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■オープニング本文 ギルドという場所は、その施設の特性上、色々な者が訪れる。開拓者や職員はもちろん、依頼人や業者等、職業や年代まで様々である。中には…『場違いな不審者』も居るが。 「…今日も来てますね、あの子」 窓口の女性職員が、小声で話しながら正面の建物を覗き見る。視線の先に居るのは、12歳程度の少女が1人。ギルドに入るワケでも無く、ずっと建物の陰から覗いているのだ。 彼女が目撃されるじょうになったのは、約1週間前。何故そんな事をしているのか、目的は全く分からない。実害が無いため、今の処は見て見ぬフリをしているが…。 「小さなマイシスター。失礼ですが、ギルドに何か用ですか?」 何を考えているのか、克騎が少女に声を掛けた。普段は資料整理をしている彼が、勤務中に外に出るのは珍しい。少女に声を掛けた事と、二重の意味で驚きである。 「え? それはですねぇ…つまり、そのぅ〜…えっと、あのぅ〜…」 突然声を掛けられ、苦笑いを浮かべながら口籠る少女。声を掛けられるとは、予想もしていなかったのだろう。 「落ち着いて下さい。私は、貴女を咎めに来たワケではありません。ただ、毎日のように姿をお見掛けしているので、何をしているのかと思ったのですよ」 微笑みながら、優しく語り掛ける克騎。その言葉で若干落ち着いたのか、少女はゆっくりと口を開いた。 「あのぅ〜…私、機械を見ていたんです〜」 若干間延びした、ゆっくりした口調。言葉の意味が理解出来なかったのか、克騎は軽く小首を傾げた。 「私ぃ〜、機械が大好きなんです! 開拓者さんが連れてる、土偶さんとかぁ、駆鎧さんとかぁ、からくりさんとかぁ、素敵だと思いませんかぁ!?」 少女は拳を握りながら、興奮気味に言葉を告げる。 「将来、出来れば機械技師になりたいんですよぉ〜! でもぉ、機械は高くて私のお小遣いじゃ買えないですしぃ〜…遠くから、開拓者さん達の朋友さんを覗いてたんですぅ〜」 『開いた口が塞がらない』という言葉は、今の克騎のためにあるのかもしれない。少女の行動に呆れている反面、夢を追い掛ける情熱は大したモノである。 だが……。 「開拓者の朋友を見たいなら、依頼を出してはどうですか? 絶対、とは言えませんが…心優しい方が見せてくれるかもしれませんよ?」 克騎の言葉に、少女は数回まばたきをする。若干の沈黙。数秒後、少女はポンッと手を叩いた。 「その手がありましたか〜! オジサマ、頭が良いですねぇ〜。早速、依頼をお願いします〜。あ、私ぃ、メイっていいます〜」 『オジサマ』という言葉に、若干顔を引きつらせる克騎。そんな彼の手を引きながら、メイはギルドの中へ入って行った。 |
■参加者一覧
海神 江流(ia0800)
28歳・男・志
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武 |
■リプレイ本文 ●河原の奇跡 「では、皆様よろしくお願いします。あ、マイブラザー・紫狼。彼女に手を出したら、犯罪ですからね?」 河原で丁寧に挨拶した克騎が、特殊な趣味を持つ村雨 紫狼(ia9073)に声を掛けた。無論、克騎は彼が間違いを犯す事が無いと信じて、冗談半分で言っているのだが。 その言葉を受け、紫狼は不敵な笑みを浮かべた。 「愚問だな、克騎。俺のモットーは『YESロリータNOタッチ』…見て愛でる事が、至上の喜びだぜ!」 力強く親指を立て、キッパリと言い放つ紫狼。予想の斜め上をいく発言に、克騎は思わず笑い声を零した。 『マスター…何だか、人として色んな意味で間違ってる気がするのです…』 主の発言に、相棒の土偶ゴーレム、ミーアは元気の無い声を漏らす。自分の信念を貫くのは男らしいが、ミーアの言うように『色んな意味で間違ってる』事は否定出来ないだろう。 そんなカオスな会話が展開されている事は露知らず、依頼人のメイは目を輝かせながら朋友達を眺めている。 「わぁ〜…機械がいっぱいですぅ〜♪ 今日はぁ、よろしくお願いしますねぇ〜!」 メイの礼儀正しい挨拶を受け、海神 江流(ia0800)の相棒、からくりの波美−ナミ−は、若干戸惑うような表情を浮かべた。 『えっと…あの、よろしくお願いします』 「そんなに緊張するなよ、波美。とりあえず…あちらさんより美人で器量良しな処を見せてやれ」 相棒の肩をポンと叩きながら、仲間の朋友を指差す江流。その先に居るのは、ミーア。美少女の姿を模した土偶は、世界中探しても紫狼しか連れていないだろう。 「メイさん…あんな変態になったら駄目だよ? 『アレ』は、駄目人間の見本みたいな存在なの。桐もそう思うよね?」 真剣な表情でメイに語り掛けているのは、戸隠 菫(ib9794)。彼女の事を心配しているのは分かるが…若干言い過ぎているような気もする。 菫に声を掛けられ、相棒のからくり、穂高 桐は小首を傾げた。紫狼と菫をゆっくりと見比べ、自分の主と視線を合わせて頷く。恐らく、彼女に同意しているのだろう。 「未来の機械技師か……頼もしい事だな。これは一肌脱がねば、皇家の名が泣くというものだ」 皇 りょう(ia1673)は軽く腕を組み、優しい表情をメイに向けている。年齢は10歳近く違うが、彼女の夢を聞いて感心しているようだ。 「まだ12歳なのに、もう進路を決めているのですか。えらいですね……うん、お姉さんがアーマーを見せてあげましょう!」 歳の離れた妹を可愛がるように、アーシャ・エルダー(ib0054)はメイの頭を優しく撫でる。最初は恥ずかしがっていたメイだが、アーシャに期待の眼差しを向けている。 「歓談も良いけど、そろそろ本題に入ろうか。メイ、俺の収納ケースを開けてみるかい?」 柔らかく微笑みながら、自身のアーマー収納ケースを指差す竜哉(ia8037)。こんな貴重な体験が出来るのは、技師か開拓者くらいだろう。 「良いんですかぁ!? 是非、お願いします〜!!」 満面の笑みを浮かべ、即答するメイ。竜哉は彼女を連れ、ケースのある土手の方へ歩いて行った。 ●機械達と少女 「開きましたぁ♪ へぇ〜、駆鎧さんが収納されてるの、初めて見ましたぁ!」 ケースを開けたメイが、目を輝かせながら中を覗き込む。その表情は、まるで新しいオモチャを与えられた子供のようだ。ちなみに、鍵は竜哉が事前に開錠済みである。 「じゃぁ、ちょっと離れてて貰えるかな? 今から、アーマーを出すからさ」 「なら、私も準備しますね。2体並んでいたら、違いが分かり易いと思いますし」 竜哉とアーシャの言葉に、メイは2人とケースを見比べる。ほんの数秒悩むような素振りを見せたが、ゆっくりとケースから離れて行った。 アーシャはメイの頭を軽く撫で、竜哉と視線を合わせる。彼が静かに頷くと、2人はアーマーを取り出し、土手の傾斜に飾るように設置した。前面装甲を開け、内部が覗ける状態にするのも忘れない。 「わぁ〜〜〜♪ 2体並んだ駆鎧さん、素敵ぃ〜!」 両手を合わせ、小躍りして喜びを表現するメイ。まるで、恋する乙女のように目がハートになっている。 「少し乗ってみます? 雰囲気だけでも味わってみませんか?」 「乗りたいですぅ〜♪ 是非っ!」 提案したアーシャの手を素早く握り、メイは熱い視線を送りながらブンブンと振る。その可愛らしい言動に、思わずアーシャは笑みを零した。 「じゃぁ、こっちに来て?」 優しく手を引きながら、自分のアーマーへと導く。 「そこのグローブとブーツに手足を入れて……ね? ワクワクするでしょ?」 メイはアーシャの指示に従って乗り込み、小さな手足を伸ばした。身長が違うためブカブカだが、メイはかなり満足しているようだ。感動のあまり声が出ないのか、無言でコクコクと何度も頷いている。 「さて…お楽しみのトコ悪いけど、そろそろ模擬戦の準備をしても良いかな?」 内部を覗きながら、声を掛ける竜哉。その言葉を聞いたメイの表情が、一瞬で大きく変わった。 「え〜〜〜〜〜もう少し、乗っていたいですぅ…」 明らかな落胆。アーマーの操縦席が、相当気に入ったようだ。少女にこんな顔をされたら、誰でも二の句を継げなくなってしまう。竜哉とアーシャは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。 だが…こうなる事を予測していた開拓者も居る。相棒の武神号に搭乗したりょうが、メイに向かってゆっくりと手を伸ばした。 「メイさん、この穂高 桐は、基礎の動作の訓練が形になった所で、まだまだなのよ。だから、何か教えてあげて貰える?」 菫の言葉に、桐が静かに頷く。年頃の少女の気を引くには、他にも楽しそうな事を見せれば良い。そのため、りょうはアーシャ達が準備をしている間に、コッソリと搭乗していたのだ。 「きゃ〜! 魅力的なお誘いですわぁ〜♪」 狙い通り、メイの瞳が再び輝く。アーマーから降りてアーシャと竜哉に軽く頭を下げると、彼女は菫達の方へと駆け出した。 入れ違うように、江流が2人に歩み寄る。 「アーマーの起動にも、打ち合わせにも、少し時間が必要だろ? 暫くは、波美達に任せてくれよ」 そう言って、江流は軽く笑みを浮かべた。自身の相棒を信じ、見守るつもりなのだろう。仲間の言葉に、竜哉達はアーマーに乗り込んで起動準備を始めた。 「それでぇ、私は何をすれば良いですかぁ?」 首を傾け、指先で顎をなぞりながら問い掛けるメイ。 「そうだなぁ…まだ性格もはっきりしないけれど、好奇心は強いみたいだから、踊りとかどうかな?」 実際、桐は細工物を作るのが好きなのだが、それは教えられなくても独学で出来るだろう。だったら、未経験な事を教えた方が成長に繋がるハズである。 「楽しそうですねぇ〜。なら、からくりさんも駆鎧さんも土偶さんも、一緒に踊りましょう〜♪」 対照的に、メイはノリノリである。楽しそうに笑う彼女を見ながら、紫狼は不敵な笑みを浮かべながら親指を立てた。 「任せとけ! 言っておくが、俺はダンサーの頂点に立つ男だぜ?」 『意味が分からない上に、マスターは誘われてないのです! 大人しく、指をくわえて見てるのです!』 電光石火の、ミーアのツッコミ。日頃から、紫狼には色々と苦労しているのかもしれない。 『踊り…ね。作業を正確に、というのは得意なのだけれど…』 呟くような、波美の言葉。『巧く踊れなければ、主人である江流の面目が潰れる』と思っているのかもしれない。気負う波美の肩を、武神号の無骨な手がそっと叩いた。 『私も得意とは言えないが…メイ殿のリクエストならば、共に全力を尽くそう』 アーマーの奥から響く、りょうの力強い声。思わぬ励ましに、波美は口元に笑みを浮かべた。 直後、土手の上を通った荷車から荷物が崩れ、瓶や木箱が落下。運悪く、その下にはメイが居る。真っ先に気付いた波美は、小銃を抜いて一気に撃ち放った。銃弾の雨が落下物を粉々に砕き、メイへの被害を完全に防ぐ。どうやら『作業を正確に行うのが得意』というのは、伊達ではないらしい。 「ありがとうございましたぁ〜♪ お陰で、助かりましたわぁ!」 波美の両手を握り、尊敬の眼差しを向けるメイ。一瞬、波美の表情が曇ったが、すぐに柔らかい笑みに変わった。 「じゃぁ、早速踊ってみましょ〜♪ れっつ・だんしんぐっ♪」 ポーズをキめながら、メイは元気良く声を上げる。彼女の動きを真似するように、波美、りょう、ミーア、桐が踊り始めた。 最初は恥ずかしがっていた桐だが、徐々に動きが大きくなっていく。メイの元気で弾けるような動きに対し、波美の踊りは流れるように静かである。りょうの柔軟で力強い挙動は、アーマーの特性を良く活かしている。ミーアは…自由に踊ったり、転んだり、ドジッ娘全開だ。 最後は全員でモンキーダンスを舞い、小さな舞踏会は幕を閉じた。観客が紫狼と江流、アーシャしか居ないのが、勿体無いくらいである。 「へぇ…みんな、意外と巧いもんだね。波美が踊れるなんて、知らなかったよ」 主人からの賞賛に、波美は恥ずかしそうに笑みを浮かべる。 『服が火薬臭くなるから、こういう事の方が好きね…あとは、これとか』 言葉と共に林檎を取り出し、それを上空に投げた。素早く短剣を取り出し、刃先に練力を纏わせる。落下してくる林檎にタイミングを合わせ、青白い軌跡を描いた。数秒後、波美の掌に兎を模した林檎が6つ並ぶ。 「ウサちゃんリンゴ〜♪ いただきまぁす!」 差し出された林檎を、シャクシャクと頬張るメイ。その様子は、小動物のようで微笑ましい。 『メイ殿、あやとりは御存知か? 駆鎧で挑戦してみたいのだが…協力して貰えるだろうか?』 りょうは武神号に乗ったまま膝を付き、メイに2種類の糸を差し出した。1つは普通の毛糸の輪。もう一つは、釣り糸のような丈夫で細い糸。前者はメイ用、後者は自分用だろう。 アーマーが手足のように動くとは言え、あやとりのような精密な動きは難易度が高い。敢えて高い目標に挑む彼女の姿勢は、見習うべきかもしれない。 彼女の提案に、メイは無言でコクコクと頷いて毛糸を受け取った。まだ、口の中に林檎が残っているようだ。 ●駆鎧、激突! 「そこから、人差し指を抜いて……そうそう、りょうさんお上手ですねぇ〜」 メイに教えられ、武神号の手の中で糸が形を変えていく。ほうきが完成すると、りょうはほっと胸を撫で下ろした。 『お褒めに与り、光栄だ。多分、教え方が良かったのだと思う』 疲れたような、安心したような声。この挑戦が、彼女にとってどれだけ大変だったかがヒシヒシと伝わってくる。 『みんな、お待たせ。準備出来たぞ。楽しんで貰えたら良いが』 タイミング良く、竜哉の声が周囲に響く。全員が視線を向けると、NachtSchwertに搭乗した彼と、ゴリアテに搭乗したアーシャが対峙していた。 そんな2人に、メイや開拓者達が期待の眼差しを向ける。りょうも武神号から降り、全員の視線が集まった。周囲の空気が張り詰め、緊張が高まっていく。 『我こそは、帝国騎士アーシャ・エルダー。いざ勝負!』 裂帛の気合を込めて名乗りを上げ、アーシャとゴリアテが駆ける。青銅に似た輝きを持つ幅広の剣を抜き、一気に振り下ろした。 竜哉とNachtSchwertは同様の剣を構え、それを受け止める。『ズガーン』という激しい金属音と共に、火花が周囲に散った。 少々危険を感じた菫が、メイに注意を促そうとした瞬間。違う人物が、彼女を遮った。 『危ない、から…注意、してね…?』 桐の言葉に、メイは小さく頷いて後ろに下がる。普段は無口な桐が言葉を発するのは、ある意味珍しい。流石の菫も、動揺と驚きの表情を浮かべている。 鍔迫り合いを続けていたアーシャ達だったが、竜哉は渾身の力を込めて兵装を弾いた。反動でバランスが崩れた隙を狙い、竜哉は体勢を低くして相手の脚を払う。両脚を払われ、アーシャは地響きを鳴らしながら地に伏した。 直後、ゴリアテから大量のオーラが噴射し、粉塵が巻き上がる。それが視界を覆う中、アーシャは噴き出すオーラで無理矢理立ち上がった。 が、それは竜哉の想定の範囲内である。雷鳴のような轟音が周囲に響き、白い蒸気がオーラと化してNachtSchwertの全身を包んだ。そのまま、竜哉は地面を蹴る。短く跳んで距離を詰め、斜め下から大剣を斬り上げた。 迫り来る切先を、アーシャは豪快に叩き落とす。反撃するように剣を突き出したが、竜哉は大きく後ろに跳んで刺突を回避した。 模擬戦とは言え、その迫力は『圧巻』の一言に尽きる。アーシャのダイナミックが動きに対し、竜哉の挙動は精密で細やか。どちらも、アーマーを手足のように自由に動かしている。 『凄い動きなのです! ミーアも、ドリルを付けたらあんな動きが出来る気がするのです!』 2人の模擬戦を眺めていたミーアが、興奮気味に叫ぶ。拳を握りながら熱弁する彼女とは対照的に、紫狼は大きな溜息を吐いた。『ドリルで機動性が上昇する事は無い』と言いたそうだが、興奮状態の彼女に何を言っても聞かないだろう。ミーアだけでなく、その場の全員がアーマー同士の激闘に目を奪われ、盛り上がっている。 (波美の奴、随分と打ち解けたみたいだな。人との交流でどこまで成長するか…見るのが楽しみだ) みんなと一緒に盛り上がる相棒を、父親のような優しい表情で見守る江流。彼の年齢が『オッサン』と呼ばれる歳に片足を突っ込んでいるが、それが関係しているかは微妙な処である。 ●語られた『真実』 模擬戦を終え、アーマーから降りたアーシャと竜哉を待っていたのは、全員の拍手と称賛。そして、メイの笑顔だった。 「お疲れ様でしたぁ〜♪ 2人とも、凄かったです〜!」 満面の笑みで出迎えられ、2人の顔にも笑みが浮かぶ。疲れた体を癒すには、最も効果的かもしれない。 「喜んで貰えたなら、良かったよ。どれだけの動きをトレースできるか、その限界に挑戦出来たしね」 微笑みながらも、竜哉の表情は達成感に包まれている。やりたかった事、魅せたかった事を、全て実行出来て満足しているのだろう。 「お疲れ様。お茶とお菓子を持って来たんだけど、みんなでお茶の時間にしない?」 菫の提案に『ぐぅ〜』という腹の虫が鳴る。音の主は、アーシャ。食欲魔人である事に加え、アーマーの操縦で空腹状態になったようだ。思わず、全員から笑い声が零れる。 数分後、菫の作った『栗きんとん』とお茶で、簡素なお茶会が開かれた。 「ちょっと聞いても良いかしら? メイさんは何で機械が好きで、技師になりたいと思ったの?」 口いっぱいにお菓子を頬張っていたメイが、お茶を飲んで軽く胸を叩く。ホッと一息吐き、質問してきた菫に視線を向けた。 「えっとですねぇ…私、小さい事に駆鎧さんに助けて貰った事があるんですよぉ〜」 彼女は、過去にアヤカシに襲われた事がある。一般人なら、思い出したくない嫌な記憶なのだが、メイにとっては大事な思い出と言っても過言では無い。 「あの時の感動はぁ、今でも忘れられません。私の夢は、そこから始まったんですぅ〜♪」 何故なら、メイが機械好きになった原点であり、初めて機械と触れ合った瞬間だからだ。その証拠に、再び恋する乙女のような表情になっている。 「なるほどな。私の場合、体格にあまり恵まれていなくて――そんな人間でも他者と同等に戦える駆鎧を見た時は心が躍ったな。『これは素晴らしいものだ』、と」 どうやら、りょうには通じる物があるようだ。出会い方は全く違うが、アーマーに対する想いは似ているのかもしれない。 メイから『夢』の話を聞き、紫狼は不敵な笑みを浮かべた。 「誰かが言ってたぜ? 『子供の願い事は未来の現実。それを夢と笑う大人は、もはや人間じゃねえ』ってな」 言いながら、人差し指で天を指す。もしかしたら『誰か』の真似かもしれない。 「ちなみに、俺の夢はな……ドグーロイドを量産し人々の役に立てる事なんだ」 ドグーロイドとは、彼が作った土偶ゴーレムの総称である。あまりにも予想外な発言に、ミーアを含めた全員が驚愕の表情を浮かべた。 「どんな優れた技術も、作るだけじゃただの自己満足だ。大切なのは『優れた技術を世界の役に立てる事』だぜ。俺は開拓者のお飾りになっちまってる相棒を、土偶だけでも普及させて、平和利用で世の役に立たせたいのさ」 いつもとは違う、真面目な表情。穏やかだが、根底にある熱い想いは普段と変わらない。今まで語られなかった真実が、ここで明らかになった。 「からくりが人の形をしているってのは、人の助けになるよう、人と一緒に生きていけるようにって願いがあったんじゃないかと思うんだ。そういう想いは大事にしたいって僕は思うんだ。君がそういう気持ちの解るいい技師になってくれると嬉しいな」 江流の語る言葉は、紫狼のそれに近い。紫狼の本心に触れ、江流も言葉を尽くしたくなったのだろう。2人は視線を合わせると、軽く笑みを浮かべた。 ●別れと期待 「マイ・ブラザー&マイ・シスターの皆様。歓談中申し訳ありませんが、そろそろご帰宅の時間です」 楽しい時間が過ぎるのは早い。気が付いた時には、メイの帰宅時間が迫っていた。 「もうそんな時間か。名残惜しいが…仕方ないな。これから先、メイ殿の夢が叶う事を祈らせて貰おう」 りょうは別れを惜しみながらも、優しい言葉を掛けながら手を差し出す。メイは満面の笑みを浮かべながら、その手を握り返した。 「ありがとうございますぅ〜。今日は、とっても楽しかったですよぉ〜♪」 「それは良かった。お土産に、コレをどうぞ。俺は沢山持ってるしね」 微笑みながら江流が取り出したのは、歯車やネジなどの、からくり用予備部品。一般人は滅多に入手出来ない代物である。 「良いんですか!? 大切にしますぅ〜!!」 目を輝かせながら、メイはそれに飛び付く。今日の事も、彼女の大切な思い出になりそうだ。 「なら、俺はこの鍵を……いや、将来お前が立派な技術者になれたら、その時にプレゼントするぜ!」 「うぅ〜…イジワルなオヂサマですねぇ〜」 紫狼にお預けを喰らい、拗ねるように頬を膨らませるメイ。紫狼は不敵な笑みを浮かべているが、若干表情がひきつっている。 『大丈夫なのです! 貴女なら、きっと優秀な技術者になれるのです!』 メイの両肩に手を置き、熱く語り掛けるミーア。根拠は無いハズなのだが、妙に説得力があるのが不思議である。 「紫狼も言ってたけど、アーマーや土偶は『戦うだけじゃない、面白い使い方』も在るはずだ。君なら、新しい可能性を見付けてくれる気がするよ」 竜哉は片膝を付いて彼女の手を取り、優しく語り掛ける。その姿は『騎士』の名を冠するに相応しい。 「出来たら…練力消費をもっと抑えて、長期戦にも耐えられるようなアーマーも作って貰えたら嬉しいですね」 機械を設計して組み立てただけでは、分からない事が多々ある。アーシャの意見は、実際に使用した者にしか言えない指摘だろう。 『いつか、柔らかくて暖かい素材が作れたら…私に試させてね』 硬く冷たい体にコンプレックスを持っている波美にとって、それは切実な願いである。少々、無理難題かもしれないが、メイなら何とかしてくれる。そう信じているのかもしれない。 口々に別れの挨拶を交わす開拓者達を、不思議そうな表情で眺める桐。その様子に気付いた菫は、そっと彼女の肩を叩いた。 「あなたは挨拶しなくて良いの? また会いたいなら『またね』って言えば良いんだよ」 菫の助言に、桐はゆっくりと頷く。そのままメイに歩み寄り、不器用ながらも笑みを浮かべた。 『…また、ね』 恐らく、彼女にとって初めての『別れの挨拶』。桐にとっても、今日は忘れられない日になったかもしれない。 |