七夕とお邪魔虫
マスター名:香月丈流
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/07/12 19:52



■オープニング本文

「諸君! 今年も、我々が起つ日が来たっ!」
 教会の祭壇で熱弁する、小太りで眼鏡の男性。彼の声に応えるように、椅子に座っている大勢の人物が拳を突き上げた。老若男女関係無く、色んな世代の者が居る。
「俗世の『りあじゅう』共は、異性と仲良くする事しか考えていない! だからこそ、我々が粛清せねばならんのだ!」
 意味不明な事、この上ない。
 要するに…『世間の恋人達がイチャイチャしているのが気に入らないから、全力で邪魔してやろうぜ!』という事である。
 冷静に考えれば、単なる逆恨みとヒガミなのが分かる。だが、集団心理というモノは恐ろしい。周囲の雰囲気と、提案者の熱弁が、冷静な判断力を奪っているのだ。
「もうすぐ、天儀は七夕を迎える……彦星と織姫の愚行を繰り返さないためにも、我々の手で『りあじゅう』に鉄槌を下そうではないか!」
 七夕の話は、昔から語り継がれている。年に一度しか会えない悲恋の話なのだが……原因は、彦星と織姫が仕事もせずに遊んでいたため、周囲の怒りを買った事にある。そういう意味では、愚行と言われても仕方ないかもしれないが……。
「同志諸君、作戦の決行は7月7日だ! 皆の活躍に期待させて貰うぞ!」
 教会内に、一際大きな歓声が上がる。どうやら、全員ヤル気満々なようだ。作戦が決行されるまで、あと数日…。


■参加者一覧
梓(ia0412
29歳・男・巫
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
レグ・フォルワード(ia9526
29歳・男・砲
ソウェル ノイラート(ib5397
24歳・女・砲
八条 高菜(ib7059
35歳・女・シ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
中書令(ib9408
20歳・男・吟
渥美 アキヒロ(ib9454
19歳・男・ジ
ギイ・ジャンメール(ib9537
24歳・男・ジ
乾 炉火(ib9579
44歳・男・シ


■リプレイ本文

●事前準備
 此隅の街中で七夕の準備が進んでいる頃、ギルドの一室では作戦会議が行われていた。
「ふむ、あの連中…呼称が無いと呼び辛いな。嫉妬に狂った連中が集まってる訳だし…とりあえず『嫉妬団』とでも呼ぶのはどうだ?」
 腕組みしながら、九竜・鋼介(ia2192)が冗談混じりに微笑む。今日は兵装をハリセンに替え、手加減仕様の装備だ。
「あ、それナイスアイディア。分かり易いし、ボクは賛成〜♪」
 渥美 アキヒロ(ib9454)の、狐のような尾が楽しそうに揺れる。実際、無邪気な笑みを浮かべているが。
「呼称はそれで良いとして、問題はどういう作戦で進めるか…ですねぇ」
 若干嘲笑混じりに、言葉を告げるギイ・ジャンメール(ib9537)。『デートの妨害とか、超ダサい』という呟きが聞こえたが、気にしない事にしよう。
「俺は、あの集団に潜り込んでみるぜ。頭弱そうだし問題無ぇだろ」
(あのオッサン、何か気になるンだよなぁ……)
 椅子に深く腰掛けながら、乾 炉火(ib9579)は不敵な笑みを浮かべた。
 そんな彼に、梓(ia0412)は熱い視線を向けている。何やら『新しい恋』が始まりそうな雰囲気だ。
「私は超越聴覚を活性化しておきますので、必要な時はお呼び下さい」
 中書令(ib9408)の提案に、全員が静かに頷く。誘き出しや潜入等、色んな案が出された末、全員の役割と作戦が決まった。
 作戦会議が終了して一息つく中、レグ・フォルワード(ia9526)は改めてソウェル ノイラート(ib5397)に視線を送った。
「…浴衣だと多少雰囲気が変わって、いつもと違った魅力があるよな。良く似合ってると思うぜ」
「お世辞でも嬉しいよ。いつもは一緒に居れないんだし…久しぶりに手、繋いでくれるんでしょ?」
 恋人特有の、甘い雰囲気。もし嫉妬団がここに居たら、大暴れしていただろう。
 ラグナ・グラウシード(ib8459)は不機嫌そうな表情を浮かべ、席を立った。
「あらラグナ様、どちらへ? もうすぐ作戦開始ですよ?」
 出口に向かう背に、八条 高菜(ib7059)が声を掛ける。ラグナは振り向く事無く、言葉を返した。
「…一足先に、嫉妬団を説得しに行かせて貰う。皆の健闘に期待しているぞ」
 それだけ言って、ラグナは部屋を出ていった。この時、誰かが彼の異常に気付いていれば…状況は変わっただろう。
 ラグナが背負ったうさぎのぬいぐるみが『緑のはちまき』をしていた事に…。

●潜入作戦
 数時間後。炉火と梓は嫉妬団に潜入し、数人で街の中を歩いていた。屈強な2人を伴っているせいか、嫉妬団員の態度は無駄に大きい。
「お……俺様が頭に血ィ昇りすぎたら、喝……入れてくれよな?」
 赤面しつつ、梓は小声で炉火に語り掛ける。炉火は口元に笑みを浮かべると、彼の肩に腕を回した。
「それは良いが…俺の喝にハマんなよ?」
 耳元で囁くような、甘い口調。それを聞いた梓は、耳まで真っ赤になって足早に歩き始めた。
「オラオラ〜! イチャついてんじゃねぇぞ!」
 照れ隠しをするように、叫びながら木刀を振り廻す梓。その姿は似合い過ぎていて、本当に嫉妬団員にしか見えない。
「そこのイケメンのおにーさん達! これからお見合いパーティーがあるんですが、参加してくれませんか? 男側の欠員が大分出ちゃって、困ってるんですよ〜」
 暴れる梓を尻目に、アキヒロが団員に声を掛ける。予想外のお誘いに、団員達は驚愕しながらも嬉しそうだ。その状況に気付いたのか、他の団員も集まって10人程の集団と化す。
「面白そうだな。俺ぁ参加するぜ? もしかして、さっき向こうに居た美人ちゃんも参加メンバーか?」
 率先して参加の意志を見せる炉火。彼の行動に釣られたのか、団員達は次々に参加を決め始めた。アキヒロがイケメンを強調し、炉火が率先して乗ったのが功を奏したようだ。
「騙されるなッ! お前達は、本当にそれが本心からの言葉だと思っているのか?!」
 作戦成功を確信した瞬間、聞き慣れた声が周囲に響いた。その先に居たのは、ラグナ。彼の親切な指摘が、嫉妬団員を正気に戻していく。どうやら、彼は本気で嫉妬団側に付いたようだ。
 騙された事に気付いた団員達は、仕返しとばかりに暴れ始める。それを見届けると、ラグナは素早く姿を消した。過熱した団員が、若い女性を無理矢理肩に乗せる。
「あいつら……ッマジで馬鹿か…!」
 物陰から見ていたギイが、弾かれるように飛び出した。一気に距離を詰め、団員の足を払う。転倒するより早く女性を抱き止め、連れ去られるのを防いだ。
「ふむ、傍迷惑な連中だ。ささ(笹)っと片付けようか…七夕だけにってねぇ…」
 違う場所から覗いていた鋼介は、駄洒落を口にしながらハリセンを握る。彼が飛び出すのに合わせて、捕獲作戦が本格的に始まった。
 梓が脚や腕を狙って木刀を振り廻す。鋼介は手加減しつつ、ハリセンで団員を引っ叩いた。アキヒロとギイの華麗な足技が、次々に団員を転倒させる。倒れた者を中心に、炉火が荒縄で拘束した。
 次々に捕縛されていく中、ギイとアキヒロの背後から団員が迫る。道端の角材を拾い、高々と振り上げた。
 それが振り下ろされるより早く、まどろみを誘う演奏が団員を眠りの底に堕とす。
「急ぎましょう…! 私もお手伝い致します」
 中書令の琵琶が、団員を次々に眠らせていく。数分後、周囲にいた嫉妬団員は、全て拘束された。その数、20人。
「ダメだよー、恋人たちの邪魔なんかしちゃ。男の僻みはカッコよくないぞっ☆」
 笑顔を浮かべながら、ウインクを飛ばすアキヒロ。その言動は、イケメンならではの余裕かもしれない。
「そんなだから、モテやしねぇんだよ! まずガタイ作りから始めろ、ガタイからよォ!!」
 熱く語る梓だが、実際は恋愛経験が無かったりする。彼の場合、昔ヤンチャし過ぎた事が原因かもしれないが。
「お騒がせしました。この方々は屯所へお連れしますので、ご心配なく」
 周囲の一般人に向かって、中書令が深々と頭を下げる。迷惑な集団を連れ、6人はその場を後にした。

●囮作戦
 手を繋いで街中を歩く、レグとソウェル。周囲の視線は、2人に集中していた。容姿端麗な事もあるが、大勢の嫉妬団が後方から尾行しているのが一番の理由だろう。
「好きな相手と一緒に居たいって気持ちは分からないでもねぇよ。ただ、仕事をサボるのは……って、仕事中にこうして出歩いてる俺らもあんまり変わらねぇか」
 嫉妬団は気にせず、レグは嬉しそうに話している。サングラスで表情は良く見えないが、微笑んでいるに違いない。
「これが仕事なんだから、問題無いと思うよ? それとも…レグはデート気分だったのかな?」
 意地悪く笑いながら、ソウェルは彼を見上げる。彼女の指摘が恥ずかしかったのか、レグは視線を外しながら後頭部を掻いた。
「あら、そこのおにーさん達っ! 私と遊びに行きません? 待ちぼうけ食らって寂しいんですよー」
 尾行している団員達に、高菜が艶っぽく声を掛ける。露出の高い『色々アウト気味』な格好に惹かれたのか、男性団員数人の視線は釘付けである。女性は冷やかな視線を向けているが。
「うふふふ、こっちこっち♪」
 妖艶な笑みを浮かべながら、人気の少ない裏路地の方へ移動していく。彼女の魅力に釣られ、3人の男性が付いて来た。高菜は彼等に抱き付き、濃厚な接吻の不意打ちを喰らわせる。
 放心する団員の背後から、接近する影が1つ。3人に荒縄を掛けると、あっという間に縛り上げて地面に転がした。
「はぁい、残念でした〜。ギイ様、お手伝いありがとう♪」
 言いながら、高菜は団員達の懐に住所を書いた紙をこコッソリと差し込む。
「こうも簡単に逆ナンに引っ掛かるなんて…やっぱり馬鹿ですね、こいつら」
 嘲笑しながら、暴れる団員を押さえるギイ。さっきの20人を奉行所に連行後、彼は仲間を助けるために戻って来たのだ。
 ほぼ同時刻、尾行している嫉妬団が動く。3人の男性が集団を飛び出し、塗料の入った袋を振りかぶった。
 直後、レグとソウェルは振り向き様に引き金を引く。空気の塊が撃ち出され、団員2人を転倒させた。
 予想外の抵抗に、団員達が浮足立つ。その隙を突くように、琵琶の演奏が団員を眠りに落とした。
「油断するなっ! 敵はその『りあじゅう』だけではない! 伏兵に注意しろっ!」
 高所から響く、ラグナの声。彼の言う通り、この場にはレグとソウェル以外に中書令と鋼介も来ている。自分達の不利を悟ったのか、嫉妬団は背を向けて逃走を始めた。
「逃げずに来いよ、嫉妬団! 嫉妬なんか捨ててかかって来い!」
 逃げる団員達向かって、鋼介がレグ達の後ろから雄叫びを上げる。その声が正常な思考を麻痺させたのか、嫉妬団は開拓者に向かって殺到した。
 こうなれば、勝ったも同然である。レグとソウェルの銃撃が団員を転倒させ、中書令が演奏で眠らせていく。高菜とギイも合流し、鋼介と3人で次々に拘束した。
 ヤケクソ気味に、団員がソウェルに向かって塗料袋を投げ放つ。レグは肩に掛けた上着を脱ぎ、それを叩き落とした。軽く礼を述べ、ソウェルは懐から短銃を取り出して構える。
「無駄な抵抗は止めな。本物の銃で撃たれたいなら、話は別だけどさ」
 彼女の迫力に圧倒されたのか、無言で崩れ落ちる団員。それを高菜が拘束し、騒動は一段落した。
「手伝いに来てくれて、ありがとな。助かったぜ」
 銃を収めながら礼を述べるレグ。支援に来た開拓者達は笑顔を返したが、中書令の表情は暗い。
「ですが……『一番迷惑な者』を取り逃してしまいましたね」
 彼が言っているのは、嫉妬団に寝返ったラグナの事である。理由は何となく分かるが…許される事ではない。
「なら、追い掛ければ良い。俺と中書令、ギイで嫉妬団員を連行する。お前さん達2人は、あいつを追ってくれ」
「あの超ダサい馬鹿に、レグさんとソウェルさんの『絆の強さ』を見せてやって下さいよ〜」
 ラグナが『りあじゅう』を嫌っているなら、レグとソウェルが相手に適任だろう。それが分かっているからこそ、鋼介とギイは2人を推しているのだ。無論、他のメンバーも考えは同じである。
 全員の信頼を受け、レグとソウェルはラグナを追って駆け出した。

●天罰覿面?
「そこまでだ。お前…ちょっとやり過ぎだぜ」
 嫉妬団がアジトにしている教会。その中に、ラグナは1人佇んでいた。レグとソウェルは銃を抜き、ゆっくりと距離を詰める。
「跳梁跋扈する『りあじゅう』どもに仕置きを加えただけだ! 私の何が悪いッ!?」
 逆ギレしながら剣を抜くラグナ。完全に、自分を見失っているようだ。
「そうね、分かり易くシンプルに説明すると…」
 ソウェルの動きに合わせて、レグは銃を構える。ラグナに照準を合わせると、2人は同時に叫んだ。
『お前の行動全てが悪い!!』
 室内に木霊する叫びと、銃声。音は派手だが、2人の銃は遊戯用の空気銃。殺傷能力は微塵も無い。
 作戦会議を聞いてその事を知っているラグナは迷わず突撃した。一気に間合いを詰め、剣を横に薙ぐ。
 レグは屈んで、ソウェルは跳んでその一撃を回避した。レグは右脚を軸に回転し、回し蹴りを胴に叩き込む。前屈みになったラグナの肩に、ソウェルは落下しながら踵を落とした。
 連続攻撃を受け、ラグナの体が大きく揺らぐ。それでも、剣を握って大きく振り上げた。
「はーい、ラグナちゃんストーップ!!」
 叫びながら、駆け込んで来たアキヒロが体当たりを放つ。その衝撃でラグナは派手に吹き飛び、教会の床を転がった。素早く体勢を整えたものの、周囲をアキヒロ、ソウェル、レグが囲んでいる。奥歯を噛み締めながら、ラグナは兵装を離して両手を上げた。

●奉行所の牢前で
「いやぁ、面白い日でした。色々と、ね」
 満足そうな表情で、捕まった嫉妬団員を眺める高菜。この中の何人かは、彼女から連絡先を書いた紙を渡されている。
「39、40…っと。どうやら全員捕まえ…梓、何してるんだ?」
 団員の数を数えていた鋼介が、梓の異変に気付く。コッソリと何かをしていたのだが、その体格では目立って仕方が無い。
「なっ…何でも無ぇよ! ちょっと笹飾りを見てただけだっ!」
 若干顔を赤くしながら声を荒げる梓。鋼介はそれ以上追及しなかったが、梓は七夕飾りに短冊を下げていたのだ。そこに『ガタイ系野郎と仲良くなれますように!』と書かれているのは秘密である。
「これで終わりではないぞ! たとえ私が倒れても、さらなる粛清の刃がお前たちを裁くだろう!」
 嫉妬団と共に投獄されたラグナが、吼えるように叫ぶ。この状況でも強がれるのは、ある意味凄いが。
「懲りない奴だねぇ。いい加減、大人しくしろよ。俺の織姫が本気でキレる前に、な」
 溜息混じりに、苦笑いを浮かべるレグ。サングラスの奥から、鋭く冷たい視線が覗いている。
「まったく…周囲に迷惑を掛ける時点で、あなた方々も愚行ですよ」
 中書令の冷たい声。それは、捕まった団員達に向けられていた。奴らの言動を考えれば、無理も無い。
「そうそう。そんなんだから恋人できないんだよ。ま、人生は長いし、真面目にやってればそのうち恋人できるんじゃない?」
 柔らかい表情と言葉で語り掛けるギイ。心の中では『分かんないけどね』とか思っていたりする。
「他人を羨んで悪さなんてしようと思うから幸せが逃げてくんだよ。これに懲りて、素直になればいい出会いあると思うよ?」
 恋人の居るソウェルが言うと、説得力がある。納得している者が多い反面、嫉妬の視線を向けている者も居るが。
「ったく…もっと人生楽しめよ。そんな怖い面してる奴より、人生を楽しんで笑ってる奴の方がずっと魅力的に見えるぜ?」
 亀の甲より年の功。年長者の炉火の言葉は、重みが違う。
「…大体、異性同士に拘るのがまず視野が狭いんだ。男にだって可愛い奴は居るぜ? 例えば…」
 全力で前言撤回。
 仲間に向かって、熱い視線を向ける炉火。友情や信頼とは違う熱視線がアキヒロと梓を捉えると、炉火は2人を引っ張って首に腕を回した。
「笑顔が可愛いコイツとか、実にからかい甲斐のありそうなコイツとか」
「ろ、炉火ちゃん? なんか話違ってきてなくない!? ボクに『そっちの趣味』は無いんだけどな〜」
 激しく苦笑いを浮かべながら、逃げだそうとするアキヒロ。梓は顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに硬直している。
 嫉妬団員も、ラグナも、梓も、道を間違えずに強く生きて欲しい。