無謀な好奇心
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/25 19:12



■オープニング本文

 物事に興味を持つのは、悪い事では無い。探究心は知識の増加に繋がるし、自発的に何かを調べようとする姿勢は新たな発見を生む。
 だが、何事も『限度』は必要だろう。物事に首を突っ込み過ぎるのは、あまり好ましくない。
 例えば……。
(ここか…例の洋館ってのは)
 月の無い深夜、不敵な笑みを浮かべる青年が一人。彼が居るのは、住人を失った洋館の門前である。ジルベリアやアル=カマルの建築技術で建てられたらしく、その外見は天儀では珍しい部類に入るだろう。
 それよりも気になるのは、彼の目的である。
 洋館に住人は居ない。
 しかも、時間は深夜。
 一般的に考えて、彼の行動は普通ではない。
(幽霊が出る、か。噂が嘘か本当か、確かめさせて貰うぜ…!)
 青年が門を押すと、錆びた金属音が周囲に響く。最近、武天の町に広まっっている噂…それは、この洋館に幽霊が出るという話だ。恐らく……この館の元住人達が、通り魔殺人に遭ったのが原因だろう。それが人を伝って広まるうちに、様々な憶測が加えられた可能性が高い。真相を確かめるために、彼はこんな場所に来たのだ。
 館の入り口を開けると、重苦しい空気が全身絡み付く。その異様な感覚に戸惑いながらも、青年は室内に足を踏み入れた。ランプで周囲を照らしながら、噂の通りに幽霊が出る部屋を目指す。奥へ進み、階段を上り、とある部屋の前で立ち止まった。
 汗ばむ手でドアノブを握り、深呼吸して生唾を飲み込む。ゆっくりとノブを回し、一気にドアを開けて室内を照らす。直後、彼の意識は途切れた。

 3日後。
 自宅に帰らない彼を心配し、友人や家族が日中に洋館を訪れた。そこで彼らが見たのは……人としての原型を留めていない、血と肉と骨の塊だったらしい。


■参加者一覧
羽紫 アラタ(ib7297
17歳・男・陰
煌星 珊瑚(ib7518
20歳・女・陰
ゼクティ・クロウ(ib7958
18歳・女・魔
菊池 貴(ib9751
40歳・女・武
堂本 重左(ib9824
28歳・男・サ
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰
雪邑 レイ(ib9856
18歳・男・陰


■リプレイ本文

●悲劇を生む洋館
 世界を漆黒に染める、闇色のベール。涼しい夜風で木々がそよぎ、虫の声が演奏の如く木霊している。
 大自然の奏でる音楽に合わせて、淡い光が4つ揺れる。直後、耳障りな金属音が不協和音となって周囲に響いた。
「ふむ……これが『じるべりあ風』というものか……狭いな」
 錆びた扉を開け、洋館に足を踏み入れる堂本 重左(ib9824)。2mを超える長身の彼には狭く感じるかもしれないが、一般人にとっては充分な高さだろう。
「いかにも『出そう』な雰囲気ですね。幽霊系のアヤカシは苦手です……でも、頑張ります」
 自分に言い聞かせるように呟き、緋乃宮 白月(ib9855)は小さく手を握った。決意とは裏腹に、いつもピョコンと立っている頭髪が元気無く垂れているように見えるが。
 そんな彼の様子に気付いたのか、菊池 貴(ib9751)は大きな手を白月の頭に乗せた。そのまま不敵な笑みを浮かべ、ワシャワシャと撫でる。
 突然の事に白月は少々驚きの表情を浮かべているが、嫌では無いようだ。
「それじゃ、さっさと退治して帰ろうかねぇ。煌星の陰陽師さん、突入の合図はたのんだよ?」
「任せときな。それと…あたしの事は、苗字で呼ばずに名前で呼んでくれると助かる」
 貴の言葉に即答しながらも、煌星 珊瑚(ib7518)は苦笑いを浮かべながら後頭部を掻く。どうやら、苗字で呼ばれるのが若干苦手なようだ。
 珊瑚の提案にウィンクを返すと、貴は階段を上って行く。それに合わせて、他の6人も移動を始めた。
「雪邑さん、宜しく頼むわね。私のお誘いに応じてくれて、ありがとう」
 軽く微笑みながら礼を述べる、ゼクティ・クロウ(ib7958)。普段は無表情が多い彼女にしては、珍しい事かもしれない。
「いや、俺の方こそ、声をかけて貰って助かった。今回が初めての仕事だからな…君みたいな経験者がいると、心強い」
 同じように微笑みながら、雪邑 レイ(ib9856)が言葉を返す。ゼクティが居る事で、彼の精神的な支えになっているのだろう。
 キッチンに向かった羽紫 アラタ(ib7297)と重左は、壁に背を預けたまま突入の合図を待っていた。
「後は合図を待つだけだな。珊瑚の奴、横笛なんて吹けたのか…?」
 アラタが疑問を口にした頃、珊瑚は符に力を込めて頭上に投げ放つ。それが燕の姿を成し、館の中を飛んで行った。視覚を共有しているため、式を通じて全員の状況が『見える』。準備が出来ている事を確認し、珊瑚は横笛を豪快に吹き鳴らした。

●書庫での戦い
 合図に合わせ、室内に侵入するゼクティとレイ。壁際に本棚のような物が設置されているが、本は1冊も残っていない。
 ランプの炎が室内を照らす中、中央付近に瘴気が集まり、一瞬で人の形を成した。白無垢のような白い衣服が、不気味さを増幅させている。
「…やつの技を受ける前に、こっちから仕掛けるぞ」
 レイが呟きながら印を結ぶと、敵の周囲に小さな式が出現。それがアヤカシの手足に絡み付き、動きを鈍化させた。その状態で、符から白いイタチの式を召喚して飛ばす。擦れ違い様に、式の青い刃がアヤカシを斬り裂いた。
「なるべくサポートに回るつもりではいるけど…何となく、あなたなら大丈夫そうね」
 ランプを床に置いて巨大な杖を両手で構え、ゼクティは呪文を唱える。その杖が恐ろしく冷たい光を放つと、敵の周囲が空気ごと凍り付いた。アヤカシは強引に体を動かして氷塊を砕いたが、纏わり付いた氷が動きを鈍らせる。
「流石だな。『氷のクイーン』は健在、という事か」
 その手並みに、素直に賛辞を贈るレイ。彼の言葉に混じって、耳障りが声が2人の耳を叩いた。言うまでもなく、アヤカシの攻撃である。
「…一応、褒め言葉として受け取っておくわ」
 全身を駆け巡る不快感に耐えながら、ゼクティは杖を大きく薙いだ。スキルを発動させるより、直接攻撃した方が早いと判断したのだろう。ふわりと舞うように、アヤカシは後方に飛んで避ける。
 着地の隙を狙って放たれたレイの式が、青い炎と化して敵の体に張り付いた。それが体力を吸収し、彼の元に戻る。
 連続攻撃を受け、アヤカシの体が少しずつ崩れて瘴気と化していく。それを気に留める事無く、再び耳障りな声を上げた。精神的苦痛に耐えながらも、ゼクティとレイは顔を見合わせる。
「さぁ…そろそろ決めましょうか。留めは任せたわ」
「分かった。この部屋に漂う瘴気、斬り払ってみせよう…!」
 不敵な笑みを浮かべ、視線をアヤカシに戻す。ゼクティが杖をアヤカシに向けると、先端から猛烈な吹雪が発生し、敵を飲み込んで周囲を白く染めていく。
 それを斬り裂くように、レイの式が一直線に飛来した。青刃がアヤカシを捉え、深々と突き刺さる。追撃するように放たれた2匹目が、敵の首を斬り飛ばした。直後、アヤカシの全身が瘴気と化して弾ける。頭部が床に落ちるよりも早く、全てが空気に溶けて消え去った。

●キッチン突入
 レイ達が激闘を繰り広げていたのと同時刻。合図に合わせてキッチンに突入したアラタと重左は、アヤカシと対峙していた。
「亡者め……往生するが良い!」
 面頬の奥で、重左が裂帛の叫びを上げる。大太刀の峰に手を添えると、若干腰を下ろして低く構えた。
 その隣で、アラタはランプを置いて印を結ぶ。敵の周囲に数匹の黒い蛇が出現し、全身に絡み付いて動きを鈍らせた。
「目の前に立ちふさがる物を切り裂け、斬撃符!」
 アラタの叫びと共に黒い刃が生まれ、闇に紛れて一直線に飛んでいく。切先がアヤカシを斬り裂き、傷口から瘴気が漏れ出した。
 次いで、重左は床を蹴って距離を詰める。脇を締めて鋭く兵装を振り、横薙ぎの一撃を放った。鈍色の光が宙を奔り、敵の体に深々と傷を刻む。
 手傷を負いながらも、アヤカシは口を開けて耳障りな声を上げた。全身を駆け巡る不快感に、2人の顔が若干歪む。
「この程度か。恐慌さえ注意してれば大丈夫そうだが…気は抜かないようにしねぇとな」
「うむ…古来より『油断大敵』という言葉がある事だしな!」
 呪声は絶対命中の特性がある分、威力は高くない。予想よりもダメージが少なかった事で肩透かしを喰らいつつも、2人は油断しないよう気合を入れ直した。
「堂本さん、援護するタイミング逃すなよ!」
 アラタの声に反応し、重左は大太刀を下段に構える。柄を両手で握って大きく踏み込み、全力を込めて斬り上げた。素早い斬撃がアヤカシの腕を刎ね上げ、床に落ちる。そのまま、重左は床を蹴ってアヤカシとの距離を空けた。
 重左の行動に合わせ、アラタは符を右手に持って突き出す。そこからドス黒い光が出現し、アヤカシの全身を飲み込んだ。漆黒の塊が瘴気を喰らい、敵の全身を砕いていく。式が消えた時、アヤカシの姿もこの世から消え去っていた。斬り落とした腕も、黒い霧と化して空気に溶けていく。
「これにて、成敗! …と、言った処か」
 刀を納め、重左は満足そうに呟く。そんな彼にアラタが歩み寄り、笑顔を浮かべながら手を高く上げた。重左も手を上げ、ハイタッチを交わす。広い室内に、乾いた音が響き渡った。

●二階奥の激闘
「合図です。頑張りましょう」 
 豪快な笛の音を耳にし、白月と貴は顔を見合わせる。戸を一気に開け、二階最奥の部屋に踏み込んだ。室内の床には、赤黒い血の跡が生々しく残っている。漂う瘴気が1点に集まり、アヤカシが姿を現した。
「菊池さん、僕がアヤカシの注意を引きますから…お願いします」
 言うが早いか、白月は床を蹴って敵との距離を詰める。軽快な足捌きで室内を縦横無尽に駆け回り、アヤカシを翻弄しながら高速の蹴撃を叩き込んだ。強烈な一撃に、敵の体が大きく揺れる。
「やれやれ…若いってのは、元気で羨ましいねぇ」
 不敵な笑みを浮かべながら、貴はランプを床に置いて室内を駆ける。敵の注意が白月に向いている隙を狙い、大きく踏み込んで片手剣を薙いだ。神々しく輝く白刃が、アヤカシを斬り裂いて瘴気が飛び散る。
 反撃するように、地縛霊は耳障りな声を上げた。白月は素早く外套を外し、頭から被って身を屈める。圧倒的な不快感に、2人の顔が苦痛で若干歪んだ。
「キーキー騒がしい敵だねぇ。グーで殴ってやろうか」
 本気とも冗談とも付かない、貴の言葉。兵装を掲げて精霊の幻影を具現化させると、それを刀身に宿して一気に振り下ろした。切先がアヤカシの体表を斜めに奔って傷を刻み込み、そこから瘴気が漏れ出す。
「うぅ、やっぱり幽霊系は苦手です…」
 耳をペタッと伏せながら、愚痴を漏らす白月。頬を軽く叩いて自身を奮い立たせ、床と壁を蹴ってアヤカシの頭上に飛び上がった。落下しながら体勢を整え、拳を突き出す。上からの拳撃が、敵を押し潰して床に這わせた。
 致命的なダメージを受けながらも、アヤカシは怯む事無く白月に甲高い声を浴びせる。それが彼の心を揺さぶり、奥底から恐怖心を呼び起こした。短い悲鳴を上げ、白月はアヤカシの両腕を振り切って部屋の隅に駆け出す。身を屈めて頭から外套を被り、視界を完全に塞いだ。
 白月が怯える様子を眺めながら、アヤカシは歪んだ笑みを浮かべている。その胴から、輝く白刃が生えた。
「ちょっと、おいたが過ぎたね。おばちゃんのゲンコツ、喰らってみるかい?」
 敵の背後から、片手剣を突き刺した貴。拳を強く握り、全力で殴りかかった。力強い一撃がアヤカシの頭部を捉え、打ち貫く。直後、全身が瘴気と化して飛び散り、空気に溶けるように消えていった。

●最後の決戦
 4部屋中、3部屋で勝負が決したのは、ほとんど同じタイミングだった。残すは、珊瑚の担当する1部屋のみ。そこは、まだ激戦の真っ最中である。
(みんな、頑張ってるだろうな。こんなとこでモタモタしてる場合じゃない…!)
 責任感の強い彼女は、自分が失敗する事など許せない。刀に瘴気を纏わせ、大きく振り抜いた。鋭い斬撃がアヤカシを斬り裂き、瘴気が立ち昇る。
 珊瑚は手を抜いているワケでも、他メンバーよりも能力が低いワケでも無い。彼女だけが単独で戦っているため、時間がかかっているのだ。単純計算、手数が半分になっているため、仕方の無い事だが。
 彼女の都合や心情など気にもせず、アヤカシは耳障りな声を上げた。全身を駆け巡る不快感に、奥歯を噛み締めて耐える。
「いい加減、アンタの顔は見飽きた…そろそろ消えな!」
 言葉と共に、珊瑚の刀身から黒いモヤが立ち昇る。瘴気を纏った兵装を強く握り、敵の胴に全力で突き刺した。切先が敵の体を貫通し、傷口から瘴気が溢れ出す。更に、珊瑚は大きく踏み込んで刀を横に薙いだ。刀身が敵の体を裂き、豪快に斬り離す。
 彼女はアヤカシに背を向けると、刀を軽く振って鞘に納めた。鍔が鳴った瞬間、敵の全身が黒い霧と化して弾け飛ぶ。
「アヤカシの居場所なんて、この世界には無いんだよ…!」
 呟いた言葉は、瘴気と共に空気に溶けて消えていった。

●最後の後始末
 敵を倒し、戸を開けて廊下に出る珊瑚。丁度、通路の奥から貴とレイが歩いて来た。
「あ、珊瑚さん。お疲れさまでした。大丈夫ですか?」
「白月達こそ。一階の方も終わってるか?」
 軽く挨拶を交わし、3人は階段を下りて行く。踊り場から階下を覗くと、階段前の広場に一階担当の4人が集まっていた。
「どうやら、貴公らも無事だったようだな。菊池殿、緋乃宮殿、煌…珊瑚殿、お疲れ様」
 優しい視線を向け、労いの言葉を掛ける重左。戦闘前に珊瑚が言った事を思い出し、苗字ではなく名前で呼び直した。重左の気遣いに、彼女は軽く笑みを浮かべる。
 階段を下りた白月は、尻尾を立たせてクネクネと動かしつつ、全員に一礼した。
「みんな、疲れてるとこ悪いんだが…館の中を巡回しないか? こういった事は、きちっとしないと気が済まなくてな…」
 苦笑い混じりに提案するアラタ。自分のワガママに全員を巻き込む事を、申し訳無く思っているのだろう。
「あたしは賛成だよ。色々と気になるし、内部を調べてみないとねぇ」
 元々、屋敷を調べるつもりだった貴が小さく手を上げる。アヤカシが発生した事が気に掛かり、原因を探そうと思っていたのだ。
「まぁ…良いんじゃない? もう敵は居ないって確証は無いんだし、見回って損は無いわね」
 冷めた口調で同意し、ゼクティは腕を組む。興味が無いワケでも不機嫌なワケでも無いが、クール過ぎて冷めているように見えるのかもしれない。
「なら、早速行くか。全員一緒に回れば、敵が現れても問題無いだろう」
 レイの言葉に、全員が静かに頷く。階段前の広場を起点に、屋敷内の捜索が始まった。部屋数は多いが、家具が無いため調査自体は難しくない。怪しい箇所は特に見付からず、隠れているアヤカシの姿も無い。不審な者は発見出来なかったが、安全が確認されたのは良い事だろう。
 開拓者達が探索を終えた時、館内と周辺の瘴気反応は劇的に低下していた。