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■オープニング本文 狂骨、という存在を知っているだろうか? ジルベリア等ではスケルトンと呼ばれる、骸骨のアヤカシである。 その狂骨が、とある場所で頻繁に発生していた。しかも、軍団の如く大量に。 「今夜は…アレが来るのかな…」 「お母さん…僕、怖いよぉ…」 泣き出しそうな表情で、母親にしがみ付く少女と少年。母親が優しく手を伸ばして2人の頭を撫でた瞬間、家の外から地面を踏み鳴らす音が響いてきた。 「2人共、静かにして!」 母親は小声で呟き、明かりを消す。そのまま、子供達を強く抱き締めて部屋の隅に移動した。 彼女達が恐れている物こそ、狂骨の大群である。何故この村に来るのか、何が目的なのか、一切不明。分かっている事は、ただ1つ。 『奴らは敵で、村人が犠牲になっている』という事実。 移住を考えた者も居るが、行く宛も金も無い。それに、彼等は信じていた。弱い者を助けてくれる、救世主のような開拓者を。 「やめろ…やめてくれ! うわぁぁぁ!」 夜の村に悲鳴が木霊する。また1人、犠牲者が増えたようだ。 そして……その犠牲者も、数日後には狂骨と共に村にやってくるのだろう。村人が、居なくなるまで…。 |
■参加者一覧
緋炎 龍牙(ia0190)
26歳・男・サ
伎助(ia3980)
19歳・男・泰
国乃木 めい(ib0352)
80歳・女・巫
闇野 ハヤテ(ib6970)
20歳・男・砲
破軍(ib8103)
19歳・男・サ
月雲 左京(ib8108)
18歳・女・サ
エルシア・エルミナール(ib9187)
26歳・女・騎
楠木(ib9224)
22歳・女・シ
闇野 ジュン(ib9248)
25歳・男・魔
土州 虎彦(ib9387)
21歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●悲劇を断つ者 春の風が、草花を揺らしながら大地を吹き抜ける。暖かい陽気と優しい風は、無条件で眠気を誘うものだが、この3人には通じない。 「魔の森と村の位置から推測すると…アヤカシの侵攻方向は、限られてくるな」 事件のあった村の周囲を探索する、緋炎 龍牙(ia0190)。地形を頭に叩き込み、アヤカシの侵攻ルートを算出していく。 「調査に来たのは正解だったな。見ろ、敵の痕跡があったぞ」 破軍(ib8103)の言葉に、周囲の2人が集まる。彼が見付けたのは、踏まれた草の跡。方向的に、それは魔の森から来た者の足跡だろう。 「僕は久しぶりの依頼なんでね。気合はあるけど空回りはしたくないなぁ。だからこそ――」 扇子で口元を隠しながら、伎助(ia3980)は思案を巡らせる。その扇子を閉じ、先端で魔の森の方向を刺した。 「しっかり叩き潰すために準備しないと、な」 不敵な笑みを浮かべる伎助。普段は微笑むような表情が多いが、今の瞳は全く笑っていない。 「賛成。敵を1匹たりとも逃がす気は無いし…ね」」 柔和だった龍牙の表情が、一瞬翳る。事件…いや、アヤカシに対して、思う処があるのだろう。 「ふん…アヤカシの狙いは知らんが、出てきたら叩き潰す。それだけだ」 言い切る破軍の言葉には、微塵の迷いも無い。3人は軽く顔を見合わせ、探索を再開した。 同時刻。事件のあった村では、珍しく楽しそうな声が響いている。 「お〜い、みんな〜! おねーさん達と遊ぼーう!」 楠木(ib9224)の呼び掛けに、村の子供達が一斉に集まって来た。小さな村だけに、外部の人間は珍しいのだろう。 「み…皆様、落ち着いて下さいませ! わたくし、潰れてしまいます…」 押し寄せる子供達に、月雲 左京(ib8108)と楠木は押し潰されそうな勢いである。困ったように笑う楠木に対し、左京は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだ。 「はいはいー。ちゃんと、親御さんや自分達の言う事を聞くんですよー?」 困っている2人を助けるように、土州 虎彦(ib9387)が注意を促す。彼の言葉で大人しくなった子も居るが、大半の子供は相変わらずだ。 「さぁ…子供達の次は、皆様の番ですよ? 私達は笑顔をお届けするために来ましたので」 子供達を嬉しそうに眺める大人達に、めい(ib0352)が優しく声を掛けた。体調や精神状態が優れない者の話を聞き、的確な助言を返していく。 「わたくし達は参加出来ませんが、今宵はお泊り会でもして一緒にお過ごし下さいませ」 「さっきょちゃんの言う通り! 今夜は絶対に全員一カ所で過ごして、外に出ないでくださいね! 私達を信じてください!」 村人を守るには、一か所に集まって貰った方が都合が良い。この方法なら、恐怖を与える事無く全員を集められるだろう。 その集合場所になる集会所には、数十人の村人が集まっていた。 「皆様、ご協力宜しくお願いしまする。私1人では、資材がどこにあるかも分かりませんので」 深々と頭を下げる、エルシア・エルミナール(ib9187)。彼女の指示に従い、家屋の補強が始まった。 周囲では、闇野 ハヤテ(ib6970)が中心となって柵の増強が行われている。村を囲むように頑丈な柵が出来たが、それでも村人達の表情は暗い。柔らかい笑みを浮かべながら、ハヤテは『開拓者』として言葉を贈った。 「貴方達の希望が、俺達が戦う事だとすれば……『貴方達に安心して欲しい』のが、俺達の願望です」 不安で疲弊しきっている村人の心に、その言葉が深く染み込んでいく。ほんの少し、彼等の表情が和らいだ。 「お疲れ様。そろそろ、破軍くん達が戻って来る時間かな?」 柵を完成させたハヤテが、エルシアに言葉を掛ける。集会所の補強を終えた彼女は、言葉と共に笑顔を返した。 「そうでありますな…弱き者の為、共に戦いましょう!」 言いながら、エルシアは右手を差し出す。ハヤテがその手を固く握り返すと、周囲に村人が集まり始めた。集会所に避難して来た人達である。 「大丈夫ですよ。敵は、自分達が必ず討伐します。ですから、皆さんは子供達を守ってあげて下さい」 整然とした態度で、大人達に声を掛ける虎彦。全身から溢れる気品が、彼の言動に信用を加えているようだ。 「万が一敵が現れたら、これを鳴らしてくれればすぐに駆けつけますからね…心配しなくて良いですよ」 村長らしき老人に、めいが呼子笛を手渡した。形として何かがあるというのは、更なる安心に繋がるだろう。 「今日は良い天気ですね〜…あ、茶ーありがとうございました〜」 開拓者9人の活躍を眺めながら、縁側でお茶をすする闇野 ジュン(ib9248)。他のメンバーに比べて、リラックスしまくりである。 (さて……めんどいし疲れるけど、今日くらいは本気であるかな) 湯呑のお茶を飲み干し、ジュンは軽く笑みを浮かべた。 ●交錯する刃 夜の帳が、周囲を黒く染める。満月が出ていなければ、何も見えなかっただろう。村の入り口で、開拓者達が周囲を見張っている。 「…現れたみたいですね。皆さん、準備は良いですか?」 めいの言葉に呼応するように、闇の中で『何か』が蠢いた。村を襲っている元凶…狂骨だ。その数、約30。 「さて…それでは出陣、という事でありまするですな」 敵を目の前にして、兵装を握り直すエルシア。開拓者達が身構える中、龍牙は地面を蹴って飛び出した。 (無心…そう、何も考えず…ただ無心に刃を振るえば何も感じずに済む) そのまま敵陣の中に飛び込み、両腕の刀を振る。刀身が狂骨の腕や肋骨を砕き、骨片と共に瘴気が飛び散った。 後を追うように、エルシアも奇襲を掛ける。盾を構えて敵陣中央まで一気に侵入し、剣を横に薙いだ。 「おいチビ助……付き合え」 「まったく…貴方様は、相も変わらず名も覚えれぬ『鳥頭』で御座いましょうか…」 同時に駆け出す2人。獲物を狩る猛獣のような動きの破軍に、舞うように魔刀を操る左京。対極の動きをしているが、互いに死角を庇い合っている。 伎助は腰を深く落とし、地を蹴った。目にも止まらぬ速さで狂骨に接近し、ほんの少し笑みを浮かべる。 「お前、僕に蹴られてみる? 何てね」 言葉と共に放たれた蹴撃が、敵の胸骨を砕く。漏れ出す瘴気を吹き飛ばすように、伎助は敵陣を駆け抜け、最後尾に回り込んだ。 「ごめんあそばせ! 私は、手より脚技の方が好きなの!」 瞬間的に加速し、敵との間合いを詰める楠木。超加速からの蹴撃が狂骨に叩き込まれると、その体に亀裂が走り数秒で欠片となって崩れ落た。 「大丈夫って皆に言った以上、やらないと!」 虎彦は決意を叫び、大振りの刀を振る。斬り上げた切先が敵を捉え、骨を砕いた 奇襲で浮足立っていたが、、数は圧倒的に狂骨の方が有利である。ボロボロに錆びた剣を、開拓者達に振り下ろした。 斬撃を受け止めたエルシアと虎彦だったが、想像以上の威力に兵装を弾かれ、全身を痛みが駆け抜ける。 左京と楠木、伎助は舞うような動きで剣撃を回避していくが、切先が肌を掠って赤い線を描いた。 開拓者達の隙を突き、数匹の狂骨が村に向かって駆け出す。 「ヤバッ! ジュンさん、ハヤテくん、めいさん、後の守りはお願いっ!」 楠木の言葉が、後衛を担当する3人の耳に届く。 「やべぇ敵だー、どーするよー」 (何でこんなヘラヘラしてるんだ…危機感とか無いワケ…?) ヘラヘラと笑うジュンに、内心は不快感で一杯のハヤテ。言葉とは裏腹に、ジュンが既に魔導書の準備万全なのも、ハヤテを苛立たせている。 「俺は些細な補助ぐれーしかできねーからな。頼むぜ、ハヤテ?」 言いながら発動させたスキルが、ハヤテの銃を白い光で包んだ。当の本人はジュンの言葉を完全に無視し、銃を撃ち放つ。弾丸が敵の体を貫き、崩していく。 狂骨の1匹が刀身に瘴気を纏わせ、楠木に向かって全力で振り下ろす。彼女は咄嗟に横に跳び、その一撃を避けた。 「ちょっと厄介な攻撃だね。あんまり近くに行けないよー…っとと…そんな弱音、言ってる場合じゃないよね!」 眼鏡をクイクイと上げ、楠木は体勢を低くしながら突撃。敵の膝を狙った蹴撃が、骨を派手に砕いた。 龍牙の周囲を囲む、多数の狂骨。それが同時に剣を振り下ろすと、龍牙は体勢を低くして忍刀で受け止めた。 「纏めて地獄へ送ってあげよう…クク」 低い笑いを零しながら、龍牙は地面を強く蹴って一気に立ち上がる。反動で敵の体勢が崩れた隙を狙い、右足を軸に回転。双刀が敵の体を深々と斬り裂いた。 「派手にやってるねぇ。これは、僕も負けてられないかな…!」 伎助は重心を低くし、自身の肩から背中の部分を目の前の敵に叩き付ける。圧倒的な衝撃に、狂骨の体が砕けて瘴気と共に舞い散った。 破軍に向かって、狂骨が剣を振り下ろす。彼は斬撃を受け止めたが、隙だらけの背を狙って別の敵が剣を突き出す。 それを弾くように、左京の刀が奔った。金属音と火花が舞う中、彼女は刀身に練力を纏わせる。斬撃と共にそれが炸裂し、敵の体が弾けるように砕け散った。 「背中が…お留守で御座いますよ?」 「ふん、小動物がよく吠える…」 皮肉を口にしながら、破軍は左京に向かって剣を突き出す。切先が彼女の髪を数本斬り裂きながら、接近して来た狂骨の頭部を貫いた。 虎彦に向かって、敵が全霊を込めて打ち掛かる。その一撃に対して、虎彦は手元を狙って先手を打ち、攻撃の勢いを完全に殺した。追撃の薙ぎ払いが敵の胴を両断し、大地に転がる。 「技はサムライに似ていますが…所詮はモノマネですね」 「しかし、数が多くて厄介でありまする。ですが、引くわけには参りませんですな…!」 苦笑いを浮かべつつ、敵の攻撃を受け止めるエルシア。狂骨の攻撃が予想以上に激しいが、敵に背中を向ける事はしない。 「エルシアさん、無理し過ぎるのは駄目ですよ…!」 離れた位置から響く、めいの叫び声。と同時に、彼女とエルシアの体が淡い白色の光りに包まれ、負傷が癒えていく。 「ありがとうございますです、めいさん! 弱き者の為、もうひと頑張りするであります!」 気合を入れ直し、目の前の敵を盾で殴り飛ばすエルシア。追い打ちの斬撃が狂骨を斬り裂くと、瘴気が抜けて白骨と化した。 「早く解放して、育った地で眠らせてあげないと…元は人だった者を撃つ躊躇いは…乗り越えなきゃいけない道だ」 ハヤテは狙いを定めながら、自分に言い聞かせるように呟く。震える指で引き金を引くと、狂骨の頭部に大きな穴が開いてバラバラに散らばる。 別の方向から1匹の狂骨がめいに突撃、鋭い突きを放った。彼女は『前進するような歩き方で後退する』という、器用な動きでそれを避ける。 入れ違うようにジュンが敵との距離を詰め、魔導書で殴り掛かった。分厚い背表紙が、敵の頭部を砕いて亀裂が走る。 「お、意外と本でも戦えるモンだな〜」 驚きながらも、ヘラリと笑うジュン。止めを刺したつもりになっているが、そこに油断が生まれた。敵が最後の力を振り絞り、剣を振り上げる。 「あんまり足を引っ張んじゃねーぞ…兄貴」 吐き捨てるような言葉と共に、ハヤテの銃撃が敵の胸骨を打ち抜いた。そこから全身に亀裂が走り、瘴気を撒き散らしながら砕け散る。 10人の活躍で、狂骨が次々に倒れていく。残った敵に向かって、伎助は体当たりを放って打ち崩した。 「左京君、破軍君! 敵が逃げる前に、一網打尽にしてくれるかな?」 伎助の叫びに反応し、左京と破軍が背を合わせる。 「さぁさ此方へ。一匹たりとも、逃しはいたしませぬ…!」 いつもの左京からは想像も出来ない、獣のような雄叫び。それが敵の注意を引き、2人を取り囲むように襲ってきた。 「その程度で俺を…いや『俺達』を包囲したつもりか?」 不敵な笑みを浮かべ、破軍は双剣を握り直す。左京が地面を蹴って天に舞うと、破軍は回転しながら斬撃を放った。刀身が敵の体を斬り裂き、薙ぎ倒していく。倒しきれなかった敵は、左京とエルシア、ハヤテの追撃で白骨と化した。 残りは2体。その2体が、別々の方向に逃げ出す。 「逃がしてはなりません! これ以上遠くに行ったら、探知出来なくなってしまいます!」 「自分が行きます! 誰か、援護をお願いします!」 めいの叫びに、虎彦が応えながら駆け出す。ほぼ同時に、楠木が瞬間的に加速して敵との間合いを詰める。鋭い斬撃と鋭い蹴撃が重なり、狂骨の体が砕けて飛び散った。 「さて、そろそろ終わりにしようか…散れ、焔龍閃―」 龍牙の双刃が炎に包まれていく。地面を蹴って距離を詰めると、燃える刀身で斬り掛かった。敵の体が斜めに両断され、大地に転がる。その瘴気が空気に溶けた時、アヤカシの気配は完全に消えていた。 ●新しい夜明け 朝焼けが空を明るく染める頃、開拓者達の半分は集会所を訪れていた。 「お待たせ、もう大丈夫だよ。明日からは、枕を高くして眠れるね」 伎助の言葉に、村人達から歓声が上がる。念のために周囲を探索し、アヤカシが居ないのは確認済みである。 「誰かが助けてくれるのを信じるだけじゃダメなんです…自分から行動しなければ始まらない…」 大人達に向かって、思いの丈をぶつけるハヤテ。自身も似た経験をしたからこそ、この言葉が言えるのだろう。 不意に、左京の体が大きく揺らぐ。倒れないよう、破軍の大きな手が彼女の体を支えた。 「申し訳御座いません。皆様の笑顔を見たら、腰が抜けてしまったようで…」 「相変わらず、世話の焼けるチビ助だな。まぁ……今日は褒めてやっても良いが」 顔を見合わせ、軽く笑みを浮かべる2人。対照的に、龍牙の表情は暗い。 (人々の笑顔、か。僕には関係ない。アヤカシを斬れれば…それで良い) 復讐に支配された心に、光が差す日はまだ遠いようだ。 喜ぶ者が居れば、憂う者も居る。残り半分の開拓者達は、狂骨を弔っていた。 「ごめんなさい、たくさん攻撃しちゃって。熱かったし、痛かったよね…」 楠木が謝罪しながら、骨を穴に埋める。5人で協力して埋葬し、大き目の石を立てた。 「これで…埋葬は完了でありまする。簡素な墓で申し訳ない限りですが……」 完成した墓石を見詰めながら、1人呟くエルシア。そんな彼女の肩を、めいが優しく叩く。 「大切なのは、気持ちですよ。さぁ…今は祈りましょう。この人達が、静かに眠れるように」 彼女に促され、膝を付いて祈りを捧げる一同。虎彦は天儀酒を開け、墓石周辺に振り撒いた。 「子供も居るし、お酒は駄目かもしれないけど…眠る場所は清めたいよね」 「さて。俺は策士だけど、マジシャンの時もあるんだなー、これが」 重い雰囲気に耐え兼ねたのか、ジュンは墓石の前で手品を始める。観客の居ないショーは、少々寂しそうに見えた。 |