が足りなかったか。もっと、この技を鍛えなければ…!」 自身の長剣を握りながら、スチールは戦闘を振り返る。反省を活かして経験を積めば、いつかは清流の如き剣技を習得出来るかもしれない。 「それにしても、色々と間違っていたアヤカシでしたね。小さな子供達が、これが原因で『さんたくろぉす』を怖がらなければ良いのですけど…」 白月はアヤカシが暴れていた街道を眺めながら、心配そうな表情を浮べた。相当心配なのか、いつもはピョコンと跳ねている頭髪が元気無く垂れている。 「そうですね…でも、本当に居るのかは知りませんが…アヤカシではなく、本物のサンタさんに会ってみたいものですね」 柔らかく微笑みながら、露羽は白月の肩を優しく叩いた。彼はサンタに会ったら、どんなプレゼントを望むのだろう? 「子供達やサンタの事も気になりますが…『アレ』はどうしましょうか? 嫌でも視界に入るんですが…」 苦笑いを浮かべながら、志郎は仲間達に問い掛ける。さっきから視界の隅に映っている者…出来れば無視し続けたいが、放置するワケにもいかない。 その正体は……。 「ああ…サンタが私に恋人をくれないものか…優しく、美しく、愛らしく、可憐で、私の事を見ていてくれて、料理が巧く、そして胸が大きい御嬢さんを…! なあ、うさみたん?」 うさぎのぬいぐるみに向かって、黙々と話し掛けているラグナ。端から見たら、不気味で怪しい事この上ない。しかも、高望みし過ぎである。 「気にしたら負けだぜ、志郎。ああいう奴とか、行事を元ネタにしたアヤカシが出てくるって事も含めて、天儀は面白ェ場所なんだし」 鍔樹は志郎の背を叩き、明るい笑みを見せた。ラグナを『面白い』と表現出来るとは…懐が深いのか、豪快なのか、判断が難しい処である。どちらにせよ、悪い事ではないが。 (でも、誰がこんなモノを作ったのやら…来年以降は、存在すら許しませんが) 拳を強く握りながら、三四郎は静かに決意を固める。アヤカシが『聖者』の姿を模すなど、侮辱でしかない。激しい怒りが込み上げるのも無理は無いが…負の感情がアヤカシに利用されない事を、今は祈りたい。 |