森に潜む悪意
マスター名：香月丈流
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| ■オープニング本文 「はぁ〜…暑い日は、やっぱりココだよね♪」 草の上に腰を下ろし、泉に脚を浸してパチャパチャと水を掻く少女が一人。恐らく、歳は13歳前後くらいだろう。 「最近の暑さは異常だしな。あ〜、ジルベリアが羨ましいぜ。あそこって、涼しいんだろ？」 そう言って、少年が泉に飛び込む。水飛沫が派手に舞い、少女は反射的に両手で顔を覆った。 「ちょっと、カズマ！ 服が濡れちゃうでしょ！？」 「暑いんだから、すぐ乾くだろ。何の問題も無いって！」 全身を濡らしながら、笑顔で言葉を返すカズマ。その様子に、少女は大きく溜息を吐いた。だが、その表情はどこか嬉しそうにも見える。 この二人は、いつもこんな調子なのだ。家が近所という事もあり、小さな頃からの付き合いで『腐れ縁』というヤツである。今日は、カズマの誘いで森の中の泉まで涼みに来たのだが……。 （この鈍感の塊が、私の気持ちに気付くワケ無いよね……カズマだし） 再び、大きな溜息。そんな彼女の様子に気付く事無く、カズマは泉を泳いでいる。その動きが急に止まり、森の方に視線を向けた。 「どうしたの、カズマ。何かあった〜？」 「……なぁ、レイナ。今、あそこの茂みで何か動かなかったか？」 カズマが問い掛けた直後、茂みから黒い影が飛び出す。水を掻き分けながら彼の体に巻き付き、一瞬で水中から陸地に引き上げた。茂みから飛び出したのは、巨大な蛇。全長は3mを超えているだろう。 「ぐっ……レイナ、逃げろっ！」 「え？ え…！？」 苦しそうに声を絞り出し、避難を促すカズマ。だが、レイナの頭は恐怖と混乱の渦に飲まれ、完全に正気を失っていた。 大蛇は真っ赤な下をカズマに伸ばしながら、ゆっくりと顔を近付ける。その口が大きく開かれ、首筋に喰らい付いた。 「か…カズマ！！」 レイナの悲痛な叫びが響く中、カズマの体から力が抜けていく。恐らく、牙から神経系の毒を注入されたのだろう。大蛇はカズマを一度地面に置き、自身の体を大きく伸ばした。嫌な予感が、レイナの全身を駆け巡る。 大蛇は顎を広げると、カズマを頭から飲み込み始めた。 声にならない、レイナの叫び。彼女の勘は、最悪の形で現実のモノとなった。カズマを飲み込んで満足したのか、大蛇はそのまま森の奥へと消えて行く。残されたレイナは、その場で震える事しか出来なかった。 |
■参加者一覧
九竜・鋼介（ia2192）25歳・男・サ 
ルオウ（ia2445）14歳・男・サ 
利穏（ia9760）14歳・男・陰 
巳（ib6432）18歳・男・シ 
ラグナ・グラウシード（ib8459）19歳・男・騎 
須賀 なだち（ib9686）23歳・女・シ 
白木 明紗（ib9802）23歳・女・武 |
| ■リプレイ本文 ●決意 「この広大な森の中から、アヤカシを探し出すのか…これは骨が折れそうだな」 目の前に広がる森を眺めながら、ラグナ・グラウシード（ib8459）は苦笑いを浮かべた。その探索範囲を考えれば、思わず弱音が零れるのも仕方ないだろう。 彼等開拓者達は、朱藩の森を訪れていた。アヤカシに飲み込まれた少年を探して救出するのが、今回の目的である。 集まった開拓者の中で、ルオウ（ia2445）と利穏（ia9760）は特に気合が入っていた。 「出来る出来ないじゃなく、必ずやらないとな…約束しちまったんだしよ」 「ええ…桜は散らないですが、僕達の手で彼を助け出しましょう。必ず…！」 ここに来る前、２人は依頼主の少女と話をしてきた。片想いをしている者同士、ルオウには通じるモノがあったのだろう。だからこそ、彼は自身たっぷりに『必ず助け出す』と約束をしたのだ。 利穏は、不安そうにしているレイナに季節外れの桜の枝を一振り渡した。『花弁が落ちる前に連れて帰る』と伝えた以上、期待を裏切るワケにはいかない。 「気負い過ぎるなよ、青少年達。もう少し肩の力を抜いて行こうぜ？」 不敵な笑みを浮かべながら、巳（ib6432）は２人の頭をポンポンと叩く。少々からかうような口調だが、不快感は感じない。巳の飄々とした様子に、ルオウと利穏は思わず笑みを零した。 「皆様の準備が宜しければ、早速探索に参りましょう。何かありましたら、呼子笛でお知らせ下さいませ」 丁寧な言葉と共に、須賀 なだち（ib9686）が全員を見渡す。おっとりした口調と柔らかい微笑みは、どんな者でも癒してくれそうだ。 「万が一の時は、俺かルオウの咆哮で誘き出せるはずだ。虱潰しにするよりはマシだろう」 九竜・鋼介（ia2192）の言葉に、ルオウが静かに頷く。標的外の敵まで誘き寄せてしまうため、鋼介自身は得策だとは思っていないが。 森の中を探索する手順、合図の方法は、話し合いで既に決定している。７人は顔を見合わせて軽く頷くと、３班に別れて森に足を踏み入れた。 「どんなところにもアヤカシが居て、被害を受けるヒトが居て、戦うあたし達が居る…因果な世の中なのは、どこいっても変わんないわね」 過去の事を思い出したのか、白木 明紗（ib9802）が一人呟く。そこ言葉は、誰の耳に届く事なく風に乗って消えていった。 ●捜索 一口に『森を探索』と言っても、その範囲は広い。超越聴覚を持つ巳となだちが中心となって索敵を行っているが…有力な手掛りを得られず、なかなか発見出来ずにいた。 「水辺の周りに、何か痕跡があるかと思ったんだけどな…」 カズマ達が襲われた泉を訪れたルオウは、独り言を零しながら周囲を見渡す。敵の手掛りがあるかと期待していたのだが…アテが外れたようだ。 （好きな奴、か…） レイナの必死な心情を想うと、痛いくらいに胸が痛む。一刻も早く敵を倒すため咆哮で誘き出したくなるが、自分の勝手な行動で作戦を台無しには出来ない。胸を押さえて逸る気持ちを押さえながら、ルオウは泉に背を向けて歩き始めた。 鋼介、利穏、巳の３人は、森の中を足早に駆ける。巳の聴覚が物音を捉え、その位置に利穏が式を飛ばす。そうやって数か所を調べた結果、とうとう『本命』を発見したのだ。約10mの位置まで接近し、３人は木陰に身を潜める。その視線の先に居るのは、巨大な蛇が２匹。 「居ましたね。あの２匹のうち、どちらかがカズマくんを飲み込んでいるんでしょうか…？」 ２匹を交互に見比べ、じっくりと観察する利穏。地を這うようにゆっくりと移動する大蛇は、２匹共同じに見える。 「それは分からんが、全員に連絡しないとな」 懐に手を伸ばし、鋼介は呼子笛を取り出した。口を近付けて大きく息を吸った瞬間、巳が手を差し出してそれを制する。 「待ちな、九竜……笛を吹くなら、音は２回鳴らせよ？ あいつが当たりだ」 不敵な笑みを浮かべながら、片方の大蛇を指差す巳。その言葉に、鋼介と利穏は少なからず驚きの表情を浮かべた。２回鳴らすのは、カズマを発見した合図だが…。 「巳さん、分かるんですか？ 僕には、あの２匹が全く同じに見えるんですが…」 目の前にいる大蛇は、外見にも動きにも大きな違いは無い。何故カズマが飲み込まれていると気付いたのか、利穏が疑問に思うのも無理は無いだろう。 「俺も同じに見えるさ……だがよ、片方だけ腹ん中から心臓の音が聞こえるんだぜ？ こいつは、何かを飲み込んだって証拠だろ？」 「なるほどな…だったら、まずは邪魔な方を片付けるか。救出の邪魔をされたら厄介だしな」 鋼介の言葉に、２人が短く頷く。カズマを助け出しても、再び飲み込まれてしまったら全てが水の泡である。呼子笛を咥え、鋼介は連続で音を鳴らした。その音で開拓者達の存在に気付いたのか、大蛇は進行方向を変えて彼らに襲い掛かって来た。 笛の音色は、アヤカシだけではなく他の開拓者の耳にも届いていた。 「あら、笛の音色。利穏様達が、標的を発見されたようですわね」 音の方向に視線を向け、なだちが軽く微笑む。聴力を強化している彼女の耳には、ハッキリと音が聞こえたようだ。 「微かだが、聞こえたな…これは一刻も早く向かわねば！」 拳を強く握り、気合を入れ直すラグナ。本当は今にも駆け出したいが、単独行動は危険だと判断したのだろう。同意を求めるように、仲間達に視線を向ける。 「なだち、道案内を頼んで良いかしら？ あんたなら、さっきの音の方向が分かるでしょ？」 笛の音自体は、明紗にも聞こえていた。だが、その方向や距離を断定するのは難しい。なだちが微笑みながら頷くと、３人は音の方向に向かって駆け出した。木々の間を縫いながら、可能な限り速度を上げていく。 だが……その進路を邪魔するように、３匹目のアヤカシが姿を現した。 「こんな時に、何てタイミングの悪い…！ 外れと戦うなんて、面倒ね」 舌打ちしながら、明紗が言葉を漏らす。笛の音が２回聞こえた以上、目の前の敵はカズマを飲み込んでいない。本命が見付かった今、無駄な時間と労力を使いたくないのだろう。 「無視致しましょう。今は、カズマ様の救出が最優先ですわ」 なだちの言葉に全員が頷く。方向を若干変え、アヤカシを避けるように速度を上げた。 開拓者達に戦う気が無くても、大蛇の方はヤル気満々である。逃げる３人の前に立ち塞がり、尻尾を鞭のように振り回した。咄嗟に、なだちと明紗は後方に跳ぶ。ラグナは素早く兵装を構え、敵の攻撃を受け止めた。 「どうあっても邪魔をする気か…ならば、瘴気に還してくれよう！」 咆えるような、ラグナの叫び。このまま逃げても、アヤカシは何度でも襲って来るだろう。覚悟を決め、３人は大蛇と対峙した。 ●救出 ２匹の大蛇が、巳に向かって交互に牙を剥く。連続で後方に跳んで距離を空け、巳はアヤカシの毒牙を回避した。 「おっと。さすがに、麻痺で痺れて使い物にならなくなっちまったら、蛇の名が泣くなぁ…」 苦笑いを浮かべながら、兵装を握り直す。巳が体勢を整えた直後、森の奥から真紅の影が飛び出した。 「ただデカいだけのくせに、あんまし暴れてんじゃねえぞ！」 怒りの声と共に駆け込んだのは、ルオウ。地面を蹴って跳び上がり、蛇の頭を狙って刀を突き立てる。鋭い切先がアヤカシの皮膚を貫き、そのまま上から押し潰して大地に縫い付けた。 「ルオウさん、その蛇は倒しても大丈夫です！ 遠慮は要りません！」 利穏の言葉で状況を理解したルオウは、刀を引き抜いて持ち直す。それを一気に振り下ろし、アヤカシの首を斬り落とした。傷口から瘴気が溢れ出し、全身が霧のように分解していく。ほんの数秒で、外れの大蛇は空気に溶けて消えさ去った。 これで、残るはカズマを飲み込んだ大蛇のみ。その場の全員が出方を伺う中、前方の森から明紗達３人が姿を現した。 「遅れて申し訳ありません。少々、邪魔者の相手をさせられまして…」 ゆっくりと頭を下げながら、なだちが謝罪の言葉を口にする。立ち塞がった大蛇を撃破し、急いで駆け付けたのだろう。軽傷ではあるが、３人共手傷を負っている。 「いや、良いタイミングだ。コイツを倒して、カズマを救い出す…！」 普段は温和な表情が多い鋼介だが、今アヤカシに向けている視線は鋭く冷たい。彼の覚悟と気合を目の当りにし、ラグナ達は兵装を構えた。 ７人の中で真っ先に動いたのは、利穏。印を結ぶと大蛇の周囲に小さな式が出現し、全身に絡み付いて動きを鈍化させた。更に印を結び、幽霊系の式を召喚。呪われた声を敵に送り込み、内部に反響させてダメージを与えた。 「覚悟しろよ？ お前を倒して、腹かっさばいてやる！」 叫びながら地面を蹴り、ルオウは敵との距離を一気に詰める。大きく踏み込み、顎を狙って下から刀を斬り上げた。ほぼ同時に、大蛇の瘴気が一か所に集まって皮膚を硬質化させる。固い金属音と共に火花が散り、ルオウの刀が弾かれた。とは言え、攻撃が無効化されたわけでは無いが。 「霊剣よ、あのアヤカシを祓う力を…俺に貸せ！」 鋼介の言葉に呼応し、全身の練力が刀身に収束していく。アヤカシの頭部に狙いを定めると、その場で剣を大きく横に薙いだ。集まった練力が一気に解放され、衝撃の波と化して大蛇の全身を打つ。 追撃するように、巳は印を結んで術を発動した。開いた両の掌に小さな手裏剣が出現し、弧を描きながら飛来する。 「でかい蛇がちっせぇ蛇に喰われるってぇのは、なかなか面白ぇだろ？」 言葉と共に、手裏剣の軌道が変化して大蛇の頭部を上下から挟み込む。雷の力を帯びた切先がアヤカシの皮膚を貫き、孔を穿った。その様子は、まるで蛇が噛み付いたようである。 孔から瘴気を撒き散らしながら、アヤカシは赤い舌を伸ばす。獲物を選ぶように開拓者達を見回していたが、なだちで視線が止まる。そのまま牙を剥くと、全身のバネを駆使して飛び掛かった。 微笑みを浮かべたまま、なだちは全身の気を両脚に集中させて瞬時に加速。瞬く間に数メートル移動し、敵の攻撃は虚しく空を切った。 「その程度の攻撃では、掠りもしませんわ。さぁ、観念なさいませ…！」 蛇の名を冠する手裏剣を３枚同時に取り出し、手の中で広げる。素早く狙いを定め、一気に投げ放った。正確無比な投擲が、アヤカシの片目と頭部の孔に突き刺さる。 「覚悟は良いか？ その首、刎ね飛ばしてくれようッ！」 気合の叫びと共に、ラグナは体中のオーラを外部に開放する。放出された力が全身を包み、彼の大剣に輝きを与えた。 「さ、返してもらうわよ？ アヤカシごときが食べられるほど、人の命は安く無いわ！」 黄金色の槍を掲げ、精霊の幻影を具現化させる明紗。その力を兵装に宿らせ、穂先をアヤカシに向ける。 ほぼ同時に、二人は大きく踏み込んだ。黄金の軌跡を描きながら、明紗の槍撃がアヤカシの頭部を薙ぎ払う。体勢が崩れた隙を狙い、ラグナは刀身にオーラを乗せて全力で振り下ろした。言葉通り、斬撃が大蛇の首を刎ね飛ばし、崩れ落ちた本体からは黒い霧が立ち昇って空気に溶けて消えていく。 大蛇の体が完全に消えた時、そこには少年が横たわっていた。７人は兵装を収め、足早にカズマに駆け寄る。なだちと明紗が彼の上半身を支えて起こし、全員で外傷や状態を確認していく。 「…どうやら、外傷は無いようだな。呼吸も安定している」 ラグナの言う通り、カズマに外傷は無い。強いて言えば、大蛇に噛み付かれた跡がある程度である。全員が胸を撫で下ろす中、カズマの瞼が僅かに動いた。そのまま、ゆっくりと開いていく。 「大丈夫ですか？ どこか、痛い所は？」 目覚めたばかりの彼に、優しく語り掛ける利穏。当のカズマは状況が理解出来ないのか、不思議そうな表情を浮かべている。 「大丈夫、あたし達は敵じゃないわ。詳しい事は、帰りながら説明するわね。歩けるかしら？」 明紗の質問に、カズマは軽く頷いて立ち上がった。 ●劇終 待たされる身というのは、不安で辛い。独りで居るレイナなら、尚更である。 だが、自宅の戸が開き、永遠とも思える待ち時間は唐突に終わりを迎えた。 「よう…心配かけて、悪かったな」 戸の陰から姿を見せたのは、カズマ。彼の顔を見た瞬間、レイナは大粒の涙を零した。そのまま椅子を倒して立ち上がり、カズマの胸に飛び込む。 「……馬鹿っ！」 嗚咽混じりに絞り出した、精一杯の一言。自分の胸の中で泣くレイナを優しく抱き締め、カズマはそっと背中を撫でた。 「…因果な世の中もそうだけど、好いたなんだっていう営みも、どこも変わんないわね」 その様子を、戸の陰からコッソリ覗いている開拓者達。２人を眺めながら、明紗は思わず微笑みながら呟いた。 とは言え、これ以上の覗き見は野暮でしかない。開拓者達は顔を見合わせ、ゆっくりとその場を後にした。 遠ざかって行く足音に気付いたのか、レイナが戸を開けて駆け寄って来る。が、伝えたい事がいっぱいあるのか、なかなか言葉が出てこない。困った表情で涙を流すレイナに、なだちがそっと手を伸ばした。 「どうか、泣かないで…もう心配はありません。今までのように、笑顔で暮らせますよ」 穏やかな笑みを浮かべながら、優しく頭を撫でる。それで落ち着いたのか、レイナは一度大きく深呼吸した。 「あの…ありがとうございました！ カズマを助けてくれて……あの桜、凄く心強かったです」 深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べる。泣いていた彼女は居ない。そこには、年相応の笑顔を浮かべた『レイナ』が居た。 「約束したからな。それに…俺の目の届く範囲で、悲劇は起こしたくないし」 照れ臭そうに笑いながら、頬を掻くルオウ。その表情が一瞬曇ったが、気付いた者は誰も居ない。 「役に立てたなら、良かったです。記念に、桜は差し上げますよ。貴女の『もう一つの願い』も叶うと良いですね」 利穏の発言で、レイナの顔がみるみる赤くなっていく。分かり易い反応に、開拓者達から笑みが零れた。 「あの二人が今後、どんな道を綴ってくのか…楽しみにしておくとするかね」 一仕事終え、満足そうに煙管を吹かす巳。結ばれるのか否か、それを楽しんでいるようにも見えるが。 「どうやら、一件落着だな。って……ラグナの奴はどこ行ったんだ？」 鋼介の言う通り、周囲にラグナの姿は無い。冷静に思い出してみると、村に入ってから彼の姿を見た記憶が無い。 皆が周囲を見渡していた頃、ラグナは何処に居るかと言うと……。 「…他人の恋愛が成就するところなんか、見たくないよな…なあ、うさみたん」 背中に背負ったうさぎのぬいぐるみに語り掛けながら、帰路を歩くラグナ。『りあじゅう』は嫌いでも、少女の願いは無視できなかったのだ。独り帰る彼の背は、哀愁を帯びていた。 |
