南瓜オバケを『救え』
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/10/17 20:22



■オープニング本文

 天儀という国は、他国の文化や風俗に対して柔軟である。良い事を取り入れて独自に改良し、自国に合わせて昇華させる……それは単なる猿真似では無く、新たな文化の開拓と言っても過言ではないだろう。
 時は10月。街中に並んでいるカボチャ提灯も、新しい文化の一端である。
「これで20個目完成、と。やれやれ…コイツを作るのは、手間がかかるモンだな」
 苦笑いを浮かべながら、20代後半くらいの男性がオレンジのカボチャを叩く。目と鼻と口を刻み込み、中をくりぬいた提灯。これから始まる、ハロウィンを象徴する小道具でもある。
 男性が大きく伸びをした直後、その視界を『何か』が動いた。反射的に視線を向けたが、何も居ない。小首を傾げながら踵を返した瞬間、男性の表情が凍り付いた。
「か……カボチャのバケモノ!?」
 彼の作った提灯達が、体を得て動いているのだから、驚くのも無理は無い。瘴気が集まって具現化した肉体は、全身に黒い包帯を巻いているように見える。頭部にはカボチャ提灯が乗っていて、一見すると仮装している人間のようだ。が、彫られた目鼻口から赤い光を放ち、瘴気が漏れている以上、人間ではありえない。
 しかも…その数は1体だけではない。男性の作ったカボチャ提灯が、次々にバケモノと化していく。20体近いアヤカシの集団は、顔を見合わせると街に向かって移動を始めた。


■参加者一覧
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
雲雀丘 瑠璃(ib9809
18歳・女・武
三葉(ib9937
14歳・女・サ


■リプレイ本文

●南瓜奪還戦
 曇り空の中、湿気を帯びた冷たい空気が地面を舐める。街へ続く大通りは静まり返り、『アヤカシ』という名の嵐が来る前兆なのかもしれない。周囲に一般人が居ないのは、不幸中の幸いだろう。
 閑散とした街道に、一陣の風が吹く。突風と呼ぶには優雅過ぎ、微風と呼ぶには強過ぎる風が。
「みんな、お待たせ。距離と速度的に、あと10分もすれば敵が見えてくるハズだよ」
 その正体は、竜哉(ia8037)。脚絆に埋め込まれた宝珠が空力を生みだし、一気に加速して滑るように移動していたのだ。機動力を活かしてアヤカシを偵察し、仲間達の元へ帰還したところである。
「竜哉様、偵察お疲れ様です。ここで迎え撃つのが得策のようですね」
 労いの言葉を掛けながら、玲璃(ia1114)が優しく微笑む。彼が荷物を下ろすと、開拓者達は迎撃の準備を始めた。
「南瓜の軍勢、か。面白い見世物だとは思うけど、街には行かせられないね」
 三葉(ib9937)は独り呟き、愛用の小太刀を握り直す。ハロウィンの時期だけに、南瓜の行列は人気が出そうだが…人を襲うなら、話は別だろう。
「カボチャを加工する大変さは、すご〜〜〜く分かる。なるべく無傷でお届けしましょう? 皆がお祭りを楽しめるように、ね」
 南瓜に細工した経験があるのか、フェンリエッタ(ib0018)の言葉には熱が入っている。巧くアヤカシを退治し、多くの南瓜提灯を届けられたらハロウィンは盛り上がるに違いないが…。
「だが…『最悪の場合』は、破壊も止むを得んな。そうならないよう、最善を尽くすが」
 琥龍 蒼羅(ib0214)が危惧しているのは、街に侵入されたり、仲間が危機に瀕する事。南瓜を回収するために多くの犠牲が出てしまっては、本末転倒である。
「だ…大丈夫ですよ、蒼羅さん。全員で協力すれば、きっと巧くいきますから!」
 軽く両手を握りながら、明るく語り掛ける雲雀丘 瑠璃(ib9809)。若干内気な性格なのか、微妙に恥ずかしそうな表情をしている。
 その必死な様子に、蒼羅はほんの少しだけ笑みを浮かべた。
「でも、最近南瓜のお化けの話が多いよね。何でだろう?」
 疑問を口にしながら、戸隠 菫(ib9794)が小首を傾げる。ハロウィンというイベントを知らなければ、不思議に思うのも無理は無いが。
 皆が彼女の疑問に答えようとした瞬間、瘴気を孕んだ突風が周囲を駆け抜ける。荒ぶる風が、アヤカシが来た事を告げていた。

●街道での激突
「あら…ホント、律儀に道に沿ってパレードしてる。アヤカシの過ぎた悪戯には、お仕置きが必要だわ」
 言いながら、フェンリエッタは不敵に笑う。彼女の言う通り、アヤカシ達は街道を真っ直ぐに移動していた。しかも、騎士団のような起立不動の行進ではない。踊るような、遊んでいるような、楽しげな様子である。
「見た目はユーモラスだけど…このままじゃ、街に被害が出るものね」
 溜息を漏らしつつ、兵装を強く握る菫。ユーモラスなのは微塵も否定出来ないし、目の前の南瓜達が本当に敵なのか、疑わしくなってくる。
「さて、20個ちゃんとあるかね…? 『道中転んでました』とか、困るし」
 目を凝らし、蒼羅が南瓜達に視線を向けた。動いているモノを数えるのは容易では無いが、確認しないワケにはいかない。数が20個ある事を確認し、蒼羅は胸を撫で下ろした。
 楽しそうにパレードしていた南瓜達だったが、開拓者達の存在を見付けた瞬間に状況は一変する。おどけるような動きが一斉に止み、20体のアヤカシが列を成す。何体かが腕を変形させると、一気に距離を詰めて襲い掛かってきた。
 迎え撃つように、蒼羅、菫、瑠璃、三葉の4人が横1列に並ぶ。双方の距離が急速に接近し、瘴気と兵装が交錯した。
「通りたいなら、頭を置いて行ってよね」
 アヤカシの斬撃を弾き飛ばし、三葉の小太刀が鋭く奔る。切先が敵の胴を深々と斬り裂き、瘴気が飛び散った。
「いや…頭が無くても、アヤカシに違いは無い。何があっても、ここで倒すべきだな」
 ツッコミを入れつつ、巨大過ぎる野太刀を振る蒼羅。白く澄んだ気を帯びた刀身がアヤカシの胴を両断し、瘴気を浄化していく。残った頭部は刀身の峰を滑るように移動し、蒼羅の腕の中に納まった。
 玲璃が腕を振ると、菫の周囲が複数枚の薄い結界に包まれる。その様子は、まるで氷の華を模しているようだ。更に、前衛で戦う者を支援するため、南瓜回収用の布団を広げる。
「布団が必要なら言って下さい。急いで敷いて、退治後に落ちても大丈夫なように支援します」
 その言葉を聞き、菫は武器を掲げた。精霊の幻影が具現化し、槍に吸い込まれるように一体化して淡い光を宿していく。三叉になっている穂先を素早く水平に構え、菫は腕の付け根を狙って一気に突き刺した。敵の体が一瞬硬直し、瘴気と化して四散。落下してくる頭部を、そっと穂先に乗せた。
「玲璃さん、早速お願い! このまま後ろに投げるから、あとは宜しく!」
 言うが早いか、頭越しに後方に飛ばす。南瓜が放物線を描きながら、宙を舞った。玲璃は落下地点を予測し、素早く布団を敷く。フカフカでモフモフな布団が落下の衝撃を全て吸収し、また1つ南瓜が無傷で回収された。
 瑠璃が槍を振り回し、敵の脚を払うように薙ぐ。転倒させるのが目的だったが、その1撃が止めとなってしまった。アヤカシが後ろに倒れながら、全身が瘴気となって消えていく。咄嗟に、瑠璃は槍の穂先を水平にして南瓜を乗せた。
「ちょっと乱暴になっちゃいますが……受け取り、よろしくお願いしまぁぁっす!」
 そのまま、遠心力に任せてブンと振り投げる。方向は悪くないが、若干元気良く投げ過ぎたかもしれない。
 それを追って、竜哉が街道を駆ける。
「お願いされたたら、期待には応えないとね」
 不敵な笑みを浮かべながら、床石を蹴って跳躍。空中で南瓜をキャッチし、華麗に着地した。
 前衛4人が接敵している隙を狙うように、1体のアヤカシが彼女達の頭上を飛び越える。恐らく、このまま開拓者達を無視して街に向かうつもりだろう。その進路を、フェンリエッタが塞ぐ。予想外の邪魔者に対して、アヤカシは腕を刀に変化させて振り下ろした。
 反射的に、フェンリエッタは床石を蹴って横に跳ぶ。頭髪が数本舞い散る中、彼女は再び地面を蹴ってアヤカシの背後に回って羽交い絞めの要領で首を固定した。その状態でアヤカシの脚を払い、体勢が崩れたところを蹴り上げる。精霊の力を宿した脚絆が宙に白い軌跡を描く中、梅の香りと共にアヤカシの体は浄化されて空気に溶けていった。
 注意を逸らしたアヤカシの隙を狙い、三葉も敵の背後に回り込む。素早く左手を伸ばし、後頭部を掴んだ。
「背中が隙だらけね。ズルいなんて言わせないわよ?」
 右手の小太刀を強く握り、一気に走らせる。切先がアヤカシの首を捉え、一瞬で切断。胴と南瓜から瘴気が噴き出し、空気に溶けるように消えていった。
 開拓者達の活躍で、南瓜提灯が次々に回収されていく。蒼羅、菫、瑠璃、三葉が前衛で敵を足止めし、玲璃、竜哉、フェンリエッタの3人が回収を優先しながらの遊撃。絶妙なコンビネーションが、街道で繰り広げられている。
 南瓜を回収していた玲璃の腕が、突然止まる。周囲に張り巡らせた結界が、アヤカシの不審な動きを感知したのだろう。周囲を見渡しながら、玲璃は大声で叫んだ。
「この動き…みなさん、気を付けて下さい! 隠れて移動しようとしてる者が居ます!」
 彼の叫びが響いた直後、街路樹の陰から2匹のアヤカシが飛び出した。
「あっ! お、お待ちくださぁぁ〜い!」
 慌てながら、瑠璃が後を追う。彼女だけではない。三葉、蒼羅、フェリエッタも同様である。玲璃、竜哉、菫の3人は、残ったアヤカシの足止めに回った。
 フェンリエッタは一旦脚を止め、精霊に干渉する。その力を借り、篭手の手首に仕込んだ刃に雷電を帯びさせると、空中を連続で薙いだ。雷が刃と化して宙を奔り、2匹のアヤカシを撃つ。ダメージと共に敵の動きが一瞬止まったが、彼等にはそれで充分だった。
 蒼羅の兵装が白い輝きを宿し、梅の香りが周囲に漂う。大きく踏み込みながら胴に斬撃を叩き込み、アヤカシの体を両断。澄んだ気が瘴気を浄化し、南瓜を残して消えていった。
 三葉と瑠璃は併走しながら武器を構え、残った敵に向かって全力で突き出す。槍の矛先と小太刀の切先が、交差するように敵の胴を貫通して瘴気が噴き出した。ほんの数秒で、アヤカシの体は空気に溶けて消え去る。
「回収成功です。その調子で、どんどんお願いしますね?」
 微笑みながら、南瓜を回収するフェンリエッタ。幸いな事に、傷や汚れは全く無い。
「フェンリエッタ。援護、感謝する。お陰で助かった」
 足止めの礼を述べ、軽く頭を下げる蒼羅。フェンリエッタが笑顔でそれに応えると、4人は残ったアヤカシを倒すために駆け出した。
 ほぼ同時刻。竜哉は仕込み刃に聖なる精霊力を宿らせ、大きく薙いだ。刀身がアヤカシの胴を深々と斬り裂き、傷口が塩となって崩れ落ちる。それが全身に広がり、瘴気と塩の粒が弾けるように飛び散った。
「ルールは単純。『頭を狙うな、狙うならボディ』ってね?」
 言いながら、落下する南瓜を受け止める。これで、残った敵はあと3体。
 開拓者達が合流するのを狙うように、1体のアヤカシが顔の前で両腕を交差させた。それを左右に振り下ろした直後、口に該当する部位から炎が噴き出し、真っ直ぐに伸びる。咄嗟に、7人は左右に跳んで直撃を避けた。
 炎を吐いた敵の後方で、違うアヤカシが腕を交差させる。炎を吐く前兆に気付いたフェンリエッタは、床石を蹴って敵の懐に飛び込んだ。刃に白く透明な気を纏わせ、敵の脚部を狙って素早く薙ぐ。斬撃が膝を砕くと体勢が大きく崩れ、アヤカシの炎は何も無い空間に放たれた。
「ちょっと焦げるくらいならご愛嬌かもだけど、ホクホクになっては台無しよね…」
 呟きながら、脚絆でアヤカシを蹴り上げる。梅の香りを伴った蹴撃が敵を浄化し、瘴気と化した体を消し去った。落下してくる南瓜を、フェンリエッタが笑顔で受け止める。
 仲間を倒されて逆上したのか、1体のアヤカシが瑠璃に飛び掛かる。腕を刀状に変形させると、頭上から振り下ろした。咄嗟に身を翻したが、切先が腕を深く斬り裂いて鮮血が滴る。
 更に、アヤカシは標的を菫に変えて腕を突き出した。予想外の攻撃に、彼女の反応が一瞬遅れる。横に跳んで直撃を避けたものの、脇腹を斬られて赤い飛沫が舞った。手傷を負った2人は、アヤカシとの距離を離すように後方に飛び退く。
「南瓜に傷が付いたら大変ですが…わ、私も傷物になったままじゃいけませんしっ!」
「同感。玉のお肌に傷が付いたままじゃ、気分が悪いしね」
 苦笑いを浮かべながら、瑠璃と菫は印を結んだ。精霊力が活性化し、癒しの力が傷口に集まって負傷を癒していく。
 回復する2人を守るように、三葉はアヤカシの前に割り込んだ。そのまま、胴を狙って小太刀を突き刺す。刀身がアヤカシを貫通して傷口から瘴気が漏れ出す中、三葉は小太刀を逆手に持って脚を軸に回転。斬撃が敵の体を深々と斬り裂き、全身が瘴気と化して弾け散った。
 これで、残るは1体。仲間を支援するため、玲璃は重厚かつ静かに舞った。神楽が精霊に干渉し、その力を借りて敵の動きを鈍らせていく。
 最後の敵を狙い、蒼羅が駆け出した。
「抜刀両断、ただ・・・断ち斬るのみ…!」
 覚悟を決め、驚異的な速度で刃を走らせる。正確無比の斬撃がアヤカシの胴を通過したが、ダメージを受けた様子は無い。蒼羅が野太刀を街道に突き立てると、その衝撃でアヤカシの体がスライドした。恐るべき速度の斬撃は、対象に『斬られた』事すら感じさせない。両断された体がようやくダメージを認識し、空気に溶けるように消えていった。
 最後の1体が倒され、三葉は周囲を見渡す。視界に映るのは街道の風景ばかりで、アヤカシの姿は影も形も無い。
「これで全部、かな? 念のために、数を数えてみよっか」
「そうですね。では、傷が付かないように布団を広げましょう」
 彼女の意見に同意しながら、玲璃は布団をもう1枚広げた。どうやって持ち運んだのか気になるが、ツッコんだら負けである。
 全員が南瓜を手に集まり、最終確認が始まった。

●南瓜大移動
「18…19…20! どうやら、1個も壊さずに回収出来たみたいですね」
 個数を数えていた玲璃が、嬉しそうに声を上げる。20個あるなら、アヤカシと化した南瓜を全て倒せたに違いない。しかも、目立った傷や汚れが無いのだから、依頼人も満足するだろう。
「それにしても…何なの、この南瓜頭人形。見た事無いんだけど」
 眉間にシワを寄せながら、菫が南瓜を指でつつく。カタカタと鳴るだけで、南瓜から言葉が返ってくる事は無いが。
「多分、ハロウィンが近いからですね。元はジルベリア方面の文化らしいですが」
 柔らかく微笑みながら、彼女の疑問に答えるフェンリエッタ。そっと南瓜を持ち上げ、背負い籠に収納していく。
 瑠璃も南瓜を持ち上げたが、手が滑ったのか両手から零れ落ちた。
「はわわっ、落ちないでくださぁぁ〜い!!」
 悲鳴に近い叫びを上げながら、素早く手を伸ばす。幸いな事に南瓜は無傷でキャッチ出来たが、驚き過ぎた瑠璃の目尻には涙が浮かんでいる。
「…驚かせないで欲しいなぁ、瑠璃。今のは、戦闘中より焦ったよ」
 蒼羅は苦笑いを浮かべながら、安堵の言葉を漏らす。彼だけでなく、その場の全員が焦ったに違いない。瑠璃は申し訳無さそうに顔を伏せながら、深々と頭を下げた。
 そんな彼女の肩を、三葉が優しく叩く。
「まぁ、街は守れたし、南瓜も無傷なんだし、良いじゃない。早くギルドに戻って、依頼人を安心させよう?」
 言葉と共に、明るい笑顔を浮かべる。陽気な三葉らしい言動ではあるが、間違った事は何も言っていない。
「…そうだな。相当な量だが、全員で手分けすれば移動出来るはずだ」
 視線を南瓜に移し、蒼羅がゆっくりと口を開く。これを運ぶまで、依頼は終わらない。持ち運びに無理がないよう個数を調整し、7人は南瓜を手に移動を始めた。
 数人が南瓜を被ってハロウィン気分を先取りしているが…これも、平和な証拠だろう。