無粋な暴れん坊
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/15 19:15



■オープニング本文

 武天の町に揺れる、花火屋の看板。彼等の作る花火は夜空を美しく彩り、夏の花火大会は風物詩としても名高い。今も、作業場で準備の真っ最中である。
「た…大将っ! 大変です!」
 作業場の戸が勢い良く開き、青年が駆け込んで来る。大将と呼ばれたのは、50歳過ぎくらいの男性。浅黒い肌に、骨太の肉体、厳つい顔に捻じり鉢巻き。その容姿は典型的な頑固職人で、大将という言葉が似合い過ぎている。
「騒々しいぞ! 何があったってんだ!?」
「とにかく大変なんでさぁ! 花火大会の会場が!!」
 『花火』という単語に反応し、作業台をひっくり返しながら詰め寄る大将。そのまま、青年の胸倉を掴んだ。
「何ぃ!? 詳しく話せ! 今すぐ話しやがれっ!!」
 鬼気迫る様子に、青年は怯えた表情を浮かべる。頭の中を整理しながら、ゆっくりと口を開いた。
「あ、あの……花火の打ち上げを予定してた河原に、暴れ牛が大量に集まってて…あっしらの手に負えない状況なんでさぁ」
 青年の言葉を聞き、大将は一目散に駆け出す。現状を自分の目で確認しないと、気が済まないのだろう。
 花火師の職に就いて数十年。毎年花火大会を行ってきた彼には、意地とプライドがある。それが理不尽に潰されるのが、耐えられないのだ。町を抜け、街道を走り、土手に行き着く。そこから見下ろした河原は、彼の知る景色と全く違っていた。
 巨体の牛が数匹、河原で暴れ回っている。喧嘩するように衝突している牛、川に入って魚を獲ろうとしている牛、雑草を食べている牛など色々居るが、この状況では花火の打ち上げどころではない。近付いたら危険なのは、火を見るより明らかである。
「何だ、これは……」
 唖然としながら、言葉を漏らす大将。この状況では、冷静でいられる者の方が少ないだろう。
「大将…今年の花火大会は、中止にするしか無いですね…」
 いつの間に来たのか、青年が恐る恐る声を掛ける。あの暴れ牛達を大人しくさせるなど、一般人に出来るワケが無い。安全が保障されない以上、中止するのが当然なのだが…。
「いや…もしかしたら、諦めるのは早いかもしれねぇぞ?」
 そう言って軽く笑みを浮かべると、大将は武天に続く道を戻って行った。


■参加者一覧
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
エイン・セル(ib6121
28歳・男・砲
日ノ宮 雪斗(ib8085
24歳・女・志
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
経(ib9752
18歳・女・武


■リプレイ本文

●牛と闘う者達
 蒸し暑い夏の河原に響く、牛達のヤカマシイ鳴き声。それを聞いているだけで、不快指数が上がりそうである。地響きも加わり、耳障りな事この上無い。
 非常に迷惑な牛達だが、だからと言って退治するのは難しい。3mを超える巨躯が相手では、どう頑張っても一般人は勝てないだろう。実力の差は歴然である。
 だが、心配は要らない。そんな牛達を倒せる実力を備えた者が、土手の上に集まっていた。
「フッ…闘牛士リィムナ・ピサレット、参上!」
 真紅の薔薇を咥えながら、リィムナ・ピサレット(ib5201)は身を翻した。バラージスーツで全身を包み、祈祷服に似た上着と、つば広帽子。手にアゾットと赤いナイトマントを持った姿は、小柄だが闘牛士にソックリだ。
「ほほう…随分と『きゅーと』な格好だな。似合っているぞ」
 その様子を眺めながら、軽く微笑むラグナ・グラウシード(ib8459)。カワイイ物が好きなため、彼女の服装が気に入ったのだろう。
「暴れ牛か。風情の欠片もねえなあ。さっさと倒して、豪勢に喰いながら花火見ようぜ?」
 河原を見下ろしながら、日ノ宮 雪斗(ib8085)は不敵に笑った。その言動や容姿は男にしか見えないが、正真正銘、女性である。
「同感だ。まぁ『飯が花火会場にやってきた』って思えれば、少しは花火職人達の腹立ちも治まるだろう」
 彼女の横に立ち、腕を組んで牛達を観察するエイン・セル(ib6121)。柔軟でユニークな発想だが…少々強引かもしれない。前向きなのは良い事だが。
「退治するのは良いのですが…近くに一般人が居たら、巻き込まないように注意する必要がありますね」
 経(ib9752)は言葉と共に周囲を見渡す。一般人を巻き込んでしまっては、本末転倒である。彼女が心配するのも、無理は無いだろう。
「あぁ、それなら大丈夫だ。さっき心眼で確認したが、周りに俺達と牛以外の気配は無ぇよ」
 伏兵を警戒し、雪斗は念のために周囲を確認していた。スキルの射程圏内にある気配は、8匹の牛と開拓者5人のみ。つまり、一般人も伏兵も居ないという事だ。
「なるほど。周囲は無人、というわけですね? 承知しました」
 軽く笑みを浮かべつつ、頭を下げる経。その視線を牛達に向けると、ケモノ達は突然雄叫びを上げながら地面を踏み締め始めた。恐らく、開拓者の存在に気付いて挑発しているのだろう。
「ふん、牛も暑さでトチ狂ったらしいな! 綺麗に切り刻んで、焼肉にでもしてくれようか!」
 大剣を抜きながら、ラグナが吼える。暴れている原因が暑さかは分からないが、退治する事に変わりは無い。
「焼肉、か。調理は大会関係者に任せるとして、俺達は材料を調達しないとな」
 組んでいた腕を離し、巨大な銃に手を伸ばすエイン。ここに来る前に花火職人に会い、牛肉の件は報告済みである。今頃、料理上手が準備を進めているハズだ。
「なら、みんな行こうか! オーレィ!」
 リィムナは全員を見渡し、薔薇を手に持って河原に投げ入れた。その花びらが散る中、彼女自身も土手から河原に跳び降りる。リィムナを追い、4人も地面を蹴って跳んだ。

●河原の激闘
 河原に着地し、牛と対峙する開拓者達。その距離、約40m。リィムナは右手にアゾットを持ち、左手のナイトマントを小刻みに揺らした。
「さぁ、おいで! 私のサーベル…じゃなくて、アゾットでお相手しちゃうよ♪」
 挑発するような態度に、牛の1匹が後ろ脚で地面を蹴って彼女に突撃する。リィムナが軽く踵を叩き合わせると、脚絆の小型宝玉が空気の流れに作用して瞬間的に加速。牛をギリギリまで引き付け、マントを翻しながら華麗に回避した。
 更に、闘牛士のようにアゾットを突き出す。その刺突で怯んだ隙を狙い、スキルを発動させて牛を眠りの底に落とした。巨体が河原に倒れ、周囲の地面が揺れる。
 倒れた仲間を見て頭に血が上ったのか、2匹の牛が耳障りな鳴き声を上げた。血走った目でラグナに狙いを定めると、地面を抉りながら猛進。鋭い角が、彼に迫る。
「私にかかってくるとは命知らずが、思い知らせてやるッ!」
 叫びながら決意を固め、ラグナは言葉と共に体中のオーラを一気に放出した。全身から薄っすらとオーラが立ち昇る中、輝きを纏った大剣を横に構える。牛を真向から見据え、剣を盾代わりにして体当たりを受け止めた。圧倒的な衝撃が全身を駆け抜け、ラグナの体が若干後ろに下がる。それでも両足を踏ん張り、牛の動きを完全に止めた。
 だが、それは同時にラグナの動きも止まった事を意味する。その隙を狙うように、3匹目の牛が右斜め前方から突進して来た。
 苦笑いを浮かべながら舌打ちし、ラグナは牛の頭を蹴る。反動でラグナは後方に跳び、牛は後ろに仰け反った。大道芸も真っ青の軽業で攻撃を回避すると、目標を失った3匹目が目の前を横切る。そのまま、ラグナは雪斗の近くに着地して膝を付いた。
「女にはモテねぇようだが、牛には大人気だな?」
 からかうような、雪斗の言葉。反論出来ない自分に苛立ちを覚えながらも、ラグナは2匹目の牛に鋭い視線を向けた。
「ぐっ……この、頭の悪い牛風情が!」
 八つ当たりするように怒声を上げ、剣を握り直す。立ち上がろうとしたが、脚に力が入らない。そんなラグナの頭をポンと叩き、雪斗は兵装を握って駆け出した。
「そら、くたばりな!!」
 両手に力を込め、大きく踏み込む。自身を軸にして巨大なマサカリを振り回し、重量と遠心力を上乗せして叩き付けた。振り下ろされた切先が牛を肩を捉え、斜めに斬り落とす。頭部と胴が分断され、牛の体が崩れ落ちた。
 様子を窺っていた牛達が、一斉に雄叫びを上げる。仲間を倒され、怒り心頭のようだ。開拓者達を睨みながら、5匹の牛が一気に押し寄せる。
「わわ、いっぱい来た! 経、お願いっ!」
 若干慌てながら、リィムナが助けを求める。経は大きく息を吸って地面を踏み締め、裂帛の気合と共に一喝を浴びせた。怒声が大気を震わせ、周囲に響き渡る。その声と経の表情に威圧されたのか、牛達の動きが止まった。
「相手がケモノであれば、この程度の対処は可能です」
 数秒前とは打って変わって、柔らかい笑みと共に言葉を掛ける経。リィムナ、ラグナ、雪斗の3人は、感心したように声を上げた。
「戦場で脚を止めるとは…恰好の的だな」
 ただ一人。エインはこの隙を逃さず、照準を合わせる。更に、砲術士特有の呼吸法で息を止めて手ブレを防止。引き金を引くと、鋭い銃撃が牛の目を撃ち抜いた。痛みで天を仰いだ処に、素早く弾丸を装填して2撃目。放たれた弾丸が牛の下顎から脳天を貫き、その命を散らした。
 牛達が接近出来なくなった今、開拓者達が優勢である。一喝の効果範囲内に居れば、一方的に攻撃する事も可能だろう。
 だが……そう簡単に物事が進む程、世の中は甘くない。牛が経のスキルを振り切り、リィムナに突撃してきた。
 再びマントを揺らし、彼女は牛を迎え撃つ。その進路を予測し、ギリギリで攻撃を回避。マントが牛の顔を撫でるのと同時に、眠りの呪文で夢の世界に送り込んだ。
 地響きと共に牛が倒れる中、リィムナの隙を狙うように1匹の牛が体当たりを放つ。真っ先にそれに気付いたラグナは、彼女と牛の間に割って入った。
「この斬撃に、一擲を成して乾坤を賭す…一撃必殺!」
 彼の気合に呼応するように、オーラが刀身に収束していく。そのまま剣を上段に構え、大きく踏み込んだ。突撃してくる牛にタイミングを合わせ、一気に振り下ろす。オーラを纏った斬撃が敵の体を縦に両断し、衝撃が地面を割り裂いて土埃が舞った。
 直後に牛の躯が倒れ、反動で土埃が更に舞い上がる。それを突き抜けて、2発の弾丸が空を奔った。正確な射撃が牛の眉間と額に命中し、撃ち抜く。土埃が晴れた時、牛の躯が1体増えていた。
「これで、残り2匹。雪斗、経、あとは頼んだぞ?」
 静かな射撃を行ったのは、もちろんエインである。冷静な狙撃手の言葉に、雪斗と経は静かに頷いた。兵装を握り直し、2人はゆっくりと牛に近付く。彼女達の動きに合わせて、2匹は後ろに下がった。一喝の効果で、一定距離圏内に入れないのだろう。ジリジリと後退している牛の後ろ脚が、川の中に落ちる。もう逃げられない事を悟ったのか、牛は雄叫びを上げながらヤケクソ気味に突撃して来た。
 経はその軌道を先読みし、攻撃を避ける。雪斗は青い光を発する精霊力を全身に纏い、兵装を巧みに捌いて攻撃を受け流した。
「よっと。お返し、だぜ!」
 不敵な笑みを浮かべながら、雪斗はマサカリを構えて回転。その様子は、青い竜巻のように見える。マサカリの刃が牛の体を寸断し、河原を転がって周囲を赤く染めた。
 残った最後の1匹が、踵を返して再び経に迫る。
「まだ抵抗しますか…稚拙ながら、私の剣で浄土に送りましょう」
 静かに言い放ち、経は剣を下段に構えて目を閉じた。意識を集中し、感覚を研ぎ澄ませて敵の動きを感じ取る。空気の流れ、気配、物音から敵の動きを予測し、身を翻した。角が腕を掠め、薄っすらと血がにじむ。それを意に介さず、経は目を開けて剣を一気に振り上げた。無駄の無い最小限の動きで、牛の首をはね上げる。刀身の血を拭って鞘に納めると同時に、最後の牛が地に伏した。
 戦闘を終え、一息吐く一同。リィムナは数枚の布巾を川で濡らし、未だに眠っている牛の頭に被せた。
「あの…ピサレットさん? 何をしているのですか?」
 その行動が気になり、そっと問い掛ける経。彼女が何をしようとしているのか、全く予想が付かないのだろう。実際、経以外の3人も気になっているのだが。
「こうやってアークブラストを使えば、脳に直接電撃を撃ち込んで、苦痛なく一瞬で終わりに出来るかと思って…」
 悲しそうな、リィムナの声。敵とは言え、無抵抗な者を倒すのは気が引けるのだろう。苦痛を与えたくないのは、彼女の精一杯の気遣いなのだ。それを理解したエインは、そっとリィムナの頭を撫でた。
「思うようにやってみろ。万が一の時は…俺達も手を貸してやる」
 力強い、エインの声援。その声に満面の笑みで応え、リィムナは牛の頭に手をかざした。目を閉じて大きく息を吐き……掌から電撃が奔る。それが寸分違わず牛の頭を射抜き、永遠の眠りに落ちていった。もう1匹にも近付き、同様に処置を施す。
 ようやく、8匹の牛の退治が完了した。だが、全てが終わったワケでは無い。
「お疲れさん。さて…次はコイツ等を捌くか。あ、河原も綺麗にしないとな?」
 雪斗の言う通り、牛を食肉に加工する必要があるし、花火大会を開催するために周囲を整備しなくてはいけない。今後の行動を軽く話し合い、5人は手分けして作業を始めた。

●真夏の夜の風物詩
 日が完全に落ち、夜の闇が世界を染める。涼しい風が吹き抜ける中、河原の周囲には大勢の人が集まっていた。皆、花火を見に来た人達である。安全を考慮し、打ち上げ場所から一定範囲は立ち入り禁止になっている。
(思った通り…食いでがあるな)
 調理しながらも、肉をつまみ食いするエイン。彼は河原で牛を見た時から、ずっと食いでがあると思っていたのだ。ゆっくりと肉を味わいたいのだが、今は手伝いで大忙しである。
「牛喰わねえか? 美味いぜ〜! 今日は特別に、タダで食わせてやるよ!」
「冷たい氷水もあるよ〜♪」
 牛肉の串焼きを大量に持ち、観客に配り歩く雪斗。リィムナは自身のスキルで作り出した氷を使い、氷水を提供している。
「お2人共、お疲れ様ですね。日ノ宮さん、私にも1本頂けますか?」
 観客の誘導を終えた経が、2人に労いの言葉を掛ける。軽く挨拶を返し、雪斗は牛串を1本差し出した。
「ママ〜。あのお兄ちゃん、角生えてるよ〜?」
 小さな女の子が、雪斗を指差しながら母親に声を掛ける。慌てて我が子を注意しながら、母親は少女の頭を下げさせた。当の雪斗は、全く気にせず笑い飛ばしているが。
「うふふ…楽しみだな、うさみたん」
 一方その頃。もう一人の『角の生えたお兄さん』は、背中に背負ったうさぎのぬいぐるみに話し掛けながら花火の打ち上げを待っていた。その異様な様子に、ラグナの周囲だけは人が集まっていない。
 観客の腹が膨れてきた頃、花火職人達が打ち上げの準備を始めた。期待の視線が集まる中、打ち上げ用の筒に花火玉を投下。更に火種を投げ入れると、数秒後に天高く打ち上がった。それが空中で炸裂し、大輪の花を咲かせる。
「た〜まや〜!!」
 雪斗は満面の笑みを浮かべながら、花火に対して賞賛の言葉を叫ぶ。花火の見事さに、周囲の観客も大盛り上がりだ。
 ただし…『一部を除いて』ではあるが。
(ああ…本当に綺麗だな…これで、私の隣に恋人がいてくれれば…)
 感動の余り、ポロポロと涙を零すラグナ。感受性が豊かなのは良い事だが…ぬいぐるみ背負った色黒の大男が、空見上げて泣いている。その姿は、一般人の目に異様に写っているに違いない。
「ラグナ…花火見ながら泣いてるけど、何かあったのかな?」
 牛串をモグモグと噛みながら、リィムナが不思議そうに小首を傾げる。手伝いを終えて花火を楽しんでいたエインは、彼女の背を軽く押して正面を向かせた。
「目を合わせるなよ、リィムナ。今は…独りにしてやろう」
 彼の言葉に疑問を抱きながらも、リィムナは素直に頷く。エインは、ラグナの事情を察しているワケではない。恐らく、知り合いだという事を、観客達に知られたくなかったのだろう。まぁ、ラグナの状態を考えれば、エインが隠したいと思うのも無理は無いが。
「花火大会、無事に開催出来て良かったですね…」
 周囲を見渡しながら、経は満足そうに微笑む。人々の楽しそうな表情を見るのは、悪い気分では無い。むしろ、そういう表情を見るために頑張っている開拓者も多いだろう。
 楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまう。歓声と笑顔に満ちた花火大会が終了すると、開拓者達は片付けを手伝った。
 全てが終わった時には夜も更けていたが、開拓者も花火職人も、達成感に満ち溢れていた。