交錯する刃 〜立会人〜
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/13 21:38



■オープニング本文

 武天鉱山には、大小様々な坑道が走っている。中には鉱物を掘りつくし、放置されている鉱脈もあるのだが…そんな場所を、1人のギルド職員が歩いていた。趣味で歩いているワケでは無い。これも『仕事』なのだ。
「ギルドの方ですね? ご足労、感謝致します」
「すまんな、こんな場所に呼び出してしまって」
 坑道の奥に居たのは、40代後半くらいの男性が2人。
 1人は、物腰の柔らかい眼鏡の男性。三つ揃えの灰色のスーツに、片眼鏡。表情は穏やかだが、武天では珍しい格好かもしれない。
 もう1人は、浅葱色の紋付袴に草履という、典型的な天儀の装い。顔や首には複数の古傷があり、彼がどんな人生を歩んできたか物語っているようだ。
「さて。ここに来たって事は、俺達の事情は理解してる…て事で良いのか?」
 袴男性の問い掛けに、職員が静かに頷く。
 この2人は…武天の『裏』の世界では有名な男である。犯罪者集団が多い裏社会で、2人の組織は悪評が全く無い。そんな彼等が、ギルド職員を呼び出した理由とは……。
「では、単刀直入にお話致します。開拓者の方に、決闘の立会人をお任せしたいのです」
 単刀直入過ぎて、事情がサッパリである。疑問が職員の顔に表れたのか、スーツの男性は軽く苦笑いを浮かべた。
「これは失礼。この度、私とコイツは組織を後任に任せ、引退する事にしたのです」
「で、腐れ縁に白黒つけたいんだが…俺達が決闘するとなると、構成員が黙っていねぇワケよ」
 引退した後だとしても、元トップが負けたとなれば、組織の名前に傷が付く。幹部が納得したとしても、末端の下っ端が暴走して決闘を邪魔する可能性もある。
 本来の『立会人』とは意味が違うが、彼等の決闘を邪魔されないよう護衛をして欲しい、という事なのだろう。
「このような事をギルドに依頼するのは心苦しいのですが…どうか、お力添えを頂けますか?」
「報酬は弾ませて貰うぜ? カタギを巻き込んじまうんだから、それくらいはさせてくれ」
 2人の真剣な視線が、職員を見詰める。『依頼は出すが、開拓者が集まらない可能性もある』という事を説明すると、両人は静かに頷いた。


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰
ジェーン・ドゥ(ib7955
25歳・女・砂
ゼクティ・クロウ(ib7958
18歳・女・魔
菊池 貴(ib9751
40歳・女・武
雪邑 レイ(ib9856
18歳・男・陰
陽葉 裕一(ib9865
17歳・男・陰


■リプレイ本文

●嵐を呼ぶ決闘
 薄暗い曇り空に、雷鳴を伴った稲光が奔る。風が徐々に強さを増し、まるで嵐の前触れのようだ。そんな天候の中、殴り合う男性が2人。ある意味、決闘には相応しい天候ではあるが…。
「決闘、か。おっさんたちの『純情デート』を邪魔させちゃあ、無粋ってヤツだな」
 周囲を見渡しながら、不敵な笑みを浮かべる村雨 紫狼(ia9073)。表現は若干アレだが、ヤル気は人一倍あるようだ。
「同感。大の大人が、互いを認め合って雌雄を決しようっていうんだもん」
 同意しながらも、龍水仙 凪沙(ib5119)は警戒を怠らない。物音を探るように、兎の耳がピクピクと動いている。
「男性の矜持は分かりかねますが、名誉や義務だけでない『己が信義を掛ける行為』は、好ましく思います」
 言いながら、括り罠を設置するジェーン・ドゥ(ib7955)。縄を使って拘束性を重視しているため、殺傷能力は0に等しい。
「菊池さん、宜しくお願いします。今の俺は無茶できそうにないんで、後ろで支援させてもらいます」
 陽葉 裕一(ib9865)は礼儀正しく挨拶しながら、深々と頭を下げる。修業中の身なため、無茶をして足手纏いになるのを気にしているのだろう。
「こちらこそ。期待させてもらうよ、陽葉の陰陽師さん」
 菊池 貴(ib9751)は口元に笑みを浮かべながら、手を差し出した。裕一は笑顔を返し、その手を握る。固い握手を交わした2人だったが、貴の力が強過ぎたのか、裕一の口から短い悲鳴が漏れた。
「ふぅ…とりあえず、これだけ設置すれば充分ですかね?」
 額の汗を拭いながら、三笠 三四郎(ia0163)が草原から顔を出す。彼は小さな落し穴を掘ったり、草を結んで輪状の罠を作ったり、時間の許す限り罠を設置していたのだ。
「お疲れ様、三笠さん。残念だけど…休む時間は無さそうね」
 労いの言葉を掛けるゼクティ・クロウ(ib7958)だったが、その視線は三四郎を捉えていない。彼女が見ているのは、草原の周囲。その視線の先では、大量の人影が群を成している。あれが、決闘を邪魔しに来た構成員であり、彼女達の敵である。
「念のため、俺は定期的に式神を放って周囲を調べる。何かあれば、協力よろしく頼む」
 言うが早いか、雪邑 レイ(ib9856)は空に向かって符を投げた。それが白い鳩の式と化し、周囲を飛び回る。徐々に構成員が集まる中、開拓者達は2人ずつ東西南北に別れ、迎撃の準備に入った。

●大激突
「ん〜…数が多いわね。ギルドからの情報、効かなかったのかな?」
 集まって来た構成員を眺めながら、苦笑いを浮かべる凪沙。彼女の提案で、ギルドから『決闘場所が変更された』という偽情報が流されたが、それでも相当な人数が来ている。もし凪沙の提案が無かったら…恐らく、構成員は3割程度増えていただろう。
「ワラワラ湧いて出やがったな。おい、サムライマン! まずは俺達で注意を引こうぜ!」
「誰がサムライマンですか。まぁ…敵を引き付ける事には賛成しますが」
 紫狼が草原の北側から、南側に居る三四郎に向かって叫ぶ。苦笑いを浮かべながら眼鏡を上げ、三四郎は大きく息を吸った。直後、2人の雄叫びが大地を震わせる。その声が注意を引いたのか、様子を窺っていた構成員達が一斉に動き始めた。
「人数が分からない以上、下手に動くわけにはいかないかもな…」
 裕一は呟くように言葉を漏らし、西側から構成員に向かって漆黒の符を投げる。それが2匹の黒い蛇と化し、絡み付かれた敵が転倒。ドミノのように連鎖し、雪崩式に次々と倒れた。
 倒れているのは、西側だけでは無い。北側では凪沙が白銀の龍を召喚し、凍て付く吐息で地面を凍らせて構成員を転倒させている。
 南側は三四郎の設置した罠に嵌まり、落とし穴に落下する者や転ぶ者が相次いだ。更に、地面から不意に青い炎が噴き上がる。レイが事前に設置した罠系スキルが発動したのだ。無論、手加減は忘れていない。
「何人来ようが…侵入者は全て阻害する」
 式を通じて周囲を警戒するレイ。予想以上の数に、思わず苦笑いが浮かんだ。
「男にはね…理屈じゃなく闘わなきゃならない時があるってもんさ。ボウヤたち…下卑たマネするんじゃないよ!」
 西側から響く、貴の叫び。鬼気迫る表情も相まって、構成員に圧倒的な威圧感を与えている。だが、それでも諦めない者は多い。貴は兵装を掲げ、精霊の幻影を具現化させた。それを剣に纏わせ、地面に向かって全力で振り下ろす。切先が地面を割り、衝撃が大地を抉り、数メートルの地割れが奔った。
「怪我しても構わない奴だけおいで? アタシが、根性を叩き直してやるよ。『文字通り』に、ね」
 片手剣を振って肩に乗せ、空いた手で軽く挑発する貴。圧倒的な実力の差に、構成員達の動きが完全に止まった。もしかしたら、隙を伺っているのかもしれないが。
 同時刻、東側では構成員が徐々に距離を詰めていた。
「所詮は裏社会で生きることしか出来ない人間。考えることが短絡的で、無能に過ぎますね」
「ドゥさん、ちょっと言い過ぎよ? 本当の事なんだから、可哀想でしょ?」
 相手の神経を逆撫でるような、ジェーンとゼクティの発言。分かり易い挑発だが、彼女達が言うと違和感が全く無い。2人の言葉で頭に血が上ったのか、構成員達が地面を蹴って一気に駆け出した。
 押し寄せる大群に対し、ジェーンは腰を落として刀を握り直す。刀身の損傷を防ぎながら相手を無力化するために、鞘に納めたまま刀を振った。狙いは、自分の罠で動きが止まった構成員。鋭い殴打が敵の胴や脚に命中し、苦痛の表情を浮かべながら地面を転がる。
 その後ろで、ゼクティは眠りを誘う呪文を唱えた。激しい睡魔が構成員を襲い、眠りの底に落としていく。
 開拓者と構成員の戦いは激しさを増し、倒れた人が山を成す。貴は気絶した者をワザと積み重ね、目が覚めてもすぐには動けないようにしているが。
 数人の構成員が、北側で暴れ回る紫狼の死角に回る。気付かれないよう注意を払いながら、決闘する2人に向かって走り出した。
 次の瞬間、その進路に黒い巨大な壁が生まれる。突然過ぎる出現に、構成員達は正面から壁に激突。そのまま気絶し、地面に転がった。
「ここは通らせないわよ〜。村雨さん、フォローは任せて!」
 小さな手を握りながら、凪沙が元気良く叫ぶ。彼女は構成員の動きに合わせて遊撃的に移動し、壁を召喚して敵を妨害したのだ。更に黒壁を作り出し、構成員の脚を止める。
「オッケィ! 邪魔する奴は、シバき倒してやるぜ! ウェーイ!」
 ノリノリで返事を返し、両手に木刀を持って暴れ回る紫狼。木刀を振る度に、構成員が派手に吹っ飛ばされていく。傍目には一切分からないが、手加減は忘れていないようだ。
「2人の決闘を邪魔する奴は…しばらく地面で寝てて下さい」
 もう一人のサムライは、押し寄せる構成員の攻撃を紙一重で避けている。言葉と共に三四郎は腰を低く落とし、脚を軸にして大回転。槍の柄で周囲の敵を薙ぎ払った。刈り取られた草のように、構成員がバタバタと倒れていく。
(俺の行動で対処できるか分からないが…三笠さんもいるんだ、大丈夫だろう)
 その様子を眺めながら、レイはほんの少しだけ笑った。三四郎の実力を認め、信頼しているのだろう。式と共有した視覚で敵の動きを確認し、符を投げる。そこから尾の長い狐が召喚され、構成員に絡み付いて拘束した。
 大勢の敵を捌いていたジェーンだったが、一瞬の隙を突かれ、数人が後方に駆け抜けて行く。
「クロウ様、援護をお願いします…!」
 ジェーンの言葉を聞き、ゼクティは杖を握り直した。その柄が、恐ろしいまでに冷たい光を放つ。
「足元、気を付けた方が良いわよ?」
 言葉と共に不敵な笑みを浮かべると、杖の先端から猛烈な吹雪が発生して構成員を飲み込んだ。視界が白一色で塗り潰され、冷気が地面を凍らせていく。その攻撃でバランスを崩したのか、構成員達が足を滑らせて次々に倒れた。
「だから言ったじゃない…無様に倒れていなさい?」
 地面に伏している敵に、冷たい視線と言葉を向けるゼクティ。冷た過ぎる眼差しに、構成員の背筋を悪寒が走り抜けた。
 仲間が次々に倒されても、構成員達は諦める事を知らない。前衛に居る開拓者達の隙を突いて、次々に押し寄せる。
「ここから先は立ち入り禁止だ! 雷閃 招来!」
 裕一の召喚した小さな式が、雷撃を奔らせて敵を射抜く。手加減して放たれた攻撃が、構成員を気絶させて無力化した。
 突撃して来る敵の進路には、凪沙の黒壁が立ち塞がる。ある者はそのまま激突して気絶し、ある者は足止めされた直後に紫狼に薙ぎ払われた。
「猪突猛進な馬鹿は、大人しく気絶するといい」
「…宿敵を見つけられねえ男は、どんなに強くなってもダセぇだけだぜ、三下ども!」
 紫狼の雄叫びが戦場に響き渡る。その声に紛れて、微かな銃声がジェーンの耳に届いた。弾丸が彼女の髪を掠め、地面に穴を穿つ。銃弾の飛んで来た方向から敵の位置を予測し、彼女は空いた手で短銃を撃ち放った。気力を纏った弾丸が、寸分違わず狙撃手の肩を射抜く。
「多少は頭が回る者も居ますか。ですが…もう少し連携するべきですね」
 厳しい指摘をしつつ、追撃の銃撃。2発目の弾丸が、狙撃手の銃を弾き飛ばした。
 狙撃作戦が失敗してヤケになったのか、残った構成員達が南西に集まって一気に突撃して来た。
「陽葉、手が空いているなら力を貸してくれ…!」
 協力を要請しながら、レイは手の中で符を広げる。彼の声に反応し、裕一も符を取り出して構えた。
「了解です! 呪縛符 招来!」
 裕一の叫びに合わせて、2人は複数の符を一気に投げ放つ。黒い蛇と、尾の長い狐が構成員の脚に絡み付き、集団の動きが一気に鈍った。
「フォロー、ありがとうございます。雪邑さん達が作ってくれた隙、無駄にはしません…!」
 その隙を、三四郎が見逃すワケがない。地面を蹴って間合いを詰め、槍を薙いで構成員を払っていく。更に、貴の鉄拳制裁が敵の意識を次々に飛ばし、行動不能にした。
「これで全部かい? みんな、最後まで油断するんじゃないよっ!」
 周囲を見渡しながら、貴が檄を飛ばす。敵は全て地面に伏しているが、増援や狙撃の可能性は否定出来ない。荒縄で構成員を縛り上げながらも、8人は周囲の警戒を強めた。

●夕日の中で
 不安定だった天候が安定し、雲が晴れて夕日が顔を出す。世界が茜色に染まる中、レイの放った式が彼の元へ戻って来た。
「…周囲に人影無し。隠れる場所は無いし、排除完了だな」
 敵を拘束した後、全員で周囲を調べたが、伏兵や増援の様子は無い。念のために、レイの式が上空から状況を伺ったが、何も発見出来なかった。これだけ探しても何も見付からないのだから、もう構成員は居ないと考えて問題無いだろう。
「やれやれ、やっと終わったな。これだけの人数、良く集めましたね」
 胸を撫で下ろしながら、裕一が人の山を眺める。彼らが倒した構成員は、推定で100以上。それだけ、決闘している2人の首に価値があるのだろう。
「怪我人は大量に転がっていますが、死者や重傷者は出てないですね。暴力はあまり好ましくありませんが…」
 念のために傷の具合を調べていた三四郎は、思わず苦笑いを浮かべた。重傷を負っている者は居ないが、無傷の者は、ほんの一握りである。状況的に仕方ないとは言え、三四郎は誰かを傷付けたくなかったようだ。
「組織の事を貶す言葉を掛けた事、謝罪します。ですが、短絡的なのは事実です。腕も策も磨くべきですね」
 止血剤で簡易的な応急処置を施しながら、構成員に謝罪するジェーン。だが、彼女の言葉が気に障ったのか、大半の者が怒りの視線を向けている。無様に負け、縄で拘束された状態では、相手の言葉を素直に受け入れられないのも道理だが。
 不意に、開拓者達の後方から『何か』が倒れる音が響いた。振り向いた視線の先には、大の字に倒れている男性が2人。様子を窺いながらも、8人はゆっくりと彼等に歩み寄った。
「…相変わらず、強いですね」
「お前もな。最後の最後まで、引き分けか」
 倒れたまま言葉を交わす2人は、妙に清々しい顔をしている。ゆっくりと上体を起こして視線を見合わせると、傷だらけのまま軽く笑みを浮かべた。
「おぉ! これぞ『男の挽歌』だぜ! 熱い血潮と固い友情の産物だな!」
 1人興奮気味に叫ぶ紫狼。まるで青春活劇の1幕のようだが、彼はこういう展開が隙なのかもしれない。指摘された当人達は、若干恥ずかしそうだが。
 そんな2人に向かって、レイと裕一が手を差し出す。それを強く握り返し、男性達はゆっくりと立ち上がった。
「お手数を掛けてしまい、申し訳ありません。結局、最後まで引き分けでしたが…」
 苦笑い混じりに、スーツの男性が謝罪の言葉を口にする。勝敗は決しなかったが、恐らく2人共後悔していないだろう。逆に、スッキリと晴れやかな雰囲気を感じる。
「決闘は終わったみたいだし、菊池さんに頼んで回復して貰ったらどうかしら?」
「やだよ、この場合の怪我は勲章みたいなものだろう? 二人で傷抱えて帰りなよ」
 ゼクティの提案を、間髪入れず却下する貴。良く見れば、決闘した2人は古傷が多い。今更、傷が増えた処で気にしないだろう。
「はは、違い無ぇ。良く分かってるじゃねぇか」
 貴の言葉に、袴の男性が豪快に笑う。それに釣られたのか、貴の顔にも笑みが浮かんだ。
「裏の世界は良く分かんないけどさあ…これで、何かが変わるかな?」
 小首を傾げながら、凪沙は人差し指で顎の先をなぞる。裏の世界は広く根深いが、この2人が抜ける影響は、色んな所に現れるだろう。それが良い事か悪い事かは誰にも分からないが…今よりも住み易い世界になると信じたい。夕日を浴びながら殴り合った2人の笑顔を見ていると、そんな気になってくる。