冷え過ぎる残暑の夜
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/29 19:46



■オープニング本文

 『夜長月』という異名を持つ程、9月の夜は長い。加えて、残暑が天儀の人々に寝苦しさを与えていた。それは、理穴に於いても例外ではない。今宵も、涼を求めて夜道に提灯の明かりが揺れる。
「ねぇ…本当に大丈夫かな?」
「何だよ。お前、今更ビビってんのか?」
「怖いなら一人で帰れば? あたしとリョウは行くけど」
 夜道を歩いていたのは、2人の少年と1人の少女。歳は、全員16歳程度だろう。
「トモエの意地悪。一人で帰るなんて、僕には無理だよ…」
「そんな顔すんなよ、ハヤト。折角の肝試しなんだから、楽しんでいこうぜ?」
 怯えるハヤトの背を、リョウが力強く叩く。その衝撃で、思わずハヤトは咳き込んだ。
 彼等3人は、近所に住む幼馴染である。連日の熱帯夜に嫌気が差し、今夜は散歩をして涼んでいたのだが…視界に寺子屋が入った事で、トモエとリョウが肝試しを提案。結果、ハヤトは巻き込まれる事になったのだ。
 寺子屋は町の外れにあるため、周囲に民家は少ない。すぐ裏手が山になっているため、不気味さが増しているように見える。そんな場所に、3人は足を踏み入れた。
「何か…雰囲気あるわね。いかにも、ってカンジ」
 流石のトモエも、若干顔がひきつっている。恐らく、口では表現出来ない異様な雰囲気を感じているのだろう。
「おいおい、お前までビビってるのか? さっきまでの強気はドコ行ったんだよ」
「リョウ! あ…あれっ!!」
 リョウの言葉を遮るように、震える声で叫ぶハヤト。恐怖に染まった表情で指差す先には…。
「明かり…いや、火か? 何でこんな場所に…」
 ユラユラと揺れる、赤い炎。それは提灯のような照明器具でなければ、篝火のような警備や狩猟用でもない。第一、人気のない場所で炎を焚く意味がない。不審に思っている3人の前で、炎が8つに分裂した。その炎の中に、不気味な表情が浮かんでいるように見える。
「ひっ…! あれって、もしかして人魂ってヤツ!?」
 トモエの言葉が、3人の恐怖心を一気に加速させた。禍々しい炎の塊が、一気に押し寄せる。
「いやぁぁぁぁぁ!」
 恐怖が限界に達したのか、トモエは甲高い叫びを上げながら逃げ出した。リョウとハヤトが後を追おうとしたが、人魂が先回りして進路を塞ぐ。夜の闇に、2人の悲鳴が吸い込まれていった。


■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
ミーリエ・ピサレット(ib8851
10歳・女・シ
桂樹 理桜(ib9708
10歳・女・魔


■リプレイ本文

●チーム結成
 涼しい夜風が頬を撫で、満天の星が夜空を彩る。月光が淡く降り注ぐ中、小柄な人影が4つ揺れている。
「理桜さん、初めまして…今回は、宜しくお願いします」
 穏やかに微笑みながら、静かに頭を下げるファムニス・ピサレット(ib5896)。人見知りなのか、若干オドオドしているようにも見えるが。
「こんばんは、理桜ちゃん! ミーリエだよ! よろしくなのだ!」
 対照的に、ミーリエ・ピサレット(ib8851)は元気イッパイである。満面の笑みを浮かべながら、握手を求めるように手を差し出した。
「理桜こそ、よろしくお願いします! 足手纏いにならない様、頑張ります!」
 緊張の面持ちで挨拶を返し、握手に応じる桂樹 理桜(ib9708)。彼女は、依頼に対して不安があるワケでは無い。緊張の原因は、違う処にあった。
「理桜ちゃん、久しぶり♪ 開拓者になったんだね!」
 嬉しそうに微笑みながら、リィムナ・ピサレット(ib5201)が声を掛ける。どうやら、彼女と理桜は初対面ではないようだ。
「リィムナさん…理桜、助けてもらった時からずっとあなたに憧れて…依頼で一緒になれて、すごく嬉しいです!」
 憧れと尊敬、歓喜が入り混じったような表情。理桜にとって、リィムナは特別な存在なのだ。憧れの人と、その姉妹達…3人と行動を共にするのだから、緊張するのも無理は無い。
「姉さんと理桜さん、知り合いだったんですね。そんな事があったなんて、知りませんでした」
 言いながら、ファムニスが2人を交互に見比べる。自分の知らない姉の一面を聞いて、少々不思議な感覚なのかもしれない。
「そんな大した事してないよ♪ それに、あたしの事は『リィムナ』で良いから♪」
 若干恥ずかしそうに笑いながら、リィムナが言葉を返す。その発言に、理桜は思わず驚きの表情を浮かべた。
「えっ!? そんな…呼び捨てなんて、出来ないです!」
 ノリと本能で行動する事の多い彼女だが、今回ばかりは違う。憧れの存在を呼び流しにするのは、抵抗があるのだろう。
 そんな理桜の背後から、ミーリエが抱き付いた。
「理桜ちゃんたら、真面目だね〜。一緒に戦う仲間なんだから、もっと気楽にしていいと思うのだ!」
 微笑みながら、頭をクシャクシャと撫でる。髪が激しく乱れているが、理桜自身は嬉しそうだ。
「あははっ。…そうだ! 一体感を高める為チームを作ろう! 皆下駄履いてるから…『下ッ駄ーチーム』でいいよね!?」
 突然、リイムナが大声で叫ぶ。仲の良い者が集まっているため、テンションが上がっているのだろう。その提案は、全員の予想の斜め上を行っているが…。
「チーム? ……良いと思うよ」
 リィムナの突飛な思い付きには慣れているのか、一切反対しないファムニス。全員が顔を見合わせると、静かに頷いた。
「よーし、下ッ駄ーチーム結成なのだ! いっくぞー!」
 ミーリエの掛け声に合わせ、全員が拳を突き上げる。こうして…下駄を履いた少女達は、意気揚々と依頼の現場へ歩いて行った。

●少女、大奮闘
 下駄の乾いた音が、夜の闇に吸い込まれていく。静まり返った寺子屋は、いかにも『何か』が出そうな雰囲気が漂っている。
「ここが問題の現場、ですか…リョウさんとハヤトさんを探す前に、まずは敵を見付けて倒さないと…!」
 周囲を見渡しながら、理桜は小さな手を強く握った。『皆の迷惑にならない』という、意気込みの表れなのだろう。
「それはファムニスも同意見ですが…敵を探す手間は省けそうです」
 理桜の言葉に、ファムニスは静かに言葉を紡ぐ。その視線は、奥の茂みを射抜くように凝視している。
「あ、ファム姉も気付いた? どこに居るか、一緒に指差してみるのだ!」
 耳に神経を集中させていたミーリエは、何かの物音に気付いたようだ。彼女の提案に、ファムニスが静かに頷く。ミーリエの合図で2人が同時に動いた時、その指先は奥の茂みを差していた。
 直後、周囲の瘴気が1点に収束して濃度を増す。4人の目の前で、大きな火の玉が8つ浮かび上がった。その距離、約50m。ファムニスは結界を張って瘴気を探っていたため、その存在に気付いたのだろう。ミーリエは、瘴気の流れる音を聞いたのかもしれない。
「よーし、下ッ駄ーチーム出撃! 連携して敵を倒そう!」
 リィムナの元気な叫びに、全員が頷きながら兵装を構える。開拓者達の動きに気付いたのか、アヤカシ達が一斉に移動を始めた。その速度は、一般人の全力疾走くらいの速さがある。
「攻撃開始なのだっ! 下ッ駄ー与一アロー!」
 先頭の敵に向かって、ミーリエが矢を連続で射ち放つ。鋭い射撃が敵を射抜き、衝撃で散った火の粉が瘴気に還った。技名については、深くツッコんだら負けである。
「では、理桜も…聖下ッ駄ーアロー!」
 恥ずかしそうに叫びながら杖を振る理桜。杖の先端から聖なる力を帯びた矢が2本放たれ、手負いの敵に吸い込まれるように飛んでいく。それが交差するように敵に突き刺さると、全身が瘴気と化して弾け飛び、空気に溶けていった。
「チーム名を掛け声にするなんて…皆、ノリノリだね」
 独り呟き、ファムニスは大きく手を広げる。そのまま静かに舞いながら精霊に干渉し、理桜とリィムナの知覚力を増強させた。
「一気に決めるよっ! 下ッ駄ーアーク!」
 リィムナのノリノリな叫びが周囲に響く。両手から放たれた閃光が暗い闇を斬り裂くように奔り、敵を連続で射抜いた。圧倒的な電撃が、炎を散らして消し去る。瞬く間に、2匹目のアヤカシは瘴気と化した。更に、3発目の電撃が違う敵を射抜く。
 反撃するように、アヤカシの体から炎が噴き出した。それが扇状に広がり、開拓者達に迫る。咄嗟に、4人は左右に別れるように跳んで炎を回避した。が、着地の瞬間を狙って2匹のアヤカシが炎の矢を射ち出す。標的は、ミーリエと理桜。実体を持たない矢が、2人を射抜いた。苦痛で顔が歪む中、残り3匹が更に距離を詰める。
「ミーリエさん! 理桜さん! 大丈夫ですか!?」
 ファムニスの悲痛な叫びが周囲に響く。その声に応えるように、理桜は薄っすらと笑みを浮かべた。
「ご心配には及びません。私は大丈夫です」
「大丈夫だけど、痛いし熱い! 受けた攻撃は、倍返しなのだ!」
 一方のミーリエは御立腹の様子である。プンプン怒りながら矢を番え、一気に引き絞って手負いの敵を狙い撃った。放たれた矢が、火球の中心を射抜く。更に、追撃するような2射目が敵を捉える。素早い弓撃が敵に孔を穿ち、そこから瘴気が漏れ出して弾け散った。
 祈りを捧げるように、ファムニスが両手を合わせる。その体が淡い輝きを放った直後、光が周囲に広がり、ミーリエと理桜の傷を癒した。
「そっちが炎なら、こっちは吹雪! 下ッ駄ーストーム!」
 叫びながら、リィムナは接近する3匹に向けて杖を向ける。先端に強烈な冷気が生まれ、激しい吹雪となって扇状に広がった。それが敵を一瞬で飲み込み、全身を凍て付かせる。
 吹雪が周囲を白く染める中、2筋の聖なる光が奔った。理桜が放った聖なる矢…いや、『聖下ッ駄ーアロー』である。閃光が吹雪を突き抜け、白い冷気の中に消えていく。それが晴れた時、アヤカシが2匹消えていた。理桜の攻撃が止めになったのだろう。
 これで、残るは3匹。手負いの敵は自身を刃の形に変えると、リィムナの頭上に飛び上がって一気に落下した。咄嗟に彼女は身を翻したものの、切先が頬を掠めて赤い線を描き、頭髪が数本切れて宙に舞る。
 20m程先に居る2匹が身を震わせると、炎の矢が放たれた。燃え盛る矢が開拓者4人に迫り、ほぼ同時に射抜く。
 熱さと痛みに耐えながら、リィムナは吹雪を呼び出した。圧倒的な冷気が全ての敵を飲み込み、手負いのアヤカシは消し飛ぶように瘴気と化した。
 彼女に続き、ミーリエが矢を放つ。邪を払う精霊力を宿した弓から撃ち出された一矢は、赤い燐光と共にアヤカシを貫通。射抜かれた炎の塊は、徐々に収縮して数秒で消え去った。
「あいつで最後! ここは、みんなで決めるよっ!」
 残った1匹を指差しながら、リィムナが叫ぶ。彼女の言葉に、その場に居る全員が静かに頷いた。
「了解なのだ! ミーリエ達の心が1つになれば…!」
「百万人力の攻撃が出来ますね!」
 百人力という言葉は聞いた事があるが、百万人力とは大きく出たモノである。理桜の発言に微笑みながら、ファムニスは再び静かな舞を踊った。
「姉さん、理桜さん、ファムニスの分まで頑張って下さい…!」
 言葉と共にファムニスは2人に軽く触れ、精霊の加護を与える。リィムナ、ミーリエ、理桜は顔を見合わせると、兵装を構えながら視線を敵に向けた。
 リィムナの杖の先に、精霊力が集う。
 破邪の意志を込め、ミーリエが矢を番える。
 理桜の杖に、聖なる力が集まっていく。
『真・下ッ駄ーアロー!』
 叫びと共に、3人はほぼ同時に攻撃を放った。理桜の聖なる矢、ミーリエの弓撃、そしてリィムナの電撃。飛来する電光は、まるで雷の矢に見える。3種類の矢が、3方向からアヤカシに迫って射ち抜く。赤い燐光が舞い散る中、敵の体が瘴気と化して空気に溶けていった。

●成功の記念
 アヤカシを撃破した4人は、現場の寺子屋周辺を捜索していた。敵は倒したが、依頼は終わっていない。捜索対象が、まだ見付かっていないのだ。
 2手に別れて捜索を続ける開拓者達。松明の明かりが闇夜を照らす中、ミーリエの足が止まった。
「この音…心臓の鼓動と、呼吸音?」
 呟きながら、周囲を見渡す。彼女の研ぎ澄まされた聴覚が、正体不明の音を捉えたのだろう。
「あ…微かだけど、瘴気を感じる。あの奥から…」
 ファムニスが指差したのは、寺子屋の陰になって目立たない茂みである。人目に付かないため、何かを探すには最適かもしれない。
 2人は顔を見合わせて軽く頷くと、ゆっくりと茂みに近付いた。用心しながら、そっと茂みを掻き分ける。その奥から姿を現したのは……地面に横たわる2人の少年。恐らく、捜索対象のリョウとハヤトだろう。
 ミーリエは呼子笛を取り出し、音を鳴らした。周囲に笛の音が響く中、ファムニスは膝を付いてリョウとハヤトの呼吸と脈を確かめる。自身と変わらない拍動に、静かな呼吸。どうやら、気を失っているだけのようだ。彼女が感じた瘴気は、アヤカシに襲われた時に付いたのだろう。
 笛を仕舞い、ミーリエは2人の全身を眺める。目立った外傷は無く、骨折や打撲の類も無い。捜索対象の無事を確認し、ミーリエ達は胸を撫で下ろした。衰弱している可能性を考慮し、ファムニスは2人の手を取ってスキルを発動。癒しの効果を秘めた光が、リョウとハヤトの全身を包んで生命力を回復させていく。
「ファム! ミーリエ! 発見したの!?」
 後方から聞こえてくる、リィムナの声。ファムニス達が振り返ると、スキルで作り出した火球を引き連れたリィムナと理桜が視界に飛び込んできた。全力で走ってきたのだろう、息が上がっている。
「リョウさんとハヤトさん、無事ですか? 外傷等が無いと良いのですが…」
 息を整えながら、理桜が心配そうに2人を覗き込む。そんな彼女に向かって、ファムニスは優しく微笑んだ。
「気を失っていますが、怪我はありません。念のために閃癒を使いましたから、大丈夫だと思います」
「それなら、良かったです…これで、依頼は完了ですよね?」
 ファムニスの言葉と表情に、理桜の顔にも笑みが浮かぶ。全員に問い掛けながら視線を向けると、誰もが達成感に溢れた表情を返した。
「うん! 下ッ駄ーチームの勝利を祝して、みんなでガッツポーズでも決めようか♪」
 依頼達成の喜びと、今日の記念に思い出を残したい気持ちは分かる。が、リィムナの思い付きは、突然過ぎる気がしないでもない。
「賛成! こんな時のために考えたポーズ、見せるのだ!」
 そんな事は微塵も気に留めず、ノリノリで返事をするミーリエ。はにかんでいるが、ファムニスは楽しそうに笑っている。理桜は、リィムナと一緒にポーズを決められる事を素直に喜んでいるようだ。
 どんなポーズにするか、掛け声をどうするかを話し合う事数分。4人はタイミングを合わせ、同時に叫んだ。
『下ッ駄ーの勝利だね!』
 満面の笑みと、会心のポーズ。今日の事は、良い思い出になるだろう。
 だが……彼女達は、重大な事を忘れていたりする。リョウとハヤトが気絶している以上、いつ目を覚ますか分からない。となると、2人を運ぶ必要があるワケだが…ここに居るのは、10歳前後の小柄で可憐な少女のみ。10代後半の男性2人を運ぶのは、かなり難しいだろう。
 その事実に4人が気付くのは、もう少し先になりそうだ。