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■オープニング本文 「森は良い‥‥美しい森は、心を潤してくれる」 鼻歌まじりに、森の中を歩く少年。歳の頃は13〜15くらいだろうか。灰色の頭髪が風に揺れる。 「おや‥‥?」 何かに気付いたのか、少年が周囲を見渡す。足早に林道を進むと、森が開けて放牧場が見えてきた。 だが、そこは異常なまでに静まりかえっている。鶏の鳴き声も、動物達が歩く音も、何も聞こえない。 「やれやれ‥‥安全を捨ててまで自由を求めるなんて、僕には理解出来ないよ」 溜息と共に呟き、少年は頭を掻いた。その赤い瞳の先には、壊れた柵が転がっている。どうやら、家畜が柵を破壊して逃げたようだ。少年の作った柵がモロかったのか、家畜が凶暴なのか、定かではないが。 「もっと頑丈に作り直さないとね。問題は‥‥」 森の奥へと続いている、家畜の足跡。森は広い上、家畜の数が多い。どう考えても、少年が一人で全頭探すのは無理である。 数時間後、少年の足は開拓者ギルドへと赴いていた。 |
■参加者一覧
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
利穏(ia9760)
14歳・男・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)
14歳・女・陰
サガラ・ディヤーナ(ib6644)
14歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●いざ、森へ 「改めて見ると‥‥広い森ですね。捕獲対象も多いですし、これは骨が折れそうです」 放牧場から森を眺めながら、利穏(ia9760)が口を開く。想像以上の広さに、思わず苦笑いと共に弱音が零れた。 「でも、頑張りましょうね! 動物さん達のためにも♪」 そう言って、ニコッと笑みを浮かべるサガラ・ディヤーナ(ib6644)。その表情に釣られたのか、利穏の表情もほころぶ。 「待たせたね。これが、いつも食べさせてる餌だよ。コッチは、頼まれてた地図」 革袋とボロボロの紙を手に、依頼人の少年が小屋から姿を現した。餌は家畜を誘き出すため、地図は水場とドングリの群生地を知るため、開拓者達が少年に頼んだモノである。 「ありがとう! これで、水場とドングリの場所はバッチリだね!」 リィムナ・ピサレット(ib5201)は笑顔でソレを受け取り、地図を広げた。他の開拓者達も覗き込み、全員で位置を把握する。 「早速行きましょうか? 万が一、家畜が襲われてたりしたら大変だわ」 リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)が全員を促す。万が一の事態に備え、彼女もリィムナも回復の手段は用意している。が、使う機会が無い方が好ましいだろう。 「よろしく頼むよ。あ、その中の背負い籠とロープは、好きに使って構わないよ」 言いながら、少年は小屋を指差した。 「それは助かります。鶏なら、籠に入れて運べそうですね。可能なら、貴方も同行して欲しいのですが‥‥」 軽く頭を下げ、礼を述べる只木 岑(ia6834)。彼が少年に同行を頼んだ直後、言葉を遮るようにリィムナが叫んだ。 「駄目だよ! 彼には、あたし達が家畜を運んで来る間に、柵の修理して貰わなきゃ!」 「そうですね。捕まえても、逃げられたら意味が無いですし。可能なら、補強した方が良いと思いますが‥‥」 彼女の意見に同意し、更に自分の考えを付け加える利穏。二人の言葉に耳を傾けながら、岑は感心した様子でウンウンと頷いた。 「なるほど‥‥なら、補強は後で手伝うとして、修理を最優先でお願いしますね?」 二人の言い分に納得したのか、岑は自分の意見を訂正して少年に告げる。その言葉に、少年は笑顔で頷いた。 「ねぇねぇ、森に入ったら『イキナリ家畜と遭遇!』なんて事、無いですよね?」 「さぁ‥‥どうかしらね? 大人しく捕まってくれるなら、いつ現れても大歓迎だけど」 リーゼロッテの服を軽く引っ張りながら、小声で呟くサガラ。冗談交じりの言葉と共に、リーゼロッテは笑みを返す。 数分後、籠を背負った開拓者達は、森の中に足を踏み入れた。 ●出会いは突然に 「待てぇ〜〜〜!」 森の中にサガラの元気な声が響く。その声に、鶏の鳴き声も混じっている。 「岑さん、そっち行きましたよ!」 「任せて下さい! はっ!」 利穏の声に反応し、岑は目の前に走って来た鶏2匹の首を捕まえる。利穏と協力してその脚をロープで縛ると、背負い籠にそっと入れた。最初は翼をバタつかせていたが、諦めたのか数秒で静かになった。 同じ頃、サガラとリーゼロッテも鶏を捕まえていた。 「ようやく捕まえたわ! リィムナ、お願い!」 「はいは〜い、ちょっと大人しくしてね?」 リィムナが呪文を呟くと、鶏の抵抗が止んだ。スキルの効果で、深い眠りに落ちたのだ。その隙に、3人は鶏を縛って籠に寝かせる。 「これで、鶏くん5匹捕獲ですね。まさか、イキナリ遭遇するとは思いませんでした」 軽く苦笑いを浮かべる利穏。まさか、森に入って5分もしないうちに遭遇するとは、全く予想していなかっただろう。 「ボクは予感が当たってビックリですよぉ。でも、幸先の良いスタートかも♪」 「そうだね。この調子でガンガン捕まえよう!」 対照的に、サガラとリィムナは前向きである。声を合わせて『おー!』と叫びながら、拳を突き上げた。その様子に、全員の顔から笑みが零れる。 「では、先ずは水場に行きましょうか。ここから近いようですし」 言いながら、岑は地図を広げた。森の形と現在位置から推測すると、ドングリの木よりも水場の方が近い。誰も異論を唱えず、水場に向かって歩き始めた。 数分後、開拓者達の耳に水の音が届く。全員が無言で顔を見合わせると、足音を殺しながら静かに歩を進めた。その視界に、水場が少しずつ姿を現す。ギリギリまで近付き、5人は木の陰や茂みに姿を隠した。 水場の周囲には、鶏が3匹に豚が2匹。水を飲んだり、陽に当たって休んだりしている。 「ビンゴね。みんな、準備は良い?」 小声で話し掛けるリーゼロッテ。革袋を回し、全員が餌を取り出した。タイミングをズラしながらそれを投げると、家畜達は餌に群がる。その隙を突いて、5人は一気に飛び掛かった。 女性3人はアッサリと鶏を捕まえ、脚を縛る。が、豚はそう簡単にはいかない。背に岑や利穏を乗せたまま、激しく暴れ始めた。 直後、豚の動きが鈍り、ついには地に伏す。その口からは、イビキのような音が漏れている。 「ありがとうございました、リィムナさん、リーゼロッテさん」 動かなくなった豚を縛りながら、岑が礼の言葉を述べた。二人がスキルを発動させ、豚を眠らせたのだ。 「どう致しまして♪ それにしても、元気な豚さんだねぇ〜」 笑みを返しながら、リィムナが豚の寝顔を覗き込む。無邪気な動物の寝顔は、どこか愛らしい‥‥ような気がする。 「元気なのは良いけど、怪我してないかしら?」 「周りに血の跡は無いし、大丈夫ですよ♪」 リーゼロッテの問いに、サガラが笑顔で答える。念のために全員で確認したが、家畜に怪我は無かった。無論、開拓者達も無傷である。 「あの‥‥一回戻りませんか? 家畜を連れて歩くのは大変ですし」 おずおずと提案する利穏。鶏はともかく、豚2匹を抱えたまま森を探索するのは効率が悪過ぎる。それが分かっているからこそ、誰も反論する者は居なかった。 岑と利穏は苦笑いを浮かべつつ、気合を入れて豚を持ち上げた。頑張れ、男の子! ●集団逃走? 放牧場へと戻って来た5人は、捕らえた家畜を依頼人の少年に返した。柵の修理はまだ終わっていなかったが、家畜は縛ってあるので、逃げ出す心配は無いだろう。 身軽になり、5人は再び森へと足を踏み入れた。 「残りは、鶏さんが2匹に豚さんが8匹ですね。頑張らなきゃ!」 状況を確認し、気合を入れ直すサガラ。その小さな手を軽く握る。 「次はドングリのトコに行ってみようか? 豚ってドングリが好きだし」 「そうですね。豚さんなら、餌を探して群がっていそうです」 「待った! 何か‥‥聞こえませんか?」 行き先を相談するリィムナと利穏を、岑が制する。口に指を当て『静かに』のポーズ。彼の言動通りに耳を澄ませると、遠くから喧騒が聞こえてきた。たくさんのケモノの鳴き声と足音。それは、徐々に近付いて来る。 数秒後、豚と鶏らしき集団が森の奥から姿を現した。 「団体さんの登場ね。リィムナ、一気に眠らせましょう!」 「あ、駄目です!」 叫ぶや否や、疾風の勢いで飛び出す利穏。家畜達の隣を一瞬で駆け抜け、武器を構えて立ち止まった。その視線の先には‥‥。 「猪!? まさか、家畜達を狙って‥!?」 そう、リィムナの言う通り、家畜達は猪に追われていたのだ。数は、3頭。それに気付いた利穏は、いち早く飛び出して猪と対峙した。開拓者達の姿を見て恐怖を感じたのか、家畜達は右に進路を変えて逃げていく。 だが、今は猪を倒すのが先である。利穏は剣気を放ちながら、猪の懐に飛び込む。武器が一閃すると、先頭の猪の首が斬り落されて地面を転がった。 「鶏さん豚さん、今助けます!」 武器を握り直し、サガラが駆け出す。湾曲した刀身が猪を捉えると、その身を一刀のもとに両断した。 更に、リィムナが腕を振ると風が渦を巻いて刃と化す。真空の刃物が3頭目の猪に殺到し、その身を斬り刻んだ。 正に圧勝。開拓者達がタダの野生動物に負けるワケも無く、勝負は瞬く間に決した。 しかし、危機は去っていなかった。右の方向、家畜達が逃げた先から獣達の鳴き声が響く。視線を巡らせると、そこには巨大な熊の姿があった。 「ちっ! リーゼロッテさん!」 「分かってるわ! いくわよ!」 叫ぶと同時に弓を構える岑。その瞳に精霊の力が集まり、淡い光を放つ。リーゼロッテが指を鳴らすと、熊の周囲の空気が低下し、氷の粒が生まれる。矢が雨のように突き刺さり、冷気が吹雪と化して熊を凍て付かせる。二人の攻撃を喰らい、熊は地響きをたてて地に伏した。 突然戦闘に巻き込まれ、半狂乱になる家畜達。危機は去ったが、それが伝わるわけが無い。地面を踏み鳴らし、頭から木に突撃し、耳障りな鳴き声と共に暴れ回る。 「うわぁ!? ちょっ‥落ち着いて下さい!」 慌てて豚に飛び付き、止めに入る利穏。サガラと岑もそれに続くが、3人で全ての家畜を止めるのは無理がある。 「みんな、家畜が逃げないように抑えつけて! その間に、あたしとリーゼロッテで眠らせるから!」 言いながら、リィムナはスキルを発動させた。眠りに落ちた豚を、岑が素早く縛り上げる。 「了解です。この機会に、全て捕獲してしまいましょう!」 「これ以上襲われたり、暴れたりして怪我したら大変ですもんね!」 鶏を縛り、籠に入れるサガラ。どうやら、残りの家畜は全てここに居るようだ。 「そういう事! さぁ、観念なさい家畜達!」 スキルを発動させながら、不敵な笑みを浮かべるリーゼロッテ。全ての家畜を大人しくさせるのに、そう長い時間はかからなかった。 ●茜空に響くのは 「お待たせしました♪ これで、鶏さんと豚さんたち20匹全部ですよ♪」 残りの家畜を笑顔で差し出すサガラ。幸いな事に、家畜に怪我は無かったし、目覚めて暴れるモノも居なかった。 とは言え、家畜の移動に必要な労力と時間は、相当である。天高く昇っていた太陽は、西の空に傾き始めていた。 「こっちは、ボク達が仕留めた猪と熊です。冬の食料にして下さい」 そう言って、岑は猪3頭と熊1頭を差し出した。仕留めたままで捌いていないが、これだけあれば暫くは食料に困らないだろう。 「ありがとう。君達の心遣い‥‥好意に値するよ」 家畜に加えて、猪と熊を移動させる労力は並ではない。自分のために、そこまで頑張ってくれたのが少年には嬉しかった。感謝の気持ちを込め、精一杯の言葉を返す。 「あはは♪ 鶏さん達の帰る家はココだし、あたし達は迷子探しをしただけだよ!」 歳相応に、無邪気な笑みを浮かべるリィムナ。感謝されるのは悪い気分では無いが、少々照れ臭いようだ。 「んー、終わったーっ♪ みんな、ご苦労様♪」 大きく伸びをしながら、リーゼロッテは全員に声を掛けた。想像以上の重労働に、誰もが疲労困憊の様子である。 「あ、柵の状態は大丈夫ですか? 見た所、修理は終わっているようですが‥‥」 「大丈夫、心配いらないよ。補強は、状況を見ながら少しずつ進めるさ」 少年の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす利穏。修理が終わっているなら、家畜達が逃げ出す心配は無い。思わず、自然と笑みが零れる。 「なら良かったです。豚さんも鶏くんも、大事に育ててあげて下さいね?」 「では‥‥ボク達はそろそろ失礼しますね。背負い籠、ありがとうございました」 「あ、余った餌も返さなきゃね! はい、これ」 岑とリィムナが、背負い籠と革袋を差し出す。少年がそれを受け取った直後、小屋から家畜達の鳴き声が響いた。どうやら、目を覚まして暴れているようだ。 開拓者達は顔を見合わせると、軽く苦笑いを浮かべる。最後の仕事、家畜の縄を解くため、少年と一緒に小屋へと駆け出した。 |