【初夢】機動戦士、駆鎧
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/18 21:31



■オープニング本文

 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 天儀世紀0079。
 天儀本島から一番遠い儀、参儀は自治権獲得のために独立を宣言し、天儀に独立戦争を挑んできた。それは、無謀と言っても差し支えない行為である。
 天儀に比べ、参儀の国土は小さく、国力は30分の1しか無い。この圧倒的不利な状況で開戦を決意した事には、大きな理由があった。
 それは、天儀連邦の圧政である。
 広大な国土がある天儀は、国力を武器に他の儀を制圧していた。行政を掌握し、政策や産業、貿易に至るまで、全て天儀が有利になるように操作していたのである。中でも、参儀は特に厳しく、物価の高騰と重税が住民の生活を苦しめていた。
 そんな状況下なら、天儀に対して不信感や不満が高まっていくのは当然と言えるだろう。参儀の民は限られた資材や財力を注ぎこみ、兵器の開発を進めていた。そして、完成した人型汎用兵器『駆鎧』を用いて立ち上がったのである。
 『駆鎧』の性能は凄まじく、天儀本島は次々に制圧されていった。開戦から一ヶ月あまりで、参儀公国と天儀連邦軍は総人口の半分を失い、人々は自らの行為に恐怖した。
 戦況は参儀が有利に進んでいたが、戦線を拡大し過ぎたために補給が追い付かなくなり、前線で足止め。天儀側は地力を発揮して抵抗し、戦争は膠着状態に陥った。
 それから八ヶ月。
 参儀の駆鎧を研究し、天儀側も独自に駆鎧を制作。両軍の均衡が破れ、雌雄を決するために全戦力が投入される事になった。
 無論、高い戦闘技術を持つ開拓者も例外ではない。軍属では無いが、戦争への参加が決まってしまった。
 君は、生き延びる事が出来るか…。


■参加者一覧
アレン・シュタイナー(ib0038
20歳・男・騎
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
クシャスラ(ib5672
17歳・女・騎
ヴァルトルーデ・レント(ib9488
18歳・女・騎
沙羅・ジョーンズ(ic0041
23歳・女・砲
御堂・雅紀(ic0149
22歳・男・砲


■リプレイ本文

 参儀公国が独立を宣言してから、早1年。多くの血が流れ、多くの命が失われた。両軍の疲弊はピークに達し、このまま戦争が続けば『人類』という種の存亡に関わるだろう。
 だが…どういう結果になろうとも、戦争は今日で終結する。天儀連邦軍の大型飛空艇『白馬』は、参儀公国の最終要塞『亜空』への進攻を始めていた。一見すると天儀連邦軍が有利に見えるが、白馬は戦力の中枢。この艇が墜ちたら、残存戦力は限りなくゼロに等しくなる。
 果たして…運命の女神は、どちらの軍に微笑むのか…?
「とうとう、ここまで来たのね…イエーガー隊、準備は良い!?」
 迫り来る白馬を視界に捉えながら、沙羅・ジョーンズ(ic0041)が叫ぶ。彼女の声に応えるように、狙撃弾幕部隊が拳を突き上げながら叫びを上げた。沙羅の搭乗機は、公国側の最終量産型駆鎧を射撃仕様に特化した物である。その性能を活かし、狙撃部隊を率いる事になったのだ。
「40秒で支度しろ! 急げ、奴らが来るぞ!」
 ロック・J・グリフィス(ib0293)は周囲に指示を飛ばしながら、駆鎧に乗り込む。紅い機体色に、同色の角が側頭に1対。胸にドクロのマークがあり、両脚は無い。マントを装着した姿は、特徴があり過ぎて戦場で目立ちそうだ。
「ここが正念場です! 参儀のために、死力を尽くしましょう!」
 クシャスラ(ib5672)の言葉に迷いは無い。この戦いで、命を捨てる覚悟があるのだろう。黒と紫で塗装された駆鎧に乗り込み、手際良く起動準備を進めていく。
「無論です! 戦うのは、私達軍人の役目。この戦争の後に、必ず平和があるハズ!」
 生粋の職業軍人であるアーシャ・エルダー(ib0054)は、平和のために戦う事しか出来ない。それ以外の生き方を知らない。だが、それが平和に繋がると信じているのだ。
 亜空で参儀軍の士気が高まる中、同様に白馬の天儀連邦も気勢を上げていた。
「…この感覚…『奴』だ…ヤツが来る…」
 敵の動きに気付いたのか、御堂・雅紀(ic0149)が試作型の白い駆鎧に乗り込む。幾多の戦いを経験し、彼は一人前の戦士として成長した。その代償に、大勢の仲間を失ったが…。全てに決着をつけるまで、彼は止まらない。
「戦闘前の緊張感、良いね。これこそ戦場だ。今日は、派手な戦になるのは間違い無いな」
 不敵な笑みを浮かべながら、煙管をフカすアレン・シュタイナー(ib0038)。戦闘狂を自負している事もあり、戦う事に一切の迷いが無い。とは言え、常識や礼儀は持ち合わせており、部隊の指揮を任されるだけの実力も兼ね備えている。
「戦いに派手も地味も無い。ただ、破壊があるだけだ……だがらと言って、手加減はしないが、な」
 迷いが無いという意味では、ヴァルトルーデ・レント(ib9488)も同じだ。彼女は自身の騎士道に従い、敵の命を奪う事に躊躇を見せない。それが戦場であっても、ヴァルトルーデは表情を変える事無く『処刑』を遂行するだろう。
「そうですね…これ以上、血や涙は見たくありません。この戦争に、終止符を打ちましょう…!」
 決意を胸に、アナス・ディアズイ(ib5668)は駆鎧に乗り込む。慈無に良く似た外見をしているが、塗装や武装が違う。本来は遠距離型の機体を、アナス用に近接戦闘仕様に改良したのだろう。参儀の沙羅とは、真逆の改造である。
 様々な想いが交錯する中、白馬と亜空から駆鎧が一斉に出撃を始めた。
「散っていった同朋、そして虐げられ搾取され続ける公国の…いや、各儀の人々の為にも、我々がここで負ける訳にはいかない。儀の未来は、俺達の手に掛かっているのだ。ロック・J・グリフィス参る!」
 裂帛の気合と共にマントを翻し、ロックは円錐型の騎兵槍を構える。機体を加速させて全身一丸となり、慈無に体当たりを放った。矛先が装甲を貫き、火花を散らしながら崩れ落ちる。
「来たな…アーマー部隊、前へ! 俺たちがいる所が最前線だ、敵を蹴散らすぞ!」
 アレンの号令に従い、彼の慈無部隊が戦場に展開していく。敵1機に対し、3機以上で仕掛けて戦力を分断。脚部や腕部を狙い、末端部位から確実に破壊していく。
 各個撃破する狙いは良いが、包囲網を突破する叉駆も少なくない。斧を構えながら、白馬に突撃を仕掛ける。
「…では、諸君。処刑の時間だ。天儀連邦に与する以上、敵を倒す事に迷いや戯れが入る余地は、一切ない」
 静かに、且つ力強く言葉を告げ、ヴァルトルーデは『処刑人』の名を冠する斧を振り廻した。切先が叉駆を捉え、武器ごと機体を斬り裂いていく。その姿は、処刑人と言うよりは死神のようだ。
 叉駆が次々に鉄塊と化しているが、参儀側が一方的に押されているワケでは無い。
「行って下さいアーシャさん、沙羅さん、ロックさん。全機、突撃!」
 クシャスラの叫びと共に、配下の叉駆部隊が突撃。慈無の動きに対応し、固まって進んで行く。
 それに紛れて、アーシャは機体からオーラを噴射して一気に加速。慈無の懐に潜り込み、斧を全力で薙いだ。火花を散らしながら、両断された機体が転がる。
「最終量産機の力、見せてあげるわよ!」
 戦場の様子を確認しながら、沙羅が指示を飛ばす。部隊を亜空の南側に移動させ、機械弓で牽制しながら弾幕を展開。敵の動きが止まった隙を狙い、ハンドカノンの狙撃が慈無を撃ち抜いた。
「皆さん、機体の損傷や残弾には注意して下さい! 無理せず、補給に戻る事も大切です!」
 通信を通じて、アナスの声が天儀連邦側に響く。互いの戦闘能力は、ほぼ同じ。ならば、補給の有無が戦況を変える可能性もあるのだ。
「分かってる。伊達や酔狂で、アーマー部隊の指揮官なんぞしてないよ」
 指揮官に要求される能力は多々あるが、部下の命を粗末にするようでは無能と言っても過言ではない。アレンが部隊の指揮を任されているのは、戦闘能力に加えて他者に対する気遣いが出来るからだ。その結果、彼の指揮する部隊は戦死者が極端に少ない。
 慈無と叉駆が火花を散らし、激戦が繰り広げられる最中、両陣営から2機の駆鎧が飛び出した。
「髑髏にマント…流星か。だが、あの形状…新型…!」
「やはり出てきたか…だが邪魔はさせん!」
 白い機体を駆る雅紀と、真紅の機体を駆るロック。両軍のエースと呼べる2人は、行動も似ているのだろう。互いに虚を突いたつもりなのだが、結果として正面からぶつかり合う結果となった。
 緊迫した空気が周囲を支配し、緊張が高まっていく。ほぼ同時に、2人は武器を構えて突撃した。斧と大剣が交錯し、金属音と共に火花が散る。鍔迫り合いから武器を弾き、互いに斬撃を繰り出すが、固い防御に阻まれて直撃しない。一旦体勢を整えるため、2人は若干距離を空けた。
 直後、雅紀の機体に向かって電流を帯びた鞭が伸びる。不意を狙った鞭撃が頭部に巻き付き、電撃が駆鎧の駆動系に付加を与えて動きを鈍らせた。
「くっ…! 青い叉駆…邪魔をするな!」
 苦痛に顔を歪めながら、雅紀が鋭い視線を向ける。その先に居るのは、参儀製の青い駆鎧。叉駆を元に、陸戦能力を強化してアーシャ用に改造した機体である。外見や武装に類似点があるが、全く別の機体と言えるだろう。
「叉駆とは違うのですよ、叉駆とは!」
 叫びながら、アーシャは鞭を強く引っ張った。バランスを崩し、雅紀の機体が彼女に引き寄せられる。アーシャが斧を薙ぐのと同時に、ロックは槍を構えて突撃を放った。
 直後、アレンは巨大な盾を構えながら、雅紀の前に割り込む。硬い金属音と激しい火花が散り、衝撃がアレンの全身を駆け抜けた。が、攻撃を受け止めたお陰で、被害は最小限に抑えられている。
「よう、雅紀。ここは共同戦といかないかい?」
 不敵な笑みを浮かべながら、共闘を提案するアレン。言葉を返す代わりに、雅紀は軽く笑いながらアーシャに蹴撃を放った。次いで、アレンはロックに正拳を打ち込む。それが直撃し、2人は後方に飛ばされた。素早く体勢を直し、4人は隙を伺うように対峙する。
 亜空全体で激しい戦闘が繰り広げられている中、クシャスラはオーラの噴射を利用して若干浮きながら、慈無との距離を詰める。盾で弓撃を防ぎながら懐に潜り込み、渾身の一撃で敵機を両断。残骸から機械弓を奪い取り、白馬に向かって射ち放った。
 予想外の攻撃に、白馬の艦橋は大慌てである。艦長の怒声とクルーの悲鳴が入り混じり、混乱極まりない。天儀連邦の兵士が銃座に着いて弾幕を張るが、弓撃の影響で左側の銃口が潰されているようだ。
「敵大型飛行艇、左舷からの弾幕が薄い様です」
 クシャスラはそれを見抜き、仲間に迎撃状況を報告する。銃撃の的にならないよう加速し、左舷から接近して更に矢を放った。射撃が白馬に突き刺さり、ダメージが蓄積されていく。
 一見すると順調だが、そこには1つ穴があった。
「戦場に於いて、数とは大きなアドバンテージだ。単独行動は死に繋がる…覚えておくと良い」
 彼女の進路に、ヴァルトルーデが立ち塞がる。それに合わせて、数機の慈無がクシャスラを取り囲んだ。白馬の的にならないよう、単独で動いたのが仇となったのかもしれない。
 敵に包囲されて圧倒的に不利な状況にも関わらず、クシャスラは不敵な笑みを浮かべた。
「ご忠告、ありがとうございます。ですが…私の命を賭す場所は、ここではありません!」
 ハッキリと断言し、ヴァルトルーデに向かって機械弓を投げ付ける。それを払い落すために注意が一瞬逸れた隙を狙い、クシャスラは慈無に向かって突撃。一点突破で包囲網を突き抜け、退却して行く。
 逃げるクシャスラを追い、駆け出す慈無達。それを眺めながら、ヴァルトルーデは踵を返して白馬へと戻って行く。彼女が優先しているのは、旗艦である白馬の護衛。ヴァルトルーデが守備に回っているから、他の者達は戦闘に集中出来るのだ。
 叉駆の攻撃を盾で防ぎながら、アナスはチェーンソーを大きく薙ぐ。渾身の一撃と共にチェーンが高速回転し、叉駆を鉄の塊へと変えていった。
「流石に敵も背水の陣となりますと、予想以上に手強いですね…」
 苦笑いに混じって、弱音が零れる。彼女は発見した敵を次々に斬断していたが、士気が衰える様子は微塵も無い。それどころか、隙を突いて反撃に出る者まで居る。負けられないのは、天儀も参儀も同じ…という事だ。
 そして、苦戦しているのは天儀だけではない。
「南戦域、応援寄越しな! 手の空いてる奴は仲間の死角をカバー!」
 通信越しに響く、沙羅の怒声。戦線を維持していたが、天儀側の波状攻撃で防衛線が押されつつあった。救援が到着するまで持ち堪えられるか、微妙な処である。
 一進一退の攻防が続く中、両軍のエースを含めた4機の戦いも続いていた。ロックの機体右腕が、轟音と共に飛んで指先から光線が放たれる。全周攻撃が天儀側の機体を撃つ中、アーシャは側面からムチを伸ばした。狙いは、雅紀の機体。
「…俺は…生きる…!」
 意を決し、雅紀はムチを左腕に絡ませた。間髪入れずに大剣を振り下ろし、機体の左腕を斬り飛ばす。周囲の者が驚愕の表情を浮べる中、雅紀はその腕部を掴み、全力で引っ張った。引き寄せられたアーシャを腕で殴打し、右脚を軸にした回転蹴りを操縦席に叩き込む。強烈な一撃が彼女の機体を浮かせ、派手に吹き飛ばした。
 見事な反撃の手並みに、アレンは軽く口笛を鳴らす。状況は2体1で彼等が有利になったが、相手は参儀のエース。油断は禁物である。パイロットとしての技量に加え、追い詰められた者が何をするか予測出来ないからだ。
 そう……丁度、今のアーシャのように。
 雅紀の反撃を受けた彼女は、派手に吹っ飛んで地面に叩き付けられた。その衝撃で機体は大破し、戦闘続行は不可能。普通なら撤退するが、彼女は生身で白馬に乗り込んだ。
「我が名はアーシャ・エルダー。命が惜しくない者は、かかってきなさい!」
 しかも、潜入ではなく堂々と名乗りを上げて。騎士らしい行動ではあるが、目立つ事この上無い。案の定、天儀連邦の兵士達が彼女に殺到した。だが、アーシャは兵士である前に開拓者。生身の戦闘能力も、相当高い。群がる兵士達に対して斧を大きく振り、清々しい程に一気に薙ぎ払った。
「侵入者!? 対人戦の出来る人は、格納庫に来て下さい!」
 タイミングが良いのか悪いのか、補給に戻っていたアナスが指示を飛ばす。彼女自身も兵装を手に、格納庫へと急いだ。
 兵士達を薙ぎ倒し、格納庫で暴れ回るアーシャ。アナスは盾を構えて突撃し、攻撃を受け止める。兵装を弾いて大きく踏み込み、剣で斬り上げた。反射的に、アーシャは斧でそれを受け止める。硬い金属音が周囲に響き、火花を散らしての鍔迫り合いとなった。
 睨み合う2人と、それを取り囲む兵士達。大勢の注目が集まる中、2人は同時に距離を空けて再び斬り合った。斬撃と鍔迫り合いが繰り返され、互いに手傷が増えていく。何度目かの鍔迫り合いの最中、1人の女性兵士が口を開いた。
「アーシャ…貴女、本当にアーシャなの!?」
 驚いているような、懐かしむような叫び。声の主に見覚えがあったのか、アーシャの顔に明らかな動揺が浮かんだ。彼女は、参儀公国で旧知の仲だった友人である。それが敵軍の兵士になっていたら、動揺するのも無理は無い。
 だが、それは戦場に於いて致命的な『隙』と言える。アナスは鋭い踏み込みから剣を薙ぐと、アーシャの脇腹が深々と斬り裂かれ、赤い液体が一気に流れ出た。
「ぐっ……この私が、戦いの中にあって戦いを忘れるとは…」
 苦痛に顔を歪めながら、言葉を漏らす。空いた手で傷口を押さえながら、斧を無茶苦茶に振り回した。切先が外壁や計器を破壊し、煙が周囲に漂う。それに紛れて、アーシャは身を隠した。傷は相当深いが、手当している余裕は無い。痛みに堪えながらも、彼女は白馬の機関部を目指して移動を始めた。
 白馬内部で白兵戦が展開されているが、亜空の戦況は変わっていない。両軍共、戦況を変える決め手に欠けていた。
(膠着状態が長過ぎる…少しでも戦局が崩れたら、一気に押されてしまうわね……)
 防衛線を維持しながら、沙羅は周囲の状況に目を向ける。戦局は五分だが、背水の陣で臨んでいる参儀側は少々分が悪い。彼女の脳裏に『撤退』の2文字が浮かんで消えた。
「攻撃は最大の防御と言うが、玉砕は攻撃では無い。この程度で白馬を堕とそうとは…笑止千万」
 巨大な斧を振り回し、叉駆を『処刑』していくヴァルトルーデ。勝負を焦っているのか、天儀側も参儀側も攻撃が単調になっているようだ。優秀な指揮官は多いが、その大半は最前線で戦闘中である。
 ロックと戦闘中のアレンも、その1人だ。雅紀と絶妙なコンビネーションを魅せているが、相手は参儀のエース。ボロボロになりながらも、ロックはまだ撃墜されずに居た。
「いい動きをするな? 気に入ったぞ、お前。だが…その首、貰い受ける!」
 叫びながら、アレンは槍を突き出す。鋭い刺突がロックの機体を捉え、頭部を貫いて捻じ切った。もぎ取られた首が小爆発を起こし、火花が散る。アレンは槍を横に振って頭部を飛ばし、再びロックに向かって突き出した。
「お前に恨みはない。だが、人類の未来の為に、ここで落とさせて貰う…オーラMAXレッドパワー! これが『紅き流星』だ!」
 ロックの叫びに呼応し、機体全体が紅い光に包まれる。内臓された推進剤を一気に噴出し、駆鎧の限界を超えた速度で体当たりを放った。
 アレンは盾と槍を交差させて防御を固めたが、それを軽々と突き破って腕部と脚部を砕く。そのまま派手に吹き飛ばされ、アレンは気を失った。
 オーラの噴出と放熱で、ロックの機体の塗装が剥がれて金色の下地が露になっていく。それでも、ロックはオーラを纏ったまま、軌道を雅紀に変えた。紅い流星が、圧倒的な衝撃を伴って迫り来る。
「これが…流星の力…! ひ、光が…広がっていく……」
 回避も防御も間に合わない。衝撃が白い駆鎧を駆け巡り、全身が小爆発を繰り返す。数秒後、大きな爆発と共に機体が飛び散った。爆風が広がるより早く、赤い光が白馬に伸びていく。
 激しい爆発と轟音は、戦場に混乱を呼び込んだ。混戦状態で情報が錯綜しているため、爆発の原因が掴めない。停滞していた戦線が活発化し、駆鎧の残骸が山を成した。
 負傷者や戦意を失う者が増える中、クシャスラは友軍に向かって通信を送る。
「いいですか。一人でも多く生き延び、我々参儀の戦いを後の世に伝えるのです。沙羅さん、彼等の護衛をお願いします」
 伝えるべき事を言い終わると、クシャスラは答えを待たずに戦場に飛び込んだ。自身を囮に、仲間を逃がすつもりなのだろう。
「あ〜…あたしって、損な性格。部隊を逃がしたら迎えに来るから、生き延びなさい!」
 叫ぶように通信を送り、沙羅は負傷者と戦意喪失者を連れて撤退して行く。本当は旗色が悪くなった時点で脱出するハズだったのだが、お節介な性格が災いしたようだ。とは言え、後悔は全くしていないが。
 敵の注意を引くため、派手に暴れ回るクシャスラ。そんな彼女に接近し、ヴァルトルーデは斧を薙いだ。クシャスラは盾を構え、それを受け止める。
「その意気、敵ながら悪くない…このヴァルトルーデ・レント、死神の如く、踊るが如く、貴公と最期まで戦い明かそう…!」
 言いながら、ヴァルトルーデは不敵な笑みを浮かべる。彼女の言葉に応えるように、クシャスラは兵装を握り直した。残骸を踏み砕き、戦場を駆け巡る2人。それを最後に、彼女達の姿を見た者は誰も居ない。
 ほぼ同時刻。アナスは、アーシャの眼前に剣を突き付けていた。散々暴れ回ったアーシャだったが、出血し過ぎたのだろう。膝から崩れ落ちた処を包囲され、逃げ道も無ければ、逃げる余力も無い。
「あなたの無謀にも似た騎士道精神に敬意を表し、名乗らせて頂きましょう。私は、アナス・ディアズイ……言い残した事はありますか?」
 同じ騎士として、アナスは彼女の気持ちを多少理解したのだろう。せめて心残りが無いよう優しく話し掛けたが、アーシャは不敵な笑みを返した。懐に手を突っ込み、中から焙烙玉を数個取り出す。コレを手に入れるために、彼女は格納庫から侵入したのだ。
 その場の全員が驚愕する中、更なる驚愕が追い打ちを掛ける。ロックの機体が白馬の直上に到達し、艦橋に狙いを定めたのだ。全身のオーラが消え、身動き出来ない状況に陥って放熱しているが、手動で攻撃するくらいは出来る。ロックは機体の装甲を開け、艦橋に向けて敬礼を送った。
「夜明けの花火だ、持って行け…!」
 手動操作で腕部を飛ばすのと同時に、アーシャは導火線に火を付ける。
「参儀公国に…栄光あれー!」
 内部と外部、双方からの爆発が白馬を破壊し、大きな爆発を引き起こした。それが終戦の合図となり、天儀連邦は参儀公国に投降。念願の独立を果たし、連邦政府は解体された。
 天儀世紀0080、1月1日。参儀公国は新たに『参儀共和国政府』を発足し、1年にも及ぶ戦争ま幕を閉じた。平和の礎になった多くの英霊が居た事を、我々は忘れてはならない。