暴走空族
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/24 17:56



■オープニング本文

 技術の進歩は、人々に様々な恩恵を与えている。特に、ここ数年の進歩は著しく、生活は便利で豊かになったと言っても過言ではない。
 その反面、今までは考えもしなかった事件の発生も増えているが…。

「ひゃっほ〜ぃ!!」
 街の中に響く、奇声のような叫び声。何かに興奮しているのか、そのテンションは異様に高い。
「やれやれ……今日も来たか」
 苦笑いを浮かべながら、頭上を見上げる男性。その視線の先にあるのは…大勢の滑空艇。その数、約20。
 飛空艇の発展と共に、小型で個人用の飛行機械も開発された。それが『グライダー』と呼ばれる滑空艇である。飛空艇と違って個人乗りだが、小回りが利くし所有が簡単という利点もある。
 が、その利点が最大の問題になった。気軽に所有出来るため、保有者が一気に増えて広い範囲で普及している。そうなると、良からぬ事を考える輩が少なからず居るワケで。
 結果、滑空艇で空を爆走する集団が現れたのだ。とは言え、大抵は巡航モードで滑空しているのだが。
「うるせぇぞ! いい加減、静かにしやがれ!!」
 集団に向かって、中年男性が怒声を上げる。爆走していなくても、頭上を集団で飛び回られるのは良い気分ではない。大声で叫ばれたら、尚更である。そんな事が毎日のように繰り返され、住人のストレスは日々蓄積していた。
 平和的に話し合いでの解決を試みたが、集団は聞く耳を持たない。最終手段として、住人達はギルドへと訪れた。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
白漣(ia8295
18歳・男・巫
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
サニーレイン=ハレサメ(ib5382
11歳・女・吟
果林(ib6406
17歳・女・吟
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰
神室 巳夜子(ib9980
16歳・女・志
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
ルーガ・スレイアー(ic0161
28歳・女・サ


■リプレイ本文

●嵐の前の静けさ
 風にそよぐ草花に、穏やかな歌声を響かせる小鳥達。柔らかい陽光が降り注ぎ、静かな空気が周囲に溢れている。
 この場合、静か過ぎて若干不気味だが。
「ふうーむ、『ぐらいだあ』ねえ…空を飛ぶなら、やはり龍が良いと思うのだが…なあ、ライア?」
 空を見上げながら、軽く小首を傾げるルーガ・スレイアー(ic0161)。相棒の甲龍、ライアに声を掛けると、同意するように短い鳴き声を上げた。
「迷惑集団ですか…住人の方々のためにも、一緒に頑張りましょうね?」
『はいっ、頑張って捕まえますよー!』
 緋乃宮 白月(ib9855)と、相棒の羽妖精、姫翠が、顔を見合わせて微笑む。白月と依頼に参加出来るのが嬉しいのか、姫翠は楽しそうに彼の周囲を飛び回っている。
「頼むぞ、よぞら。今日も指示通り動いてくれよ!」
 相棒の霊騎、よぞらに語り掛けながら、篠崎早矢(ic0072)は馬具と鞍を乗せた。跨って手綱を引くと、よぞらは武者震いと共に勇ましい鳴き声を上げる。
 互いに励まし合う、3組の開拓者と相棒。そんな彼等とは対照的に、怪しい事を企んでいる者が1人。
「かっくうてい。ちょうかっこいい。ほしい。あれをテツジンと合体させれば…ごくり」
『待て。何か恐ろしいことを考えてないか、サニー?』
 心の声が漏れまくっている、サニーレイン(ib5382)。彼女の思惑に気付いたのか、相棒の土偶ゴーレム、テツジンが怯えた声を上げている。とは言え、これが2人の日常会話だったりするが。
「空で暴れるなんて…絶対に許せない! プレシア、果林、巳夜子! 僕達空賊団の力を見せてやるんだっ!」
 周囲に響き渡る、天河 ふしぎ(ia1037)の叫び。『正義の空賊』を組織している彼としては、暴走集団に対する怒りは人一倍強い。
 一緒に参加している空賊団の仲間も、同じ気持ちだろう。名前を呼ばれた3人は、静かに力強く頷く。
「了解です! 近隣に迷惑をかけるお方は、全力で成敗なのですよ!」
 頬を膨らませ、怒りの表情を浮べる果林(ib6406)。怒っているのだが、狐の耳と尾、メイド服が相まって、非常に可愛らしく見える。
「悪い事はしちゃだめなの〜! お空は、みんなで仲良くしなきゃダメなんだもん!」
 プレシア・ベルティーニ(ib3541)も、不機嫌極まりない。尻尾がぷぅ〜っと膨らんでいるが、これは食肉目に属する狐の特徴である。怒り等で興奮状態な証拠だ。
「自由を穿き違えているのですね。その神経が許せません。必ずや、全員捕まえてみせましょう」
 他の空賊団員とは違い、無表情で淡々と言葉を口にする神室 巳夜子(ib9980)。感情を表に出していないが、ふしぎに空賊団に誘われた恩義もあり、依頼解決に燃えていたりする。
「周りに迷惑を掛けてまで、自分の享楽を優先するなんて許せない! マナーを守って楽しんで欲しいです!」
 怒っているのは、空賊団員だけではない。傍若無人な行動に、白漣(ia8295)も熱い想いを口にした。
「迷惑極まりないが、『若気の至り』というヤツだな。良くある事だ」
 声を荒げる者が多い中、1人冷静な様子のからす(ia6525)。彼女の発言事自体は間違っていないが…最年少の少女が言うのは、意外過ぎである。

●天に舞う者、地を駆ける者
 依頼の村で情報収集を行った10人は、村の外れに来ていた。地形と情報を元に話し合った結果、村への被害を考慮して、安全な場所で戦う事を決断。誘い出す地点も決め、あとは暴走集団が現れるのを待つだけである。
 準備を進めながら、空を見上げる事、数時間。ついに、その時が訪れた。空の彼方から近付いて来る、黒い集団。その大きさからして、鳥の類ではない。
「どうやら、あれが今回の標的のようだな。あとは打ち合わせ通りに…異論は無いな?」
 ルーガの金色の瞳が、空族達を射抜く。そのまま視線を仲間達に向けると、開拓者達は静かに頷いた。
「少々お待ち下さい。皆様へ、守りのプレリュード(前奏曲)を」
 若干慌てながら、果林がバイオリンを構える。目を閉じて弦を引くと、周囲に勇壮な曲が響いた。それが全員の感覚を刺激し、戦闘的なセンスを鋭くしていく。演奏が終わる頃、頭上を大勢の滑空艇が通り過ぎた。
「果林さん、ありがとうございました。陽、今日は攻撃無しだよ。お願いね?」
 軽く礼を述べ、相棒の炎龍、陽の背に跨る白漣。死者や重傷者が出ないように注意しながら相棒の首を撫でると、陽は雄叫びを上げながら翼を広げた。
 その声に刺激されたのか、プレシアの相棒、甲龍のイストリアが彼女の首根っこを咥え、自身の鞍に乗せるようにポイッと投げる。
「うわぁっ!? ふにゃ〜、ありがとうなの〜♪」
 驚きの声を上げながらも、満面の笑みを浮かべるプレシア。その様子から、2人の仲の良さが窺える。
 ルーガもライアの背に乗り、3組の龍は地面を蹴って飛び上がった。目的は、空族の追撃。追撃班が空から集団を追い詰めて撃墜し、地上班がそれを捕獲する作戦である。
「思わざれば花なり。思えば花ならざりき。ただ感じるままに…飛ぶぞ、舞華」
 滑空艇の舞華に語り掛けながら、からすが飛び立つ。後を追うように、ふしぎも自身の滑空艇に飛び乗った。
 そんな彼の元に、果林が歩み寄る。
「私、演奏でしかお助けできませんけど…どうか、ご武運を…!」
 微笑みながら奏でた曲は、心が奮い立つような曲。彼女の演奏を全身に浴びながら、ふしぎはゴーグルを装着した。
「果林の歌が僕に勇気をくれる…行くぞ星海竜騎兵!」
 叫びながら、滑空艇の星海竜騎兵を駆る。彼が所属する小隊、『夢の翼』の旗が風圧でバサッと開き、空高く昇っていった。
 龍と滑空艇なら、最高速度は龍の方が遅い。一見すると、開拓者が空族に追い付くのは不可能に思えるが、双方の操縦技術には雲泥の差がある。加えて、空族は巡航モードで滑空しているため、決して速度は速くない。追い付く可能性は、かなり高いだろう。
「僕達も行きましょう。きっと、予定の場所で撃墜してくれるはずです」
 追撃班が全員飛び立ったのを確認し、白月が捕獲班のメンバーに声を掛ける。間髪入れず、姫翠は元気良く拳を突き上げて飛び上がった。
「そうですね。罠も仕掛けておきたいですし…急ぎましょうか」
 巳夜子の赤い瞳が怪しく輝く。恐らく、連中を罠に嵌めるために思案を巡らせているのだろう。
 若干黒いオーラを放つ巳夜子に、甲龍の鈴掛が顔を摺り寄せた。甘えて来る相棒に、彼女の雰囲気が緩む。優しく頭を撫で、その背に飛び乗った。
「人馬一体、我々は二人で一つ! いくぞ、よぞら!」
 手綱を強く引きながら、早矢が叫ぶ。よぞらは前脚を上げながら吠えると、地面を力強く蹴りながら駆け出した。他の4組も移動を始め、後を追う。
 ほぼ同時刻。上空では、追撃班が空族を射程に捉えていた。ルーガは相棒の首を叩くと、ライアは速度を上げて周囲を飛び回る。
「おい、止まれよ! さもないと…ちょっとばかり、本気を出してしまうぞー!」
 一応、集団に向かって呼び掛けるが…当然、止まるワケは無い。それどころか、運転の荒さが増しているようにも見える。しかも、薄ら笑いを浮かべながら。
 こんな態度を見せられたら、怒らない者は居ないだろう。勿論、開拓者も例外ではない。
「お前達に、空賊の本当の飛行(はしり)を見せてやる…そして、空の恐ろしさをたっぷり味わって貰うぞ!」
 操縦桿を強く握り、ふしぎは姿勢を低くして最大速度で加速。圧倒的な速度で集団を追い抜き、減速しながら反転して進路を塞いだ。
 その意図に気付いた白漣は、陽の背を数回叩く。直後、炎龍は威嚇するような咆哮を放った。大気を震わせる雄叫びが周囲に響き、集団の恐怖を煽って動きを鈍らせる。
「天河さん! トドメは任せました!」
 弓を構えながら叫ぶ白漣。矢が放たれるのと同時に、ふしぎは集団に突撃した。白漣の弓撃が2機の滑空艇の翼を射抜き、ふしぎの二刀が擦れ違い様に奔る。2人の連携攻撃を受け、滑空艇はバランスを崩して落下していった。
 更に、ライアが集団に突撃して爪を振るう。ルーガは翼を『ちょっぴり』引き裂かせるつもりだったが、両翼の大半を切り落とされた1機が墜落していった。
 恐怖で停止していた空族達の思考が、急速に覚醒していく。その半数が方向を変え、逃げるように飛び去った。
 若干苦笑いを浮かべながら、からすとプレシアが追撃に向かう。残った集団を逃がさないように、ふしぎ、白漣、ルーガは3方向から進路を塞いだ。
 イストリアの背にピタッとへばり付きながら、必死に追い掛けるプレシア。何かを思い付いたのか、不意に手を『ぽむ』と叩いた。
「おお〜っ、そうだ! 高い所から太陽に隠れるようにして急降下したら、見つかりにくくて良いかもかも〜♪ イストリア、よろしくなの〜!」
 言いながら、相棒の首をぽみゅぽみゅする。彼女の指示に従い、イストリアは天高く飛び上がった。太陽を背にし、急降下しながら頭突きを仕掛ける。弾丸のような突撃が滑空艇の翼を直撃し、衝撃で落下を始めた。
 仲間を撃墜されても、構う事無く逃げる空族達。その頭上から黒い雨が降り、滑空艇ごと全身を汚した。突然の事に、空族達は逃げる事も忘れて視線を上に向ける。その先に居たのは……。
「ごめんなさーい♪」
 からすだが、雰囲気は全く違う。年相応の、『子供』のような無邪気な笑顔を浮かべている。これは相手を油断させるための演技だが…仲間が見たら『誰だお前!?』というツッコミが入りそうだ。
 空族の迎撃をしているのは、飛行中の5人だけではない。
「さあ、テツジン。華麗に優雅に空を舞い、あの暴走グライダーを、捕まえる。のです。今すぐに」
 空を指差し、相棒に命令を下すサニーレイン。彼女の言葉を聞き、テツジンは大きく肩を落とした。
『いや、何度でも言うがなサニー…土偶は飛べんのだってば!』
「知ってる。まぁ、お約束、です。では、満載の対空装備、火槍や、機械弓や、怪光線で、飛行進路を妨害、しなさい」
 漫才のような会話を済ませ、テツジンは空を見上げる。滑空艇の進路を予想し、その先を狙って火槍と矢を放った。火花を散らす火槍に、空を切る弓撃。更には眼から怪光線が発射され、牽制と呼ぶには過激な状況である。
 それに勝るとも劣らない射撃が、地表から空に伸びる。よぞらで高速走行しながらの一斉射撃。早矢の放った複数の矢が、空族を牽制しつつ、翼を貫通していく。
「空ばかり見ていると、地上からの攻撃に気付かないものだ。油断大敵、だな」
 不敵な笑みを浮かべながら、早矢は視線をサニーレインに向けた。2人の視線が交錯すると、互いに親指を立てて相手に無言の賛辞を贈る。数秒後、落下する滑空艇を追うように駆け出した。
 今回の目的は、あくまでも『暴走空族の捕縛』である。翼を狙って不時着させただけでは、終わりとは言えない。そのために、地上班は周囲を走り回っていた。
 必ずしも、空族が無抵抗とは限らない。白月の目の前に居る2人は滑空艇を失い、怒りの表情を浮べている。
「手荒な真似をして、申し訳ありません。ですが…大人しくして頂けませんか?」
 白月の言葉を聞く耳持たず、逃げる機会を狙う2人。徐々に距離を離していたが、突然踵を返して走り始めた。
 軽く溜息を吐き、白月は両脚に意識を集中する。直後、驚異的な加速で大地を駆け、逃げる2人の眼前に立ち塞がった。驚愕している隙に、腹部への当身で意識を刈り取る。崩れ落ちる2人の体を受け止め、地面にそっと寝かせた。負傷が無い事を確認し、姫翠の持って来た荒縄で縛り上げていく。
『御用だ御用だー。お縄につけーい』
 荒縄を振り廻すサニーレインに、獣鎖分銅を振り廻すテツジン。不時着した者達を追い掛けているのだが、端から見る限りでは楽しそうだ。掛け声のタイミングも、息ピッタリである。
『あはは♪ ゴヨーだ、ゴヨーだぁ♪ みんな捕まえちゃうからねっ!』
 サニーレイン達の掛け声が気に入ったのか、空族を縛りながらそれを真似る姫翠。白月は軽く笑みを浮かべながら、拘束した空族を大木に繋いだ。
「あまり怪我をしませんように…!」
 空中の空族は徐々に減っているが、まだ全員を撃墜したワケではない。残った滑空艇に狙いを定め、白漣は矢を放った。流れ星の如き一矢が、翼を射抜いてバランスを崩す。彼の願い通り、怪我をしないように落下すると良いが。
「ねばねば納豆あた〜っく! あ〜んど、もえもえわんわんっ!」
 元気良く叫びながら、両手の符に練力を込めるプレシア。片方は小さな式となって操舵手に絡み付き、もう1枚は狼サイズの式と化して炎を吐き出した。炎が滑空艇の翼を包み、メラメラと燃え上がる。小さな式は手に絡み付いて操縦の邪魔をしているが、納豆の類ではない。
 これで、まだ撃墜されていない滑空艇は5機。そのうち、3機はからすの周囲に集まっていた。彼女が故意にフラフラと飛んでいるため、一番弱いと思われているのだろう。3人掛かりなら倒せる。そんな事を考えているのかもしれない。
 だが、それは大き過ぎる誤算だ。3機が横に並んだ直後、からすは舞華の出力を上げて一気に加速。死角に素早く回り込み、機械弓を構えた。
「天狼星、『手羽先は美味いぞ』」
 兵装に語り掛けながら、精神力を込める。放たれた矢が宙を切り裂いて衝撃波を生み、手羽先…つまりは、滑空艇の翼を食い千切るように薙ぎ払った。
「巳夜子、後は任せたんだぞっ!」
 地上に居る巳夜子に声を掛けながら、ふしぎは真紅の刃を奔らせた。赤い軌跡が『天』の文字を描いた直後、不可視の高位式神が召喚されて再構築。両の拳を胸の前で突き合わると、解放された呪力が滑空艇の翼を撃ち抜いた。
「お任せ下さい、天河さん。ふふ…追い掛けっこは得意なのです」
 黒い笑みを浮かべながら、巳夜子は鈴掛と共に落下する滑空艇を追う。不時着した場所へ駆け着けると、手早く身柄を確保。縄を取り出し、空族を縛り始めた。
 が、当然捕まりたくないため、暴れる事を止めようとしない。呆れたように溜息を吐くと、巳夜子は両腕の力を強めた。縄が全身を締め上げ、空族の口から苦悶の声が漏れる。
「あらすみません、手が滑りました。少々、きつく縛ってしまったようですね。ふふふ…」
 表情を変えない、声だけの笑い。その言動が恐怖心を煽ったのか、空族はガタガタ震えながら大人しくなった。
「ほらほら、オイタはここまでだぞ?」
 不敵な笑みを浮かべながら、ルーガは残った1機の操舵手に声を掛ける。降伏を促しているのだが、彼女の想いは相手に伝わらなかったようだ。ヤケクソ気味に、空族は滑空艇ごと体当たりを放った。
 そんな一撃が、ルーガとライアに当たるワケがない。翼を翻しながら突撃を避けると、擦れ違い様に爪と長巻で翼を斬り裂いた。片翼を失い、落下していく滑空艇。だが、その方向は予定していた地点から大きく離れている。
「やはり、予定通りにはいかない…か。逃亡される前に確保しないとな」
 軽く苦笑いを浮かべながら、早矢は相棒の脇腹を蹴った。勇ましい鳴き声を上げると、よぞらは地面を力強く蹴って駆け出す。霊騎を駆る彼女なら、相手を逃がす事は無いだろう。
 空族達が次々に捕縛される中、果林も捕獲対象を追っていた。悲痛な表情を浮べながら、果林は足を止めてバイオリンを構える。
「ごめんなさい! でも…、抵抗なさらなければこんなこと…!」
 直後、この世の物とは思えない、強烈な雑音が逃亡者に叩き付けられた。指向性の音波が神経を揺らし、精神を混乱させる。その間に果林は荒縄を取り出し、空族をグルグル巻きにして完全に拘束した。
 捕縛された者は一か所に集められ、縄を木に繋がれて逃げられない状態になっている。現在状況を確認するために、白月は縛られている者の数を数えた。そこに、早矢と果林が連れて来ようとしている人数も加える。
「18……19、20! どうやら、全員確保出来たみたいですね。姫翠、空のみんなに連絡して来て下さい」
 捕縛対象が揃った事を確認し、白月は相棒に伝言を頼んだ。彼の言葉を聞き、姫翠は羽を広げて飛び上がる。開拓者達が合流したのは、それから数分後の事だった。

●一件落着?
 集合した開拓者達は、互いに労いの言葉を掛け合った。目標を達成して盛り上がる中、捕まった空族達に向かって、説教をする者が数人。
「愚か者どもめ。これ見よがしにさえずってみせる鳥は、例外なく喰い殺されるのだ。良く覚えておく事だな」
 正しき道を重んじるルーガにとって、今回の事件は納得出来ない事なのだろう。彼女に同意するように、ライアは短い鳴き声を上げている。
「もうこんな事しちゃダメですよ! 分かりましたか!?」
 頬を膨らませ、身振り手振りを交えて熱く語る白漣。その想いが通じると良いが…空族達の様子を見る限り、反省の色は見えない。
 だが…その表情は、すぐに変わる事になる。
「私は、白漣さんやルーガさんと違って優しくありません。貴方達に、規則をシッカリと叩き込んで差し上げますね?」
 背筋を凍らせるような、冷たい声と視線。巳夜子を敵に回したのは、空族達最大のミスだろう。これから何が起きるのか、恐ろしくて想像する事すら出来ない。
 巻き込まれるのを避けるかの如く、開拓者達は巳夜子と空族から距離を空けた。
「みんなでパトロールは楽しかったけど…ふにぃ、お腹減ったの〜」
 両手で腹部を押さえながら、元気無く声を漏らすプレシア。タイミングが良いのか悪いのか、彼女の腹の虫がグゥ〜っと自己主張を始めた。
「あらあら。ベルティーニ様さえ良ければ、お茶にしませんか? もちろん、皆様もご一緒に♪」
 クスクスと笑いながら、果林がお茶会を提案する。捕縛が無事に終わったら、全員でお茶を飲む事を楽しみにしていたのだろう。茶器等の準備は万端なようだ。
「茶会、か。私も、果林殿と同じ事を考えていた。新しく調合した茶葉を味わって貰いたいと思ってな」
 それは、からすも同じだったりする。開拓者と空族、全員に怪我が無い事を確認した今、お茶を飲んで一息つきたいのだろう。
『マスター、私達も参加しましょうよ! お茶会、楽しそうです♪』
 白月の肩に座っていた姫翠が、元気良く飛び立つ。期待の眼差しを向ける彼女の頭を撫でながら、白月は静かに口を開いた。
「それは構いませんが、お茶会の前に彼等をギルドに運ばないと」
 捕獲対象は全員捕まえたが、それをギルドに引き渡すまでは依頼が完了したとは言えない。早急に連れて行った方が良いだろう。
「確かに、奴らの連行は優先事項だが……『あれ』に関わりたいか? 私は、静観を提案する」
 苦笑いを浮かべながら、早矢は視線を巳夜子達に向ける。現在、規則を叩き込んでいる真っ最中だ。その内容は筆舌に尽くし難く、とても声を掛けられる状況ではない。
 開拓者達は無言で顔を見合わせると、静かに頷いた。静観を決めたのか、からすと果林を中心に、お茶の準備を進めていく。
(どうやら…果林は無事みたいだな。これからも、絶対に守ってみせる…!)
 楽しそうにお茶を注ぐ果林を眺めながら、ふしぎは決意を新たにする。彼にとって、果林は特別な存在なのだろう。
 周囲にお茶の香りが広がり始めた頃、開拓者達は地面に腰を下ろして茶会が始まるのを待っていた。そこに、サニーレインとテツジンの姿は無い。
 2人がドコにいるかと言うと…。
『こらサニー、そんなものネコババしちゃいかん』
 言いながら、テツジンは主を軽々と持ち上げる。反動で、滑空艇の残骸がバラバラと地面に転がった。
「この部品で、テツジンを改造しようと、思ったのに。ぶー」
 不満そうな表情のサニーレイン。彼女の『空に対する情熱』は、まだまだ終わりそうにないらしい。