クリスマス撲滅大作戦
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/31 18:52



■オープニング本文

 12月某日。年の瀬が迫ったある日、武天では『ある噂話』が街中に広がっていた。何でも、『ギルドの開拓者達がクリスマスを潰そうとしているらしい』という内容らしい。事実確認のために一般人がギルドを訪れ、ちょっとした騒ぎになっている。
 対応する職員は『そんな事実は一切無い』と否定しているが…実は、この依頼は本当に存在していた。
 事の発端は、自称『善良な一般市民』からの依頼要請。彼は、クリスマスのせいで男女関係が不純になると熱弁し、浮かれた市民への粛清を熱望していた。そのために同志を集め、決起する準備を進めているらしい。
 ギルドを訪れたのは、開拓者に粛清の手伝いを頼むため。開拓者が味方になれば、大義名分も立つし協力な助っ人にもなる。一石二鳥というワケだ。
 正直、誰が聞いても嫉妬と逆恨みである。だが…ここで依頼を断れば、彼が何をするかは容易に想像出来る。
 そこで、ギルドでは依頼を受ける『フリ』をして、彼等を捕まえる事を考えたのだ。街に流れた噂は、彼等が言いふらしているのだろう。ギルドでは、この依頼を開拓者以外に公開していない。
「事情は分かりましたが…私は何故ここに呼ばれたのでしょう?」
 寝癖だらけの頭を掻きながら、克騎が疑問を口にする。彼は今、ギルドの陣代の部屋に居た。
 陣代とは、各地方都市に設置されたギルドの最高責任者である。克騎の質問に、陣代は苦笑いを浮かべながら口籠った。どうやら、質問の答えが相当言い難いようだ。
 軽く小首を傾げながら、克騎は依頼書に視線を落とす。決行日はクリスマスの25日。『善良な一般市民』と開拓者達との連携を強化するため、職員を1人派遣する事になっているようだ。
 その内容を読んで、克騎は陣代の意図に気が付いた。
「この依頼…私に同行しろ、と仰りたいのですね? クリスマスに予定が無い職員は、私くらいでしょうし」


■参加者一覧
/ 九竜・鋼介(ia2192) / 村雨 紫狼(ia9073) / エルディン・バウアー(ib0066) / 岩宿 太郎(ib0852) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 鴉乃宮 千理(ib9782) / 緋乃宮 白月(ib9855) / 宮坂義乃(ib9942) / 衝甲(ic0216


■リプレイ本文


 此隅の裏通りに存在する、朽ちた倉庫。普段は周囲に人影が無いが、今日は違う。朝から出入りが激しく、屋内には大勢の人が集まっていた。
「クリスマスは親しい人と過ごすのが慣わしで、恋人がいちゃつくための祭日ではないです。解釈が違ってきている事…神はお嘆きです!」
 エルディン・バウアー(ib0066)の言葉に、歓声が湧き上がる。聖職者という事もあり、彼の発言には説得力があるのだろう。もっとも、エルディンは協力する『フリ』をしているのだが。
「我と神父殿では宗派が違うが、善を説き民を幸福へ導く役目はどこも同じじゃ。此度の一件、見過ごせんな」
 こちらの信用を増し、集団を煽るような発言をする鴉乃宮 千理(ib9782)。更なる歓声が上がる中、彼女は不敵な笑みを浮かべながら麩菓子を頬張った。
 熱気が増す室内で、鋭い視線を周囲に向けている者が1人。
(…くる。あのおばかさんは絶対くる、のっ! つかまえておしおきしてやるんだからッ!)
 宿敵が来る事を予測したエルレーン(ib7455)は、神経を張り巡らせていた。どうあっても、自分の手で印藤を渡したいのだろう。
 自称『善良な一般市民』達が気勢を上げる中、開拓者達は視線を合わせた。意志を疎通し、静かに頷く。
「ですが、クリスマスを潰すのはいけません! 更に神は嘆くでしょう」
 エルディンの放った言葉で、周囲に動揺が広がった。間髪入れず、九竜・鋼介(ia2192)は縄を引っ張って天井の網を落とす。更に網を投げ、集団の動きを封じた。
「一網打尽、ってヤツだ。どこが『善良な一般市民』なのか分からない連中を、野放しには出来ないからな」
 言いながら、鋼介達は縄を取り出す。ようやく、『善良な一般市民』達は状況を理解した。自分達が、騙されていたという事に。
 悲鳴と怒声が入り混じる中、倉庫両脇の窓が破られ、黒い2つの影が網を斬り裂いた。
「同志達よ、逃げるのだ! 待っていろ『りあじゅう』どもめ…目にもの見せてやるッ!」
「急げ! 血涙流して暴動じゃー!! クリスマスなんて滅び去れコンチキショー!!!」
 その正体は、ラグナ・グラウシード(ib8459)と岩宿 太郎(ib0852)。2人共開拓者だが、クリスマス撲滅に加担する気らしい。見るからに、嫉妬全開である。
「見つけた! 覚悟しなさい、ラグナ!」
 獲物を見付けた野獣のように、ラグナに突撃するエルレーン。両刃の剣に桜色の燐光を纏わせ、手加減する気は微塵も無い。
 咄嗟に、ラグナは全身のオーラを放出して身体能力を上昇させた。輝きを宿した剣で攻撃を受け止めると、枝垂桜のような燐光が周囲に舞い散る。
「やれやれ…あの者達も、導いてやらねばならんか」
 軽く溜息を吐き、ラグナと太郎に気迫の籠った一喝を浴びせる千理。だが、相手が人間では、知能が高過ぎて効果が無い。それ以前に、足止めとは真逆の効果を持つ技能なのだが。
 戦闘の混乱に乗じて、善良な一般市民』達が窓に殺到して逃走を図る。
「まったく…人を妬むとは女々しい奴らだ」
 その進路に、衝甲(ic0216)が立ち塞がった。ムキムキマッチョで30歳近い男性が立っていたら、それだけ威圧感は充分である。
 怯んでいる隙に、エルディンは魔法の蔦で相手を捕縛し、眠りの呪文で睡眠状態に落とす。
 衝甲は動けなくなった者を持ち上げ、怪我をしないように壁際に移動させた。
 千理は年配者を中心に捕縛しているが…イイ歳してクリスマスに嫉妬している連中に、何をやっているのかとツッコみたくなってしまう。
「分かってるとは思うが、手加減を忘れんなよ? 相手は一般人だしな!」
 仲間達に向かって叫びながら、宮坂 玄人(ib9942)は素手で当身を放つ。怪我をしないように注意しながら意識を刈り取り、両脇に抱えた。そのまま安全な場所まで移動させ、縄で縛って転がす。
「皆さんにも、ご家族やご友人等、大切な人が居るでしょう? どうしてクリスマスを撲滅しようとするのでしょうか?」
 機動力を活かして移動し、優しく語り掛ける緋乃宮 白月(ib9855)。少年の純粋な言葉に、誰もが思わず動きを止めた。その隙を突くように、縄を掛けて縛り上げていく。
 捕縛は進んでいるが、抵抗する者も少なく無い。木材で殴り掛かってくる男性に対し、鋼介は圧倒的な剣気を叩き付けた。殴打の速度が緩んだ隙に、鉄扇で捌いて攻撃を無効化。直後に、ハリセンの小気味良い音が周囲に響いた。
 数分後。倉庫の中は、束縛された市民がゴロゴロと転がっていた。だが、その数は予定数には達していない。恐らく、10人前後が街に逃げたのだろう。先導しているのは、太郎で間違いない。
 もう1人の裏切り者、ラグナは……。
「ふふん! どぉせラグナが私に勝てるはずないんだから! 今あやまったら、なかなおりしてあげるよぅ?」
 上機嫌のエルレーンは、ラグナに『お尻ペンペン』の刑を施していた。ボコボコにされて縄でグルグル巻きにされた挙句、公開羞恥プレイ…思わず、彼に同情しそうになる。とは言え、自業自得なのだが。
「うがああーっ! やめろ、貧乳女めええッ!!」
 身悶えながらも叫ぶラグナだったが、禁句を口にした事に気付いていない。エルレーンはニッコリと微笑みながら、無言で殴打の速度を上げた。倉庫内に響く、ラグナの悲鳴。痛々しい状況に、捕縛された市民も開拓者も若干引き気味である。
「えっと…エルレーンさん。お仕置きはお願いしますね? 僕達は、街の方に行ってみます」
 固い笑みを浮かべながら、そっと声を掛ける白月。エルレーンの返事は無かったが、鋼介、エルディン、千理、白月、衝甲の5人は街に向かって駆け出した。
 玄人と克騎は、市民の連行担当である。エルレーンのお仕置きを目の当りにし、誰もが移動を望んでいた。


 街の中は、どこを見てもクリスマスムードが溢れていた。ツリーやケーキが店頭に並び、サンタやトナカイに扮した店員が声を上げて客を呼ぶ。楽しい雰囲気に、誰もが笑顔を浮かべていた。
 そんな場所で、致命的に浮いている男が1人居る。クリスマスなのに、何故か牛の着ぐるみを装着した青年。赤い三角帽と白いヒゲを付けているが、それが猛烈な違和感を生み出している。周囲を見渡して女性を発見するや否や、袋から菓子を取り出して足早に歩み寄った。
「メリークリスマス! そこの美幼女も、美熟女さんも、菓子はどうだい?」
 満面の笑みと共にお菓子を配っているのは、村雨 紫狼(ia9073)。周囲に溶け込んで『善良な一般市民』を探しているのだが、幼女と楽しそうに話している姿は、完全に油断しているように見える。
 だが、実際は集団を誘き出すための演技であり、注意は常に張り巡らせていた。視界を『黒い兎のお面』が通り過ぎた瞬間、その人物の後を追う。この面は、『善良な一般市民』の目印なのだ。今すぐ飛び掛かって捕まえたいが、出来るだけ周囲に被害を出したくない。バレないように注意しながら、紫狼は尾行を続けた。
 街道から脇道に曲がると、人通りが一気に減る。代わりに、目印の面を付けた者達が奥から姿を現した。チャンスは、今しかない。
「やーい、クリスマスに独り寂しい干物野郎どもッ!」
 挑発するように、大声を張り上げる紫狼。それに反応し、面を付けた者達が一斉に視線を向けた。その数、約10人。サンタ牛の格好を見て、拍子抜けしている者も居るが。
 それでも、紫狼を『敵』と認識したようだ。角材や農具を握り、一斉に襲い掛かって来た。とは言え、相手は単なる一般人。束になった処で、紫狼の敵ではない。木刀を両手に持ち、雑草でも刈るように薙ぎ払っていく。
「ガー!! どりゃーー! うおらあああー!」
 通路の奥から響いて来る、野獣のような声。数秒後、『善良な一般市民』と思われる4人組が、必死の形相で駆けて来た。
 彼等が逃げている理由は、後方に居る衝甲。筋骨隆々な長身男性が奇声を上げながら追い駆けて来たら、誰だって逃げるだろう。衝甲的には、鬼ごっこのようなノリかもしれないが。
 しかし、彼等の逃走劇は、もう終わりである。正面には、サンタ牛に扮した紫狼。後方には、ムキムキマッチョの衝甲。『絶体絶命』という言葉がここまで似合う状況は、滅多に無いだろう。ここに至ってようやく観念したのか、4人は抵抗を止めて大人しく縄についた。


 捕まえた者達を連れ、裏通りを歩く紫狼と衝甲。捕獲対象の大多数は捕まえたが、まだ潜んでいる可能性は高い。油断は禁物である。
 曲がり角に差し掛かった瞬間、正面から『誰か』が飛び出して来た。予想外の事態に、紫狼と衝突して双方が倒れる。少々遅れて、残りの『善良な一般市民』も姿を現した。
 紫狼と衝突したのは、太郎。倉庫を脱出してから、ずっと逃げ回っていたのだろう。この機を逃がすテは無い。紫狼は急いで立ち上がり、縄を取り出した。太郎も体勢を立て直し、集団を守るように立ち塞がって、少しずつ紫狼との距離を空ける。
 互いに隙を狙い合っていたが、その状況は唐突に一変した。
「おや〜? 太郎殿、いくら友人とて容赦しませんが…覚悟はいいですか? そちらの、怪しいサンタさんも」
 太郎達の後方、通路の奥から響いてくる声。彼等を追っていたエルディン達が、ようやく追い付いたようだ。衝甲たちにとっては嬉しい増援だが、紫狼は首を傾げている。エルディンは間違いなく『怪しいサンタさん』と言っていた。この場で、サンタの格好をしているのは……。
「って神父さん! 俺だって俺ーっ!」
 自分が『善良な一般市民』では無い事を主張する紫狼だったが、その声は届いていないようだ。巻き添えを防ぐために、衝甲は紫狼と距離を空けている。
 逃げられない事を悟ったのか、太郎は軽く溜息を吐き、兵装を構えた。
「男には…いや、『漢(おとこ)』には! 勝ち目が億分の一もなかろうと、戦わなきゃならん時がある…それは今だと、俺は信じてる!!」
 恐れも疑いも迷いも無い、覚悟を決めた瞳。巨大な槍を振り回しながら叫び、エルディン達と対峙した。その様子に、集団から歓喜の声が上がる。
「やれやれ…どうしてその情熱を、間違った方向に使うのかねぇ」
 大きく溜息を吐く鋼介。太郎の発言は男らしいが、その動機は嫉妬と逆恨みだったりする。同志ならともかく、敵対する者の心を打つ事は出来ないだろう。
 第一、彼が相手にしようとしているのは、鋼介、紫狼、エルディン、千理、白月、衝甲の6人。無謀過ぎるし、開始前から完全に詰んでいる。大番狂わせが起きる事も無く、太郎は集中攻撃を受けて『サンダァァァ!』という断末魔を残して華々しく散った。雷撃が紫狼にまで及んでいたが、見なかった事にしよう。


 70人の暴徒を捕縛し、騒ぎを鎮めた開拓者達。彼等が連行した者を投獄したため、奉行所の牢は満杯になっていた。
「罪無き民に力で訴えた汝等が、果たして善か? 牢屋の中で、頭を冷やすのだな…滅離苦離(メリクリ)」
 牢の中の者達を正座させ、説法を施す千理。正義について、善について、愛について語り、多くの幸がある事を願って言葉を贈った。これで、少しは更生してくれると良いのだが。
 縛られて投獄されたのは、一般人だけではない。若干2名程、開拓者も混ざっている。
「アンタ達も開拓者だろ? 何で、こんな事に加担したんだ?!」
 玄人は片膝を付き、太郎とラグナに声を掛けた。2人共手傷を負っているが、その瞳は光を失っていない。
「何故、だと…? 愚問だな! 『りあじゅう』どもに天誅を下すのに、理由など不要!」
「ラグナさんの言う通り! 俺達に妬まれる、カップル達が悪いんだっ!!」
 違う言い方をすれば、反省していないという事だ。縄でグルグル巻きになって牢に居るのに、後悔や反省をしていないらしい。執念にも似た強靱な精神力は、賞賛するべきかもしれない。
「って、ほとんどタダの八つ当たりじゃねぇか!」
 大声でツッコミを入れる玄人。この場に居る全員が、彼女と同じ事を思っているハズだ。
 鋼介は呆れたような表情を浮べながら、自身のハリセンを玄人に差し出した。
「…使って良いぞ、玄人。遠慮なくやれ」
 言いながら、視線を太郎とラグナに向ける。彼の意図を理解した玄人は、ハリセンを受け取って不敵な笑みを浮かべた。牢の間に手をツッコみ、ハリセンで2人の頭をド突く。
「とにかく…依頼は完了ですよね? 朋友達も待ってますし、僕は美味しい物でも買って帰りますね」
 苦笑いを浮かべながら、仲間達に声を掛ける白月。彼の言う通り、依頼自体は完了している。これ以上、奉行所に居る意味は無いだろう。8人は顔を見合わせて静かに頷くと、牢を後にした。背中に、ラグナと太郎の遠吠えを浴びながら。